横浜地方裁判所 平成24年(ワ)5157号 判決 2014年8月27日
原告
X
同訴訟代理人弁護士
庄司道弘
同
本間久雄
被告
株式会社Y1
同代表者代表取締役
Y2
被告
Y2
上記二名訴訟代理人弁護士
内山成樹
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して四九四二万五〇〇〇円及びこれに対する平成二四年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを二〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して五一四二万五〇〇〇円及びこれに対する平成二四年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、被告らに対し、被告らが原告から競馬情報料名下に合計四四九二万五〇〇〇円を詐取したと主張して、被告Y2に対しては民法七〇九条、七一五条若しくは七一九条又は会社法四二九条に基づき、被告会社に対しては民法七〇九条、七一五条又は会社法三五〇条に基づき、競馬情報料名下の支払総額四四九二万五〇〇〇円、慰謝料二〇〇万円及び弁護士費用四五〇万円の合計五一四二万五〇〇〇円の損害賠償等を求める事案である。
一 前提事実
(1) 当事者
ア 原告は、昭和二七年○月○日生まれの男性である。
イ 被告株式会社Y1(以下「被告会社」という。)は、平成二三年二月一八日に設立された会社であるところ、定款上は、ソフトウエアの開発、インターネットを利用した情報処理業務及び情報提供業務並びに経営コンサルティング業を目的としているが、実際には、競馬の情報提供を業としている会社である。被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、被告会社の代表取締役であって、競馬の情報提供に従事している者である。被告会社は、被告Y2、A及びBの三人で営業されてきた。
(2) 被告らの原告に対する勧誘と原告の競馬情報料等の支払
ア 原告は、平成二二年一二月上旬頃より、原告の携帯電話に、B及びAと名乗る者から、競馬情報を教える旨の連絡を頻繁に受けるようになった。
イ 原告は、別紙振込一覧表<省略>記載のとおり、平成二二年一二月一六日から平成二四年六月五日までの間に、被告Y2又は被告会社を名義人とする銀行預金口座に、競馬情報料等として合計四四九二万五〇〇〇円を振り込んで支払った。
二 争点及び当事者の主張
(1) 被告らの原告に対する損害賠償責任の有無(争点一)
ア 原告の主張
(ア) 平成二二年一二月上旬頃、原告は、Bと名乗る者から、「競馬情報料を払ってくれれば、勝ち馬情報を教えます。」、「会員のグレードが上がるほどいい情報が得られます。」などとして、情報料を払えば勝ち馬情報を教えるとの勧誘を受けた。原告は、競馬で負けが込んでいたこともあり、このBの言葉を信じ、情報料を払えば競馬で勝てるようになると思い、Bに言われるままに、平成二二年一二月一六日、Bから指示された被告Y2名義の銀行預金口座に三万円を振り込んだ。その後、原告は、B及びBを引き継いだAから教えられた順位で馬券を購入したものの、悉く外れたが、外れる度ごとに、Aは、原告に対し、会員のグレードを上げることを勧め、「次は当てますから。」、「確かなレースが次ありますから。」、「インサイダーのレースがあるけど参加しませんか。馬券はこちらで購入します。」などと述べて、繰り返し情報料等を要求してきた。また、Aは、原告に対し、「情報元から金を取り戻すには、弁護士費用として二〇〇万円を用意して欲しい。」、「送金を受けるためには、弁護士に対する裏工作費用が必要だ。」などとも述べた。原告は、損を取り戻そうと、言われるがままに、別紙振込一覧表<省略>記載のとおり、Aが指定する被告Y2名義又は被告会社名義の銀行預金口座に情報料等を振り込み続けた。
(イ) ギャンブル情報提供詐欺については、確実に勝てる攻略法が存在しないにもかかわらず確実に当該情報が勝てる内容であるかのように誤信させたこと、支払代金が次第に高額になっていること、攻略情報の正当性及び有用性を的確に説明していないことを主なメルクマールとして違法性が認定され、攻略情報の正当性及び有用性の説明の有無及びその内容は特に重視されている。
これを本件についてみれば、①確実な勝ち馬情報など存在しないことは、日本中央競馬会(JRA)及び国民生活センターの告知から明らかであるにもかかわらず、被告らは、原告に対し、インサイダーのレースがある、確かなレースがある、馬券代や弁護士費用が必要である、情報元が代わったので新たな費用が必要だなどと虚偽の事実を述べて原告に送金させていること、②三万円程度から徐々に一〇〇万円以上にエスカレートした情報料を請求し、総支払額が四五〇〇万円と極めて高額となっていること、③原告にクレジットカードを現金化させたり、強迫的なメールを送信するなどしていること、④被告らが競馬攻略情報の有効性について主張立証しておらず、原告に対して競馬攻略情報の正当性及び有用性の具体的な説明を行った形跡も一切窺われないこと等の事情からすれば、被告らの行為は典型的な競馬詐欺であって、その違法性は明白である。
(ウ) 被告Y2は、単独で若しくはB又はAと名乗る者と共謀して原告から金員を詐取したことから、民法七〇九条の不法行為責任又は民法七一九条の共同不法行為責任を負う。あるいは、被告Y2は、B又はAと名乗る者を使用し、被告会社の代表取締役として競馬情報詐欺を行ったことから、民法七一五条又は会社法四二九条に基づく責任を負う。
(エ) 被告会社は、代表取締役である被告Y2が原告に対して競馬情報詐欺を行って損害を与えたことから、民法七〇九条の不法行為責任又は会社法三五〇条に基づく責任を負う。また、被告会社は、B又はAと名乗る者を使用して競馬情報詐欺を行ったことから、民法七一五条に基づく責任を負う。
イ 被告らの主張
(ア) Aが原告に対して「勝ち馬情報を教えます。」、「確かなレースが次ありますから。」などと断定的に述べたことはなく、「精度の高い情報を教えます。ただし、競馬に一〇〇%はありません。」と述べたに過ぎない。被告会社の提供した情報には、WIN五などの配当率が高く極めてギャンブル性の高いレースも含まれているのであって、確実な情報などあり得ないのだから、このようなものまで含めて「確かなレース」があるなどと言うことはあり得ない。
(イ) 原告は、被告会社提供の情報は悉く外れたと主張するが、そのような証拠はないし、何十回も情報提供を受け、確実に当たると言われ続けながら外れたのに、次から次へと情報料を払い続けたというのは極めて不自然な行動であって、信用できない。むしろ、WIN五のレースなど原告が被告会社の指示の通りに馬券を購入していれば高額の利益を上げていたはずのものもあるのであって、この実績からしても、被告会社の情報は確度の高い情報であることが明らかである。
(ウ) 結果として被告会社が得た情報料が高額に過ぎたものとなってしまったとはいえ、情報料が高いと思えば、投資金額を増やして情報料に見合う配当を得ることも可能であったし、情報を買わなければいいだけでのことである。情報料の金額を含め、このような情報を買うかどうか、あるいはいくら馬券を購入するかは、最終的にはすべて原告の任意の判断によっているのであるから、原告と被告会社との関係において、不法行為の成立の余地はない。
(エ) 仮に被告会社の従業員が原告を騙していたのだとすれば、被告会社が賠償責任を問われる余地はあるとしても、被告Y2はその事実を知らなかったのだから、被告Y2まで責任を問われることにはなり得ない。
(2) 原告の損害額(争点二)
ア 原告の主張
(ア) 詐取された四四九二万五〇〇〇円
原告は、被告らに欺罔され、競馬情報料や弁護士費用名下に、別紙振込一覧表<省略>記載のとおり、合計四四九二万五〇〇〇円を振込送金させられて詐取され、同額の損害を被った。
(イ) 慰謝料二〇〇万円
原告は、被告らに四四九二万五〇〇〇円もの多額の金員を詐取され、親類友人から借金をせざるを得なくなり、信頼を失うことになったところ、原告が被った精神的損害は、二〇〇万円を下らない。
(ウ) 弁護士費用四五〇万円
原告は、本訴提起を原告訴訟代理人らに委任し、弁護士費用の負担を余儀なくされたところ、原告の被った損害の一割である四五〇万円が弁護士費用として被告らの不法行為と相当因果関係のある損害である。
イ 被告らの主張
原告の主張は争う。
(3) 過失相殺(争点三)
ア 原告の主張
過失相殺の制度趣旨は、損害の公平な分担であるところ、故意の不法行為、特に詐欺商法について過失相殺を認めると、被害者からの利得が加害者の手元に残ることになり、損害の公平な分担という過失相殺の制度趣旨に反するばかりか、詐欺行為者の「やり得」を認めることになりかねない。したがって、典型的な詐欺商法である本件において、過失相殺は認められるべきではない。
イ 被告らの主張
原告の主張は争う。
第三当裁判所の判断
一 認定事実
(1) 前記前提事実、証拠<省略>によれば、次の事実が認められる。
ア 被告会社は、平成二三年二月一八日に設立され、競馬情報の提供を業としている会社であり、被告Y2は、被告会社の代表取締役で競馬情報の提供を事業として行っている者である。被告Y2は、被告会社が成立されるまではA及びBと共に個人の事務所で競馬情報の提供を事業として行ってきたが、被告会社の設立後は、被告Y2、A及びBの三人で被告会社を営業してきた。そして、被告会社においては、競馬情報の提供について、シルバーコース、ゴールドコース、プラチナコースのランクがあり、このランクに応じて年会費や情報料が変わるシステムを取っていた。
イ 原告は、平成二二年一二月上旬頃、原告の携帯電話に、a社のBと名乗る者(前記アのBと同一人物である。)から連絡を受けた。その際、Bは「最近競馬で儲かってますか。」などと尋ねてきたため、原告が「全然儲かってません。」などと答えたところ、Bは「じゃ、うちの会員になりませんか。」、「情報料を払ってくれれば、勝ち馬情報を教えます。」などと原告を勧誘した。原告は、競馬で負けが込んでいたこともあって、Bの勧誘に従って情報料を払えば競馬で勝てるようになると思い、同月一六日、入会金及び情報料として、Bが指定してきた口座に三万円を振込送金した。この口座は被告Y2名義の銀行預金口座であり、その際、Bが原告に会社の電話番号であるとして教えた電話番号(<省略>)は被告Y2を契約者とする携帯電話番号であった。しかし、原告がBから教えられた勝ち馬情報は的中しなかった。
ウ ところが、原告は、Bからの勧誘で上記三万円を送金した直後頃から、今度は、Aと名乗る者(前記アのAと同一人物である。)から電話による勧誘を受け続けるようになった。そして、Aは、原告に対し、「XさんはBじゃ任せきれないんで、自分がやります。」、「一〇〇%は競馬だからないけど、確率の高い情報を持っています。」、「次回もうちょい当てますから。」、「もっとグレードの高い会員になりませんか。」などと述べ、被告会社の提供する勝ち馬情報が確率の高い情報であって、情報料を支払えばこの情報を提供するとの趣旨のことを述べた。こうしてAが原告に対して要求してきた情報料は、最初のうちは数万円程度の比較的少額であったものの、次第に数十万円から一〇〇万円以上の高額にエスカレートしていった。さらに、原告は、Aから、クレジットカードを用いた現金化の方法があることを教えられたこともあり、情報料のほかにも、馬券の購入代や弁護士費用の名目で、あるいは、情報元が変わったことなどを理由に、入金を要求されることもあった。
エ 原告は、Aから提供された勝ち馬情報が的中したことがなかったため、その情報の信用性に疑問を感じながらも、Aから連絡がある都度、これまでの損を取り返さなければならないとの焦りに駆られて、平成二三年三月二八日まではAが指定した被告Y2名義の銀行預金口座に、被告会社の設立(同年二月一八日)後の同年三月三〇日からはAが指定した被告会社名義の銀行預金口座に振込送金を続けた。その結果、原告の振込みは、別紙振込一覧表<省略>記載のとおり、平成二二年一二月一六日から平成二四年六月五日までの間に、合計一〇〇回で総額四四九二万五〇〇〇万円にも及んだ。この間、原告は、Aから勝ち馬情報(いわゆるWIN五のレースも含む。)を提供されたものの、結局、この情報が的中したことはなかったが、Aに対して情報料の返金を求めても、Aからは「今度は当てるから。」、「ほかのもっといい情報ありますんで、そういうのに参加しませんか。」、「もっとランクの高い会員になりませんか。」などと述べられるにとどまり、返金がされることはなかった。
オ 平成二四年六月五日に原告から最終の振送送金がされた前後頃、原告の被告会社に対する振込送金が原告の親族に発覚し、原告は、弁護士に対して、競馬詐欺であるとして被害の回復を依頼することとなった。そこで、原告代理人弁護士が、同年七月一〇日頃に、前記エの送金口座を不正請求口座であるとして各銀行に口座凍結を依頼し、上記口座が凍結されたところ、被告Y2から原告代理人及び原告本人に対して、来年三月末に二五〇〇万円を支払うから口座凍結を解除して欲しいとの要請がされるなどした。また、平成二四年七月一四日から一五日頃には、被告Y2から原告に対して、弁護士に一任しても話は進まないとか、被告Y2が逮捕されるようなことがあれば一円も返還できないなどといったメールが送信されたこともあった。
カ 被告会社から原告に対して提供された競馬情報について、被告Y2は、情報元に迷惑がかかるとの理由で、情報元の氏名や情報元に支払う謝礼を明らかにすることを拒否している。そして、この競馬情報について、その信用性あるいは有用性を多少なりとも裏付けるに足りる主張立証は存しない。また、Aが原告に対して馬券の購入代や弁護士費用の名目で送金を要求したことについても、その根拠となる馬券の購入や弁護士の依頼に関する証拠は存しない。
キ 日本中央競馬会(JRA)のホームページにおいては、悪質な予想・情報提供業者に対する注意を呼びかける記事が掲載されている。また、国民生活センターの平成二三年一月一三日付けの報道発表資料においても、悪質な競馬予想情報提供サービスに関する相談が多数寄せられているところ、競馬には様々な不確定要素があることから「必ず当たる」情報はあり得ないこと、「必ず当たる」、「確実な儲かる」など巧みな勧誘、詐欺的な勧誘により高額な情報料の勧誘、請求を受け支払が高額になることがあることなどを理由に、不当な勧誘で誘う競馬予想情報提供サービスに対する注意を呼びかける記事が掲載されている。
(2) 被告らの主張等について
ア 前記(1)の認定事実に対し、被告らは、Aが原告に対して「勝ち馬情報を教えます。」、「確かなレースがありますから。」などと断定的に述べたことはないとか、被告会社の提供した情報にはWIN五などの配当率が高く極めてギャンブル性の高いレースも含まれているのであって、確実な情報などあり得ないのだから、このようなものまで含めて「確かなレース」があるなどと言うことはあり得ないなどと主張し、被告Y2はこれと同旨の供述をする。
しかしながら、原告は、本人尋問において、Aから「一〇〇%は競馬だからないけど、確率の高い情報を持っています。」と言われた旨供述しているのであって、Aが一〇〇%確実な情報であるとまで断定的に述べたわけでない旨を原告があえて自認していることや、原告が被告会社に対して競馬情報料等として総額約四五〇〇万円もの多額の送金をしていることに照らせば、原告の上記供述の内容は自然であって信用性の高いものといえる。したがって、Aが原告に対して、被告会社の提供する競馬情報が確実である旨を断定的に述べたとまではいえないとしても、少なくとも、確実性の高い情報を提供する旨を持ちかけたことは優に認めることができる。
イ また、被告らは、被告会社が原告に提供した競馬情報が悉く外れたという証拠はないし、何十回も情報提供を受け確実に当たると言われ続けながら的中しなかったのだとすれば、次から次へと情報料を払い続けたというのは極めて不自然な行動であって信用できず、むしろ、WIN五のレースなど原告が被告会社の指示の通りに馬券を購入していれば高額の利益を上げていたはずのものもあるのであって、この実績からしても、被告会社の競馬情報は確度の高い情報であることが明らかである旨主張する。
しかしながら、被告会社が原告に提供した競馬情報が的中したとの的確な証拠はないし、そもそも、前記認定((1)カキ)のとおり、確実な競馬情報というもの自体が想定し難い上に、被告会社から原告に対して提供された競馬情報について、被告Y2は、情報元の氏名や情報元に支払う謝礼を明らかにしようとせず、この競馬情報の信用性あるいは有用性を多少なりとも裏付けるに足りる主張立証は全く存しない。そうすると、被告会社の提供する競馬情報が確度の高い情報であったなどとは到底いえないのであって、被告らの上記主張は採用する余地がない。
ウ その他、被告Y2本人尋問の結果中、前記(1)の認定に反する部分は採用することができず、他に、前記(1)の認定を左右するに足りる証拠はない。
二 判断
(1) 争点一(被告らの原告に対する損害賠償責任の有無)について
ア 前記一の認定事実によれば、B及びAの原告に対する勧誘行為及び競馬情報料等の請求は、信用性も有用性もない競馬情報をさも確実性の高い情報であるかのように装い、このような情報を提供することを口実に、種々の虚言をも弄して、不当かつ次第に高額となる情報料等を要求し、原告をしてわずか一年半程度の期間中に合計一〇〇回、総額約四五〇〇万円もの多額の送金をさせるに至った詐欺行為であって、原告に対する損害賠償責任を負うべき不法行為に当たるものというべきである。
イ そして、前記認定(一(1)アイ)のとおり、被告Y2自身も、被告会社の代表取締役であって競馬情報の提供を事業として行っている者であり、被告会社が設立されるまではA及びBと共に個人の事務所で競馬情報の提供を事業として行い、被告会社の設立後は、被告Y2、A及びBの三人で競馬情報の提供を業とする被告会社を営業してきたこと、Bが原告に対する勧誘行為の当初に原告に伝えた連絡先の電話番号や情報料等の振込口座が被告Y2名義のものであったことを考慮すれば、被告Y2は、A及びBと共謀し、競馬情報料等名下に組織的、計画的に原告に対する詐欺行為を行ったものであると認められる。したがって、被告Y2は、A及びBとの共同不法行為(民法七一九条一項)を理由として、上記詐欺行為により原告に生じた損害についての賠償責任を負うものと認めるのが相当である。
被告Y2は、被告会社の従業員が原告を騙していたのだとすれば、被告会社が賠償責任を問われる余地はあるとしても、被告Y2は詐欺の事実を知らなかったのだから被告Y2まで責任を問われることにはなり得ない旨主張するが、この主張を採用することはできない。
ウ また、前記認定(一(1)ア)のとおり、被告会社は競馬情報の提供を業とする会社であるところ、被告Y2らの上記アイの詐欺行為は、被告会社の代表取締役である被告Y2及び従業員であるAらがその職務を行うについて行ったものであると認められるから、被告会社も、会社法三五〇条及び民法七一五条一項に基づき、被告Y2と連帯して、上記詐欺行為により原告に生じた損害についての賠償責任を負うものと認めるのが相当である。
なお、別紙振込一覧表<省略>記載に係る原告の送金は、上記イのとおり、被告Y2、A及びBが共謀の上で競馬情報料等名下に組織的、計画的に行った詐欺行為によるものであると認められるところ、被告会社が設立されたのはB及びAが原告に対する勧誘を始めてからわずか二か月後に過ぎず、このような詐欺行為の実態は、被告会社の設立の前後を通じて何ら異なるところはないことに照らせば、被告会社は、別紙振込一覧表<省略>記載の振込送金額の全額について損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。
(2) 争点二(原告の損害額)及び争点三(過失相殺)について
ア 詐取された四四九二万五〇〇〇円の主張について
(ア) 原告が被告Y2らの不法行為により別紙振込一覧表<省略>記載のとおり振込送金した合計四四九二万五〇〇〇円については、その全額について、被告Y2らの不法行為と相当因果関係のある原告の損害であると認められる。
被告らは、情報料の金額を含め、このような情報を買うかどうか、あるいはいくら馬券を購入するかは、最終的にはすべて原告の任意の判断によっているのであるから、原告と被告会社との関係において、不法行為の成立の余地はない旨主張するが、この主張を採用することはできない。
(イ) なお、原告がいかに冷静さを欠いていたとはいえ、競馬情報料等名下に総額約四五〇〇万円もの多額の振込送金をしたことについては、軽率であるといわざるを得ないが、被告らの不法行為の悪質性に照らすときは、当事者間の公平の見地から過失相殺を相当とすべき事情があるとまではいえない。
イ 慰謝料二〇〇万円について
被告らの原告に対する不法行為については、原告の経済上の被害が回復されれば、特段の事情がない限り、原告の精神的損害も慰謝されるものと解すべきところ、本件において上記の特段の事情があると認めることはできない。したがって、原告の慰謝料請求は理由がない。
ウ 弁護士費用四五〇万円について
原告が、被告らの不法行為による損害を被ったことにつき、弁護士である原告代理人らに対して本件訴訟の提起、追行を委任したことは本件記録上明らかであるところ、前記アイで説示したところを踏まえ、被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額としては、四五〇万円が相当である。
第四結論
以上によれば、被告らは、原告に対し、民法七一九条一項、会社法三五〇条及び民法七一五条一項に基づき、連帯して四九四二万五〇〇〇円及びこれに対する遅くとも最終送金日である平成二四年六月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。
よって、原告の請求は上記の限度で理由があるからいずれも認容し、その余は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 寺本昌広)
別紙 振込一覧表<省略>