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横浜地方裁判所 平成25年(ワ)2533号 判決 2015年9月30日

第一事件原告

X1 他1名

第二事件原告

X3

第一・第二事件被告

Y1

第一事件被告

Y2

主文

一  被告らは、原告X1及び原告X2のそれぞれに対し、連帯して四四〇七万八八九一円及びこれらに対する平成二二年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告Y1は、原告X3に対し、二三四三万四一一五円及びこれに対する平成二二年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告X1及び原告X2と被告らの間においては、これを一〇分し、その九を被告ら、その余を同原告らの負担とし、原告X3と被告Y1の間においては、全て同被告の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告X1及び原告X2のそれぞれに対し、連帯して五〇二二万四一五九円及びこれらに対する平成二二年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告Y1は、原告X3に対し、二三四六万七五二七円及びこれに対する平成二二年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

第一事件は、後記第一、第二事故により死亡したA(以下「A」という。)の相続人である原告X1及び原告X2が被告らに対し、共同不法行為(自賠法三条、民法七〇九条、七一〇条、七一九条)に基づき、連帯して上記一の各請求額及びこれらに対する交通事故の日である平成二二年七月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であり、第二事件は、原告X3が第一事故により損害を被った旨主張して自賠法三条及び民法七〇九条、七一〇条に基づき、上記二の請求額及びこれに対する前同日から支払済みまで同様の遅延損害金の支払を求めた事案である(なお、第一事件の書証を「甲、乙各号証」として表示し、第二事件の書証を「第二・甲、乙各号証」として表示する。)。

一  前提事実(争いのない事実、被告らの一部が争う部分についても証拠を明示)

(1)  当事者

Aは、X3車の後部座席に同乗していたが、交通事故により死亡し、原告X1及び原告X2がAの親としてAを相続した(甲一)。

後記事故発生当時、被告Y1及び原告X3は大型自動二輪車(以下「Y1車」ないし「X3車」という。)を、被告Y2は普通乗用自動車(以下「Y2車」という。)をそれぞれ運転していた者である。

(2)  事故の発生

・日時 平成二二年七月一一日午前〇時五七分頃

・場所 川崎市川崎区浮島町地先の東京湾アクアライントンネル内の木更津方面から川崎方面に向かう高速道路(以下「本件現場」という。)

・加害車 被告Y1運転のY1車と被告Y2運転のY2車

・被害車 原告X3運転のX3車(後部座席にAが同乗)

・態様 被告Y1は、本件現場の第一車線上でY1車をX3車に追突させ、原告X3とX3車の後部座席に乗車していたAを第二車線上に振り落とした(以下「第一事故」という。)。他方、被告Y2は、Y2車を運転して本件現場の第二車線を走行中、Aを轢過した(以下「第二事故」という。)。

・結果 Aは第二事故で脳挫滅により即死し、原告X3は第一事故で左第五中足骨開放骨折、腓骨骨折、腓骨神経麻痺の傷害を被り、平成二五年四月一五日、左下肢欠損機能障害(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当するとして後遺障害等級一二級一三号の後遺症認定を受けた(第二・甲二、一五、一六)。

(3)  被告らの責任

ア 被告Y1は、第一事故についてAと原告X1及び原告X2並びに原告X3に対し、自賠法三条(明らかに争わない)と民法七〇九条、七一〇条に基づく損害賠償責任を負う(物損は後者の責任のみである。)。

イ 被告Y2は、Aと原告X1及び原告X2に対し、少なくとも自賠法三条但書の免責事由が認められない限り、運行供用者責任を免れない。

二  争点及び当事者の主張

(1)  被告Y2の責任原因

【原告ら】

ア 第一事故の発生

被告Y1は、Y1車を運転して本件現場(法定速度時速八〇キロメートル)の第二車線を時速一四五キロメートル以上の速度で走行中、第一車線へ車線変更する際、ハンドル操作やブレーキ操作等を誤って第一車線を時速約九〇キロメートルで走行中のX3運転の自動二輪車(以下「X3車」という。)に衝突し、その衝撃でX3及びX3車の後部座席のAが振り落とされた(第一事故)。

イ 第二事故の発生

被告Y2は、上記第二車線を時速一三〇キロメートルを下らない速度で走行中、第一事故を現認し、その衝撃でY1車や被告X3及びAが第二車線を滑走することを予測し得たのであるから、このような場合、第一事故後の各車両及び乗務員の動静に注視し、急ブレーキをかけてY2車を減速するなどすれば、第二事故を回避できたのに、第二車線上に投げ出されたAに気づかずに急ブレーキをかけることもなく、Aを轢過して脳挫滅で即死させた。即ち、被告Y2は、約三七・一メートル(以下「約」は省略)先の第一事故を目撃したのであり、目撃地点からY2車がAを轢過した地点までの距離は八九・四メートルであるところ、第一事故により運転手及び同乗者が第二車線上に転落・滑走するのを予見し得たのであるから、第一事故の目撃時点で急ブレーキを踏めば、制限速度時速八〇キロの場合には停止距離が四六・三一メートル、時速一一〇キロメートルの場合でも停止距離は七八・九四メートルであるから第二事故を回避できた。しかるに、被告Y2は、Y2車を時速一三〇キロメートルを下らない速度(甲五〇のB鑑定では時速一四五キロメートル)で走行させていたため、第二事故を回避できなかった。そうすると、第二事故は、被告Y2の速度違反と前方注視義務違反が複合して惹起されたものである。

ウ 被告Y2は、自賠法三条但書の免責を主張するが、上記のとおり、制限速度時速八〇キロメートルを大幅に超えた速度で走行したため、第二事故を避けられずにAが死亡したのであるから、被告Y2には第二事故の発生について過失があり、上記主張は理由がない。

【被告Y2】

ア Y2車は、第一車線を走行中、先行するY1車を現認したため、第二車線へ車線変更したところ、Y1車は、第一車線上を加速して進行し、先行するX3車に四八・五メートルまで接近するや、突然左右に四ないし五回ほど小刻みに揺れ出し、僅か一・五秒間にX3車と衝突した。その位置は、Y2車の左前方三七・一メートルであり、X3車、原告X3及びAが第二車線を滑走した(甲四〇)。

イ ところで、被告Y2は、第一事故を認識した地点では、X3車、原告X3及びAが第二車線へ転落ないし滑走して来ることを予見したり、回避措置として急制動措置を講じるべきかハンドル操作すべきかを瞬時に選択することは著しく困難であるから、被告Y2について、第二事故の発生を予見し、これを回避可能か否かを判断する基準時は、第一事故時ではなく、A等が第二車線へ転落・滑走を開始した時点というべきである。

ウ そうすると、被告Y2が第一事故を目撃した地点から第一事故発生地点までは三七・一メートルしかなく、第一事故後のX3車は転倒まで同一車線内を一一・九メートル直進しており、これを第一事故地点から第二事故地点までの距離八九・四メートルから差し引き、Y2車の速度を時速八〇キロメートルとしても、第二事故の回避は不可能である。

なお、被告Y1は、後方から接近したY2車に進路を譲ろうとして第二車線から第一車線へ進路変更した際、ハンドル操作を誤り、先行するX3車に気づかず、衝突したとするが、被告Y2の責任に影響はない。

(2)  自賠法三条但書の免責事由の存否

【被告Y2】

被告Y2に法定速度違反があっても、第二事故の発生と因果関係がないから免責要件を満たすし、法定速度を遵守していたとしても、第二事故が不可避である場合には、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったことに該当する。そして、第二事故回避の注意義務の基準時は、A等が第二車線に投げ出されたとき(早くても客観的に滑走、投げ出される可能性を認識し、自車の進路上のAとの衝突の危険が迫った時点)であるところ、被告Y2において、X3車が第二車線に滑走するのを確認した地点とその際の被告Y2の間の距離は四七・二メートルであるから(甲三二)、Y2車が時速八〇キロメートルであっても、第二事故を回避できなかったから、Y2車に速度違反があっても免責要件を満たす。また、Aの死亡及び原告X3の受傷は、第一事故を引き起こした被告Y1の過失により発生したのであるから、「被害者及び運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと」の要件を満たすことになる。

以上によると、自賠法三条但書の免責が成立し、被告に賠償責任はなく、無過失である以上、民法七〇九条の賠償責任も存在しない。

(3)  損害

【原告X1及び原告X2とA】

ア Aの損害

① 逸失利益 五二九七万八九三二円

・基礎収入 平成二二年度の大卒女子の平均年収四二八万四九〇〇円

・生活費控除率 三〇パーセント

・ライプニッツ係数 満六七歳(四四年間)一七・六六三

② 死亡慰謝料 二五〇〇万円

AにはX3車の後部に同乗していたのみであり、落ち度はないこと、将来ある二三歳という若さで命を絶たれたこと、恐怖と原形を留めないほどに身体の損傷を受けたこと、Y1車もY2車も制限速度を著しく超過し、運転動作を誤ったY1車による追突により路上に投げ出されたところをY2車によって衝突され、脳挫滅により即死したこと、被告Y1は心からの謝罪や哀悼の意を表することもなく責任を他に転嫁する発言をしていること、被告Y2は、制限速度をはるかに超過した危険な走行をした上、前方不注視でAに気づかず急ブレーキもかけずに轢過し、事故に責任がないかのような弁解をし、反省の態度は見られないことなどを考慮すると、被告らの悪質性は重大であり、死亡慰謝料としては二五〇〇万円が相当である。

③ 葬儀関係費用 七三六万九三八六円

葬儀会社入会金三〇〇〇円、遺体搬送業務六六万九四五〇円、住職に対するお布施八五万円、a斎場品代九〇一六円、a斎場使用料五〇〇〇円、線香代等二一一〇円、葬儀代四四四万一一〇六円、住職タクシー代八万二一八〇円、仏壇代金(内金)二万三〇〇〇円、会葬御礼追加費一三万八六〇〇円、仏壇代金(残金)二〇万七〇〇〇円、死体検案書料一万円、墓石戒名彫刻四万五〇〇〇円、四十九日会食代二八万七八五二円、一周忌住職へのお布施一四万六〇〇〇円、一周忌会食代二〇万九六二七円、住職タクシー代二一五〇円、三回忌住職へのお布施八万六〇〇〇円、三回忌会食代一五万二二九五円の合計である。

④ 弁護士費用 八五〇万円

⑤ 合計

九三八四万八三一八円(原告ら各自四六九二万四一五九円)

イ 原告ら各自の固有損害

① 慰謝料 各三〇〇万円

② 弁護士費用 各三〇万円

【原告X3】

ア 治療費 二五万一六〇九円

① b病院 一八万七四二九円

② c病院 三万三〇二〇円

③ d院 二万八〇〇〇円

④ e薬局 三一六〇円

イ 入院付添費用 一八万二〇〇〇円

平成二二年七月一一日から同年八月八日まで二八日間入院し、原告の母がこの間付添をしたことから日額六五〇〇円とすると、一八万二〇〇〇円である。

ウ 入院雑費 四万二〇〇〇円

上記入院中の雑費として日額一五〇〇円とすると上記金額となる。

エ 通院交通費等 六万七二〇〇円

① 平成二二年八月九日から同二五年四月一五日までの間に合計一七日間、c病院へ通院した。その際、横浜市<以下省略>の実家から同病院まで往復一〇キロメートル程度を自動車で通院した(第二・甲五)。

② 一キロメートル一五円相当で算定すると、二五五〇円である。また平成二二年七月一六日はAの葬儀であり、入院中の原告X3はタクシーで参列したため、タクシー代六万四六五〇円を要した(同甲八)。

オ 葬具・器具等購入費 五万三八三〇円

第一事故により短下肢装具及びオーバーシューズを使用せざるを得ず、同金額を出捐した(同甲九)。

カ 休業損害 八六万一四二五円

① 基礎収入

事故前三か月間の収入合計額は八五万九八九六円であり、日額一万四五七五円である(同甲一〇)。

② 休業期間

第一事故により平成二二年七月ないし一〇月までの間、合計五〇日間欠勤し、年次有給休暇を一〇日間費消したから、合計六〇日間の休業を余儀なくされた(同甲一〇)。

③ 勤務先から給与を全額支給されなかった期間は四九日間であり、有給休暇を一〇日間費消したところ、休業期間のうちの一日(平成二二年七月二六日)は、一五〇〇円の減給となった(甲一〇の二)。そうすると、第一事故により原告には八六万一四二五円の休業損害が発生した。

(計算式)

1万4575円×59日間+1500円×1日

キ 傷害(入通院)慰謝料 九八万円

平成二二年七月一一日から同年八月八日まで合計二八日間、入院治療を余儀なくされたほか、同年八月九日から平成二五年四月一五日まで合計二二日間通院治療を余儀なくされた。そうすると、入院一月、通院二か月の通院慰謝料は九八万円が相当である。

ク 後遺症逸失利益 一五三九万〇六五一円

① 基礎収入 六四六万〇二〇〇円

平成二三年大学・大学院卒男子全年齢平均の賃金センサス六四六万〇二〇〇円程度の収入を得る蓋然性が高かったというべきである。

② 労働能力喪失率

原告X3は、前提事実(2)のとおり左下肢欠損機能障害に基づく局部に頑固な神経症状を残す後遺障害があるから後遺障害等級一二級一三号に該当し、左腓骨神経麻痺により自動値で四分の三以下に可動域が制限されているから同等級一二級七号にも該当する。そうすると、原告X3の労働能力喪失率は少なくとも一四パーセントを下らない。

③ 労働能力喪失期間

症状固定時の原告の年齢は二八歳であり、六七歳までの労働能力喪失期間は三九年であるからライプニッツ係数は一七・〇一七である。

(計算式)

646万0200円×0.14×17.017=1539万0651円

ケ 後遺症慰謝料 二九〇万円

コ 物損 六〇万五四〇〇円

① X3車は全損により廃車となった(同甲一三)が、その時価は五七万五四〇〇円程度である(同甲一四)。

② 廃車処分代として三万円を要した(同甲一三)。

サ 弁護士費用 二一三万三四一二円

上記損害合計額は二一三三万四一一五円であるところ、一割相当額は二一三万三四一二円であり、総額は二三四六万七五二七円である。

なお、弁護士費用については、原告らは一般人であり、勤務している以上、被害者請求を行えるわけではないこと、仮に本人がしても簡単に自賠責保険金を得られるというものではないこと、同原告が訴訟代理人弁護士に一括して損害賠償請求するのは合理的な判断であることからすると、これを損害として認めるべきである。

【被告Y1】

ア 原告X1及び原告X2と原告Aの損害

争う。原告X1及び原告X2の主張する弁護士費用については、一定程度、後記イで主張するとおり、自賠責保険の存在は弁護士費用の評価の基礎とすべきである。

イ 原告X3の損害

争う。原告X3の勤務先はf株式会社であり、大企業であるから、後遺障害があっても直ちに減収を来すことはないし、原告X3が収入状況に係る資料の提出に応じないことからすると、大幅に第一事故後の収入が増額になっていると推認するほかない。また、原告X3は、後遺障害等級一二級の自賠責認定による二二四万円及び傷害保険金額一二〇万円の合計三四四万円の支払を受けることは可能であるから、同金額に係る請求部分について弁護士を委任するまでもなく、本人請求も可能である。そうすると、当該部分の弁護士費用は、第一事故と相当因果関係はないというべきである。

【被告Y2】

争う。葬儀関係費は一五〇万円の限度で相当因果関係を認める。また原告X1及び原告X2は、既払金控除後の損害総額の一〇パーセント相当額の弁護士費用を請求するが、自賠法一六条による被害者請求すれば提訴せずとも容易に三〇〇〇万円の自賠責保険の支払を受けられるのであるから、第二事故と相当因果関係のある損害とすることはできない。

第三当裁判所の判断

一  被告Y2の責任原因について

(1)  事実経過等(前提事実、甲二一ないし五一、五九ないし六二、六四、第二・甲二、三、一五、一九、乙一、二、丙一ないし七。なお、車両の停止距離は裁判所に顕著な事実)

ア 第一事故の発生

被告Y1は、平成二二年七月一一日午前〇時五七分頃、Y1車を運転して東京湾アクアライントンネルの本件現場(法定速度時速八〇キロメートル)の第二車線(幅員三・六メートル)を木更津方面から川崎方面に向け、時速一三〇キロメートル以上の速度で走行していた。

イ 被告Y1は、本件現場を走行中、第二車線後方から接近するY2車(時速一三〇キロメートル以上で走行)に気づき、その前方三二・〇メートルの地点をいわゆるバンク走法で第一車線(幅員三・六メートル)に向けて車線変更した。しかし、第一車線の左側のトンネル壁面に急接近し衝突の危険を生じたことから、被告Y1は、更に四五・七メートル進行した地点でY1車を立て直すため右側へバンクしながら三三・三メートル進行した地点で、第一車線を時速九〇キロメートルで走行中のX3車(運転席に原告X3、後部座席にAが同乗)の左後方にY1車の右前部を激突させた。その結果、X3車は一一・九メートルほど進行したが転倒し、X3車と原告X3及びAが第二車線上に振り落とされて第二車線上を滑走した。

ウ 被告Y2は、上記速度で本件現場を走行中、四八・五メートル先の第一車線上を走行するY1車が左右に数回揺れ始めるのを現認したが、その直後、Y2車の前方三七・一メートル先で第一事故が発生し、更に四二・二メートル進行した地点で、二二・一メートル先の第一車線から第二車線に向けて滑走するX3車等を現認した。ここに至り、被告Y2は、急制動措置を講じたが、四七・二メートル進行した地点(第一事故現認後八九・四メートル)でAを轢過し、更に五・七メートル進行してX3車と衝突した。Aは、第二事故地点から第二車線上を七三・八メートル滑走し、脳挫滅により即死した。

エ Y2車は、X3車をその前部に巻き込んで前輪が浮いた状態で滑走を続け、第二事故発生地点から三四三・三メートル(甲三二)先で漸く停止した(時速一三〇キロメートルの車両の急制動措置を講じた場合の停止距離は一一五メートルを下らないが、上記距離を滑走したのは、X3車に乗り上げて前輪が浮いていたまま滑走したことに要因があると推認される。)。

オ 被告Y1は、第一事故地点から第二車線上を滑走し、一四三・二メートル先の第二車線の右端に止まり、Y1車は、第一事故地点から二八〇・四メートル進行して第一車線上と左側路側帯の区分線上に停車した。

カ X3車は、第一事故地点から六〇・七メートル先の第二車線上でY2車に衝突され、転倒地点から三四〇・二メートル先の第一車線上に停止し、原告X3は、転倒地点から六二・四メートルの地点まで滑走した。

(2)  検討

高速道路を進行中の二台の自動二輪車が衝突した場合には、両車ともにバランスを崩して転倒し易いことは自明であり、本件現場は幅員が各三・六メートルの片側二車線の高速道路(制限速度時速八〇キロメートル)であるから、第一車線上で自動二輪車同士の衝突事故があった場合には、その衝撃ないし転倒回避の過程で衝突車及び被衝突車と各乗員がバランスを崩すなどして第二車線へ進入、転倒・滑走することがあり得ることは容易に予見可能である。したがって、被告Y2は、自動車運転者として上記制限速度を遵守することはもとより、進路前方の安全を確認しながら進行し、第一車線上で事故が発生した場合においても、直ちに急制動処置を講じるべき注意義務があったといわなければならない。

しかして、被告Y2は、上記制限速度を五〇キロメートルも超過する時速一三〇キロメートル以上の速度で本件現場の第二車線を進行中、自車の前方三七・一メートル先の第一車線上における第一事故(追突)の発生を現認したのに、直ちに急制動措置を講じることなく進行したものであるが、第一事故を現認した地点よりY2車がA(第一車線を走行中のX3車から第二車線上に投げ出されて滑走)を轢過した地点までの距離は八九・四メートルであり、被告Y2が時速八〇キロメートルの制限速度を遵守して進行し、第一事故を現認するや直ちに急制動措置を講じていれば、摩擦係数や反応速度の幅を考慮しても停止距離が八九・四メートルを大幅に下回ることは明らかであり(裁判所に顕著な事実)、優に第二事故を回避できたものである。

ところが、被告Y2は、上記のとおり時速一三〇キロメートルを下らない高速で進行し、第一事故によりX3車とA及び原告X3が第二車線上に進入・滑走するのを現認してから急制動措置を講じたが間に合わず、よって、第二事故を惹起し、Aを脳挫滅により即死させたのであるから、Aと両親である原告X1及び原告X2に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を免れないというべきである。

この点につき、按告Y2は、上記八九・四メートルを基準としても、X3車転倒地点までの一一・九メートルを差し引き、その間のY2車の進行距離を考慮すると時速八〇キロメートルでも、第二事故の回避は不可能である旨主張するが、上記認定・説示に照らし、同主張は採用することができない。

(3)  以上によると、被告Y1による第一事故と被告Y2による第二事故は、時間的にも場所的にも近接しているのみならず、第一事故が発生すれば、第二事故も発生することが通常予想される類型の一連の事故であり、被告Y1の運行供用者責任及び不法行為責任(前提事実(3)ア)と被告Y2の運行供用者責任(前提事実(3)イ)及び不法行為責任(上記(2))は、共同不法行為の関係に立つということになる(被告Y2は、自賠法三条但書の免責事由を主張するが、第一、第二事故の発生経過は上記認定・説示のとおりであるから、同主張は採用しない。)。そうすると、被告らは、A及び原告X1及び原告X2に対し、損害賠償責任(不真正連帯債務)を免れないというべきである。

二  原告X1及び原告X2とAの損害

(1)  A関係

ア 逸失利益 五二九七万八三三二円

① 基礎収入

死亡当時満二三歳であったから、平成二二年度の大卒女子の平均年収四二八万四九〇〇円を基礎収入とする。

② 生活費控除率 三〇パーセント

Aは独身女性であり、生活費控除率を三〇パーセントと認める。

③ ライプニッツ係数

満六七歳(四四年間)までの同係数は一七・六六二八

(計算式)

428万4900円×(1-0.3)×17.6628

イ 死亡慰謝料 二三〇〇万円

上記認定の事故の態様、死亡当時のAの年齢(二三歳)、Aには落ち度もないことに加え、Aの身体は著しく損傷を受けて即死したこと(甲二五)からすれば、被告らがAの冥福を祈り、原告X1及び原告X2に謝意を示していること(甲一一、一三、一五の各二、乙一、丙七)を考慮しても死亡慰謝料は二三〇〇万円を下らない。

ウ 葬儀関係費用 二一七万九四五〇円

(ア) 甲第一九号証の一、三ないし一一、一三ないし一七によると、原告X1及び原告X2は、Aの葬儀費用及び法要等の関係費用として葬儀会社入会金三〇〇〇円、お布施八五万円、a斎場品代九〇一六円、同使用料五〇〇〇円、線香代等二一一〇円、葬儀代四四四万一一〇六円、住職タクシー代八万二一八〇円、仏壇代金(内金)二万三〇〇〇円、会葬御礼追加費一三万八六〇〇円、仏壇代金残金二〇万七〇〇〇円、墓石戒名彫刻四万五〇〇〇円、四十九日会食代二八万七八五二円、一周忌のお布施一四万六〇〇〇円、一周忌会食代二〇万九六二七円、住職タクシー代二一五〇円、三回忌のお布施八万六〇〇〇円、三回忌会食代一五万二二九五円を出捐したことは認められる。

しかしながら、会葬御礼追加費及び各会食代は、香典等の範囲内でまかなわれるものであり、これを損益相殺の対象としないことを考慮すると、独立の損害とは認め難い。また、その他の損害については、Aの死亡と相当因果関係のある葬儀関係費としては一五〇万円が相当である。そして、甲第一九号証の二の一、二によると、Aの遺体の処置費用等の遺体搬送業務一式費用として六六万九四五〇円を要したことが認められるところ、本件現場で死亡したAの遺体の状況(甲二五の写真三三ないし三五)等を考慮すると、処置費用として相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

以上によると、葬儀関係費としては、二一六万九四五〇円と認めるのが相当である。

(イ) 甲第九号証の一二によると、Aの死体検案書料として一万円を出捐したことが認められる。

エ 弁護士費用 七八〇万円

上記損害額は七八一五万七七八二円(原告ら各自三九〇七万四三九一円)であるところ、原告X1及び原告X2がAの相続人として本件訴訟の提起・追行を訴訟代理人弁護士に委任したことは記録上明らかであり、本件事案の特質、内容、認容金額、難易度等を考慮すると、弁護士費用としては七八〇万円と認めるのが相当である。

以上の総合計は八五九五万七七八二円であるから、原告ら各自の相続額は四二九七万八八九一円である。

(2)  原告X1及び原告X2各自の固有損害

ア 原告らは、第一事故及び第二事故という共同不法行為によるAの死亡(甲二五の写真三三ないし三五)により、筆舌に尽くし難い精神的苦痛を被ったというべきであるから(甲六三)、被告Y1の謝罪(甲五、七、九、一一、一三、一五の各二)を考慮してもなお、これを慰謝するためには、Aの慰謝料とは別途各一〇〇万円ずつ(Aの分を含めて二五〇〇万円)を認めるのが相当である。

イ 弁護士費用としては上記同様の趣旨から一〇万円ずつを認める。

ウ よって、固有の損害額としては合計二二〇万円(各自一一〇万円ずつ)ということになる。

(3)  以上によると、原告X1及び原告X2の損害はそれぞれ四四〇七万八八九一円ということになる。

三  原告X3の損害

(1)  治療費 二五万一六〇九円

前提事実(2)イのとおり、原告X3は第一事故によって左第五中足骨開放骨折、腓骨骨折、腓骨神経麻痺の傷害を受け、第二・甲第四、第六、第七号証の各一ないし四、第五号証の一ないし二一によると、その治療費としてb病院に一八万七四二九円、c病院に少なくとも三万三〇二〇円、d院に二万八〇〇〇円、e薬局に三一六〇円を各出捐したことが認められ、合計額は上記金額のとおりである。

(2)  入院付添費用 一八万二〇〇〇円

第二・甲第二、第一九号証及び弁論の全趣旨によると、原告X3は、第一事故により、その主張どおりb病院に少なくとも二八日間入院したこと、この間、昏睡状態や激痛が続いた上、左足が固定されていて動けずに寝たきり状態であったことから身の回りの世話を要したこと、自車の後部座席に同乗していたAが死亡したことから、精神的にも混乱状態に陥り、強力な精神安定剤の投与を受け、その結果、自我を失ったり、自殺の危険性もあるため、常時家族の付添を要する旨の精神科医の指摘があったこと、このような経過の中で、実母が毎日付添をしたことが認められ、これらの事実に照らすと、実母が上記入院期間中に付添いをしたことは必要かつ相当であるというべきであり、一日当たりの近親者の付添費用を六五〇〇円として算定すると一八万二〇〇〇円となる。

(3)  入院雑費 四万二〇〇〇円

原告X3は、上記のとおり二八日間入院したものであり、雑費としては日額一五〇〇円と認めるのが相当であるから上記金額となる。

(4)  通院交通費等 六万七二〇〇円

ア 第二・甲第五号証の一ないし二一によると、原告X3は、平成二二年八月から同二五年四月までに合計一七日間、c病院へ通院し、その際の交通手段として横浜市<以下省略>の実家から同病院まで往復一〇キロメートルを自動車で通院したことが認められるところ、一キロメートル当たりのガソリン代を一五円相当で算定すると、二五五〇円であることが認められる。

イ 上記(2)の事実、第二・甲第八号証の一、二及び弁論の全趣旨によると、原告X3は、平成二二年七月一六日、Aの葬儀に入院先のb病院から介護タクシーをレンタルして参加し、タクシー代として六万四六五〇円を要したことが認められるところ、自ら運転していたX3車の後部座席のAが即死し、その葬儀に参加することには、相当な理由があり、同原告の当時の身体的状況を踏まえると、介護タクシーをレンタルしたこともやむを得ないというべきであるから、上記金額を葬儀参列費用として認めるのが相当である。

(5)  装具・器具等購入費 五万三八三〇円

第二・甲第九号証の一、二によると、原告X3は、第一事故により短下肢装具及びオーバーシューズを使用せざるを得ず、同金額を出捐したことが認められる。

(6)  休業損害 八六万一四二五円

ア 基礎収入

第二・甲第一〇号証の一ないし四によると、原告X3の事故前三か月間の日稼働日数五九日間の収入合計額は八五万九八九六円(本給六七万五〇〇〇円と付加給一八万四八九六円)であるから、日額一万四五七五円を下らないことが認められる。

イ 休業期間

第二・甲第二、第一五、第一六同号証、第一〇号証の一ないし四及び弁論の全趣旨によると、原告X3は、第一事故により休業せざるを得ず、平成二五年四月一五日、左下肢欠損機能障害(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当し、後遺障害等級一二級一三号の後遺症認定を受けたこと、この間、平成二二年七月ないし一〇月までに勤務先から給与を支給されなかった期間は四九日間であり、有給休暇を一〇日間費消したところ、休業期間のうち一日分(平成二二年七月二六日)は一五〇〇円の減給となった(同一〇の二)ことが認められる。

そうすると、原告X3は、第一事故により合計八六万一四二五円の休業損害が発生したと認めるのが相当である。

(計算式)

1万4575円×59日間+1500円×1日

(7)  傷害(入通院)慰謝料 九八万円

第二・甲第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし二一、第一五号証及び弁論の全趣旨によると、原告X3は、その主張どおりb病院に平成二二年七月一一日から同年八月八日まで少なくとも二八日間にわたり入院治療を余儀なくされたほか、c病院に同年八月九日以降一七日間、d院に平成二三年八月五日以降四日間、b病院へ平成二二年九月二八日に一日の合計二二日間通院治療を余儀なくされたことが認められ、これらの事実と、原告X3の受傷部位、内容等を総合すると、原告の精神的な苦痛を慰謝するには、同原告主張の九八万円を下らないものと認めるのが相当である。

(8)  後遺症逸失利益 一五三九万〇六五一円

ア 基礎収入 六四六万〇二〇〇円

甲第三五号証、第二・甲第一〇号証の一、二〇号証の四枚目(平成二五年度の年収)によると、同原告は、大学を卒業してf株式会社に勤務しており、症状固定時の年齢は満二八歳であったこと、症状固定時である平成二五年度の年収は六三四万七四三二円であり、同年度大学・大学院卒男子の全年齢平均賃金センサス六四〇万五九〇〇円と近似していることを考慮すると、原告の全年齢平均収入は同金額を上回る蓋然性が高いから、原告の基礎収入を六四六万〇二〇〇円と認めるのが相当である。

イ 労働能力喪失率

原告X3が、平成二五年四月一五日、少なくとも左下肢欠損機能障害について後遺障害等級一二級一三号(局部に頑固な神経症状を残すもの)の後遺症認定を受けたことは前提事実(2)のとおりであるから労働能力喪失率を一四パーセントと認めるのが相当である。

ウ 労働能力喪失期間

症状固定時の原告の年齢は満二八歳であり、六七歳までの労働能力喪失期間は三九年であるからライプニッツ係数は一七・〇一七〇である。

(計算式)

646万0200円×0.14×17.017=1539万0651円

(9)  後遺症慰謝料 二九〇万円

原告X3は、上記のとおり第一事故により後遺障害等級一二級相当の障害を被り、これにより精神的苦痛を被ったことが明らかであるから、これを慰謝するには二九〇万円が相当である。

(10)  物損 六〇万五四〇〇円

第二・甲第一一、第一三、第一四号証及び弁論の全趣旨によると、第一事故によりX3車は全損となって廃車となり、その処分費用として三万円を出捐したこと、原告車と同種のバイクの時価は五七万五四〇〇円を下らないことが認められる。

(11)  合計 二一三三万四一一五円

(12)  弁護士費用 二一〇万円

上記損害合計額は二一三三万四一一五円であるところ、原告X3が第二事件の提訴及び訴訟追行を訴訟代理人弁護士に委任したことは記録上明らかであり、本件事案の特質、内容、認容額、難易度等を考慮すると、弁護士費用としては、二一〇万円であると認めるのが相当である。

(13)  以上によると、弁護士費用を加えた原告X3の総損害額は二三四三万四一一五円であることが認められる。

四  なお、被告らは、自賠責保険に対し、原告らは被害者請求をすれば容易に支払を受けられる部分については、本件訴訟を提起する必要はなく、その部分にかかる弁護士費用は第一、第二事故と相当因果関係はない旨主張するが、被害者請求をするかどうかは、原告らの自由な裁量に任されているものであり、原告らが自ら被害者請求をすることが実体的にも手続的にも必ずしも容易であるとは認め難いことを考慮すると、被告らの上記主張は失当である。

五  結論

以上の次第であるから、第一事件原告X1及び原告X2の被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求額は各四四〇七万八八九一円、第二事件原告X3の被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は二三四三万四一一五円、並びにこれらに対する事故発生日である平成二二年七月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の各請求はいずれも理由がないから棄却することとして主文のとおり判決する(被告Y1の仮執行免脱宣言は本件事実関係のもとにおいては相当ではないから付さない。)。

(裁判官 市村弘)

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