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横浜地方裁判所 平成25年(ワ)3145号 判決 2015年5月15日

原告

X1 他1名

被告

Y1 他3名

主文

一  被告らは、原告X1に対し、連帯して一二九八万九六九五円及びこれに対する平成二三年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2に対し、連帯して八八万円及びこれに対する平成二三年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを二〇分し、その七を被告ら、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告X1に対し、連帯して三五七〇万九七九一円及びこれに対する平成二三年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告X2に対し、連帯して二二〇万円及びこれに対する平成二三年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、A(昭和五八年○月○日生。以下「A」という。)を相続した原告らが、被告Y1(以下「被告Y1」という。)と被告Y2(以下「被告Y2」という。)による交通事故によりAが死亡したとして、両被告に対し、民法七〇九条、七一九条一項に基づき、被告Y1の使用者の被告Y3株式会社(以下「被告Y3社」という。)及び被告Y2の使用者の被告Y4株式会社(以下「被告Y4社」という。)に対し、民法七一五条及び自賠法三条に基づき、上記損害額及びこれに対する事故発生日の平成二三年三月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

一  前提事実(証拠を明示しない部分は「争いのない事実」)

(1)  事故の発生(以下「本件事故」という。一部争いのない事実、甲一、二)

・発生日時 平成二三年三月二六日午前〇時五四分頃及び同〇時五五分頃

・発生場所 横浜市青葉区田奈町一番地先交差点(厚木方面と渋谷方面を結ぶ国道二四六号線に榎が丘方面から南下する道路が交差するT字路であり、以下「本件交差点」ないし「本件現場」いう。)。

・Y1車 事業用普通乗用自動車(所有者被告Y3社、運転者被告Y1)

・Y2車 事業用中型貨物自動車(所有者被告Y4社、運転者被告Y2)

・被害車 普通自動二輪車(所有者・運転者A)

・事故状況 平成二三年三月二六日午前〇時五四分頃、信号機により交通整理の行われていない本件交差点を左折して国道二四六号線の第一車線を進行したY1車と、同車線上を直進中の被害車とが衝突し、Aは本件交差点先路上に投げ出され転倒した(以下「第一事故」という。)。次いで、同時五五分頃、被害車の後方から第一車線を直進してきたY2車が本件交差点先路上に投げ出されたAを轢過した(以下「第二事故」という。)。

・被害状況 第一事故及び第二事故により、Aは、外傷性心肺停止、気管損傷、両側血気胸、鎖骨骨折、胸椎骨折、多発肋骨骨折、左鎖骨骨折、左上腕骨折の各傷害(以下「本件傷害」という。)を負い、脊髄損傷(頚髄・胸髄)を直接の死因として平成二三年三月二六日午前四時一五分頃に死亡した。

(2)  被告Y1は、被告Y3社の従業員であり、被告Y3社の業務の執行として運転中、第一事故を引き起こし、被告Y2は、被告Y4社の従業員であり、Y2車を業務の執行として運転中、第二事故を引き起こした。

(3)  責任原因

被告Y2は民法七〇九条、被告Y4社は同法七一五条及び自賠法三条に基づき、A及び原告らに対し、本件事故により被った損害に対する賠償責任を負う。

被告Y1が第一事故につき、被告Y2が第二事故につき、民法七〇九条の責任を負う場合、両者は共同不法行為の責任を負う(原告と被告Y2及び被告Y4社の間の「争いがない事実」)。

(4)  損害の填補(原告X1関係)

原告X1は、本件事故の損害賠償金として一五七七万八一一七円の支払を受けた。

(5)  相続(甲四)

原告X1は、昭和五三年九月二六日、Bと婚姻し、長女X2(昭和五五年○月○日生)及び長男A(昭和五八年○月○日生)をもうけた。

原告X1は、Aの死亡により、その権利義務の二分の一を相続した。

二  争点及び当事者の主張

(1)  責任原因

【原告ら】

ア 被告Y1は、本件交差点にY1車を左折進入させる際、左右前方の安全を確認し、優先道路の国道二四六号線を通行する車両の進行を妨害してはならない注意義務を負っていたのにこれを怠り、第一車線を右方向から接近する被害車に気づかず、漫然と左折進行した過失により第一事故を発生させた。

そうすると、第一事故により本件現場に投げ出されたAが、第一事故の約二一秒後、後方から同車線上を直進してきたY2車に轢過されたのは必然的結果であるから、第一事故と第二事故の間には強い関連共同性があり、民法七一九条一項前段の共同不法行為が成立するというべきであるし、そうでないとしても、Aは、各事故によって全身に傷害を受けて死亡したのであるから、同条一項後段の共同不法行為が成立する。

イ 被告Y3社は、被告Y1の使用者であり、Y1車の所有者でもあるため、民法七一五条及び自賠法三条に基づき、それぞれ被告Y1及び被告Y2の共同不法行為につき損害賠償責任を負う。

【被告Y1及び被告Y3社】

ア Aの過失

被害車は、Y1車が本件交差点に進入した時点で、右方約五六・一一メートルを走行していたから、Aにおいて前方注視義務を尽くしていればY1車に気づいたこと、時速六五キロメートル(秒速約一八・〇五メートル)の車両の停止距離は約三七・三〇メートル(空走距離約一三・五四メートル、制動距離約二三・七六メートル)であるところ、二七歳のAは、時速約六六・四キロメートルで被害車を走行させ、Y1車の左折進行から本件事故発生までに約三・六六秒間存在したから、衝突前に被害車を停止可能であったこと、被害車は、制限速度時速五〇キロメートルを超える上記速度で進行し、ノーブレーキ状態で追突したことからすると、Aには、著しい前方注視義務違反、制動動作義務違反、一五キロメートル以上の速度超過違反があり、これが第一事故の原因である。

イ 因果関係の不存在

Aの致命傷は、Y2車による体幹部の轢過によるから、第一事故と第二事故(死亡)の間には因果関係はない。

ウ 客観的関連共同性(共同不法行為)の不存在

Y2車は時速五〇キロメートルで走行していたから、停止距離は二四・四八メートルであるところ、被告Y2は、①約五八メートル手前の地点で路上に何か存在すること、②約三三メートル手前で路上に人が倒れていることを各認識可能であった。そうすると、被告Y2は、①の時点で減速すればAの存在に気づいて轢過を回避できたし、②の時点で制動処置を講じれば、Aの轢過を回避できたのであるから、被告Y2には重大な過失があり、第一事故と第二事故は異質なものである。そうすると、両事故の客観的関連共同性を認めることはできない。

エ 以上のとおり、第一事故の原因はAにあるし、その死因は第二事故による轢過であるから、被告Y1及び被告Y3社に責任はない。

(2)  損害

【原告ら】

ア 治療費 二六万三九一七円

イ 死体検案書料 一万〇五〇〇円

ウ 葬儀費用 二三三万一六〇〇円

エ 死亡逸失利益 三一六三万五五四六円

(計算式)

男女別学歴計全年齢平均の賃金センサス年収526万7600円×(1-生活費控除率0.3)×17.1591(労働能力喪失期間40年間に対応するライプニッツ係数)÷2=3163万5546円

オ 死亡慰謝料 一二〇〇万円(二四〇〇万円の二分の一)

カ 固有の慰謝料 各自二〇〇万円

キ 原告X1の総損害は四八二四万一五六三円であるところ、一五七七万八一一七円の支払を受けたので、残額は三二四六万三四四六円である。

ク 弁護士費用

(ア) 原告X1

三二四万六三四五円(合計三五七〇万九七九一円)

(イ) 原告X2 二〇万円(合計二二〇万円)

【被告ら】

争う。

(3)  過失相殺

【被告Y1及び被告Y3社】

責任原因(1)における被告Y1及び被告Y3社主張のとおり、本件事故はAの落ち度によるところが大きいから、相当な過失相殺を免れない。

【被告Y2及び被告Y4社】

被告Y2は、夜間、国道二四六号線上に横臥状態のAを轢過したから、基本の過失割合は五〇パーセントであるところ、①第一事故はY1車が本件交差点を曲がり完全に本線に進入後、被害車がY1車の真後ろに衝突したものであること、②被害車は、制限速度五〇キロメートルを超過する時速六六キロメートルで走行していたこと、③被害車は、制動措置を講じることなく第一事故に至っていることからすると、Aには、自らの危険運転により幹線道路上に横臥状態になったもので相当な過失があるから、過失割合を二〇パーセント加算し、七〇パーセントの過失相殺を免れない。

なお、被告Y1が直ちに発煙筒を焚けば、被告Y2は二〇〇メートル手前で第一事故に気づいたこと、被告Y1が直ちにAに駆け寄れば、第二事故を回避できた可能性が高まったところ、被告Y1はハザードランプを点灯させたにすぎないこと、被告Y2は、同ランプの点灯により、進路変更すべく後続車の有無を確認したため、前方に対する注意が疎かになったものであること(後続車の接触事故を避けるにはやむを得ない。)、当時、間引き点灯のため、本件現場を見にくい状況になっていたこと、被告Y2は、五・七メートル地点でAの存在に気づいて急制動措置を講じるとともに急ハンドルを切ったが、第二事故を回避できなかったことなどからすれば、被告Y1が適切な措置を講じれば、第二事故を回避できた可能性は高い。

以上によると、Y2車の落ち度は大幅に減縮されるべきである。

【原告ら】

ア 第一事故

(ア) 第一事故は、Y1車が本件交差点に左折進入してから僅かの時間(約二・五秒)及び距離(約八・八二メートル)を走行した段階で発生しており、交差点における接触事故である。

本件事故発生時は午前〇時五四分という深夜に発生し、震災の影響で現場付近の街灯は点いておらず、被害車の前照灯が他の明かり等で見えにくいという事情はなかったところ、Y1車は、見通しの悪い本件交差点に進入する際、一時停止して右方の安全確認をすれば、被害車に気づき第一事故を回避できたのであるから、被告Y1の注意義務違反の程度は著しい。

(イ) 他方、Aは、優先道路の通行を妨害する進入車両の存在を容易に予測できないところ、Y1車は前方約五六・一一メートル先で左折進入を開始したにすぎず、Y1車の第一車線への頭出しはそれから約一秒後であったことからすれば、AがY1車の左折進入を認識し得たのは、被害車が更に約一秒直進した時点(Y1車が被害車の前方約三七・六六メートル以内にいる時点)であったのであるから、Aには、Y1車との接触回避可能性がなかったというべきである。

(ウ) 以上のとおり、被告Y1の注意義務違反が著しいことを考慮すると、Aには、第一事故の発生について過失はなかったものである。なおAは、法定速度を約一六・四キロメートルも超える速度で被害車を走行させたが、時速五〇キロメートルで走行していたとしても、被告Y1は、被害車に気づかずに左折進入し、第一事故を発生させたのであるから、被害車の制限速度違反と第一事故の間に因果関係はない。

イ 第二事故

被告Y2は、第一事故後から約二一秒後にAを轢過した。この点、被告Y2は、本件現場の約一〇〇メートル手前で第一車線に停車しているY1車のハザードランプを、約五八メートル手前ではある程度落下物の存在を、約四七メートル手前では落下物の存在自体を、約三三メートル手前では人が倒れていることを認識し得た(甲一九、二〇)。そうすると、被告Y2が前方注視義務を尽くしていれば、Aの轢過を回避できたのに、第二事故を引き起こしたのであるから、同人には注意義務違反がある。他方、第一事故で負傷したAが僅かな時間に独力で現場から移動することは不可能ないし極めて困難であったから、Aに第二事故発生について過失はない。

ウ 以上のとおり、第一事故、第二事故は共同不法行為に該当し、Aには過失はないから、被告らが全面的に責任を負担すべきである。

第三争点に対する判断

一  責任原因及び割合(過失割合)

(1)  前提事実、甲第一五ないし二三号証、乙第一号証、丙第一ないし五号証によると、次の事実が認められる。

ア 第一事故の発生経過

(ア) 被告Y1は、タクシードライバーとして、国道二四六号線には高速車が多く、夜になると時速八〇ないし一〇〇キロで走行する高速車も珍しくないことや、本件交差点から国道二四六号線に一度進入すれば、路地に戻れないし、直ちに左折・加速して高速車を振り切るわけにもいかないことから、左折開始前に安全に左折可能かを見極めることが重要である旨認識していた(丙四の五頁)。

(イ) 被告Y1は、平成二三年三月二六日午前〇時五四分頃、Y1車を運転し、本件交差点を榎が丘方面から渋谷方面に向けて左折進行して国道二四六号線の第一車線に進入しようとしたが、その直前には一時停止の道路標識と停止線が設けられていた。また、右側路肩には普通乗用自動車の運転席からの視界を遮る高さの石垣や電柱が設置されていたため、厚木方面の見通しは悪く、国道二四六号線に沿って設置された歩道の北端延長線に接する位置付近で四五・八メートル先を、更に歩道内へ約五〇センチメートル移動した地点でその先まで見通すことができたのであるから(甲一六の四頁、一一頁)、歩道上までY1車を進出させた上、一時停止して右方の安全確認をしていれば、国道二四六号線を走行してくる車両の存在を認識可能であった。しかし、被告Y1は、Y1車を本件交差点入口付近で一時停止することなく、時速五キロメートルで本件交差点へ左折進入し、加速を開始した。

(ウ) 他方、Aは、国道二四六号線の第一車線を厚木方面から渋谷方面に向け、制限速度(時速五〇キロメートル)を超える時速約六六・四キロメートルで被害車を走行し、Y1車が左折を開始した時点では、その手前約六七メートルの地点を走行していた。その際、Y1車の前照灯等が国道二四六号線上に照射され、次いでY1車が左折するに従って車幅灯、左折のウインカー等が視界に入るため、Aにおいて、前方注視を尽くしていれば、本件交差点の脇道から左折して自己の進行車線上に進入するY1車の存在及びその動静を認識可能であった。殊に本件事故当時、付近の街灯は東日本大震災の影響で街灯が減灯されていたため、自動車の前照灯等が暗闇に映えやすい環境にあった。

(エ) しかし、Aは、制動措置を講じることもなく、被害車を時速約六六・四キロメートルのままで直進させ、Y1車が第一車線への左折進入開始後約一〇・八九メートルの地点(左折後約三・六五秒で時速約二一・九キロメートルに達していた)において、被害車の右前輪部分がY1車のリヤーバンパーの中央からやや右側部分に衝突して変形・凹痕を生じさせた(乙一)。そして被害車は、その際の衝撃により、本件交差点から約一五メートル先の歩道ガードレールに前輪部分を乗り上げ、車体左側面を下側にして車体後部が路面に接して停止し、A自身は本件現場に放り出されて転倒した。

その際、被告Y1は、自車の後部に衝撃を感じ、直ちにハザードランプを点灯させてその場で停車した上、自車の後部窓越しに確認したところ、やや離れた本件現場にAが転倒しているのを発見した(なお、被告Y1は、被害車の前照灯がルームミラーないしフェンダーミラーを介して認識可能であるから、衝撃によりバイクが自車に衝突したことを知ったものと推認される。)。

ところが、被告Y1は、本来、直ちに下車してAのもとに駆けつけて安否を確認したり、後続車に第一事故の発生を知らせるために発煙筒を焚くことはもとより、手などで合図しようともせず、そのまま車内で逡巡していた。

(オ) 本件現場の路面には、衝突箇所に擦過痕が認められたものの、スリップ痕及びブレーキ痕は存在しなかった。

イ 第二事故の発生

被告Y2は、同日午前〇時五四分三三秒頃、Y2車(運転席における目線の高さは二メートルあり、進路を比較的高所から視認可能である。甲一九の三頁)を時速約五〇キロメートルで運転し、被害車から約二〇秒遅れて本件現場に差し掛かった。被告Y2は、Aの転倒地点から約三四・三五メートル手前で、進路前方の第一車線上にハザードランプを点灯して停車中のY1車に気づき、第二車線へ進路変更して追い越すため、右バックミラーで後方の車両の有無を確認の上、視線を前方に戻したところ、約五・七メートル(丙三の四頁)先の路上に転倒しているAを発見した。被告Y2は、直ちに右側にハンドルを切って回避しようとしたが避けきれず、左前輪でAを轢過した。

なお、被告Y2の立会の下、警察署が本件現場でAの転倒場所に「毛布を畳んだ物」を放置した上、本件事故当時と同様に街灯を一部消して見通し確認したところ、約五八メートル手前である程度落下物の存在を、約四七メートル手前で明確に落下物の存在を、約三三メートル手前で人が倒れていることをそれぞれ認識可能であった(甲一九、二〇)。

ウ 以上の経過を辿り、Aは、本件傷害を負い、平成二三年三月二六日午前四時一五分頃死亡した。

(2)  検討

ア 共同不法行為の成否

上記認定の事実によれば、被告Y1は、Y1車を運転して本件交差点を左折するに際し、右方の道路状況の見通しが悪かったのであるから、見通しがきく国道二四六号線に沿って設置された歩道辺りまで進行して一時停止し、右方から接近する車両と衝突する危険性がないことを確認した上、左折進行すべき注意義務があったのに、これを怠り、右方道路から進行してきたA運転の被害車に気づかずに、一時停止することなく時速約五キロメートルでそのまま左折進行した過失により、本件交差点先において、被害車の前部を自車後部に衝突させ、被害車ともどもAを転倒させたものであり、他方、被告Y2は、本件現場に向けて厚木方面から渋谷方面に向けて進行するに際し、上記Aの転倒場所の手前約四七メートルにおいて落下物の存在自体を、約三三メートル手前においては人が倒れていることを認識可能であったのであるから、このような場合、Y2車の速度を落とすなどして、第二事故の発生を回避すべき注意義務があるのに、これを怠り、ハザードランプを点灯させて停車しているY1車の追越しに気を取られ、漫然と進行した過失により、第一事故発生から約二〇秒程度経過した頃、Y2車の左前輪でAを轢過し、第二事故を引き起こしたことが明らかである。

そうすると、被告Y1と被告Y2は、Aに対する不法行為責任を免れないところ、第一事故と第二事故とは時間的・場所的に近接し、第一事故が原因となって第二事故を誘発した関係がある上、第二事故は第一事故があれば、通常予想される事故態様であるから、両事故は、社会通念上も一個の一連の事故として評価できるというべきである。

よって、被告Y1及び被告Y2は、本件傷害に基づく脊髄損傷(頚髄・胸髄)を直接の原因とするAの死亡について、共同不法行為責任を免れないというべきであり、被告Y3社及び被告Y4社も従業員の共同不法行為につきそれぞれ使用者責任を負う(従業員と使用者の責任は不真正連帯債務)というべきであるから、結局、被告らは、Aの死亡について連帯して損害賠償責任を負うといわなければならない。

イ 責任割合

上記認定の事実、殊に①Aは、本件現場に接近する際、進路前方を注視し、Y1車の前照灯で進路が照射されている事実からY1車が進行車線上を左折する事実を予見可能であったこと、Aは、Y1車が左折した時点では、直ちに急制動処置を講じることはもとより、第二車線側へ車線変更することも可能であったのに、当該処置を講じていないこと、Aは、終始、制限速度を時速一六・四キロメートルも超えて進行していたこと、他方、②被告Y1は、本件交差点を幹線道路である国道二四六号線に向けて左折する際、一時停止義務及び右方の安全確認義務に違反して被害車に気づくことなく、そのまま左折して第一事故を惹起したほか、直ちに第二事故の発生を防止する処置及び救護措置を講じるべきであるのに、Y1車内に漫然と留まったこと、③被告Y2は、被害者が倒れている地点から約四七メートル手前では落下物の存在を、約三三メートル手前で人が倒れている事実を各認識可能であったのであるから、進路前方を注視し、第二事故を回避すべき義務があったところ、Y1車のハザードランプに気を取られ、進路変更のために後方車両の有無を確認したため、約五・七メートル手前までAの存在に気づかず、第二事故を惹起したことが認められ、これらの事実を総合勘案すると、Aの死亡事故に係る責任原因については、A・二割、被告ら八割(被告Y1・六割、被告Y2・二割)であると認めるのが相当である(絶対的過失相殺)。

(3)  原告ら及び被告らのその他の主張は、上記認定判断に照らしていずれも採用することはできない。

二  損害

(1)  原告X1関係 一二九八万九六九五円

ア 治療費 二六万三九一七円

甲第六ないし八号証によると、Aの治療費は二六万三九一七円であったことが認められる。

イ 死体検案書料 一万〇五〇〇円

甲第九、第一〇号証によると、死体検案書料は一万〇五〇〇円であったことが認められる。

ウ 葬儀費用 一五〇万円

甲第一一号証の一ないし六、第一二号証の一ないし四によると、原告X1は、Aの葬儀費用二三三万一六〇〇円を出捐したが、本件事故と相当因果関係のある費用としては一五〇万円が相当である。

エ 逸失利益 一九六八万五三四八円

(ア) 甲第四号証、甲第一四号証の一、二によると、A(死亡時満二七歳)の本件事故前年(平成二二年度)の年収は一一六万一〇〇〇円にすぎないが、その年齢、転職の可能性、世上見られる年功序列型の賃金体系等を考慮すると、平成二三年度の学歴別・全年齢平均賃金を採用し、その基礎収入を年額四五八万八九〇〇円と認めるのが相当である。

(イ) 甲第四、第五号証によると、Aは、死亡当時、独身であったことからすれば、生活費控除率を五〇パーセントと認めるのが相当である。

(ウ) 六七歳までの四〇年間のライプニッツ係数は一七・一五九一である。

(計算式)

458万8900円×(1-0.5)×17.1591=3937万0696円

3937万0696円×1/2(原告X1の相続分)=1968万5348円

オ 死亡慰謝料 一一〇〇万円

Aは、本件事故当時、満二七歳であり、独身男性であることなどを考慮すると、死亡慰謝料を二二〇〇万円と認めるのが相当である。そうすると、原告X1の相続慰謝料は一一〇〇万円となる。

カ 固有の慰謝料 二〇〇万円

原告X1は、Aの死亡により多大な精神的な苦痛を受けたというべきであり、慰謝料を二〇〇万円と認めるのが相当である。

キ 以上の合計額は三四四五万九七六五円であり、二割の過失相殺をすると二七五六万七八一二円であり、前提事実(4)のとおり損害填補額一五七七万八一一七円を控除すると、残金は一一七八万九六九五円となる。

ク 弁護士費用

原告X1は本件訴訟の提起・追行を原告ら訴訟代理人弁護士に委任したことは記録上明らかであり、事案の性質、難易度、認容額等を考慮すると、弁護士費用を一二〇万円と認めるのが相当であるから、合計一二九八万九六九五円ということになる。

(2)  原告X2関係 八八万円

原告X2はAの姉であり、Aの死亡事故により精神的苦痛を被ったものであるから慰謝料としては一〇〇万円が相当であり、二割の過失相殺をすると八〇万円となるところ、原告X2が原告ら訴訟代理人弁護士に訴訟委任したことは記録上明らかであり、弁護士費用としては八万円と認めるのが相当である。そうすると、損害額は八八万円ということになる。

三  以上のとおりであるから、原告らの請求は主文掲記の限度で理由があるが、その余の請求は理由がないからいずれも棄却し、主文のとおり判決する(なお、被告Y2及び被告Y4社は仮執行免脱宣言を求めるが、本件事案においては相当ではないから、これを付さないものとする。)。

(裁判官 市村弘)

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