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横浜地方裁判所 平成25年(ワ)4875号 判決 2014年9月12日

原告

被告

主文

一  被告は、原告に対し、一二九四万六六一〇円及びこれに対する平成二一年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二〇分し、その七を被告、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、三五〇〇万円及びこれに対する平成二一年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が被告に対し、民法七〇九条、七一〇条及び自賠法三条に基づき、後記交通事故により既払金三八五万三五〇六円を控除すると、七一五〇万一八二九円の損害を被った旨主張し、その一部請求として内金三五〇〇万円及びこれに対する交通事故発生の日である平成二一年一一月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  前提事実(争いのない事実)

(1)  事故の発生(以下「本件事故」という。)

・日時 平成二一年一一月三〇日午前九時二〇分頃

・場所 横浜市磯子区森一丁目一二番七号先の交差点(以下「本件現場」という。)

・原告車 自転車

・被告車 普通乗用自動車

・態様 被告は、被告車を運転し、交通整理の行われていない本件現場の交差点手前の道路を上大岡方面から横浜市立森東小学校方面に向けて進行するに際し、右方道路から横断歩道上を進行して来た原告車に被告車の右側前部を衝突させ、原告車もろとも原告を路上に転倒させた。

・結果 上記事故により、原告は、右足関節捻挫、左股関節打撲傷、左股関節捻挫、頭部外傷、頭痛、顔面挫傷、顔面瘢痕拘縮、顔挫滅創、右顔面外傷後瘢痕、調整衰弱(眼)、右網膜振盪症の傷害(以下「本件傷害」という。)を負った。

(2)  責任原因

被告は、自己所有の被告車を運転して本件現場を進行するに際し、前方の横断歩道上を横断中の原告車の動静に注視しながら進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、上記交差点に進入した過失によって本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条、七一〇条及び自賠法三条に基づき・原告に生じた損害を賠償する責任がある。

(3)  治療経過

ア a病院

原告は、①平成二一年一一月三〇日に救急科、②同年一二月一日から平成二二年一月一五日まで眼科(実日数五日)、③平成二一年一二月二日から同月二二日まで整形外科(実日数三日)、④同年一一月三〇日から平成二五年一月二五日まで形成外科(実日数三六日)、⑤平成二二年二月八日に脳外科に各通院して治療を受けたほか、⑥形成外科で同年三月五日に右頬部瘢痕拘縮形成手術を、同年八月二六日に瘢痕拘縮形成手術を受けた。

イ b整形外科

原告は、平成二二年一月一二日から同年一〇月二九日まで九三日間通院し、左股関節の治療を受けた。

(4)  症状固定

平成二二年一〇月二九日に左股関節について、平成二五年一月二五日に顔面醜状について、それぞれ症状が固定した。

(5)  後遺症の程度・等級

原告は、本件事故により、右頬部及び唇右上等に線状痕・瘢痕が生じた。

とりわけ、右頬部には人目につく長さ五センチメートル以上の線状痕、眉間部分には長さ三センチメートル以上の線状痕が残った。これらは「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」として自賠責等級別表第二第七級一二号に該当する旨の認定がされた。

(6)  損害(一部)

ア 原告は、治療費として一六五万一〇七〇円、通院交通費として七万五八〇〇円、雑費一七万三七二九円の合計一九〇万〇五九九円の損害を被った。

イ 原告は、本件事故当時、c歯科医院にて歯科衛生士として勤務するとともに、有限会社d商店(代表者は夫のA、以下「d商店」という。)でも働いていたが、本件事故により少なくともc歯科医院については合計一四六日間の欠勤及び一一日間の有給休暇の消化を余儀なくされた。同医院での本件事故前三か月間の合計収入は七五万二五〇八円であり、一日当たりの休業損害は八三六一円であるから、一四六日間の休業損害は一二二万〇七〇六円である。

ウ 物的損害は、自転車代及び着衣・所持品等で合計一二〇万三四八一円である。

エ アないしウの損害合計額は四三二万四七八六円である。

二  争点及び当事者の主張

(1)  休業損害

【原告】

ア c歯科医院

休業損害は、前提事実(6)イと次の損害七二万二〇三八円を含めて合計一九四万二七四四円ということになる。

① 遅刻・早退による減給 四九万六七〇三円

原告は、欠勤等に加え、本件事故により八二回遅刻し、四一回早退しているところ、同医院作成の休業損害証明書計算根拠式記入欄の控除額から上記欠勤日数分である休業損害額(一日当たり八三六一円)を控除した残額が遅刻・早退分に当たる(例えば、甲二〇の四によると、欠勤等の控除額8万1499円-〔8361円×欠勤7日〕=2万2972円となる。)。

そうすると、平成二二年五月一日から平成二三年八月三一日までの遅刻早退分の合計額は四九万六七〇三円となる(平成二二年五月分が二万二九七二円、六月分が三万六九八二円、七月分が七万八六二七円、八月分が八万四四八六円、九月分が八万八九八三円、一〇月分が三三〇九円、一一月分が五万七二一〇円、一二月分が一万四三六一円、平成二三年一月分が一万八五六七円、二月分が一万四一七二円、三月分が一万〇五一八円、四月分が一万七五八〇円、五月分が二万四五七三円、六月分が二万二〇七四円、八月分が二二八九円)。

② 賞与の減額 二二万五三三五円

原告は、本件事故による欠勤・遅刻早退が続いたため、賞与合計二二万五三三五円(平成二二年夏季賞与一四万〇八八五円、同年冬季賞与四万四五六〇円、平成二三年夏季賞与二万八二二四円、同年冬季賞与一万一六六六円)の減額措置を受けた。

イ d商店 三三六万円

原告は、本件事故直前三か月間に合計六三万円の収入を得ていたから、これを九〇日で除すると、一日当たり七〇〇〇円であるところ、少なくとも二年間(四八〇日分)の休業損害が生じ、三三六万円の損害を被った。

【被告】

ア c歯科医院

遅刻・早退分として平成二二年五月一日から同月三一日までが二万二九七二円であること、平成二二年夏季賞与減額分が一四万〇八八五円であることは認め、その余は争う。

イ d商店

原告主張の休業損害のうち、一八〇日分相当額については認めるが、その余は争う。

ウ 被告の主張

原告の傷害の内容や程度、骨折等がなく入院もしていないことを考慮すると、事故後六か月の限度で認めるべきである。最終的な症状固定時期は平成二五年一月二五日とされているが、これは原告の就労能力に基本的に影響しない形成外科の治療に長期間を要したためであり、それまでの全期間にわたり本件事故と相当因果関係のある休業損害が発生したものとはいえない。

(2)  逸失利益

【原告】

次のア、イの合計額のとおり、四六七二万二五一一円である。

ア c歯科医院 二七二四万九九二七円

原告は、歯科衛生士として歯磨きの指導、かみ合わせのチェック等を行っていた。しかし、本件事故により口が左右対象に開かなくなる等の後遺症を負い、歯科衛生士として従前どおり仕事を行うことができなくなった。

(ア) 基礎収入 三五二万六四八七円

原告の平成二一年度の源泉徴収額は、三二三万二六一三円である(甲二三)ところ、本件事故発生日が平成二一年一一月三〇日であるから、一二月分の給与額を算定し、これを源泉徴収額に加算した三五二万六四八七円を基礎収入とすべきである。

(イ) 労働能力喪失率

原告は、自賠責等級別表二第七級一二号の認定を受けており、その労働能力喪失率は五六パーセントである。

(ウ) ライプニッツ係数一三・七九八六

原告は、症状固定時、原告は四三歳であるから満六七歳までの二四年間の係数によるべきである。

(計算式)

352万6487円×0.56×13.7986=2724万9927円

イ d商店 一九四七万二五八四円

原告は、顧客先を回る等の営業のほかに経理を担当していたが、自動車を運転しての外回りができなくなった上、醜状痕のために営業ができなくなった。そのため、d商店では原告以外の従業員を雇用せざるを得なかった。

(ア) 基礎収入

平成二一年度の源泉徴収額は二三一万円である(甲二四)ところ、本件事故発生日が平成二一年一一月三〇日であるから、一二月分の給与額を算定し、これを源泉徴収額に加算した二五二万円を基礎収入とすべきである。

(イ) 労働能力喪失率及びライプニッツ係数は上記アのとおりである。

(計算式)

252万円×0.56×13.7986=1947万2584円

【被告】

ア c歯科医院

平成二一年度の源泉徴収額が原告主張の金額であること、障害等級七級の労働能力喪失率が五六パーセントであることは認め、その余は争う。

イ d商店

平成二一年度の源泉徴収額が原告主張の金額であることは認め、その余は争う。

ウ 原告の醜状痕は労働能力に直接影響するものではない。特にd商店については夫が経営する会社であるから顔面醜状痕による収入への影響は考え難い。また、c歯科医院における収入は平成二〇年に比較して平成二一年の方が多くなっているのに、d商店の収入は逆に平成二一年に減少していること、d商店の収入については端数のない万単位の金額とされていること、d商店での業務は得意先への営業及び経理であり、不特定の第三者に接触する機会はc歯科医院の方が多いと考えられるのに、d商店での収入が皆無であることからすると、d商店での減収と本件事故との間に因果関係があるとは認め難い。したがって、外貌醜状については、後遺障害慰謝料の加算事由に留まるというべきである。

逸失利益の中間利息の控除については、不法行為時を基準にすべきである。そうすると、原告の不法行為時の年齢は三九歳(甲一)、症状固定時の年齢は四三歳(甲一一)であるから、六七歳までの労働能力喪失期間を想定すると、原告の逸失利益のライプニッツ係数は一一・三五二一(14.8981-3.5460)が相当である。

(3)  慰謝料

【原告】

ア 通院慰謝料 一八二万六〇〇〇円

本件事故により平成二一年一一月三〇日から平成二五年一月二五日まで約三八か月間(実通院日数一三七日間)の通院治療を要したが、通院が長期にわたり不規則であるから、実通院日数の三・五倍を通院期間の目安とすると約一六か月となる。

そうすると、その通院慰謝料は一六六万円であるが、原告は二度も顔面修復手術をし、醜状痕が残ったことから、一〇パーセント増額して一八二万六〇〇〇円を認めるべきである。

イ 後遺症慰謝料 一二〇〇万円

障害等級七級一二号相当であるほか、醜状痕のほかにも噛み合わせの悪さ、食べこぼしが生じていることを考慮し、一二〇〇万円が相当である。

【被告】

争う。

(4)  損害の填補

【被告】

四六七万四八四九円である。

【原告】

三八五万三五〇六円である。

(5)  弁護士費用

【原告】

六四〇万円が相当である。

【被告】

争う。

(6)  過失相殺

【被告】

本件現場は、原告進行道路が一方通行で幅員三・五メートル、被告進行道路が片側一車線の幅員七メートルの道路であり、両者が交差する十字路交差点である(乙一、六)。原告進行道路には一時停止の標識があるところ、原告は、本件交差点手前の一時停止場所で停止し、左方の被告進行道路を視認したのであるから、被告車の通過後に、進行道路の左端を走行して本件交差点に進入すべき注意義務があったにもかかわらず、被告車よりも先に横断できると思って発進し、進行道路右側の横断歩道を通行して本件現場に進入したところ、左方から直進してきた被告車と衝突したものである。

そうすると、本件事故については、原告に四割の過失があるというべきである。

【原告】

被告は、直線の見通しのよい道路を走行していたにもかかわらず、原告に気づいたのは被告車を本件交差点に進入させ、原告車の手前約四・二メートルの地点であり、原告車の発見と同時に危険を感じてブレーキを踏んでいるが、これは進路前方を全く見ていなかった証左である。このように被告の過失は大きく(乙六、七)、過失相殺を行うべきではない。

第三争点に対する判断

一  損害(前提事実(6)以外の損害)

(1)  休業損害

ア 遅刻及び早退 四九万六七〇三円

甲第二〇号証の一ないし二二及び弁論の全趣旨によると、原告は、平成二一年一二月一日から平成二三年八月三一日までの間に本件事故により八二回の遅刻と四一回の早退を余儀なくされたことが認められる。

しかして、遅刻早退分として平成二二年五月分が二万二九七二円であることは当事者間に争いはなく、同事実と甲第二〇号証の四ないし二二及び弁論の全趣旨によると、平成二二年五月一日から平成二三年八月三一日までの遅刻早退分の合計額は原告主張のとおり四九万六七〇三円であることが認められる。

イ 賞与 二二万五三三五円

平成二二年夏季賞与の減額措置が一四万〇八八五円であることは当事者間に争いはなく、同事実と甲第二〇号証の二四ないし二八及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故による欠勤・遅刻早退が続いたため、賞与合計二二万五三〇五円(平成二二年夏季賞与一四万〇八五五円〔21万3885円-7万3000円〕、同年冬季賞与四万四五六〇円〔28万5180円-24万0620円〕、平成二三年夏季賞与二万八二二四円〔22万0500円-19万2276円〕、同年冬季賞与一万一六六六円〔29万4000-28万2334円〕)の減額措置を受けたことが認められる。

ウ 以上によると、原告のc歯科医院における休業損害は一二二万〇七〇六円(前提事実(6)イ)にア、イを加え、一九四万二七四四円であることが認められる。

(2)  d商店(二年間の欠勤) 一六八万円

甲第二一号証の一によると、原告は、本件事故直前三か月間(平成二一年八月ないし一〇月)に合計六三万円の収入を得ていたから、原告が主張するとおり九〇日で除すると、一日当たり七〇〇〇円であることが認められる。

原告主張の休業損害のうち、一八〇日分相当額については当事者間に争いはないところ、原告は、d商店において、少なくとも二年間に四八〇日分の休業損害が生じ、三三六万円の損害を被った旨主張する。

しかし、原告の夫の経営するd商店における仕事は営業及び経理担当であるところ、原告は通院期間中も歯科衛生士として稼働し、平成二二年五月以降、欠勤が急激に少なくなり、同年七月から平成二三年九月にかけては、一日ないし四日にすぎないこと(甲二〇の四ないし二三)を考慮すると、上記期間中の本件傷害は顕著な回復傾向にあったことは明らかであるから、d商店における二年間の就労制限率の平均を五割と認め、少なくとも原告主張の上記日数分の休業損害を認めるのが相当である。

(計算式)

日額7000円×480日(年240日、2年分)×0.5=168万円

二  通院慰謝料(傷害慰謝料) 一八〇万円

甲第一〇及び第一一号証によると原告の通院状況は、平成二一年一一月三〇日から平成二五年一月二五日までと長期にわたり、かつ、その通院頻度は不規則であるから、弁論の全趣旨に照らし、原告主張のとおり実通院日数の三・五倍程度を通院期間の目安とし、その期間を約一六か月と認めるのが相当であるところ、甲第九号証の五、一二及び乙第四号証によると、原告は、顔挫滅創につき本件事故当日の平成二一年一一月三〇日に縫合処置を、平成二二年三月五日及び八月二六日の二回にわたり右頬部瘢痕拘縮形成手術をそれぞれ受けていることを併せ考えると、原告が本件事故による傷害及び通院により多大な精神的苦痛を受けたことは明らかであり、これを慰謝するには上記金額を相当と認める。

三  逸失利益 〇

(1)  前提事実(4)のとおり、平成二二年一〇月二九日に左股関節、平成二五年一月二五日に顔面醜状がそれぞれ症状固定したものと認められる。

(2)  左股関節捻挫

甲第四、第五号証、第六号証の一ないし一〇、第一〇、第一二号証、乙第一〇及び第一一号証及び弁論の全趣旨によると、本件事故により右足関節捻挫、左股関節打撲傷を負ったが、CT検査等によっても本件事故に起因する骨折、脱臼等の外傷性変化はなく、診断書等にも症状を裏付ける客観的な医学的所見が窺えないこと、原告は、平成二二年一月一二日、b整形外科を受診し、左股関節捻挫の診断を受けたが、徐々に症状が軽減し、同年四月一九日頃になると、左股関節痛は起床時と階段昇降時に感じたが徐々に軽減し、同年一〇月二九日限り、左股関節捻挫の傷病名で症状固定したことが認められ、これらの事実と、原告には両股臼蓋形成不全(大腿骨とこれを支える臼蓋が噛み合わずに摩擦を生じて軟骨に負担がかかるため、関節が消耗して股関節に炎症が起きて鈍痛ないし激痛を生じる疾病である。)の既往障害が存在したことを考慮すると、左股関節痛等の症状については、他覚的に本件事故に起因する神経系統の障害が存在することが証明されたとはいえないから、原告主張の左股関節の傷害に起因する後遺障害は認め難いというべきである。

(3)  醜状痕について

右頬部、唇右上の線状痕、瘢痕が生じているが、後遺障害の慰謝料の対象として考慮可能であるが、これらは格別の事情(俳優、モデル等の容姿が重視される職業)のない限り、店の客足が減るとか、給与が減額になることはないから、労働能力の喪失に繋がるとはいえない。

なお、原告の場合、口が左右対象に開かなくなったと主張するが、会話が困難になる等の格別の事情のない限り、歯科衛生士として従前どおりの仕事が行えなくなるとはいえない。また、仮に口がまっすぐに開閉できないとしても、同事実から原告主張の歯科保健指導ができなくなるとまでは認め難い。

(4)  以上によると、逸失利益に係る原告の主張は採用することができない。

四  後遺症慰謝料 一二〇〇万円

原告の外貌醜状等は、障害等級七級一二号に該当するところ、上記のとおり逸失利益としては斟酌できないとしても、女性として周囲の視線が気になる場面も生じ、対人関係や対外的な活動に消極的になる可能性も否定できず、間接的とはいえ労働に影響を及ぼすおそれもあることを考慮し、後遺症慰謝料を一二〇〇万円と認めるのが相当である。

五  前提事実の治療費等一九〇万〇五九九円及び物的損害一二〇万三四八一円と上記一ないし四の合計は二〇五二万六八二四円である。

六  過失相殺二割

乙第一、第三、第六、第七号証及び弁論の全趣旨によると、①本件現場は、原告進行道路が一方通行の道路で幅員三・五メートル、被告進行道路が片側一車線の幅員七メートルの道路であり、両者が交差する十字路交差点であること(乙一、六)、②原告進行道路の本件現場入口には一時停止の標識があり、原告は、同所で一時停止した上、左方の被告進行道路上を接近する被告車の接近を認識したが、被告車よりも先に横断可能と判断して通行を開始し(乙三)、以後、被告車の動向に気を払うことなくそのまま約六メートル進行したこと、③他方、被告は、時速約二〇キロメートルで本件現場に向けて進行中、本件現場先の交差点の信号表示に気を取られ、上記横断歩道に対する注意を怠り、横断歩道上を進行する原告車を約四・二メートル手前に至って漸く発見し、直ちに急制動措置を講じたが間に合わず、被告車を原告車に衝突させたこと(乙七)が認められ、これらの事情を勘案すると、本件事故の責任原因は、原告の過失二割、被告の過失八割と認めるのが相当である。

七  以上によると、原告の損害額二〇五二万六八二四円に二割の過失相殺をすると一六四二万一四五九円であり、同金額から損害填補額四六七万四八四九円(弁論の全趣旨)を控除した残額は一一七四万六六一〇円であるところ、原告が本件訴訟の提起・追行のために原告代理人弁護士らに訴訟を委任したことは記録上明らかであり、事案の性質、難易度、認容額等を考慮すると、弁護士費用としては一二〇万円と認めるのが相当である。

八  よって、本件請求は、その余の点について判断するまでもなく、一二九四万六六一〇円及びこれに対する本件事故発生の日である平成二一年一一月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

なお、被告は、仮執行免脱宣言を求めるが、本件事案の下においては不相当であるから付さないこととする。

(裁判官 市村弘)

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