横浜地方裁判所 平成25年(行ウ)30号 判決 2014年1月22日
原告
X
被告
横浜市
同代表者市長
A
同訴訟代理人弁護士
阿部泰典
同
原田雅紀
同
南竹要
同
日向誓子
処分行政庁
横浜市長 A
被告
神奈川県
同代表者知事
B
同訴訟代理人弁護士
北田幸三
同訴訟復代理人弁護士
島崎友樹
同
武藤一久
同
櫻庭史子
同指定代理人
斎藤栄一<他4名>
裁決行政庁
神奈川県知事 B
主文
一 横浜市長が平成二四年一月二八日付けで原告に対してした二〇〇〇円の過料に処するとの処分を取り消す。
二 原告の被告神奈川県に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告神奈川県に生じた費用を原告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告横浜市に生じた費用を被告横浜市の負担とする。
事実及び理由
第一請求の趣旨
一 主文第一項と同旨。
二 神奈川県知事が平成二四年一二月二七日付けで原告に対してした審査請求を棄却する裁決を取り消す。
第二事案の概要
一 事案の骨子
本件は、原告が、横浜市空き缶等及び吸い殼等の散乱の防止等に関する条例(平成七年横浜市条例第四六号。以下「本件条例」という。甲四)一一条の二第一項により指定された喫煙禁止地区内で喫煙をし、同条例一一条の三に違反したとして、横浜市長(以下「市長」という。)から同条例三〇条に基づき二〇〇〇円の過料に処するとの処分(以下「本件処分」という。)を受け、市長に対して異議申立てをしたがこれを棄却する旨の決定を受け、更に神奈川県知事(以下「知事」という。)に対して審査請求をしたがこれを棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を受けたことから、本件処分において喫煙をしたとされた場所(以下「本件違反場所」という。)に原告が至るまでに通った道路には本件違反場所が喫煙禁止地区内であることを容易に認識できるような標識等がなかったにもかかわらず本件処分を行ったことは違法であるなどと主張して、被告横浜市(以下「被告市」という。)に対し本件処分の取消しを、被告神奈川県(以下「被告県」という。)に対し本件裁決の取消しを求めている事案である。
二 前提事実(争いのない事実並びに括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告は、平成二四年一月二八日午後一時三〇分ころ、本件条例に基づき市長が指定した喫煙禁止地区である横浜駅周辺地区(以下「本件喫煙禁止地区」という。)内にある横浜市西区南幸二丁目パルナード(道路の通称である。詳しくは後記のとおり)の南側歩道上(本件違反場所)において喫煙し、巡回指導にあたっていた被告市の美化推進員(以下「推進員」という。)によりその姿を現認された。原告は、当該推進員から火を消すよう指導され、本件条例に違反していることを告知された上、告知・弁明書の弁明欄に記載及び署名を求められ、これに応じ記載及び署名をした後、その場で当該推進員から市長の名で本件処分を受けた(争いのない事実)。
(2) 原告は、平成二四年三月二七日付けで、市長に対し異議申立てをし、同年六月二五日付けで異議申立て棄却の決定を受けた(甲二)。
(3) 原告は、平成二四年七月二三日付けで、知事に対し審査請求をし、同年一二月二七日付けで審査請求棄却の本件裁決を受けた(甲八)。
(4) 原告は、平成二五年六月二七日、本件処分及び本件裁決の取消しを求めて本件訴えを提起した(顕著な事実)。
三 条例等の定め
(1) 本件条例
本件条例には次のような規定がある。
ア 本件条例は、空き缶等及び吸い殼等の投棄の禁止、屋外の公共の場所における喫煙の禁止、空き缶等の回収及び資源化その他の必要な事項を定めることにより、清潔で安全な街をつくり、かつ、資源の有効な利用を促進し、もって快適な都市環境を確保することを目的とする(一条)。
イ 本件条例において、「公共の場所」とは、道路、公園その他の公共の用に供される場所をいい(二条五号)「喫煙」とは、たばこを吸うこと及び火の付いたたばこを持つことをいう(同条六号)。
ウ 市は、この条例の目的を達成するため、空き缶等及び吸い殼等の散乱並びに屋外の公共の場所での喫煙による市民等の身体及び財産に対する被害の防止並びに空き缶等の資源化の促進についての施策を総合的に実施しなければならない(三条一項)。
市は、空き缶等及び吸い殼等の散乱並びに屋外の公共の場所での喫煙による市民等の身体及び財産に対する被害の防止について事業者及び市民等に対して意識の啓発を図るとともに、環境に関する教育を充実し、及び学習が促進されるよう努めなければならない(同条二項)。
エ 市長は、空き缶等及び吸い殼等の散乱を防止し、清潔できれいな街をつくることが特に必要と認められる地区を美化推進重点地区として指定することができ(九条一項)、その指定は、その区域を告示することにより行う(同条二項)。
市長は、美化推進重点地区内の空き缶等及び吸い殼等の散乱の防止に関する啓発、指導その他の活動を行わせるため、推進員を任命することができる(一一条一項)。
オ 市長は、美化推進重点地区内において、たばこの吸い殼の散乱につながるとともに、市民等の身体及び財産に対し被害を及ぼすおそれのある屋外の公共の場所での喫煙を禁止する必要があると認められる地区を喫煙禁止地区として指定することができ(一一条の二第一項)、その指定は、その区域を告示することにより行う(同条二項)。
カ 何人も、喫煙禁止区域内において、喫煙をしてはならず(一一条の三)、これに違反した者は、二〇〇〇円以下の過料に処する(三〇条)。
(2) 横浜市空き缶等及び吸い殼等の散乱の防止等に関する条例施行規則(平成八年横浜市規則第七号。以下「本件規則」という。甲四)
本件規則には次のような規定がある。
市長は、本件条例三〇条の規定による過料の処分をしようとする場合においては、当該処分を受ける者に対し、あらかじめ告知・弁明書により告知し、弁明の機会を与えるものとし(本件規則一五条一項)、市長は、当該処分をする場合は、当該処分を受ける者に対し、過料処分決定通知書を交付するものとする(同条二項)。
四 争点及び当事者の主張
(1) 本件条例三〇条に基づく過料処分をするためには、処分の相手方に同条例一一条の三違反について故意又は過失が必要か(争点(1))
(被告市の主張)
秩序罰としての過料は、行政上の秩序を保つために秩序違反行為に対して科される制裁であるという性質上、違反者の主観的責任要件の具備を必要とせず、客観的違反事実が認められれば、これを科し得るものである。そして、本件条例一一条の三及び三〇条に基づいて科される喫煙禁止地区における喫煙という違反行為に対する過料は、秩序罰にあたるものであるから、違反者の故意又は過失は必要ではなく、違反事実のみで市長は過料処分をなし得るものである。
(原告の主張)
適法に本件条例が成立し、喫煙禁止地区が告示されていたとしても、罰則を科すものである以上、当該地区に進入しようとする者に対し事前に注意喚起をすべきである。とりわけ現在、各地で喫煙について個別に規制条例が制定されており、その内容、運用方法は統一されていないのであるから、注意喚起は必須である。本件条例は罰則を科するのが目的ではないはずであり、悪質な場合を除けば、柔軟に対応する姿勢が必要である。
(2) 上記(1)において故意又は過失が必要であるとされる場合、原告に少なくとも過失はあったか(争点(2))
(被告市の主張)
ア 原告は、本件喫煙禁止地区において喫煙を行ったことを争わず、ただ、本件条例によって喫煙を禁止されている区域であることを認識できなかったとしているのであるから、過失により本件条例の定める違反行為を行ったと主張しているものと理解する。
イ 被告市は、喫煙禁止地区内で喫煙が禁止されていることを周知し、喫煙を抑制するために、喫煙禁止地区内に当該場所が喫煙禁止地区であるという旨の路面表示や標識等を設置している。
本件違反場所付近においても、原告の進入ルート直下の地点に喫煙禁止地区を示す路面表示を設置しており、その直上を通過することにより、当該地点が喫煙禁止地区内であることが容易に認識可能な状態となっている。また、原告の進入ルートから道路を隔てた反対側には喫煙禁止地区の標識も設置されている。
本件違反場所は、本件喫煙禁止地区の境界から一〇メートルほど入った地点である。
(原告の主張)
原告は、交差点を右折して本件喫煙禁止地区である横浜駅西口パルナードに入ったとほぼ同時に、被告市の推進員から告知を受けた。少なくとも一〇メートルも足を踏み入れていない。パルナードは、当該道路のみが近隣地域の中で喫煙禁止地区に指定されているが、ここへ進入する経路にあたる道路には事前に注意喚起する表示物が一切ない。本件喫煙禁止地区に入った際に路面表示が二つあるが、原告はその直上を歩くことはなく、これを認識することができなかった。この路面表示は規格が小さく容易に認識することができないものであり、これを見逃したとしても原告には何ら落ち度がない。また、原告が進入した地点から道路を隔てた反対側に路面標識があるが、歩道を直進してくる人を対象としたものであり、原告がこれを認識することは不可能であった。
(3) 本件裁決の取消事由の有無(争点(3))
(原告の主張)
本件裁決は、被告市の扱いに問題があるとの原告の主張を看過し、被告市の主張のみを支持している点で公平さを欠いており、行政不服審査法一条で定める国民の権利救済を図るという目的に違反しているので違法である。
(被告県の主張)
処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない(行政事件訴訟法一〇条二項・原処分主義)。したがって、裁決の取消しの訴えにおいては、裁決の違法事由として原処分の違法事由は主張し得ず、裁決固有の瑕疵を主張し得るのみである。
原告は、本件裁決固有の瑕疵を主張しているとは解されない。
第三当裁判所の判断
一 認定事実
括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件喫煙禁止地区である「横浜駅周辺地区」は、平成一九年横浜市告示第三〇九号により、平成二〇年一月二一日に喫煙禁止地区に指定され(乙一の一)、さらに、平成二〇年横浜市告示第三九五号により、平成二一年三月一〇日に従前より拡大された形で喫煙禁止地区が変更された。本件違反場所のある道路は、平成二一年三月一〇日に拡大された区域の一部である市営地下鉄横浜駅みなみ西口から岡野交差点までの「パルナード」という名称の道路である(乙一の二)。パルナードは、道路の両側が歩道、中央が車道となっていて歩道には街路樹がある。市営地下鉄横浜駅及び相模鉄道横浜駅より西側の横浜駅付近ではパルナードのみが喫煙禁止地区に指定されており、周辺の道路は喫煙禁止地区に指定されていない。本件違反場所は、市営地下鉄横浜駅みなみ西口から約五〇〇メートル離れたパルナードの西側の先端(すなわち本件喫煙禁止地区の西端)付近である(甲九、乙一の三、乙二)。
(2) 原告は、本件処分当日、パルナードの南側から道路を北上し、パルナードと交わる交差点で横浜駅方面へ右折した。右折した後、パルナード南側の歩道を一〇メートル程度歩いたところにあるビル前の駐輪場の中央部付近(本件違反場所)において、巡回指導にあたっていた推進員から本件条例違反であるとの告知を受けた(甲九、乙二)。
原告は、弁明の機会を付与され、本件処分は悪意のない過失に対して厳しすぎ、注意喚起をするよりも反則ペナルティを取ることに重点をおいた取締りは納得しがたい旨告知・弁明書の弁明欄に記入した(乙四)。
(3) パルナードには、当該道路が喫煙禁止地区である旨記載された路面表示と看板がそれぞれ複数存在する。本件違反場所付近に存在した路面表示は、直径三〇センチメートル程度の円形のものが二箇所であり、看板は、短い辺が幅四〇センチメートル程度の長方形のものが一個である(甲四、九、乙二、三)。路面表示は、円の中央部に直径二〇センチメートル弱の禁煙マークがあり、その上部に「喫煙禁止地区 No Smoking Area」、下部に「横浜市 City of Yokohama」と書かれている(甲五)が、その大きさからして、歩行者がその文字を読み取ることは困難である(甲八、乙三)。看板は、その上部には、路面表示と同じ円形のものが描かれ、下部には「喫煙禁止地区 No Smoking Area 罰則(過料二〇〇〇円)」と横書き三行で書かれているが(甲五)、地上約二・五メートルの高さに道路の西方に向けて設置されているため、西方から直進してこれに近づく歩行者でなければ容易に認識することはできない上、「喫煙禁止地区」の文字以外は小さく、遠方からこれを読み取ることは困難である(甲八、九、乙三)。
また、パルナードが喫煙禁止地区である旨の表示は、パルナードと交わる道路には存在しない(甲七から九まで)。
二 争点(1)(故意又は過失の要否)
本件条例は快適な都市環境を確保することを目的としている(一条)。市長が、その指定した美化推進重点地区内において、さらに、たばこの吸い殼の散乱につながるとともに市民等の身体及び財産に対し被害を及ぼすおそれのある屋外の公共の場所での喫煙を禁止する必要があると認められる地区を喫煙禁止地区として指定することができ(一一条の二第一項)、喫煙禁止地区での喫煙を禁止し(一一条の三)、この禁止違反に対して二〇〇〇円以下の過料をもって臨むこととしているのも(三〇条)、上記の行政目的を達成するためである。
したがって、この過料処分は、喫煙禁止地区において、快適な都市環境にとって有害な屋外の公共の場所での喫煙を行政上の制裁をもって抑止しようとするものであるから、行政上の秩序罰としての性質を有する。すなわち、本件条例は、喫煙禁止地区において喫煙をしてはならないという義務を全ての者に負わせた上で、その義務違反をした者に対して過料という行政上の制裁を加えることにより、喫煙禁止地区における喫煙を防止し、もって快適な都市環境という秩序を維持しようとしているのである。
一方、我が国においていわゆる路上喫煙が禁止されている地域は現在のところ極めて限られているから(公知の事実)、そこが喫煙禁止地区であることを知らないまま喫煙をし、かつ、知らなかったことに過失もないという場合が当然にあり得る。仮にこの者に対して過料処分をしたとしても、被処分者としては喫煙禁止地区と認識し得なかった以上、単に「運が悪かった」と受け止めるだけであり、今後は喫煙禁止地区において喫煙をしないようにしようという動機付けをされないから、本件条例三〇条の目的とする抑止効果を期待することはできない。
よって、本件条例三〇条に基づき過料処分をするためには、その相手方に、同条例一一条の三違反について少なくとも過失があったことが必要であると解すべきであって、このように解することが過失責任主義という法の一般的原則にも合致するというべきである。
これに対して、被告市は、秩序罰としての過料は客観的違反事実があれば科し得るのであり、故意又は過失は不要であると主張している。被告市の主張を前提とすると、喫煙禁止地区を告示さえすれば、一切掲示物等で表示せずとも、喫煙禁止地区での喫煙に対して過料処分をすることができることとなる。しかし、喫煙禁止地区は、たばこの吸い殼の散乱につながるとともに市民等の身体及び財産に対し被害を及ぼすおそれのある屋外の公共の場所での喫煙を禁止する必要があると認められる地区として市長が指定したものであり、その指定の目的は、当該地区において現実に喫煙をさせないことにある。この目的を達成するためには、広報活動によって本件条例の趣旨、内容を周知するとともに、喫煙禁止地区内やその周辺に標識を設けるなどして、当該地区を訪れようとする者に対し、当該地区における路上喫煙が罰則をもって禁止されているという認識を持たせるための措置をとることが必要であり、本件条例三条の定める市の責務もこのようなものを含むと解される。そして、現に被告市も、そのような活動を被告市が行っていると主張しているのである。このように、本件条例の目的を達成するためには、喫煙禁止地区において路上喫煙をしようとする者の認識に働きかけることが必要なのであって、このような働きかけを受ける可能性のない者についても、その認識いかんにかかわらずただ路上喫煙さえすれば過料処分をすることができるとする被告の主張は不合理であり、採用することはできない。
三 争点(2)(原告の過失の有無)
被告市は、本件条例一一条の三違反について過失があったことを原告が自認していると主張する。確かに原告は、弁護士に委任せずに本人で訴訟追行をしていることもあり、過失という法律用語を使った主張をしていない。しかし、自分には何の落ち度もないと主張しているのであるから、過失があったとする被告の主張を原告が争っていることは明らかである。そこで以下、原告の過失の有無について検討する。
前記認定事実(3)によれば、本件違反場所付近には、路面表示が二箇所、看板が一個存在したことが認められる。しかし、二箇所の路面表示はいずれも直径約三〇センチメートルと小さいため、歩行者が容易にその文字を読み取ることができないのはもちろんのこと、当該路面表示を認識すること自体が困難である。しかも、この路面表示には、喫煙に対して過料の制裁があるとの記載もない。看板は、原告が交差点を右折して進行したパルナード南側の歩道から道路を隔てて反対側の歩道上に、地上二・五メートルほどの高い位置に道路の西方に向けて設置されており、その歩道を直進する者のための掲示であって、反対側の歩道を進行していた原告がこれを認識し、その文字を読み取ることはできなかった。また、パルナードに進入するまでに原告が通行した道路には、パルナードが喫煙禁止地区であると注意を促すような掲示物は一切設置されていない。そして、原告は、交差点を右折してパルナードの南側歩道に足を踏み入れ、せいぜい一〇メートルほど進行したところで推進員から突然声をかけられている。
以上のような状況に照らせば、原告は、本件違反場所が喫煙禁止地区内であることを知らなかったと認められ、かつ、知らなかったことに過失があるとはいえないというべきである。なお、このような掲示物の視認可能性については、本件裁決においても、検証の結果をふまえ、「歩行者が本件路上喫煙禁止地区内を歩行等する場合に、路面標示を容易に認識することは困難である」、「請求人が進入したルートにおいて、本件喫煙禁止地区に入る前に表示物が設置されている状況は確認できなかった」と認定されているところである(甲八)。
よって、原告に過失が認められない以上、過料処分はなし得ないのであるから、本件処分は違法である。
四 争点(3)(本件裁決の取消事由の有無)
処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決取消しの訴えの両方を提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、原処分の違法を理由として取消しを求めることができない(行政事件訴訟法一〇条二項)。そして、裁決固有の瑕疵とは、実体に関する違法ではなく、裁決の主体、手続等の形式に関する違法をいうのであるから、原処分を適法とした実体的判断が違法であることは、裁決固有の瑕疵とはいえない。
原告が主張する本件裁決の違法は、裁決の手続等の違法をいうものではなく、知事の判断内容の違法をいうもので、結局は本件処分を適法とした実体的判断を争うものにすぎないから、裁決固有の瑕疵とはいえない。
よって、本件裁決の違法をいう原告の主張はそれ自体失当である。
第四結論
以上のとおりであるから、被告市に対する原告の請求は理由があるから認容し、被告県に対する原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 倉地康弘 石井奈沙)