横浜地方裁判所 平成25年(行ウ)56号 判決 2015年1月14日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第3当裁判所の判断
1 認定事実
括弧内掲記の争いがない事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件土地1について
平成24年1月1日当時、横須賀市○○町a丁目<以下省略>(本件土地1、本件土地1―B及び本件土地1―Cを合わせた土地)の登記記録上の地目は宅地である(甲1の1)。本件土地1の一部には、建物が建っている(争いがない。乙5、7の1ないし3)
本件土地1―Bは、2項道路であり(乙5、10の2)、市長は、同土地の地目を雑種地、私道として評価(0円)した(甲3、弁論の全趣旨)。
さらに、本件土地1―Cには、同日当時、複数の木が生育しており(乙7の3)、市長は、同土地の地目を雑種地(山林比準)として評価した(甲3、弁論の全趣旨)。
(2) 本件土地2について
本件土地2の登記記録上の地目は山林であり(甲1の2)、また、その一部は、昭和53年3月完成した市の防災トンネルの上に存在するが、トンネル上部から宅盤までの距離は10メートル程度ある(争いがない。乙5、6、乙9の1・2)。そして、本件土地2は従前から宅地として利用されており、昭和55年には、同土地上の建物につき増築の建築確認を受け増築が行われ、現在も建物が存在している(乙5、7の3、乙8)。
また、本件土地2は、東側端に近い部分で約25メートル、北側で約10メートルにわたり2項道路(前者の2項道路は本件土地2―B)に接している(乙10の1・2)。
(3) 本件土地3について
本件土地3の登記記録上の地目は宅地であり、同土地には、少なくとも平成18年1月1日の時点で建物が存在し、その後平成21年1月1日までの間に滅失したが、現在も宅盤は残存している。現在、同土地上に木はほとんど生育していない(乙5、7の1ないし3、乙12の1・2)。本件土地3は、建築基準法上の道路(同法43条参照)に接していない(争いがない。)が、本件土地3の東に隣接する原告所有の土地内(別紙図面「●―1―A」、「●―2」)には幅が約1.5メートルの2項道路が存在し、その道路の先端から本件土地3内に通路が延び、同通路は本件土地3の中で北へ曲がって延びている(乙5、7の1ないし3、乙10の1・2)。
(4) 本件土地4について
本件土地4は、原告の所有する一筆の土地である○○町a丁目<以下省略>の一部であり、市長は、同土地を21箇所に区分して評価し、登録価格の決定をしている(甲1の4、甲2、3)。
本件土地4の登記記録上の地目は山林である(甲1の4)。しかし、本件土地4には、少なくとも平成21年1月1日の時点で建物が存在し、その後平成24年1月1日までの間に滅失したが、現在も宅盤は残存しており、同日の時点でも竹木は生育していない(乙5、乙7の1ないし3)。
本件土地4は、建築基準法上の道路に接していない(争いがない。)が、同土地の南側には、隣接する土地(別紙地図「▲―1―O」)の南側まで延びる2項道路の端から延びる通路があり、その幅は約1.5メートルである(乙5、7の3、乙10の1・2)。
2 「適正な時価」の判断方法
(1) 地方税法341条5号にいう適正な時価とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される。したがって、土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が同期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば、その登録価格の決定は違法となる(最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。
(2) また、地方税法が、市町村長は、評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければならないと定めている(同法403条1項)のは、全国一律の統一的な評価基準による評価によって、各市町村全体の評価の均衡を図り、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消するために、固定資産の価格は評価基準によって決定されることを要するものとする趣旨であると解され(前掲最高裁平成15年6月26日第一小法廷判決参照)、これを受けて全国一律に適用される評価基準として昭和38年自治省告示第158号が定められ、その後数次の改正が行われている。これらの地方税法の規定及びその趣旨等にかんがみれば、固定資産税の課税においてこのような全国一律の統一的な評価基準に従って公平な評価を受ける利益は、適正な時価との多寡の問題とは別にそれ自体が地方税法上保護されるべきものということができる。したがって、土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず、その登録価格の決定は違法となるものというべきである。
(3) そして、地方税法は固定資産税の課税標準に係る適正な時価を算定するための技術的かつ細目的な基準の定めを総務大臣の告示に係る評価基準に委任したものであること等からすると、評価対象の土地に適用される評価基準の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり、かつ、当該土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格がその評価方法に従って決定された価格を上回るものでない場合には、その登録価格は、その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の存しない限り、同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認するのが相当である(最高裁平成15年7月18日第二小法廷判決・裁判集民事210号283頁、最高裁平成21年6月5日第二小法廷判決・裁判集民事231号57頁参照)。
(4) 以上にかんがみると、土地の基準年度に係る賦課期日における登録価格の決定が違法となるのは、当該登録価格が、① 当該土地に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るとき(上記(2)の場合)であるか、あるいは、② これを上回るものではないが、その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく、又はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合(上記(3)の推認が及ばず、又はその推認が覆される場合)であって、同期日における当該土地の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るとき(上記(1)の場合)であるということができる(最高裁平成25年7月12日第二小法廷判決・民集67巻6号1255頁参照)。
そして、被告においては、評価基準の細目を定めた評価要領を作成しているが、第2の2(3)で挙げた評価要領の土地の評価方法は、いずれも評価基準の定めたものに反するものではなく、かつ、合理的なものであると認めることができる。市長はこれら(評価基準等)に基づいて登録価格の決定を行っているのであるから、本件においては、上において「評価基準」とした部分は「評価基準等」として判断を行うべきである。
以上を前提として、以下、各争点について判断する。
3 争点①(本件土地1の登録価格の決定の適否)について
(1)ア 原告は、本件土地1のうち建物の存在する部分以外の部分については、宅地の形状をとどめておらず、また、本件土地1、本件土地1―B及び本件土地1―Cという土地の区分は土地の現況とはかけ離れたものであるから、被告の主張する評価基準等の定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存すると主張する。
イ 前段を検討するに、評価基準等には、宅地の地積の認定につき、建物の存在する部分のみを地積として認定するなどの原告の主張に沿うような定めは存在しない。しかし、評価基準等の定めるとおり、一筆の土地の一部に宅地とはいえない部分がある土地はその部分の地目を宅地以外と認定して区分評価をしたり、当該土地全体を宅地と認定した上で各種の補正を行ったりすることによって適正に評価できるものであり(前記法令等の定め(2)ウ、(3)ア)、原告はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情を主張しているとはいえないから、その主張はそれ自体失当である。
ウ 後段を検討するに、評価基準等によれば、一筆の土地が相当の規模で二以上の全く別の用途に利用されているとき、若しくは周辺等と均衡を逸する場合にはこれらの利用状況に応じて区分し、それぞれに地目を定めることができるとされ、この場合の各地積の認定は、原則として所有者立会のうえ、それぞれの利用地積を認定したところによると規定されているのであるから(前記法令等の定め(2)ウ、(3)ア)、土地の区分が現況とはかけ離れたものであるという原告の主張は、本件土地1、本件土地1―B及び本件土地1―Cという土地の区分が評価基準等に従っていないと主張しているにすぎず、その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情を主張しているとはいえないから、それ自体失当である。
(2) 原告の主張する事実に照らして、本件土地1の登録価格の決定が評価基準等に従ったものであるか否か念のため検討する。
原告は、本件土地1の建物が存在する土地以外の部分は、進入するにも困難な雑木林がほとんどで、宅地の形状をとどめていないとして主張するが、かかる事実を認めるに足りる証拠はなく、むしろ、証拠(乙5、7の3)によれば、本件土地1の多くの部分は建物の敷地となっており、それ以外の部分には宅盤もあり、また、生育している木の数もさほど多くはないことが認められるから、市及び委員会が本件土地1全体として宅地と認定したことが不合理であるとはいえない。
さらに、前記認定事実(1)のとおり、本件土地1―Bは2項道路であることが、また、本件土地1―Cには複数の木が生育しているころから市長は前者を雑種地(私道)、後者を雑種地(山林比準)として、それぞれ評価した。他方、上記のとおり、本件土地1を宅地として認定したことが不合理であるとはいえない(同土地が傾斜の激しい土地であることの証拠はない。)そうであるとすると、市長及び委員会が横須賀市○○町a丁目<以下省略>を本件土地1、本件土地1―B及び本件土地1―Cと区分したことが、その土地の利用状況に応じた区分として不合理であるとはいえない。
他に、評価基準等に照らし、本件土地1の登録価格の決定が誤りであると解すべき事情は認められない。
(3) したがって、本件土地1の登録価格の決定に誤りはなく、これを是認した本件決定1は適法である。
4 争点②(本件土地2の登録価格の決定の適否)について
(1)ア 原告は、本件土地2のうち地積の半分はがけであり、また、市の防災トンネルの真上にあるから、盛土をしても宅盤とすることは安全上の観点から不可能で宅地利用ができないこと、さらに、本件土地2は、建築基準法上の道路に接しておらず、建物を建築することができない土地であるから、被告の主張する評価基準等の定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存すると主張する。
イ しかし、評価基準等によれば、土地の一部にがけ地を含む場合にはがけ地補正を用いて評価することにより、土地の宅地利用ができない場合は地目を宅地以外と認定して評価することにより、土地が建築基準法上の道路に接しておらず建物を建築できない場合は無道路地補正又は再建築が困難な土地の評価の特例を用いて評価することにより、いずれもそのような土地の適正な時価を適切に算定できるといえるから(前記法令等の定め(2)ウ(エ)b、c、(3)エ(ウ))、その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存するとの原告の主張はそれ失当である。
(2) 原告の主張する事実に照らして、本件土地2の登録価格の決定が評価基準等に従ったものであるか否か念のため検討する。
評価基準等によれば、宅地とは、建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地であるところ(前記法令等の定め(3)ア(ア))、前記認定事実(2)によれば、本件土地2は、登記記録上の地目は山林であるが、従前から宅地として利用されており、現在も建物が存在し、その周辺の土地も建物の敷地又は効用を果たすために必要な土地とみて不合理ではない。また、前記認定事実(2)のとおり、本件土地2の一部は市の防災トンネルの上にあるが、トンネル上部から宅盤までの距離は10メートル程度あり、現にトンネルの上部に建物が建っているのであるから(乙5)安全上の観点から本件土地2を宅地として利用することが不可能であるとはいえない。市長及び委員会が本件土地の地目を宅地と認定したことは正当である(なお、本件土地2の一部ががけ地であることが認められるが(前記被告の主張する本件各土地の評価の方法と価格の認定(3)ウ(オ))、本件土地2の地積の半分もがけであることの証拠はない)。
さらに、前記認定事実(2)のとおり、本件土地2は2項道路に2メートル以上接していることが認められるから、建築基準法上の接道条件は満たされており(同法43条1項参照)、この点の原告の主張は理由がない。
他に、評価基準等に照らし、本件土地2の登録価格の決定が誤りであると解すべき事情は認められない。
(3) したがって、本件土地2の登録価格の決定に誤りはなく、これを是認した本件決定2は適法である。
5 争点③(本件土地3の登録価格の決定の適否)について
(1)ア 原告は、本件土地3は、傾斜地に草木が生い茂っているだけの土地であり、宅盤は存在しない雑木林であって、整地工事用の機械を入れることが不可能であること、また、本件土地3は、建築基準法上の道路に接していないため、建物を建築できないことから、被告の主張する評価基準等の定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存すると主張する。
イ しかし、前段の主張についてみると、仮に原告が主張するような土地であっても評価基準等によれば宅地以外の地目として評価するとすれば適切に時価を算定できるため原告の主張はそれ自体失当であるし、また、後段の主張が失当であることは、前記4(1)と同様である。
(2) 原告が主張する事実に照らして、本件土地3の登録価格の決定が評価基準等に従ったものであるか否か念のため検討する。
ア 評価基準等では、「介在雑種地」の一つとは「家屋滅失後、長期間宅地等として利用されないまま放置されていたため、再度宅地として利用するには整地工事等を必要とする土地(但し、土地の立地状況等から宅地利用が見込めない土地については近傍の山林に比準する。)」と定義され、かつ、同地目の評価方法は、附近の宅地の価格を基礎に所要の減価を施しその評価額を算出することとされている(前記法令等の定め(3)ウ(イ))。
前記認定事実(3)のとおり、本件土地3には、少なくとも平成18年1月1日の時点で建物が存在し、その後平成21年1月1日までの間に滅失し、平成24年1月1日の時点で宅盤は残存していることが認められ、また、上記時点でほとんど木は生育していないから、本件土地3の東に隣接する原告所有地内にある2項道路の先端から本件土地3内に延びる通路を利用することで、整地工事用の機械を入れることも可能であると認められる。そうであれば、本件土地3は、家屋滅失後長期間宅地として利用されないまま放置された土地で整地工事等を行うことで再度宅地として利用し得る土地といえるから、市長及び委員会が本件土地3の地目を介在雑種地と評価したことは正当である。
イ 前記認定事実(3)のとおり、本件土地3は、建築基準法上の道路に接していないが、同土地の東側に隣接する原告所有地の土地内には、2項道路が存在し、その道路の先端から本件土地3内まで通路が延びていることからすれば、同土地に建物を建てることに格別の支障はないと認められる。
他に、評価基準等に照らし、本件土地3の登録価格の決定が誤りであると解すべき事情は認められない。
(3) したがって、本件土地2の登録価格の決定に誤りはなく、これを是認した本件決定3は適法である。
6 争点④(本件土地4の登録価格の決定の適否)について
(1) 原告は、本件土地4は、整地工事用の機械を入れることが不可能な土地であること、道路に接していないため建築基準法上宅地として利用できないことから、その地目は、介在雑種地ではなく山林であるとし、本件土地4には、被告の主張する評価基準等の定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存すると主張するが、この主張は、前記5(1)で説示したとおり、失当である。
(2) 原告の主張する事実に照らして、本件土地4の登録価格の決定が評価基準等に従ったものであるか否か念のため検討する。
前記認定事実(4)のとおり、本件土地4の登記記録上の地目は山林であるが、評価基準等によれば、山林とは耕作の方法によらないで竹木の生育する土地であるところ(前記法令の定め(3)ア(ア))、平成24年1月1日の時点で、本件土地4に竹木が生育していない。そして、本件土地4には、少なくとも平成21年1月1日の時点で建物が存在し、その後平成24年1月1日までの間に滅失したが、現在も宅盤は残存している、また、本件土地4の南側に隣接する土地から延びている通路を利用することで、整地工事用の機械を入れることが不可能であるとはいえない。そうであれば、本件土地4は、家屋滅失後長期間にわたって利用されたまま放置されていた土地で、整地工事等を行うことで再度宅地として利用し得る土地といえるから、市長及び委員会が本件土地4の地目を介在雑種地と評価したことは正当である。
また、前記前提事実(4)のとおり、本件土地4は道路に接していないが、本件土地4を包含する一筆の土地である○○町a丁目<以下省略>内には、本件土地4に隣接する土地(別紙地図「▲―1―O」)の南側まで2項道路が通っており、その2項道路から本件土地4の南側まで通路が延びていることからすれば、同土地に建物を建てることに格別の支障はないと認められる。
他に、評価基準等に照らし、本件土地4の登録価格の決定が誤りであると解すべき事情は認められない。
(3) したがって、本件土地4の登録価格の決定に誤りはなく、これを是認した本件決定4は適法である。
第4結論
以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井浩 裁判官 倉地康弘 石井奈沙)