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横浜地方裁判所 平成26年(ワ)1458号 判決 2015年10月15日

原告

同訴訟代理人弁護士

石渡豊正

被告

株式会社Y

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

竹田穣

渡邉純雄

中村收希

主文

1  原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は,原告に対し,平成26年2月20日から本判決確定の日まで,毎月20日限り22万0816円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  主文第1項と同じ

2  被告は,原告に対し,平成26年2月20日から本判決確定の日まで,毎月20日限り22万8253円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告に対し,平成26年6月から本判決確定の日まで,毎年6月10日及び12月25日限り6265円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告のパートタイム社員として勤務していた原告が,被告との間で15年7か月にわたり期間1年又は3か月の雇用契約を約17回更新してきたにもかかわらず,被告が平成25年11月28日に原告の業務遂行能力不足ないし被告の業務上の理由により同年12月31日をもって原告を雇止めにした(以下「本件雇止め」という。)のは,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上不相当であると主張して,被告に対し,雇用契約が更新されたものとして雇用契約上の地位確認を求めるとともに,本件雇止め後の賃金・賞与及びこれらに対する各支払日の翌日から商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。

1  前提事実

当事者間に争いのない事実,証拠<省略>及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は,以下のとおりである。

(1)  当事者

被告は,昭和61年に設立され,テレマーケティング業務の企画・実施,a株式会社(以下「a社」という。)及びその関係会社の委託による電話番号案内の受託業務等を目的とする株式会社である。被告の従業員数は,約1万2700名である。

原告(昭和33年○月生)は,平成10年6月,被告にパートタイム社員として入社し,○○番に架電した顧客に対する電話番号案内業務に従事していた者である。

(2)  雇用契約の内容

原告・被告間の雇用契約の内容は,以下のとおりであった(証拠<省略>)。

ア 勤務場所 bセンター

イ 勤務日 日曜から土曜のうち原則週5日(勤務割表等で通知)

ウ 勤務時間 主に午後10時55分から翌日午前8時まで

(所定労働時間8時間,休憩65分)

エ 主たる業務内容 番号案内業務(○○番に架電した顧客が申し出た個人又は企業について●●及び▲▲に掲載された電話番号を有料で案内するサービス業務)接続業務(上記顧客の希望により電話を切断することなく上記電話番号に接続するDIAL○○サービス業務)(以下,これらの業務を「○○業務」と総称する。)

エ 賃金 時給約900円

月額22万8253円(各種手当を含む平成25年8月から平成26年1月までの各月の平均総支給額)毎月末日締め翌月20日払い

オ 賞与 6265円(平成24年12月,平成25年6月及び同年12月の平均支給額)

毎年6月10日及び12月25日払い

(3)  本件雇止め

ア 被告bセンター所長B(以下「B所長」という。)は,平成25年11月28日,原告に対し,原告の成績不良を理由に,同年12月31日をもって期間満了により雇用契約を終了し,雇用契約の更新はしない旨の雇止め(本件雇止め)を口頭で告げた。

さらに,B所長は,原告に対し,被告がcセンターで行っている○○業務以外の業務を紹介することができる旨伝えたが,原告は,その紹介の提案を拒否し,B所長に対し,雇止め理由書の交付を求めた。

イ 被告は,平成25年11月29日,原告に対し,雇止め通知書(証拠<省略>)及び雇止め理由証明書(証拠<省略>)を交付した。雇止め理由証明書には,更新しない理由として次の記載がある。

「あなたが従事されていた番号案内業務については,○○トラヒックが毎年減少する中,高能率運営を実現すべく『サービスレベル・生産性向上』を図るため,個人技能向上のための個別指導PDCAを行ってきたが,一定の成果をあげられない状況であった。 ついては,本業務を遂行する能力が十分ではないと認められるため,契約期間満了で更新しないこととした。」

ウ B所長は,平成25年12月9日,原告に対し,本件雇止めについて再度説明したが,原告は納得しなかった。

エ 原告は,平成25年12月18日,被告に対し,雇用契約の更新を改めて申し込む旨書面で通知し,就労を受け入れるよう求めたが,被告から,同月27日付けで上記雇止め理由証明書と同内容の回答をされ,同月末日,本件雇止めとなった。

(4)  労働審判手続

原告は,平成26年2月5日,本件雇止めが無効であるとして労働契約上の地位確認等を求める労働審判を申し立てた(当庁平成26年(労)第22号)。労働審判委員会は,同年4月7日の第2回期日において,被告による本件雇止めの撤回,原告の被告都合による退職の確認,被告から原告に対する解決金140万円の支払を主な内容とする審判をした。これに対し,被告が同月15日に異議を申し立て,上記労働審判手続は本件訴訟に移行した。

2  争点及び当事者の主張

本件の争点は,①労働契約法19条の適用の有無,②本件雇止めの有効性,③未払賃金・賞与の額であり,これらの点に関する当事者の主張は,以下のとおりである。

(1)  労働契約法19条の適用の有無(争点①)

(原告の主張)

原告は,15年7か月にわたり期間1年又は3か月の雇用契約を約17回も更新し,被告の恒常的・基幹的業務である○○業務に従事してきた。更新手続は,原告がロッカーに配付されるパートタイマー雇用契約書に署名押印して被告に提出し,面談は行わないという極めて形式的なものであった。上記契約書にある「雇用期間満了1ヵ月前迄に,甲・乙双方から何らの意思表示がないときは,契約期間は1ヵ年間延長する。以後もこの例による。」との自動更新条項や「雇用更新の可能性 <有>」との記載のほか,就業規則の年次有給休暇日数表や,有期雇用社員には不釣り合いなほど詳細かつ複雑な人事評価制度も,長期雇用継続を予定したものというべきである。原告は,採用面接において,当時のbセンター副所長から,定年まで働ける旨の説明を受けたこともある。

したがって,原告・被告間の雇用契約は,実質的には期間の定めのない雇用契約であり,少なくとも原告には更新に対する高度の合理的期待があったと評価し得るものであるから,労働契約法19条が適用され,本件雇止めの有効性については厳格な判断基準が要求される。

(被告の主張)

確かに原告・被告間の雇用契約は長期にわたり更新されてきたが,原告が指摘する自動更新条項は平成15年5月31日までの契約書にしかなく,平成16年4月1日以降の契約書には,更新の判断基準として,契約期間満了時の業務量,勤務成績,態度,能力,被告の経営状況等により被告が判断する旨明記され,被告は,上記判断基準に従って更新を検討し,原告の更新意思を確認した上で更新してきた。

したがって,原告・被告間の雇用契約は,実質的にも期間の定めのある雇用契約であり,原告に更新に対する高度の合理的期待があったとはいえず,労働契約法19条は適用されない。

(2)  本件雇止めの有効性(争点②)

(被告の主張)

bセンターにおけるパートタイム社員の雇止めは被告の業務上の理由によるが,原告を対象者として選定したのは原告の業務遂行能力が不十分であることによる。

本件雇止めは,期間の定めのない雇用契約における解雇と同様に解すべきではないから,整理解雇で求められる4要件の充足は要求されないが,被告は,本件雇止めに当たり,以下のとおり,整理解雇の4要件について十分考慮したから,本件雇止めは有効である。

ア 人員削減の必要性

○○番への架電数(以下「呼数」という。)は,近年のインターネット,中でもスマートフォンの普及により急激な減少傾向が続いており,平成22年4月には534万件であったのが平成26年1月には287万件にまで減少している。

○○業務は,△△番,□□番,◇◇番の接続業務等と共にa社のグループ会社から長年受託してきた業務であり,被告においては,これら情報案内事業を扱う部署として情報案内サービス部門を設置し,年度毎に情報案内事業のみの収支を出して同部門の単位で利益管理を行っているから,人員削減の必要性についても,同部門を経営上の単位として判断すべきであるところ,上記のような呼数の減少により,同部門では平成23年度(4月1日から3月31日までの事業年度。以下同じ。)に1億7000万円,平成24年度に2億4000万円,平成25年度に5000万円の各営業損失が生じており,今後も売上高の減少が予想される。なお,被告は,平成26年7月に株式会社dに対し◎◎番コールセンター業務等の事業譲渡をしたが,被告に残った業務に限ってみると,平成24年度に7億5000万円,平成25年度に9億1000万円,平成26年度の第3四半期決算で8億9000万円の各営業損失が生じている。

上記のような呼数の減少に伴い,○○業務に必要なパートタイム社員の人数も減少するところ,平成25年4月1日時点で被告の予測に基づいて算出した○○業務に必要な人員は約400名であり,被告は約300名の余剰人員を抱えることとなった。

このような被告の情報案内事業の実情からすれば,本件雇止めについて人員削減の必要性は当然認められる。

イ 雇止め回避努力

被告は,他社からコールセンター業務を受託して運営することを主な業務とし,受託業務ごとに有期雇用社員を採用して研修を行い,各業務に従事させているため,有期雇用社員が社員全体の約9割を占める。その有期雇用社員との雇用契約は,従事する業務を限定しており,当該業務以外の受託業務への従事は原則としてないため,被告は,当該業務の規模を縮小する場合には,当該業務で人員を削減することになり,新たな雇用契約の締結を前提として社員に他の業務を紹介することはあっても,雇止め回避策として社員を他の部署に異動させることは予定していない。

そこで,被告は,平成24年4月頃から,○○業務に従事するパートタイム社員に対し,被告の受託する他の業務への転出を勧め,約140名が転出に応じた。また,被告は,特に○○業務の雇止め対象者には他の業務での雇用継続の希望を確認し,雇用継続希望者全員に対し,他の業務の紹介及びグループ会社の求人情報の提供を申し出ており,平成25年12月末日をもってbセンターで○○業務を雇止めとなったパートタイム社員4名(情報案内サービス部門全体では23名)のうち原告以外の3名は,被告の他の業務や他社で採用された。

原告は,被告が他の業務での雇用継続の希望を確認したところ,○○業務以外の業務であれば雇用継続を希望しない旨述べ,他の業務紹介すら拒んだため,新たな雇用契約の締結に至らなかったものである。被告は,雇止め回避努力をしたと評価されるべきである。

ウ 人選の合理性

原告は,平成24年8月から同年12月までの手数時間及び課金率を考慮した技能手当の評価がbセンターにおいて95人中77位であり,課金率の低さに問題があったため,平成25年3月22日から能率向上のための研修を受講した。しかし,原告は,能率が改善されず,平成25年5月1日から同年7月末日までの期及び同年8月1日から同年10月末日までの期の2期連続で下位25%に相当するCランクの評価であったため,同年12月末日における雇止めの候補者となった。そして,2期連続でCランク評価であった雇止め候補者について技能手当の評価に基づく成績を比較したところ,原告は下位から4番目の成績であったため,被告は,原告を平成25年12月末日の雇止め対象者として選定した。

被告においては,手数時間・課金率・所長評価とも一定の基準に従って点数換算しており,しかも手数時間及び課金率については時間帯を分けて平均値を算出し,評価基準値を設定して点数換算しているから,勤務時間帯による不公平は生じない。

エ 手続の相当性

B所長は,上記研修前に原告と個別面談を行い,被告の経営状況が厳しいため,契約期間を1年から3か月に変更したいこと,呼数に見合った人員配置に伴い,技能手当の評価ポイントが平均以下の場合には○○業務の雇用継続が困難となること,研修で成績が上がらなければ原告の雇止めもあり得ることを説明した。被告が原告に対し,評価の具体的な方法や獲得点数についてまで説明する必要はなかった。被告は,e労働組合との間で契約期間の短縮等についても協議を重ねており,本件雇止めの手続は相当である。

(原告の主張)

本件雇止めの理由は原告の業務遂行能力の欠如にあるとされるが,そのようなことはないし,仮に本件雇止めの理由が被告の経営上の理由であるとしても,以下のとおり,整理解雇の4要件を満たさないから,本件雇止めは無効である。

ア 人員削減の必要性がないこと

被告が人員削減の必要性として主張するのは,○○番利用者の減少による○○業務における余剰人員の存在であるが,これは,実質的に期間の定めのない雇用契約を締結している労働者と同視しうるような社員に対する雇止めを正当化し得る切迫した事情ではない。被告は,本件雇止めの前年度である平成24年度は1億8000万円,平成25年度は3億5000万円の各営業利益を上げており,本件雇止め当時,被告の経営は決して厳しい状況にはなかったし,情報案内事業のみの収支を見ても,営業損失は大幅に改善していた。◎◎番コールセンター業務の事業譲渡はグループ会社内の経営戦略の一環であり,譲渡された事業に見合う対価が被告に支払われているはずであるから,被告の経営状況の悪化をもたらすわけではなく,人員削減の必要性を基礎付ける事情ではない。

被告は,現時点でも非正規雇用労働者の採用を活発に行っており,人員削減の必要性がないことは明らかである。

イ 雇止め回避努力がないこと

原告は,被告から本件雇止めを通告されてからcセンターにおける○○業務以外の業務の紹介を受けたが,これは本件雇止めを回避して雇用継続を目指したものではなく,原告が同業務で採用される保証もなかった。原告・被告間の雇用契約書には「雇用期間を更新する場合には,労働条件を変更することがある。」との記載があるから,被告は,原告を○○業務以外の業務に従事させることは契約上可能であったものである。被告は,役員報酬の減額を含む経費削減,正社員を含む新規採用停止,労働時間短縮,賃金減額,希望退職者募集等を行っておらず,雇止め回避努力をしたとは評価できない。

ウ 人選が不合理であること

被告が技能手当の評価の際に把握していた受付呼数は,原告が掲示板に張り出されてメモした受付呼数とは大幅に異なっており,正確かつ公平な成績評価がされていたかは疑わしく,所長評価も,原告について予め周知された基準を用いて行われたのは平成25年10月の1か月のみであり,極めて主観的な評価であった。

また,原告は深夜帯勤務であったところ,関東甲信越ブロック内で24時間運営の業務形態を採用していたのは原告が勤務していたbセンターのみであり,深夜帯の顧客は手数時間が長く,課金率が低い傾向があるため,深夜帯勤務者を他の時間帯の勤務者と同じ条件で評価することは不公平である。現に,被告が作成した高能率化対象者選定表では,6か月を通じた成績につき,深夜帯勤務者の累計合計点がそれ以外の社員の累計合計点を約5点下回っている。

このような評価制度の下で行われた人選は不合理であるといわざるを得ない。

エ 手続が相当でないこと

原告は,平成25年2月23日,B所長との面談において,契約期間の短縮,原告の成績,今後成績が悪い人は研修を受けることになることは告げられたが,契約期間の短縮が雇止めに備えたものであることや,研修を経ても成績が上がらなければ雇止めになる可能性については一切説明を受けていない。本件雇止めを通告された同年11月28日の面談においては,cセンターにおける業務について記載した書面をヒラヒラ振りながら「ここにcセンターの業務もあるんですけどね。」と言われただけで,具体的な人選方法や原告の成績・順位等については説明されていない。原告は本件雇止めの理由を正確に把握する機会を与えられておらず,また,被告が労働組合との間で十分な協議を尽くした形跡もなく,本件雇止めの手続は不相当である。

(3)  未払賃金・賞与の額(争点③)

(原告の主張)

被告は,原告が平成26年1月1日以降も就労する意思を示しているのにこれを認めないから,原告の就労不能は被告の責めに帰すべきものであり,被告は,原告に対し,民法536条2項に基づき,毎月20日限り,平成25年8月支給分から平成26年1月支給分までの賃金の平均総支給額22万8253円を支払う義務,及び,毎年6月10日及び12月25日限り,平成24年12月支給分から平成25年12月支給分までの賞与の平均総支給額6265円を支払う義務を負う。

(被告の主張)

原告が主張する平均賃金額及び平均賞与額は認めるが,各支払義務について争う。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

前記前提事実,証拠(証拠・人証<省略>,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  被告における情報案内事業の状況及び収支

被告は,a社のグループ会社からコールセンター業務を受託し,運営することを主な業務としており,f株式会社(以下「f社」という。)から○○業務のほか,□□番(通話終了後に通話料金・通話時間を通知するサービス),◇◇番(非常緊急通話),△△番・▽▽番(料金着払い通話サービス)の業務を受託している。○○業務は,上記各業務とともにグループ会社から長年受託されてきた。被告においては,これら情報案内事業を情報案内サービス部門が行っている。

○○番への架電数(呼数)は,インターネットの普及により対前年度比で平成23年度は12%,平成24年度は19%減少しており,顧客に対し電話番号を案内して発生する課金に依っている○○業務の受託収入も減少している。被告全体及び情報案内サービス部門における平成23年度から平成25年度までの各収支は,概ね以下のとおりであった。ただし,情報案内サービス部門は独立採算ではない(人証<省略>)。

(被告全体)

平成23年度 売上高 552億3000万円 営業費用 557億2000万円 営業損失 4億8000万円

平成24年度 売上高 547億円 営業費用 545億2000万円 営業利益 1億8000万円

平成25年度 売上高 555億1000万円 営業費用 551億5000万円 営業利益 3億5000万円

(情報案内サービス部門)

平成23年度 売上高 28億4000万円 営業費用 30億1000万円 営業損失 1億7000万円

平成24年度 売上高 22億6000万円 営業費用 25億円 営業損失 2億4000万円

平成25年度 売上高 19億9000万円 営業費用 20億5000万円 営業損失 5000万円

(2)  被告における経営合理化

被告は,平成25年2月,上記収支を改善して経営の黒字化を達成するため,○○業務に従事する個々の社員の業務能率の向上,○○業務の業務量と人員の不均衡の是正,○○業務運営のゼロベースでの見直しを行う方針を決定した。被告は,上記方針に基づき,以下の施策を講じた。

ア 研修の実施

被告においては,社員の各月の手数時間(電話を受けてから電話番号案内又は接続をするまでに要した時間),課金率(受けた電話のうち電話番号案内又は接続により課金が発生したものの割合)及び所長評価を考慮した成績評価を掲示し,これに基づいて技能手当を支給しているところ,被告は,関東甲信越ブロック及び北日本ブロックから成る東日本エリアで○○業務を行う合計13の事業所において,平成24年8月1日から同年12月末日までの技能手当に係る成績が下位4分の1の者及び下位4分の1には含まれないが手数時間又は課金率の評価が低い者の合計35名に対し,面談の上,研修を実施することとした。

イ 事業所の閉鎖

被告は,平成26年9月に予定されている電話番号案内システムの更改に伴い,上記13事業所のうち6事業所を閉鎖し,人件費,物件費及び電話回線料を抑制することとした。

ウ 人員整理

被告においては,有期雇用社員(パートタイム社員,派遣社員を含む。)が社員の約9割を占めており,平成25年4月1日時点で○○業務に従事していたパートタイム社員が727名いたが,○○業務の遂行に必要な人数は400名程度であり,300名程度は余剰人員であると算出した。

そこで,被告は,雇用契約の内容や更新の見直しを容易にするため,平成25年4月1日からは原則としてパートタイム社員との契約期間を従前の1年から3か月に短縮することとした。

そして,被告は,事業所閉鎖までに自主退職等の自然減耗が見込まれた58名及び他部門への配置換え希望者53名の合計111名を除いた約180名に対し,平成25年6月末日から段階的に雇止め及び○○業務以外の業務(以下「他業務」という。)の紹介を行うこととした。被告は,他業務を紹介された社員がその業務での雇用継続を希望する場合,その業務を行う部署への異動は行わず,被告ないしグループ会社の面接を受けて採用された社員が新たな雇用契約を締結することを予定していた。

(ア) 被告は,平成25年6月末日,雇止め対象者として選定した○○業務のパートタイム社員40名に対し,雇止め及び他業務の紹介を行った。このうち,原告が所属していたbセンターの社員は8名であり,雇止めをされて他業務にも就かなかったのは5名であった。

(イ) 被告は,平成25年9月末日にも雇止め及び他業務の紹介を行う予定であったが,役員変更があったe労働組合への説明を事前に行うことができなかったため,見送った。

(ウ) 被告は,平成25年12月末日,雇止め対象者として選定した○○業務のパートタイム社員23名に対し,雇止め及び他業務の紹介を行った。bセンターでは,雇止め対象者4名の選定が割り当てられて雇止めが行われ,このうち雇止めをされて他業務にも就かなかったのは原告のみであった。

(エ) 被告は,平成26年以降,○○業務についてパートタイム社員の雇止めを行っていない。平成27年7月現在,○○業務のパートタイム社員は約350名である(人証<省略>)。

(3)  原告の雇用契約更新状況

ア 原告は,平成10年6月に被告との間で期間1年の雇用契約を締結して被告に入社し,平成25年3月31日までは概ね期間1年の雇用契約を更新してきたが(なお,契約期間中に契約内容を変更して同じ終期の短期契約を締結したことが数回あった。),それ以降,期間3か月の雇用契約に3回更新し,同年12月末日に本件雇止めとなった。更新回数は約17回,勤続年数は15年7か月であった。

イ 平成14年6月1日付けの更新時までは,パートタイマー雇用契約書に「雇用期間満了1ヵ月前迄に,甲・乙双方から何らの意思表示がないときは,契約期間は1ヵ年間延長する。以後もこの例による。」との自動更新条項があった。また,平成16年4月1日付けの更新から最後の更新までは,パートタイマー雇用契約書に「雇用更新の可能性 <有>」との記載がされ,更新の判断基準として契約期間満了時の業務量,原告の勤務成績,態度,能力,被告の経営状況等が挙げられている。

ウ 更新手続は,平成20年頃以降,ロッカーに配付されたパートタイマー雇用契約書に原告が署名押印し,これを被告に提出するという態様で行われ,面談は行われなかった。パートタイマー雇用契約書の配付は,契約期間終了後にされることが数回あった。

エ 原告は,平成21年4月,正確案内者賞で表彰され,同年11月には,長年の功労につき感謝状を授与され,平成24年6月にも,正確案内者賞で表彰された(証拠<省略>)。

(4)  原告が雇止め対象者に選定された経過

ア 平成25年2月23日の面談

B所長は,平成25年2月中に有期雇用社員との個別面談を行うこととし,同月23日,原告との個別面談を行い,原告に対し,呼数の減少により被告の経営状況が思わしくなく,収支改善のため雇用契約の内容及び更新の見直しを容易にするため,同年4月1日から契約期間を1年から3か月に短縮すること,原告の平成24年8月1日から同年12月末日までの成績がbセンターで95人中57位であり,以後成績が悪ければ研修を受講する必要があることを告げた。これに対し,原告は,深夜帯は日中よりいたずら電話が多いといった事情を勘案してほしい旨要望した。

その後,被告は,一部の社員からの質問を受け,契約期間の短縮が雇止めを目的とするものではないことなどを回答する内容の書面(証拠<省略>)を掲示した。

イ 研修受講

被告は,課金率に限ってみれば原告の評価がbセンターで95人中77位と低かったため,原告に対し,平成25年3月22日から同年5月18日まで,主に課金率向上のため,研修担当契約社員との1対1のロールプレイ形式による案内スキル強化や検索スキル向上等を内容とする研修を受講させた。

ウ 原告の成績評価

(ア) 被告は,情報案内サービス部門の雇止め対象者を選定するに当たっては,技能手当に係る成績評価に用いるため各月の手数時間・課金率・所長評価をそれぞれ点数換算して合計した点数(以下「合計点」という。)の3か月平均に基づいて社員を順位付けし,上位50%の者をAランク,下位25%の者をCランク,その中間の者をBランクと評価し,Cランク評価の者を雇止め対象者とすることとして,平成25年12月末日の雇止め対象者には,同年5月1日から同年7月末日まで及び同年8月1日から同年10月末日までの各3か月について2期連続でCランク評価の者を選定することとした。

(イ) 技能手当に係る成績評価において考慮される手数時間・課金率・所長評価は,それぞれ次のように点数換算される。

まず,手数時間及び課金率は,7つの時間帯(午前8時から午後11時までの各3時間,午後11時から午前零時までの1時間,午前零時から午前8時までの8時間)別に各月の平均値を基に評価基準値を設定し,これに対応した点数(0点,8点及び8点に3点ずつ加点して35点に至るまでの各点数。証拠<省略>)に,当該社員の当該月の受付総呼数に対する上記各時間帯別の受付呼数比率であると被告が説明する数値を乗じて,点数換算される。

次に,所長評価は,一定の基準に従い毎月社員に0.1点刻みでポイントを付与し,その合計が上位30%のA評価の者は30点,A評価の者を除いた上位40%のB評価の者は19点,A評価の者及びB評価の者を除いた上位20%のC評価の者は13点,残り10%のD評価の者は0点と換算される。ポイント付与の基準は,従前周知されていなかったが,平成25年9月24日,基準が同年10月1日から変更される旨の通知と同時に周知された(証拠<省略>)。

(ウ) 原告について,上記(イ)のとおり点数換算された平成25年5月から同年10月までの各月の手数時間・課金率・所長評価の各点数及び合計点は,以下のとおりであった。

手数時間 課金率 所長評価 合計点

平成25年5月 2 2 19(B) 23

6月 11 16 19(B) 46

7月 3 16 13(C) 32

8月 11 14 19(B) 44

9月 5 8 13(C) 26

10月 3 7 13(C) 23

なお,原告は,上記成績評価に基づいて,平成25年8月及び同年10月に技能手当各2500円を支給された(証拠<省略>)。

(エ) 被告は,平成25年11月29日,bセンターの社員の同年5月から同年7月まで及び同年8月から同年10月までの各期の成績並びに上記2期を通じた成績を一覧表にして高能率化対象者選定表(証拠<省略>)を作成し,これによれば,原告の成績が上記2期連続でCランク評価であり,2期を通じた成績が下から4番目であったため,原告を同年12月末日の雇止め対象者に選定した。

被告は,bセンターの社員の各期(3か月)の成績及び2期(6か月)を通じた成績を求める際,上記(イ)のとおり点数換算した各月の手数時間及び課金率に,当該社員の3か月間ないし6か月間の受付総呼数に対する各月の受付呼数比率であると被告が説明する数値をそれぞれ乗じて算出される各点数と,上記(イ)のとおり点数換算した所長評価の平均点とを合計した点数(以下「累計合計点」という。)に基づいて社員を順位付けした(証拠<省略>)。

上記高能率化対象者選定表によれば,bセンターにおいては,原告を含む深夜帯勤務者の累計合計点(約55.5点)が,それ以外の社員の累計合計点(約60.3点)を約4.8点下回っている。

(5)  本件雇止め

原告は,研修受講開始後である平成25年3月末日,同年6月末日及び同年9月末日に雇用契約を更新した際,被告との面談はしておらず,被告から同年12月末日の雇止め対象者の選定方法を知らされることはなかった。

B所長は,平成25年11月28日,原告に対し,成績不良を理由に同年12月末日付け本件雇止めを告げ,雇止め通知書を交付しようとしたところ受領を拒まれた。B所長は,引き続き原告に対し,所長を兼任しているcセンターにおける他業務を紹介できる旨伝え,その業務内容等が記載された紙が手元にあることを示したが,原告から紹介することを断られた。原告は,B所長に対し,雇止め理由証明書の交付を求めたほか,雇止めになる社員の人数を尋ねたが,回答できない旨返答された。

原告は,翌日,被告から,雇止め通知書及び雇止め理由証明書の交付を受けた。

B所長は,同年12月9日,原告に対し,本件雇止めについて再度説明したが,納得は得られなかった。

原告は,同月18日,被告に対し,書面で雇用契約の更新を求めたが,被告から,上記雇止め理由証明書と同内容の回答をされ,同月末日,本件雇止めとなった。

(6)  被告のその後の経営体制

f社は,平成26年1月30日,平成27年7月31日をもって□□番,◇◇番,△△番,▽▽番,DIAL○○の各サービス提供を終了する旨発表した(証拠<省略>)。これに伴い,被告の情報案内サービス部門においても,f社から受託していた上記各サービスの業務は終了し,同年8月1日からは○○業務のうち接続業務を除いた番号案内業務のみを扱うことになった。

また,被告は,平成26年7月1日,◎◎番のコールセンター業務等に係る事業を株式会社dに移した。これは,複数のグループ会社が行っていた同事業を一会社に集約し,経営の効率化を図るため戦略的に行われたものであり,被告における同事業は営業利益を上げていたものの事業の移転による対価はなかった。

2  争点①(労働契約法19条の適用の有無)について

原告は,原告・被告間の雇用契約は,実質的には期間の定めのない雇用契約であるから労働契約法19条1号に該当し,そうでなくとも原告には更新に対する高度の合理的期待があったと評価し得るから同条2号には該当する旨主張する。

上記1(1)及び(2)のとおり,被告は,a社のグループ会社からコールセンター業務を受託して運営することを主な業務としているところ,原告が従事していた○○業務は,受託業務の中でも長く受託されてきた業務であり,規模が縮小しているとはいえ,同様に長く受託してきた他の業務が終了したり,一部の業務は他社に移行したりする中で,一定の人員が確保され,なお継続しているもので,被告の恒常的・基幹的業務であると認められる。

また,被告では,有期雇用社員が社員全体の約9割を占めていること,上記第2の1(2)のとおり,原告の勤務日は原則週5日であり,勤務時間は主に午後10時55分から翌日午前8時までと深夜帯であるものの,所定労働時間は8時間であることからすれば,原告は,賃金が低くパートタイム社員と扱われているが,一般の常用労働者とほぼ変わらない勤務条件で勤務していたものと認められる。

さらに,原告の雇用契約更新状況をみると,上記1(3)のとおり,約17回の更新を経て勤続年数が15年7か月に及んでおり,更新手続は,契約期間終了前後にロッカーに配付されるパートタイマー雇用契約書に署名押印し,これを提出するというごく形式的なものであり,形骸化していたといわざるを得ない。この点,B所長は,更改の際に面談等をしていたと証言するが,その内容は具体性を欠いており,信用できない。

以上に鑑みれば,本件雇止めは,期間の定めのない雇用契約における解雇と社会通念上同視できると認めるのが相当である。したがって,原告・被告間の雇用契約は労働契約法19条1号に該当すると認め,本件雇止めについては,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないか否かを判断する。

3  争点②(本件雇止めの有効性)について

(1)  被告は,本件雇止めが被告の業務上の理由によるものであると主張しており,実質的な整理解雇があったと認められる。そこで,以下,本件雇止めについて客観的合理的理由及び社会通念上の相当性を判断するに当たっては,実質的な整理解雇として,いわゆる4要素とされる人員削減の必要性,雇止め回避努力,人選の合理性,手続の相当性を順次検討した上で,その結果を総合的に考慮することとする。なお,雇止め理由証明書の記載からは原告の業務遂行能力が不十分であることを理由とする普通解雇があったとも読めるが,上記記載は,被告が主張するように原告を雇止め対象者に選定した根拠を示したものと位置付けることとする。

(2)  人員削減の必要性

被告は,呼数の減少により,情報案内事業を扱う情報案内サービス部門では多額の営業損失が生じ,今後も売上高の減少が予想される状況にあり,平成25年4月1日時点で,○○業務に従事していた社員700名余りのうち必要人員400名を除く300名程度の余剰人員を削減する必要があった旨主張する。

しかしながら,上記1(1)のとおり,情報案内サービス部門は独立採算制ではないと認められるところ,被告全体では,平成23年度には4億8000万円の営業損失があったにもかかわらず,平成24年度には1億8000万円,平成25年度には3億5000万円の各営業利益が上がったことが認められる。しかも,情報案内サービス部門に限ってみても,平成23年度には1億7000万円,平成24年度には2億4000万円の各営業損失があったものの,平成25年度には営業費用の削減により営業損失が5000万円にまで減少しており,本件雇止めがあった平成25年末には情報案内事業の業績は回復しつつあったと認められる。

また,被告は,平成25年4月時点で余剰人員300名程度を見込んでいたというが,同年6月末日の雇止めまでには,平成26年9月の事業所閉鎖までに見込まれる自然減耗及び他部門への配置換え希望者合計111人を除けば,余剰人員は約180名であると見込んでいたこと,平成25年6月末日に40名が雇止めされたことにより,平成26年9月に見込まれる余剰人員はさらに約140名にまで減ったこと,平成26年以降は雇止めがされていないにもかかわらず,同年7月現在,○○業務に従事するパートタイム社員は約350名にとどまっており,当初想定していた必要人員を約50名も下回っていることが認められる。

以上に加えて,被告が,平成25年9月末日に予定していた雇止めをe労働組合の役員変更という理由で見送ったこと,平成26年7月には,分散していた事業の集約を図るためとはいえ,利益を上げている◎◎番のコールセンター業務等に係る事業をグループ会社に対価なく移していることをも考え併せれば,被告における人員削減は,事業による損失に対処し経営状態を立て直すために経営の合理化を図るにとどまらず,経営上の積極的な戦略としてグループ会社を含めた組織の再編成を行うためになされたものと認められるから,人員削減の必要性は存在するものの,本件雇止めをなす客観的に合理的な理由あるいは社会通念上の相当性の要件充足性の程度は弱いものというべきである。

(3)  雇止め回避努力

被告は,受託業務毎に採用している有期雇用社員が従事する業務は契約上限定されており,他の受託業務への従事は予定されていないため,雇止め回避策として社員を他業務の担当部署へ異動させることはないが,他業務への転出を勧めており,特に○○業務の雇止め対象者には雇用継続の希望を確認し,希望者全員に他業務の紹介及びグループ会社の求人情報の提供をしていたもので,雇止め回避努力はした旨主張する。

しかし,被告のいう他業務への転出の勧めは,上記1(2)ウ及び(5)によれば,他業務の内容等を掲示して紹介するというものにとどまり,他業務を希望する社員は改めて他業務の担当部署で採用面接を受けなければならず,適性がなければ採用されないのであるから,雇止め回避策としては不十分であるといわざるを得ない。また,被告が雇止め対象者に対し雇用継続の希望を確認して他業務の紹介等をしたのは,雇止めの通告後であると認められ,通告前に個別に雇用継続の希望を確認したり,希望する業務を聴取したりしたことは認められないから,被告の上記措置は雇止め回避策ではなく,雇止めを前提とした不利益緩和策にすぎない。

上記(2)のとおり,本件雇止めについては,人員削減の必要性は存在するものの,客観的に合理的な理由あるいは社会通念上の相当性の要件充足性の程度は弱いものであるから,相応の手厚い雇止め回避措置を講じることが期待されるところ,被告は,被告の他業務担当部署への異動を予定していないとしても,雇止め後に引き続き円滑に他業務に従事できるよう雇止め通告前から調整を図るなど,より真摯かつ合理的な努力をする余地があったというべきであるから,人員削減の必要性の点における上記要件充足性の程度の弱さを補完するに足りる程度に手厚い雇止め回避努力がされたとは認められない。

(4)  人選の合理性

被告は,平成24年8月から同年12月までの原告の課金率がbセンターで95人中77位と低く,研修後も改善が見られず,原告は平成25年5月から同年10月までの前半3か月と後半3か月の評価がいずれもCランクであり,6か月を通じた成績が下位から4番目であったから雇止め候補者に選定されたもので,人選は合理的である旨主張する。

しかしながら,被告による成績評価の基準は,以下のとおり,その客観性や合理性に疑問がある。

ア 受付呼数

原告の指摘によれば,被告が,手数時間及び課金率の点数換算の際や3か月間ないし6か月間の成績を求める際に比率を考慮した原告の受付呼数は,原告が掲示により把握していた自己の受付呼数(証拠<省略>)と合致していない。

この点,被告は,掲示していた受付呼数は各月の土日祝日分を含めた受付総呼数であるのに対し,被告が比率を考慮した受付呼数は企業からの問い合わせがない土日祝日の分を除いた平日の受付呼数であると説明する。しかしながら,前者と後者の差は土日祝日の受付呼数分にしては相対的に数が多い上,前者と後者は増減が連動していない。また,B所長は,平日の受付呼数は技能手当に直結するためプライバシーに配慮して掲示しなかった旨証言するが,土日祝日分を含めた受付呼数の取扱いと異なる理由が合理的とはいえず,不自然さを否めない。成績評価の基準についての被告の説明が原告の指摘を受ける度に複雑さを増してきた訴訟経過にも鑑みれば,原告が受付呼数の正確性に疑問を抱くのも無理がない。

イ 所長評価

上記1(4)ウのとおり,所長評価の基準は,平成25年10月1日からの変更を機に同年9月24日に公表されるまでは社員に示されてこなかったものであるところ,被告が説明する基準は変更前後を通じて複雑であり,被告が原告についてどのように基準を適用したのかを具体的に説明しないため,基準の客観性,合理性は検証が困難である。

ウ 深夜帯勤務者への配慮

被告は,手数時間及び課金率については時間帯別に平均値を算出し評価基準値を設定して点数換算しているから,勤務時間帯による不公平は生じない旨主張する。

しかし,前記認定事実によれば,7つに分けられた時間帯のうち5つは3時間であるのに,午後11時から午前零時まで及び午前零時から午前8時までの各時間帯はそれぞれ1時間及び8時間と,一律でない。このような差を設けている理由について被告は特段の説明をしていないが,各時間帯の受付呼数比率によっては各時間帯の長短で公平性が損なわれる可能性も否定できない。

被告が作成した高能率化対象者選定表では,2期を通じた成績に関し,深夜帯勤務者の累計合計点がそれ以外の社員の累計合計点を約4.8点下回っているところ,B所長は,深夜帯勤務者とそれ以外の社員との成績の差を調査したことはないと証言しており,上記のとおり約4.8点下回っている要因について必要な検証がなされたとはいい難く,上記のような時間帯の分け方や評価基準値の設定について適正さが十分確保されているとはいえない。

エ 以上のとおり,被告が依拠した成績評価の基準に以上のような問題点がある上,成績評価期間が雇止め対象者の選定開始後の短期間に限られていること,勤務態度や勤続年数といった他の要素が一切考慮されていないことも併せ考えると,人選の合理性は乏しいといわざるを得ない。

(5)  手続の相当性

上記1(4)アのとおり,B所長は,平成25年2月23日の面談において,原告に対し,原告の成績がbセンターで95人中57位であり,成績が悪ければ研修を受講する必要がある旨述べたと認められるものの,雇止めの可能性に言及したことは認められず,その後の同年3月末,同年6月末,同年9月末の契約更新の際にも,被告から原告に対し,原告が雇止めの対象とされる可能性を説明したことは認められない。原告が同年12月末日の雇止め対象者に選定されたのは同年11月以降であり,原告は,同月28日のB所長との個別面談で本件雇止めを通告されて初めて,自己が雇止め対象者に選ばれたことを知ったものであるが,B所長が本件雇止めの理由を丁寧に説明し,原告の理解を得るため真摯に努力したとは認められない。

被告は,雇用契約の内容や更新の見直しを柔軟に行うために契約期間を短縮したのであるから,雇止めを通告する前に雇用継続の希望を確認して希望者には雇用継続の方向で協力するのが相当というべきであるが,事前にこのような姿勢を示さず,結果的に1年の契約更新をするよりも短期間で契約を終了させたことは,手続的に相当であったとは認められない。

(6)  以上検討したところを総合的に判断すれば,本件雇止めは,人員削減の必要性の点において客観的に合理的な理由あるいは社会通念上の相当性の要件充足性の程度が弱く,これを補完するに足りる程度の手厚い雇止め回避努力がされたとはいえず,人選の合理性,手続の相当性も不十分であったと認められるから,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められない。したがって,本件雇止めは認められず,原告と被告は従前と同一の条件で雇用契約を更新したものとみなすことができ,原告は,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあるというべきである。

4  争点③(未払賃金・賞与の額)について

原告が平成25年8月支給分から平成26年1月支給分までの賃金の平均総支給額が22万8253円,平成24年12月支給分から平成25年12月支給分までの賞与の平均総支給額が6265円であることについては,当事者間に争いがない。

しかし,証拠<省略>によれば,賃金の総支給額には,各月の勤務成績によっては支給されない技能手当のほか,時間外手当,通勤費,年末年始手当が含まれていることが認められるが,これらは原告が現実に就労した場合に発生するものであるから,被告に支払義務は認められない。他方,原告が深夜帯勤務者であり,勤務日には日曜日も含まれていたこと,毎月定額の精勤手当が支給されていたことから,原告が雇止めされなければ確実に支給されていたであろうと認められる時間帯割増手当,休日等割増手当及び精勤手当については,被告に支払義務を認めるのが相当である。

これを前提に上記期間の平均基礎賃金額を算出すると,22万0816円(=(23万1480円+23万7319円+21万2110円+22万0291円+22万2298円+20万1398円)÷6)となる。

したがって,被告は,原告に対し,賃金として,毎月20日限り,22万0816円を支払う義務を負う。

しかしながら,賞与については,平成20年6月以降はパートタイマー雇用契約書上支給される旨の定めがあるものの,業績によっては支給されない場合がある旨も定められており(証拠<省略>),証拠<省略>によって認められる平成24年12月以降の3回の支給の実績のみから,原告がその後も賞与を受給する具体的な権利が発生するとまでは認められず,他に,賞与を受給する具体的な権利が発生したことを認めるに足りる証拠もないから,被告は,原告に対し,賞与を支払う義務を負わない。

第4結論

以上より,原告の請求は,雇用契約上の地位の確認並びに本件雇止め後本判決確定までの上記第3の4の限度での賃金及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中寿生 裁判官 堀内有子 裁判官 岡田毅)

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