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横浜地方裁判所 平成26年(行ウ)38号 判決 2015年8月26日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

処分行政庁が平成25年12月1日付けで原告に対してした事業所「a」に係る指定地域密着型サービス事業者及び指定地域密着型介護予防サービス事業者並びに事業所「b」に係る指定居宅サービス事業者及び指定介護予防サービス事業者の各指定の取消処分を取り消す。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(第1指定取消処分の適法性)について

(1)  原告が無効な定款を提出して第1指定を受けたか否かについて

ア 特定非営利活動法人の定款の変更は、社員総会の議決を経て、所轄庁の認証を受けなければならないところ(特定非営利活動促進法25条1項、3項)、原告は、本件定款変更に係る認証の申請に当たり、定款変更を議決したとした平成23年9月14日の臨時社員総会を開催していなかったというのであるから(前提事実(2))、本件定款変更は無効というべきである。

イ これに対して、原告は、原告における運営会議は社員総会に相当するものであるところ、平成23年9月8日に開催された本件運営会議の時点で社員全員が本件定款変更に賛成していたのであるから、本件運営会議において行われた本件定款変更の決議は、その招集手続に瑕疵があったにすぎず有効であって、本件定款変更も有効であると主張する。

しかし、定款変更は、法人の基本的な規則を変更する重要な決定であるから、その構成員である社員によって構成される機関であり、所定の招集手続(特定非営利活動促進法14条の4)により招集される社員総会において、いわゆる特別多数決による議決を経ることが求められているところ(同法25条1項、2項)、証拠(甲6、乙5ないし7、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本件運営会議は、社員総会として開催されたものではなく、社員総会の開催に必要な招集手続も行われていないこと、原告の当時の社員が正確に何名であったかは証拠上定かではないものの、本件運営会議に出席したのは、原告の当時の社員全員ではなく、社員の一部にすぎなかったことが認められる。そうすると、本件運営会議において本件定款変更についてどのような決議がされたとしても、それをもって、定款変更に要求される社員総会の議決があったものと認める余地はないというべきである。原告の上記主張は、採用することができない。

ウ したがって、本件定款変更は、社員総会の議決を経ていない無効なものであるから、その定款を処分行政庁に提出して第1指定を受けた原告は、不正の手段により指定地域密着型サービス事業者の指定を受けたとき(法78条の10第11号)及び不正の手段により指定地域密着型介護予防サービス事業者の指定を受けたとき(法115条の19第10号)として、指定の取消事由に該当する。

(2)  人員基準違反の有無について

ア 前記前提事実(3)アのとおり、小規模多機能型居宅介護及び介護予防小規模多機能型居宅介護のサービスを提供する事業所には、常勤(当該事業所における勤務時間が、当該事業所において定められている常勤の従業者が勤務すべき時間数に達していること)の管理者を配置する必要があり、a事業所において常勤の従業者が勤務すべき時間数は週40時間(月に換算すると177時間)であったところ、原告はa事業所の常勤の管理者としてAを置いていた。

ところが、原告が被告に提出したシフト表(乙12)によれば、管理者であったAのa事業所における勤務時間は、当該事業所が開所した平成24年12月から平成25年8月までの間、最も多い月でも月129時間(同年1月)、最も少ない月では月38時間(同年8月)にすぎなかったことが認められる。

イ 原告は、Aは週40時間程度勤務しており、常勤専従の要件を満たしていた旨主張し、Aが作成した勤務表(出勤管理票。甲19の1ないし9)には、Aが平成24年12月から平成25年8月までの間、概ね、休日以外は、午前9時から午後6時まで勤務していた旨の記載がある。

しかし、上記勤務表の勤務時間に関する記載は、管理者としてのAには昼夜を問わず仕事が入り、Aが勤務時間の枠を超えて利用者対応をしていたという原告の主張と整合しない。加えて、上記勤務表の記載は、原告が被告に提出したシフト表(乙12)の記載と矛盾しているのみならず、Aが午前9時から午後5時までというような形で勤務することができなかったため、平成25年1月からA以外の常勤専従の者を配置する予定であったとする原告代表者の本人尋問における供述とも矛盾するものであるから、実際のAの勤務時間を反映しているものとは認められない。

ウ そうすると、証拠(乙11ないし13、17の3、原告代表者)によれば、平成24年12月から平成25年8月までの間、a事業所におけるAの勤務時間は、継続的に、週40時間に達しておらず、常勤の管理者としての基準を満たしていなかったと認められるから、人員基準違反(法78条の10第4号及び同法115条の19第4号)として、指定の取消事由に該当する。

(3)  介護報酬の不正請求の有無について

後掲の証拠によれば、原告代表者は、定款を変更するためには社員総会の議決が必要であることを認識していたにもかかわらず、社員総会を招集せずに本件定款変更の認証申請を行ったこと(乙1、10、原告代表者)、原告代表者は、第1指定の申請時に、Aが常勤の要件を満たせないことを知りながら、同人を常勤の管理者として当該申請をしたこと(乙13)が認められる。(原告は、乙13の記載は事実でないと主張するが、当該記載の信用性を疑うべき事情を証拠上窺うことはできない。)

したがって、原告代表者は、上記(1)及び(2)のことを知りながら介護報酬を請求し受領していたと認められ、地域密着型介護サービス費及び地域密着型介護予防サービス費の請求に関し不正があったとき(法78条の10第8号及び115条の19第7号)として、指定の取消事由に該当する。

(4)  以上によれば、第1指定取消処分は、適法である。

2  争点(2)(第2指定取消処分の適法性)について

(1)  原告が無効な定款を提出して第2指定を受けたか否かについて

本件定款変更が社員総会の議決を経ていない無効なものであることは、上記1(1)で既に説示したとおりである。

したがって、その無効な定款を処分行政庁に提出して第2指定を受けた原告は、不正の手段により指定居宅サービス事業者の指定を受けたとき(法77条1項9号)及び不正の手段により指定介護予防サービス事業者の指定を受けたとき(法115条の9第1項8号)として、指定の取消事由に該当する。

(2)  人員基準違反の有無及び比例原則違反の有無について

ア 前提事実(3)イのとおり、福祉用具貸与及び特定福祉用具販売並びに介護予防福祉用具貸与及び特定介護予防福祉用具販売のサービスを提供する事業所を開設するためには、福祉用具専門相談員の員数が、常勤換算の方法で2.0以上必要である。

ところが、前提事実(3)イに、証拠(甲22、乙15、原告代表者)及び弁論の全趣旨を併せれば、原告は、第2指定の申請に当たり、b事業所の福祉用具専門相談員として、B、C、D及びEを選任し、勤務時間について、Bは1日8時間(週40時間)、C、D及びEはそれぞれ1日3時間(週各15時間)と定めて、常勤換算の方法に従い、福祉用具専門相談員の員数を、全員の週勤務時間を40(常勤の従業者が勤務すべき時間数)で除した2.1として第2指定の申請をしたこと、しかし、b事業所が開設された平成25年6月以降同年9月まで、B以外のC、D及びEは、b事業所で勤務したことがなかったことが認められるから、人員基準(常勤換算の方法で2.0以上)に違反していたことは明らかである。

したがって、人員基準違反(法77条1項3号及び115条の9第1項2号)として、指定の取消事由に該当する。

イ 法77条1項及び115条の9第1項は、都道府県知事は、所定の事由に該当する場合には、指定居宅サービス事業者又は指定介護予防サービス事業者の指定を取り消し、又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力を停止することができる旨定めているところ、所定の事由が認められる場合、上記各項に規定するいかなる処分を行うかは行政庁の合理的な裁量に委ねられているというべきであり、その判断に裁量権の逸脱又は濫用があったと認められる場合に限り、当該処分が違法とされることとなると解される。

上記アの人員基準違反は、福祉用具専門相談員の員数という、福祉用具貸与及び特定福祉用具販売並びに介護予防福祉用具貸与及び特定介護予防福祉用具販売の各事業を行う者としての基本的かつ重要な基準に違反するもので、b事業所の利用者が少なかったとしても、b事業所における事業の開始当初から、福祉用具専門相談員とした4名のうち3名はb事業所に勤務しておらず、継続して人員基準を満たしていなかったことに照らすと、その基準違反の程度が小さいものということはできない。そうすると、原告が常勤の福祉用具専門相談員を新たに置くことを決めて人員基準違反の是正を図ろうとしていたという事情があったとしても、処分行政庁が、人員基準違反(法77条1項3号及び115条の9第1項2号)をも理由として本件第2指定取消処分をしたことが、裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものと認めることはできない。

(なお、第2指定取消処分は、上記(1)のとおり、不正の手段により指定居宅サービス事業者等の指定を受けたとして、法77条1項9号及び115条の9第1項8号に該当することも理由としてされたものであるから、この点を考慮すれば、なおさら、第2指定取消処分が重きに失し、処分行政庁が裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したと認める余地はないことになる。)

(3)  以上によれば、第2指定取消処分は適法である。

第4結論

よって、原告の請求にはいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井浩 裁判官 德岡治 石井奈沙)

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