横浜地方裁判所 平成26年(行ウ)66号 判決 2015年9月16日
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1 処分行政庁が、河川法75条1項に基づき、平成26年8月8日付けで各原告に対してした各船舶撤去命令を取り消す。
2 処分行政庁が、行政代執行法3条1項に基づき、平成26年8月27日付けで原告X1、原告X2及び原告X3に対してした各戒告を取り消す。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(各原告がした本件各船舶の係留は法24条の許可を要する河川区域内の土地の「占用」に当たるか)について
(1)ア 法は、河川について、洪水、津波、高潮等による災害の発生が防止され、河川が適正に利用され、流水の正常な機能が維持され、及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより、公共の福祉を増進すること等を目的とし(1条)、河川の管理は当該目的が達成されるように適正に行われなければならないとしている(2条1項)。
そして、河川区域内の土地は、堤防、護岸等の河川管理施設(法3条2項)と相まって、雨水等の流路を形成し、洪水を疏通させ、洪水による被害を除却し又は軽減させるためのものであり、かつ、公共用物(法2条1項)として一般公衆の自由な使用に供されるべきものであるから、法24条は、これらを阻害するおそれのある河川区域内の土地の「占用」、すなわち、特定人が排他的、継続的に使用することを一般的に禁止し、河川管理者の許可に係らしめているのである。
そうすると、船舶を係留して河川区域内の土地(その上部の水面を含む。)を船舶の保管場所として使用する行為は、公共用物としての一般公衆の自由な使用とは異なって、河川区域内の土地を排他的、継続的に使用する行為にほかならないから、法24条による許可を要する「占用」に当たると解すべきである。
イ 前提事実(2)のとおり、原告らは、a川において、相当期間にわたり本件各船舶をガードレール等に固定するという方法によって係留していたところ、かかる原告らの本件各船舶の係留は、河川区域内の土地を排他的、継続的に使用する行為に当たり、法24条による許可を要する「占用」に該当するものというべきである。
(2)ア これに対し、原告らは、河川管理や第三者の利用を現実的に妨げるおそれが客観的に存在しない範囲での船舶の係留は、占用許可を受けるまでもなく容認されており、本件各船舶の係留は、着脱の困難な工作物の設置を伴うものでもなく、係留場所を適宜変更させることも容易であって、河川管理や第三者の利用の現実的な妨げにはならないから、法24条の許可を受けるべき「占用」に当たらない旨主張する。
イ しかし、証拠(乙1ないし3、12ないし14)によれば、①河川区域内において法24条の許可を得ないで適切な係留施設によらずに係留された船舶は、一般的に、洪水の流下の阻害、船舶が流出した場合の河川管理施設等の損傷、河川工事の実施の支障等の治水上の支障のほか、一般公衆の自由使用の妨げ、騒音の発生、景観の阻害等の様々な河川管理上の支障を引き起こす可能性があり、現に引き起こしていること、②神奈川県内でも、平成23年3月の東日本大震災の際には、a川を津波が遡上し、法24条の許可を得ず係留されていた船舶に浮遊物が直撃したり、平成26年10月には、藤沢市の境川に係留されていた多数のプレジャーボート等が台風の影響で係留索が切れるなどして流出したりする事態が生じたこと、③東日本大震災の際には宮城県石巻市の旧北上川にあった放置船などが津波で市街地に流出して被害を拡大した事実があり、津波の際の放置船による背後住居等への二次被害が全国的にも懸念されていることが認められる。
これらの問題は、本件各船舶のように、着脱の困難な工作物の設置を伴わず係留場所を適宜変更させることも容易な態様で河川区域内に係留していても生じ得る河川管理上の具体的な支障であるから、本件各船舶の係留が、河川管理や第三者の利用の現実的な妨げにならないということはできず、原告の上記主張は、その前提を欠き採用することができない。
(3) 以上によれば、各原告がした本件各船舶の係留は、法24条の許可を要する河川区域内の土地の「占用」に当たるというべきである。
2 争点(2)(本件各撤去命令は河川管理者の監督権(法75条1項)を逸脱又は濫用したものか)について
(1) 法75条1項1号に該当する者の存在が認められる場合に、河川管理者が、同項に基づきいかなる監督処分を行うかは、処分の原因、対象、河川管理上の支障の程度、態様等を総合的に勘案して判断されるべきものであって、その性質上、河川管理者の合理的な裁量に委ねられているというべきであるから、同号に該当する者の存在が認められる場合において、河川管理者がした監督処分が違法となるのは、その判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があった場合に限られるというべきである。
本件において、原告らは、法24条の許可を受けずに、a川に本件各船舶を係留して河川区域内の土地を占用していたのであるから、同条に違反した者であり、法75条1項1号に該当する。そして、本件各船舶のような、河川区域内において法24条の許可を得ないで適切な係留施設によらずに係留された船舶が、様々な河川管理上の支障を生ぜしめることは、上記1(2)イに説示したとおりであるから、河川管理上の支障を除去するため、処分行政庁が法75条1項に基づき本件各撤去命令をしたことには、合理性があるというべきである。
(2) これに対して、原告らは、本件各船舶よりも水没船や所有者不明船による河川管理上の支障が大きいのであるから、それらの船をまず撤去すべきであると主張する。弁論の全趣旨によれば、被告は、平成13年度から平成24年度にかけて、所有者不明船106隻の簡易代執行や沈廃船6隻の処分を実施していることが認められるから、被告が所有者不明船等の撤去を怠っているということはできないし、仮に、水没船等による河川管理上の支障がより大きいとしても、法24条の許可を得ないで不法に係留されている本件各船舶も、その存在によって河川管理上の支障を生じさせるのであるから、水没船等の撤去を先行しなければ本件各船舶による河川管理上の支障を除去するための監督処分を発することが許されないという理由は何ら存しない。
また、原告らは、係留施設が容易に撤去でき、所有者等を明示している場合には、河川管理上必要であるときに、必要な期間に限って船舶に移動を求めれば足りるとも主張する。しかし、法24条の許可を得ないで不法に係留されている船舶が存在すれば、上記の河川管理上の問題は恒常的に生じているのであるから、一時的に当該船舶を移動させることによってそれが解決されるものではないばかりか、洪水や津波が発生する危険が間近に迫った緊急事態が生じた時点で、当該船舶の所有者に撤去を求めるなどということはおよそ現実的なことではなく不合理といわざるを得ず、期間を限らず本件各船舶を撤去するよう命じたことをもって、本件各撤去命令が合理性を欠くということはできない。
(3) 以上によれば、処分行政庁が、法75条1項に基づく監督処分として、原告らに対する本件各撤去命令をしたことが、その裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものと認めることはできない。
3 結論
以上のとおりであって、処分行政庁がした本件各撤去命令は適法であり、また、原告X1、原告X2及び原告X3は同人らに係る各撤去命令を履行しなかったところ、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、かつ、その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるから、処分行政庁がした本件各戒告も適法である。
よって、原告らの請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井浩 裁判官 德岡治 石井奈沙)