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横浜地方裁判所 平成26年(行ウ)83号 判決 2015年5月20日

主文

1  原告X1の訴えをいずれも却下する。

2  原告X2の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求(原告らがそれぞれ次の2つの請求をしている。)

1  神奈川県横須賀土木事務所長が平成26年3月25日付けでa社に対してした開発許可を取り消す。

2  神奈川県開発審査会が平成26年10月21日付けで原告X2に対してした同年4月16日付け審査請求を却下する裁決を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は、神奈川県横須賀土木事務所長が平成26年3月25日付けでa社に対して都市計画法29条1項(平成26年法律第42号による改正前のもの。以下同じ。)に基づいてした開発許可(以下「本件許可」という。)について、その開発区域(以下「本件開発区域」という。)の近隣の土地に居住する原告らが、その取消しを求めるとともに、本件許可について原告X2が平成26年4月16日付けでした審査請求に対し神奈川県開発審査会が同年10月21日付けでした却下裁決(以下「本件裁決」という。)の取消しを求める事案である。

(これに対し)被告は、原告X2の訴えのうち本件許可の取消しの訴え及び原告X1の各訴えについて却下を求めるとともに、これらの訴えに係る各請求及び原告X2の本件裁決の取消請求について棄却を求めている。

2  前提事実((1)の事実以外は争いがない。)

(1)  a社は、平成26年2月14日付けで、神奈川県横須賀土木事務所長に対し、次のような概要の開発行為(以下「本件開発行為」という。)の許可の申請をした(乙9の1)。

ア 開発行為に含まれる地域の名称 三浦郡<以下省略>ほか1筆の一部及び<省略>ほか4筆

イ 本件開発区域の面積 2970.97m2

ウ 予定建築物等の用途 専用住宅(14区画)

エ 工事施行者氏名 b建設

オ 工事着手予定年月日 平成26年3月

カ 自己の居住の用に供するもの、自己の業務の用に供するもの、その他のものの別 自己用外

(2)  神奈川県横須賀土木事務所長(知事から権限を委任されている。)は、平成26年3月25日付けでa社に対して都市計画法29条1項に基づき本件開発行為の許可(本件許可)をした。

(3)  原告らは、肩書住所地に居住する者である。原告らの居住地は、本件開発区域が南側で接する町道を挟んだ位置にある。

(4)  原告X2は、平成26年4月16日付けで本件許可について神奈川県開発審査会に対し審査請求をしたが、神奈川県開発審査会は、同年10月21日付けで、原告X2は本件許可について不服申立てをする法律上の利益を有するとは認められないとして、審査請求を却下する旨の裁決(本件裁決)をした。なお、原告X1は、本件許可について審査請求をしていない。

第3当裁判所の判断

1  原告X1の訴えの適法性(争点(1))について

(1)  都市計画法29条1項に基づく処分である開発許可の取消しの訴えは、これについての開発審査会に対する審査請求を経た後でなければ提起することができないところ(同法52条)、原告X1は、本件許可についての開発審査会に対する審査請求をすることなく、本件許可の取消しの訴えを提起した。

原告X1は、原告X1と世帯を同一にする原告X2が本件許可についての審査請求をしている以上、原告X1が審査請求をしていなくても、原告X1の本件許可の取消しの訴えも許される旨主張する。しかし、後記2及び4で説示するとおり、開発区域内外の一定範囲の地域の住民に、開発処分について取消し又は不服を申し立てる法律上の利益が認められるのは、都市計画法の規定が開発許可に関して、当該住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護しているからであるところ、生命、身体の安全等という利益は、一身専属的なものであるから、同一の世帯に属するからといって、それらの者の間において一体的な利益であるということはできない。そうすると、原告X2が本件許可についての審査請求をしたことをもって、原告X1の本件許可の取消しの訴えについても審査請求を経たものと同視することはできないというべきである。

したがって、原告X1の本件許可の取消しの訴えは、審査請求を経ていないものとして、不適法といわざるを得ない。

(2)  また、原告X1は、本件許可について原告X2がした審査請求を却下した本件裁決の取消しを求める訴えも提起している。しかし、原告X1は、本件裁決の名宛人ではないし、上記(1)のとおり、原告X2がした上記審査請求をもって、原告X1が審査請求をしたものと同視することもできないから、原告X1は、本件裁決の取消しを求める法律上の利益を有する者と認めることはできない。

したがって、原告X1の本件裁決の取消しの訴えは不適法である。

(3)  以上によれば、原告X1の訴えはいずれも不適法であって却下を免れない。

2  原告X2の本件許可の取消しの訴えの原告適格(争点(2))について

(1)  行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

そして、処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項、最高裁平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。

(2)  都市計画法33条1項7号は、地盤の沈下、崖崩れ、出水その他による災害を防止するため、開発区域内の土地について、地盤の改良、擁壁又は排水施設の設置その他安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められていること、この場合において、開発区域内の土地の全部又は一部が宅地造成等規制法3条1項の宅地造成工事規制区域内の土地であるときは、当該土地における開発行為に関する工事の計画が同法9条の規定に適合するものであることを開発許可の基準としている。また、宅地造成等規制法は、宅地造成に伴う崖崩れ又は土砂の流出による災害の防止のため必要な規制を行うことにより、国民の生命及び財産の保護を図ること等を目的とし(1条)、同法9条は、宅地造成工事規制区域内において行われる宅地造成に関する工事は、政令で定める技術的基準に従い、擁壁等の設置その他宅地造成に伴う災害を防止するため必要な措置が講ぜられたものでなければならないとしている。そうすると、都市計画法33条1項7号は、開発行為を行うときは、地盤の沈下、崖崩れ、出水その他による災害が発生して、人の生命、身体の安全等が脅かされるおそれがあることにかんがみ、そのような災害を防止するために、開発許可の段階で、開発行為の設計内容を十分審査し、安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められている場合にのみ許可をすることとしているものと解される。そして、崖崩れ等の災害が起きた場合における被害は、開発区域内のみならず開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接的に及ぶことが予想される。また、同条2項は、同条1項7号の基準を適用するについて必要な技術的細目を政令で定めることとしており、その委任に基づき定められた同法施行令28条及び29条並びに同法施行規則22条2項、23条、26条及び27条の各規定をみると、同法33条1項7号は、開発許可に際し、崖崩れ等を防止するために、地盤、崖、擁壁、排水施設等に施すべき措置について具体的かつ詳細に審査すべきこととしているものと解される。

以上のような都市計画法33条1項7号の趣旨・目的、同号が開発許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等に鑑みれば、同号は、崖崩れ等のおそれのない良好な都市環境の保持・形成を図るとともに、崖崩れ等による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の地域の住民の生命、身体の安全等を、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、開発行為により崖崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である(最高裁平成9年1月28日第三小法廷判決・民集51巻1号250頁参照。ただし、同判決は平成4年法律第82号による改正前の都市計画法を前提としたものである。なお、平成18年法律第30号による宅地造成等規制法の改正(及び同法施行令の改正)により、宅地造成工事規制区域内の宅地造成工事の許可基準に耐震性を確保するための技術的基準が追加されたことに伴い、宅地造成工事規制区域外にも適用される都市計画法29条の開発許可においても、軟弱地盤上の開発行為に限ることなく、開発許可を要する全ての開発行為について、宅地造成工事規制区域内と同様の技術的基準を求めていく趣旨から、上記平成18年法律第30号により都市計画法33条1項7号も改正され、同改正前の「開発区域内の土地が、地盤の軟弱な土地、がけ崩れ又は出水のおそれが多い土地・・・であるときは、」の要件が削除されるなどした。この点に関連して、被告は、本件開発区域内の土地は崖崩れのおそれが多い土地等に当たらないことを、原告らに本件許可の取消しの訴えの原告適格がないことの根拠としているが、上記の改正経緯や改正後の同号の文言に照らせば、本件開発区域内の土地が崖崩れのおそれが多い土地等に当たることは原告らに原告適格を認めるための要件とは解されない。)。

(3)  後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、①本件開発行為前の本件開発区域は、南に向かって下り傾斜となっている斜度15度に満たない緩やかな傾斜地ではあるが、本件開発区域は、宅地造成等規制法3条1項に規定する宅地造成工事規制区域として指定されていること(甲4、乙2、9の8)、②本件開発行為は、傾斜地を掘削し、雛壇状の擁壁を築造して一戸建ての住宅敷地14区画を造成するものであり、これに伴う切土・盛土により生じる崖面は、地盤面からの高さが1m未満のものもあるが、その多くが2mを超え、5mに達するものもあること(乙4、5)、③原告X2の居住地は、本件開発区域の南側に、幅員4m(本件開発行為による拡幅後は6m)の既存町道を隔てただけの近接した位置に所在すること(乙1ないし3)、④上記町道の地盤高を基準の高さ30mと設定した場合、原告X2の居住建物がある部分の地盤高は30.22m(この地盤の下に地下車庫も存在する。)であるのに対し、本件開発区域内の地盤高は、南側部分は上記町道や原告X2の居住建物の地盤面とさほど変わらないものの、北側になるほど次第に高くなり、本件開発行為前の北端の上部の地盤面は45mに達し、また、造成される住宅敷地14区画の地盤高は、擁壁が設けられるとはいえ31mないし39.7mになること(甲81、乙2ないし5)が、それぞれ認められる。これらの事実に照らすと、原告X2の居住地は、本件開発行為により崖崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域にあるものと認められる。

(4)  以上によれば、原告X2については、本件許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると認めることができる。

3  本件許可の適法性(争点(3))について

(1)  都道府県知事は、開発許可の申請があった場合において、当該申請に係る開発行為が、都市計画法33条1項各号の基準に適合しており、かつ、その申請の手続が同法又は同法に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは、開発許可をしなければならないものとされている(同法33条1項柱書)。証拠(乙9の1ないし11、10)及び弁論の全趣旨によれば、本件開発行為は、都市計画法33条1項各号の基準に適合しており、かつ、その申請の手続が同法又は同法に基づく命令の規定に違反していないと認められる。

(2)ア  原告X2は、先行開発行為と本件開発行為は一体の開発行為であるのに、本件許可はこれを看過してされたものであって違法である旨主張する。

イ  証拠(甲19)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、都市計画法29条1項の開発行為の許可に際し、見かけ上複数の開発行為が、同時に又は連続して行われる場合であって、一定の要件を全て満たすときは、開発行為の一連性を有するものとして、一体の開発行為として取り扱うこととする旨を行政手続法5条1項の審査基準として定めていること、上記審査基準は一定の要件として、①一団の土地を分割して見かけ上複数の開発行為を行うものであって、そのいずれかの開発行為が工事完了公告前である場合又は開発区域が隣接する開発行為を行うものであって、そのいずれかの開発行為が工事完了公告前である場合のいずれかに該当し、②申請者、工事施行者又は設計者のいずれかに同一性があるものという2つの要件を定めていることが認められるところ、この審査基準それ自体を不合理なものということはできない。

そして、前提事実(1)に、証拠(甲2、19、乙9の1ないし3及び7ないし11)及び弁論の全趣旨を併せれば、被告は、上記審査基準の運用に当たり、申請者、工事施行者又は設計者の同一性については、都市計画法30条(及び同法施行規則15条ないし17条)所定の開発許可の申請書類又は宅地造成等規制法8条1項(及び同法施行規則4条)所定の宅地造成工事に関する許可の申請書類の各記載によって確認していること、平成25年2月6日付けで提出された先行開発行為に係る宅地造成工事に関する許可申請書類には、申請者(造成主)はAら、工事施行者はc工業、設計者はd設計と記載されていた(なお、先行開発行為の対象地は市街化区域にあり、その規模は500m2未満であるから、都市計画法29条の開発許可は不要であった(同条1項1号、同法施行令19条2項1号)。)一方、平成26年2月14日付けで提出された本件開発行為に係る許可申請書類には、申請者はa社、工事施行者はb建設、設計者はe一級建築士事務所と記載されていたこと、神奈川県横須賀土木事務所長は、上記各許可申請書類において、先行開発行為と本件開発行為とは、申請者、工事施行者又は設計者のいずれかに同一性があるものという上記審査基準の要件を満たしていないことを確認したことが認められる。そうすると、神奈川県横須賀土木事務所長が、本件開発行為について、先行開発行為と一体の開発行為として取り扱わなかったことは、上記審査基準に合致した扱いであって、これを不合理で違法であるということはできない。

ウ  原告X2は、先行開発行為と本件開発行為とは客観的に同一であるから、これを一体の開発行為と扱わないことは違法である旨主張する。

しかし、都市計画法は、都道府県知事は、開発許可の申請があった場合において、当該申請に係る開発行為が、同法33条1項各号の基準に適合しており、かつ、その申請の手続が同法又は同法に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは、開発許可をしなければならないとした上(同項柱書)、開発許可を受けようとする者は所定の許可申請書類を都道府県知事に提出しなければならないとしていること(同法30条)からすれば、同項は、開発行為の申請が同法33条1項所定の要件を満たしているか否かについて、許可申請書類を基に審査することを想定しているものと解されるから、申請者、工事施行者又は設計者の同一性について、同法30条所定の許可申請書類又は宅地造成等規制法8条1項所定の許可申請書類の各記載によって確認するという被告の上記審査基準の運用を不合理ということはできず、神奈川県横須賀土木事務所長が、上記各記載以外の資料によって先行開発行為と本件開発行為の一連性を審査せず、その結果、これらを一体の開発行為と扱わずに本件許可をしたからといって、そのことをもって違法ということはできない。

エ  したがって、原告X2の上記主張は、採用することができない。

(3)  原告X2は、農地法上の必要な手続がされないまま本件許可がされたこと、葉山町まちづくり条例が保存を求めている自然樹林が本件開発行為により伐採されることを本件許可の違法事由として主張する。しかし、開発行為をするについて農地法上の手続が必要であったとしても、その手続を行うことは開発許可の要件とはされていないし(同法33条)、上記条例は都市計画法33条3項ないし5項所定の条例には該当せず、上記条例の制限に適合していることが開発許可の要件となるものではないから、原告X2の上記主張は、本件許可の違法事由としては、それ自体失当といわねばならない。

また、原告X2は、本件開発区域が地すべり地形であることを看過したとして本件許可が違法であるとも主張する。しかし、都市計画法33条1項8号及び同法施行令23条の2は、原則として開発区域内に、災害危険区域、地すべり防止区域、土砂災害特別警戒区域及び急傾斜地崩壊危険区域を含まないことを開発許可の要件としているところ、本件開発区域内にはこれらの区域が含まれていない以上(甲57、乙10)、これらの区域に類する地すべり地形であることを理由に開発行為を許可しないことが許されないことは、都市計画法33条1項に照らしても明らかであって、原告X2の上記主張は、本件許可の違法事由としてはそれ自体失当というべきである。

さらに、原告X2は、本件開発区域の面積は3000m2以上であるとして、これを2970.97m2としてされた本件許可が違法であると主張する。しかし、原告X2は、本件開発区域にある7筆の土地の登記簿面積の合計が3000m2以上であることを上記主張の根拠として指摘するところ、本件開発区域に含まれるのは、7筆の土地の全部ではなく、うち2筆については土地の一部にとどまるから、原告X2の上記指摘をもって本件開発区域の面積が3000m2以上であるということはできないし、他に本件全証拠によっても、本件開発区域の面積が3000m2以上であると認めることはできないから、原告X2の上記主張は採用することができない。

(4)  以上によれば、本件許可の違法をいう原告X2の主張は、いずれも理由がない。

4  本件裁決の適法性(争点(4))について

都市計画法50条1項は、同法29条1項の規定に基づく処分に不服がある者は、開発審査会に対して審査請求をすることができるとしているところ、「処分に不服がある者」とは、当該処分について不服申立てをする法律上の利益を有する者、すなわち、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解され、その意義は、行政事件訴訟法9条1項にいう、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者と同様に解するべきものである。そうすると、上記2に説示したとおり、原告X2は、本件開発行為により崖崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者として、本件開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たると認められる以上、本件許可につき不服申立てをする法律上の利益も有すると認められる。したがって、原告X2は本件許可につき不服申立てをする法律上の利益を有するとは認められないとして、その審査請求を不適法として却下した本件裁決は違法である。

しかしながら、原告X2による本訴は、本件許可の取消しと本件裁決の取消しとを同時に求めるものであるが、上記3のとおり、本件許可は適法であるから、同許可の取消請求は棄却されることになる。しかるに、都市計画法33条1項柱書の文言等に照らせば、開発許可の申請があった場合において、当該申請に係る開発行為が同項各号に掲げる基準に適合しており、かつ、その申請の手続が同法又は同法に基づく命令の規定に違反していないと認められる場合には、都道府県知事は必ず許可をしなければならないものと解されるから、本件許可について、違法ではないが不当であるとしてこれが取り消されるということは考えられず、仮に、本件裁決を取り消して新たに裁決をしたとしても、それにより結論が変わることはないものというべきである。そうであるとすれば、原告X2の本件裁決の取消請求は、結局、理由がないことに帰するといわざるを得ない(最高裁昭和37年12月26日第二小法廷判決・民集16巻12号2557頁参照)。

5  結論

よって、本件許可及び本件裁決の各取消しを求める原告X1の訴えは、いずれも不適法であるからこれを却下し、原告X2の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井浩 裁判官 德岡治 石井奈沙)

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