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横浜地方裁判所 平成27年(わ)424号 判決 2015年6月12日

主文

被告人を懲役2年6月に処する。

未決勾留日数中30日をその刑に算入する。

この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。

被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。

横浜地方検察庁で保管中のパーソナルコンピュータ1式(同庁平成27年領第861号符号6)を没収する。

理由

【罪となるべき事実】

被告人は,

第1元交際相手であるA(当時19歳)の裸体等が撮影された画像データを保管していたものであるが,Aに自慰行為を見せるよう要求したところ,Aがこれを断ったことなどに立腹し,Aを脅迫しようと考え,別表1記載のとおり,平成26年8月18日午前7時31分頃から同月19日午前2時23分頃までの間,前後5回にわたり,被告人方において,自己のパーソナルコンピュータ(横浜地方検察庁平成27年領第861号符号6)を操作してインターネットアプリケーション「B」を用い,Aの携帯電話機に宛てて,「しなかったので写真ばらまきます後悔させてやる」「脅しだとおもっとればいいよばら撒かれてからきずいてもおそいで」などと記載したメッセージを順次送信し,いずれもその頃,Aに前記メッセージを閲読させてその内容を了知させ,もってAの名誉に危害を加える旨を告知して脅迫し

第2同年12月13日午後11時9分頃,前記被告人方において,判示第1のパーソナルコンピュータを用いてインターネットを利用し,Aの陰部を露骨に撮影したわいせつな画像データ1点を,C社が管理するアメリカ合衆国内に設置されたサーバコンピュータに送信して記憶・蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し,同画像の閲覧が可能な状態を設定し,もってわいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列し

第3平成27年1月2日午前11時43分頃から同日午後1時40分頃までの間,10回にわたり,前記被告人方において,判示第1のパーソナルコンピュータを用いてインターネットを利用し,Aの顔を撮影した画像データやAの氏名等が記載された「合格通知書」と題する書面を撮影した画像データなどとともに,Aの顔や陰部を撮影した画像データ及びAが被告人の陰茎を口淫する場面を撮影した画像データ等10点を,C社が管理するアメリカ合衆国内に設置されたサーバコンピュータに送信して記憶・蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し,同画像の閲覧が可能な状態を設定し,もって第三者が撮影対象者を特定することができる方法で,性交又は性交類似行為に係る人の姿態及び衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって,殊更に人の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものである私事性的画像記録物を公然と陳列し

第4Aの裸体等が撮影された画像データを保管していることを利用し,さらにAを脅迫しようと考え,別表2記載のとおり,同年2月3日午前11時16分頃から同月7日午後8時44分頃までの間,前後7回にわたり,前記被告人方及びその周辺において,判示第1のパーソナルコンピュータ又は被告人の携帯電話機を操作してインターネットアプリケーション「B」を用い,Aの携帯電話機に宛てて,「マンションにビラまくかな~」「マンションより学校かいいかい?(笑)」「パパの会社にするかな?」「殺してシマウマえに死んでくれ」「えw今流行のストーカー殺人www」などと記載したメッセージを順次送信し,いずれもその頃,Aに前記メッセージを閲読させてその内容を了知させ,もってAの生命,身体,名誉等に危害を加える旨を告知して脅迫し

たものである。

【証拠の標目】

(省略)

【法令の適用】

被告人の判示第1,第4の各所為は各包括していずれも刑法222条1項に,判示第2の所為は同法175条1項前段に,判示第3の所為は包括して私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律3条2項,2条1項1号,3号にそれぞれ該当するところ,各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中30日をその刑に算入し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付し,横浜地方検察庁で保管中のパーソナルコンピュータ1式(同庁平成27年領第861号符号6)は判示各犯行の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

【量刑の理由】

各犯行の動機は,被告人が自慰行為をみせるよう被害者に要求して拒絶され,被告人が立腹して各犯行に及んだというもので,悪質ではあるが,その背景には,弁護人の指摘するような,元妻との間の離婚裁判上の書類作成の便宜について被害者が言葉を濁した事情もあり,被告人に同情の余地が全くないわけではない。他方で,各犯行は,平成26年8月から平成27年2月に至るまで,断続的ではあるが,長期にわたり敢行されており,本件によって被害者が被った精神的苦痛や,人格の尊厳を害された程度は大きいものというべく,被害結果は重大である。

しかしながら,被告人は,捜査の当初段階及び第1回公判においては,脅迫の点を否定したが,第2回公判では,脅迫の点を含めて各犯行を全て認め,反省する姿勢を示し始めていること,今後,被害者には一切連絡しない旨約束し,現時点において,本件のプライベートポルノに関連する電子機器類の所有権放棄に応じていること,これまで被告人には懲役前科がないことなど,被告人のために酌量できる事情もある。

以上によれば,当裁判所としては,被告人の刑の執行を猶予するものの,上記のような動機に照らし,被告人が,被害者の抱く恐怖心を被告人として容易に理解できないという認知のゆがみを有している点を重視して,被告人に対し,認知のゆがみを解消するプログラムを受けさせ,今後の更生及び再犯防止に資することを専門機関に期待して,被告人を保護観察に付することとする。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑 懲役3年)

(裁判官 樋上慎二)

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