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横浜地方裁判所 平成27年(わ)638号 判決 2016年2月10日

主文

被告人を懲役9年以上13年以下に処する。

未決勾留日数中180日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,少年であるが,

第1平成27年1月17日午前2時頃から同日午前2時30分頃までの間,横浜市港北区内の駐車場内において,平成26年12月頃に知り合ってゲームなどをして遊ぶ仲であったA(以下「被害者」という。)が被告人になれなれしい態度をとることなどに腹を立て,被害者(当時13歳)に対し,その顔面を拳で複数回殴るなどの暴行を加え,よって,同人に全治約2週間を要する左眼窩部打撲に伴う皮下出血の傷害を負わせ(以下「a事件」という。),

第2平成27年2月12日頃,中学生の頃からトラブルがあって恐れていた地元の少年らのグループ数名が,被告人が行っていたさい銭盗の件やa事件にかこつけて被告人宅へ押し掛け,執ように面会を求めるなどしたため,同グループから接触されることに恐怖心と苛立ちを抱くようになったが,これは被害者が同グループにさい銭盗の件やa事件のことを告げ口したことが原因であると邪推し,被害者に対する怒りを募らせていた。被告人は,同月19日夜,B及びCと同人の自宅等で飲酒するなどして遊んでいた際,たまたま,被害者がBに対して一緒に遊びたいと何度も連絡をとってきたことを知り,被害者と会って前記告げ口の件について問い詰めた上で制裁を加えようなどと考えた。

被告人は,同月20日午前1時頃,Bと会っていた被害者のところへCと共に出向いて合流し,被害者に対し,前記告げ口の件で問い詰めるなどした後,さらに制裁のため暴行を加えようとし,同日午前1時19分頃,川崎市川崎区内の河川敷において,被害者を押し倒して馬乗りになった上,Cから差し出されたカッターナイフを受け取り,同人と傷害の限度で共謀の上,被告人が,被害者の左頬を数回切り付けたが,被害者の傷の様子などから,このまま被害者を帰すと前記少年グループから報復されたり,警察に逮捕されたりすると思い,これらを避けるためには被害者を殺害するほかないなどと考え,前記カッターナイフでその足や腕を切り付けた上で,殺意をもって,頸部を複数回切り付け,さらにCにも切り付けるよう依頼し,これを受けた同人がその頸部を複数回切り付けるなどし,同日午前1時55分過ぎ頃,同所を離れていたBを呼び寄せて被害者を切り付けるよう指示し,これを承諾したBと傷害の限度で共謀を遂げた上,その頃から同日午前2時34分頃までの間,それぞれ,被害者の頸部を前記カッターナイフで多数回にわたって切り付け,Cが被害者の顔面を数回コンクリートに打ち付けるなどした上,被告人が被害者の左頸部を前記カッターナイフで強く切り付けるなどの暴行を加え,よって,その頃から同日午前6時12分頃までの間に,同所において,被害者を頸部刺切創に基づく出血性ショックにより死亡させて殺害し(以下「b事件」という。)

たものである。

(法令の適用)

被告人の判示第1の所為は刑法204条に,判示第2の所為は同法60条(ただし,傷害致死の範囲で),199条にそれぞれ該当するが,各所定刑中判示第1の罪については懲役刑を,判示第2の罪については有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で,少年法52条1項により,被告人を懲役9年以上13年以下に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中180日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

1  まず,量刑の中心となるb事件(殺人)の犯行についてみる。

(1)  犯行態様は,13歳の被害者に対し,年長者3人がかりで,1時間余りもの間,代わる代わるカッターナイフで頸部を切り付けるなどし,首回りだけで31箇所,全身に合計43箇所もの切り傷を負わせたほか,コンクリートに顔面を打ち付けるなどしたというものである。この間,被害者は,全く抵抗することなく,被告人らに命じられるまま真冬の川で2回も泳がされ,岸に戻らされては頸部等をまた切り付けられることが繰り返されたのであり,その後に致命傷となる傷を頸部に負わされ,下半身を川に浸けるようにして放置されても,なお自力で移動しながら絶命した様は凄惨というほかはなく,手口の残虐性は際立っている。致命傷を除き,一つ一つの暴行が強力なものではなかったために長時間にわたる暴行が続けられたという側面はあるが,被告人は殺意が生じて以降一貫して被害者を殺害するほかないと考え,その生命を奪うまで共犯者を巻き込みながら攻撃をし続けたのであるから,殺意が弱かったとか,殺害を逡巡していたなどと評価することはできず,悪質性は減じられない。

(2)  本件によって被害者の尊い生命が奪われたという結果が極めて重大であることはいうまでもなく,絶命するまでの間に被害者が味わわされた恐怖や苦痛は甚大であり,その無念さは察するに余りある。被害者を失った遺族が,当公判廷において,その筆舌に尽くし難い悲嘆と苦悩を吐露するとともに,被告人に対して峻烈な処罰感情を示しているのは誠に当然のことである。

(3)  本件犯行直後には,被告人の発案で被害者の衣服を燃やし,共犯者間で口裏合わせをするなどの証拠隠滅を図っている点も悪質である。

(4)  共犯者間における役割及び地位についてみると,本件は,被告人の怒りを発端とした犯行であり,被告人が共犯者らに指示をして暴行を行わせ,被告人自らが致命傷となる頸部への切り付けを行っているのであって,被告人に犯行の主導者として最も重い責任があることは明らかである。

なお,本件では共犯者がカッターナイフを差し出したことが犯行の大きな契機となっている。この点からみても,本件は突発的に殺意を発生させた事案であって計画的な犯行とは類型を異にするが,差し出されたカッターナイフで切り付け,その直後に殺意を生じたのは被告人自身の判断であるから,被告人自身の責任が大きく,共犯者の責任を殊更に大きく評価することはできない。

(5)  b事件の動機,経緯についてみると,その発端は,被害者が告げ口をしたものと邪推して怒りを募らせたというものであるが,これ自体逆恨みである上に,被告人自身が被害者の頬を切り付けたことから,今度は報復や逮捕等を恐れて被害者を殺害するほかないと突発的に考えたというのは,通常では到底考え難いほどに,極めて自己中心的,短絡的な発想であって,強い非難に値する。ただし,このような極端な発想は,被告人の共感性の欠如,問題解決力の脆弱さ,暴力容認の価値観に根差した年齢不相応な未熟さの表れとしか理解できず,その原因としては,被告人の父母による生育環境が相当に大きな影響を与えているといえる。この点は犯行当時18歳5か月(裁判時は19歳5か月)の少年であった被告人にとって,責任非難を減少させる事情である。

しかしながら,被告人は酒を飲んだ上で通行人を鉄パイプで殴打するという傷害の非行に及び,平成26年12月25日家庭裁判所で保護観察処分を受け,a事件の3日前には保護観察所で特別遵守事項等の説明を受け,その後も保護司による指導を受けるなど,犯罪の抑止等について,家庭以外からの指導も受けている最中であったのであるから,生育環境の影響による責任非難の減少を考慮するについては限度がある。加えて,この点は更生の困難さもうかがわせる事情である。

2  次に,a事件(傷害)についてみると,これは,些細な理由で,b事件と同一の被害者に対し,同事件の約1か月前に顔面を拳で複数回殴って全治まで約2週間の傷害を負わせたというものであり,被告人の問題性が表れた身勝手で粗暴な犯行であって,その責任は看過できないが,b事件と比較して刑の量定を大きく左右する事案とはいえない。

3  以上の犯情事実等を前提にして検討すると,少年である被告人の刑事責任は,特に,b事件の行為態様の際立った残虐性や被告人の役割等に照らすと,相当に重い部類に属するといえるが,本件が怒りや自己保身を動機とする計画性を欠いた突発的な犯行であることや,その殺意の形成に生育環境に由来した未熟さが影響していることからすると,被告人が保護観察中であったことを考慮しても,有期懲役刑(不定期刑)を選択すべき事案であり,その中で上限そのものに位置するとまではいえない。

そのほか,被告人が本件各犯行を認め,被告人なりに反省を示そうとする姿勢はうかがわれること等の一般情状事実も認められるが,特に量刑を左右する事情とはいえない。

以上の諸事情を踏まえた上で,主文のとおり刑を量定した。

(求刑・懲役10年以上15年以下,弁護人の意見・懲役5年以上10年以下)

(裁判長裁判官 近藤宏子 裁判官 馬場嘉郎 裁判官 三好治)

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