大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 平成3年(行ウ)22号 判決 1996年4月22日

神奈川県伊勢原市岡崎六七七七番地の八

原告

辻丈夫

右訴訟代理人弁護士

楠本博志

水野賢一

神奈川県平塚市松風町二番三〇号

被告

平塚税務署長 近藤常夫

右指定代理人

伊藤一夫

古川敞

北川益雄

池上照代

中澤彰

木村忠夫

上田幸穂

山本善春

北山隆

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、原告に対し、平成元年一一月二七日付けでした、原告に対する昭和六一年分の所得税賦課決定処分及び無申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、平成元年一一月二七日、原告の昭和六一年分の所得税を金三一三九万九四〇〇円とする賦課決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税金三九三万九〇〇〇円の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件決定処分と合わせて、「本件各処分」という。)をした。本件各処分並びに原告の異議申立て、審査請求の経緯は、別表一のとおりである。

2  しかし、本件各処分は、以下のとおり違法である。

(一) 質問検査権の行使について

(1) 所得税法(昭和六二年法律第九六号による改正前のものをいい、以下「旧法」という。)二三四条及び国税通則法二五条によれば、質問検査権を行使して税額等を決定できるのは、納税申告書を提出する義務があると認められる者が、当該申告書を提出しなかった場合で、かつ、質問検査権を行使することが客観的に必要であると認められる場合でなければならない。

(2) 本件各処分にかかわる質問検査権の行使の端緒は、平成元年五月ころ、被告が原告に対し、昭和六一年における二銘柄の株式取引について問い合わせたことにあり、原告以外の者に対する課税の反面調査のためである。そうすると、被告は、右調査当時、原告に納税申告書を提出する義務があるとは認識しておらず、また、原告に対して質問検査権を行使する客観的な必要性があると判断もしていなかった。このような状況の下でされた原告に対する質問検査権の行使及びこれに基づく本件各処分は、質問検査権の行使及びこれに基づく本件各処分は、質問検査権及び税額等決定手続の要件を欠く違法な処分である。

(二) 株式売買の回数について

(1) 本件決定処分の前提となる株式等の売買回数の計算は、原告の野村證券株式会社(以下「野村證券」という。)に対する具体的委託回数によるべきである。

原告は、野村證券に対して売買委託をするに当って、年間取引を二〇万株未満又は五〇回未満とすることを絶対的条件としていたが、個々の取引は、主要かつ多額の取引の場合を除き、原告からその都度承認を得ることなく、野村證券の担当者の判断においてされた。このようなことからすれば、主要かつ多額の取引の場合のみが売買委託回数として計算されるべきである。

ところが、被告は、原告の行った売買委託回数の実情を調査することなく、形式的に野村證券の行った売買の回数のみを調査して本件各処分を行った。

しかし、本件決定処分の対象となった、昭和六一年中に原告の名義で野村證券が行ったとされる株式取引(以下「本件株式取引」という。)の場合、原告の野村證券に対する売買委託回数は五〇回未満であるから、旧法九条一項一一号及び所得税法施行令(昭和六二年政令第三五六号による改正前のものをいい、以下「旧令」という。)二六条二項に基づき課税の対象にならないものであり、本件各処分は違法である。

(2) また、株式等の売買回数計算については、その基準が不明確で、一般の納税者には、到底正確に判断できないものであり、かかる不明確な基準において課税をする旧法九条一項一一号及び旧令二六条二項は、租税法律主義を定めた憲法八四条に違反する。

(三) 本件賦課決定処分について

国税通則法六六条一項は、正当な理由があると認められる場合には、無申告加算税を課さない旨規定しているところ、原告は、野村證券に対し、課税されない範囲で売買をすることを条件として株式等の売買委託をし、野村證券は、これに基づき、課税されない範囲内で売買を行った旨を原告に回答していたものであり、また、前記(二)(2)のとおり、株式等の売買回数の計算方法は、原告において正確に計算できるようなものではなく、原告には期限内に申告書を提出しなかったことにつき正当な理由があるから、本件賦課決定処分は違法である。

(四) 本件各処分による課税の不合理性

本件株式取引は、原告がもとから保有していたアマダメトレックス株を売却することにより始められたが、本件株式取引を含む野村證券による一連の証券取引に係る原告の利益は、結局この売却益である一〇〇〇万円だけであり、他は野村證券担当者の拙劣な運用により、廉価な株式となってしまった。

一方、本件各処分によって、原告は、全財産を失った上でさらに払いきれない分の税金を今後支払っていかねばならない。これは、旧法一二条に定める実質課税の原則の趣旨に反するばかりでなく、財産権の保障を定めた憲法二九条に違反する疑いが極めて強く、合理性を欠く。

したがって、本件株式取引に対する課税は、課税当時原告が現に保有していた株式証券等の価額と、現実に手にした売却益である一〇〇〇万円を限度とすべきであり、原告の全財産を奪うことになる本件各処分は違法である。

3  よって、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2柱書きは争う。

同2(一)(1)のうち、旧法二三四条が、税務署の当該職員の質問検査権について規定していること、及び国税通則法二五条が課税等及び税額等の決定について規定していることは認め、その余は争う。

同2(一)(2)のうち、被告が二銘柄の株式について原告に問いあわせをしたこと(但し、その時期は平成元年六月である。)は認め、その余は否認ないし争う。

同2(二)(1)は、否認ないし争う。

課税の基礎となる株式等の売買回数は、顧客と証券会社との間の売買委託回数によって計算すべきである(所得税法基本通達九―一五(平成元年一二月六日直所三―一四による廃止前のもの))。

同2(二)(2)は否認ないし争う。

同2(三)のうち、国税通則法六六条一項が、期限内に申告所の提出がなかったことについて正当な理由がある場合には無申告加算税を課さない旨を規定していることは認め、原告が野村證券に対し、課税されない範囲内で行うことを条件に株式等の売買委託をし、野村證券がその範囲内で売買を行った旨を回答していたとの点は不知、その余は争う。

同2(四)は否認ないし争う。

3  同3は争う。

三  被告の主張

1  本件決定処分の根拠

(一) 原告の昭和六一年分の総所得金額は以下のとおりである。

(1) 給与所得の金額 五二三万八〇九七円

原告は、昭和六一年当時、株式会社アマダ(以下「アマダ」という。)に人事課長として勤務し、同社より七〇三万六七七五円の給与、賞与を得ていた。

アマダが旧法一九〇条に規定する年末調整をする際に控除した所得控除額は一五五万六四四五円であり、源泉徴収した所得税額は五六万一三〇〇円である。

原告がアマダより得た給与、賞与は旧法二八条一項にいう給与所得に該当するところ、同条三項の給与所得控除額は、収入金額が同項四号の場合に該当するから、一六九万五〇〇〇円と当該収入金額から六〇〇万円を控除した金額の一〇〇分の一〇に相当する金額との合計額になり、これを本件にあてはめると、給与所得控除額は、一七九万八六七八円となる。

そして、給与所得の金額は、同法二八条二項により、給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額であるから、本件では、七〇三万六七七五円から一七九万八六七八円を控除した、五二三万八〇九七円となる。

(2) 雑所得の金額 七一六六万九一一八円

<1> 原告は、昭和六一年当時、有価証券の売買をしており、原告が野村證券に委託して行った有価証券売買の状況は、別表二ないし四のとおりである。

そして、原告が行った有価証券売買のうち本件株式取引において株式を売買した回数は別表二の「売買回数」欄のうち、「被告の主張」欄のとおり、七八回(同欄の「合計」欄)で、その株数は同表の「成立」欄の「各株数」欄のとおりであり、その合計は三七六万九六〇〇株である。

<2> また、原告の有価証券売買に係る収支は以下のとおりである。

収入は、信用取引に係る決済額二九八九万一八〇五円(別表三の「決済損益」欄の「合計」欄)、同取引に係る信用配当金八八万円及び現物取引に係る売却額(取引額から手数料及び有価証券取引税を控除した後の額)九億六八一六万四五一五円(別表四末尾の「売却」欄のうちの「金額」欄の「総合計」欄)の合計九億九八九三万六三二〇円である。

諸経費は、現物取引に係る購入額(取引額に手数料を加えた後の額)九億二七二五万〇五〇二円(別表四末尾の「購入」欄のうちの「金額」欄の「総合計欄)並びに有価証券売買に係る口座管理料五〇〇〇円、保護預り料七二〇〇円及び代行手数料四五〇〇円の合計九億二七二六万七二〇二円である。

したがって、原告が有価証券の売買によって得た売買益は、次のとおりとなる。

収入 九億九八九三万六三二〇円

(内訳 信用取引 二九八九万一八〇五円

信用配当金 八八万円

現物取引(売却額) 九億六八一六万四五一五円の合計額)

諸経費 九億二七二六万七二〇二円

(内訳 現物取引(購入額) 九億二七二五万〇五〇二円

口座管理料 五〇〇〇円

保護預り料 七二〇〇円

代行手数料 四五〇〇円の合計額)

売買益(収入から諸経費を控除した額) 七一六六万九一一八円

<3> 旧法九条一項は、「次に掲げる所得については、所得税を課さない」と、同項一一号は「有価証券の譲渡による所得のうち、次に掲げる所得以外のもの」と、そのイは「継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めるもの」と規定する。

次に、旧令二六条一項は、「法九条一項一一号イ(非課税所得に規定する政令で定める所得は、有価証券の売買を行う者の最近における有価証券の売買の回数、数量又は金額、その売買についての取引の種類及び資金の調達方法、その売買のための施設その他の状況に照らし、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得とする。」と、同条二項は「前項の場合において、同項に規定する者のその年中における株式又は出資の売買が次の各号に掲げる要件に該当するときは、その他の同項に規定する取引に関する状況がどうであるかを問わず、その者の有価証券の売買による所得は、同項の規定に該当する所得とする。」と、その一号は「その売買の回数が五〇回以上であること。」と、その二号は「その売買をした株数又は口数の合計が二〇万以上であること。」とそれぞれ規定する。

右のとおり、有価証券の譲渡による所得は原則として非課税とされているが、旧令二六条二項に規定する要件、すなわち、その年中にした株式売買の回数が五〇回以上で、その株数が二〇万株以上という要件を充足すると、その所得は課税所得となる。

<4>右<1>を<3>にあてはめると、原告がした株式売買の回数は、七八回で、その株数は三七六万九六〇〇株であるから、原告が有価証券の売買によって得た売買益は課税所得となる。

<5> ところで、旧法は二編二章二節一款(所得の種類及び各種所得の金額)で利子所得から雑所得までの一〇種類の所得を掲げているところ、原告の有価証券売買による所得が旧法二三条(利子所得)ないし二六条(不動産所得)、二八条(給与所得)ないし三二条(山林所得)に規定するいずれの所得にも該当しないことは法文上明らかであり、また、原告の有価証券売買による所得は、その売買の状況をみると、少なくとも反復継続性があると認められるから、旧法三三条(譲渡所得)及び三四条(一時所得)にも該当せず、原告が右(1)のとおり生活の資をその勤務するアマダより得ていること、原告が有価証券売買に係る物的、人的施設を保有していないこと等に照らすと、旧法二七条(事業所得)にも該当しないので、結局、旧法三五条に規定する雑所得となる。

<6> そして、旧法三五条二項は「雑所得の金額は、その年中の雑所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。」と規定するところ、これを右<2>にあてはめると、原告の雑所得の金額は七一六六万九一一八円となる。

(3) 総所得金額 七六九〇万七二一五円

旧法二二条二項及び同項一号によれば、本件の総所得金額は、給与所得の金額と雑所得の金額との合計額となるから、右(1)と(2)との合計七六九〇万七二一五円が総所得金額となる。

(二) 納付すべき税額

(1) 所得控除額 一五五万六四四五円

アマダが年末調整に当たって控除した所得控除額と同額である。

(2) 課税総所得金額 七五三五円

旧法八九条二項の規定により、右(一)(3)の額から右(1)を控除した残額七五三五万円(国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のものをいう。以下同じ。)一一八条一項により千円未満の端数を切り捨てた後の金額)である。

(3) 所得税額 四〇四九万四七〇〇円

原告の納付すべき税額は、旧法八九条一項により右(2)の課税総所得金額に税率を乗じて算出した所得税額から、アマダが年末調整において源泉徴収した所得税額五六万一三〇〇円を控除した四〇四九万四七〇〇円である。

2  本件決定処分の適法性

被告が本訴において主張する原告の昭和六一年分の総所得金額及び納付すべき税額は右のとおり七六九〇万七二一五円及び四〇四九万四七〇〇円であるところ、本件決定処分に係る総所得金額及び納付すべき税額は別表一の「総所得金額」及び「納税額」欄に記載のとおり七五二二万一四四九円及び三九三九万九四〇〇円であって、いずれも被告が本訴で主張する金額の範囲内であるから、本件決定処分は適法である。

3  本件賦課決定処分の適法性

(一) 被告がした本件決定処分が適法であることは右2のとおりであり、原告が法定申告期限内に確定申告しなかったことについて、国税通則法六六条一項に規定する正当な理由があるとは認められないので、被告は、同条項の規定に基づいて、本件決定処分により納付すべき税額三九三九万円(同法一一八条三項により一万円未満の金額を切り捨てた金額)に一〇〇分一〇の割合を乗じて求めた金額三九三万九〇〇〇円を無申告加算税として賦課決定したものであるから、本件賦課決定処分は適法である。

(二) 原告は、右の正当な理由があると主張する。しかし、正当な理由とは、無申告加算税が税法上の義務の不履行に対する行政上の制裁であると考えられるところからすれば、このような制裁を課すことを不当若しくは酷とするような事情をいうものと解される。そして、仮に野村證券が原告に対し、課税されない範囲内で株式売買を行った旨を回答していたとしても、納税申告書を提出すべきであるか否かは税法の規定に従って客観的に定まるのであって、野村證券の回答に左右されるものではなく、売買回数についても、原告は毎月野村證券から取引明細書の送付を受けて知っていたもので、しかも、売買回数に関する法令の規定は、後記5のとおり明確なものである。したがって、本件において、原告に右の正当な理由はない。

4  調査の経緯について

(一) 被告は、株式売買を行っている者につき、所得税の調査を行う必要があるものと判断し、平成元年六月一四日付けで、原告に対し、「取得された株式等についてのお尋ね」と題する書面を送付し、原告が取得した株式について照会した。

原告は、右照会に対して、平成元年七月一一日、被告に対し、原告の野村證券厚木支店における顧客口座元帳を添付して回答した。

被告所部係官は、原告の顧客口座元帳を検討した上、平成元年八月一九日及び同年九月二八日の二回にわたり原告と面接し、調査した結果、原告に納税義務があると判断した。

そのため、被告は、原告に対し、右調査結果に基づき本件決定処分をしたものである。

(二) 旧法二三四条一項は、「税務署の当該職員は、所得税に関する調査について必要があるときは、次に掲げる者に質問をすることができる」と規定し、その一号で「納税義務がある者、納税義務があると認められる者又は第一二三条第一項等の規定による申告書を提出した者」と規定する。

そして、右「調査について必要があるとき」とは、税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、同条一項各号規定の者に対し質問する権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問検査の必要があり、かつ、これを相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまるかぎり、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられている。

また、右「納税義務がある者」とは、既に法定の課税要件が充たされて客観的に所得税の納税義務が成立し、いまだ最終的に適正な税額の納付を終了していない者のほか、当該課税年が開始して課税の基礎となるべき収入の発生があり、これによって将来終局的に納税義務を負担するに至るべき者をもいい、さらに、右「納税義務があると認められる者」とは、権限ある収税官吏の判断によって、右の意味での納税義務がある者に該当すると合理的に推認される者をいう。

(三) 本件においては、前記(一)で述べた経緯から、原告は旧法二三四条一項一号にいう「納税義務があると認められる者」に該当し、遅くとも、被告所部係官が原告と面接し、調査した後においては、原告は納税義務がある者に該当することは明らかである。したがって、原告の所得税の調査について質問検査権を行使する客観的な必要性もあったというべきであり、本件決定処分の手続は適法である。

また、原告は、国税通則法二五条及び旧法二三四条一項からすれば、質問検査権を行使して税額等を決定するには、納税申告書を提出する義務があると認められる者が当該申告書を提出しなかった場合で、質問検査権を行使する客観的な必要性があると判断される場合であることが必要であるとも主張するが、旧法二三四条一項は「所得税に関する調査について必要があるときは」と規定しているにすぎず、調査できる場合を納税申告書のない場合に限定していない。

5  株式売買回数の算定基準について

原告は、株式の回数につき、その算定基準が不明確で、一般納税者には到底正確に判断できないものがあるから、このような不明確な基準において課税する旧法九条一項一一号及び旧令二六条二項は、租税法律主義を定める憲法八四条に反すると主張する。

しかし、旧令二六条二項の規定は、「前項の場合において、同項に規定する者のその年中における株式又は出資の売買が次の各号に掲げる要件に該当するときは、その他の動向に規定する取引に関する状況がどうであるかを問わず、その者の有価証券の売買による所得は、同項の規定に該当する所得とする。」というものであり、その一号は「その売買回数が五〇回以上であること」、その二号は「その売買をした株数又は口数の合計が二〇万以上であること」というものであって、売買回数の基準について何ら不明確なところはない。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1  被告の主張に対する認否

(一) 被告の主張1(一)(1)は認める。

同(一)(2)<1>のうち、原告が、昭和六一年当時、有価証券の売買をしており、原告が野村證券に委託して行っていたこと、別表二のうち、番号4ないし7の取引は認め(但し、委託回数としては、番号4及び5で一回、6及び7で一回の合計二回である。)、その余は否認する。

原告の売買回数(取引委託回数)は別表二のうちの二回に過ぎず、その余の取引は野村證券が原告の委託を受けず、原告名義で取引したものである。

なお、原告は、当初、別表二の本件株式取引のうち、四六回については、委託を認めたが、この自白は真実に反し、かつ、錯誤に基づくものであるから、撤回する。

同(一)(2)<2>記載の事実及び計算関係は、原告が委託した取引以外の、右野村證券の原告名義による取引を含む前提で認める。

同(一)(2)<3>は認める。但し、旧令二六条二項一号の「その売買回数」とは、委託回数を意味する。

同(一)(2)<4>は否認ないし争う。

同(一)(2)<5>のうち、「それは旧法三五条に規定する雑所得となる。」との点を争い、その余は認める。

同(一)(2)<6>のうち、原告の雑所得の金額が七一六六万九一一八円となるとの点は否認し、その余は認める。

同(一)(3)のうち、原告の総所得金額が七六九〇万七二一五円となるとの点は否認し、その余は認める。

同(二)(1)は認める。

同(二)(2)及び(3)は否認する。

(二) 同2は否認ないし争う。

(三) 同3(一)は、争う。

同3(二)のうち、国税通則法六六条一項に規定する正当な理由とは、制裁を課すことを不当若しくは酷とするような事情をいうことは認め、その余は否認ないし争う。

原告は、野村證券に対し、課税されない範囲でのみ株式等の取引委託をし、野村證券はその旨確約していたものである。

したがって、原告は非課税の範囲を超えて株式の売買がされたことを認識していなかったから、このような事情の下では期限内に申告書を提出する期待可能性はなく、原告に右正当な理由があることは明らかである。

(四) 同4(一)のうち、株式売買を行っている者につき、所得税の調査を行う必要があるものと判断したとの点は否認し、被告が原告に納税義務があると判断したとの点は不知、その余は認める。

同4(二)は認める。

同4(三)は争う。

そもそも原告の所得税の調査を始めるに当たって、質問検査権を行使する客観的な必要性がなかった。また、旧法二三四条一項は、質問検査権を行使する客観的な必要性がある場合に限って調査できるという趣旨であって、税務署職員の恣意的判断に基づく調査を排除しているものである。

(五) 同5は争う。

2  原告の反論

(一) 別表二の委託回数に対する反論

(1) 別表二の番号9ないし11(単に番号9ないし11のようにいう。以下同じ。)

原告が株式売買を本格的に始めるに至ったきっかけは、野村證券の担当者である有田明浩(以下「有田」という。)が、原告が株式売買を始める前から所有していたアマダメトレックス株を、売却するよう勧誘してきたことにあった。

しかし、番号9ないし11の取引は、原告がアマダメトレックス株の売却を承諾する以前のものであり、原告は有田に対し、勤務先まで電話することを厳禁しており、有田が原告の勤務する会社に電話をしたことはなく、また、原告から有田に株式の売買委託をするために連絡をしたこともないから、被告の主張する時間に原告が委託したことはない。

(2) 番号13ないし15

番号13ないし14の、原告がもともと所有していたアマダメトレックス株の売却にかかる取引を承諾したのは、原告が勤務先から夕刻に帰宅した後、原告の自宅においてであった。

したがって、被告の主張する、三月一八日午前九時三七分に一旦委託をして、すぐに取り消し、その後九時四四分に再度委託するなどということはありえない(番号14に関し。)。

また、番号15の取引は、アマダメトレックス株の売却益によりされた買付けであるが、事前に有田から原告に対し、アマダメトレックス株の売却後どの銘柄を買うかについて相談されたことはなく、しかも原告は、有田に対し、勤務先まで電話をすることを厳禁していたことは、株式売買を正式に始めた後も同じであったから、被告の主張する午前九時四八分に、買付けの委託をすることはありえない。有田に勤務先に電話をすることを厳禁していたことにより、原告の勤務時間中に係る委託がありえないことは、以下の番号の取引でも同じである。

(3) 番号16・17・19

番号16の東京電力株の売付けについては、原告の勤務時間中のものであるから、その時間の委託はありえない。

また、番号17・19の関西電力株の買付け及び売付けについては、事後報告すらされなかったものであり、まして委託はありえない。

(4) 番号20・21

番号20・21の取引は、事後報告すらされなかった番号19の関西電力株の売却の結果変われたものであるが、この取引も事後報告すらされず、もとより委託はありえない。

(5) 番号22ないし24

番号22ないし24の取引は、いずれも原告の勤務時間中である午後一時三一分、三二分にされており、原告からの委託がありえない時間帯である。また、番号24は、アマダメトレックス株の売却益により初めてされた現物取引である、野村證券株(番号15で買付け)の売却に係る取引であるが、原告は、有田から、野村證券株の取引がうまくいったと聞かされて、初めて有田がアマダメトレックス株の売却益により何を買ったかを知ったという状況であった。

(6) 番号27ないし31

番号27・28の取引がされたと被告が主張する昭和六一年四月八日は、原告は出張中であり、株式取引の委託などなしえない。まして、出張中の同日午前一〇時四一分に一旦委託してこれを取り消し、午後二時二一分に再び委託をするなどありえないことである。

原告は、出張前に、有田から、「留守中に日立電線を売って、任天堂を買おうと思う。」と告げられたが、27ないし31に係るすべての取引について、報告は、この出張前の一回だけであった。

また、29ないし31の取引時間として被告が主張する時間帯は、広告は会社におり、委託はありえない。

(7) 番号32・33

番号32・33の取引時間として被告が主張する時間帯は、原告は会社におり、委託はありえないし、これら取引については事後報告があっただけであった。

(8) 番号35ないし37・39

番号35ないし37・39の取引がされたと被告が主張する昭和六一年四月二五日は、原告は出張中で、委託はなしえない。

これら取引については、事後報告もされていない。

(9) 番号40ないし55・58ないし68

番号40・42・46(三井東圧)・47・48(高岳製作所)・58ないし61(日清紡)・62ないし65(高岳製作所)・66(東急電鉄)については、昭和六一年六月中旬頃、原告が夕刻に帰宅後、有田から「三井東圧で多少損をしましたが、高岳製作所で逸回し、東急電鉄を買いました。信用株は今は日清紡を持っています。」との事後報告を受けただけであり、被告の主張する時間帯に委託をしたことはない。

その他の番号41・43ないし45・49ないし55・67・68については、事後報告すらなく、まして委託は存しない。

(10) 番号70ないし72・74・75

番号74(東急電鉄)・75(東京放送)については、有田から「東急電鉄を売って、東京放送を買った。」という旨の事後報告を受けただけであり、被告主張の時間帯における委託は存しない。

番号70ないし72の取引については事後報告すらうけておらず、委託も存しない。

(11) 番号77ないし80・82ないし86・89・90

番号77ないし80・82・83の取引の委託をしたとされる昭和六一年七月一五日は、原告は出張中であり、委託などなしえないし、番号84・85・90の取引については、原告が出張から帰ってきた後に、有田から、「日清紡では、いくらか損をしてしまいましたが、イトーヨーカ堂で逸回しました。その後、全日空を買いました。。」との事後報告を受けただけであり、いずれも被告の主張の時間帯に委託をしたことはない。

有田は、右報告に係る取引の間にも番号86・89の取引をしていたが、原告には報告しておらず、まして委託は存しない。

(12) 番号94・95・97・98

番号94・95・97・98の取引については、いずれも原告には報告すらされず、まして委託は存しない。

(13) 番号104ないし107・109ないし111

番号104ないし107・109ないし110の取引については、有田から、「信用株では、全日空を売った後、東芝で少し儲けました。今は、川崎製鉄が有望なので買いました。現物株では、東京電力がかなり儲かりました。東芝がまだ儲かりそうなので現物でも買っておきました。」との報告を受けただけであり、事後報告であって、事前の委託は存しない。また、右報告の間に、111(NKK)の取引をしていたようであるが、これについては原告は知らされてもいない。ちなみに、104・105の取引の委託をしたとされる昭和六一年八月一四日も、原告は勤務しており、委託することはできない。

(14) 番号112・113・118・119・121ないし124・126・131・132・137・143

昭和六一年八月ころから、有田は事後報告すらしないようになり、番号118・121・122・126・131の取引については、しばらくぶりに、「現物の方は、東芝で一儲けしました。もう少し東芝で行くつもりで買っています。信用の方も、川崎製鉄を売り、東芝を買っています。」との事後報告を受けただけであって、被告主張の時間の委託は存しない。

番号112・113・119・123・124・132・137・143の取引については事後報告すらされず、委託は存しない。

(15) 番号114・148・149・153・154

昭和六一年の一一月ころ以降は、有田は、ほとんど連絡しなくなり、たまに連絡をしても、具体的な取引についての報告をせずに、株式の厳しさを告げるだけであった。

したがって、番号144・148・149・153・154の取引についても、原告は事後報告すら受けず、まして委託も存しないものである。

(二) 原告が有価証券の売買によって得た売買益が課税所得となるとの主張(前記三1(一)(2)<3>及び<4>)に対する反論

原告は、昭和六一年の以前も以後も、反復継続して株式の取引をしたことはなく、昭和六一年においても、原告自身が営利を目的として反復継続して証券取引をしたわけではなく、野村證券担当者に一任していたものであるところ、旧法九条一項一一号及び旧令二六条一項は、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得のみを課税するとしており、本件においては、実質的に営利を目的とした継続的行為は存しない。

したがって、本件決定処分は、課税すべき実質的要件に欠ける。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第一争いのない事実

請求原因1及び、同2(一)(1)のうち、旧法二三四条及び国税通則法二五条が原告主張の規定をしていること、同2(一)(2)のうち、被告が二銘柄の株式について原告に問い合わせをしたこと、同2(三)のうち、国税通則法六六条一項に原告主張の規定があることについては、当事者間に争いがない。

被告の主張1(一)(1)、1(一)(2)の<1>ないし<3>のうち、別表二のうち番号4ないし7の取引(委託回数としては二回として計算すべきことに争いがない。)、原告が野村證券に委託して行った株式売買の回数及びその合計を除いたその余の事実及び計算関係、同1(一)(2)<5>のうち、原告の有価証券売買による所得が旧法三五条に規定する雑所得に当たるとする点を除くその余の事実、同1(一)(2)<6>のうち、原告の雑所得の金額が七一六六万九一一八円となるとの点を除くその余の事実、同(一)(3)のうち、原告の総所得金額が七六九〇万七二一五円となるとの点を除くその余の事実、同1(二)(1)の事実、同4(一)のうち、被告が所得税調査を行う必要があると判断したとの点及び原告に納税義務があると判断したとの点を除くその余の事実、同4(二)の事実については、当事者間に争いがない。

第二本件決定処分の根拠について

一  雑所得の金額について

1  被告の主張する原告の雑所得の金額から、原告の有価証券売買による所得以外については争いがない。

2(一)  被告は、原告の有価証券売買による所得は、本件株式取引について、その売買の委託の回数が七八回であり、課税要件たる五〇回を超えるから課税対象となるものとして本件決定処分を行ったと主張するところ、原告は、委託の回数は五〇回未満であり、課税対象とならないと反論するので、まず、この点について判断する。

(二)  成立に争いのない乙五号証の一ないし七〇、六号証の一ないし三五、一四、一五号証、証人有田明浩の証言により成立の真正を認める乙七号証の一ないし九一、一七号証、二三号証、証人有田明浩の証言、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件株式取引の開始に至るまでの経緯

原告は、昭和六〇年夏ころ、当時非公開株であったアマダメトレックス株の株式を所有していたが、同株式の東証二部上場に伴って株価が大幅に上がることが予想されたところ、野村證券厚木支店で、有田の前任者として原告の担当をしていた鈴木から、その売却を勧められた。そこで、原告は、そのころ、アマダメトレックス株の一部を売却し、その売却益を原資として、右支店において、まず信用取引を開始し、株式売買が始まった。

同年一二月、鈴木の転勤に伴い、有田が交代して原告を担当することとなり、このころより株式売買は本格化した。

(2) 本件株式取引の実際

原告と右支店との取引は、有田が、売買を推奨する、株式等の銘柄について具体的な情報を原告に提供し、原告がそれを承諾すると、売買の委託があったものとして、有田から証券取引所に対し、具体的な売買の注文がされた。有田からの注文は、右支店より、野村證券の本店を通じて右取引所に注文がされることにより、売買が成立するという形がとられた。

すなわち、原告から売買の委託を受けた場合、有田は、まず株式委託注文伝票(以下「注文伝票」という。)を作成し、それに基づき支店のコンピューターの端末から本店を通じて、東京証券取引所(以下「取引所」という。)に実際に売買が発注される。

この注文伝票は、原告からの注文の時間によって、取引所で取引が行われている時間、すなわち平日の午前九時から一一時、午後一時から三時、土曜日(休日となる週を除く。)の午前九時から一一時の時間帯の注文であれば、当日ないし翌日の取引所の取引開始までの間に作成される。もっとも、担当者が支店の外で注文を受けた場合には、時間にかかわらず、担当者において支店に電話し、支店の営業担当者により注文伝票が作成される。

そして、注文伝票が作成されたのが、取引所で取引が行われている時間帯であれば、直ちに支店から本店を通じて取引所に対して注文がされるが、それ以外の時間に作成された場合には、取引所で取引が開始されるまでの間に本店に対して注文依頼がされる。

注文伝票には、担当の支店(本件では厚木支店)より、本店に対して注文が送信された時刻が打刻される。

原告の株式取引のうち、昭和六一年分の取引(本件株式取引)に係る注文伝票は、乙七号証の一ないし九一であり、いずれも有田の作成によるものである。

(3) 原告による回答書の返送

野村證券では、毎月二回、現物取引、信用取引、発行日取引、国債先物取引と預り金残高、預り証券等の各項目についての明細(以下「明細書」という。)を作成して原告に送付し、原告はその内容に相違なければ、同封の回答書に署名捺印して野村證券に返送していた。

昭和六一年の原告による株式取引等に係る明細書は、乙五号証の一ないし七〇であり、回答書は、乙六号証の一ないし三五である。

乙六号証の一ないし三五にはいずれも原告の署名及び捺印がある。

(4) 原告は、当初、本件株式取引のうち、四六回については、原告の委託によるものであることを認めながら、後に、事前の委託によるものは二回だけでその余は否認するなど、その主張は必ずしも一貫しない(この点につき、原告は当初四六回委託を認めた旨の自白は事実に反し、かつ、錯誤に基づくものであるから撤回する旨主張する。しかし、そもそも具体的な個々の委託については、本件における主要事実ではないから自白の拘束力の問題ではなく、原告の主張に対する信用性の問題とすれば足りる。)。また、原告は、本件株式取引には、原告の事前の委託のないものも相当含まれていると主張し、甲六ないし九号証にはこれに沿う記載があり、原告本人尋問においても同旨を述べながら、一方で本件株式取引については課税されない範囲で有田に任せていたかのようにも供述する。

しかし、乙九ないし一一号証、一四ないし一六号証によれば、原告が野村證券を被告として本件株式取引による所得に対して課税されたことに対する損害賠償を求めた別件訴訟において、原告は、野村證券との間で非課税限度内で取引する旨の合意があったことを主張はしたが、本件株式取引の存在自体については、その上告審に至るまでは、争っていないこと(なお、右訴訟については、既に原告の敗訴が確定している。)、また、原告は、その一審である東京地裁における本人尋問において、昭和六一年の本件株式取引当時、原告が仕事により出張していた場合には、出張先から有田に連絡を入れたり報告を受けたりしており、有田から「そろそろ売り時です。」とか、「いい値がついたので、来週は売りますよ。」というような話を聞き、その時の状態で方針を打ち合わせたりしていたと供述していることが認められる。

また、乙六号証の一ないし三五の回答書には、それに対応する明細書の記載に相違ないものと認める趣旨で原告の署名及び捺印がされており、乙五号証の一ないし七〇の明細書には、いずれも有田によって原告の名義でされた株式取引等を、銘柄、値段、取引株数等の項目により明らかにしているから、原告による委託なしに、有田が原告に無断で取引をすることは不可能であると認められる。

右の諸点に照らすと、本件株式取引の中に委託のない取引が存在するとの原告本人の前記供述、甲六ないし九号証は、にわかに信用することができず、原告のこの点に関する主張は理由がない。

(三)  旧令二六条は、その年における株式の売買の回数が五〇回以上であること及び売買した株数の合計が二〇万株以上であることを、株式売買による所得に対する課税の要件として定めるところ、顧客が証券会社に委託して株式売買を行った場合における売買回数の算定については、売買の委託をした者が、証券会社に対して行った委託契約の回数によるものと解するのが相当である(所得税基本通達九―一五参照)。そして、この委託契約(以下単に「委託」という。)は、日時が異なれば、例え同一銘柄の売買の委託であっても、株価は変動するものであるから、委託としては別個であり、また、株式の売注文と買注文とは、取引の性質が異なるから、別個の委託と解すべきであるが、同一日時に複数の銘柄の株式の売注文ないし買注文を一括して行った場合には、これらをまとめて一つの売りないし買いの注文をする意思に基づくものとして、一個の委託によるものと解すべきである。すなわち、旧令二六条二項は、前述の所定の売買の回数及び売買に係る株数の合計を、同条一項に定める課税対象としての営利を目的とした継続的行為と推認させる事情と認めて、当該取引の具体的事情を考慮することなく課税対象とすることを定めた規定であると解されるところ、同一日時の一括した売注文ないし買注文については、目的の営利性ないし行為の継続性を推認させる事情としては、一つの売買の意思とみる方が妥当である。

(四)  右(二)及び(三)に基づき、以下、本件株式取引のうち、各個別の委託の有無及び委託の回数について判断する。

(1) 番号4ないし7について

番号4ないし7の取引については、原告の委託を二回と計算することについて争いがない。

(2) 番号9ないし11について

番号9ないし10の取引については、乙五号証の八、九、六号証の五、七号証の四から、原告の委託による取引と認められ、その回数は、乙五号証の八、九、六号証の五によれば、合計一二万株の取引として一括されており、また、乙7号証の四の注文伝票も一枚であるところから、原告の委託も一回であったと推認するのが合理的であるから、番号9及び10で一回の委託とみるべきである。

また、番号11の取引は、乙五号証の一〇、六号証の六、七号証の五から、原告の委託による取引と認められ、委託の回数は一回である。

原告は、番号9ないし11の取引について、被告の主張する委託の時間が、三月一三日午前九時四二分及び同日午前九時五〇分であることから、原告の勤務時間中であって委託はないと主張する。しかし、原告は、当初、番号9ないし11の委託の存在について認めていたにもかかわらず、被告が委託の具体的な時間の主張をしたところ、勤務時間中にあって委託はない旨の主張をするに至ったものである。

番号9ないし11の取引については、乙七号証の四、五に打刻された時間はそれぞれ午前九時四二分及び午前九時五〇分であるが、これらの時間は、前記(二)で認定の事実及び証人有田明浩の証言によれば、野村證券の厚木支店から本店に対して注文を送信した時刻であることが認められるから、原告の委託が右の時刻そのものであることにはならず、勤務時間中であるから、委託できないということは、その前提を欠く。これに加え、前述の主張の変遷を考慮すると、原告の右主張は理由がない。

また、番号9ないし11の取引につき、原告は、これらはアマダメトレックス株の売却以前の取引であるところ、当時、担当者が原告の勤務先に電話することを厳禁しており、また原告の方から連絡をしたこともないとも主張する。しかし、アマダメトレックス株については、番号13及び14の取引でこれを売却する以前の昭和六〇年の時点で、本件一連の株式売買を始めるに当たり、その原資を作るために売却したことがあったことは前記(二)(1)のとおりであり、また、原告の方から勤務時間中に有田に連絡をとったことがあると考えられることは、前記(二)(4)のとおりであるから、いずれにしろ理由がない。

(3) 番号13ないし15について

番号13ないし15の取引については、乙五号証の一〇、六号証の六、七号証の六ないし九により、原告の委託によるものと認められ、その回数は、番号13及び14の取引につき、一括アマダメトレックス株の売却に係るものとして、一回とみるべきであり、番号13ないし15で都合二回の委託があったものとみるべきである。

乙七号証の六からは、本店に対する注文の時間の打刻があることは認めがたいが、乙五号証の一〇により、本店に対する注文自体はされたことが認められる。

原告は、番号13及び14のアマダメトレックス株の売却により正式に株式売買が始まったかのような主張をするが、それ以前から既に正式な株式売買を行っていたことは前記のとおりであり、原告の主張は理由がない。

(4) 番号16・17・19について

番号16・17・19の取引については、乙五号証の一〇ないし一二、六号証の六、七号証の一〇ないし一三によれば、原告の委託による取引と認められ、委託の回数は、それぞれ一回の合計三回である。

原告は、事務報告すらなく、委託はないと主張するが、乙五号証の一〇ないし一二の明細書に対して、乙六号証の六のとおり相違ない旨の回答書を返送しており、理由がない。

(5) 番号20・21について

番号20・21の取引については、乙五号証の一三、六号証の七、七号証の一四により、原告の委託による取引と認められ、その委託の回数は一回である。

原告は、事後報告すらなく、委託はないと主張するが、乙五号証の一三の明細書に対して乙六号証の七のとおり相違ない旨回答書を返送しており、理由がない。

(6) 番号22ないし24について

番号22ないし24の取引については、乙五号証の一六、六号証の八、七号証の一五、一六により原告の委託による取引と認められ、その委託の回数は、番号22及び23で一回、番号24で一回の合計二回である。この点に関する原告の主張は前同様、理由がない。

(7) 番号27ないし31について

番号27ないし31の取引については、乙五号証の一三、一六、六号証の七、六、七号証の一七ないし二一によれば、原告の委託による取引と認められ、その委託の回数は、番号29及び30で一回の合計四回である。

原告は、これらの取引につき、出張や勤務中で有田に連絡をとることはありえないし、とりえないと主張するが、原告が出張先等から有田に連絡をとっていたことは前記のとおりであって、理由がない。

(8) 番号32・33

番号32・33の取引については、乙五号証の一六、六号証の八、七号証の二二、二三によれば、原告の委託によるものと認められ、委託の回数は二回である。この点に関する原告の主張は、前同様理由がない。

(9) 番号35ないし37・39

番号35ないし37・39の取引については、乙五号証の一九、六号証の九、七号証の二四ないし二六によれば、原告の委託によるものと認められ、委託の回数は、乙七号証の二四及び二五によれば、番号三五及び三七が同一時刻の売注文であることから、一回で、合計二回である。

原告は、出張中で委託しえないと主張するが、出張中でも原告が委託をしていたことは前述のとおりである。

(10) 番号40ないし55・58ないし68

番号40ないし55・58ないし68の取引については、乙五号証の二四、二六ないし二九、六号証の一一、一二、七号証の二七ないし四九によれば、原告の委託によるものと認められ、委託の回数は、番号43ないし45、65及び66の取引が、同一時刻ではあるものの、売注文と買注文で異なっており、これは別々の委託として計算すべきものであるから、別表二の「被告主張の回数」欄のとおりとなり、合計二一回である。この点に関する原告の主張は理由がない。

(11) 番号70ないし72・74・75

番号70ないし72・74・75の取引については、乙五号証の二八、三一、六号証の一二、一三、七号証の五〇ないし五四によれば、原告の委託によるものと認められ、委託の回数は、番号74と75の取引が、同一時刻ではあるものの、売注文と買注文で異なっており、これは別々の委託として計算すべき者であるから、合計五回である。この点に関する原告の主張は理由がない。

(12) 番号77ないし80・82ないし86・89・90

番号77ないし80・82ないし86・89・90の取引については、乙五号証の三四ないし三六、六号証の一四、一五、七号証の五六ないし五九、六一、六二によれば、原告の委託によるものと認められ、委託の回数は、番号89及び90の取引が、同一時刻ではあるものの、売注文と買注文で異なっており、これは別々の委託として計算すべきものであるから、合計六回である。この点に関する原告の主張は理由がない。

(13) 番号94、95、97、98

番号94、95、97、98の取引については、乙五号証の三八、六号証の一六、一七、七号証の六三ないし六六によれば、原告の委託によるものと認められ、委託の回数は、番号97、及び98の取引が、同一時刻ではあるものの、売注文と買注文で異なっており、これは別々の委託として計算すべきものであるから、合計四回である。この点に関する原告の主張は理由がない。

(14) 番号104ないし107・109ないし111

番号104ないし107・109ないし111の取引については、乙五号証の四一、四四、六号証の一八ないし二一、七号証の六七ないし七四によれば、原告の委託によるものと認められ、委託の回数は、番号111及び111は、同一時刻の買付けの委託であるから一買いと数えるが、それと番号109とでは、同一時刻ではあるものの買注文と売注文とで異なるので別個に数え、合計六回である。この点に関する原告の主張は理由がない。

(15) 番号112・113・118・119・121ないし124・126・131・132・137・143

番号112・113・118・119・121ないし124・126・131・132・137・143の取引については、乙五号証の四四、四八、五一、五四、五七、六号証の二〇ないし二九、七号証の七五ないし八六によれば、原告の委託による取引と認められ、委託の回数は、番号118及び119、121及び122は、同一時刻の委託であるからそれぞれを一回と数えるが、それらは、同一時刻ではあるものの売注文と買注文とで異なるので別個に数え、合計一一回である。この点に関する原告の主張は理由がない。

(16) 番号144・148・149・153・154

番号144・148・149・153・154の取引については、乙五号証の五七、六三、六九、六号証の二八ないし三五、七号証の八七ないし九一によれば、原告の委託による取引と認められ、委託の回数は番号143と144とは同一時刻の売注文と買注文であるからそれぞれ一回と教え、148と149、153と154とも同様であるから、合計五回である。この点に関する原告の主張は理由がない。

(五)  右(四)によれば、原告は、別表二のとおり、本件株式売買の委託をしたものであり、その委託回数は、右(1)ないし(16)で認定した個別の委託の回数の合計七八回であると認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

(六)  原告は、旧法九条一項一一号及び旧令二六条二項は、課税対象となる株式売買の回数の計算方法が不明確で、租税法律主義に反すると主張するが、旧法九条一項一一号は有価証券の譲渡所得のうち課税所得となるものの具体的範囲を政令に委任し、旧令二六条二項は、それを受けて、売買の回数が五〇回以上で、かつ、その売買をした株数又は口数の合計が二〇万以上であることをその要件としたものであって、基準は明確であって、租税法律主義に反するところはなく、原告の主張は理由がない。

3  また、原告は、本件株式取引を、営利を目的として継続的に行ったものではない旨主張し、その理由として昭和六一年以前も以後も株式の取引をしたことはないこと、本件株式取引も野村證券担当者の有田に任せていたことをあげる。しかし、そもそも旧令二六条二項は、売買の回数が五〇回以上で、かつ、その売買をした株数又は口数の合計が二〇万以上である場合には、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得に該当し、同条一項の場合に当たる旨定めたものであって、原告の主張はそもそも理由がない。それをひとまずおくとしても、前記(二)(1)のとおり、原告は、有田に対する株式売買の委託をする以前の昭和六〇年中から、野村證券の鈴木との間で信用取引を行っており、また、乙一四号証によれば、原告は、昭和六一年の野村證券厚木支店との取引の後も、同證券お茶の水支店と取引をしていたことが認められる。

以上によれば、原告が本件株式取引を営利を目的として継続的に行ったことは明らかであり、いずれにしろ原告の右主張は理由がない。

二  本件決定処分の根拠について

右一によれば、原告の委託による本件株式取引の回数は七八回であり、その売買株式の株数の合計は、乙六号証の一ないし三五、七号証の一ないし九一によれば、三七六万九六〇〇株であることが認められるから、委託に基づく売買回数が五〇回以上で、かつ、売買株数の合計が二〇万株以上という旧令条二項の基準に該当するから、課税所得となる。

第三本件賦課決定処分の根拠について

一  原告は、本件株式取引が、非課税範囲内で行われることを条件として有田に対して株式取引を委任しており、野村證券もその範囲内で取引を行ったと原告に対して回答していた、また、旧法九条一項一一号、旧令二六条二項は原告において正確に計算できるようなものではないから、期限内に申告書を提出しなかったことにつき正当な理由があると主張する。

二  しかし、原告が本件株式取引を非課税範囲内で行うことを野村證券担当者との間で合意したとする点及び同證券もその範囲内で取引を行ったと原告に回答したとする点については、別件訴訟において、否定されており、本件前証拠をもってしてもそれを認めるに足りない。

また、前記第二・一2(六)において述べたとおり、旧法九条一項一一号、旧令二六条二項の基準は明確であって、原告において計算できないようなものではなく、その他、原告において、申告書を期限内に提出できないことについて正当な理由があると認めるべき事情もないから、原告の右主張は理由がない。

第四本件各処分に対する原告の主張について

一1  原告は、反面調査を端緒としてされた本件質問検査権の行使は違法であって、また、質問検査権を行使する客観的な必要性がなかったのにされたものであるから、本件各処分は違法になる旨主張する。

2  しかし、成立に争いのない(但し、赤線部分は除く。)乙四号証、弁論の全趣旨によれば、他の者に対する調査の必要から、原告に対し株式取引に関する問い合わせをしたところ、原告が株式取引を行っていることが明らかになったことが認められ、本件において、これをきっかけに、被告が、原告の行っている株式取引について、課税要件に該当するかどうかについて調査する必要があると判断したことは正当であって、更に、これを明らかにするには、質問検査権を行使する必要があったものと認められる。右の点に何ら違法はなく、原告の右主張は理由がない。

二1  原告は、本件各処分による課税が、本件株式取引によって得た利益の額をはるかに超え、原告の全財産を奪うことになり、不合理である旨主張する。

2  原告の趣旨とするところは必ずしも明確ではないが、原告は昭和六一年の本件取引によって、後記のとおり九億九〇〇〇万円余にものぼる収入を得、諸経費を差し引いても七一〇〇万円余の売買益を上げたものであるから、必ずしも、本件のような課税がされることを予測せず、また、その後の株式取引における、株価の変動等により、結果的に右の利益を上回る損失を被ったとしても、それは原告の責めに帰すべき事情というほかなく、本件各処分を不合理ないし違法とする理由とはなりえないというべきである。

原告の右主張は理由がない。

第五結論

一  本件決定処分の適法性について

1  以上の検討により、原告の本件株式取引を含む有価証券売買による所得は、課税所得となるが、その分類は、旧法二三条ないし二六条、二八条ないし三四条のいずれの所得にも該当せず、また、原告が当時アマダに勤務し、給与所得を得ていたことについては争いがないから、右所得は、雑所得に当たるものと認められる。

2  そして、以上認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、原告の昭和六一年の有価証券売買による雑所得は、前記被告の主張1(一)(2)のとおりで、その金額は、七一六六万九一一八円(金額の計算については争いがない。)となる。

3  原告の総所得金額は、給与所得の金額(争いがない。)と右雑所得との合計額となるから、その額は七六九〇万七二一五円(金額の計算については争いがない。)となり、ここから所得控除額一五五万六四四五円(争いがない。)を控除して、国税通則法一一八条一項の規定により千円未満の端数を切り捨てて課税総所得金額を算出すると、七五三五万円となる。

そして、旧法八九条一項の規定による税率を乗じて所得税額を算出し、更にそこから源泉徴収した所得税額五六万一三〇〇円を控除した額は、四〇四九万四七〇〇円となる。

一方、本件決定処分による総所得金額及び納付すべき税額は、それぞれ七五二二万一四四九円及び三九三九万九四〇〇円であり、いずれも右金額の範囲内であるから、本件決定処分は適法である。

二  本件賦課決定処分の適法性について

前記第三のとおり、原告が法定期限内に確定申告をしなかったことについて正当な理由があるとは認められないから、本件決定処分により納付すべき税額三九三九万円に、一〇〇分の一〇の割合を乗じた金額三九三九万九〇〇〇円を無申告加算税として賦課した本件賦課決定処分は適法である。

三  よって、本件各処分はいずれも適法であり、原告の本訴請求は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 今井弘晃 裁判官秋武賢一は、転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 浅野正樹)

別表一

本件処分の経緯

<省略>

別表二

売買回数検討表

<省略>

売買回数検討表

<省略>

売買回数検討表

<省略>

別表三

信用取引

<省略>

別表四

現物取引(株式)

<省略>

現物取引(株式)

<省略>

現物取引(公社債)

<省略>

現物取引(公社債)

<省略>

現物取引(投資信託)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例