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横浜地方裁判所 平成4年(ワ)3284号の3 判決 1998年7月29日

横浜市<以下省略>

甲事件原告

X1

神奈川県<以下省略>

甲事件原告

X2

神奈川県横須賀市<以下省略>

乙事件原告

X3

右三名訴訟代理人弁護士

杉崎明

武井共夫

星野秀紀

小野毅

小賀坂徹

小林俊行

飯田直久

石戸谷豊

芳野直子

鈴木義仁

山本英二

関博行

関一郎

山本安志

佐藤嘉記

高橋宏

中村宏

根岸義道

星山輝男

宮澤廣幸

藤田温久

大塚達生

高田涼聖

田中誠

乙事件原告訴訟代理人弁護士

山崎健一

東京都千代田区<以下省略>

両事件被告

大和証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

篠塚力

松鵜潔

主文

一  乙事件被告は、乙事件原告X3に対し、金六四六万三五〇四円及びこれに対する平成七年二月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件原告X3のその余の請求を棄却する。

三  甲事件原告X1及び甲事件原告X2の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、

1  甲事件原告X1と甲事件被告との間に生じたものは、全部甲事件原告X1の、

2  甲事件原告X2と甲事件被告との間に生じたものは、全部甲事件原告X2の、

3  乙事件原告X3と乙事件被告との間に生じたものは、これを五分し、その三を甲、乙事件被告の負担とし、その余を乙事件原告X3の

それぞれ負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件原告X1(以下「原告X1」という。)の請求

両事件被告(以下「被告」という。)は、原告X1に対し、二二一一万六四八五円及びこれに対する平成四年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件原告X2(以下「原告X2」という。)の請求

被告は、原告X2に対し、五七二〇万九一七七円及びこれに対する平成四年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  乙事件原告X3(以下「原告X3」という。)の請求

被告は、原告X3に対し、一一九二万七〇〇八円及びこれに対する平成七年二月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要等

一  事案の要旨

本件は、被告外務員の勧誘により被告との間で一連のいわゆるワラント取引を行って損失を被った原告らが、ワラントの販売自体が違法であること、被告外務員が原告らにワラントを勧誘したことには適合性原則違反の違法があり、さらに、その具体的勧誘行為にも、被告外務員が説明義務を怠る等の違法があったと主張して、被告に対し、民法七〇九条又は同法七一五条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

二  当事者に争いのない事実等(1(一)以外は当事者に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告ら

(1) 原告X1

原告X1は、大正四年○月○日生まれであり、被告との最初のワラント取引である日本信販ワラントを買い付けた当時、七四歳であった(甲三一七Bの一)。

(2) 原告X2

原告X2は、昭和二五年○月○日生まれであり、被告との最初のワラント取引であるNTNワラントを買い付けた当時、三八歳であった(甲三二〇の一)。

(3) 原告X3ら

原告X3は、昭和二七年○月○日生まれであり、被告との最初のワラント取引である森永乳業ワラントを買い付けた当時、三六歳であった(甲三五三の一)。

訴外B(以下「B」という。)は、昭和二七年○月○日生まれであり、右森永乳業ワラントを買い付けた当時、三五歳であった(甲三五三の二)。

(二) 被告は、肩書地に本店を有し、有価証券等についての自己売買、売買の委託の媒介・取次・代理、引受け・売出し、募集又は売り出しの取扱いについて大蔵大臣から免許を受けたいわゆる総合証券会社である。

2  ワラントの定義等

(一) ワラントの定義

ワラントとは、「新株引受権付社債」の内「新株引受権」の部分をいうが、分離型ワラントは、社債部分から分離された新株引受権部分のみが証券化され、取引されているものである。

(二) ワラント債導入の経緯

新株引受権付社債(以下「ワラント債」ともいう。)の発行に関する法制は、昭和五六年の商法改正で立法化されたものであるところ(商法三四一条ノ八以下)、その内新株引受権部分のみを証券化するいわゆる分離型ワラントについては、昭和五六年九月三〇日付け日本証券業協会理事会決議をもって、新株引受権証券の流通市場の受入体制が整備されるまでの間その取引を行わないこととされたが、それから四年を経た昭和六〇年一〇月三一日に日本証券業協会は右決議を廃止し、同年一一月以降には分離型ワラントの国内発行が、昭和六一年一月以降には海外で発行された分離型ワラントの国内取引がそれぞれ行われることとなった。

(三) 分離型ワラントの商品性(以下、特に断らない限り、分離型ワラントの新株引受権証券を「ワラント」という。)

(1) ワラントの権利内容

ワラントは、予め決められた期間(権利行使期間)内に、ワラント発行会社に対し、一定の価格(権利行使価格)で一定数の新株の発行を請求する権利を表章する証券である。

(2) 権利行使期間及び権利行使価格

権利行使期間及び権利行使価格は、いずれもワラント債の発行時に定められるが、権利行使期間は、国内で発行されるワラントは六年、海外で発行されるワラントは四ないし五年であるのが一般的である。

(3) ワラントの価格

ワラントの価格の内、理論的価格(以下「パリティ」ともいう。)と呼ばれる部分はワラント発行会社の株価(以下「原株価」という。)の変動に連動するけれども、実際のワラント取引価格は、残存権利行使期間内の将来の原株価の変動に対する期待等が影響するから、これと必ずしも一致しない(この実際の取引価格とパリティとの差額部分を「プレミアム」という。)。

(4) ワラントの売買価格の決定

ワラントの実際の取引における売買価格は、当初、前日のロンドン業者間マーケットの最終気配値を基準として当日の東京株式市場の原株価動向を考慮して各社が独自に決定していた。しかし、平成二年九月二五日以降、公社債の業者間売買を専門に仲介する株式会社日本相互証券(BB証券)の取引時間中に売買取引を行う際には、業者間取引において日本相互証券に発注されている売買注文の銘柄毎の直近の中値を基準とする一定の値幅で売買が行われるようになった。

(5) 相対取引

海外で外貨建てで発行されたワラント(以下「外貨建ワラント」という。)は、国内取引所に上場されていないため、そのほとんどが店頭における相対取引で取引される。

3  原告らの各ワラント取引

(一) 原告X1のワラント取引

原告X1は、被告横浜支店の外務員C(以下「C」という。)及び同D(以下「D」という。)の勧誘により、被告との間で、別紙原告X1ワラント取引一覧表記載のとおり、ワラント取引をした。

(二) 原告X2のワラント取引

原告X2は、被告厚木支店の外務員E(以下「E」という。)及び同F(以下「F」という。)の勧誘により、被告との間で、別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、ワラント取引をした。

(三) 原告X3のワラント取引

原告X3と被告との間には、別紙原告X3ワラント取引一覧表記載のとおり、原告X3名義のワラント取引がある。

三  争点とそれに対する当事者の主張

本件における争点は、①ワラント及びその取引が一般投資家にとって危険なものであるか、②ワラントを一般投資家に勧誘・販売すること自体が違法であるか、③原告らに対しワラントを勧誘することが適合性の原則に反するか、さらに、被告外務員らによる原告らに対するワラントの具体的勧誘行為において、④説明義務違反があったか、⑤断定的判断の提供、虚偽の表示、誤解を生ぜしむるべき表示等があったかであるところ、各争点についての当事者の主張は、以下のとおりである。

1  ワラント及びその取引の危険性について

(原告らの主張)

ワラントは、周知性がない上、転換社債や株式等の証券商品と異なり、次のような特質と危険性を有する極めて複雑でかつ投機的色彩の強い商品である。したがって、ワラントは、株式等について取引経験を重ねた一般投資家にとっても、その値動きを予測して合理的な投資判断をすることが格段に困難な商品である。

(一) ワラント及びその取引の危険性

(1) ワラントの経済的価値

新株引受権を行使しようとするワラント保有者にとって、現実の原株価が新株一株当たりの権利行使価格とワラントの買付価額の合算額を超えない限り、ワラントの経済的価値はない。

さらに、原株価が権利行使価格を下回っている場合には、その新株引受権を行使する利益はないから、その状態のままで権利行使期限を迎えるワラントはまさに「紙くず」に帰すこととなる。

(2) 権利行使期間の存在による制約

ワラントに対する投資資金の回収方法は、ワラント自体を売却するか、新たな資金をワラント発行会社に払い込んで新株引受権を行使するかのいずれかであり、その選択が予め定められた権利行使期間内に限られることが特徴である。

その上、ワラント自体の売却は、残存権利行使期間が二年を切るころから困難となり、一年を切るとその可能性が極めて乏しくなってしまうから、ワラントを売却して投資資金を回収しようとする場合は、実質的な権利行使期間は残存権利行使期間が二年以上存する期間に限られる(権利行使期間が四年のワラントの場合には概ね二年間となる。)。

(3) ワラントの価格

① ワラントの価格変動の大きさ

ワラントの価格は原株価の変動率の何倍もの変動が生じるのが通常であるから、ワラントは、ハイリスク・ハイリターンの商品である。

② ワラントの価格形成過程の複雑性

ワラントの価格は、原株価に連動する理論的価格であるパリティ部分と原株価の上昇期待感等で形成されるプレミアム部分とで構成されるが、プレミアム部分については、それを決定する客観的・合理的な基準が存在しないから、結局、実際のワラントの取引価格と原株価との連動性が明確であるわけでなく、ワラントの取引価格の形成過程は複雑であって、その予測は一般に困難なものとなる。

したがって、プレミアム部分のワラントの価格に占める割合が大きなワラントの取引価格は、原株価の動きに対し特に複雑な動きをする傾向があるから、その予測は非常に困難となる。

③ ワラントの価格情報の少なさ

ワラントの価格は、平成元年四月末まで新聞紙上公表されず、その後も限定された銘柄についてのみ公表されていたから、一般投資家が入手可能なワラント価格に関する情報は決定的に不足していた。そして、公表される価格情報がポイント数であることも一般投資家にとって適当でないというべきである。

(4) 相対取引

ワラント取引は、ほとんど全てが証券会社とのいわゆる店頭の相対取引で行われているが、これにより証券会社と顧客たる投資家とが利益相反の関係に立つことになる。また、証券会社はワラントの価格の内プレミアム部分を自由に設定することによってワラントの価格を思うがままに設定することができるから、その価格形成過程は、不公正かつ不透明なものである。

(5) 為替リスク

外貨建ワラントを売却する場合、為替変動による危険が存在する。

(二) 原株価が権利行使価格を下回っているワラント及びその取引の危険性

原株価が権利行使価格を下回っているワラントは、その価格の全てがプレミアム部分で構成されているから、より複雑な値動きをする上、将来原株価が上昇して権利行使価格を上回るそれ相当の見込みがなければ、当該ワラントに対する投資は無意味であり、投資金の全部を失う恐れが強いという特別の危険性を有する。

(被告の主張)

(一) ワラント及びその取引の危険性

(1) ワラントの価格

ワラントの価格は、一定の数値、基準により決定されているから、不公正又は不透明なものではない。

そして、ワラントの価格は、当初こそ公表されなかったものの、平成元年五月一日以降その一部が発表されるようになり(日本経済新聞紙上等に掲載された。)、平成二年九月二五日以降は、日本相互証券から売買注文の気配、約定値段、出来高等の情報が発表され、店頭でリアルタイムに画面表示されたほか、午前午後の取引終了後の情報が日本経済新聞紙上等に毎日掲載されるようになった。

なお、被告は、平成三年一〇月以降、「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」という価格表を作成して投資家に交付しているが、この価格表には、当該投資家の保有ワラントの内残存権利行使期間が二〇か月を切った銘柄について、二月、五月、八月及び一一月の各月末日における価格が記載されていた。

(2) 権利行使期限の経過

ワラントが権利行使期限の経過により無価値となることは、ワラントの性質及びその発行時に決定された条件から当然投資家が予想し得るところであり、投資家が全く予想しない時点において突然無価値となるものではない。

(3) 為替相場の影響

外貨建ワラントの売買約定代金は為替変動の影響を受けるが、為替の変動幅は通常小幅であるし、投資家が為替レートの情報を得ることは容易である。

なお、新株引受権を行使する場合は、為替レートが発行時に予め固定されているため、権利行使価格や引受株数が為替変動で左右されることはない。

(4) ワラントの価格形成

パリティはワラントの本質的・理論的価値を示すものであり、ワラントの価格は原則としてパリティを基準として変動する。そして、原株価が権利行使価格を下回っている場合でも、パリティは価格形成及び投資行動の重要な基準となっている。

(5) ワラントの残存権利行使期間とワラントの売買

ワラントの残存権利行使期間が一年を切ると、業者間取引でのマーケット・メークの義務が無くなるに過ぎず、また、残存権利行使期間が二年を切っても、通常の数量のワラントの売買は活発に行われている。

(6) 相対取引

売買取引件数がさほど多くない銘柄のワラント取引においては、市場取引を行っても、投資家の売りと買いが合致しないため売買が成立せず、商いが格段に減少してしまうことになるのである。したがって、証券会社がマーケット・メークをしつつ相対取引をすることにより、投資家は、証券会社が呈示する価格で売買する機会を得ることができているのであり、ワラント取引が相対取引で行われるのは合理的であるというべきである。

(7) マーケット・メークされる銘柄

マーケット・メークされる銘柄は全発行銘柄の内約三分の二を占めており、残りの三分の一は残存権利行使期間が少なくなった銘柄等のみである。

(二) ワラント投資の利点

ワラント投資には次のような利点が存在するのであり、ワラント及びその取引の危険性のみを誇張してこれを評価することはできない。

(1) 少額の資金による投資の可能性

ワラント投資は、株式投資(株式の信用取引では三〇パーセント以上の証拠金が必要である。)に比べ、少ない資金で投資が可能であり、余剰資金を他に投資することも可能となる。

(2) 高収益性

ワラントは、原株価の上昇時には、いわゆる「ギャリング効果」により、株式投資以上の高収益を享受することができる。

(3) リスク限定性

ワラントの価格は原株価に連動して上下し、ハイリスク・ハイリターンに推移するけれども、リスク商品であるという点では株式等と同様である上、その投資リスクは投資金額に限定される。

(4) 中・長期的投資性

ワラントの権利行使期間は四ないし六年であるのが一般であるから、最大でも六か月のうちに決済しなければならない株式の信用取引と比較すれば、中・長期的に投資に臨むことができる。

(三) 原株価が権利行使価格を下回っているワラント及びその取引の危険性について

原株価が権利行使価格を下回っているか否かは、投資判断をする上での一つの判断材料に過ぎず、原株価が権利行使価格を下回っているワラントが直ちに投資に不適格となるわけではなく、かかるワラントが格段の危険性を有するともいえない。

2  ワラントを一般投資家に勧誘すること自体の違法性について

(原告らの主張)

(一) ワラントを勧誘することの違法性

前述のように、ワラントは、当時の一般投資家に対する周知性がなかったばかりでなく、その商品性を理解して合理的な投資判断をすることが困難であり、にもかかわらず、高度の危険性を有するのであるから、そもそも一般投資家に対し勧誘することが許されない商品であるというべきである。

したがって、被告が一般投資家にワラントを勧誘すること自体が違法である。

(二) 原株価が権利行使価格を下回っているワラントを勧誘することの違法性

前述のように、原株価が権利行使価格を下回っているワラントは、通常のワラントの危険性に加えて特段の危険性を有するのであるから、一般投資家に対し勧誘することがより一層許されない商品であるというべきである。

したがって、被告が一般投資家に原株価が権利行使価格を下回っているワラントを勧誘すること自体が違法である。

(被告の主張)

(一) ワラントを勧誘することの違法性

前述のようなワラントの特質、中でも少ない投資資金と限定されたリスクで信用取引等と同程度の投資効率を期待できることから、ワラントは、ハイリターンを求める一般の個人投資家にとって魅力的な商品であるというべきである。したがって、被告が一般投資家にワラントを勧誘すること自体が違法であるとは到底いえない。

(二) 原株価が権利行使価格を下回っているワラントを勧誘することの違法性

原株価が権利行使価格を下回っているワラントについても、それが格段の危険性を有するとはいえないから、被告が一般投資家にこれを勧誘すること自体が違法であるということはできない。

3  適合性の原則違反について

(原告らの主張)

(一) 適合性原則違反の違法性について

証券会社には顧客に対し最も適合した投資勧誘を行うべき義務があり、この義務は、昭和四九年一二月二日付け蔵証第二二一一号の通達(「投資者本位の営業姿勢の徹底について」)、昭和五八年一一月一日付け蔵証第一四〇四号の通達(「株式店頭市場の適正な運営について」)及び証券取引法五四条一項一号に明文化されている。

したがって、証券会社及びその外務員がワラント取引に適合しない投資家にワラントを勧誘することは、私法上も違法性を帯びる。

そして、前述のとおり、ワラントは極めて投機的な色彩の強い商品であることに照らすと、ワラントを一般投資家に勧誘するに際しては、厳しい適合性が要求されるというべきである。

(二) 原告X1について

原告X1は、日本信販ワラントを買い付けた時点で既に七四歳の高齢者であり、昭和六二年から○○市民病院に入退院を繰り返し(昭和六二年四月一日から同年七月九日まで、昭和六三年四月一日から五月二三日まで、平成二年一月一九日から八月六日までそれぞれ入院した。)、人工膀胱を付けた障害等級四級の身体障害者であった上、証券取引の経験はあるものの、その取引対象は現物株等に限られ、信用取引等の投機的な取引の経験を持たない者であった。また、洋品販売業に従事してはいるが、これを経営しているのではなく、手伝っていたに過ぎないのであり、ワラントの投資資金は老後のための資金であったから、C及びDが原告X1にワラントを勧誘することは、適合性の原則に反し違法である。

(三) 原告X2について

原告X2は、昭和六二年に日本電信電話株式会社の株式を購入して証券投資を始め、平成元年七月以降被告との間で証券取引を開始したに過ぎず、その証券取引の経験は短かった上、その取引対象は現物株及び転換社債に限られ、信用取引等の投機的な取引の経験はなかったから、E及びFが原告X2にワラントを勧誘することは、適合性の原則に反し違法である。

(四) 原告X3について

原告X3は、昭和六二年から証券取引を本格的に開始したに過ぎず、その証券取引の経験は短かった上、その取引対象は現物株等に限られ、信用取引等の投機的な取引の経験はなかったのであり、また、ワラントの投資資金は将来の生活のための資金であった。また、その妻Bは、専業主婦であり、証券取引の知識は極めて乏しかったから、被告新宿センタービル支店のG(以下「G」という。)が原告X3あるいはBにワラントを勧誘することは、適合性の原則に反し違法である。

(被告の主張)

(一) 適合性原則違反の違法性について

昭和四九年一二月二日付け蔵証第二二一一号及び昭和五八年一一月一日付け蔵証第一四〇四号の各通達は行政指導に過ぎず、各通達により公法上の義務を負うか否かは別として、私法上顧客に対し何らかの義務を負うわけではなく、また、証券取引法五四条一項一号も、これに基づいて大蔵大臣の行政処分を受けることがあることは別にして、この条文から直ちに私法上の義務が導かれるわけではないから、私法上の義務としていわゆる適合性の原則が証券会社に課せられているということはできない。

仮に、私法上の義務として適合性の原則が存在するとしても、以下に述べるように、本件においては、被告の外務員が原告らにワラントを勧誘したことが、適合性の原則に反し違法であるということはできない。

(二) 原告X1について

原告X1は、洋品店を経営し、経済の動きに敏感な者であり、高齢で障害等級四級であるといっても、証券取引における理解力や判断能力は十分であって、また、昭和四六年二月から被告との間で株式等の証券取引を開始し、繋ぎ売りのためとはいえ信用取引の経験もあり、二〇年を越える豊富な証券取引の経験と知識を有しており、訴外日興證券株式会社(以下「日興證券」という。)との間での証券取引においても、多数の外国株をはじめ延べ二一銘柄のワラント取引の経験を有している。これらに照らしても、ワラントの勧誘を受けるについて十分な適合性を有する者である。

(三) 原告X2について

原告X2は、昭和四八年に○○大学卒業後、レストラン経営等を目的とする株式会社○○商事を経営する壮年の実業家で、その傍らで不動産業にも従事するなど、経済の動きに敏感な者であって、また、被告との取引を開始する以前から他社との間で株式等の証券取引を行い、相当程度の投資経験を有していたのであるから、ワラントの勧誘を受けるについて十分な適合性を有する者である。

(四) 原告X3について

原告X3は、○○大学法学部卒業後、大手商社である○○商事株式会社に勤務し、被告との間のワラント取引の当時右会社の一線で活躍していたのであって、経済の動きに敏感なだけでなく、証券投資のリスクについて十分に理解する能力を有する者であって、また、昭和五三年一月から被告との間で株式を中心に非常に活発な証券取引を行い、豊富な証券取引の経験と知識を有し、外国証券取引口座設定約諾書に署名押印の上、外国証券の取引も行っていたのであり、一方、Bは、○○大学法学部を卒業した者で、証券投資のリスクについて十分に理解する能力を有する者であって、また、原告X3を代理して証券取引を行うばかりでなく、自らも証券取引の経験を有していたことから、原告X3及びBは、ワラントの勧誘を受けるについて十分な適合性を有する者である。

4  説明義務違反について

(原告らの主張)

(一) 説明義務違反の違法性について

(1) 証券会社は、証券取引業に関し専門的かつ豊富な知識・経験を有し、その資力、知識、経験、情報の収集、またその利用等の全ての点で、一般投資家に比べて圧倒的に優位な立場に立っている。したがって、証券会社には、一般投資家にワラントを勧誘するに際し、信義則上ないし社会通念上ワラントについての説明義務が課せられているというべきである。

なお、平成四年法律第七三号による改正前の証券取引法五八条二号、一二五条二項三号、五〇条五号、証券会社の健全性の準則等に関する省令一条一号等は、証券取引の勧誘に際し、証券会社及びその外務員が積極的に投資家に誤解を生じさせる行為を規制しているが、その趣旨は、証券会社及びその外務員が投資家に誤解を生じさせないようにすることにあるから、これらの規制は、「誤解を生じさせないために必要な事実の表示が欠けている」形態、すなわち、説明すべき場合にこれを説明しないという消極的な形態の勧誘行為にも及んでいるというべきである。

(2) そして、ワラントは、一般投資家にとって、周知性がない上、その商品性を理解して合理的な投資判断をすることが難しく、にもかかわらず高度の危険性を有し、特にその価格を予測するのが極めて困難な商品であるのに対し、一方、原告らはワラント取引の知識・経験がないのは勿論、そもそもワラント取引をしようという意識さえなかったから、かかる原告らに対しワラントを勧誘する際には、証券会社又はその外務員には、より一層高度な説明義務があるといわなければならない。

したがって、証券会社又はその外務員が原告らに対しワラントを勧誘する際には、次のような内容の説明義務を負うというべきであり、しかも、その説明の仕方は、抽象的なものであってはならず、個々の具体的なワラントに即した形で、株式や転換社債との相違を明確にし、原告らがワラントについて的確な理解を持てるような具体的かつ丁寧なものでなければならない。

① ワラントの定義及び権利内容

ワラントとは、新株引受権証券であり、予め定められた一定の期間(権利行使期間)内に一定の価格(権利行使価格)で一定の数の株式を購入できる権利であること。

② 権利行使価格の具体的な意味

新株引受権を行使するには権利行使価格に相応する代金を払い込む必要があること、また、原株価との関係について、権利行使価格は通常ワラント発行時の原株価よりも高く決められているが、原株価が権利行使価格以上に値上がりしないと、新株引受権を行使する意味は存在せず、ワラントに価値が生じないこと。

③ 権利行使期間の具体的な意味

権利行使をしないまま権利行使期限を経過すると、ワラントは紙くずとなること、また、その権利行使期間も実質的に一年以上前倒しになっていること、すなわち、原株価が権利行使価格を上回らない場合、権利行使期限を経過する前でもワラントは次第に紙くず同然の価値しかなくなること。

④ ワラントの価格

ワラントの価格は、基本的に原株価の変動に連動するが、その変動幅は、原株価と比較して格段に大きいこと、しかし、原株価に連動するのはパリティと呼ばれる理論的価格の部分であり、実際のワラントの取引価格は、プレミアム部分が存在するから、必ずしも原株価と連動するものではないこと、また、右プレミアム部分にはそれを決定する客観的、合理的な基準は存在しないから、一般投資家がワラントの価格を予測することは困難であること、さらに、一般投資家が入手し得るワラントの価格情報は限られていること、そして、その入手方法、ポイントの意味及び価格の計算方法。

⑤ 為替リスク

外貨建ワラントを売却する場合、為替変動によるリスクが存在すること。

⑥ 相対取引

ワラントは店頭での相対取引で取引され、証券会社自体が売買の相手となること、また、事実上当該ワラントを買い付けた証券会社に売り付けなければならず、したがって、証券会社が売付けに応じないときはワラントを売り付けることが不可能となること。

⑦ 具体的なワラントの内容

買付けを勧誘する具体的なワラントの権利行使価格、権利行使期間、権利行使による取得株数、権利行使する場合に必要な株式取得代金の額等。

(3) 原株価が権利行使価格を下回っているワラントを勧誘する場合

原株価が権利行使価格を下回っているワラントは特段の危険性を有し、原株価が将来権利行使価桜を上回るまで上昇しない限りその投資は無意味であって、投資金額全額を失う可能性が高い。したがって、証券会社又はその外務員がこのようなワラントを勧誘する場合は、投資家がかかるワラントを買い付けることのないように警告する一方で、将来原株価が上昇する蓋然性の根拠を十分に説明しなければならない。

(二) 原告X1について

(1) C又はDは、平成元年九月から平成二年七月にかけて、原告X1に対し、日本信販ワラント外延べ九銘柄のワラントを勧誘したが、それらに際し、ワラントの危険性について一切説明しなかった。

(2) Dは、平成二年七月ころ、原告X1に対し、日本セメントワラントを勧誘したが、日本セメントワラントは、パリティがマイナスであったから、前述のように特別な説明をすることが必要とされるところ、マイナス・パリティワラントの危険性について何ら説明しなかった。

(三) 原告X2について

(1) Eは、平成元年一一月二日ころ、原告X2の会社に電話をかけ、NTNワラントを勧誘したが、その際、「新規に発売される商品で絶対に安全。」などと述べたのみで、ワラントが新株引受権証券であること、権利行使期限の存在、それを過ぎるとワラントの価値がなくなること、権利行使をするために新たな資金を要すること等の説明をせず、その後の原告X2の一連のワラント取引においても、E又はFがワラントの危険性について説明することはなかった。

(2) Fは、伊藤忠ワラント、東邦レーヨンワラント、伊藤忠ワラントを勧誘する際、右ワラントはいずれも原株価が権利行使価格を下回っており、そのようなワラントを勧誘する場合には、特にその危険性を説明すべきであるのに、かかる危険性を一切説明せず、さらに、二回目の伊藤忠ワラントの買付けはいわゆる「なんぴん買い」であって、原株価が権利行使価格を下回っているワラントを「なんぴん買い」するのは非常に高い危険性がある取引なのであるから、そのような場合、Fは、原告X2に対し、その取引を回避するように警告する義務が存在するのに、そのような警告はもちろん、右買付けの危険性に関して何も説明しなかった。

(四) 原告X3について

Bは、平成二年五月一七日、Gの勧誘により、原告X3を代理して被告から日本軽金属ワラントを買い付けたが、その際、Gは、Bに対し、ワラントについて何も説明しなかった。

なお、昭和六三年五月一九日に原告X3が森永乳業ワラントを買い付けたことになっているが、原告X3は、このワラントを買い付けた覚えがなく、ワラントの危険性に関しても説明を受けていない。

(被告の主張)

(一) 説明義務違反の違法性について

(1) 証券会社及びその外務員が投資家にワラントを勧誘するに際し、ワラントの内容、性格等について説明すべき法的義務があるか否かについては問題の存するところである。

すなわち、投資家は投資を目的として証券取引を行い、投資である以上大なり小なりリスクが存在するのは当然であって、投資家はそのリスクの存在を承知した上で投資を行うのである。そして、投資を行うに際し、諸事情を勘案し、いかなる商品にいかなる投資を行うかを決定するのは、投資によって損益が帰属する投資家自身である。

したがって、投資家は、自己責任の原則の下、自らの判断により自らの投資資金で各種投資商品に投資するのであるから、その判断の前提となる各種投資商品の内容、特性等を調査すべき責任あるいは注意義務はまずもって投資家自身に存在するのであって、証券会社及びその外務員にこれらに対する一般的な説明義務があるものではない。

また、証券取引法は、国民経済の適切な運営及び投資家保護のために、投資家が自由な判断と責任で公平かつ公正な証券取引を円滑に行う機会を確保するとともに、投資家の自由な判断と責任による証券取引を妨げる不当な行為を排除する等の制度的保障を行っているものであるから、同法上の規定から証券会社の投資家に対する一般的な私法上の説明義務が導かれるわけではない。

さらに、各種の行政取締法規や証券業界の自主ルールも、それに違反した場合に直ちに不法行為上の違法性ありと評価されることにはならない。

なお、ワラント取引に当たり説明書を交付し、確認書を徴求することは、平成元年四月一九日付け日本証券業協会理事会決議により定められ、平成二年三月一六日にその旨が公正慣習規則に取り入れられたに過ぎず、証券取引法上の規定ではない。

(2) 仮に証券会社及びその外務員に説明義務があるとしても、証券会社及びその外務員に一般的、絶対的な説明義務があるわけではなく、その説明すべき内容、範囲、程度等は、個々の投資者の投資経験、知識、判断能力等に応じ、かつ個々の勧誘に応じて個別具体的、相対的に判断されるべきものである。

なお、ワラントは、商法三四一条ノ八以下に規定された新株引受権付社債のうち新株引受権を表章した証券であり、一定の期間内に一定の価格で新株を引き受ける権利である以上、権利を行使しないまま一定の期間が経過すれば価値がなくなるのは当然であり、ワラントのこのような性格は昭和五六年の商法改正時より明白であるから、かかる事項が説明すべき事項に含まれるはずがない。また、個別のワラントの条件は、発行会社により、商法の規定に従って当該ワラント発行時に公告されるとともに、証券取引所に通知され、マスコミ等を通じても公表されており、投資家はわずかな調査によりいつでもそれらの情報を知り得るから、これも説明すべき事項に含まれない。

(3) 原株価が権利行使価格を下回っているワラントを勧誘する場合の説明義務について

証券会社及びその外務員が、原株価が権利行使価格を下回っているワラントを勧誘する場合においても、前述のように、このようなワラントが格段の危険性を有するとはいえないから、投資家に対し特別の説明義務を負うものではない。

なお、原告らによる原株価が権利行使価格を下回っているワラントを勧誘する際の説明義務違反の主張は、時機に後れた攻撃方法の提出であり、却下を求める。

(二) 原告X1について

原告X1は、ワラント取引の経験があり、ワラントについて豊富な知識を持ち、その上、自ら積極的にワラント投資を望んだのであるから、被告外務員が原告X1に対し、ワラントについて説明すべき義務を負うことはあり得ない。

なお、Cは、原告X1に日本信販ワラントを勧誘するに際し、ワラント取引に関する説明書(以下「ワラント説明書」という。)を交付した上、ワラントについて十分な説明をした。また、原告X1は、ワラント取引に関する確認書(以下「ワラント確認書」という。)に署名押印して、被告に交付した。

(三) 原告X2について

(1) NTNワラントの勧誘

Eは、原告X2にNTNワラントを勧誘する以前の平成七年七月ころから、各種のワラントに関する説明書を交付した上、ワラントについて十分な説明をした。また、原告X2は、ワラント確認書に署名押印してEに交付した。

(2) 平成二年八月二七日買付けの伊藤忠ワラント以後の勧誘

Fは、引継ぎの挨拶のために原告X2を訪問した際、Eの勧誘により買い付けた住友金属ワラント及び神戸製鋼所ワラントに評価損が出ていることに対し不満が述べられたため、その後、原告X2と相談の上、低ポイントのもので権利行使期限まで期間のある銘柄か、新発物の銘柄に投資していくという投資方針を決定し、原告X2から、その方向で良い銘柄を探して欲しい旨述べられた。

そこで、Fは、前者の方針に従って、原告X2に対し、平成二年八月二七日買付けの伊藤忠ワラント、東邦レーヨンワラント、平成三年六月一二日買付けの伊藤忠ワラントなどの各ワラントを勧誘した。

このように、原告X2は、あえて低価格のワラントを買うことをその投資方針として決定し、Fはその方針に従って勧誘をしていたところ、低価格であることはその一方で多くの場合マイナス・パリティであること(原株価が権利行使価格を下回っていること。)を包含するから、原告X2のワラント取引に関する知識、経験に照らすと、原告X2が低価格であることを認識して投資をしている以上、これに加えて原株価が権利行使価格を下回っていること及びその危険性を説明すべきであるとはいえない。

(四) 原告X3について

Gは、Bに対し、日本軽金属ワラントを勧誘するに際し、ワラントについて十分な説明をし、さらに、ワラント説明書を交付した。そして、Bは、ワラント確認書に原告X3の署名押印をして、これをGに交付した。

5  断定的判断の提供、虚偽の表示・誤解を生ぜしめるべき表示等について

(原告らの主張)

(一) 右勧誘行為の違法性について

平成四年法律第七三号による改正前の証券取引法五〇条一項五号及び証券会社の健全性の準則等に関する省令一条一号は、有価証券の売買に関し、虚偽の表示をし、若しくは、誤解を生ぜしめるべき表示をする行為を禁止し、同法五〇条一項一号は、有価証券の売買に関し、有価証券の価格が騰貴することの断定的判断を提供して勧誘する行為を禁止しているが、以下に述べる被告外務員の原告らに対する勧誘方法は、これらの規定に違反し、私法上も違法なものである。

(二) 原告X1について

CあるいはDは、平成元年九月から平成二年七月にかけて、原告X1に延べ一〇銘柄のワラントの買付けを勧誘したが、その際、「値上がりが絶対に間違いない商品です。」と述べており、これはワラントの勧誘に際しいわゆる断定的判断の提供をしたものとして違法である。

(三) 原告X2について

(1) NTNワラントの勧誘

Eは、平成元年一一月二日ころ、原告X2が経営するレストランに電話をかけ、原告X2に対し、NTNワラントの買付けを勧誘したが、その際、「新規に発売される銘柄で絶対に安全。」「もの凄い人気で数が少ない。今返事をくれないと他の人に取られてしまう。」「社長がしたことのある転換社債と同じに考えてくれればよい。」などと述べたが、これはワラントの勧誘に際し、いわゆる断定的判断の提供や虚偽ないし誤解を生ぜしめる表示をしたものであって、違法である。

(2) 神戸製鋼所ワラントの勧誘

Eは、平成元年一二月六日ころ、原告X2の自宅に電話をかけ、原告X2に対し、神戸製鋼所ワラントの買付けを勧誘したが、その際、「一週間以内に大化けする。本社の一番上の人が言っているので間違いのない、確かな情報です。」「必ず儲かります。保証します。一週間で駄目だったら引き取ります。」などと述べたが、これはワラントの勧誘に際し、いわゆる断定的判断の提供をしたものであって、違法である。

(四) 原告X3について

(1) 日本軽金属ワラントの勧誘

Gは、平成二年五月ころ、Bに対し、日本軽金属ワラントを勧誘するに際し、「短期間で儲かるワラントという良いものがあるので、是非お勧めします。」「必ず儲かりますから。」などと述べたが、これはワラントの勧誘に際しいわゆる断定的判断を提供したものとして違法である。

(2) 上組ワラントの勧誘

Gは、平成二年五月ころ、「最後の取引ですから是非お願いします。」「一か月位で利益を出してお返ししますから。」などと述べたが、これはワラントの勧誘に際しいわゆる断定的判断の提供をしたものとして違法である。

(被告の主張)

被告外務員が、原告らにワラントを勧誘するに際し、原告らが主張するような勧誘行為をしたことは否認する。

なお、仮に証券会社及びその外務員が法令等の規定に違反した行為をしたとしても、これらの規定は公法上の取締法規又は営業準則に過ぎないから、直ちに私法上も違法であると評価されるわけではない。

6  原告らの損害

(原告らの主張)

(一) 損害の発生

(1) ワラント取引による損失

a 原告X1

別紙原告X1ワラント取引一覧表記載のとおり、原告X1は、C及びDの違法な勧誘に基づく一連のワラント取引により、二三一〇万八一四七円の損失を被った一方、三〇〇万二二五二円の利益を得たから、被告との右ワラント取引によりその差額である二〇一〇万五八九五円の損害を被った。

b 原告X2

別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、原告X2は、E及びFの違法な勧誘に基づく一連のワラント取引により、六二二八万四六六二円の損失を被った一方、五〇七万五四八五円の利益を得たから、被告との右ワラント取引によりその差額である五七二〇万九一七七円の損害を被った。

c 原告X3

別紙原告X3ワラント取引一覧表記載のとおり、原告X3は、Gの違法な勧誘に基づく一連のワラント取引により、一三〇四万七五九八円の損失を被った一方、九一万六五三円の利益を得たから、被告との右ワラント取引によりその差額である一二一三万六九四五円の損害を被った。

(2) 弁護士費用

原告らの訴訟に要した弁護士費用は、原告らの各損害額の一割が相当である。

a 原告X1 二〇一万〇五九〇円

b 原告X2 五七二万〇九一七円

c 原告X3 一二一万三六九四円

(3) 以上のとおり、原告X1については二二一一万六四八五円の全損害の賠償を、原告X2については右損害の一部である五七二〇万九一七七円の賠償を、原告X3については右損害の一部である一一九二万七〇〇八円の賠償をそれぞれ求める。

(二) 過失相殺について

本件各ワラント取引により原告らに生じた損害は、被告外務員の違法な勧誘があって初めて生じたものであり、原告らが被告外務員の勧誘に従った背景に、証券会社である被告に対する信頼とワラントの新規性といった事情があることに照らせば、一般投資家である原告らの利得心やうかつさ、その社会的地位、資力等といった事情を過失相殺の対象とすべきではない。

また、自己責任の原則を根拠とした自己責任割合あるいは寄与割合により損害額を算出する方法は、一般投資家である原告らが自己責任に基づく取引を行う前提部分に被告外務員の違法行為が存する本件においては、これを適用する前提を欠いているから、採用すべきでないし、また、当該ワラントを売却しなかったことをその責任の一端とすべきでもない。

(被告の主張)

(一) 原告X1について

原告X1と被告との間の一連のワラント取引の内損失が生じた四銘柄の取引については、原告X1が適切な時期に各ワラントを売却していれば、原告X1が主張する損害はいずれも発生しなかった。

(二) 原告X2について

原告X2と被告との間の一連のワラント取引において、E及びFは、ワラントの価格情報を毎日提供し、特にユニチカワラントは、その売付けを勧めたのに、原告X2が自らの判断で売り付けなかったのだから、原告X2が主張する損害の発生について被告が責任を負ういわれはない。

(三) 原告X3について

原告X3と被告との間の一連のワラント取引に投資された金員は、原告X3自らが投資したものではないから、原告X3と被告との間の一連のワラント取引により損失が生じたとしても、これを原告X3の損害とすることはできない。

また、上組ワラントの売付けについては、Gは、Bあるいは原告X3に対し、上組ワラントの価格を伝えて売付けを勧誘したのに、原告X3が自らの判断に固執したため、上組ワラントの売付時期を失する結果となり、その損失が拡大した。

第三当裁判所の判断

一  原告らのワラント取引の経緯等について

1  原告X1のワラント取引の経緯等について

前記当事者に争いのない事実等に、甲三一七Bの一(後記信用できない部分を除く。)、二、三の一及び二、甲三一七Bの四の二、甲三一七Bの六の一及び二、乙三一七Bの一の一ないし四六、乙三一七Bの二の四ないし一九、乙三一七Bの三、四、六(後記信用できない部分を除く。)、七、二〇及び二一、証人C(後記信用できない部分を除く。)、証人D及び原告X1本人(後記信用できない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告X1の経歴等

(1) 原告X1は、大正四年○月○日生まれであり、昭和二五年ころまで会社勤めをした後、洋品小売を業とする○○洋品店を妻と共に経営していた。

この点について、原告X1は、妻が経営する洋品店を手伝っていたのみである旨主張するところ、甲三一七Bの三の一の平成八年分の所得税の確定申告書等には原告X1が事業専従者である旨の記載があり、原告X1本人尋問の結果及び同人の供述を録取した陳述書(甲三一七Bの一)中にも右主張に沿う部分があるけれども、確定申告書等の事業専従者である旨の記載が直ちに原告X1が実質的な経営者でなかったことを意味するものではなく、原告X1が当初は洋品販売業を営んでいると主張していたことと、原告X1本人尋問の結果によれば、自ら洋品店経営に携わっていることを自認していることなどを総合すると、原告X1を実質的な共同経営者と認定するのが相当であり、右主張はこれを採用しない。

(2) なお、原告X1は、昭和六二年にぼうこう癌の手術を受け、同年七月三一日、横浜市からぼうこう機能障害により身体障害等級四級の第二種身体障害者に認定され、身体障害者手帳の交付を受けており、その後も昭和六三年四月一日から同年五月二三日まで、平成元年一月一九日から同年八月六日までの二度に亘り入院している。

しかしながら、原告X1は、右入院中にも被告との間で証券取引を行い、その退院後もワラント取引を初め各種の証券取引を行うなど、原告X1の健康状態等が被告との証券取引に影響を及ぼすことはなかった。

(二) 原告X1と被告との間の従前の証券取引

原告X1は、昭和四六年二月二三日に取引口座を開設して被告との間で株式、転換社債等を対象とした証券取引を開始し、昭和六〇年一〇月一六日に外国証券取引口座設定約諾書に署名押印し、外国銀行債等をも対象とした証券取引を継続してきたが、その投資額は多額に上るものではなく、買付額が六〇〇万円を越える証券取引はなかった(なお、被告を介しての取引は募集債等の証券取引が多いのが特徴である。)。

原告X1と被告との証券取引は、昭和五八年から六〇年までの間に相当数の取引が行われているが、日本信販ワラントを買い付けた平成元年当時の取引は、一年当たり数銘柄の転換社債等を被告を介して買い付ける程度であった。

しかしながら、原告X1は、被告横浜支店を度々訪れ、投資相談、セミナー等への出席、自ら出入金の手続きを行ったほか、被告外務員等から証券取引に関する情報を収集していた。しかし、C等による証券取引の勧誘に対し、その説明をつぶさに聴くものの、その銘柄の選択や買付け、売付け等の投資決定は、被告外務員の勧誘に左右されることなく、会社四季報等を参考に自らの判断で行う傾向が強かった。

この点について、原告X1は、株式等の従前の証券取引も証券会社の外務員等の言うままに取引していた旨主張するところ、原告X1の供述を録取した陳述書(甲三一七Bの一)中に右主張に沿う部分があるけれども、原告X1本人尋問の結果によれば、転換社債及び株式の銘柄の選択等について、原告X1が会社四季報を参考に自ら投資判断していたことが認められるから、右供述部分は到底信用できず、右主張はこれを採用しない。

なお、原告X1は、繋ぎ売りのため、昭和五九年四月二七日に信用取引口座設定約諾書に署名押印し、被告を介して京浜急行の株式の信用取引をした経験がある。

(三) 原告X1と日興證券との間の証券取引

原告X1は、日興證券との間でも証券取引を継続していたが、ワラントについても、昭和六二年二月一〇日に日興證券から阪急電鉄ワラントを代金五〇万一〇七五円で買い付けたのを初めとして日興證券との間で延べ二一銘柄のワラント取引を行っており、被告から日本信販ワラントを買い付けた平成元年九月一日までに日興證券から買い付けたワラントは延べ一五銘柄となっていた。

なお、原告X1が日興證券から買い付けたワラントの内、最終的に損失が生じたワラントは延べ六銘柄である(被告から日本信販ワラントを買い付けた平成元年九月一日までに日興證券から買い付けたワラントの内、最終的に損失が生じたワラントは延べ四銘柄である。)。

(四) 日本信販ワラントの買付け

(1) 原告X1は、平成元年五月以降、被告横浜支店に数回に亘って訪れ、Cに対し、「他社でワラントを買って儲けた。ワラントは早くて効果がある。ワラントは勝負が早い。」と述べ、「ワラントをやりたいが、何か良いものはないか。」と具体的なワラントの銘柄を推奨するように要請した。そこで、Cは、原告X1に対し、ワラントは新株引受権証券であること、株式に比べ三、四倍の値動きがあること、権利行使期間が存在し、権利行使期限を徒過すると価値がなくなること等を説明した上、数銘柄のワラントの買付けを勧誘したが、原告X1は、なお熟考し、これらのワラントを買い付けることはなかった。

(2) 原告X1は、平成元年九月一日、被告横浜支店を訪れ、Cに対し、再び「何か良いものはないか。」と具体的なワラントの銘柄を推奨するように要請した。そこで、Cは、原告X1に対して日本信販ワラントを含めて数銘柄のワラントを勧誘したが、その際、Cは、原告X1に対し、日本信販ワラントを含めた各ワラントについて、原株価、時価のほか権利行使期限と権利行使価格などの基本的事項を告知した(権利行使期限と権利行使価格を含めた買付判断に必要な事項については、Cの勧誘文言の一環として一応の説明があったと推認され、Cがこれらを告知しなかったと認めるべき特段の理由はない。)。

そして、原告X1は、帰宅後、Cに対して電話で、日本信販ワラントの買付けを指示した。

このような経緯で、原告X1は、被告から日本信販ワラント三五ワラントを代金七八九万六〇八七円で買い付けた。

(3) この点について、原告X1は、日本信販ワラントを初めとする被告から買い付けた一連のワラントの勧誘に際し、CあるいはDは、原告X1に対し、ワラント及びその取引について何も説明せず、かえって「値上がりが絶対に間違いない商品です。」などと述べたため、専門家が言うことならと信じ、株よりも安全性の高い債権のようなものだと思って日本信販ワラント以下の各ワラントを被告から買い付けた旨主張するところ、原告X1の本人尋問の結果及び同人の供述を録取した陳述書(甲三一七Bの一)中には右主張に沿う部分がある。

しかしながら、既に日興證券との間で延べ一五銘柄のワラント取引の経験を有していた(その内四銘柄のワラントは最終的に損失が生じているが、その中にはこの時点で既に含み損が発生している銘柄もあり、原告X1はその報告を受けていたことが推認される。)原告X1が、CあるいはDから右のような説明を受けて、株よりも安全性の高い証券であると信じたというのは、従前の経緯に照らして到底信用することができない。そもそも原告X1の従前の株式等に対する投資態度と同年五月以降の勧誘を熟考してきた態度に照らすと、ワラントについて何も知らないまま約八〇〇万円もの投資をするとは考えられないのであり、原告X1本人尋問の結果によれば、Cから後日ワラントの価格情報を聴いても特に苦言等を述べていないと認められ、かえって、原告X1自身当時ワラントが株式よりも危険な商品であることを認識していたと自認する供述をしていることを勘案すると、原告X1の右主張はこれを採用することはできない。

(五) ワラント取引説明書の交付等

更に、平成元年九月五日、被告横浜支店を訪れた原告X1は、「何か良いものはないか。」と具体的なワラントの銘柄を推奨するようにCに要請したので、Cは、原告X1に対して住友商事ワラントを含めた数銘柄のワラントを挙げてこれらを勧めたが、この際には、ワラント取引説明書を交付し、それに沿ってワラントについてもう一度説明し、右説明書中の一葉を切り取って作成する方式となっていたワラント取引確認書に原告X1の署名押印を求めて、これの交付を受けた(証人Cの証言及び同人の供述を録取した陳述書(乙三一七Bの六)中には、平成元年九月一日の日本信販ワラントの勧誘時に原告X1にワラント取引説明書を交付し、それに沿って説明したとの供述部分があるけれども、ワラント取引確認書(乙三一七Bの四)の差入れが同月五日であったことは、Cの陳述書とその受領日の記載から明らかであり、右説明を聞いた上でワラント取引確認書を作成したものと考えるのが自然であるから、ワラント取引説明書の交付と説明は五日にされたと認めるのが相当である。)。

そして、原告X1は、Cの右勧誘により、平成元年九月五日、被告から住友商事ワラント三〇ワラントを代金五三八万二〇〇円で買い付けた。

(六) その後の原告X1と被告との間のワラント取引

その後、原告X1は、平成元年九月以降同年一二月までの間に、別紙原告X1ワラント取引一覧表記載のとおり、Cの勧誘により、被告から六銘柄のワラントを買い付け、担当がDに代わった後には、Dの勧誘により、平成二年二月二一日、三和シャッターワラント一〇ワラントを代金一八六万八六二円で被告から買い付けた。

なお、C及びDは、原告X1にワラントを勧誘するに際しては、いずれも数銘柄のワラントを勧めており、各ワラントの時価などのほか権利行使期限と権利行使価格などの買付けの判断に必要な事項をも一応告知し、原告X1は、これを聴いた上でワラントを選択して買い付けていた。

その間、C及びDは、原告X1が買い付けたワラントの値動きを、電話あるいは原告X1が被告横浜支店を訪れた際に随時連絡していたが、値下がりした場合においても、原告X1が苦情等を言うことはなかった。

(七) 日本セメントワラントの買付け

(1) 原告X1は、平成二年七月六日に三和シャッターワラントを売却した際、Dに対して「これに見合う何かいいワラントはないか。」と具体的なワラントの銘柄を推奨するように求めたので、Dは、当時価格が回復基調にあった日本セメントワラントを推奨した。

原告X1は、買付時より価格が下落していた日本電装等三銘柄の保有ワラントについて、いわゆる「なんぴん買い」するのとどちらが良いかと判断に迷ったが、平成二年七月一二日、日本セメントワラント一〇ワラントを二三一万三八〇三円で買い付けた。

なお、その際、Dは、原告X1に対し、日本セメントワラントの時価などのほか権利行使期限と権利行使価格などの買付けの判断に必要な事項をも一応告知したが、日本セメントワラントの危険性等を特に説明しなかった。

(2) 日本セメントワラントの状況

この日本セメントワラントは、権利行使価格が一一五九円であるところ、平成二年七月一二日の東京証券取引所における日本セメント株式会社の株式の終値は一一三〇円であった。

2  原告X2のワラント取引の経緯等について

前記当事者に争いのない事実等に、甲三二〇の一、九の一、三及び五、乙三二〇の一の一ないし一〇、乙三二〇の二の二ないし四、乙三二〇の三ないし五、七、八及び一五、証人H、証人F及び原告X2本人(後記信用できない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告X2の経歴等

原告X2は、昭和二五年○月○日生まれであり、○○大学卒業後、株式会社○○商事の代表取締役として、平成元年当時は、従業員、パート各二人を使用する○○レストランを経営する傍ら、不動産業にも従事していた。

また、原告X2は多くの不動産資産を所有している。

(二) 原告X2と被告との間の従前の証券取引

原告X2は、昭和六一年から日興證券との間で、昭和六二年から三洋証券との間で証券取引を開始したところ、三洋証券小田原支店における原告X2の取引は、NTT株の第二回募集により同社の株式を取得することにより開始されたものであるが、その取引内容は、株式を中心として一〇〇〇万円単位の資金を投入し、その投資金額は全体で六〇〇〇万円程度に上るものであった。

原告X2の被告との接触は、昭和六三年ころ、セールスの案内状を見た原告X2が被告厚木支店に電話を入れたことから始まり、昭和六三年九月以降、原告X2の担当となったEは、電話の他、○○レストランに月に二、三回の割合で原告X2を訪れ、株式等の取引を勧誘していたが、原告X2は、当初の九か月間はEの勧誘を聴くのみで取引をすることはなかった。

原告X2の被告を介しての証券取引は、平成元年七月二〇日、住友鉱山株式を代金三七九五万円で、日本鋼管転換社債を代金合計五〇〇万円でそれぞれ買い付けたことにより開始され、その後被告との間で現物株、転換社債を対象とした証券取引が継続された。平成元年七月二〇日からNTNワラントを買い付けた平成元年一一月二日までの四か月弱の問に、原告X2が被告を介して買い付けた銘柄数は延べ一二銘柄(この内買付金額が二〇〇〇万円を超える銘柄は三銘柄である。)、買付金額の合計は一億二〇四一万五一一二円、NTNワラントを買い付けた平成元年一一月二日時点で原告X2が保有していた銘柄の売付時の価額(その内日本精工株式については買付価額で計算した。)の合計は七三六八万七五五四円に上った。

なお、原告X2と被告との間の取引は、日本精工株式の買付けを除き、全ていわゆる新規募集物を買い付けたものである。

これらの取引に原告X2が投資した資金中には、箱根信用金庫からの借入れによるものもあったが、この借入れは、基本的には原告X2の事業上の信用を背景としたものであった。

また、これらの証券取引を通じて、原告X2は、概ね各銘柄の株式の市況や証券取引について豊富な知識を有するようになり、その投資態度は、自ら研究した上で、売り買いの投資決定を自ら判断するというものであり、自らが買い付けた有価証券については、その価格報告を被告外務員に対し頻繁に要求していた。

なお、原告X2は、Eからワラントの勧誘を受ける以前は、ワラントについての知識は全くなかった。

(三) NTNワラントの買付け

(1) Eは、平成元年七月ころから、しばしば○○レストランに原告X2を訪れ、新発物の株式又は転換社債のみならず、当時市場が整備されつつあったワラントの買付けを数度に亘り勧誘した。右のワラントの勧誘において、Eは、「分離型ワラント」と題するワラント取引説明書及び社内での勉強会用の資料を原告X2に手渡し、ワラントが新株引受権証券であり、その取引は株式を購入できる権利の売買であること、ワラントには権利行使期限があり、権利行使期限を過ぎると無価値になること、ワラントの値動きは基本的に原株価に連動するが、その値動きの幅は原株価よりも非常に大きいこと、ワラントの銘柄の選択基準としてプレミアムが少ないものが一般的に値上がりが期待できること等を、株式や転換社債と比較しながら説明した。

Eは、新発物の数銘柄のワラントを推奨して原告X2にワラント取引を勧誘したが、原告X2は、未だ勉強中であり、ワラントの商品性について十分に納得しない限り投資しないとの理由を告げて、数か月間はEの勧誘を断っていた。

なお、Eは、かねてからの希望のとおり、平成元年夏の神奈川県警の採用試験を受験して合格し、その秋ころには同年末をもって退職することを予定していた。

(2) Eは、平成元年一一月二日、原告X2を○○レストランに訪ね、当時株式市況を賑わしていたベアリング業界の有望銘柄であったNTNワラントの買付けを「ようやく八ワラントだけ手に入った。今返事が必要です。」というような表現で勧誘し、その際、NTNワラントの時価のほか権利行使期限と権利行使価格などの基本的事項を告知した。これまでワラント取引を熟考していた原告X2は、ようやくその勧誘に応じ、これを買い付ける旨の返事をして、NTNワラント八ワラントを一七六万八〇〇〇円で買い付けた。

そして、その場で、原告X2は、外国証券取引口座設定約諾書に署名押印の上、これをEに交付した。

(3) この点について、原告X2は、これまでにワラントの勧誘を受けたことはなく、NTNワラントの勧誘に際しても、ワラントについて何も説明を受けなかったばかりか、Eから「転換社債と同じようなもの。」である旨の説明を受けたに過ぎないと主張し、原告X2の本人尋問の結果及び同人の供述を録取した陳述書(甲三二〇の一)中に右主張に沿う部分があるけれども、前記認定事実に照らし、右主張と供述は採用することができない。

(四) ワラント取引確認書への署名等

平成元年一一月六日、Eは、○○レストランに原告X2を訪れ、ワラント取引説明書を再度交付するとともに、その末葉から切り取ったワラント取引確認書を示して署名押印を求め、原告X2は、これに署名押印してEに交付した。

(五) その後の原告X2と被告との間のワラント取引

(1) 続いて、原告X2は、Eの勧誘により、平成元年一一月七日、被告から三菱金属ワラントを代金一〇二八万四九三七円で買い付けたことを手始めに、同年一二月四日に住友不動産ワラントを代金一〇〇八万七〇〇〇円で買い付けるまで別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、Eの勧誘により、わずか一月の間に六銘柄のワラントを買い付けた。その際、Eは、原告X2に対し、各ワラントの具体的な権利行使期限と権利行使価格等を告知した。

この内、前記NTNワラント、前記三菱金属ワラント、平成元年一一月一四日に買い付けた古河鉱業ワラント、同月一七日に買い付けた日商岩井ワラント、同月二〇日に買い付けた住友商事ワラントについては、別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、平成二年二月までに売却され、いずれも利益を出している。

(2) しかし、右ワラントの内、原告X2が平成元年一一月二八日に代金一二二六万一五〇七円で買い付けた住友金属ワラントに関しては、これを勧誘したEは、「これは本部で昨日買ってあり、もう一ポイント上がっています。これは少し持っていた方がいいかも知れません。古河鉱業ワラントを売って、これに少し足せば買えますよ。」と持ちかけて買付けを勧めたので、原告X2は、これを承諾し、同日、古河鉱業ワラントを売却して住友金属ワラントを買い付けた。しかし、別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、平成五年二月三日までの右ワラントの権利行使期限を徒過し、一二二六万一五〇七円の損失を出すこととなった。

(3) なお、NTNワラントを買い付けた平成元年一一月以降、Eは、毎日のように、原告X2が保有するワラントの価格を原告X2に対し報告していた。

(六) 住友不動産ワラントの買付け

(1) 平成元年一一月下旬ころから、原告X2は、住友不動産の株価の値動きを注目しており、これが有望であると判断して、Eに対して住友不動産ワラントの買付けを希望したので、Eがこれを手配し、同年一二月四日、右ワラント(第四回)を代金一〇〇八万七〇〇〇円で買い付けた。しかし、別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、平成四年五月七日までの右ワラントの権利行使期限を徒過し、原告X2は、右買付額と同額の損失を被った。

(2) 更に、原告X2の住友不動産ワラントの買付希望が続いたので、Eは、再三に亘る原告X2の希望を容れて、流通量が少なかった右ワラント(第五回)を手配し、原告X2は、同年一二月一四日、これを代金八七七万五四六八円で買い付けた。しかし、別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、平成五年一二月九日までの右ワラントの権利行使期限を徒過して、原告X2は、右買付額と同額の損失を被った。

(七) 神戸製鋼所ワラントの買付け

原告X2は、ワラントの値動き等の情報を得ようとして、Eに店舗のみならず自宅の電話番号をも知らせていたが、Eは、平成元年一二月六日、原告X2の自宅に電話をかけて神戸製鋼所ワラントが有望であると買付けを勧誘し、原告X2は、これを承諾する旨返答し、右ワラントを代金一〇六三万四七五〇円で買い付けた。しかし、別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、平成五年二月一〇日までの右ワラントの権利行使期限を徒過し、原告X2は、右買付額と同額の損失を被った。

この点について、原告X2は、神戸製鋼所ワラントの勧誘に際し、Eは、「一週間で必ず大化けします。確実な情報なので必ず儲かります。一週間で駄目だったら必ず引き取ります。」と断定的判断等を示して勧誘した旨主張するところ、原告X2の供述を録取した陳述書(甲三二〇の一)中にも右主張に沿う部分があるけれども、本件証拠によるも、神戸製鋼所ワラントの買付後に原告X2がEに対し右のような勧誘時の約束の履行を求めた事実は何ら認めることができないし、かえって、その八日後にはその強い希望により住友不動産ワラント(第五回)を買い付けているのであって、これらの経緯に照らすと、右供述部分はにわかに信用できない。前記認定のとおり、原告X2は、従前から自ら値動きを研究して各証券投資を行っており、Eも原告X2のそのような投資態度を理解していたと推認されるから、Eが原告X2の判断を歪めるような勧誘をしたとはにわかに認定できず、また、原告X2も、Eの勧誘文言の表現いかんによって自らの投資判断を左右することはなかったものと推認されるのである。

(八) その後の原告X2と被告との間のワラント取引

Eが平成元年一二月末日に被告を退職したため、FがEを引き継いで、原告X2を担当するようになった。そして、EとFが引継の挨拶のために○○レストランに原告X2を訪ねた際に、原告X2は、住友金属ワラントと神戸製鋼所ワラントの価格が下がっていることについて苦情を述べた(当時住友不動産ワラントの価格も下がっていたが、これについては原告X2からの苦情はなかった。)。

平成二年一月ころ、Fは、原告X2と相談の上、①低ポイントで残存権利行使期間がある程度長いワラントを一年くらいのタームで見て大きな差益を狙う方法と、②新発物のワラントを短期間で小幅な差益を狙う方法とを用いるという投資方針を立て、原告X2も概ねこの方針を了承し、これらの基準に適合する数銘柄を選んで資料を送付するように指示した。また、Fは、原告X2がファクシミリを導入した後は、被告の休業日を除き、連日全銘柄の気配値表を原告X2に送付していた。原告X2は、右の投資方針に従ってFが選別した銘柄の中から、別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、次のとおりの取引をした。

(1) 伊藤忠ワラントの買付け

① 原告X2は、右のような方法によるFの勧誘により、平成二年八月二七日、伊藤忠ワラントを代金五八三万八〇〇〇円で被告から買い付けた。その価格ポイントは八ポイントであった。右の勧誘に際して、Fは、各種の資料を通じて伊藤忠ワラントの権利行使価格と権利行使期限等を告知していたが、ワラントの商品性などを改めて説明することはなかった。

なお、伊藤忠ワラントは、権利行使価格は九七六円であり、平成二年八月二七日の東京証券取引所における伊藤忠株式会社の株価の終値は六九二円であった。

② 右伊藤忠ワラントは、平成二年九月から平成三年二月ころまで一〇ポイント前後の価格を付け、Fは何度か原告X2に売却を勧めたが、原告X2はなお強気の相場観を示して売却を見送っていたところ、平成六年六月一六日までの右ワラントの権利行使期限を徒過して、原告X2は、右買付額と同額の損失を被った。

(2) 東邦レーヨンワラントの買付け

① 原告X2は、前述のような方法によるFの勧誘により、平成二年九月一三日、東邦レーヨンワラントを代金四四八万一二五円で被告から買い付けた。その価格ポイントは六・五ポイントであった。右の勧誘に際して、Fは、各種の資料を通じて東邦レーヨンワラントの権利行使価格と権利行使期限等を告知していたが、ワラントの商品性などを改めて説明することはなかった。

なお、東邦レーヨンワラントは、権利行使価格は一一二八円であり、平成二年九月一三日の東京証券取引所における東邦レーヨン株式会社の株式の終値は七二五円であった。

② 右東邦レーヨンワラントについても、原告X2は、送付された気配値表によりその値動きを把握していたが、一割ないし二割の利益の確保を望んでいたために売却の時期を失い、平成五年九月七日までの右ワラントの権利行使期限を徒過して、右買付額と同額の損失を被った。

(3) 松屋ワラント、ダイワハウスワラントの買付け

① 平成三年四月ころ、いずれも新発物であった松屋ワラントとダイワハウスワラントを売り出すことができたFは、前述の方針に従い、原告X2にそれらの権利行使価格と権利行使期限等を告げた上でその買付けを勧誘し、原告X2は、平成三年四月八日に松屋ワラントを代金一二三万三九〇〇円で、同月一九日にダイワハウスワラントを代金三三二万三九一一円で買い付けた。

② 原告X2は、前述の方針に従ってこれらを短期間に売却し、別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、平成三年四月九日に松屋ワラントを売り付けて一一万四三四二円の利益を、同月二二日にダイワハウスワラントを売り付けて四万九九九円の利益をそれぞれ上げることができた。

(4) ユニチカワラントの買付け

① Fは、短期的な利益を狙うことができるとして、権利行使価格と権利行使期限等を告げた上でユニチカワラントの買付けを勧誘し、原告X2は、平成三年五月二日、ユニチカワラントを代金六六六万五三一二円で買い付けた。その価格ポイントは一九・二五ポイントであった。

② Fは、その数日後にはユニチカワラントの利益が出る状態となったので、原告X2に売却を勧めたが、原告X2は、「一割以上の利益が出ていない。」との理由でこれを断り、その後担当者がFから松本に変わった後にも売却の勧告が行われたが、原告X2は、強気の相場観を示して売却せず、ついに平成七年四月二五日までの右ワラントの権利行使期限を徒過して、右買付額と同額の損失を被った。

(5) 伊藤忠ワラントの買付け

① 原告X2は、平成二年八月二七日に買い付けた伊藤忠ワラント(第五回)の価格が一時値上がりしたものの値を下げ始めていたため、いわゆる「なんぴん買い」をしようとし、「もう少し価格が下がったところで買い増しをしたい。」とFに告げて、平成三年六月一二日、更に伊藤忠ワラント(第五回)を代金三五四万二五〇〇円で買い付けた。

なお、平成三年六月一二日の東京証券取引所における伊藤忠株式会社の株式の終値は六五一円であった。

② しかし、前述のとおり、伊藤忠ワラントは、右の買付時前に値上がりしたものの、原告X2が売却を決意できるほどに再び値上がりすることはなく、平成六年六月一六日の同ワラントの権利行使期限を徒過して、右買付額と同額の損失が生じた。

3  原告X3のワラント取引の経緯等について

前記当事者に争いのない事実等に甲三五三の一ないし六、乙三五三の一ないし四、六、九ないし一一、一二(後記信用できない部分を除く。)、一八の五ないし一四、乙三五三の一九(後記信用できない部分を除く。)、二〇ないし二二、二四ないし二九、証人G(後記信用できない部分を除く。)、同B及び原告X3本人並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 原告X3らの経歴等

原告X3は、昭和二七年○月○日生まれであり、○○大学法学部政治学科卒業後、○○商事株式会社に入社し、現在はBの父親が経営する株式会社○○運輸商事の取締役をしている。

Bは、昭和二七年○月○日生まれであり、○○大学法学部法律学科卒業後、原告X3と婚姻し、現在は専業主婦をしている。

なお、原告X3とBの自宅及びその敷地は、実質的にBの父親から譲り受けたもので、B外一名が共有するものである。

(二) 原告X3らと被告との間の従前の証券取引

(1) 原告X3と被告との間の従前の証券取引

原告X3は、昭和五三年一月、社員持株会を通して買い付けた○○商事株式会社の株式を、大学時代の友人である訴外I(以下「I」という。)が勤務していた被告川崎支店でこれを売り付けたことにより、被告との間で証券取引を開始した。そして、原告X3は、その後も同様に取得した○○商事株式会社の株式を被告川崎支店を介して売り付けていたが、その売付代金は全て引き出されている。

しかし、Iは、この原告X3名義の被告川崎支店の取引口座を利用して、その目的は明らかでないものの、昭和五三年二月以降、株式等を中心に活発な証券取引を行っていた。ただし、この内の一部は原告X3が自ら取引したものである。

そして、原告X3は、昭和六二年にNTT株式を買い付けたことをきっかけに自らも資金をつぎ込んで証券取引を開始した。それと期を同じくする昭和六二年一月に当時Iが勤務していた被告新宿センタービル支店にも原告X3名義の口座が開設され、右口座においても証券取引が開始された。

昭和六二年三月二三日にNTT株式の買付けのために二八七万一八二〇円が振込入金された以降原告X3がクアラルンプールに赴任する昭和六三年四月までの間に、被告川崎支店の原告X3名義の取引口座には合計七八四万三三八四円が振込入金されているが、これは原告X3が蓄積したものなどの中から振り込まれたものである。しかし、原告X3は、資金を拠出したものの、自ら取引銘柄の選定、売買時期の決定を行うことはなく、その取引はほぼIに一任されている状態であった(被告川崎支店の取引及び被告新宿センタービル支店での昭和六二年以降の原告X3名義の取引は極めて多数に上り、非常に活発であったことが窺われるが、当時大手商社のサラリーマンであった原告X3が自らの判断でこれらの投資をしていたとは考え難い。)。

原告X3は、昭和六三年四月から○○商事株式会社クアラルンプール支店に転勤となって単身赴任をしたが、被告川崎支店及び被告新宿センタービル支店における原告X3名義の証券取引口座はIにより管理され、Iは、引き続き原告X3からの一任に基づき、右口座の取引を継続した。

(2) Bと被告との間の従前の証券取引

また、Bは、Iの勧誘により、昭和五六年から被告川崎支店に自らの口座を設けて、被告との間で証券取引を開始したが、そのほとんどは中期国債ファンドの取引であった。なお、Bは、後記認定のとおり、Gが病欠したIの事務をJという担当者から引き継いだ平成元年一二月以降、Gの勧誘により、被告新宿センタービル支店においても投資信託の取引を行っている。

しかしながら、これらの取引は、I又はGの勧誘に従って行ったものに過ぎなかった。

(三) 森永乳業ワラントの買付け

被告川崎支店の原告X3の口座において、昭和六三年五月一九日、被告から森永乳業ワラント一〇ワラントを代金一四四万八四二五円で買い付けたが、この取引は、原告X3から取引を一任されていたIが、独自の判断で買い付けたものであった。

なお、この際、Iは、クアラルンプールに赴任していた原告X3に対してはもちろん、Bに対してもワラントの商品性及び危険性等について何も説明しなかった。

(四) 日本軽金属ワラントの買付け

(1) Iは、昭和六三年九月まで原告X3名義の口座における取引を取り扱っていたが、病気となったため(その後、平成二年八月に死亡した。)、Jという者が一時これを引き継ぎ、平成元年一二月二九日からGがこれを引き継いで、原告X3の取引を担当することとなった。Gは、Iから、原告X3はIの古くからの友人であるから丁寧に対応すべきこと、原告X3が海外勤務中のため妻であるBを窓口として取引を行うこととなっている旨の申送りを受けていた。

Gが担当した後、Bは、Gの勧誘により、平成二年三月一三日、被告を介して丸山製作所及び本田技研の各株式を売り付けて中央信託銀行の株式及び三菱電機の転換社債を買い付けたことを手始めに、次々にGの勧誘により証券取引を行ったが、これは、Bが、Iの後任であるGを信頼していたため、Gの勧誘に特に異議を挾むことなく従っていたためである。

そして、Bは、従前からGから値を下げていた森永乳業ワラントの売却を勧誘されていたが、やや値を戻した平成二年五月九日、これを被告に代金一二三万万八四八八円で売り付けた。

(2) Gは、Bに対し、森永乳業ワラントを売り付けた代金等で直ちに間組株式及び日本セメント転換社債を買い付けることを勧誘し、更にその数日後にはこれらを売却することによって日本軽金属ワラントを買い付けるよう勧誘した。

Bは、取引額が一二〇〇万円にも上ることに驚いたものの、原告X3の友人であるIを引き継いだGの勧誘を信じ、これを容れて、平成二年五月一七日、日本軽金属ワラント八〇ワラントを代金一二五一万一五六〇円で被告から買い付けた。

(五) 上組ワラントの買付け

Gは、平成二年五月三一日、当時九〇万円余りの利益が出る状態であった日本軽金属ワラントの売却を勧誘し、Bは、右同日、これを一三四二万二二一三円で売り付けた。

そして、Gは、右売却代金で上組ワラントの買付けを勧誘した。これに対し、Bは、一三〇〇万円前後の額を投資することに躊躇し、Gに右代金を証券投資から引き上げて銀行に預けたい旨述べたが、Gから「最後の取引ですから是非お願いします。一か月くらいで利益を出してお返しします。」などと述べられたため、日本軽金属ワラントの取引により短期間で利益を得ていたこともあって、Gの上組ワラントの買付けの勧誘を承諾することにした。このような経緯で、Bは、平成二年六月一日、上組ワラント六〇ワラントを代金一二八四万一〇八〇円で被告から買い付けた。

(六) ワラント取引確認書の徴収

Bは、上組ワラントの買付後、被告からワラント取引説明書の郵送を受け、ワラント取引確認書(平成二年五月一七日付け。乙三五三の六)に原告X3の署名押印を代行してこれを返送し、平成二年六月一一日、被告に到達した。

(七) 上組ワラント買付後の原告X3の対応

(1) 原告X3は、平成三年一月、一度帰国し、Bが上組ワラントを買い付け、既に大きな含み損を抱えていることを知った。そこで、原告X3は、ワラントに関する本を買い求め、自らワラントについて研究した。

原告X3は、○○商事を退社し、平成三年五月に帰国したが、大きな損失を生じたワラントの買付けをBに勧誘したGに怒りを感じ、Gに連絡をした。そして、Gとその上司は、同年六月に原告X3宅を訪れ、上組ワラントの当時の状況について説明をしたところ、原告X3から以後上組ワラントの価格の情報を知らせるように要求されたため、その後頻繁に上組ワラントの価格を原告X3に報告し、ある程度の価格で損切りの上売却することを勧誘したが、原告X3は、自らの判断により売却しなかった。

原告X3は、平成五年三月二四日に右ワラントを三四一九円で売り付け、買付額との差額である一二八三万七六六一円の損失を被った。

(2) 上組ワラントの平成三年五月以降の業者間気配値のビッド価格の推移についてみると、同年五月一日は一三・三七ポイントで、その後低落傾向にあったものの、同年六月二〇日まではほぼ一〇ポイント台を維持し、その後一〇ポイントを割り込んだ。しかし、同年九月ころから上昇に転じ、同年一〇月一七日から一一月一二日までは一〇ポイント台を回復維持していた。しかし、その後再びは一〇ポイント台を割って、低落していった。

二  ワラントの商品性及びワラント取引の特徴について(争点①)

前記当事者に争いのない事実等に、甲二の一ないし六、甲三の四、六及び七、甲五の三及び六、甲一三並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  ワラントの商品性及びその取引の特徴について

ワラントは、一定の期間内に一定の価格で一定の数量のワラント発行会社の新株を購入することのできる権利であるが、このワラントは、株式、転換社債等の投資商品と比べ、次のような特質を有している。

(一) ワラントの周知性

ワラントの取引は、昭和六〇年一一月以降その国内発行が、昭和六一年一月以降海外で発行されたワラントの国内取引がそれぞれ行われることとなったのであって、ワラントは、昭和六三年ないし平成元年ころ、一般投資家にとってなじみのある商品ではなかった。

(二) 権利行使期限の存在による制約

ワラント投資の投資資本の回収方法は、新株引受権を行使することによることができるのはもちろんであるが、ワラント自体を売却することによることもでき、この場合、ワラント自体の価格が値上がりしていれば、その値上がり益を取得することもできる。しかしながら、一方で権利行使期間が定められており、これらの権利行使はその期間を経過してしまうと不可能となり、ワラントは経済的に無価値となる。

(三) 権利行使価格

ワラントの権利行使価格は予めワラント発行時に定められているが、かかるワラントが投資の対象となるのは、将来、新株引受権の行使により時価より低い権利行使価格で株式を取得することができる場合があるからであって、ワラント投資は、基本的には、将来、原株価が権利行使価格を上回る見通しを前提として初めて成り立つものである。

(四) ワラントの価格の仕組み

実際に取引される際のワラントの価格(以下、単に「ワラント価格」という。)は、権利行使価格と原株価との差額部分である理論的価格の部分(パリティ)と一定期間内において原株価が変動しても一定価格で株式を取得できることに起因する部分(プレミアム)とによって形成される。そして、後者のプレミアム部分は、残存権利行使期間の長短、原株価上昇の期待、原株価の変動の大きさの大小、流通性の大小、思惑等の複雑な要因により決定されるが、残存権利行使期間が短くなるにつれてその価値は減少して最終的には零になる。しかし、これを明確に示す基準は存在しない。

そして、外貨建ワラントを売却する場合には、その売却価格は為替変動の影響を受ける。

(五) ワラント価格の変動の大きさとその予測困難性

ワラント価格は、基本的に原株価に連動して変動するが、その変動は一般に原株価の変動より激しいものとなり、原株価の変動の数倍の幅で上下することがある(いわゆる「ギアリング効果」)。しかし、このワラント価格と原株価との連動性も、右パリティ部分と原株価との間では明確に存在するが、右プレミアム部分と原株価との間では明確に存在するわけではないから、ワラント価格と原株価との連動性も必ずしも厳密なものではなく、ワラント価格を予測することにはある程度の困難がある。特に、ワラント価格に占めるプレミアム部分が大きいワラントの価格の値動きは、原株価の変動と比べて、より複雑なものとなるのが一般であるから、その価格を予測することは相当困難なものとなるということができる。

(六) ワラント価格の不公示性

外貨建ワラントの取引価格の開示については、平成元年五月一日から一部の銘柄の取引価格が開示されるようになり、その後平成二年七月一八日付け日本証券業協会理事会決議により、同年九月二五日から残存権利行使期間が二年以上のワラントについてマーケット・メークがされることとなって、初めて一般投資家が容易にその取引価格を知ることができるようになった。したがって、それまでの間、一般投資家がワラント価格を簡単に知ることはできなかった。

2  右で述べたところからすれば、ワラントは、株式の現物取引等と比較して、より少ない投資資金でより大きな利益を獲得することができる商品であるということができるが、一般に、投資家にとっては、なじみが薄く、そのため投資経験の蓄積が少なく、その取引価格を知ることさえ当初は容易でなかった上、本来的に価格変動が激しいだけでなく、その予測もかなり困難であるという商品性向を有していたと認められる。さらに、ワラント投資には、権利行使期間の制約が存在し、その投資資金の全額を失う可能性さえ伴うものである。以上からすれば、ワラントは、高いリスクを伴う投機的な色彩の強い金融商品であるということができる。

そして、一般投資家にとって、ワラントの買付けや売付け又は権利行使のタイミングを決定するには株式等投資の場合より遥かに複雑で高度な投資判断を必要とすることになるから、ワラント投資を株式等投資の単純な延長線上のものと把握することはできないというべきである。

3  原株価が権利行使価格を下回っているワラント及びその取引について

(一) 原株価が権利行使価格を下回っている場合には、そのワラントには本源的な価値がなく、新株引受権を行使することには経済的合理性がない。しかしながら、このようなワラントも売り付けることによりその投資資金を回収することができるが、その場合であっても、原株価が権利行使価格を下回っているワラントの価格は、パリティ部分が存在せず、プレミアム部分のみで構成されることになるから、その価格を予測することは更に困難となるということができる(もっとも、このようなことは、ワラント価格に占めるプレミアム部分が大きなワラント一般にもいえる。)。さらに、残存権利行使期間が短くなるにつれて、原株価の上昇期待等を要因とするプレミアム部分は縮小し、評価が下がって取引されにくくなるから、これを売り付けることは困難となるという関係にある。

また、原株価が権利行使価格を下回り、かつ残存権利行使期間が概ね二年を切るようになったワラントの取引は、急速に減少するのが通例である。

(二) 以上からすれば、原株価が権利行使価格を下回っているワラントについては、原株価が権利行使価格を下回ったとたんに特別の危険性が発生するということはできないが(例えば、パリティが一ポイントのワラントとマイナス一ポイントのワラントとの間でその危険性に格段の相違があるということはできない。)、原株価が権利行使価格を相当程度下回り、かつ残存権利行使期間が概ね二年を切るようになったワラントは、権利行使期間の残存期間中に原株価が権利行使価格のレベルを回復する蓋然性が高い特段の事情のある場合を除いて、原株価が権利行使価格を下回ったまま残存権利行使期間が経過して行くことが少なくなく、ますます取引される割合が低下して、売り付けることも困難なまま権利行使期限を迎える可能性が高いということができるから、高いリスクを伴う投機的な色彩の強い金融商品であるというワラントの危険な商品性向が顕著に現われるのである。

したがって、原株価が権利行使価格を相当程度下回り、かつ残存権利行使期間が概ね二年を切るようになったワラントは、一般に、特有の高い危険性を有する状況にあるということができる。

なお、被告は、原告らの原株価が権利行使価格を下回っているワラントの危険性を前提とした特別の説明義務違反の主張について、時機に後れた攻撃方法であるとして却下を求める旨主張するけれども、原告らの右主張は、ワラントの危険性に関する証券会社とその外務員の説明義務違反についての請求原因を具体化敷衍化したものに過ぎず、特に訴訟の完結を遅延させる結果となると認めることはできないから、却下を求める被告の主張は採用できない。

三  ワラントを一般投資家に勧誘すること自体の違法性について(争点②)

前記二2のとおり、ワラントは、一般投資家にとって、なじみが薄い商品であり、その価格変動の激しさ、その予測の困難性、その取引価格等の情報の入手困難性、さらに、権利行使期間の制約から短期の取引を強いられ、判断を誤ればその投資資金の全額を失う可能性さえあることなどに鑑みれば、ワラントは高いリスクを伴う投機的な色彩の強い金融商品と認めざるを得ないものであって、前記二3のとおり、特に原株価が権利行使価格を相当程度下回り、かつ残存権利行使期間が概ね二年を切るようになったワラントは、一般に特有の高い危険性を有する状況にあると一応いうことができる。

しかし、その一方で、ワラント取引は、少ない投資金額でより大きな利益を獲得することができ、その投資リスクが最大限投資金額に限られるのであるから、金融商品としての利点と合理性が全くないというわけでもない。また、商法は分離型ワラントの発行を容認し、他方で、特に一般投資家に対する勧誘・販売を許さないという法規の規制は存在しないのであって、これらの事情に照らすと、ワラントを一般投資家に勧誘・販売すること自体が直ちに私法上の違法性を有するとすることはできず、このことは原株価が権利行使価格を相当程度下回り、かつ残存権利行使期間が概ね二年を切るようになったワラントにおいても異なるものではないということができる。

四  適合性原則違反に基づく違法性について(争点③)

1  一般に、いわゆる適合性の原則に関する証券取引法上の規制等又は日本証券業協会の内部規則等による各種規制は、いわゆる取締法上の行政規制又は自主的規制であり、これに対する違反が直ちに私法上の不法行為の違法性に結びつくものではない。すなわち、そもそも本来的には私法上の不法行為における注意義務と違法性の基準はこれらと別異の観点で考慮され設定されるべきものということができる。しかしながら、右のような取締目的の行政規制又は自主的規制の設定の趣旨は、私法上の法益保護目的と一部共通するものがあるということができるのであって、その限りでは、私法上の不法行為における基準を設定するに際しても、右の取締法上の行政規制又は自主的規制の在り方をも考慮し、これらの規制が行われている現状を念頭に置いて注意義務と違法性の在り方を決すべきものと考えられる。

ところで、適合性の原則とは、証券会社とその外務員が投資家に証券取引を勧誘するに際しては、その勧誘が当該投資家の投資経験、投資目的、財政状態等に照らして適合するものでなければならないとする原則であるということができるが、投資家には、他方で、投資する商品を自ら選択し、それに投資するか否かを決する自由が存するのであって、このことに照らすと、証券会社とその外務員によるワラント取引の勧誘が適合性の原則に違反して私法上も違法性を有するのは、ワラントに対する投資が、勧誘された投資家にとって、その投資意向や投資経験に反するだけでなく、ワラント投資に伴う前述のようなリスクが、その投資判断能力、財政状態において到底耐え得るものでなかったと明らかに認められる場合であると解される。

2  原告X1に対するワラントの勧誘について

原告X1は、大正四年○月○日生まれで、平成元年九月当時は既に七四歳であり、昭和六二年七月三一日に横浜市から身体障害等級四級の身体障害者手帳の交付を受けた者であり、被告を介する従前の証券取引は株式等の現物取引を中心としたもので、その取引額も多額に上るものではなかったこと、被告との一連のワラント取引の中には取引価額が一〇〇〇万円に近い取引も存在することは、前記一1(一)(二)で認定したとおりである。このような、原告X1の高齢、障害を有する身体、従前の証券取引の経験内容に照らす限りは、必ずしも原告X1にワラント取引に適合性があるとはいえないと考える余地もある。

しかしながら、前記一1(一)(二)のとおり、原告X1の株式等の証券取引の経験は、昭和四六年から二〇年間の長きに及び、被告横浜支店の行う投資相談、セミナー等へも出席し、取引資金の決済を行うために度々被告横浜支店を訪れ、その度に証券投資の情報を収集するなど積極的、意欲的な投資家としての行動をとっていたと認められ、また、被告外務員の勧誘に対してもそれに安易に従うことなく、自らの判断で投資決定をしていたと認められるのであって、自らの長い証券投資の経験に照らし、主体的な判断に基づいて取引を行うか否かの投資判断を下す能力を身に付けていた者と認めることができる。特にワラント取引については、被告との一連のワラント取引以前の昭和六二年ころから既に日興證券との間で延べ一五銘柄ものワラント取引の経験を有しており、最終的に日興證券と被告の両会社を合わせると三〇回を越えるワラント取引を行っていることが認められるのである。これらの事情を総合すると、原告X1においては、被告との一連のワラント取引における投資は、その投資意欲の現れであったことは明らかであり、ワラント特有の危険性を考慮してもなお、従前の投資姿勢に反していたとか、財政状態に照らしてそれが過大な投資であったということはできない。したがって、私法上の見地からもみても、原告X1にワラント取引について適合性がなかったということはできない。

3  原告X2に対するワラントの勧誘について

原告X2は、証券取引を経験した期間が短いこと、被告との証券取引をみる限り、その投資対象は現物株と転換社債に限られ、その銘柄も圧倒的にいわゆる新規募集物の取引が多いこと、Eからワラントを勧誘されるまでワラントについて全く知識がなかったこと、被告との一連のワラント取引はその買付額が一〇〇〇万円を超える取引も存在すること、また、NTNワラントの買付資金を初めとして、原告X2の証券取引の投資資金中には箱根信用金庫からの借入金が含まれていたことは前記一2(二)で認定したとおりであって、原告X2の投資傾向は手堅いものであったということができ、また、借入金をワラント投資の資金とすることは必ずしも適切な投資判断とはいえないこともまた事実である。

しかしながら、前記一2(一)(二)のとおり、原告X2は、昭和二五年○月○日生まれで、平成元年一一月二日当時は三八歳であったのであり、○○大学を卒業し、株式会社○○商事の代表取締役として、レストランの経営及び不動産業に従事していた者であること、また、株式等の証券取引の経験についてみると、昭和六一年以降にこれを開始しているとはいえ、三洋証券との間では総額六〇〇〇万円程度を投資し、一〇〇〇万円単位の取引をしていたこと、被告を介しての取引も、わずか四か月弱の間に延べ一二銘柄という頻繁な取引をし、その投資額も二〇〇〇万円を越えるものが三銘柄もあるというものであること、その証券投資の態度も、被告外務員の勧誘に安易に従うことなく、自らの判断で投資するか否かを決定していたこと、さらに、投資資金が借入金であるといっても、その返済に困ることのないような十分な資産を有していることなど原告X2に関する諸事情に照らしてみると、原告X2の行った前記認定のワラント取引に対する投資が過当な投資であったとまで断じることも必ずしもできないと考えられる。

以上によれば、私法的見地からみて、原告X2がワラント取引に適合性を有しない者であったということはできない。

4  原告X3に対するワラントの勧誘について

Bは、専業主婦であって、原告X3とともにいずれもワラントを勧誘された当時ワラントの知識を全く有していなかったこと、原告X3自らが積極的に行った被告との証券取引の期間は一年程度と短いこと、被告を介する証券取引の対象は現物株等に限られていたこと、被告とのワラント取引の内二つの取引は買付額が一〇〇〇万円を超える取引であることは、前記一3(一)(二)で認定したとおりである。

しかしながら、前記一3(一)(二)のとおり、原告X3は、○○大学法学部を卒業し、大手商社である○○商事株式会社に勤務していた者であって、また、Bも原告X3と同じく○○大学法学部を卒業していた者であって、原告X3はもちろん、Bも証券取引の経験を一応有することから、原告X3とBは、証券会社の外務員等から適切な説明等を受ければ、ワラントを初めとした証券取引について、自らの主体的な判断で投資するか否かを決定することができるだけの能力を有する者であるということができ、また、原告X3の証券取引は短期間とはいえ一〇〇〇万円近い取引もあること、さらに、原告X3とBがある程度の資産を有していたことは原告X3本人と証人Bの供述によってこれを認めることができるのであり、これらの事情に照らすと、原告X3及びBがワラント取引について適合性を有しないということはできない。

五  説明義務違反、断定的判断の提供等による違反(争点④及び⑤)

1  説明義務等の根拠について

(一) 一般に、投資家が証券取引を行うに際しては、原則として自らの能力と責任において、当該取引の内容、リスクの有無、程度、自己の財産状況との相互関係などを十分に把握した上で投資すべきか否かを判断すべきものであるが(自己責任の原則)、実際には、証券会社が有する商品と取引に関する高度の専門的知識、経験、情報に比して、一般投資家が有する知識、経験、情報は、通常の場合低レベル又は不十分なものに止まるのであり、そのような格差が存在する中で取引が行われることとなれば、証券会社の外務員の勧誘において、その投資家の立場に即した説明が行われるなど適切な勧誘がなされるのでなければ、一般投資家は極めて不十分な立場で取引に参加することとなって、ひいては投資家が自らの能力と責任において取引の内容、リスクの有無などを判断したいわゆる自己責任の原則に基づく取引ということもできなくなるものと考えられる。

すなわち、いわゆる自己責任の原則のいう、証券取引によって生じた損失の責任は当然に投資家が負うべきものとの考え方に立脚するためには、投資家が自主的な判断に基づいて合理的な投資決定を行うことのできる状況に置かれていることがその前提として不可欠であると考えられるところ、一般投資家の置かれた状況は、自ら収集し得る情報に限界があり、また、新商品や専門性が増す証券市場に対して正確な情報に乏しく、これに対する十分な理解と投資判断の能力においても必ずしも恵まれているとはいえないのであって、このようなことから、実際の一般投資家の投資判断は、専門家である証券会社とその外務員の投資勧誘の態様に大きく影響を受けている状況にあると考えられる。

これに対し、証券会社は、監督行政庁より免許を受けて証券業を営む証券取引の専門家であって、証券発行会社の業績や財務状況等に関する多くの情報と証券取引に関する豊富な経験のほか、当該商品に関する高度で専門的な知識を有する者であり、それゆえ、一般投資家は、証券会社の提供する情報、勧誘等に信頼を置いて証券市場に参入しているのであり、証券会社もそのような一般投資家の信頼を背景に営業活動を行い、それにより利益を得ている者であるということができる。

したがって、証券取引を勧誘して受託契約(外貨建ワラントの場合は相対の売買契約)を締結しようとする証券会社とその外務員には、信義則に基づき、勧誘する投資家に対し、当該投資家が自主的な判断に基づいて合理的な投資判断を行うことのできるように、その証券取引によるリスクについて正しい理解を形成し得るような当該証券取引の内容とリスクの存在に関する的確な情報を提供し、説明すべき義務を負うとともに、利益獲得の蓋然性について断定的な判断を提供するなどして、投資家の投資意思の形成を歪めるような勧誘方法を採ることに対しては、厳しい制約があるべきものと解される。

そして、証券取引法等が証券取引の勧誘に関し種々の義務を証券会社とその外務員に課しているのも、右と同じ趣旨に出たものというべきである(むろん、前述のように、証券取引法違反等の公法上の違法性を有する行為が、直ちに被勧誘者との関係で私法上の違法評価につながるものではない。)。

(二) そして、実際の証券会社の外務員の具体的勧誘行為が右信義則上の義務に違反し、かつ、違法となるか否かは、当該投資家の職業、年齢、能力、証券取引に関する知識、経験等の投資家側の事情と勧誘する証券取引の特徴と危険性等に照らして、個別具体的に判断すべきものであって、一律の基準を適用することができないのは当然であるけれども、ワラント取引の勧誘における説明義務については、前記二2のとおり、ワラントの有する一般投資家になじみが薄く高いリスクを伴う投機的な色彩の強い金融商品であるというその商品性向に照らすと、ワラント投資を株式等投資の単純な延長線上のものと把握することはできないのであって、その説明義務の内容がやや特殊なものになるのはむしろ当然というべきであり、その内容は、当該投資家の投資判断に直接影響を及ぼす事項の全部に及ぶべきものと解される。そして、前記二2のとおり、ワラント投資には複雑で高度の投資判断を要求されることから、投資家が株式等の証券取引の知識と経験を有し、そのリスクを理解する十分な能力を有する場合であっても、当該投資家がワラント取引の知識と経験を有しない限りは、①ワラントには権利行使期限が存在し、権利行使期限を経過するとワラントは無価値となること、②ワラントの取引価格は、基本的に原株価に連動して変動するが、原株価の数倍の値動きをすることのあるハイリスク・ハイリターンの商品であることの二点を説明することが最低限必要であり、特に、原株価が権利行使価格を相当程度下回り、かつ、例えば残存権利行使期間が二年を切っているようなワラントを勧誘する場合には、このようなワラントが一般に特有の高い危険性を有する状況にあることは前記二3のとおりであるから、原株価の反転上昇が期待できる特別の事情の存する場合を除き、取引量が次第に縮小し、危険度が一層高まることを警告的に説明することが必要であると考えられる。

(三) 以上のとおり、ワラント取引を勧誘する証券会社とその外務員には、株式等のその他の証券取引の勧誘の場合とは異なる特別の信義則上の説明義務が課されるべきであり、また、投資判断を歪めるような勧誘行為は制限されるべきものと解されるが、現実の証券取引の主観的動機については、種々の要素を分析することができるとしても、本源的には投資者自身の投資意欲をその動因として行われるのが通例であるから、右のような証券会社とその外務員に課せられる説明義務等の在り方と程度も、投資者自身の投資意欲の在り方、程度に影響を受けるべきものと考えるのが相当である。すなわち、投資者自身の投資意欲が強く、適切な説明義務を尽くしたか否かにかかわらず、投資者自身がその投資意欲に基づいて投資行為をしたであろうことが明らかであると認められる場合においては、証券会社とその外務員に明白で重大な説明義務違反等が認められる場合を除き、その説明の不十分さ等の責任を証券会社とその外務員に問うことはできないというべきであり、直ちにこれを違法と評価することはできないものと解される。

(四) このようにして、証券会社とその外務員が、前記信義則上の説明義務等に違反して証券取引の勧誘を行い、その勧誘が全体的観察において違法と評価され、かつ、そのために当該投資家が損害を被ったと認められるときは、その勧誘行為は不法行為を構成し、証券会社とその外務員はその損害賠償責任を免れないというべきである。

そこで、以下、原告らに対する各ワラントの具体的勧誘行為が違法であるか否かについて検討する。

2  原告X1に対する具体的勧誘行為について

そこで、以下、原告X1に対する各ワラントの具体的勧誘行為が違法であるか否かについて検討する。

(一) 原告X1の投資意欲等について

(1) まず、原告X1の職業、年齢等についてみると、前記一1(一)のとおり、原告X1は、大正四年○月○日生まれであり、平成元年九月当時は既に七四歳で、ぼうこう機能障害により身体障害等級四級の身体障害者手帳の交付を受けており、昭和二五年ころに勤務先を退職した後は、妻と共に洋品店を経営していた者である。

(2) 次に、原告X1の証券取引に関する知識、経験等についてみると、前記一1(二)(三)のとおり、原告X1は昭和四六年ころから継続的に被告との間で証券取引をするようになったが、日本信販ワラントを買い付けるまでの被告を介しての証券取引の状況をみると、一時期を除いて活発な運用がされているわけでなく、その運用の仕方をみると、信用取引の経験はあるものの、それは繋ぎ売りのためになされたもので、その投資対象は株式、転換社債等に限られ、しかも募集債等のいわゆる募集物の取引が多いことに照らすと、それなりに手堅い運用であったということもできる。

しかしながら、原告X1は、被告主宰のセミナー等に出席するなど度々被告横浜支店を訪れて証券情報を収集していること、被告を介しての株式等の証券取引における銘柄の選択やその買付け、売付けはいずれも原告X1自身の意思決定に基づくものであったことに鑑れば、いわゆる意欲的、積極的な投資家であったということができるのであって、日本信販ワラントの買付けの時点においては、株式等の証券取引に関して既に相当の知識、経験を有し、主体的な判断に基づいてその取引の可否を決し得る投資能力を身に付けていたということができることは前記認定のとおりである。

(3) また、原告X1は、前記一1(三)のとおり、日興證券との間で昭和六二年ころから延べ一五銘柄に及ぶワラント取引を行っていた者であり、前記一1(四)(1)のとおり、平成元年九月一日に日本信販ワラントの買付けを行う前に、数か月に亘って時折被告横浜支店に足を運び、ワラント投資の経験を語るとともに、優良ワラント銘柄の推奨をCに求めていたのであるから、ワラント取引に関しても一定の知識・経験を有し、取引の可否を自らの判断で決し得る投資能力を有していたのみならず、ワラント投資に対する単なる興味を超える投資意欲を有していたというべきである。

(二) 日本信販ワラントの勧誘について

(1) そこで、まず、右にみた原告X1のワラント取引に対する投資能力と投資意欲等を踏まえ、前記二で述べたワラント及びワラント取引の特質に照らして、日本信販ワラント取引におけるCの原告X1に対する説明義務の具体的な在り方を検討するに、ワラントは一般的になじみが薄く、高いリスクを伴う投機的な色彩の強い金融商品であるけれども、右認定の一般の証券取引に関する原告X1の知識と経験の豊富さ、日興證券との間で相当数のワラント取引を重ねることによって蓄積されたと推認されるワラント取引に関する一定の知識と経験、更に、その旨をCに告げた上でCに示したワラント取引に対する意欲と具体的なワラント銘柄の推薦要請といった投資行動の在り方に照らすと、Cにおいては、日本信販ワラントを原告X1に勧誘するに当たって、ワラント商品に関する初歩的、一般的な説明を行わなければ信義則に反し、かつ違法であるということはできず、また、ワラント特有の危険性についての一般的な説明もさほど必要ではなかったと認められる。

(2) このように、原告X1に対しワラントに関する初歩的、一般的な説明等が必ずしも必要でなかったとしても、現実のワラント商品における具体的危険は、主として原株価の在り方(推移)と権利行使価格、残存権利行使期間の長短に関係する問題であるから、原告X1が日本信販ワラントに投資するか否かを決定するためには、日本信販ワラントの権利行使価格と権利行使期限を知らなければ、これに対する投資判断が困難であったことは明らかである。

(3) 右のような観点の下で、Cが原告X1に対して行った日本信販ワラント取引の勧誘の際の説明内容をみると、前記一1(四)のとおり、Cは、平成元年五月から八月までの間に他の銘柄のワラントを推奨するに際して、ワラントの定義、ワラントの値動きが激しいこと、権利行使期限が存在し、権利行使期限を過ぎるとワラントの価値がなくなることなどを説明し、同年九月一日に日本信販ワラントと他の数銘柄のワラントを同時に推奨するに際して、それぞれの権利行使価格と権利行使期限を告知していると認められる。

前記認定のとおり、原告X1に対しては、初歩的、一般的説明は必ずしも必要ではなかったと認められるが、Cの説明の内容は、ワラントの商品性質とその危険性についての一般的な説明に及び、日本信販ワラントの推奨に当たっては、権利行使価格と権利行使期限の説明をも行ったというのであるから、前記認定の原告X1の投資能力と投資意欲等に照らす限りは一応十分なものであったと認められ、Cに説明義務の違反を認めることはできない。

(4) また、前記一1(四)のとおり、Cが日本信販ワラントを原告X1に勧誘するに際しては、他の数銘柄のワラントを推奨し、原告X1は一旦帰宅後電話で日本信販ワラントを選択して発注したというのであるから、原告X1自身の投資判断によって日本信販ワラントの買付けが行われたことは明らかであり、その投資判断を歪めるような方法で勧誘がなされた事実は認められない。

(三) その後の各ワラントの勧誘について

(1) 前記一1(五)ないし(七)のとおり、原告X1は、日本信販ワラントの買付けに引き続き、住友商事ワラントの買付けから三和シャッターワラントの買付けに至るまで、延べ八銘柄のワラントを買い付けているが(別紙原告X1ワラント取引一覧表参照)、右認定のとおり、原告X1は、日本信販ワラントの買付時までにワラント取引について一定の知識、経験を有していた上、さらに、Cから日本信販ワラントの勧誘を受ける前にワラントの有する危険性について一般的な説明を受けていると認められ、また、前記一1(五)のとおり、平成元年九月五日にはワラントの危険性等について記載のあるワラント取引説明書の交付を受け、ワラント取引確認書に署名押印していることが認められる。これらの事実に、前記認定のとおり、原告X1においてはワラントに対する投資能力とやや強い投資意欲があり、右の延べ八銘柄のワラント買付けも、これらの投資意思の発現と認められることを勘案すると、C及びDが右各ワラントを原告X1に勧誘するに際しては、各ワラントの現実の危険性の判断に直接影響を及ぼすということができる各権利行使価格と権利行使期限を告知することで足りるというべきである(告知された情報に対してどう判断するかは原告X1の自己責任に属する事柄である。)。そして、前記一1(六)のとおり、C及びDは原告X1にこれらの事項について告知していると認められるから、C及びDについて説明義務違反を問うことはできず、違法ということもできない。

(2) また、前記一1(五)(六)のとおり、C及びDが原告X1に対して前記延べ八銘柄のワラントを勧誘するに際しては、概ね他の数銘柄とともに推奨し、原告X1の選択に委ねる方法を採っていたものと認められる。右のような勧誘方法による場合には、原告X1の投資判断を歪めるような方法で各ワラントを勧誘したということは到底できないから、結局、C及びDの右各ワラントの勧誘方法においても違法な点を見出すことはできない。

(四) 日本セメントワラントの勧誘について

(1) ところで、日本セメントワラントについては、前記一1(七)(1)(2)のとおり、平成二年七月六日に三和シャッターワラントを三六万円余の利益を出して売却した原告X1から「これに見合う何かいいワラントはないか。」と有望銘柄を求められたDが、当時価格が回復しつつあるとして原告X1に勧めたワラントであって、原告X1は、同月一二日にこれを代金二三一万三八〇三円で買い付けたのであるが、権利行使価格が一一五九円であるのに対し、平成二年七月一二日の東京証券取引所における日本セメント株式会社の株式の終値は一一三〇円であって、いわゆるマイナス・パリティ価格の状態であったと認められる。ところが、Dは、前記一1(七)(1)のとおり、権利行使価格と権利行使期限を告知したものの、特にマイナス・パリティに関しては言及せず、このワラントの危険性については何ら説明しないまま原告X1にこれを勧誘したものと認められる。一般に、前記二3のとおり、原株価が権利行使価格を下回っているワラントは、本源的な価値がなく、原株価が上昇する蓋然性がない以上、残存権利行使期間との関係で価格の大幅な上昇を期待することは難しい場合があるということができ、権利行使期限が近づけば、ますます価格は低下し、かつ、取引自体も困難となるものであって、ここにワラント特有の危険性がひそみ、このようなワラント銘柄の取引を勧誘する証券会社又は外務員には、このことに関する適切な説明を行う義務が生じる場合があると考えることができる。

(2) しかしながら、右認定のとおり、原告X1は、ワラントに関する一定の知識と投資意欲を有し、日本信販ワラントの勧誘の前後には、Cからワラント及びその危険性について一般的な説明を受けており、前記一1(五)のとおり、そのころワラントの危険性等について記載のあるワラント取引説明書の交付を受け、ワラント取引確認書に署名押印をしてこれをCに差し入れている上、平成二年七月一二日に日本セメントワラントを買い付けるまでに被告との間で延べ九銘柄のワラントの買付け又は売付けの経験を有し、日興証券との間でも延べ二一銘柄のワラント取引を経験していたことが認められるのであって、弁論の全趣旨によれば、被告との間で三銘柄、日興証券との間で六銘柄が最終的に損失を生じ、日本セメントワラントを買い付けた当時において既に含み損を抱える銘柄が存在したことが認められる。したがって、原告X1は、日本セメントワラントを買い付けた平成二年七月一二日の時期においては、値下がりによる損失の大きさ等のワラントが持つ危険な商品性を既に体験によって十分に認識していたと推認することができる。

(3) したがって、原告X1は、Dから日本セメントワラントの回復しつつある価格と権利行使価格、権利行使期限の説明を受けた際には、マイナス・パリティの状態にあること、そこにワラント特有の危険性があることを理解していたと認められ、右理解に立って、日本セメントの原株価が権利行使価格を下回っているのはわずか二九円であること、権利行使期限までなお三年六か月ほどの期間があること、前記一1(七)(1)のとおり、当時買付時より価格が下落していた日本電装等三銘柄のいわゆる「なんぴん買い」をすることの是非などを十分に検討した上で、日本セメントワラントの買付けを行ったものと認めることができる。

そうすると、当時マイナス・パリティ状態にあった日本セメントワラントの買付けを勧誘したDには、その危険性について十分説明すべき義務があり、その権利行使価格と権利行使期限を告知したのみにとどまり、その特有の危険性に言及しなかった点は、右説明義務の尽くし方として不十分であったというべき場合があるが、三和シャッターワラントに見合う何かいいワラントはないかと有望銘柄への投資意欲を示していた原告X1においては、その経験と知識により、十分にその特有の危険性を理解していたと推認するのが相当であり、その理解に立って自らの考えでDの勧誘に対して投資判断を下したと認められるから、Dの右説明義務の履行には、もはや違法性はないものと認めるのが相当である。

(4) 次に、日本セメントワラントの買付けの勧誘に際しては、前記一1(七)(1)のとおり、原告X1は直前に利益を出して売却した三和シャッターワラントに見合う何かいいワラントはないかと、Dに対して具体的銘柄の推奨を求めており、これに対してDが価格が回復基調にあるとの理解を上げて日本セメントワラントのみを原告X1に勧めたことは、証券取引の実状においては無理もない行動であり、このようなDの勧誘方法に違法と認めるべき点はない。

(5) 右に認定、説示したところを総合すれば、被告の外務員であるDは、原告X1に対し日本セメントワラントを勧誘するに当たって、違法というべき説明義務の違反はなく、また、原告X1の投資判断を歪めるような勧誘方法をした事実を認めることはできないから、結局、Dの日本セメントワラントの勧誘を、私法上違法ということはできない。

(五) 以上によれば、原告X1の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

3  原告X2に対する具体的勧誘行為について

(一) 原告X2の投資傾向等について

(1) まず、原告X2の職業、年齢等についてみると、前記一2(一)のとおり、原告X2は、昭和二五年○月○日生まれであり、○○大学を卒業し、平成元年一一月当時は三八歳で、レストラン経営及び不動産業に従事し、株式会社○○商事の代表取締役を務めていた者である。

(2) 次に、原告X2の証券取引に関する知識、経験等についてみると、前記一2(二)のとおり、原告X2は昭和六一年から日興証券、昭和六二年から三洋証券との間で証券取引を開始し、昭和六二年七月から継続的に被告との間で証券取引をするようになった。

昭和六二年七月以後NTNワラントを買い付けるまでの、被告を介しての証券取引の状況は、前記一2(二)のとおりであって、その運用の仕方をみると、その投資対象は株式、転換社債に限られており、しかもいわゆる新規募集物の取引が圧倒的に多い等手堅いものであったということができることは前記認定のとおりであるが、他方で、原告X2は、三洋証券において六〇〇〇万円、被告との証券取引においても七〇〇〇万円を超える投資をしており(ただし、これらの取引が重なったのは一か月間程度である。)、その投資額が大きいだけでなく、一銘柄当たりの取引額も大きいということができるのも前記認定のとおりである。

(3) そして、これらの被告を介しての株式等の証券取引における銘柄の選択やその買付けと売付けは、前記一2(二)のとおり、通常原告X2の意思決定に基づく指示によるものであり、原告X2の証券投資の態度は、被告外務員らの勧誘に安易に従うことなく、自分で良く研究した上、納得ができないものは買い付けないというものであったと認められる。このような原告X2の株式等の証券取引における投資意思の在り方、又は証券投資の運用態度に照らせば、原告X2は、NTNワラントの買付けを行った平成元年一一月二日の時点までに、既に株式等の証券取引に関する一定の経験を有するのみならず、自らの運用方針を持ち、主体的な判断に基づいてその取引をするか否かを決することができる投資判断能力を身に付けていたものと認めることができる。

(二) NTNワラントの勧誘について

(1) もっとも、前記一2(二)のとおり、Eからワラントの勧誘を受けるまで、原告X2にはワラントに関する知識は全くなかったものと認められるが、右のとおりの原告X2の職業、年齢、証券取引に関する知識、経験等のほか、前記一2(三)のとおり、Eが平成元年七月ころから度々原告X2を○○レストランに訪れ、ワラント取引説明書や社内での勉強会用の資料を手渡した上、ワラントの定義、権利行使期限、権利行使期限を過ぎると無価値となることなどの一般的な説明をしたこと、その際にはワラントの値動きが大きいこと等を株式や転換社債と比較しながら説明していること、これらの説明と合わせて、原告X2自身も数か月間ワラントの商品性質について研究していたものと認められることを総合すると、EがNTNワラントの買付けを勧めた平成元年一一月二日までには、原告X2は、ワラントの特質について一応の知識を獲得していたものと認められる。

(2) しかしながら、前記二のワラント及びワラント取引の特質に鑑ると、いかに原告X2が証券取引に関する一定の経験と知識を有していたとはいえ、前記二2のとおり、ワラントはなじみが薄く高いリスクを伴う投機的な色彩の強い金融商品であって、原告X2は、初めてワラント取引を行う者であったのであるから、EがNTNワラントを原告X2に勧誘するに当たっては、ワラントの有する危険性を原告X2が認識できるように、ワラントに関する一般的な説明に止まることなく、①ワラントには権利行使期限が存在し、その権利行使期限を経過するとワラントは無価値となること、②ワラントの取引価格は、基本的に原株価に連動して変動するが、原株価の数倍の値動きをすることのあるハイリスク・ハイリターンの商品であることの二点について、原告X2が十分理解できるように説明し、その権利行使価格と権利行使期限を告知する必要があったというべきである。もっとも、右の説明の在り方、程度は、原告X2の知識・理解の程度に応じて、相関関係を有するものとして決定されるべきものと解される。

(3) この見地で、原告X2に関して本件をみると、前記一2(三)のとおり、Eは、平成元年七月から一〇月までの間に、原告X2に対してワラントに関する一般的な説明のほか、前述の①権利行使期限の存在とそれによる制約、②ワラント価格の変動の大きさとその予測困難性という二点についても説明し、原告X2もこれらを十分に理解していたものということができるのであって、同年一一月二日にEがNTNワラントを勧誘するに際して右の説明を繰り返す必要があるとはいえないのであるから、NTNワラントの具体的な権利行使価格と権利行使期限とを告知したEの説明にその説明義務に違反する、又は不十分な点があると認めることはできない。

(4) さらに、前記一2(三)のとおり、Eの原告X2に対するNTNワラントの勧誘は、「ようやく八ワラントだけ手に入った。今返事が必要です。」というような表現によるものではあったが、従前の数か月間に亘る勧誘の経緯と原告X2の理解の程度に照らせば、右のような勧誘方法をもって、原告X2の投資判断を歪める勧誘方法であったということはできない。

(三) 三菱金属ワラント等の勧誘について

(1) その後、Eは、三菱金属ワラント(平成元年一一月七日買付け)、古河鉱業ワラント(同月一四日買付け)、日商岩井ワラント(同月一七日買付け)、住友商事ワラント(同月二〇日買付け)を勧誘していることは前記一2(五)のとおりであるが、右各勧誘に際してEが負うべき説明義務は、前述のとおり既に尽くされていると認められ、具体的な権利行使価格と権利行使期限の告知もされていたと認められるから、右の各勧誘に際してEに説明義務違反を問うことはできない。

(2) また、前記認定の原告X2の知識及び理解の程度、又はその投資意思に照らしてみれば、Eの右各勧誘における勧誘方法が、原告X2の投資判断を歪めるようなものであったと認めることもできない。

(四) 住友金属ワラントの勧誘について

(1) 前記一2(五)のとおり、住友金属ワラントの買付けは右古河鉱業ワラントを売却して行われたものであり、右買付代金は全額原告X2の損失となったものであるが、Eの勧誘に説明義務違反があったということができないことは、前記各勧誘の場合と同様である。

(2) また、Eの勧誘方法は、前記一2(五)(2)のとおりであるが、原告X2の知識及び理解の程度、又はその投資意思に照らしてみれば、これを投資判断を歪めるようなものであったと認めることはできない。

(五) 住友不動産ワラント(第四回、第五回)の各勧誘について

(1) 右各ワラントの勧誘についても、Eに説明義務違反を認めることができないことは前同様である。

(2) また、右各ワラントは、いずれもEの勧誘による買付けではなく、原告X2自身の投資判断によるものであったことは、前記一2(六)のとおりであり、そこにEの勧誘方法に関する違法を問題にする余地はない。

(六) 神戸製鋼所ワラントの勧誘について

(1) 前記一2(七)のとおり、右ワラントの勧誘は、Eの電話によるものであったが、一連のワラント勧誘の一環となるものであったことは明らかであり、Eに説明義務違反を問うことができない点は、それ以前のワラント勧誘の場合と同様である。

(2) また、Eの神戸製鋼所ワラントの勧誘に、原告X2の投資判断を歪めるような勧誘方法が存在したことは、これを認めることができない。

(七) 伊藤忠ワラントの勧誘について

(1) 前記一2(八)のとおり、伊藤忠ワラント以降の買付けは、Fの勧誘に係るものであるが、原告X2は、既に合計九銘柄のワラントを買い付け、利益の出たものは売却し、その内延べ四銘柄のワラントはFが関与した時点で既に含み損を抱えた状態にあったと認められ、ワラントの危険性については、単なる知識に止まらず、身を持って体験していたと認められる。

そして、前記一2(八)のとおり、平成二年一月ころには、原告X2も了承した①低ポイントで残存権利行使期間の長いワラントに投資していく、②新発物のワラントで短期の利益を狙っていくという投資方針に従い、この方針に適合する複数の銘柄の中から原告X2が選択するという買付け方法が採られていたと認められる。

(2) したがって、右のような状況と方法の下で平成二年八月二七日に買い付けられた伊藤忠ワラントの勧誘については、Fに説明義務違反を問うことはできないというべきであり、投資判断を歪めるような勧誘方法であったということもできない。

また、平成三年六月一二日に買い付けられた伊藤忠ワラントは、前記一2(八)(5)のとおり、原告X2自身の意思に基づくいわゆる「なんぴん買い」であったと認められるから、そこにFの説明義務違反と勧誘方法の違法を認めることはできない。

(3) なお、伊藤忠ワラントは、前記一2(八)(1)(5)のとおり、権利行使価格が九七六円であるのに対し、一回目の買付日である平成二年八月二七日の東京証券取引所における伊藤忠株式会社の株式の終値は六九二円、二回目の買付日である平成三年六月一二日の終値は六五一円であったのであり、いずれの買付時においてもいわゆるマイナス・パリティの状態にあったのであるから、このような価格状態にあるワラントの勧誘に当たっては、特別の説明義務が生ずる場合があると解すべきであり、Fが特にそのことを説明したことを認めるに足りる証拠はないが、前記一2(八)のとおり、当時、原告X2は、連日全銘柄の気配値表の送付を受けてワラント価格の状況に目配りをしていたと認められる上、低ポイントの価格でも残存権利行使期間の長いものに投資していくという方針を有していたことも前記一2(八)のとおりである。別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、伊藤忠ワラントは、一回目の買付日においては約四年間、二回目の買付日において約三年間の残存権利行使期間を有していたのであるから、右の投資方針に従う限り、Fがことさらにマイナス・パリティ状態の危険性を告知しなければならない緊急性があったとは必ずしもいえず、Fがこの点の説明をしなかったことをもって違法ということはできない。

(八) 東邦レーヨンワラントの勧誘について

(1) 東邦レーヨンワラントは、前記一2(八)(2)のとおり、右認定の投資方針に従い、Fが選別し、原告X2が指定して買い付けられたものであることが認められるから、このようなワラントの勧誘においても、Fに説明義務違反を認めることはできず、投資判断を歪める勧誘方法であったということもできない。

(2) なお、前記一2(八)(2)のとおり、この東邦レーヨンワラントは、権利行使価格が一一二八円、右ワラントの買付日である平成二年九月一三日の東京証券取引所における東邦レーヨン株式会社の株価の終値は七二五円であったから、やはりマイナス・パリティの状態にあったというべきであるが、別紙原告X2ワラント取引一覧表記載のとおり、残存権利行使期間は約三年間であって、伊藤忠ワラントの場合と同様、Fの説明の不十分さに違法性を認めることはできない。

(九) ユニチカワラントの勧誘について

ユニチカワラントも、前記一2(八)(4)のとおり、右認定の投資方針に従ってFが勧めたものを原告X2が同意して買い付けたものと認められるが、ここにFの説明義務違反を認定することはできない。

また、原告X2の投資判断を歪めるような勧誘方法があったことを認めることもできない。

(一〇) 以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告X2の請求は理由がない。

4  原告X3らに対する具体的勧誘行為について

(一) 森永乳業ワラントの勧誘について

前記一3(三)のとおり、原告X3が被告から買い付けた森永乳業ワラントは、原告X3がIに対し証券取引を一任していた当時の取引であって、Iに対する一任の内容がワラントの買付けを除外するものであったと認めるべき証拠はなく、昭和六二年以降の原告X3名義の被告川崎支店における取引をみると、外国株等の取引をも含めて非常に多数の取引が活発に行われていること、ワラント取引も株と同様に出資額を限度とするリスクの限度があることを考慮すると、たとえそれが危険な商品性を持っているとしても、ワラントについての投資もこれを一任していたものと推認するのが相当である。

そうすると、右の一任によりIが買い付けたと認められる右森永乳業ワラントの買付けに関しては、そもそも勧誘行為の違法性を問題にする余地はないということとなる。

したがって、森永乳業ワラント取引により損失が生じたとしても、これをIの違法な勧誘によるものとして被告の責任を問うことはできない。

(二) したがって、ワラントの具体的勧誘行為が違法か否かが問題となるのは、日本軽金属ワラント及び上組ワラントの二銘柄であるところ、前記一3(四)(五)のとおり、これらはいずれも、Gの勧誘により、Bが買付けを承諾したものであって、事前にBが原告X3から各ワラントの買付けを頼まれたような事情は認められないから、Gによる各ワラントの具体的勧誘行為に違法性があるか否かについて判断するには、Bを基準としてその具体的勧誘行為に違法性があるか否かについて検討しなければならない。

(三) Bのワラント投資に関する能力等について

(1) まず、Bの職業、年齢等についてみると、前記一3(一)のとおり、Bは、昭和二七年○月○日生まれであり、平成二年五月当時は三七歳で、○○大学法学部卒業後、専業主婦をしていた者である。

(2) 次に、Bの証券取引に関する知識、経験等についてみると、前記一(二)(2)のとおり、B自身は原告X3の取引については、預り証等の管理をするほかは全く関与せず、IとGの勧誘により証券取引を経験したことはあるものの、専らIとGの勧誘に受働的に従うのみで、必ずしも主体的に取引をしていたということはできない。そして、その証券取引の内容も、少数の株式の取引を経験したことはあるものの、そのほとんどが中期国債ファンド等であったというのであり、当時はワラントという名称を聞いたことはあるものの、その商品としての特質に関する知識は有していなかったと認められるのであるから、Bは、日本軽金属ワラントの買付けのときまでに、自ら主体的にワラント取引を行い、それを判断するだけの経験と能力を有していたということはできない。

(四) Gの説明義務について

右にみたようなBのワラント取引に関する知識、経験等に照らせば、日本軽金属ワラントと上組ワラントの各勧誘に際してのGのBに対する説明は、一般に周知性があるとまではいえない上、高いリスクを伴う投機的な色彩の強い金融商品であるワラント特有の危険性をBが十分に認識できるように、その初歩的、一般的な説明に加えて、①ワラントには権利行使期限が存在し、権利行使期限を経過すると、ワラントは無価値となること、②ワラントの取引価格は、基本的には原株価に連動して変動するが、原株価の数倍の値動きをすることもあるハイリスク・ハイリターンの商品であることの二点を説明し、各ワラントの権利行使価格と権利行使期限を告知する必要が最低限あったと認められ、右の各点について説明義務を有していたと認められる。

もっとも、Gは、既にBが昭和六三年五月に森永乳業ワラントの買付けを承諾していたことを認識していたと考えられるし、この取引がIによる一任取引であったことを知っていたと認めるべき証拠はないから、平成二年五月の時期に改めてBに対してワラントの危険性等の一般的な説明をする必要性を感じていなかったと考える余地もあるが、前記一3(二)(2)のとおり、Bは専らGの勧誘に従って取引を行っていたのであり、自らの判断で投資ができるほどの証券取引の経験と知識を有する者ではないことは、Bとの取引においてGは十分に知り得たと推認されるのであって、Gに右認定の説明義務を軽減する事由を見出すことはできない。

(五) Gの勧誘行為の違法性について

(1) そこでまず、日本軽金属ワラント取引の勧誘に際して、GがBに対して行ったワラント取引に関する説明の内容についてみると、Gは、前記一3(四)のとおり、電話で、間組株式と日本セメント転換社債を売却した代金で日本軽金属ワラントの買付けを勧誘したものであって、それに加えて、ワラントの危険性について十分に説明することはなかったと認められる。すなわち、Gの供述によれば、Gの説明は一〇分程度の会話の中で行われたに過ぎず、しかも、Gの動機からみて具体的なワラントの買付けの勧誘に重点があったとものと推認されるのであって、果たしてどの程度丁寧な説明がなされていたかも疑問であるというべきであり、このような各事実によっても、Gが前記認定の注意義務を尽くしていたと認めることはできない。

(2) さらに、上組ワラントを勧誘するに際しても、Gは、前記一3(五)のとおり、ワラントについてさらに説明をすることはなかったばかりか、「短期間に利益を出す。」とBに対して述べているのである。そして、前記一3(五)のとおり、日本軽金属ワラントは、その売付けにより短期間に九一万六五三円の利益を出していたから、Bは、ワラントについて正当な理解を持つに至ってはいなかったと認められ、Gが上組ワラントを勧誘する時点においても、前記認定のような説明義務を依然として負っていたことは明らかである。

(3) 前記一3(四)(五)のとおり、Gは、日本軽金属ワラントと上組ワラントをBに勧誘するに当たり、ワラントの特性について特には説明を行っていないと認められるから、被告の外務員であるGは、右各ワラントの勧誘に際してBに対して必要とされる説明義務を怠ったと認められ、ワラント取引による利益やリスクに関する的確な情報を提供してこれについて正しい理解を形成させた上で、その自主的な判断に基づいてワラント取引を行うか否かを決することができるような状況にBを置くことなしに日本軽金属ワラントと上組ワラントの勧誘を行ったというべきである。

(4) この点について、被告は、Gは、Bに対し、電話で平成二年三月ころから森永乳業ワラントを売り付けるまでの間に、当時買付額の五分の一近くまで価格が下落していた森永乳業ワラントの価格を逐次報告していたところ、その際、ワラントには権利行使期限が存在し、権利行使期限を過ぎるとワラントの価値がなくなること、権利行使期限を迎える以前にもワラントの価値がゼロになってしまうこともあること、ワラントの価格は原株価の何倍もの変動をすること等を伝え、また、日本軽金属ワラントを勧誘する際にも、同様の説明をした旨主張し、証人Gの証言と同人の供述を録取した陳述書(乙三五三の一二、一九)中には右主張に沿う部分があり、GがBに対しワラントに関して何らかの説明をしていたことは推認できるけれども、電話でされた右説明は、専ら森永乳業ワラントの早期売却を促す目的で行われていたことは明らかであり、ワラントの商品性質に関する詳細な一般的説明に及んでいたとは考えられず、Gが右説明義務を尽くしたとは到底認めることができない。

また、日本軽金属ワラントの買付けの勧誘も電話によるものであり、証人Gの供述によれば、Gの説明は一〇分程度の会話の中で行われたに過ぎず、しかも、Gの動機からみて具体的なワラント買付けの勧誘にその重点があったものと推認されるのであって、Gが右説明義務を尽くしたと認めることができない。

(5) 加えて、上組ワラントの勧誘に際して行われた「短期間に利益を出す。」旨の勧誘文言は、これまでに累言したワラントの危険な特質に照らして、Bの投資判断を歪めるような判断の提供と認める余地があるというべきである。

(6) したがって、Gの右のような行為は不法行為を構成すると認められ、被告は、民法七一五条により損害賠償責任を免れない。

六  原告X3の損害等について

1  原告X3と被告との間のワラント取引による損失

右で認定したところによれば、原告X3は、Gの一連の不法行為により、上組ワラントを買い付けた金額一二八四万一〇八〇円とこれを売り付けた金額である三四一九円との差額である一二八三万七六六一円の損失を被った一方、一連のGの不法行為である日本軽金属ワラントの買付金額一二五一万一五六〇円と売付金額一三四二万二二一三円との差額である九一万六五三円の利益を得ているから、結局、原告X3は、Gの不法行為により一一九二万七〇〇八円の損失を被ったものと認めるべきである。

2  原告X3の損害

前記一3(二)のとおり、昭和六二年以前の被告川崎支店における原告X3名義の取引は、専らIによって行われていたものであり、途中から原告X3が出資をし、その取引をIに一任していたものと認められるが、昭和六三年にIが病気で証券取引の一線から離れた後に被告川崎支店と被告新宿センター支店に残された投資資金については、その中にIの資金も残存していたと推認されるけれども、I死亡後にIの相続人等からその返還を求められたことはなく、原告X3はIの死亡後は事実上その全ての資金について自由に扱えることができたのであるから、これ以後の取引において原告浅野に生じた損失は、これをもって原告X3の損害と認めるのが相当である。

3  過失相殺

しかしながら、前記一3(一)のとおり、Bは、○○大学法学部を卒業し、もともと証券取引とワラント取引についてもその危険性について理解し、自らの判断でワラント取引をするか否かを判断できるだけの能力を有する者であったというべきであり、買い付ける証券がワラントであることはGから告知されていたのであるから、日本軽金属ワラント又は上組ワラントを買い付ける時点において、Gに対し自分がワラントについて何も知らないことを告げ、説明を求めることができたと考えられる。にもかかわらず、漫然とGを信用し、ワラントについて十分な理解を持たないまま一二〇〇万円もの投資をしたことには、過失があるというべきである。また、前記一3(七)(1)のとおり、原告X3も、平成三年五月に日本に帰国後、ワラントについて十分勉強し、ワラントについて十分な理解を得ていた上、Gとその上司に苦情を述べた後は、常時上組ワラントの価格情報を得ていたと認められるのであって、前記一3(七)(2)のとおり、上組ワラントの価格は、それ以後もある程度の価格で推移していたにもかかわらず、原告X3の判断ミスにより売却の機会を逸してしまい、ついに平成五年三月二四日にこれをわずか三四一九円で売り付けざるを得なかったと認められるのであり、損失を拡大したことには、原告自身の行為が少なからず関与していると言わざるを得ない。これらの事情とGの勧誘行為の違法性を勘案し、更に本件に現れた諸般の事情を考慮して、過失相殺として原告X3のワラント取引による損害額の五割を減ずるのが相当である。

したがって、右過失相殺後の原告X3の損害額は五九六万三五〇四円となる。

4  弁護士費用

本件訴訟追行の難易等諸般の事情を考慮すれば、右不法行為と相当因果関係にある弁護士費用としては、五〇万円が相当である。

5  したがって、原告X3がGの不法行為によって被った損害額の合計は六四六万三五〇四円となる。

七  結論

右によれば、原告X3の請求は、六四六万三五〇四円とこれに対する不法行為の後であって訴状送達日の翌日である平成七年二月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告X3のその余の請求並びに原告X1及び原告X2の請求は理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法六一条、六四条本文を、仮執行宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 慶田康男 裁判官 松本真 裁判官千川原則雄は、転補のため署名押印をすることができない。裁判長裁判官 慶田康男)

<以下省略>

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