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横浜地方裁判所 平成5年(ワ)4509号・平9年(ワ)3371号 判決

平成九年(ワ)第三三七一号 著作権侵害排除等請求事件(以下「乙事件」という。)

東京都中野区<以下省略>

甲事件原告

X1研究会

右代表者会長

X9

東京都世田谷区<以下省略>

甲・乙事件原告

X2

福岡市<以下省略>

甲事件原告

X3

千葉県旭市<以下省略>

甲事件原告

X4

東京都杉並区<以下省略>

甲事件原告

X5

東京都保谷市<以下省略>

甲事件原告

X6

神奈川県鎌倉市<以下省略>

甲事件原告

X7

東京都武蔵野市<以下省略>

甲事件原告

X8

東京都小平市<以下省略>

甲事件原告

X9

神奈川県伊勢崎市<以下省略>

甲事件原告

X10

横浜市<以下省略>

甲事件原告

X11

横浜市<以下省略>

甲事件原告

X12

川崎市<以下省略>

乙事件原告

X13

右原告一三名訴訟代理人弁護士

梓澤和幸

千葉肇

神奈川県平塚市<以下省略>

甲・乙事件被告

Y1

神奈川県平塚市<以下省略>

甲・乙事件被告

平塚市

右代表者市長

右指定代理人

中沢凰成

田代義則

土井浩

神奈川県平塚市<以下省略>

甲事件被告

相模川をきれいにする協議会

右代表者会長

右被告三名訴訟代理人弁護士

石井幹夫

横浜市<以下省略>

甲事件被告

神奈川県

右代表者知事

右訴訟代理人弁護士

福田恆二

右指定代理人

内田和孝

柴田晃彦

今永勇

久松圀彦

小泉洋

比留川暁

(以下、便宜、甲乙事件の区分を省略する。)

主文

一1  被告Y1及び同平塚市は、原告X11に対する関係で、別紙1(二)の文書につき、別紙2の表2No4及び表2No8の各「侵害」部分を記載したまま、印刷、製本、販売、頒布、複写又は謄写してはならない。

2  被告Y1及び同平塚市は、原告X11に対する関係で、別紙1(二)の文書を回収し、別紙2の表2No4及び表2No8の各「侵害」部分を削除せよ。

二1  被告Y1及び同神奈川県は、原告X5、同X2、同X4及び同X3に対する関係で、別紙1(四)の文書につき、別紙2の表4No1の「侵害」部分を記載したまま、印刷、製本、販売、頒布、複写又は謄写してはならない。

2  被告Y1及び同神奈川県は、原告X5、同X2、同X4及び同X3に対する関係で、別紙1(四)の文書を回収し、別紙2の表4No1の「侵害」部分を削除せよ。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告らに生じた費用の一〇分の一と被告Y1、同平塚市及び同神奈川県に生じた費用の一〇分の一とを被告Y1、同平塚市及び同神奈川県の負担とし、原告ら、被告Y1、同平塚市及び同神奈川県に生じたその余の費用と被告相模川をきれいにする協議会に生じた費用とを原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告Y1(以下「被告Y1」という。)及び同平塚市(以下「被告市」という。)は、

1  別紙1(一)記載の文書について、原告X2(以下「原告X2」という。)、同X3(以下「原告X3」という。)、同X4(以下「原告X4」という。)及び同X5(以下「原告X5」という。)に対する関係で、

2  同(二)記載の文書について、原告X2、同X3、同X4、同X5、同X6(以下「原告X6」という。)、同X7(以下「原告X7」という。)、同X8(以下「原告X8」という。)、同X9(以下「原告X9」という。)、同X10(以下「原告X10」という。)、同X11(以下「原告X11」という。)、同X12(以下「原告X12」という。)及び同X1研究会(以下「原告X1研」という。)に対する関係で、及び

3  同(五)記載の文書について、原告X2及び同X13(以下「原告X13」という。)に対する関係で、

それぞれ印刷、製本、販売、頒布、複写及び謄写をしてはならない。

二  被告Y1及び被告市は、

1  別紙1(一)記載の文書を一項1記載の原告らに対する関係で、

2  同(二)記載の文書を一項2記載の原告らに対する関係で、及び

3  同(五)記載の文書を原告X2及び同X13らに対する関係で、

それぞれ回収して廃棄せよ。

三  被告Y1及び同相模川をきれいにする協議会(以下「被告協議会」という。)は、別紙1(三)記載の文書について、一項1記載の四名の原告らに対する関係で、印刷、製本、販売、頒布、複写及び謄写をしてはならない。

四  被告Y1及び同協議会は、別紙1(三)記載の文書を一項1記載の四名の原告らに対する関係で、回収して廃棄せよ。

五  被告Y1及び同神奈川県(以下「被告県」という。)は、別紙1(四)記載の文書について、一項1記載の四名の原告らに対する関係で、印刷、製本、販売、頒布、複写及び謄写をしてはならない。

六  被告Y1及び同県は、別紙1(四)記載の文書を一項1記載の四名の原告らに対する関係で、回収して廃棄せよ。

七  被告Y1及び被告市は、連帯して、原告X2に対し二九万円、原告X3、同X4及び同X5それぞれに対し各一四万円、原告X6、同X7、同X8、同X9、同X10、同X11、同X12及び同X1研それぞれに対し各七万円、原告X13に対し一五万円を支払え。

八  被告Y1及び同協議会は、連帯して、原告X2、同X3、同X4及び同X5それぞれに対し、各七万円を支払え。

九  被告Y1及び同県は、連帯して、原告X3、同X2、同X4及び同X5それぞれに対し、各七万円を支払え。

一〇  訴訟費用は被告らの負担とする。

一一  七ないし一〇につき仮執行宣言

第二事案の内容

一  概要

本件は、被告Y1が執筆し、被告市、同協議会及び同県が発行した文書によって、原告らの著作物の公表権(著作権法―以下「法」という。―一八条)、氏名表示権(法一九条)及び複製権(法二一条)を侵害されたとして、原告らが、法一一二条一項及び二項に基づき被告らに対し、文書の印刷等の差止め並びに文書の回収及び廃棄を、民法七〇九条に基づき損害賠償の支払を求めたものである。

二  基礎となる事実(証拠等の掲記のある事実は主に当該証拠等により直接認定したものであり、証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 原告X1研は、昭和四三年に設立された民間の地質学研究団体でいわゆる権利能力なき社団であり、富士山東方から南関東地域を主たる研究対象地域とし、人類誕生以降(即ち第四紀)を主たる研究対象時代として、活動している。(甲A三六、弁論の全趣旨)

原告X2、同X3、同X4、同X5、同X6、同X7、同X8、同X9、同X10、同X11、同X12及び同X13は、原告X1研の会員である。(甲A一四八ないし一五九、弁論の全趣旨)

被告Y1は、被告市の施設である平塚市博物館の学芸員であり、昭和五一年から同五八年まで、原告X1研の会員であった。(弁論の全趣旨)

(二) 被告協議会は、昭和四〇年に設立されたいわゆる権利能力なき社団であり、相模川等の水質汚濁の防止・浄化促進を図り、大気汚染等による公害の防止に努めること等を目的としている(以下、被告Y1、被告市及び同協議会を合わせて、「被告Y1ら」という。)。(甲A三、弁論の全趣旨)

2  被疑文書の執筆及び発行と「侵害」されたと主張する原告らの文書

被告Y1は、別紙1の(一)から(四)記載の文書(以下「被疑文書(一)ないし(四)」のようにいう。)を執筆し、被告市は被疑文書(一)(以下「ローム層」ということがある。)及び同(二)(以下「地層と化石」ということがある。)を、同協議会は被疑文書(三)(以下「相模川下流域」ということがある。)を、同県は被疑文書(四)(以下「虫窪」ということがある。)を、それぞれ同目録の発行年月日欄記載のころに発行した。

また、被告Y1は、別紙1の(五)記載の文書(以下「被疑文書(五)」という。また、「動く大地」ということがある。)を執筆し、被告市が右文書を同目録の発行年月日欄記載のころに発行した。

3  別件仮処分の申請及び和解の成立

(一) 被告Y1は、被疑文書(一)から(五)とは別の文書である「大磯丘陵の地質1(平塚市博物館資料No.二四)」と題する書物(以下「別件被疑文書」という。)を執筆し、被告市は、昭和五五年三月二〇日、これを発行した。

(二) 原告X2、同X3、同X4、同X5、同X10及び同X13並びにD、E及びFは、昭和六〇年七月八日、被告Y1及び被告市に対し、別件被疑文書ほか三点(被疑文書(一)ないし(五)とは異なる。)の文書の印刷・製本・発売・頒布等の差止め等を求め、当庁に仮処分の申請をした(当庁昭和六〇年(ヨ)第八九八号事件。以下「別件仮処分」という。)。(甲A二六。概ね争いがない。)

(三) 別件仮処分の債権者らは、昭和六〇年一二月二六日、被告Y1及び被告市との間で、別件仮処分事件につき、和解条項を大要左記のとおりとする和解をした(以下「別件和解」という。)。(甲A二七、概ね争いがない。)

(1) 被告市は別件被疑文書等(被疑文書(一)ないし(五)とは異なる。)の増刷をしないこととする。

(2) 被告市は、平塚市博物館に保管している別件被疑文書を第三者に頒布・謄写させないこととする。

(3) 被告Y1及び被告市は、別件被疑文書が、引用の必要のない書籍であることを確認する。

(4) 被告Y1及び被告市は、別件被疑文書等の作成に関し、別件仮処分の債権者らに迷惑をかけたこと等について、遺憾に思う意思を表明した。

(5) 別件仮処分の債権者らは、被告Y1及び被告市に対し、別件被疑文書等については、民法、法一一二条一項及び二項に基づく差止請求、損害賠償請求又は刑事上の請求をしない。

(6) 別件仮処分の債権者ら及び被告Y1は、地学団体研究会に対し、債務者Y1の除名申請及びその答弁について事実調査を留保することを希望する旨の文書を一週間以内に提出する。

(7) 別件仮処分の債権者らは、同債務者らに対するその余の申請を放棄する。

三  主な争点

(請求原因関係)

1 原告X1研及び被告協議会の当事者能力の有無(争点①)

2 原告らが著作権を侵害されたと主張する(以下「『被侵害』文書」という。)の著作権者(争点②)

3 「被侵害」文書の著作物性の有無(争点③)

4 「被侵害」文書と被疑文書の同一性(争点④)

5 被告Y1の「被侵害」文書への依拠の有無(争点⑤)

6 被告県の過失の有無(争点⑥)

(抗弁関係)

7 「被侵害」文書が未公表であったか否か(争点⑦)

8 被疑文書には引用があるか、又は引用の不要な文書に当たるか否か(争点⑧)

9 別件和解によって解決済みとして著作権侵害の問題が生じないか否か(争点⑨)

10 著作権者の同意の有無(争点⑩)

11 権利濫用に当たるか否か(争点⑪)

12 消滅時効の成否(争点⑫)

13 原告らの損害額(争点⑬)

第三争点についての当事者の主張

一  総論的争点

1  原告X1研及び被告協議会の当事者能力の有無(争点①)

(一) 原告らの主張

原告X1研は、小中高校の教師、大学の研究者、大学生、大学院生、民間企業勤務者等を会員とし、年一回の総会において、活動報告、代表の決定、決算報告等を行い、総会と総会の間には、事務局会議によって運営され、機関誌「○○」を発行し、各種調査研究を行っている。

また、被告協議会は、昭和四〇年に設立され、年一回の総会において、理事の選出、予算決算の確定等を行う。

よって、原告X1研及び被告協議会は、権利能力なき社団に当たり、当事者能力を有する。

(二) 被告らの主張

原告らの右主張は不知(被告Y1ら)又は争う(被告県)。

2  その他の争点の整理の仕方

被疑文書それぞれにつき、複数の箇所に記載されている図表、図面又は記述(以下「図面等」という。)が著作権違反と主張され、その図面等それぞれにつき、第二の三に記載のとおりの争点がある(別紙3の争点一覧表参照)ので、便宜、以下の二から六において、被疑文書の「侵害」部分(図面等)毎に異なる争点についての双方の主張を摘示する。次いで、七において、被疑文書に共通する争点についての双方の主張を摘示する。

二  各論的争点その1(被疑文書(一)「ローム層」関係)

1  別紙2の表1(被疑文書(一))の「侵害」部分No1関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害関係の内容

別紙2の表1のNo欄の1(以下「表1No1」のようにいう。)の「侵害」部分の図表(地質層序図)は、別紙5の該当する欄のコピーの内容から明らかなとおり、表1No1の対応する「被侵害」文書の「被侵害」部分(原告X2の図表であるテフラの累層区分案表)と同一の地層層序を記載したものであり、被告Y1及び被告市は、原告X2の右図表の複製権及び氏名表示権を侵害した。

表1No1を含め、表1から4までの「侵害」部分及び「被侵害」部分の具体的内容は、別紙5の該当する部分のとおりである。なお、以後便宜、原則としてその旨を断らない。

(2) 著作物性(争点③)

ア 原告らの図表は、斜交層準仮説という原告X2らの思想の創作的表現であり、著作物性がある。

イ 地層を記載した層序表、テフラ柱状図、地質図などは、どのような者が記載しても同じになるというものではなく、単なる事実の記載などではない。地層の区分法については、学者の間でも様々に考え方が分かれており、原告X2が採用している考え方は、安定斜面を覆って堆積する最初のテフラ(降下火山砕屑物)で区分する「斜交層準法」「不整合法」という、有力とはいえ少数派的な作業仮説である。また、これらの図面等は、様々な地点(露頭)に点々と露出するテフラ層につき、どのローム層の何番目のテフラから何番目のテフラまでが露出しているかを肉眼で識別した上で、各露頭のテフラ層をつないでいき、抜け落ちた部分については、新たな露頭を見つけて補充するという莫大な調査に基づいて作成されるものであり、テフラの識別能力など、作成者の個性・学識・経験等が強く反映されるものである。

なお、ここで、他の「侵害」箇所における「被侵害」部分の図面等の著作物性を便宜述べる。被疑文書(五)で問題となる畑沢火山という名称やその位置、塩沢礫岩層上部の堆積時期といったものについても、これらは単なる事実を記載したものではなく、知的活動の結果到達した結論である。畑沢火山というのは、富士山のように、一目で火山と認識できるものではなく、度重なる地質調査によって、火山噴出物の存在が明らかにされ、その位置が確認され、活動時期などが明らかにされ、火山として初めて認識されるものである。

したがって、本件における層序表、テフラの柱状図、地質図、斜交層準法などの「被侵害」文書は、いずれも、論者の自然観・地質観を反映するものとして、学術の範囲に属する思想を創作的に表現したものであるから、層序表、テフラ柱状図、地質図等は、「学術的な性質を有する図面」(法一〇条一項六号)として、文章に層序表等を含む場合は「論文」(法一〇条一項一号)として、いずれも「著作物」(法二条一項一号)に当たる。また、畑沢火山という名称やその位置、塩沢礫岩層上部の堆積時期といったものについても、同様に著作物性は認められる。

(3) 同一性(争点④)

両図表におけるテフラ層序の小区分及び大区分がかなりの程度まで同じであり、火山活動の区分点とテフラ層序の大区分とが対応している。また、「侵害」部分の図表は、同一名のローム層と水成層とを対応させている。

このように、被告Y1は、単に地層名や記号を用いたというだけではなく、斜交層準仮説を表現した原告らの図表の根本部分である地層区分の仕方や火山活動との対応関係などを再製している。

そして、法二一条の「複製」とは、「印刷…により有形的に再製すること」(法二条一項一五号)をいうが、それは、必ずしも現著作物と全く同一のものを作り出す必要がなく、多少の修正増減があっても著作物の同一性を変じない限り、同一物の「複製」にあたる。従って、「侵害」部分の図表は、著作財産権たる複製権(法二一条)の侵害にあたる。

(4) 引用の必要性(争点⑧)

被告Y1及び被告市は、引用不要と主張するが、争う。引用不要について定める法一九条三項は、ホテルのバックグラウンド・ミュージックのように、実際上著作者名を表示することが困難な場合を想定した規定である。

本件では著作者名の表示を困難とする事情は無く、原告らは、自らの長年の調査研究に基づく著作物を表現されることにより多大の人格的侵害を受けるのであるから、法一九条三項の適用はない。

(5) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

標記の論点に関する被告Y1及び被告市の主張は否認ないし争う。なお、被告Y1及び被告市が、原告らによる不適切な引用例として挙げるものの中には、出版社及び編集者の手落ちによるものが含まれているなどの問題がある。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

被告Y1及び被告市が原告らの表1のNo1の「被侵害」著作物の公表権、氏名表示権及び複製権を侵害しているとの主張は争う。

なお、表1から表5の各部分について、著作財産権及び著作人格権を侵害しているとの原告らの主張は全部争う。

(1) 非著作物性(争点③)

ア 地層名、火山活動区分の記号、地層区分の仕方や考え方等は著作権の対象ではない。

イ なお、ここで、他の「侵害」箇所における「被侵害」部分の図面等の非著作物性をも便宜併せて述べる。法は思想・感情の創作的な表現形式(説明方法)を保護しているのであり、地層名・鍵層名・断層名のような用語、斜交関係という学術用語、地層の分布・調査成果・断層のずれの量のような事実の記載、自然科学上の発見の記述は、いずれも著作権の対象とはならない。

また、調査データの内容は、自然科学上の調査事実を技術的に記述したものであり、共通した真理にすぎない。同一の場所で同様の調査方法により地質調査を行えば同様の調査データが得られることは明らかであり、何人も独自の調査によるデータの自由な利用が許されるべきものである。よって、調査データの内容は、著作権の対象とはならない。

さらに、畑沢火山という名称やその位置、塩沢礫岩層上部の堆積時期といったものは、たとえそれらが知的活動の結果到達した結論であったとしても、これは、過去の化石化した火山を発見して命名された固有名詞であったり、野外で観察した事実の記載などにすぎず、思想・感情の創作的な表現形式とはいえないから、それ自体は、著作物性を持たない。

(2) 同一性の不存在(争点④)

「侵害」部分及び「被侵害」部分は、地層名、火山活動区分の用語が同一なだけである。被告Y1も斜交層準仮説を支持し、共同研究をしてきたので、同一の区分を用いるのは当然であり、複製ではない。被疑文書は、公表論文を参考にして被告Y1が創作的に作成した被告Y1の著作物である。

(3) 引用の不要(争点⑧)

著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができるとされている(法一九条三項)。

被疑文書(一)及び(二)は、博物館という公共機関が、市民の学習を助けるために、野外観察のガイドブックとして市民のために刊行し、採算を度外視して印刷実費だけを受益者負担として徴収し販売したものであり、学校関係や社会教育関係には無償で頒布した普及書(解説書)にすぎない。

したがって、表1No1の「侵害」部分の図表においては引用は不要である。

(4) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

ア 原告らが「被侵害」箇所と主張する火山活動史の用語及び年代観は、それ以前にG他一九七四(乙A一〇二)に示されている。「被侵害」部分の図表は、右Gの記述を引用なしに利用したものである。このような原告らが、「侵害」部分の図表において被告Y1が引用をしないことを問題とすることは、信義則に反し、権利濫用である。

イ 原告らは、他の著作物について同様の権利侵害を行っている。

ウ 本件の権利行使は、被告Y1に対する被告市の人事に不当に介入する目的で行われたものであり、正当な利益を欠くものである。

エ また、本訴の提起は、被疑文書とされた書籍の頒布を受け、その内容を了知しながら長期間経てからされた不誠実なものである。

オ さらに、別件仮処分の債権者であった原告らとの関係では、別件和解の内容を知りながら提起されたものであり、本訴請求は許されない。

2  表1No2関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表1No2の「侵害」部分の図面(柱状図)は、対応する「被侵害」部分欄記載の原告X2の図面であるテフラの連続柱状図と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告市は、原告X2の右図面の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作物性(争点③)

ア テフラ柱状図は、様々な地点に点々と露出するテフラ層につき、どのローム層の何番目のテフラから何番目のテフラまで露出しているかを肉眼で判別し、各露頭のテフラ層をつないでいき、抜け落ちた部分は新たな露頭を見つけて補充して完成するものである。作成者の個性、学識、経験等が反映される思想の創作的表現であり、著作物性がある。法一〇条一項六号の学術的な性質を有する図表に該当する。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 同一性(争点④)

「侵害」部分の図面の記載は「被侵害」部分の図面の記載と完全には一致しないが、ほぼ同じである。

(4) 引用不十分(争点⑧)

「侵害」部分欄記載の柱状図には、「X2、一九七六を簡略化」と記載されている部分がある。一般に、公表された著作物は、引用して利用できる(法三二条一項)が、右の記載は、出所の明示がなく、不十分であり、引用の要件を満たさない。

(5) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

(1) 非著作物性(争点③)

ア 柱状図は、地質調査の結果である調査事実を記載したものであり、また、岩相の記号、色、粒径、火山岩片の含有量、発泡の度合い等の記述方法が定型化しているため、技術さえあれば類似した柱状図ができあがる。

したがって、柱状図の内容は、著作権保護の対象とはならない。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(2) 引用の明示(争点⑧)

「侵害」部分の柱状図には「X2、一九七六を簡略化」と出所の明示がある。一般向けの普及書では論文名、掲載雑誌名、頁数等の詳細は引用に際して記述しないことが多いから、右の引用は、公正な慣行に合致し、かつ、引用の目的上正当な範囲内のものである。したがって、「侵害」部分の図面は、著作権侵害とはならない。

(3) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

3  表1No3から5関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表1No3から5の「侵害」部分の図面(地質図)は、対応する「被侵害」部分の原告X3ら図面(地質図)と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告市は、原告X3らの右図面の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作物性(争点③)

ア 「被侵害」部分の地質図は、植生や表土を取り除いた地殻最上部の地質の状況を地形図の上に表現したものであり、作成者の個性・学識・経験等が反映されるのであり、思想の創作的表現として、法一〇条一項六号の「地図又は学術的な性質を有する図面」に該当し、著作物と認められる。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 同一性(争点④)

地層区分、向窪層の状況、断層の位置がほぼ同一である。

(4) 引用の必要性(争点⑧)

表1No1の原告らの主張(4)のとおりである。

(5) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

(1) 非著作物性(争点③)

ア 「被侵害」部分は地質図であるところ、これは、地質調査を行い、地層の分布や断層の存在を地質学的手法により表現したものであり、これらの内容自体は著作権保護の対象にはならない。法が保護しているのは、思想・感情の表現形式(説明方法)である。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(2) 非同一性(争点④)

表1No3から5の「侵害」部分の図面は、地形面分類図の考えを地質図に取り込んだものであり、対応する被侵害図面(原告らの図面)と異なる。

(3) 引用不要(争点⑧)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(3)のとおりである。

(4) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

ア 原告らも、その普及書で地質図を掲載するにあたって、参考にした個々の出典を明記していない。したがって、被告Y1及び被告市の地質図をもって著作権違反と主張することは、信義則に反し、権利濫用である。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

三  各論的争点その2(被疑文書(二)「地層と化石」関係)

1  表2No1関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表2No1の「侵害」部分の図表は、対応する「被侵害」部分の原告X2の図表と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告市は、原告X2の図表の複製権及び氏名表示権を侵害した。

すなわち、表2No1の「被侵害」部分の図表は表1No1の原告らの図表と同一のものであり、表2No1の「侵害」部分の図表は表1No1の図表とほぼ同一である。厳密にいえば、表1No1の「侵害」部分の図表の方には、地層名の一部に「※」が付されており、「※印は本地域で観察する地層」との注釈がある点において、表1No1の「侵害」部分の図表と異なるが、その他の内容は全く同じである。

したがって、表1No1で主張したのと同様に、表2No1の「侵害」部分の図表は対応する原告らの図表の複製権(著作権)及び氏名表示権(著作者人格権)を侵害する。

(2) 著作物性(争点③)、同一性(争点④)、引用必要性(争点⑧)、信義則違反・権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1における原告ら主張のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

非著作物性(争点③)、非同一性(争点④)、引用不要性(争点⑧)、信義則違反・権利濫用(争点⑪)につき、表1No1における被告Y1及び被告市の主張と同一であり、「侵害」部分の図表は対応する原告らの図表の複製権及び氏名表示権を侵害するものではない。

2  表2No2関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表2No2の「侵害」部分の記述及び「侵害」部分の図面中の記載は、対応する「被侵害」部分の原告X2らの記述と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告市は、原告X2らの右記述の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作権者としての保護性(争点②)

表2No2の原告らの記述(一九七七年出版)がそれ以前に公表された文献であるG(一九七三年出版。乙九二)に記載されているが、表2No2の原告らの記述は、著作権としての保護を受けるものである。というのは、右記述内容に関する最初の論文が原告X6及び同X2の一九七二年出版の論文(甲一四〇)であるから、これと同じ表2No2の原告らの記述がG論文の著作権を侵害することはないからである。

(3) 著作物性(争点③)

ア 原告らの記述中にある「地形面が逆転している」という記述は、自然科学上の法則やその発見の記述ではなく、原告X1研会員らの長期間の調査を基に研究者が考えた独自の判断(推定)の記述であって、学術の範囲に属する思想の創作的表現として著作権の対象(法二条一項一号)となる。地質図は、植生や表土を取り除いた地殻最上部の地質の状況を地形図の上に表現したものであり、作成者の個性・学識・経験等が反映されるのであり、思想の創作的表現として、著作物といえる。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

ウ 露頭は誰でも自由に見ることができるものであり、そこで記載される調査データのような事実の記載は、何人に対しても自由に利用されるべきものであり、著作権の対象外であることは前記のとおりであるが、この場合、科学等の著述等をするに際し、その分野の先行文献等を引用するか否かは本来当該著述者の自由に任されている。

(4) 同一性(争点④)

「侵害」部分の記述や「侵害」部分の図面における記載は、「地形面が逆転している」という記述と全く同一ではないが、七国峠―鷹取山地域を中心とした隆起域という記述やその旨を示す図面上の記載は、「地形面が逆転している」という思想の創作的表現を利用しており、複製権の侵害である。

(5) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

(1) 著作権者としての非保護性(争点②)

「被侵害」部分の原告らの記述は、G一九七三(乙A九二)の著作権を侵害しており、その意味で原告らには著作権はない。

仮にそうでないとしても、原告らの右記述は結合著作物であり、著作権者は原告X2だけであり、他の原告からの請求は理由がない。

(2) 非著作物性(争点③)

ア 「被侵害」部分の原告らの記述は、調査成果(事実)に基づき「地形面が逆転している」という自然科学上の発見を記述したに過ぎず、内容自体は著作者人格権及び著作財産権の対象とはならない。したがって、先行文献等を引用するかどうかは本来著述者の自由に任されている。

地形の逆転は、事典に掲載されている地形現象を示す学術用語である。地形の逆転という表現には、創作性はない。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(3) 同一性の不存在(争点④)

「侵害」部分の記述は、「隆起域となり」であって、「地形面の逆転」ではなく、「侵害」部分の記述と原告らの記述とは同じ意味ではない。「侵害」部分の記述及び図面の記載は、被告市の博物館の調査活動により明らかとなった事実を創作的に表現したもので、原告らの記述を複製したものではない。

(4) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

ア 原告ら自身、地形の逆転についてG一九七三(乙A九二)を引用しないで利用している。被告Y1及び被告市に対してだけ引用しない利用を著作権違反と主張するのは信義則違反である。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

3  表2No3関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表2No3の「侵害」部分の記述は、対応する「被侵害」部分の原告らの記述①②と同一内容を記述したものであり、被告Y1及び被告市は、右原告らの著作物の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作権者としての保護性(争点②)

表2No3の「被侵害」部分の記述の執筆者であるとされる原告らについて、被告Y1及び被告市は、著作権がない旨を主張するが、この主張は争う。

(3) 著作物性(争点③)

ア 「被侵害」部分の原告らの記述①中に「鷹取山層」について「浸食小起伏面」という記述があるが、「浸食小起伏面」というのは、一般に、地殻変動があまり激しくない安定大陸地域で、長期にわたって、安定した浸食基準面(海面)のもとで陸上削剥が続くと、最初は起伏の激しかった土地でも最終的には低平で緩やかな起伏の浸食性大平原ができるという仮説に基づいて設定された概念である。この概念は、地形学上、全世界的にかなり普及しつつある仮説ではあるが、地質学の研究者には、ほとんど普及していない。原告らの記述は、地形学上の右「浸食小起伏面」概念を地質学上に応用した仮説の記述であり、学術の範囲に属する思想の創作的表現として著作権の対象となるべきものである。

そして、同原告らの記述②は、「相模積成盆地発生前」についての記述であるが、図表をみるならば、二宮層群の下部、鷹取山層を示していることがわかるので、これもまた同一のことを記述しているものである。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(4) 同一性(争点④)

「侵害」部分の記述は、二宮層群堆積前に「第三系基盤地域」は「浸食小起伏面」されという記述をしており、これは「第四紀」以前の「第三紀」の地質である「鷹取山層」などが浸食小起伏面され、ということを意味する。

よって、「侵害」部分の記述は、対応する原告らの記述と同一であり、複製権侵害となる。

(5) 引用の必要性(争点⑧)

表1No1の原告らの主張(4)のとおりである。

(6) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

(1) 著作権者としての非保護性(争点②)

表2No3の「被侵害」部分の原告らの記述は、X3他一九七六(甲A七)の著作権を侵害しており、その意味で右原告らには著作権はない。

(2) 非著作物性(争点③)

ア 原告らが侵害されたと主張する「浸食小起伏面」は、陸上の浸食作用で形成された起伏の少ない地形を示す学術用語であり、仮説ではない。そして、学術用語は、著作権の対象とはならない。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(3) 非同一性(争点④)

「侵害」部分は、「被侵害」部分と表現方法が異なるから、その複製ではない。

(4) 引用不要性(争点⑧)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(3)のとおりである。

(5) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

ア 原告らの論理に従えば、「被侵害」部分の原告らの記述②は、原告らの記述①を引用すべきことになるはずのところ、これをしていないから、被告に対してだけ、著作権侵害を主張することは、信義則違反であり、権利濫用である。

また、原告ら自身、浸食小起伏面についてX3他一九七六(甲A四七)を引用しないで著作をしている事実があるところ、被告Y1及び被告市に対してだけ右の引用をしないことを著作権違反と主張するのは信義則違反であり、権利濫用である。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

4  表2No4関係

(一) 原告X11の主張

(1) 侵害行為の内容

表2No4の「侵害」部分の図面は、対応する「被侵害」部分の原告X11の図面と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告市は、原告X11の右図面の複製権及び公表権を侵害した。

(2) 著作物性(争点③)

ア 表2No4の「被侵害」部分の原告X11の図面(スケッチ)は、地質調査の過程で作成されたもので、学術的な性質を有する図面である。すなわち、地質調査をする場合、調査結果をその場で記載したフィールドノートを作成し、ルートマップを作成し、次いで柱状図・地質図・地質断面図・地層スケッチ・層序図表などを作成していく。これらは、誰にでも簡単にできることではなく、様々な地点(露頭)に点々と露出するテフラ層を識別し、つなぎ、補充をしていくという莫大な調査に基づくものである。

従って、フィールドノートや地質断面図・地層スケッチなどの作成は、専門的知識のもとに、「用途に従い、記入すべき項目を取捨選択」したうえで作成しなければならないものであって、思想の創作的表現として著作権の対象となる。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 同一性(争点④)

ア 「被侵害」部分の原告X11の図面は、別紙5の該当する原告X11の図面のうち空色で囲った部分であるが、その上部(黄色で塗った部分)は、貝化石を含むレキ岩層を示すものである。「(」や「)」で表示されているのが貝化石で、すべて破片となっていて、貝が流されたり破壊された上で化石化したことを示している。ちなみに、合弁(合わさっている貝)であれば「()」で表示され、その場合は、貝が死んでそのままの状態で化石化したことになる。黄色で塗った部分のうちの「○」(マル状で斜線が入っているもの)は、シルト(粒径が砂と粘土の間の破屑物、概略の粒径が〇・〇六~〇・〇〇四ミリメートルであるもの)で構成されるブロック(レキ)を表現している。

また、原告X11の図面の下部は、シルト岩と火砕岩で構成されている。同部分の1~3と記載されている部分の地層には、「▲」の印(スコリア)が書かれ、4と記載されている部分の地層には「v」の印(軽石)が書かれている。そして、同部分の左側には、小さく「▲」や「v」の印が書かれている。これらスコリアや軽石は火砕岩の一つである。その上で、何も書かれていない部分はシルト岩である。

イ 「侵害」部分の図面の上部は、別紙5の該当する図面に記載されているとおり、「貝化石を含むレキ岩層」を示す。同図の説明には「貝化石も合弁のものは全くなく、破片となっているものが多い」とあり、「(」や「)」で表示されているのが貝化石(破片)を示すことがわかる。「○」(マル状)の印は、同図の説明に「このレキ岩層中には周辺に露出するシルト岩と同様なブロックが多量に認められ」(甲A二の四三頁一八~一九行目)とあるので、「被侵害」部分と同じくシルトで構成されるブロックを示すと思われる。従って、この上部の表示・形態は原告ら部分と同じである。

また、「侵害」部分の下部は、図に記載されているとおり、「火砕岩・シルト岩互層」を示す。甲A二の一二頁の記号例から、火砕岩のうち、「」が火山砂、「▲」がスコリア、「v」が軽石であることがわかる。

ウ 「被侵害」部分の原告X11の図面と「侵害」部分の図面の各上部(貝化石を含むレキ岩層)は、地層の形状も構成内容(貝化石)も同じであるから、同一であること(複製されていること)が明らかである。

他方、両図面の下部は、火砕岩やシルト岩が重なった地層であり、凝灰岩層の種類については、同位置であるが、凝灰層の枚数が異なっている。しかし、本件において、重要なのは、地層が同時異相の関係であり不整合関係ではないこと、上部がいわゆる「化石床」に当たることである。事実、「侵害」部分の図面の説明である甲A二の四三~四四頁は「含貝化石レキ岩層と化石床」というタイトルのもと、右の点の説明に終始しており、下部の何枚ものテフラ層がいつのなんというテフラ層か、どんな種類か、火山灰層序学的にどういう意義を持つのかなどについては全くふれられていないのである。

化石層とは、新版地学事典(地学団体研究会編、平凡社発行)によれば、「広義の化石層内で、化石を含む地層の部分が、化石を全然含まない地層を間に挟んで断続している場合、その地層の部分(化石の産状)に対して与える名称と規定される。化石床は化石床の各部分(各層準)と同一層準にある周辺の地層(化石を含まない)と同時的に堆積したもの」とされている。

以上から明らかなように、本件において重要なのは、化石床が認められること、すなわち、貝化石を含む地層があって、これが下部の地層と同時異相と判断されることであって、下部の地層の凝灰岩層が何枚あるかといったことは、化石床の認定・紹介のためには大きな比重を持つわけではない。このように重要な部分が同一である以上、「侵害」部分の図面は原告X11の図面の複製権を侵害するものである。なお、被告Y1及び被告市は、本訴前には自ら著作権侵害を認めていた。

エ なお、被告Y1及び被告市は、原告が「侵害」部分と「被侵害」部分との同一性を作出するために準備書面作成過程で書き加えをした旨を主張するが、誤解であり、そのような意図はない。

(4) 公表著作物の不存在(争点⑦)

被告Y1及び被告市は、「侵害」部分の図面の発行前に別の公表図面があったから、「侵害」部分の図面は公表権侵害とならない旨を主張するが、争う。被疑文書(二)の発行(同書の奥付には一九八三年二月二八日とある。)の時点では、未公表データであり、「被侵害」部分の原告X11の図面があるだけであり、「侵害」部分の図面は、右X11の図面の公表権の侵害にあたる。

(5) 引用の必要性

表1No1の原告らの主張(4)のとおりである。

(6) 同意の不存在(争点⑩)

被告Y1及び被告市は、原告X11の同意があった旨を主張するが、争う。

被疑文書(二)とY1・X11一九八三(乙A三)の執筆がほぼ同時期にされていたことはそのとおりであり、原告X11は、乙A三が被告Y1と原告X11の連名で発表されたことから、被疑文書(二)も被告Y1と原告X11の連名とされるものと理解していた。原告X11が被疑文書(二)の原稿を見て苦情を言わなかったとしても、それは、共著者とされると理解していたからであり、被告Y1のみが執筆者となることを知っていたとすれば、「原図X11」といった引用をするように求めていたはずである。

(7) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(4)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

(1) 非著作物性(争点③)

ア 原告らは、原告X11の図面が地図の著作物であるかのような主張をしているが、露頭スケッチのような図は地図の範疇には入らない。用途に従い記入すべき項目を取捨選択するから著作物性があると主張するが、そのようなことが当てはまるのは、先人が作成した地図を基図にして編集地図を作成する場合のことであり、露頭スケッチを地図の著作物という原告らの主張は失当である。

露頭スケッチや野外スケッチは自然科学上の事実記載であり、思想感情が創作的に表現されたものではない。地質学的な露頭スケッチでは記述内容や図化する際の記号化は定型的であるから、同一箇所を同一方向から記述すれば、似通ったスケッチとなるが、これは著作物ではない。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(2) 非同一性(争点④)

原告X11の図面の原本(甲A一二)には▲やvは記載されていない。原告らは、「侵害」部分の図面に記載されている▲やvを原告X11の図面の写しに書き加えているが、これは、被告Y1及び被告市の主張に反論するために原告準備書面引用図面作成に際して、行われたものである。

また、両図の上半分においても、記述内容が異なる。「侵害」部分の図面では全体にわたって貝化石とレキとが混在して記載されているが、「被侵害」部分の図面ではレキは右側に4つしかない。

(3) 公表著作物の存在(争点⑦)

「侵害」部分の図面は、共同研究成果としてY1・X11一九八三(乙第三号証)に既に公表されたものであるから、未公表データの公表権を侵害したことにはならない。

(4) 引用の不要性(争点⑧)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(3)のとおりである。

(5) 同意(争点⑩)

被疑文書(二)は、Y1・X11一九八三(乙A三)とほぼ同時期に並行して執筆されたものであり、被疑文書(二)の「あとがき」[九四頁]に記載されているとおり、原告X11は、化石の同定や本文の執筆のためにたびたび平塚市博物館に来館しており、本書の構成や内容を知っていた。特にY1・X11一九八三の原稿を執筆していたため、被疑文書(二)の「大磯層と化石」の項[三七―四五頁]の原稿については、被告Y1は、原告X11に目を通してもらっていたものであり、「侵害」部分の図の掲載についても原告X11に了解を得ていた。

(6) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

5  表2No5関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表2No5の「侵害」部分の柱状図は、「被侵害」部分の原告らの柱状図及びスケッチ(地質断面図)と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告市は、右原告らの著作物の複製権及び公表権を侵害した。

(2) 著作権者としての保護性(争点②)

ア 表2No5の「被侵害」部分の図面につき、被告Y1及び被告市は同被告が作成した旨を主張するが、被告Y1は、原告X2の指導を受けながら調査をしたにすぎない。

イ 原告X1研の会員が、平塚市近辺の大磯丘陵及び周辺地域の地質層序及び地質構造について、団体・共同研究を行ったあらゆる学術的成果(調査データ・試資料・調査に基づく情報及び知見その他)は、これらの研究を行った者全員の共有に属する。原告X1研としての共同調査に参加した被告Y1が、たまたまある地点の調査データをフィールドノートに記載したとしても、共同調査という性質上、当該調査データの著作権が、被告Y1に単独で帰属するものではない。原告X1研における団体研究の特徴は、多数人の多数回に及ぶ町道調査によって、調査対象地域に火山群から降下、流下堆積した膨大な枚数の火山砕屑物(テフラ)を一枚一枚正確に記載し、下位から名前を付け、このうち特徴の見分け易いものを鍵層として、各時期の諸特徴(浸食堆積環境、水陸分布、動植物分布、地盤運動、火山活動)を詳細に記載し、図にするというものであり、一個人でできないことを集団の力で成し遂げるところに意味があるものであるから、各個人が他の共同研究者に断り無く早い者勝ちで個人発表を始めることを許すならば、団体研究・共同研究は崩壊してしまう。

よって、これらの調査データは、それを記録する者にのみ単独で帰属すると解すべきではなく、共同研究者全員の共有に属するものである。

したがって、被告Y1及び被告市の主張は誤りである。

(3) 著作物性(争点③)

ア 「被侵害」部分の原告らの柱状図及び地質断面図は、専門的知識のもと、目的・用途に従い、記入すべき項目を取捨選択したうえで作成しなければならないものであって、思想の創作的表現として著作権の対象となる。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(4) 同一性(争点④)

ア 地層は、それだけでは時代を特定できないものが多いが、テフラの中には、極めて特徴的で、一つないしわずかしか認められないものもある。これらを鍵層と呼んでいるが、本件でいえば、コロッケや白オビと呼ばれるのは一つしか認められないテフラであり、含黒曜石軽石はわずかしか認められないテフラである。そして、これらから、ある地点(当該四七地点)では下田上部層と下田下部層が接していることが認められる。

地層の調査は一度の調査で全てが同定できるほど容易ではなく、本件でも、大磯東部班の調査の一環として原告X3がなした柱状図(一九七六年四月四日)では、コロッケや白オビの同定ができても、まだ不十分であった点が、後の原告X2・X5・X4の調査(一九七七年三月一三日)による地質調査図によって補われ、完成されていくのである。「侵害」部分の図面は、こうして完成されていった調査結果を無断使用したのであり、複製と判断できる。

イ 被告Y1及び被告市は、「侵害」部分の図面は、「被告Y1が一九七七年(昭和五二年)四月二二日に、博物館の調査活動として独自に調査した結果(乙A七)に基づくものである」と主張している。

しかし、本件地点は、一九七六年に大磯東部班が結成されて以来、最も頻繁に調査されてきた地域であり、被告Y1も、同班に入った後、再三にわたり共同調査をしてきたものである。従って、仮に被告Y1が一九七七年により詳しい内容の乙A七の図面を作成したとしても、それは、従前の共同研究を受け継いで記載されているのであって、独自調査の成果によるとはいえない。もし被告Y1及び被告市のような主張を認めるならば、共同研究によって多数のデータを受け取った上で、後日、単独で、形だけでも当該調査地点に行って受け取ったデータを確認しつつ自分でデータを作り直せば(初めから一人で調査するのと違って作成は容易である)、すべてオリジナルデータになってしまう。これでは共同研究が成り立たない。

ここから考えると、乙A七(一九七七年四月二二日付)は、同年三月一三日の共同調査(甲A一四の一・二)に参加できなかった被告Y1が一か月以上経って「後追い調査」に行って、右甲A一四の一・二(これは調査後、被告Y1に渡されている)を確認して「清書」してきた感じのものといわざるをえない。それを独自調査であるとかオリジナルデータであるとか主張することは認められない。

(5) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(4)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

(1) 著作権者としての非保護性(争点②)

「共同著作物」とは、「二人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」(法二条一項一二号)をいうところ、「侵害」部分の作成の基となった調査に同行していない者はもちろん、同行していた者についても、右調査では各調査者が別々に調査データを記録していたのであるから、調査データはそれを記録した者に帰属するというべきである。

したがって、右の各侵害箇所における調査データは、その記録を行った被告Y1に帰属しているのであり、原告らの主張は理由がない。

(2) 非著作物性(争点③)

ア 柱状図のような調査データは、自然科学上の調査事実を技術的に記述したものであり、共通した真理であるから、著作物としての保護の対象にならない。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(3) 非同一性(争点④)

「侵害」部分の図面は、被告Y1が一九七七年(昭和五二年)四月二二日に、博物館の調査活動として独自に調査した結果(乙A七)に基づくものである。「被侵害」部分の原告らの図面と乙七の図面と対比すると明らかなとおり、両者は相当異なる。原告らの図面にない地層の区分や記述があり、層の厚さが違い、層行傾斜の向きが異なる。鍵層名は著作物性がない。したがって、仮に柱状図に著作物性があっても「侵害」部分の図面と原告らの図面とは異なっており、複製に該当しない。

(4) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

6  表2No6関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表2No6の「侵害」部分の柱状図は、対応する「被侵害」部分の原告X2らの柱状図と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告市は、右原告らの著作物の複製権及び公表権を侵害した。

(2) 著作権者としての保護性(争点②)

ア 一九七八年二月に原告X2・同X5・被告Y1を構成員として下末吉埋没土層班が結成された後、多くの共同調査がなされ、同年一一月には、右三人を共著者とする論文「下末吉埋没土層の時代について」(甲A一八)を発表するなどしてきた。したがって、一緒に同行して調査した原告X5はもちろんのこと、同行しなかった同X2も、共同調査者として、「被侵害」部分の図面(甲A一五)の著作権を有する。被告Y1は、共同調査をしたにすぎない。同行及び分担の有無は、著作権の帰属と無関係である。

イ また、表2No5の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 著作物性(争点③)

ア 柱状図は専門的知識のもと、目的・用途に従い、記入すべき項目を取捨選択したうえで作成しなければならないものであって、思想の創作的表現として著作権の対象となる。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(4) 同一性(争点④)

「被侵害」部分の原告らの図面が「侵害」部分の柱状図の下半分(Z~SB―3)に複製されている。このことについては、被告Y1及び被告市も、認めている。

なお、「侵害」部分の柱状図の上半分についても、被告Y1の著作権侵害となる。すなわち、本件地点を含む、藤沢川上流の才ヶ戸一帯の露頭群(甲A二の六〇頁の地点五一~五四など)の火山灰層序学的研究は、古くは一九六七年一二月以前から、原告X2や同X6によって始められ、原告X1研により基本的な調査が終了し、研究成果が積み上げられてきた。それをオリジナルな成果であるというのは、長年にわたる先達たちの成果を全く無視する主張である。

(5) 公表著作物の不存在(争点⑦)

被告Y1及び被告市は、「侵害」部分の図面の発行前に別の公表図面があったから、「侵害」部分の図面は公表権侵害とならない旨を主張するが、争う。

本件は、才ヶ戸地域のうち五四地点という特定地点の柱状図として表示されているのであるから、標準柱状図(甲A一八)ではなく、同一地点の未公表柱状図たる「被侵害」部分の図面の侵害としてとらえるのがより適切である。

(6) 引用の必要性(争点⑧)

表1No1の原告らの主張(4)のとおりである。

(7) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

(1) 著作権者としての非保護性(争点②)

ア 「被侵害」部分の原告らの図面は、被告Y1の単独の著作物である。

イ また、表2No5の被告Y1及び被告市の主張(1)のとおりである。

(2) 非著作物性(争点③)

ア 柱状図のような調査データは自然科学上の調査事実を技術的に記述したものであり、共通した真理であるから著作物としての保護の対象にならない。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(3) 非同一性(争点④)

「侵害」部分の柱状図の下半分(Z~SB―3)は、原告らの柱状図が基の図となっている。その後、一九八〇年の被告Y1と原告X5との追加調査の成果(乙A八九の一)を加え、上半分(Y~Z)は、一九八二年の被告Y1の独自調査の成果(乙A八九の二)により加筆したものであり、複製には当たらない。

(4) 公表著作物の存在(争点⑦)

「被侵害」部分の原告らの図面の基となる柱状図(甲A一八)は、既に公表済みであったから、「侵害」部分の図面は対応する原告らの図面の公表権侵害とはならない。

(5) 引用の不要性(争点⑧)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(3)のとおりである。

(6) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

7  表2No7関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表2No7の「侵害」部分の柱状図は、対応する「被侵害」部分の原告X5の柱状図と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告市は、右原告の著作物の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作物性(争点③)

ア 柱状図の作成は、専門的知識のもと、目的・用途に従い、記入すべき項目を取捨選択したうえで作成しなければならないものであって、思想の創作的表現として著作権の対象となるものである。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 同一性(争点④)

両図ともP~Yのテフラが記載されており、複製であることが明らかである。

両図では、離水層準(水中から陸域に移り変わる層準)が異なり(「被侵害」部分の図面ではW軽石直下、「侵害」部分の図面では吉沢U軽石直下)、また、対応する「被侵害」部分の図面には吉沢層の砂層の基底が描かれていないといった違いがあるが、テフラの記載が大部分で一致する以上、他の一部で異なるところがあっても、複製権の侵害であることに変わりはない。

(4) 依拠性(争点⑤)

そもそも本地域(寺分)は、被告Y1がまだ高校三年生であった一九六八年五月には原告X2・同X6らによって調査がなされ、吉沢ローム層の「U」~「Z」が確認されていた。かようにして、本地域(寺分)の調査が進められ、本地域は普及巡検や新人研修の格好な場となっていった。被告Y1も、一九七五年一〇月の原告X1研入会後、本地域に案内されて調査経験を蓄積していったのである。にもかかわらず、長年の調査実績を否定して「独自調査」なるものを主張する被告Y1及び被告市の主張は認められるものではない。

(5) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

(1) 非著作物性(争点③)

ア 「被侵害」部分の原告らの柱状図と対応する「侵害」部分の図面との同一点は、PからYと記した軽石層名であるにすぎず、軽石層以外の層、層の厚さ、化石の記載の有無等で異なる。そして、同一である軽石層名にはそもそも著作物性がない。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(2) 非同一性(争点④)

「侵害」部分の図面及び「被侵害」部分の図面の両図では、離水層準が異なり、「被侵害」部分の図面には吉沢層の砂層の基底が描かれていないから、「侵害」部分の図面は複製ではない。

「侵害」柱状図の基になっているのは、被告Y1が一九七七年七月一二日に博物館の調査活動として独自に調査した乙一一の柱状図である。

(3) 非依拠性(争点⑤)

「侵害」部分の図面は、対応する「被侵害」部分の図面と異なる調査結果となった昭和五二年七月一二日の独自調査に基づくものであり、「被侵害」部分の図面に依拠して作成されたものではない。

(4) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

8  表2No8関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表2No8の「侵害」部分の図面①から③は、これに対応する「被侵害」部分の原告X11の図面①から③と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告市は、右「被侵害」部分の図面の著作物の複製権及び公表権を侵害した。

(2) 著作権者としての保護性(争点②)

被告Y1及び被告市は、「被侵害」部分の図面が被告Y1と原告X11の共同著作物であるから、被告Y1による侵害がないかのような主張をしている。

しかし、「被侵害」部分の図面は、一九八二年一〇月二六日に原告X11と被告Y1が共同調査した成果に基づき原告X11が作成したフィールドノートであり、被告Y1及び被告市に原告X11に対する著作権侵害がある。

(3) 著作物性(争点③)

ア 「被侵害」部分の原告X11の図面は、一九八二年一〇月二六日に原告X11と被告Y1が共同調査した成果に基づき原告X11が作成したフィールドノートであり、著作物である。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(4) 同一性(争点④)

被告Y1は、「被侵害」部分の原告X11の図面のコピーを原告X11からもらい、これを清書して、「侵害」部分の図面を作成した。したがって、「侵害」部分の図面は原告X11の右図面の複製である。

なお、原告X11の右図面と被告Y1作成の図面(乙九七のスケッチ)とを対比すると明らかなように、同じ地点であっても、作成者の専門的力量及び目的などに応じて異なる図になる。そして、被告Y1は、被疑文書の(二)のNo8の箇所の記述に当たり、自らのスケッチ(乙九七)ではなく、原告X11の図面を選んだものである。

(5) 引用の必要性(争点⑧)

被告Y1及び被告市は、法一九条三項を理由に「被侵害」部分の引用が不要であるかのように主張するが、右規定は氏名表示権についてのものであり、公表権侵害については適用がない。

(6) 同意の不存在(争点⑩)

原告X11が被告Y1にコピーを渡したことは事実であるが、それはあくまで共同調査者として共同調査の成果を渡したものであって、共同調査を否定するような利用の仕方を了解したことは一切ない。

(7) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

(1) 著作権者としての非保護性(争点②)

被疑文書(二)「地層と化石」に生痕化石を記述する目的で、被告Y1と原告X11が一九八二年に共同調査を行い、主として被告Y1が地層の記載や計測等を行い、原告X11が生痕の詳細なスケッチを担当した。「被侵害」部分の原告X11の図面は、右調査時のスケッチであり、これには、被告Y1が読み上げた計測値が記載されており、原告X11の右図面は被告Y1との共同著作物である。

(2) 非著作物性(争点③)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(3) 引用不要(争点⑧)

被疑文書(二)は、普及書であり、このような普及書における共同研究成果の利用は法一九条三項に規定する「公正な慣行」に反するものではなく、著作者名の表示を省略して利用できる。

(4) 同意(争点⑩)

原告X11は、被告Y1が「被侵害」部分の原告X11の図面を利用して被疑文書(二)を公表することを了承していた。

(5) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

9  表2No9関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表2No9の「侵害」部分の記述は、対応する「被侵害」部分の原告らの記述及び図面と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告市は、原告X2及び同X5の右記述及び図面の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作物性(争点③)

ア 「被侵害」部分の記述は、斜交層準仮説を記載したものであり、内容的に著作物性がある。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 同一性(争点④)

「侵害」部分の記述は、対応する「被侵害」部分の原告らの記述を簡略化したものであり、複製に当たる。

(4) 引用の必要性(争点⑧)

表1No1の原告らの主張(4)のとおりである。

(5) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

(1) 非著作物性(争点③)

ア 斜交関係という学術用語の内容は著作権の対象外である。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イ参照。

(2) 非同一性(争点④)

記述内容が類似していても、表現形式が異なっているから、複製ではない。

(3) 引用不要(争点⑧)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(3)のとおりである。

(4) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

10  表2No10から12関係

(一) 原告らの主張

被疑文書(二)は被疑文書(一)と異なるが、被疑文書(二)のNo10から12の「侵害」部分は、被疑文書(一)のNo3から5の「侵害」部分と同一であるから、表2No10から12の「侵害」部分の図面は、表1No3から5の「被侵害」部分の原告らの図面すなわち表2No10から12の「被侵害」部分の図面の著作権を侵害する。その根拠、争点に関する主張は、表1No3から5の原告らの主張欄のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

表2No10から12は、表1No3から5と同一の指摘であるから、被告Y1及び被告市の主張は、表1No3から5の被告Y1及び被告市の主張欄のとおりである。

四  各論的争点その3(被疑文書(三)「相模川下流域」関係)

1  表3No1関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表3No1の「侵害」部分(被疑文書(三)六九頁の表の番号3の「西小磯北方断層」及び同文書七〇頁図6中の番号3の活断層の図示)は、別紙5から明らかなとおり、対応する原告X2の「被侵害」部分の図面と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び同協議会は、右原告の著作物の複製権及び公表権を侵害した。

(2) 著作物性(争点③)

ア 地質調査におけるスケッチの作成は記入すべき項目の取捨選択を伴う。このことは、被告Y1がした同一地点のスケッチ(乙五一・乙一二)の記載内容が「被侵害」部分の図面の記載と異なっていることからも判明する。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 同一性(争点④)

西小磯北方断層という活断層の位置が「侵害」部分の図面及び「被侵害」部分の図面の両図において同一である。被告Y1は、原告X2から活断層の存在を教示されており、それを公表した。被告Y1の独自調査もない。

(4) 依拠性(争点⑤)

原図の提出がなく、独自調査がない。仮に被告Y1の独自の部分があったとしても、共同調査によるものである。

(5) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び同協議会の主張

(1) 非著作物性(争点③)

ア 調査データは著作権の対象外である。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(2) 非同一性(争点④)

「侵害」部分の図面と記述は、被告Y1の独自調査の結果であり、内容的には対応する「被侵害」部分の図面と異なり、独自の創作的な表現形式により表現されたものである。

(3) 非依拠性(争点⑤)

被告Y1は、原告X1研入会前にこの断層を発見し、昭和五三年一月七日独自調査もしていた。

(4) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

2  表3No2関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表3No2の「侵害」部分(被疑文書(三)六九頁の表3の番号6の「公所断層」、同文書七〇頁図6中の番号6の活断層の図示及び同書七一頁一から四行目の「公所断層(新称)」の段落の記述)は、活断層の存在を示す意味で、対応する「被侵害」部分の原告X5の図面と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び同協議会は、右原告の著作物の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作物性(争点③)

表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 同一性(争点④)

「被侵害」部分の図面の公所区域における面の曲げられている記載からその地下に活断層が伏在することが推定される。「侵害」部分の図面及び記述は、対応する「被侵害」部分の図面により指摘されている活断層の存在を複製した。

(4) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び同協議会の主張

(1) 非著作物性(争点③)

ア 事実の記載及び調査データは著作権の対象外である。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(2) 非同一性(争点④)

「侵害」部分の図面と記述は、被告Y1の独自調査の結果であり、内容的には対応する「被侵害」部分の図面と異なり、独自の創作的な表現形式により表現されたものである。

(3) 非依拠性(争点⑤)

被告Y1は、原告X1研入会前にこの断層を発見し、昭和五三年一月七日独自調査もしていた。

(4) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

3  表3No3関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表3No3の「侵害」部分(被疑文書(三)六九頁の表の番号11の「中里北方断層」及び同文書七〇頁図6中の番号11の活断層の図示)は、活断層の存在を示す意味で、対応する「被侵害」部分の原告らの図面のピンクの線と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び同協議会は、右原告らの著作物の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作権者としての保護性(争点②)

ア 後記被告Y1及び同協議会の主張(1)アは争う。

イ また、表2No5の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 著作物性(争点③)

表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(4) 同一性(争点④)

「侵害」部分の図面及び記述は対応する「被侵害」部分の図面の示す活断層を表示したものであり、両者には同一性がある。

(5) 他の公表論文の不存在(争点⑦)

被告Y1及び同協議会が引用した論文(甲A二一)は、当該活断層を対象としていない。右活断層については、「被侵害」部分の図面が初出である。したがって、「侵害」部分の図面及び記述は、「被侵害」部分の図面の複製権及び氏名公表権を侵害している。

(6) 引用の必要性(争点⑧)

「侵害」部分の図面及び記述によるY1他一九七七の引用は適切ではなく、当該「被侵害」部分の図面を引用したことにならない。

(7) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び同協議会の主張

(1) 著作権者としての非保護性(争点②)

ア 表3No3の「被侵害」部分の図面の調査データ(甲A二〇)の作成者は不明であるが、おそらく原告X3の単独著作物であると思われる。したがって、著作者でない者は、共同調査者であっても、著作権者ではない。

イ また、表2No5の被告Y1及び被告市の主張(1)前段のとおりである。

(2) 非著作物性(争点③)

ア 断層名は地名等の固有名詞を冠して断層の名称を示したものであり、著作権の対象とはならない。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(3) 非同一性(争点④)

同一であるとの原告らの主張は争う。

(4) 他の公表論文の存在(争点⑦)

「被侵害」部分の図面は共同調査の結果をまとめた未公表成果である。その成果は、Y1他一九七七(甲A二一の四〇頁)やX3他一九七六(甲A七の一〇頁)として公表されている。したがって、「被侵害」部分の図面は未公表論文ではない。このような場合には、公表論文を引用すればよいところ、「侵害」部分の図面及び記述は、Y1他一九七七を引用している。

(5) 引用(争点⑧)

「侵害」部分の図面及び記述は、Y1他一九七七として「被侵害」部分の図面を引用している。

(6) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

ア 原告らも鷹取山断層、生沢山断層の記載等に当たり、引用をしていない。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

4  表3No4関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表3No4の「侵害」部分(被疑文書(三)六九頁の表の番号12の「妙見断層」―別紙5の「侵害」部分①―及び同文書七〇頁図6中の番号12の活断層の図示―別紙5の「侵害」部分②)は、活断層の存在を示す意味で、対応する「被侵害」部分の図面(黄緑色の線)と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び同協議会は、右原告の著作物の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作権者としての保護性(争点②)

ア 後記被告Y1及び同協議会の主張(1)アは争う。

イ また、表2No5の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 著作物性(争点③)

表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(4) 同一性(争点④)

表3No3の原告らの主張(4)のとおりである。

(5) 他の公表論文の不存在(争点⑦)

表3No3の原告らの主張(5)のとおりである。

(6) 引用の必要性

表3No3の原告らの主張(6)のとおりである。

(7) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び同協議会の主張

(1) 著作権者としての非保護性(争点②)

ア 対応する「被侵害」部分の図面の調査データ(甲A二〇)は、原告X3の単独著作物である。したがって、著作者でない者は、共同調査者であっても、著作権者ではない。

イ また、表2No5の被告Y1及び被告市の主張(1)前段のとおりである。

(2) 非著作物性(争点③)

ア 表3No3の被告Y1及び同協議会の主張(2)アのとおりである。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(3) 非同一性(④)

原告らは、侵害部分の記載が「被侵害」部分と同一であると主張するが、争う。

(4) 他の公表論文の存在(争点⑦)

表3No3の被告Y1及び同協議会の主張(4)のとおりである。

(5) 引用(争点⑧)

表3No3の被告Y1及び同協議会の主張(5)のとおりである。

(6) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

五  各論的争点その4(被疑文書(四)「虫窪」関係)

1  表4No1関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表4No1の「侵害」部分の図面は、対応する「被侵害」部分の原告らの図面(①及び②)を複製したものであり、被告Y1及び被告県は、原告らの右図面の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作権者としての保護性(争点②)

被告Y1が作成した地質図というのは、共同調査の際に、内容の統一のために各自がその調査結果と他の者の調査結果とをそれぞれ記載していた図面にすぎない。また、「被侵害」部分の図面の執筆・発表の際に被告Y1が行ったことは、経験の浅い者の仕事として、地質図の清書の役割を担わされたというものにすぎない。

(3) 引用の必要性及び引用の不存在(争点⑧)

被疑文書(四)は、本文四五頁「はじめに」及び同四七頁「参考文献」の欄で「Y1ほか一九七七」として甲A二一を引用しているが、内容的には柱状図を引用し、引用文献の特定につき明細を示しているものであり、「被侵害」部分の原告らの地質図を引用しているものではない。

また、被告Y1及び被告県は、甲A八については全く引用していない。

(4) 同意の不存在(争点⑩)

被疑文書(四)の論文の発表について原告X2の了解があるが、それは、被告Y1の欺罔によりさせられたものである。そして、その他の原告らの了解はない。

すなわち、被告Y1は、平成二年五月の被疑文書(四)の発表直前になって、原告X2に同意を求めてきたので、原告X2は、内部文書であるというので、了承した。ところが、被疑文書(四)は、内部文書ではなく、「神奈川自然誌資料」という大学の図書館にも備え付けられているれっきとした論文集に掲載されていた。

(5) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告県の主張

(1) 著作権者としての非保護性(争点②)

「被侵害」部分の地質図は、所持する国土基本図に調査結果をまとめて地質図(乙A九四)を作成し、それを基に被告Y1が単独でまとめたものであり、他の大磯東部班員(原告X2、同X3及び同X4)は、地質図作成について最終仕上げに立ち会ったにすぎないから、右地質図の著作権は被告Y1に帰属する。もっとも、右地質図は、大磯東部班五名の共著となっているから、共同著作物とする旨の合意がされていると解釈できるが、その場合も、右合意は著作権の共有の合意としてのみ有効と見るべきものであり、著作者人格権は主張できないと解すべきであるから、原告らによる氏名表示権の侵害の主張は理由がない。

(2) 引用(争点⑧)

被疑文書(四)は、本文四五頁「はじめに」及び同四七頁「参考文献」の欄で「Y1ほか一九七七」として「被侵害」文書の甲A二一を引用している。また、被告Y1も共同著作権者であるから、被疑文書(四)において著作者名の表示をしないことは、公正な慣行に反しない。

(3) 同意(争点⑩)

被告Y1は、別表4No1の被疑箇所については、被疑文書(四)を作成するに当たり、原告X2らに電話で了解を取り、原告X2にすべての原稿及び図表を送付し、コメントを求め、了解を得ている。

(4) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

2  表4No2関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表4No2の「侵害」部分の図面は、対応する「被侵害」部分の原告らの図面(①及び②)と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告県は、「被侵害」部分の図面の著作物の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作権者としての保護性(争点②)

ア 後記被告Y1及び被告県の主張(1)アは争う。

イ また、表2No5の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 著作物性(争点③)

ア 「被侵害」部分の断層露頭図及び地質断面図の作成は、記入項目の選択を要するもので、思想の創作的表現である。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(4) 同一性(争点④)

「侵害」部分の図面及び記述は「被侵害」部分の図面の示す活断層を表示したものであり、両者には同一性がある。

(5) 未公表データ(争点⑦)

被告Y1及び被告県の主張(4)は争う。

(6) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告県の主張

(1) 著作権者としての非保護性(争点②)

ア 表4No2の「被侵害」部分の図面のうち甲A二二のものは原告X3の、甲A二三のものは原告X2の単独著作物である。したがって、侵害されたと主張する原告らのうち、原告X4と同X5は、共同調査者であっても、著作権者ではない。

イ また、表2No5の被告Y1及び被告市の主張(1)前段のとおりである。

(2) 非著作物性(争点③)

ア 「被侵害」部分は、調査データであり、著作権の対象とならない。

イ また、表1No1の被告Y1及び被告市の主張(1)イのとおりである。

(3) 非同一性(争点④)

被告Y1は昭和五二年四月二二日の独自調査に基づき乙A一四を作成していたところ、「侵害」部分の図面は右の乙A一四に基づき作成したものであり、内容も対応する原告らの図面(「被侵害」部分)と一部異なる。

(4) 公表データ(争点⑦)

「被侵害」文書のうち甲A二二は巡検案内書として発行され、頒布されたものであるから、未公表データとはいえない。したがって、「侵害」部分の図面は、「被侵害」文書のうちの右のものについての公表権の侵害とはならない。

(5) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

3  表4No3関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表4No3の「侵害」部分の記述は、対応する「被侵害」部分の原告らの記述と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告県は、右原告らの記述の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作物性(争点③)

断層のズレというものは、テフラの鑑定をはじめ専門的知識と経験を必要とし、その記述は思想の表現として著作物性を有する。

(3) 引用の不十分(争点⑧)

「侵害」部分の柱状図に甲A二一の引用があるが、右の柱状図からは段差を計算できないから、右の記載では引用したことにはならない。また、被疑文書(四)の参考文献欄に甲A二一の記載があるが、甲A二一は「被侵害」文書ではないし、被疑文書の本文中の「侵害」部分では引用しておらず、このようなものは、引用とはいえない。

(4) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告県の主張

(1) 非著作物性(争点③)

「侵害」部分の記述は断層のズレという量的な事実を記載したにすぎず、このような事実は、著作権の対象とはならない。

(2) 引用(争点⑧)

「侵害」部分の記述は「連続柱状図から(図三)読み取ると」あり、図三には「Y1ほか一九七七に一部加筆」と記載しているから、被疑箇所の本文中では引用は不要である。

(3) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

4  表4No4関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

表4No4の「侵害」部分の記述は、対応する「被侵害」部分の原告らの記述と同一内容を記載したものであり、被告Y1及び被告県は、原告らの記述の複製権及び公表権を侵害した。

(2) 著作物性(争点③)

表1No1の原告らの主張(2)イのとおりである。

(3) 同一性(争点④)

被告Y1及び被告県の主張は争う。

(4) 公表著作物の不存在(争点⑦)

被告Y1及び被告県は、「侵害」部分の図面の発行前に別の公表図面があったから、「侵害」部分の図面は公表権侵害とならない旨を主張するが、争う。

(5) 同意の不存在(争点⑩)

被告Y1及び被告県は、「侵害」部分の断層の命名について原告X2の同意があった旨を主張するが、同意はなかった。

(6) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告県の主張

(1) 非著作物性(争点③)

断層名の用語には著作物性はない。

(2) 非同一性(争点④)

複製ではない。

(3) 公表著作物の存在(争点⑦)

原告らが「被侵害」部分の記述及び図面と主張するものは、Y1ほか一九七七(甲A二一)に既に公表されている。

(4) 同意(争点⑨)

断層の命名については、原告X2らから了承を得ている。

(5) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

六  各論的争点その5(被疑文書(五)「動く大地」関係)

1  表5No1から4関係

(一) 原告らの主張

(1) 侵害行為の内容

被疑文書(五)の各「侵害」部分の記述は、対応する「被侵害」部分の原告らの記述と同一であり、被告Y1及び被告市は、原告らの右著作物の複製権及び氏名表示権を侵害した。

(2) 著作物性(争点③)

ア 畑沢火山は、「発見された化石的な火山」であり、その概念等は調査・研究によって初めて明らかとなったものであるから、単なる名称とか事実の記載とはいえない。

イ また、表1No1の原告らの主張(2)イ(特に第二段)のとおりである。

(3) 同一性(争点④)

畑沢火山の名称、場所の特定等において同一性はある。

(4) 依拠性(争点⑤)

依拠はある。引用のある乙B一・二では各「侵害」部分のような記述はできない。

(5) 引用の不存在(争点⑧)

被告Y1及び被告市は、乙B一・二において引用している旨を主張するが、乙B一・二では各「侵害」部分のような記述をすることはできない。また、被疑文書(五)は普及書とはいえない。

(6) 信義則違反及び権利濫用の不存在(争点⑪)

表1No1の原告らの主張(5)のとおりである。

(二) 被告Y1及び被告市の主張

(1) 非著作物性(争点③)

単なる名称や創作性を欠く事実は著作権の対象とならない。

(2) 非同一性(争点④)

「侵害」部分の記述と対応する「被侵害」部分の記述とは、表現内容が全く異なっている。

(3) 非依拠性(争点⑤)

「侵害」部分の記述に「被侵害」部分への依拠はない。

(4) 引用(争点⑧)

「侵害」部分の記述は乙B一・二を引用している。また、普及書は引用が不要である。

(5) 信義則違反及び権利濫用(争点⑪)

表1No1の被告Y1及び被告市の主張(4)イからオのとおりである。

七  各論における共通争点

1  被告県の過失の有無(争点⑥)

(一) 原告らの主張

被疑文書(四)の発行者としての被告県に過失はあった。

(二) 被告県の主張

掲載論文の編集に当たっては、職員のみならず、県内の博物館、動物園等からの学識者も含めた編集委員を設定し、客観的判断のもとに編集を行った。被告Y1の論文執筆の基となった研究成果が原告らとの共同研究によってされたものか否か、そうであるとして共同研究者内での許諾があったか否かという点まで問うべき被告県の注意義務はない。被告Y1は、当時平塚市博物館の学芸員であり、地方公共団体の学芸員資格を有する研究者としての責任を弁えている者が、研究発表のルールを逸脱しているかもしれないことを改めて問う必要性を被告県は認めなかった。

よって、被告県に過失はない。

2  別件和解による免責の有無(争点⑨)

(一) 被告らの主張

被疑文書(一)から(四)は、別件仮処分の申請当時に既に出版されていたものであり、本訴におけるそれらのうちの「侵害」部分を見ると、①別件和解において侵害したと主張された部分と同一のもの(類型A)又は②同様の内容が別件被疑文書に掲載されているもの(類型B)が含まれている。本件の被疑文書(一)から(四)は、別件和解の当時には存在していたにもかかわらず問題とされなかったのであるから、その記載については別件和解によって解決済みのことである。また、別件和解において、別件仮処分の債権者らは、本件で問題となっている各種データの著作権を放棄した。

以上によれば、裁判上の和解の効力(既判力。民訴法二六七条、一一四条)により、本訴において類型Aに当たる部分(表1No3から5、表2No2・3・10から12、表3No2から4、表4No1・3・4)及び類型Bに当たる部分(表2No7、表3No1、表4No2)についての著作権侵害の主張は、制限される(最高裁大法廷昭和三三年三月五日判決・民集一二巻三号三八一頁)。

また、本件被疑文書が別件被疑文書とは別の書籍であることから、仮に右の既判力が及ばないとしても、右のとおり、被疑文書(一)から(四)の「侵害」部分は別件被疑文書に掲載されているものと同じであるから、別の書籍であることを理由に拘束力が及ばないと主張することは、信義則違反及び権利濫用に当たる。さらに、別件仮処分の債権者とはなっていなかった原告らも別件和解の和解条項の内容を知っていたのであるから、その原告らによる本訴の提起は信義則違反及び権利濫用に当たる。

原告らは、被告Y1及び被告市が、別件和解において著作権侵害を認めたと主張するが、和解条項には、データの無断使用や著作権の侵害の事実は一切記載されていないのであり、右は、理由のない主張である。また、原告らは、被告Y1がオリジナルデータを提出しないと主張するが、被告Y1は、別件仮処分時にオリジナルデータを持参し、話合いをしようとしたが、原告らがこれらのデータは後追いデータにすぎないなどと主張したため提示できなかったのであり、別件和解においては、データのオリジナル性については不問とされることになったものである。

よって、被告らは、本件の被疑文書における右「侵害」部分について著作財産権、著作者人格権の侵害の責任を負わない。

(二) 原告らの主張

被告らの右主張は争う。

別件和解は、別件被疑文書が別件仮処分の債権者らの著作権を侵害するものであることを、被告Y1及び被告市において、実質的に認めた内容である。被疑文書(一)ないし(四)は、別件和解の当時には存在していたが、当時は、その内容が一般向けガイダンスであるということから別件仮処分の対象として掲げなかったにすぎないのであり、原告らは、別件仮処分における「被侵害」文書の著作権を放棄したものでもなければ、別の文書による著作権侵害を容認するものでもない。

3  消滅時効の成否(争点⑫)

(一) 被告らの主張(被疑文書(一)ないし(四)の損害賠償請求に対するもの)

(1) 本件の被疑文書の発行年月日は別紙1のとおりであり(ただし、被疑文書(四)の発行年月日は昭和五五年三月三一日)、これらの書籍は、発行直後一か月以内に原告らに頒布されているものであるから、それについての損害賠償請求権は、被疑文書(一)については昭和五九年三月二〇日、同(二)については昭和六一年三月二八日、同(三)については昭和五八年四月一日、同(四)については昭和五八年四月三〇日、時効によって消滅した。被告らは、本件口頭弁論期日において、消滅時効を援用する。

(2) 消滅時効の起算日について(1)の主張が認められないとしても、別件仮処分の申請時である昭和六〇年七月八日には、原告らは侵害の事実を知っていたから、(1)の損害賠償請求権は、昭和六三年七月八日の経過をもって、時効によって消滅した。被告らは、本件口頭弁論期日において、消滅時効を援用する。

(二) 原告らの主張

被告らの右主張は争う。

4  原告らの損害額(争点⑬)

(一) 原告らの主張

原告らは、被告らの被疑文書(一)ないし(四)についての前記行為(甲事件が対象とする行為)により、論文等の執筆など自ら共同研究・調査の結果を発表する機会を奪われた。その損害は、執筆料等を参考にすれば、慰謝料を含め、各原告につき、一被疑文書につき、最低でも各五万円が認められるべきである。また、本件訴訟の遂行には弁護士を必要とするから、各原告の一被疑文書の侵害につき各二万円が右損害に加算されるべきである。

また、原告らは、被告Y1及び被告市の被疑文書(五)についての前記行為(乙事件が対象とする行為)により、各原告につき、最低でも各一〇万円の損害を被った。さらに、本件訴訟の遂行に必要な弁護士費用として、各五万円も右損害に加算されるべきである。

なお、具体的な損害額の内訳は、別紙4のとおりである。

(二) 被告らの主張

原告らの右主張は争う。

第四当裁判所の判断

一  原告X1研及び被告協議会の当事者能力の有無(争点①)

民訴法二九条(平成八年法律第一〇九号による改正前の民訴法四六条)によって当事者能力が認められるためには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることを要すると解する(最高裁第一小法廷昭和三九年一〇月一五日判決・民集一八巻一〇号一六七一頁)。

証拠(甲A三・三二・三三・三四・三五・三六)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告X1研は、小中高校の教師、大学の研究者、大学生、大学院生、民間企業勤務者等を構成員とし、団体としての組織を備え、年一回の総会において、活動報告、代表の決定、決算報告等を行い、多数決の原則が行われており、組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定され、総会と総会の間には、事務局会議によって運営され、構成員の変更にもかかわらず、団体そのものが存続しているものと認められる。

また、被告協議会は、相模川及び金目川水系の水質汚濁の防止及び浄化推進等を目的とし、平塚市内の工場、事業場等を構成員として団体としての組織を備え、年一回行われる通常総会において、理事の選出、規約の改廃、予算の決定、決算の認定等が行われ、通常総会、臨時総会及び理事会は、出席者の過半数をもって決するものとされて多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織における代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているといえる。

よって、原告X1研及び被告協議会は、権利能力なき社団に当たり、当事者能力を有する。

二  「被侵害」部分の著作物性の有無(争点③)及び「侵害」部分と「被侵害」部分の同一性の有無(争点④)

1  著作物性と同一性との関係

原告らは、著作財産権である複製権(法二一条)の侵害とともに、著作者人格権である公表権(法一八条一項)及び氏名表示権(法一九条一項)の侵害を主張している。

まず、複製権の侵害が成立するためには、原告らが、侵害していると主張する文書(被疑文書)の部分(「侵害」部分)と侵害されたと主張する文書(「被侵害」文書)の部分(「被侵害」部分)との間に同一性が認められることが必要である。そして、同一といえるためには、多少の修正、増減、変更がされてもよいが、右の同一性は、「被侵害」文書における著作物(法二条一項一号)性のある部分について、認められるのでなければならない。すなわち、「被侵害」部分に著作物性がなければならない。

また、著作者人格権である公表権及び氏名表示権の侵害が認められるといえるためにも、「侵害」部分と「被侵害」部分との間に同一性がなくてはならず、かつ、右の同一性は、複製権の侵害の場合と同様に、「被侵害」文書における著作物性がある部分について認められることを要すると解される。

2  検討の手順

そこで、このような複製権、公表権及び氏名表示権の保護が与えられる範囲内の「被侵害」文書と「侵害」文書との同一性(争点④)は、「被侵害」部分と「侵害」部分との間にあると認められるとともに、そのような「同一性」に係る「被侵害」部分に著作物性が認められること(争点③)が必要であるということになる。以下、本件の各「侵害」部分について、右の手順で検討を行うこととする。

さらに、著作物性及び同一性が肯定される「被侵害」部分については、同意の有無、引用の有無等の個別的な免責事由の存否を検討する。ただし、共通の論点は、個別の「侵害」部分の検討の後に検討することとする。

三  表1(「ローム層をさぐる」)関係の著作権違反の有無

1  表1No1関係

(一) 「侵害」部分の図表と原告らの「被侵害」部分の図表との同一性の有無(争点④)

「侵害」部分の図表及び原告らの「被侵害」部分の図表は地層の層序図であり、これらを比較すると、新期ローム層から雑色ローム層までのテフラ層序の小区分、テフラ層序の大区分の切り方、火山活動の区分点とテフラ層序の大区分の対応関係、同一名のローム層と水成層との対応関係(この点は、「被侵害」文書においては、水成層の名称ではなく、水成層の岩層)において共通しており、これらの内容の点で同一性を認めることができる。

他方、「侵害」部分の図表には左端に年代、第四紀等の時代区分、沖積層から始まる層の区分があるのに対し、「被侵害」部分の図表には、それらがなく、反対に「被侵害」部分の図表には、「侵害」部分の図表にはない海進海退・地殻変動が層の区分の右側にこれに対比させて記載されている。層についても、「侵害」部分の図表では、縦縞を入れ、幅を短く取るのに対し、「被侵害」部分の図表では、活字は小さいが、空白部分が多い。これらの相違を総合すると、図表全体としては、同一性は認められないというべきである。

(二) 原告らの「被侵害」部分の図表の著作物性の有無(争点③)

(1) 次に、(一)前段のとおり同一性の認められる点(テフラ層の区分の仕方等)に係る「被侵害」部分に著作物性があるかにつき検討する。

法二条一項一号は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義している。すなわち、法は、著作物につき、思想又は感情を「表現」したものであることを要求し、自然的事象や社会的事情に関する単なる事実はもとより、アイディアや理論等の思想及び感情自体を保護の対象から除外するとともに、当該表現に創作性を要求している。また、右のアイディアや理論等の思想及び感情自体は、それが独創性・新規性のあるものでも、著作物性はないと解される。このようなものに著作物性を認めると、その他の者の表現活動に対する過度の制限となり、相当とはいえないからである。

そして、学術論文のような著作者の論理的思考や発見を表現した文書は、表現の創作性が当該学術論文等の文書の全体に占める割合は少ない反面、内容に独創性があることも多いものと思われるが、その内容面は右のとおり著作権上は保護対象外(すなわち考慮対象外)である。表現方法に創作性がある場合には、学術論文ももちろん著作権の保護対象となる。したがって、ある文書は、別の文書と内容面はいくら同一でもその文書の著作権侵害とはならない反面、その表現方法がある程度同一であれば、その文書の著作権侵害となり得ると解するのが相当である。これに対する例外は、思想・感情を表現する方法が特定のものしかないという場合であり、この場合には、ある文書の表現方法が別の文書の表現方法と同一であっても、著作権侵害はないとすべきである。これを著作権侵害に該当するといっては、思想・感情自体を保護することになって制度の目的に反するからである。

(2) そこで、前記(一)の同一性の認められる部分に右の著作物性があるかについて検討すると、同一性の認められるのは、新期ローム層から雑色ローム層までのテフラ層序の小区分、テフラ層序の大区分の切り方、火山活動の区分点とテフラ層序の大区分の対応関係、同一名のローム層と水成層との対応関係という点であるが、これらは、いずれも地質学上の一定の見解に基づき、自然的事象を秩序付け、整理したもので、いずれも自然的事実に属するものであり、その内容自体は著作物性を備えているとはいえない。

他方、「被侵害」部分における表現方法に着目しても、それは、テフラ層序を棒グラフ状に表現し、その横に火山活動の区分や水成層との対応が分かるように併記するというものであるが、地層に関する右のような記載方法は、年代と共に地層が積み重なるという事実を表現する方法として比較的知られている一般的なもので、表現の創作性の程度は高くないといわざるを得ない。

(3) 原告らは、「被侵害」部分は、斜交層準仮説という思想の創作的表現であり、「侵害」部分は、その仮説の根本部分である地層区分の仕方や火山活動の対応関係等を再製している旨を主張する。

証拠(甲A五・六・九・二一)及び弁論の全趣旨(特に原告らの準備書面(六)の三頁以下とこれを被告らが積極的に争っていないこと。)によれば、地層の区分の方法については地質学者の間でもいくつかの考え方が唱えられており、伝統的には水成層の岩相に基づいて行う岩相区分法が、近時はテフラを重視して地層を区分する考え方が唱えられ、後者にも、段丘利用法、これを修正する便宜的累層区分法、そして原告X2ほかの学者が提唱した斜交層準法・不整合法(安定斜面を覆って堆積する最初のテフラで区分する方法)という考え方があること、これらの方法によって、テフラ層序の記載の方法は全く異なるものになること、斜交層準法・不整合法という考え方を採用するかどうかについては、原告X1研の中でも統一されているわけではないことが認められる。そして、本件の「侵害」部分が、原告X2らと同じく右の斜交層準法・不整合法という考え方に基づいて作成されたものであることは、被告Y1も自認しているところである。

しかし、前記のとおり、法は、創作的な表現を著作物として保護しているのであり、地層の区分の方法といった考え方それ自体は保護の対象とはしていない。実質的に考えても、考え方それ自体に著作物性を肯定すると、学説それ自体の独占を招くことにもなりかねず、相当とはいえない。

なお、原告らがいう、創作性の中には、初めてこの地質区分の考え方を創設したという意味が含まれているかもしれない。しかし、そのように学説を創設(創始)した論文・文献に対する配慮が法(著作権法の趣旨)による法的利益として認められるかは別の問題であり、それらは、著作権としては保護されないといわざるを得ない。

(三) よって、表1No1に係る請求は、その余について触れるまでもなく、理由がない。

2  表1No2関係

(一) 「侵害」部分の図面とこれに対応する原告らの「被侵害」部分の図面との同一性の有無(争点④)

(1) 表1No2の「被侵害」部分(別紙5「表1No2の「被侵害」部分①」から「同⑤」)の柱状図は、大磯丘陵におけるテフラを柱状形式の図にしたものであり、テフラの種類、厚さ(層の厚さは柱状の層毎の長方形内に記載)、重なりの順序を画像として見るように画いてある。また、テフラの色調、粒径、鉱物組成、テフラの位置(斜面を覆う最初のテフラか、水成面上のテフラか、水中堆積のテフラか)、テフラの名称(原告X2が野外で使うテフラの愛称名、他の著者による名称、既に学会等で著名となっている名称)、テフラの対応する時代区分が柱状図の脇に記号等で記載してあり、その記号の意味などが図面の下欄に記載されている注記のような説明により判明する。図面は五頁にわたって細かな字で詳細に記載されている。

時代区分との対応関係及びテフラの名称は、執筆者である原告X2の学識からくる一個の見解及び知識であり、それ以外のテフラに関する記載は、実地調査の結果を書面化したという性質のものである。

また、右の柱状図は、地学・地層に関する事実、知識及び見解(地層と時代区分との対応関係)を単に叙述したというものではなく、前記のとおり、テフラを中心にした画像的な図にして、記号と注記的な説明とにより、テフラが種々の面から比較的小さなスペースにおいて簡潔に理解できるように表現してある。

(2) 他方、対応する「侵害」部分(別紙5「表1No2の「侵害」部分①」から「同⑤」)は、同じように大磯丘陵におけるテフラの種類、厚さ及び重なりの順序を柱状図にしたものである。層の厚さは柱状の層毎の長方形内に記載するのではなく、柱状のテフラ層に平行なスケールを記載することでおおよそ分かるようにしてあること、時代区分については記載してないこと、柱状テフラ層の脇に記載されている記号や名称を見易い大きな活字にし、組成や色調に関する説明を記号ではなく、見易い大きな文字で行っていること、それにより余白が狭くなる分、組成色調に関する一部の名称を省略したものとなっていること、このような点で「侵害」部分は「被侵害」部分と異なる。

反面、「侵害」部分の柱状図にはその左にテフラの名称、右にテフラの色調・組成・粒径が記載されている。

(3) 以上のように、「侵害」部分と「被侵害」部分の記載されている内容は、基本的に同一である上、その表現方法は、テフラを柱状に描き、その左右に関連する情報を記載するという手法であり、「侵害」部分は、(2)前段の細かな点で「被侵害」部分と異なる面もあるが、その柱状のテフラの種類の図式的記載の仕方(縮尺、層の違いを示す層毎の図柄)が「被侵害」部分と酷似しており、一見したところの印象によれば、「侵害」部分は、「被侵害」部分の柱状テフラ層の脇に記載されている記号や名称を見易い大きな活字にし、それにより狭くなる分、一部の記号・名称を省略したものと思える。このように「侵害」部分は「被侵害」部分と類似しており、両者は同一性があるというのが相当である。

(二) 「被侵害」部分の著作物性の有無(争点③)

そこで、同一性の認められる右の点について、著作物性が認められるかを検討すると、テフラの種類、層の厚さ、層の構成物質、その粒径、テフラと時代区分との対応関係は自然的事象である。したがって、1(二)で述べたと同様の理由により、これらの自然的事象自体は著作権の対象とはならないというべきである。

次に、これらの自然的事象の表現方法を見ると、テフラ層につき、図柄と層毎の長方形の大きさで層の種類とその厚さとを一見して理解できるものであり、また、「被侵害」部分のうちの同一性のある部分は、「被侵害」部分の全部と比べると精緻さの程度は落ちるものの、層の左にその名称を、右に層の色調、組成及び粒径を示す記号等を記載し、さらに時代区分との対応関係を記載するものであり、情報を取捨選択の上相当量とし、専門的な知見及び情報が狭いスペースに詳細に記載され、一覧的かつ総覧的にテフラに関する事実、知識及び見解を知ることのできるものとなっている点で、工夫が見られる。しかしながら、このような手法の基本部分は一般に知られているもので、自然的事象に関する情報の整理の仕方の一手法であるにとどまり、感情や思想を創作的に表現したものとは、やはりいい難い。もちろん、自然的事象を記載したものが一切著作権の対象外であるというわけではないものの、自然的事象を表現したものは、その大部分が著作権保護の対象外となり、保護の対象となる部分は少なく、そのため、完全にコピーしたようなものや表現方法に著しい創作性があるものに限って著作権侵害とされる可能性があるというべきである。このような観点から見て、表1No2の「被侵害」部分のうち、「侵害」部分と同一性のある部分は、右のいずれの観点からも、未だ著作物性があるとまではいえないのである。

(三) よって、表1No2に係る請求は、その余について触れるまでもなく、理由がない。

3  表1No3関係

(一) 「侵害」部分の図面(地質図)と「被侵害」部分の図面(地質図)との同一性の有無(争点④)

(1) 表1No3の「侵害」部分(別紙5の対応する地質図の紫色で囲んだ部分)及び表1No3の「被侵害」部分(別紙5の対応する地質図)における地質を対比すると、「侵害」部分の地質図においては、層が実線で区分され、区分された範囲毎に斜線や点が記載され、層の位置が模式的に区別しやすく表現され、また、層の名称が漢字カナ混じりで記載されている。

これに対し、「被侵害」部分の地質図においては、層と層との境に実線による区分がなく、異なる層との境は点や斜線による固まりで形成される範囲で区分する方法で表現されている。また、立面図も併記され、全体が模式性が少なく、現実の地層位置をイメージさせるような方法で表現されている。さらに、「被侵害」部分の地質図の対象地域は、「侵害」部分の地質図の紫色で囲まれた地域であり、「被侵害」部分の地質図は対象地域を大きく記載している。また、「被侵害」部分の地質図においては、地層の名称はアルファベットで記載され、地層の形状は「侵害」部分のそれと少なからず異なる。

以上のような点からすると、地質図にある程度親しみ、いくらか専門領域の知識があって、地質図の異同を判別する能力が高い読者を前提としても、両地質図における地層の表現の仕方は少なからず異なるので、同一性を認めるのは相当ではないと解する。

(2) 原告らは、向窪層の形状が異なっているのは、執筆者が見易さなどのために一部省略したことによると主張するところ、仮にそうであったとしても、その点だけが相違点を作り出しているわけではないので、地層については全体として同一性を肯定することはできない。

(3) なお、「侵害」部分の地質図及び「被侵害」部分の地質図は、共に三本の断層が記載され、その位置が類似している。図面上に引かれた直線が断層を表すということは、これらの文書の読者にとっては、一般に容易に理解することのできる記載であろうと思われるので、両地質図の断層の位置と形状の表現は類似しているということができる。

しかし、断層と地層とを区別して断層だけの同一性の有無を論ずるのは適切ではない。この断層をも含めて、両地質図を対比するのが相当であるところ、地層の表現における相違が大きいので、断層の記載の同一性があっても、「侵害」部分と「被侵害」部分とが同一であるということはできない。

(二) その他(同一部分の著作物性の有無―争点③)

(1) (一)(3)のとおり、断層の表現方法を切り離して検討するのは相当ではないが、仮に断層だけを切り離して検討しても、次のとおりその断層についての表現方法に創作性を肯定することはできない。

すなわち、断層の状況が自然的事象についての客観的な記述にすぎない上、「被侵害」部分において見られる断層の記載の仕方は、線分が一定の長さと方向で記載されているだけであり、格別の創作性があるわけではなく、また、この点について他の表現方法もそれ程考えつかない。そうすると、「被侵害」部分の地質図の断層の表現方法には創作性はなく、著作物性を認めることはできないといわざるを得ない。

(2) なお、原告らは、表1No3から5に関する地質図については、大磯東部サブ団研というグループで共同調査を行い、個々の地域別の小地質図群をまとめて最後に全体地質図を作成するということで始まったものであるところ、その約束を破って、被告Y1が原告X2らに何ら諮ることなく勝手に「侵害」部分の地質図を作成した旨、また共同調査研究の中で出てきた成果・学んだ成果を自分一人だけの成果として公表した旨を主張する。その事実の存否は別にして、このような事情から生じ得る法律問題は、著作権違反とは別の問題であり、別に議論されるべきことである。

(三) まとめ

よって、表1No3の侵害を理由とする原告らの請求は認められない。

4  表1No4関係

(一) 「侵害」部分と「被侵害」部分と同一性の有無(争点④)

表1No4の「侵害」部分(別紙5の対応する部分の地質図の黄色で囲んだ部分)の内容及び特徴は、3で述べたところと基本的に同一である。

これに対し、表1No4の「被侵害」部分の地質図(別紙5の対応する部分の地質図)においては、層と層との境に実線による区分がなく、異なる層との境は点や斜線による固まりで形成される範囲で区分する方法で表現されている。全体の模式性が「侵害」部分の地質図と比べると少ない。さらに、「被侵害」部分の地質図の対象地域は、「侵害」部分の地質図の黄色で囲まれた地域であり、「被侵害」部分の地質図の対象地域がいくらか大きく記載されている。また、「被侵害」部分の地質図においては、地層の名称はアルファベットで記載されている。地層の記載は、「被侵害」部分の地質図の方が詳しく、形状も異なる。

以上のような点からすると、両地質図における地層の表現の仕方は少なからず異なり、同一性を認めるのは相当ではないと解する。

なお、断層の記載等、両地質図が類似している点もあるが、それらを個別に判断するのは適当ではなく、全体として対比すべきである。そうすると、右のとおり両地質図に同一性を認めることは相当ではない。

(二) まとめ

よって、表1No4の「侵害」部分の地質図は、その余の点について検討するまでもなく、対応する「被侵害」部分の地質図の著作権を侵害するものとは認められない。

5  表1No5関係

(一) 「侵害」部分と「被侵害」部分との同一性の有無(争点④)

表1No5の「侵害」部分(別紙5の対応する「侵害」部分記載の地質図の黄緑色で囲んだ部分)の内容及び特徴は、3で述べたところと基本的に同一である。

これに対し、対応する「被侵害」部分の地質図においては、層と層との境に実線による区分が基本的にあるものの、比較的狭い地域を対象に地層の形状をあまり模式化せずに記載し、各層毎の区別を示す層内の斜線や点の記載の密度が高い。立面図やスケールが併記されていることもあり、全体の模式性が「侵害」部分の地質図と比べると少ない。さらに、「被侵害」部分の対象地域は、「侵害」部分の地質図の黄緑色で囲まれた地域であるというのであり、形状は異なる部分がある。また、「被侵害」地質図における地層の名称はアルファベットで記載されている。地層の記載は、「被侵害」地質図の方が詳しい。

以上のような点からすると、両地質図における地層の表現の仕方は少なからず異なり、同一性を認めるのは相当ではないと解する。

断層の記載等、両地質図が類似している点もあるが、それらを個別に判断するのは適当ではなく、全体として対比すべきである。そうすると、両地質図に同一性を認めることは相当ではない。

(二) まとめ

よって、その余の点について検討するまでもなく、表1No5の「侵害」部分の地質図は、対応する「被侵害」部分の地質図の著作権を侵害するものとは認められない。

四  表2(「地層と化石」)関係の著作権違反の有無

1  表2No1関係

表2No1の「侵害」部分の図表は、表1No1の「侵害」部分の図表とは、本地域で確認されたことを示す※マークがある(表1)か、ない(表2)かを除くと、全く同一である。他方、表2No1の「被侵害」部分の図表は、表1No1の「被侵害」部分の図表と全く同一である。

よって、表2No1の「侵害」部分の図表は、対応する「被侵害」部分の図表とテフラ層序の区分等の点において同一であるが、その点には、著作物性はないというべきである。このことは、前記三1において表1No1について判示したところと同一である。また、両図表は右のとおり一部類似、一部非類似ということができるが、全体の表現方法について見ると、同一ということにはいささか躊躇されるのである。したがって、いずれにしろ、原告らの主張は理由がない。

2  表2No2関係

(一) 「侵害」部分の記述とこれに対応する「被侵害」部分の記述との同一性の有無(争点④)

表2No2の「侵害」部分の記述及び図面の記載(隆起軸を線分で記載したもの)とこれに対応する「被侵害」部分の記述とを対比し、原告らは、隆起と地形の逆転とが同一のことを表現した旨の主張をしている。

しかし、著作権の保護の対象が創作性のある表現であって、表現された内容ではない以上、同一性の判定に当たっても、表現の同一性の有無を問題とすべきであり、記述の実質的趣旨の同一性の有無を問題とすべきではない。そうすると、隆起と地形の逆転とは、必ずしも同一の表現ではなく、「侵害」部分と「被侵害」部分との間には、同一性を認めることはできない。

(二) 原告らの主張に対する判断―「被侵害」部分の記述の著作物性の有無(争点③)

原告らは、「侵害」部分の記述が、「被侵害」部分の文書における地形の逆転という思想の創作的表現を利用していると主張する。

しかし、地形の逆転があるという事実は、自然科学上の発見にほかならず、かつ、表現方法に創作性があるわけでもない。したがって、このような自然科学上の発見についての表現にはそもそも著作物性を認めることはできないといわざるを得ない。

(三) まとめ

したがって、その余の点に触れるまでもなく、原告らの表2No2における侵害の主張は理由がない。

3  表2No3関係

(一) 「侵害」部分の記述とこれに対応する「被侵害」部分の記述の同一性の有無(争点④)

表2No3の「侵害」部分の記述には、「浸食小起伏面」という用語が用いられているところ、対応する「被侵害」部分の原告らの記述①にも同様の用語が使用されている。

また、同原告らの記述②においては「浸食平坦面」という用語が使われており、これと「浸食小起伏面」という用語とは、表現の外形からすると、似ているようにも思われる。

(二) 原告らの記述の著作物性の有無(争点③)

そこで、次に、「侵害」部分の記述である「浸食小起伏面」という用語に著作物性が認められるかについて検討する。

原告らは、「これらの用語は、地殻変動が激しくない安定大陸地域で、長期にわたり、安定した浸食基準面(海面)のもとで陸上削剥が続くと、最初は起伏の激しかった土地も最終的には低平で緩やかな起伏の浸食性大平原(準平原)ができるという仮説に基づいて設定された概念であり、原告らの記述は、不整合面の成因として、地形学上の浸食小起伏面仮説を持ち込んだものであり、自然科学上の発見ではないから、著作物性がある。」と主張する。

原告らの右の主張を前提とすると、「浸食小起伏面」という用語は、一定の平原の成因を地形学の観点から記載したもので、少なくとも地形学者の間では一定の共通の理解が持たれているものであり、それ自体は学術用語というべきである。そうすると、このような用語に、独創的な表現としての著作物性を認めることはできないといわざるを得ない。

(三) よって、原告らの表2No3に係る請求は、その余の点に触れるまでもなく、理由がない。

4  表2No4関係

(一) 「侵害」部分の図面と「被侵害」部分の図面との同一性の有無(争点④)

(1) 表2No4の「侵害」部分の図面とこれに対応する「被侵害」部分の原告X11の図面とを比較すると、両図では、斜めに多数の帯状に堆積した地層が記載され、その形状及び数には基本的な点で同一性がある。また、これらの地層の上に堆積したように見える平坦状の地層の形及び上部の地層と下部の地層の境界部の形状は、いずれも同一性があると認めるのが相当である。

(2) 被告Y1及び被告市は、両図はその上部でも異なり、下部は一層同一性を欠く旨を主張する。

確かに、貝化石が上部右側に四つしかない(「被侵害」部分の図面)のか、全体にわたってレキと貝化石とが混在している(「侵害」部分の図面)のかについては、多少の違いはある。下部においては、地層の内容が分かりにくい(「被侵害」部分の図面)か、分かりやすいか(「侵害」部分の図面)の違いもある。しかし、(1)で述べたように形状がよく似ているので、全体としての印象としては極めて同一性を感じさせるものとなっている。

また、被告Y1及び被告市は、原告らが、表2No4の「侵害」部分との同一性を装うため、「被侵害」部分の図面である甲一二を書証として提出後に、右図面中の地層を黒く塗りつぶし、V印を加筆するなど、明白な偽造をした旨を主張する。しかし、裁判所に提出されている甲一二の写しによれば、図面上、地層に付された記号が見難いところ、原告らが準備書面に添付し被告Y1及び被告市から偽造と主張された図面(別紙5の対応する図面のうちB5版のものの左下部分)の記載は、地層に鉛筆で引用線が記載されて▲印及びレが記載されている。引用線があること自体により、それのない「侵害」部分の図面との間に違いが感じられるものとなっている。仮に「侵害」部分の図面と類似していることを意図的に作出するなら引用線がないようにする等のことを考えると思われる。そして、原告らがそのようなことをする動機はそもそもうかがわれないし、そのほかに原告らの加筆行為を推認させる事実もないから、原告らが説明するとおり、原告らの千葉代理人が原告X2の説明を受ける際にファクスで送られた原告X11の図面の写しに▲印及びv印をメモ書きしたものが、そのまま準備書面で説明する際に添付されて被告Y1及び被告市の誤解を招いたものと認めるのが相当である。被告らの主張する偽造の事実は認められない。

(3) いずれにしろ、「被侵害」部分の図面は、当初書証として提出された甲A一二であり、侵害の有無はこの図面によって判定すればよく、本判決の別紙5に、該当する図面として付加的に添付したもの(B4版のもの)は、甲A一二そのものの拡大コピーであり、被告Y1及び被告市側において提出したものである。

そうすると、(1)のとおり、「侵害」部分の図面とこれに対応する「被侵害」部分の図面の記載は、下部において、細かいところでは異なる箇所もあるが、全体としては、極めて類似したものというべきであり、両図面は同一性があるというのが相当である。

(二) 原告X11の図面の著作物性の有無(争点③)

右の同一性のある部分に係る「被侵害」部分の図面に創作性が認められるかについて検討すると、「被侵害」部分の図面(原告X11の図面)は形状は極めて実際のものに似せてスケッチしたような印象を与えるものとなっており、地層の重なり具合及び組成をスケッチ風に描くという作業は、描き手の感性に頼る要素が増えるので、同様の情報を与えられても、誰しも同様のスケッチを描くことにはならない。また、「被侵害」部分の図面においては各地層毎に記号だけが付され、さらに右端には専門的な立場からと思われるメモも記載され、いかにも、現場で短時間にできるだけ多くの情報を記載したことのうかがえる専門家のスケッチという性格の図面である。ある程度の地層の観察眼を持つ者がこの場所をスケッチした場合であっても、必ずしも当然に同じものになるとは思われない。それだけ、創作性を感じさせる要素を有している。以上から、同一性のある部分に係る「被侵害」部分の図面には、著作物性を認めるのが相当である。

(三) 「侵害」部分の出版についての原告X11の同意の有無(争点⑩)

被告Y1及び被告市は、原告X11が右被告らによる表2No4の「侵害」部分の図面の著作出版を了解した旨を主張するが、その旨の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

原告X11は、「侵害」部分の図面の原稿を見て「原図は原告X11」というように記載されていなかったにもかかわらずこれに抗議していないが、それは、甲A二の被疑文書(二)が被告Y1の単独の執筆者名で出版されるとは思っておらず、原告X11との共著で発行されると思っていたからであり、また、被告Y1単独で被疑文書(二)が出版された際に、原告X11は抗議をしていないが、それは、被告Y1が原告X1研ともめていたから、いずれ改善して貰えると思って我慢していたのである(原告X11本人尋問)。よって、原告X11の同意があった旨を主張する被告Y1及び被告市の主張は前提を欠くといわなければならない。

(四) 公表著作物の存否(争点⑦)

また、原告X11の図面は未公表図面であるから、「侵害」部分の図面の出版は、公表権の侵害となる。

被告Y1及び被告市は、Y1及びX11の共同研究である乙A三の文献が既に公表されていたから、「侵害」部分の公表は、「被侵害」部分の公表権を侵害しない旨を主張する。しかし、乙A三は、毎年一回、三月に発行される平塚市博物館研究報告「自然と文化」シリーズの六号として出されているものであり、「侵害」部分を掲載した被疑文書(二)(甲A二)の発行(同書の奥付には一九八三年二月二八日とある。)よりも後の時期の発行である。したがって、甲A二の発行の時点では、未公表データである「被侵害」部分の図面(甲A一二)があるだけであり、本件は、右の部分についての公表権の侵害にあたる。

(五) 引用の要否(争点⑧)

(1) 被告Y1及び被告市は、被疑文書(二)(甲A二)が一般向け普及書であるので、法一九条三項から、引用は不要である旨を主張する。

法一九条三項は、著作者の人格的利益を損なうおそれがなく、かつ、社会的実態として必要妥当性が認められる場合に著作者名の表示を省略できる旨を定めたものであり、無形的な利用態様、特に演奏の場合を想定したものであって、出版物としての利用など有形的利用の場合においては、特殊な例外を除いてほとんどその適用は考えられないと解される。

本件の場合、書籍において著作物を引用することの要否が問題とされており、被疑文書(二)が普及書とはいっても、そこに著作者の氏名を表示することを困難とさせる事情は全く認められない。

よって、引用の不要をいう被告Y1及び被告市の主張は理由がない。

(六) 引用に関する信義則違反の有無(争点⑪)

(1) 原告X11と被告Y1との共著「大磯町西小磯海岸にみられる大磯層の層序と化石」六七頁の図面(乙A三)について、原告X11は、「神奈川の自然をたずねて」所収の「五 大磯海岸で化石採集」という自身の単独名著作中の一七〇頁図二―五―三において、引用なしに利用している(乙A三九の七の一七〇頁)。そのため、被告Y1及び被告市は、原告X11の「侵害」部分の請求は信義則に反する旨を主張する。

(2) しかし、乙A三九の書物は被疑文書(二)や乙A三の著作より約九年遅い一九九二年に出版されたものであり、諸事情から執筆依頼に応じざるを得ない原告らの一部の者は、引用文献を明示した原稿を交付して盗用と非難されないように注意していたにもかかわらず、出版社において、その判断で引用文献の記載を掲載しなかったため、右原告らが出版後に出版社に抗議をしたという経緯がある(甲A一三三)。

また、原告X11と被告Y1との合同調査結果を最初に原告X11が図面にしたのが「被侵害」部分の図面(甲A一二の原告X11の図面)であり、これを原告X11が被告Y1に渡したという事実がある(原告X11本人尋問)。したがって、原告X11の図面(甲A一二)を基礎に「侵害」部分の図面(甲A二)や原告X11と被告Y1の共同著作物中の図面(乙A三)が作成されたと推認される。

そうすると、結果的に原告X11の単独名の著作物(乙A三九の七)中に原告X11と被告Y1との共同著作物(乙A三)に記載されている図面と同一と評価することのできる図面が引用なしに記載されたものの、原告X11による右の引用省略は、被告Y1が原告X11の図面を引用しないことと比べると、責任の度合いは遙かに低いというのが相当である。したがって、原告X11が右の引用をしていないの一事で被告Y1及び被告市の表2No4に係る「被侵害」部分の侵害が免責されるものではない。

(七) まとめ

そうすると、「侵害」部分の図面は、後記共通免責事由の有無の点を除くと、「被侵害」部分の図面(原告X11の図面)の複製権及び公表権を侵害したものというべきである。

5  表2No5関係

(一) 「侵害」部分の柱状図と「被侵害」部分の柱状図及び地質調査図との同一性の有無(争点④)

(1) 「侵害」部分の柱状図と「被侵害」部分の柱状図(別紙5の該当欄の①)とを対比すると、両者とも、地層を模式的な棒グラフ状に記載しており、類似する。ただし、「被侵害」部分の柱状図は地層の区分が「侵害」部分の柱状図と比べ大まかなものとされ、地層の説明が大部分英文でされ、メモ的な未完成な表現となっている。反対に、「侵害」部分の柱状図は、地層の区分が詳しく、また地層の説明が日本語で詳しくされている。

(2) 次に、「侵害」部分の柱状図とこれに対応する「被侵害」部分の地質図(別紙5の該当欄の②)とを比較すると、「被侵害」部分の地質図は、露頭部分を横から見たスケッチ風の地層図であり、表現形式においては、「侵害」部分の柱状図と相当程度相違している。また、その記載内容においては、「侵害」部分の柱状図には、化石及び地層の内容等の原告らの地質図には記載されてない事項も詳細に記載され、反対に地質図の下部には記載されている情報が「侵害」部分の柱状図には記載されていない。

ただし、「被侵害」部分の地質図と「侵害」部分の柱状図とは、地層名・鍵層名(コロッケ、白オビ、含黒曜石軽石といった地層の時代を定めるための基本となる地層)及び地層の層序の状況においては、同一性を認めることができる。

(二) 同一性のある部分の著作物性の有無(争点③)

(1) 「侵害」部分の柱状図と「被侵害」部分の柱状図は、地層を模式的な棒グラフ状に記載しているという点で、その表現形式において同一性を認めることができる。しかし、地層は自然科学的事象であり、それ自体としては著作権の保護の対象ではない。また、この地層を模式的な棒グラフ状に記載するという表現方法は、記載方法としてはありふれたものであるから、その表現方法は創作性を欠き、著作物性はないといわざるを得ない。

(2) 次に、「侵害」部分の柱状図と「被侵害」部分の地質図とは、地層名・鍵層名(コロッケ、白オビ、含黒曜石軽石といった地層の時代を定めるための基本となる地層)及び地層の層序の状況においては、同一性を認めることができる。しかし、これらは、いずれも、自然科学的事象であり、著作権保護の対象とはならない。

(三) まとめ

そうすると、(一)のとおり同一性の認められる部分もあるが、その部分だけを個別に見ると、(二)のとおりその部分には著作物性がない。

よって、表2No5に係る原告らの請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

6  表2No6関係

(一) 「侵害」部分の図面と「被侵害」部分の図面との同一性の有無(争点④)

「侵害」部分の柱状図と「被侵害」部分の柱状図とを比較すると、両者とも模式的な棒グラフ状の地層の記載図であり、また、その内容において、地層の層序名及びその順序(白石軽石・黒(暗紫)色火山灰・ゴマシオ・黒色ラピリ・黒色スコリア・黒色火山灰)、各層序の石の直径の記載等の部分に同一である点が認められる。

しかし、「侵害」部分の図面の上半分に相当する部分は「被侵害」部分の柱状図には記載がなく、原告らの柱状図は「侵害」部分の図面の下半分に相当する内容を記載したものである。また、「被侵害」部分の柱状図は地層名がアルファベット混じりの記号を利用した手書きで記載されているが、「侵害」部分の図面は簡明で見易い日本文字が印刷されている。区分された層について、「被侵害」部分の柱状図は模様を記載せずに、アルファベット混じりの記号による説明が付されているものが多いのに対し、「侵害」部分の柱状図は区分した地層について模様を記載し、言葉による説明が付されていないものが多い。

したがって、両図面の全体としての同一性は一見して判断できるわけではない。

(二) 著作物性の有無(争点③)

(一)のとおり、「侵害」部分と「被侵害」部分とは、同一性を認めることのできる部分がある。しかし、右の同一性の認められる部分は、いずれも自然科学的事象の記述ないし創作性を欠くありふれた地層の記載方法にすぎず、著作物性を認めることはできない。

(三) まとめ

よって、表2No6に係る原告らの請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

7  表2No7関係

(一) 「侵害」部分の柱状図と「被侵害」部分の柱状図との同一性の有無(争点④)

「侵害」部分の柱状図とこれに対応する原告X5の「被侵害」部分の柱状図とを比較すると、その内容は、アルファベットによる地層の表記方法、地層の種類及びその順序、模式的な棒グラフ状の地層の記載方法において同一性が認められる。

(二) 同一部分の著作物性の有無(争点③)

しかし、右の同一性が認められる部分は、いずれも自然科学的事実の記述ないし創作性を欠くありふれた地層の表記方法にすぎず、表2No5について前記5において判示したのと同様の理由により、著作物性を認めることはできない。

(三) まとめ

そうすると、表2No7に係る原告X5の請求は、その余の点について検討するまでもなく、理由がない。

8  表2No8関係

(一) 「侵害」部分の図面と「被侵害」部分の図面との同一性の有無(争点④)

被告Y1及び被告市は、「侵害」部分の図面(三枚)とこれに対応する「被侵害」部分の原告X11の図面(三枚)との同一性については争っていない。

(二) 著作物性の有無(争点③)

そこで、同一性の認められる部分に係る右の「被侵害」部分の図面(原告X11のスケッチ)に著作物性が認められるかについて見ると、地層とそこに見られる生痕化石の詳細な状況の記載においては、いかなる生痕まで記載するか、地層と化石の区別をどう記載するか、その形状をどのように表記するかという点において、記載者の思想・感情についての表現に創作性が入り得る。

ここでの原告X11のスケッチは、地層と生痕化石の形状が非常に写実的であり、他の者が同じ情報を与えられても同一のスケッチを画くことはほぼ困難であると認められる。その意味で右の同一性のある部分には表現の創作性があると認めるのが相当である。

被告Y1及び被告市は、右スケッチは、自然科学上の調査事実を技術的に記述したもので共通した真理であるから、著作物性が認められないと主張する。しかし、自然科学上の調査事実に基づく記載であっても、その表現方法に創作性が肯定できる場合はこのようにはいえないのであり、本件の場合、前記のとおり、原告X11のスケッチには創作性を認めることができる。この点は、被告Y1の同一対象についてのスケッチ(乙A九七の一・二)は、同一対象を記載しながら、「被侵害」部分(原告X11スケッチ)とは相当に異なっていること、しかも、被告Y1は、被疑文書(二)に乙A九七の一・二のスケッチを利用せず、「侵害」部分を利用していること、以上からも、説明されるところである。

(三) 著作権者としての保護性の有無(争点②)

「被侵害」部分のスケッチは、原告X11と被告Y1とが共同で調査した際に作成されたものであるが、作成者は専ら原告X11である。そして、これを被告Y1の単独著作物とすることを合意したような事実も認められない。したがって、右スケッチを原告X11と被告Y1との共同著作物とすることまでは考えられるが、これにつき原告X11に著作権がないとされるいわれはない。

被告Y1及び被告市は、共同著作物であるから、「侵害」部分に原告X11の氏名を引用しないことが許されるかのように主張するが、共同著作物なら引用する際にも両者の氏名を記載する必要がある。

(四) 引用による免責の有無(争点⑧)

被告Y1及び被告市は、被疑文書(二)(甲A二)が一般向け普及書であるので、法一九条三項から、「被侵害」部分の原告X11のスケッチの引用を要しない旨を主張する。しかし、右被告らの主張が採用できないことは、表2No4における同一論点についての説示のとおりである。

(五) 同意の有無(争点⑩)

(1) 被告Y1及び被告市は、「被侵害」部分(甲A一七の生痕スケッチ)の公表につき、被告Y1は、原告X11から了解を得ていた旨を主張し、陳述書でその旨を述べる(乙A一〇九[六二頁]。なお、甲A六五[七五頁])。

(2) そこで、検討するに、証拠(甲A二・六五・一五七、乙A三、原告本人X11、同X2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

被告Y1は、原告X1研の会員の中でも化石の同定と調査のまとめの作業について優れた能力を有していた。原告X11も、被告Y1と共同で化石についての調査を行い、昭和五四年から昭和五八年にかけて、「二宮層群の貝化石群集について」ほか四本の論文を共著として発表していた。

被告Y1は、被疑文書(二)(地層と化石。昭和五八年二月発行)と「大磯町西小磯海岸にみられる大磯層の層序と化石」(乙A三。昭和五八年発行)をほぼ同時期に執筆し、乙A三は原告X11との共著として発行された。原告X11は、化石の講習会について被告市に協力し、数回にわたって謝礼を受け取ったこともあった。

原告X11は、被告Y1の被疑文書(二)に利用させる目的で、生痕化石のスケッチ(甲A一七)を被告Y1に交付したが、それは共著者となるつもりであったからであった。しかし、被告Y1の著作である被疑文書(二)の「あとがき」の中には、「X11氏には、貝化石標本の同定及び、一七~二一頁の本文を執筆いただき」と記載されていたものの、同書八八頁に掲載された図四六(表2No8の「侵害」部分)については、何ら言及がなかった。このような被告Y1単独による被疑文書(二)が出版された際に、原告X11は抗議をしなかったところ、それは、被告Y1が原告X1研ともめていたから、いずれ改善して貰えると思って我慢していたからであった。そして、被告Y1及び被告市は、原告らの抗議を受け、正誤表(甲A二九)を作成し、その三頁B④においていったんは「被侵害」部分(甲A一七の生痕スケッチ)についての侵害を認めた。

(3) 右の認定事実によれば、原告X11と被告Y1は、化石の研究等については共同で行い、これを発表する場合には共著とする旨が合意されていたものと推認することができ、同原告が被告Y1に生痕化石のスケッチ(甲A一七)を交付したのも、このような共著として発表することが前提であり、そのことは、被告Y1も十分承知していたものと認めることができる。よって、生痕化石のスケッチを被告Y1の単独名で発表することについて、原告X11の同意があったものと認めることはできない。

したがって、被告Y1及び被告市の同意による免責の主張は理由がない。

(六) まとめ

右のとおりであり、「侵害」部分の図面は、後記共通免責事由の有無の点を除くと、「被侵害」部分の原告X11の図面の創作的部分を複製し、複製権及び公表権を侵害したものと認められる。

9  表2No9関係

(一) 「侵害」部分の記述と「被侵害」部分の記述との同一性の有無(争点④)

被疑文書(二)の「侵害」部分(九三頁の文章の一部)とこれに対応する「被侵害」部分(甲一八の一〇頁)とを比較すると、そこで記載されている内容は斜交関係の説明という点で同一であり、「侵害」部分は、専門論文である「被侵害」文書の「被侵害」部分の内容を、一般人にも分かり易く要約したものであるように思われる。そして、そのような両記述の目的と性質の違いを反映して、そこで用いられている用語や論旨の展開は相当程度の差異があり、法の見地から見る限り、両者には同一性はないといわざるを得ない。

(二) 「被侵害」文書の著作物性の有無(争点③)

(一)のとおり「侵害」部分の記述とこれに対応する「被侵害」部分の記述には法の見地からの同一性はないのであるが、念のため、両者において共通している斜交関係の内容自体に著作物性があるか否かについて見ると、斜交関係とは、地層の形成過程に関する一つの仮説であり、このような仮説それ自体は、著作権による保護の対象外であると解される。法は、このような学説の独占を認めたものではないといわざるを得ない。

(三) まとめ

したがって、表2No9の侵害を理由とする原告らの請求は、その余の点について触れるまでもなく、理由がない。

10  表2No10ないし12関係

表2No10ないし12は、被疑文書(二)の「巻末の図表」の部分であり、これらの各「侵害」部分は、表1No3ないし5の各「侵害」部分と同一である。

したがって、前記三の3から5において表1No3ないし5の各「侵害」部分について判示したところと同様に、表2No10ないし12に係る原告らの請求は理由がない。

五  表3(「相模川下流域」)関係の著作権違反の有無

1  表3No1関係

(一) 「侵害」部分と「被侵害」部分の同一性の有無(争点④)

「侵害」部分(被疑文書(三)の六九頁表三及び七〇頁図六の各「西小磯北方断層」についての記述)及び「被侵害」文書(甲A一九)の「被侵害」部分(別紙5の該当する欄のとおり、①から③の三箇所に区分している。)を比較すると、活断層の走向の記載等、その記載内容の詳細やその表現方法は一見して相当程度異なっており、これらの点については、同一性を認めることはできない。

しかし、両者は、活断層(西小磯北方断層)の存在及びその位置の記載並びに断層を線状で記載するという記載方法において共通しているといえる(なお、厳密に言うならば、甲A一九の右端の地図が、「侵害」部分と同一のものであることの証明を要するが、この点については争いがないものと思われる。)。

(二) 「被侵害」文書の著作物性の有無(争点③)

(1) (一)の後段のとおり同一性を有する西小磯北方断層の存在及び位置は、自然科学的な事実にほかならず、思想・感情の表現とは認められない。

また、断層を線状で記載するという記載方法は、断層の記載方法としてありふれたものであり、創作性がなく、この点においても著作物性はない。

(2) なお、自然科学的な事実を記載したものであっても、「被侵害」部分①のようなスケッチは、自然科学的な事実をどのように記載するかというところに意味があるものであり、それ自体は思想・感情の表現に当たり、創作性も認められるのである。ところが、前記(一)前段のとおり、「侵害」部分にはスケッチのような図面の再製はないので、右の「被侵害」部分のスケッチ(別紙5の表3No1の「被侵害」部分①)との関係では、「侵害」部分には同一性がない。

(3) 原告らは、活断層の認定は、防災上の問題のため使用に制限が生じ、ひいては土地の地価にも影響するため、慎重を期すべきものであるところ、被告Y1は、原告X1研が公表や名称の付与を控えていたものを冒用する形で安易に公表等をした旨を主張する。

しかし、仮にそのような事実があったとしても、被告Y1の責任は、原告X1研ないしその構成員との明示・黙示の約定違反ないし(著作権侵害によるものではない一般的な)不法行為責任の問題として追及されるべきものであって、第三者の表現の自由に制限を加えることとなる著作権概念の問題として解決されるべきものではない。

(三) まとめ

よって、表3No1の侵害を理由とする原告X2の請求は、その余の点について触れるまでもなく理由がない。

2  表3No2関係

(一) 「侵害」部分と「被侵害」部分の同一性の有無(争点④)

被疑文書(三)の「侵害」部分(同書六九頁表3の番号6、同書七〇頁図6及び同書七一頁の各「公所断層」についての記述)及び「被侵害」文書(甲A一六)の「被侵害」部分(別紙5の該当する欄のとおり、①②からなる。)を比較すると、その記載内容の詳細やその表現方法が相当程度異なっており同一性がないこと、ただし、右の公所断層(活断層)の存在及びその位置の記載並びに断層を線状で記載するという記載方法において共通していることは、前記表3No1関係において判示したところと同様である。

(二) 「被侵害」文書の著作物性の有無(争点③)及びまとめ

(一)のとおりであり、同一性を有するのは公所断層の存在及び位置についてであるが、このような自然科学的な事実については著作物性が認められない。また、断層を線状で記載するという記載方法は、ありふれたものであり、著作物性はない。

したがって、前記表3No1関係において判示したところと同様に、表3No2の「侵害」部分についての請求は理由がない。

3  表3No3関係

(一) 「侵害」部分と「被侵害」部分の同一性の有無(争点④)

被疑文書(三)の「侵害」部分(六九頁表3の番号12及び七〇頁図6の「中里北方断層」についての記述)及び「被侵害」部分(甲A七の一〇頁の黄色部分及び甲A二〇の桃色部分)を比較すると、中里北方断層の存在及び位置についての記載並びに断層を線状で記載するという記載方法において同一性が認められる。

(二) 「被侵害」部分の著作物性の有無(争点③)

(一)のとおり中里北方断層の存在及び位置について同一性が認められるが、このような自然科学的な事実の記載に著作物性が認められないことは、前記表3No1関係において判示したところと同様である。また、断層を線状で記載するという記載方法は、著作物性がない。

(三) まとめ

よって、表3No3の侵害を理由とする原告らの請求は、その余の点について触れるまでもなく理由がない。

4  表3No4関係

(一) 「侵害」部分と「被侵害」部分の同一性の有無(争点④)

被疑文書(三)の「侵害」部分(六九頁表3及び七〇頁図6の「妙見断層」についての記述)及びこれに対応する「被侵害」文書(甲A七の一〇頁の赤色部分及び甲A二〇の黄緑色の表示部分)を比較すると、妙見断層の存在及び位置についての記載、断層を線状で記載するという記載方法に同一性が認められる。

(二) 著作物性の有無(争点③)及びまとめ

しかし、この同一性が認められる断層の存在及びその位置は自然科学的な事実の記載であり、また同一性のある断層の記載方法は創作性がなく、いずれも著作物性が認められない。これらは、前記表3No1関係において判示したところと同様である。

したがって、この部分の侵害を理由とする原告らの請求は理由がない。

六  表4(被疑文書(四)「虫窪」)関係の著作権違反の有無

1  表4No1関係

(一) 「侵害」部分と「被侵害」部分の同一性の有無(争点④)

被疑文書(四)の「侵害」部分(四五頁図1)及びこれに対応する「被侵害」部分(甲A八及び甲A二一の図面)との同一性については争いがない。

(二) 「被侵害」部分の著作物性の有無(争点③)

そこで、明確な争点となっているわけではないが、念のため、表4No1の「被侵害」部分に創作性が認められるかについて見ることとする。

「被侵害」部分の対象となっている相当程度複雑な不整形な地層の形状をどのように把握し、どのように模式化して表現するかは正に作成者の学識・見識を基礎としこれに創作的な表現の方法を加味して実現されるものであり、制作者の個性の現れる部分であるということができる。このことは、この分野の非専門家であれば、描く技術があっても描きようがないこと、また反対に、この分野の学術上の専門家であっても描く技術がないと描けないと予想されることから、導くことができる。形、位置、層の区別についての情報自体は、自然科学的事実であり、それ自体としては著作権の保護の対象外であるが、それらをどのように描くかということになると、細部の描き方、全体の印象等、創作的要素が含まれてくるのである。

そして、ここでの「侵害」部分のように「被侵害」部分をコピーしたようなものとなると、「被侵害」部分中にいくらかはあると認められる創作的要素と同一に表現したこととなり、その同一部分に係る「被侵害」部分は著作物性があるということができる。

(三) 著作権者としての保護性の有無(争点②)

(1) 被告Y1及び被告県は、表4No1の「被侵害」部分(甲A八・二一の四〇頁)は被告Y1が単独でまとめたものであり、著作権は同Y1に単独で帰属する旨を主張する。

(2) そこで、被告Y1の研究活動の成果及びその帰属者並びに原告X1研の性格について検討する。

証拠(甲A三五・三六・五三、原告本人X2、被告本人Y1)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1研は、富士山東方から南関東地域にまたがる地域のテフラ層の調査を行うため、手分けをして現地調査を行い、テフラ番号付け、資料の採集、写真の撮影、フィールドノートへの記録等を行い、このように協力して得られたデータを内部の刊行物に掲載して研究員の共同の財産とすることを目的とするものであること、このような研究手法によるため、全員の調査結果を相互に利用し合うことを予定し、またそうすることで初めて研究に用いることのできるデータが得られるという関係にあると認められる。したがって、このような共同作業の成果として得られた著作物の著作権は、原告X1研ないし共同作業者全員に帰属する「共同著作物」(法二条一項一二号)というべきである。

(3) 次に、表4No1の「侵害」部分の作成の経緯について検討すると、証拠(甲A六五[六頁以下]、原告本人X5[調書一〇頁以下])及び弁論の全趣旨によれば、右の「侵害」部分の地質図は、大磯サブ団研グループで作成した地質図を基に、チーフとして原告X2が関わりながら、原告X5、被告Y1、原告X4及び同X3が作成したものと認められる。

(4) このように、「侵害」部分の地質図は共同で作成したものであり、被告Y1が、たまたまその地質図のまとめに大きく関わっていたとしても、被告Y1に単独で著作権が帰属するとはいえない。(1)の被告Y1及び被告県の主張は採用することができない。

(四) 適切な引用の有無(争点⑧)

(1) 被告Y1及び被告県は、被疑文書(四)の「はじめに」の欄に「Y1他一九七七」(甲A二一)と、「参考文献」欄にその明細を記載しているから、著作権侵害には当たらない旨を主張する。これに対し、原告らは、引用の仕方として不十分であり、また、甲A八も引用すべきであると主張する。

(2) ところで、引用があるとして著作権侵害がないというためには、特段の事情がある場合を除き、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識できることを要すると解すべきである(なお、最高裁第三小法廷昭和第五五年三月二八日判決・民集三四巻三号二四四頁参照)。

そこで、この点を表4No1について見ると、証拠(甲A四・八・二一・六五(三一から三五頁)・七四・七五)及び弁論の全趣旨によれば、甲A二一の地質図は、甲A八の講演要旨として掲載予定のものを、被告Y1が、原告X2や原告X5らの了解を得て掲載したものである。ただ、その際、原告X2らとしては、原告X5が第一発表者となる甲A八の方が、甲A二一よりも後に公刊されるにもかかわらずプライオリティーがあることを明示するため、甲A二一の地質図に甲A八を引用しており、そのような事情は被告Y1も了知していた。ところで、被疑文書(四)において、「侵害」部分の地質図の下には何ら引用文献が示されていないが、それ以外の箇所の図の下には引用文献があり、また、本文中(甲A四の四五頁)には、地質図の説明以外の部分で、甲A八を引用しているところがある。

これらの事実によれば、被告Y1は、「侵害」部分の地質図においてあえて引用を避け、当該論文を全体として見れば、右地質図が被告Y1の単独の著作に係るかのような印象を与える記述を行っており、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができず、また、本件においては、このような明瞭な区別の要件を課すことが表現の自由の観点から不相当と認められるような特段の事情があるとも認められない。

(3) よって、被告Y1及び被告県は、表4No1の「侵害」部分について、引用を理由に免責されるものではない。

(五) 同意の有無(争点⑩)

(1) 被告Y1及び被告県は、被告Y1が被疑文書(四)を作成するに当たり、原告X2らに電話で了解を取り、すべての原稿及び図表を送付し、コメントを求めていると主張する。

(2) この点に関し、証拠(甲A六五の四九頁以下、被告本人Y1)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

被告Y1は、昭和五五年五月の被疑文書(四)の発表直前に原告X2に電話をし、神奈川県関係の博物館関係者のその年度の業績内容を集めた業績報告書・台帳みたいなものを作ることになって自分も書かなければならず、下田ぼったりの貝化石と横すべり成分を持つ断層条線のことを書きたい、県公務員報告書なので部外者を含めた連名にはできないとの趣旨のことを告げたところ、原告X2は、自分は了承する、他の共同研究者が認めるならば仕方がないと述べた。そして、被告Y1は、被疑文書(四)の原稿・図表を原告X2に送付し、原告X2はこれにコメントを入れた。本論文の発表後、被告Y1は、原告X2に、被疑文書(四)の別刷りを送った。ところが、その後、原告X2が、東大理学部地質学教室の図書室で被疑文書(四)の掲載されている「神奈川自然誌資料」をたまたま見かけて内容を見たところ、内部文書であるはずの被疑文書(四)が掲載されていた。原告X2は、「神奈川自然誌資料」は体裁・内容ともに正規の論文集であり、しかもその巻頭言では、公務員以外を排除しなければならない内容も掲載されていなかったために驚いた。

(3) 右のとおり、原告X2の承諾は、内部文書であるとの錯誤に基づいたものであり、真意によるものであるとはいえない。また、前記(三)(2)のとおり、「被侵害」部分の著作権は、原告X2のほか、共同して作業に当たった原告X5、同X4及び同X3にも帰属しているというべきであるが、本件全証拠によっても、被告Y1が、原告X2以外の右原告らの承諾を得た事実は認められない。

よって、被告Y1及び被告県の(1)の主張は採用することができない。

(六) まとめ

よって、表4No1の「侵害」部分については、後記共通免責事由の有無の点を除くと、複製権及び氏名表示権の侵害があると認められる。

2  表4No2関係

(一) 「侵害」部分と「被侵害」部分の同一性の有無(争点④)

「侵害」部分の図面とこれに対応する「被侵害」部分①(甲A二二のもの)の図面を比較すると、断層を中心に左側に下田上部層が、右側に下田下部層が記載され、下田上部層側の地層の形状が同一である。また、「被侵害」部分②(甲A二三のもの)と比較すると、「被侵害」部分②の右方に別の地層が多く記載され、左方の当該部分も模式化の度合が高いため、全体の印象からは同一性があるとまでは認め難く、類似性があるにとどまるというのが適当である。

(二) 「被侵害」部分の図面の著作物性の有無(争点③)

(一)前半の同一性を有する部分に係る「被侵害」部分①の図面に著作物性が認められるかについて検討すると、右同一性の認められる部分は、いずれもそれほど複雑なものではなく、模式性の度合がある程度高いので、それだけ創作性の要素が低いということになる。また、(一)後半の類似性が認められるにとどまる「被侵害」部分②については、一層右のことが当てはまる。したがって、右の「被侵害」部分の図面①②は、いずれも事実をそれほどの創作性なしに記載したものであり、著作権の対象とはならないというべきである。

(三) まとめ

よって、表4No2の侵害を理由とする原告らの請求は、その余の点について触れるまでもなく理由がない。

3  表4No3関係

(一) 「侵害」部分と「被侵害」部分の同一性の有無(争点④)

被疑文書(四)のNo3の部分は、「落差五〇メートルに及ぶ正断層であることがわかる」という記載であり、これに対応する「被侵害」部分(甲A二一の四四頁図5のLO―12の直下にある「約五〇メートルの変位を伴う。」という記載)と比較すると、正断層の変位量が五〇メートルであるという記載の内容において、同一性を認めることができる。

(二) 「被侵害」文書の著作物性の有無(争点③)

右同一性の認められる正断層の変位量について著作物性を認めることができるかについて見ると、これは自然科学上の事実の記載であり、これがいかに価値のある発見であったとしても、それ自体は思想・感情の表現であるとはいえず、また、このような事実の記載については表現の幅も限られているから、右の同一性の認められる部分について、著作物性を認めることはできない。

(三) まとめ

よって、表4No3の侵害を理由とする原告らの請求は、その余の点について触れるまでもなく理由がない。

4  表4No4関係

(一) 「侵害」部分と「被侵害」部分の同一性の有無(争点④)

「被侵害」部分(被疑文書(四)の四六頁の「この断層を虫窪断層と名付ける」という記載)とこれに対応する「被侵害」部分(甲A二二の一頁(6)の文章最初の下線箇所の記載及び七頁の断層露頭図)を比較すると、その場所に断層があるという記載の内容において、同一性が認められる。

(二) 「被侵害」文書の著作物性の有無(争点③)

(一)で同一性の認められる「その場所に断層がある」という事実は、自然科学上の事実の記載であり、これに著作物性が認められないことは、前記表4No3関係の(二)の説示のとおりである。

原告らは、「被告Y1が、原告らが共同で発見した活断層を、他の共同発見者の同意を得ずに公表し、かつ、名称を付与した点において、著作権侵害がある。」と主張する。しかし、活断層の発見の事実は、それがいかに価値のあるものであったとしても、自然科学上の発見であり、その記載事実自体に著作物性がないことは明らかである。また、被告Y1に、原告らの主張するような背信的な行為があったとすれば、それは、被告Y1と原告X1研ないしその構成員との間の明示・黙示の約定違反ないし一般的な不法行為の問題とすべきなのであって、著作権の問題として解決することは法の趣旨に反し著作物の概念を広げることになり適当ではない。

(三) まとめ

よって、表4No4の侵害を理由とする原告らの請求は、その余の点について触れるまでもなく理由がない。

七  表5(被疑文書(五)「動く大地」)関係の著作権違反の有無

1  表5No1から5関係

(一) 「侵害」部分と「被侵害」部分の同一性の有無(争点④)

表5No1から5の「侵害」部分とこれに対応する「被侵害」部分(別紙5には該当する写しを添付していないが、別紙2の表5自体で該当部分が特定してある。)を比較すると、①「畑沢火山」という用語の使用、②畑沢火山が山北町畑沢に存在したという指摘部分、③畑沢火山が陸上で噴火したという事実の指摘部分、④塩沢礫岩層の堆積時期の指摘部分において同一性が認められる。

(二) 「被侵害」部分の著作物性の有無(争点③)

右同一性の認められた点の著作物性の有無について検討すると、「畑沢火山」という用語は、ある特定の火山に付けられた名称にすぎず、その所在場所も山北町の畑沢地区(甲B一の二五頁)というのであるから、畑沢の火山というものにすぎないのであり、思想・感情の表現ということはできず、そこに創作性を認めることもできない。その他の前記(一)の②ないし④の点は、いずれも客観的な事実の記載にすぎず、著作物性は認められない。

この点について、原告らは、畑沢火山というのは単なる事実ではなく、仮説であり、塩沢礫岩層の堆積時期等についても同様である旨を主張する。しかし、仮に畑沢火山というのが仮説の産物であるとしても、右のような仮説が創作性のある形で表現され、それが被疑文書(五)において再製されているのであればともかく、「侵害」部分及び「被侵害」部分は、前記(一)の①ないし④という点で同一性を有しているにすぎず、これらの点は、やはり客観的事実の記載にとどまり、創作性のある表現ということはできないと評価するのが適当である。

(三) まとめ

よって、表5No1から5の部分の侵害を理由とする原告らの請求は、その余の点について触れるまでもなく理由がない。

八  共通争点についての判断

1  原告らの主張(データの無断借用と著作権違反)に対する判断

七までにおいて著作物性がないとして原告らの主張を排斥したものの中には、被告Y1又は発行者としての被告市の博物館長が、本訴の提起までの間に、自発的に訂正表を原告らに提案し、あるいは記者会見において、データの無断使用又はそのような事実があったことを認めるなどしたものが含まれている(甲A二九・四一・四九ないし五一・五三の一・五四)。

しかし、右の被告らの行為は、著作物性の有無について判断して著作物の無断使用を認めたというものではなく、著作物かどうかは別として、無断使用を認めたというものと解される。したがって、「侵害」部分と「被侵害」部分との同一性の有無及び「被侵害」部分の著作物性の有無の判断において、これらの点に重きを置くことはできない。右の事実は、被告Y1及び被告市がデータ借用の事実を認めたことの間接事実とは捉えられるが、そのようなデータが法によって保護されているか否かとは別個の問題である。被告Y1らにつき右自認に係るデータを無断で借用したことについて責められるべき点があるとしても、それは法(著作権法の趣旨である。)の問題ではなく、原告X1研やその構成員との間の明示・黙示の約定違反ないし一般的な不法行為の問題であるというべきである。

2  別件和解による免責性の有無(争点⑨)

(一) 七までのとおり、著作権侵害の有無について個別事情の争点を検討した限度では、表2No4、表2No8及び表4No1の各部分について、侵害が認められる。

そして、残る論点については、共通に検討することができるので、以下5までにおいて、この点を検討する。

(二) 被告ら(被告協議会を除く被告ら。2から5において、同様。)は、被疑文書(一)ないし(四)は、別件仮処分の申請当時に既に出版されていたものであり、①別件和解の「侵害」部分として指摘されたものと同一のもの(類型A)、②別件和解で「侵害」部分とされていないが同様の内容が別件被疑文書に掲載されているもの(類型B)があり、これらの文書は、別件和解の当時には存在していたのであるにもかかわらず別件和解で問題とされなかったのであるから、別件和解によって解決済みである旨を主張する。

証拠(甲A一ないし四・二七・六五)及び弁論の全趣旨によれば、別件仮処分の申請時には本件の被疑文書(一)ないし(四)は発行されており、これに問題があることは別件仮処分の債権者らも認識していたが、あえてこれらは問題とされなかった。しかし、別件和解の和解条項では、形式的には当時出版されていた本件の被疑文書(一)ないし(四)については全く触れられておらず、別件仮処分の債権者及び債務者との間での債権債務が一切存在しない旨の清算条項も置かれていない。

以上によれば、別件仮処分の債権者となっていなかった原告らとの間ではもちろんのこと、別件仮処分の債権者となっていた原告らとの間においても、別件和解によって本件の被疑文書(一)ないし(四)による著作権侵害の問題が解決済みであるとはいうことができず、被告らの右主張は理由がない。

3  権利濫用の有無(争点⑪)

(一) 被告らは、原告らが、他の著作物について同様の権利侵害を行っているから、原告らの本訴請求は、信義則違反・権利濫用に当たる旨を主張する。個別に判断するのが適当なものについては、既に判断したが、そうでないものについては、残る共通の論点として、この箇所で判断する。

被告らが挙げる原告らの引用の仕方の例の中には、本訴請求において原告らが権利侵害を主張するのと同様の内容のものが含まれている。しかし、証拠(甲A一三三及び甲A一四五。なお、甲A一三三の要請書の相手方であるHは、本件に関し、原告X1研と対立をしている当事者である(甲六五の一〇三頁)。)によれば、それらの中には、出版社の手落ちによると思われるものが含まれている。また、そもそも、その他のものについても、一般的に、権利の被侵害者が同様のことを行っており、あるいは他の著作者のものを利用しているという場合であっても、当該被侵害者の行為が余りに悪質であり、当該権利行使を認めることが正義・公平の観念に反するというような特段の事情がある場合でない限り、単に右の一事をもって、直ちに当該被侵害者の請求が認められないということはできない。そして、本件の被侵害者の行為には、そのような悪質なものは含まれてはいない。

よって、被告らの右主張は理由がない。

(二) 被告らは、本件の権利行使は、被告Y1に対する被告市の人事に不当に介入する目的で行われたものであり、正当な利益を欠くものであると主張する。

しかし、右主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

(三) 被告らは、本訴の提起が、被疑文書とされた書籍の頒布を受け、その内容を了知しながら長期間経てからされた不誠実なものであり、また別件和解の内容を知りながら提起された本件は、別件仮処分の債権者であった原告らとの関係では、信義則違反・権利濫用に当たると主張する。

しかし、証拠(甲A二六・二七・六五)及び弁論の全趣旨によれば、被告らによる被疑文書(一)から(四)の発行に前後して、被告Y1及び被告市が昭和五五年三月に「大磯丘陵の地質Ⅰ」を、昭和五九年七月に「神奈川の化石―ナウマン象」を発行したところ、原告らが、それらの文書に使用された調査データが原告X1研の共同調査の成果であるから、著作権違反であるとして、別件仮処分を提起し、これにつき、昭和六〇年別件和解が成立したこと、和解においては、右の別件被疑文書について和解条項が定められたところ、その後に右の別件被疑文書と実質的に変わらない本件の被疑文書を被告Y1が引用することがあり、その扱いをめぐる折衝の中で被告Y1が原告X1研による共同調査のデータにつき被告Y1自身が単独で著作権を有するとの意見を表明したため、そのことに懸念と不安を覚えた原告らが、本訴を提起したこと、以上の事実が認められる。したがって、本訴の提起は、形式的には別件和解条項の解釈の違いによるという性質をも有するが、実質的には、被告Y1の「大磯丘陵の地質Ⅰ」及び本件被疑文書(一)から(四)の文書に用いる調査データが原告X1研あるいは共同調査者に帰属するかを争点とするものであり、相当以前に解決済みの問題を不当な目的で持ち出したというものではないから、原告らの本訴提起が信義則違反・権利濫用に当たるとはいえない。

よって、被告らの右主張は理由がない。

4  消滅時効の成否(争点⑫)

本件全証拠によっても、被疑文書(一)ないし(四)の発行後間もなく、原告らの全員が、自らが著作権を有している部分についての権利侵害の事実を知っていたとの事実は認められない。しかし、原告らは、別件仮処分の申請当時に既に被疑文書(一)ないし(四)が公刊されていたこと及びその記載内容に問題のあることは知っており、普及書という性質を考え、敢えて問題にしなかったこと、原告X1研の構成員である原告X2らが被告Y1らに対し別件仮処分の申請を行い、その審理が行われていることは、新聞にも報道され、このことは折りに触れて原告X1研の会内に知らされていることを考えると、原告らのうち、別件仮処分の申請人となっている者はもちろん、それ以外の者についても、別件仮処分の申請時から数か月以内には、その著作権侵害の事実を知っていたと推認される(甲A四二・六五の九九頁以下、前記の事実及び弁論の全趣旨)。

したがって、本訴の提起時には、原告ら被害者が損害及び加害者を知った時から三年間が経過しており、被告らは、本件口頭弁論においてこれを援用したから、原告らの被疑文書(二)及び(四)に係る損害賠償請求権は、時効によって消滅し、理由がないものというべきである。

5  差止及び廃棄請求の許否

以上のように、原告ら主張に係る被疑文書(二)の表2No4及び表2No8並びに同(四)の表4No1は、原告らの著作権を侵害するが、各被疑部分のそれぞれがその書籍全体に占める割合はわずかな部分にすぎないから、当該書籍全体の差止め及び廃棄(以下「差止等」という。)請求を認めることは、被告らに過大な不利益を与えるものであって、正義・公平に反する結果となる。右の各被疑文書はそれぞれが独立してまとまっているのであるが、その「侵害」部分のみを区分して差止等を認めることも物理的には困難ではなく、全部差止等がされるよりも一部差止等の方が被告らにとっては利益であると解されるし、一部差止等を認めたとしても原告らの意思に反するものとは認められないし、民訴法二四六条に反するものでもない。

よって、原告らの差止等の請求は、著作権侵害が認められた部分のみについて認めるのが相当である。

九  結論

以上の次第であり、原告らの請求は、

1  被告Y1及び被告市に対し、

(一) 別紙1の被疑文書(二)について、表2No4及び表2No8の部分を記載したまま、印刷、製本、販売、頒布、複写及び謄写することの差止めを求める部分、

(二) 別紙1の被疑文書(二)を回収し、右(一)記載の部分の削除を求める部分、

2  被告Y1及び同県に対し、

(一) 別紙1の被疑文書(四)について、表4No1の部分を記載したまま、印刷、製本、販売、頒布、複写及び謄写をすることの差止めを求める部分、

(二) 別紙1の被疑文書(四)を回収し、右(一)記載の部分の削除を求める部分の限度で理由があるからこれらを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法六一条、六四条本文、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 窪木稔 裁判官弘中聡浩は、退官につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 岡光民雄)

<以下省略>

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