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横浜地方裁判所 平成6年(行ウ)7号 判決 1999年12月15日

原告

矢野長吉

右訴訟代理人弁護士

鈴木義仁

増本一彦

鈴木裕文

被告

大和税務署長 大嶋幸吉

右指定代理人

中垣内健治

木上律子

森口英昭

宇山聡

川口信太郎

江島勝信

古瀬英則

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  主意的請求

被告が原告に対し平成四年三月六日付けでした次の処分(ただし、昭和六三年分及び平成元年分については、裁決により一部取り消された後のもの。以下同様とする。)を取り消す。

1  原告の昭和六三年分の所得税の更正処分(以下「昭和六三年分本件更正処分」のようにいう。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「昭和六三年分本件賦課決定処分」のように、また、昭和六三年分本件更正処分と合わせて「昭和六三年分本件各処分」のようにいう。)

2  平成元年分本件各処分

3  平成二年分本件各処分

二  予備的請求(一)

被告が原告に対し平成四年三月六日付けでした次の処分のうちの次に掲げる部分を取り消す。

1  昭和六三年分本件更正処分のうち納付すべき本税額七万五八〇〇円を超える部分及びこれに係る同年分本件賦課決定処分の部分

2  平成元年分本件更正処分のうち納付すべき本税額三七万四八〇〇円を超える部分及びこれに係る同年分本件賦課決定処分の部分

3  平成二年分本件更正処分のうち納付すべき本税額五九万四八〇〇円を超える部分及びこれに係る同年分本件賦課決定処分の部分

三  予備的請求(二)

被告が原告に対し平成四年三月六日付けでした次の処分のうち次に掲げる部分を取り消す。

1  昭和六三年分本件更正処分のうち納付すべき本税額三五万一〇〇〇円を超える部分及びこれに係る同年分本件賦課決定処分の部分

2  平成元年分本件更正処分のうち納付すべき本税額一一七万六九〇〇円を超える部分及びこれに係る同年分本件賦課決定処分の部分

3  平成二年分本件更正処分のうち納付すべき本税額九一万二〇〇〇円を超える部分及びこれに係る同年分本件賦課決定処分の部分

四  予備的請求(三)

被告が原告に対し平成四年三月六日付けでした次の処分のうち次に掲げる部分を取り消す。

1  昭和六三年分本件更正処分のうち納付すべき本税額二五万六一〇〇円を超える部分及びこれに係る同年分本件賦課決定処分の部分

2  平成元年分本件更正処分のうち納付すべき本税額一〇七万円を超える部分及びこれに係る同年分本件賦課決定処分の部分

3  平成二年分本件更正処分のうち納付すべき本税額一〇七万二二〇〇円を超える部分及びこれに係る同年分本件賦課決定処分の部分

第二事実の概要等

一  事実の概要

本件は、日本そば店を個人で営む原告の所得税について、被告が推計に基づいてした本件各処分が違法であるとして、原告がその取消しを求めたものであり、主要な争点は、推計の必要性の有無、処分理由の差し替えの可否、推計の合理性の有無及び人件費控除の要否である。

二  基礎となる事実(証拠の掲記のない事実は当事者間に争いのない事実である。)

1  原告

原告は、肩書住所地の店舗において、「まるや」の屋号で日本そば店を営む個人事業者であり、青色申告の承認を受けていたものである(以下、「原告の右店舗」を「原告店舗」という。)

2  本件申告

原告は、昭和六三年分、平成眼本分及び平成二年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税につき、各申告期限内に次のとおり確定申告をした(以下「本件申告」という。)。

(一) 昭和六三年分

申告所得金額 〇円

申告納税額 〇円

(二) 平成元年分

申告所得金額 三八万五一三五円

申告納税額 〇円

(三) 平成二年分

申告所得金額 △一万三五四三円(甲三)

申告納税額 〇円

(△は損失額を表す。)

3  本件各処分

被告は、本件申告に対し、平成四年三月六日付けで、昭和六三年分以降の所得税の青色申告の承認を取り消す(以下「本件青色承認取消処分」という。)とともに、本件各係争年分の所得税につき次のとおりの更正及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件各処分)を行った。

(一) 昭和六三年分

更正決定所得金額 四九三万二七九六円

更正決定税額 四五万七四〇〇円

過少申告加算税額 四万〇〇〇〇円

(二) 平成元年分

更正決定所得金額 八七九万六九八四円

更正生決定税額 一四二万九八〇〇円

過少申告加算税額 一〇万八五〇〇円

(三) 平成二年分

更正決定所得金額 八四三万九八七〇円

更正決定税額 一三〇万六二〇〇円

過少申告加算税額 一三万七〇〇〇円

4  異議決定及び裁決

原告は平成四年四月二四日被告に対し異議を申し立て、被告は同年七月二二日付けでされを棄却する決定をした。原告は同年八月二一日国税不服審判所長に対し審査請求をし、国税不服審判所長は、平成五年一二月一五日付けで、昭和六三年分及び平成元年分の所得金額、所得税額及び過少申告加算税額を次のとおりとする本件各処分の一部取消しの裁決を行い、平成二年分本件各処分に対する審査請求を棄却する旨の裁決をした。

なお、被告は、異議審理及び国税不服審判所の審理において、水道料金から売上金額を推計し、これに特前所得率を乗じて算出した金額から、事業専従者控除等の金額を差し引いて、原告の事業所得を推計した。

(一) 昭和六三年分

所得金額 四八〇万〇四〇六円

所得税額 四三万一〇〇〇円

過少申告加算税額 三万七〇〇〇円

(二) 平成元年分

所得金額 八六一万九二八七円

所得税額 一三七万六七〇〇円

過少申告加算税額 一〇万一〇〇〇円

三  主要な争点及び当事者の主張

1  推計の必要性の有無について(争点1)

(一) 被告の主張

原告の所得税の調査に赴いた江成隆大蔵事務官(以下「江成係官」という。)が帳簿書類を提示するように要求したところ、原告の長男である矢野義明(以下「義明」という。)は、平成二年分の売上金額及び経費を記入したB五サイズのノート(以下「本件ノート」という。)並びにコンピューターで打ち出された帳簿(以下「本件アウトプット」という。)の各一冊を提示するのみで、これ以外の帳簿書類については「誤って捨ててしまった。」と申し立て、提示をしなかった。このように、原告は、その事業所得につき青色申告の承認を受けていたにもかかわらず、所得税法一四八条に規定する帳簿書類の備付けをしていなかったため、被告は、同法一五〇条の規定に基づき、原告の昭和六三年以降の青色申告の承認を取り消した(本件青色承認取消処分)。そして、原告から提示を受けた本件ノート及び本件アウトプットだけでは、本件各係争年分に係る原告の事業所得金額を実額で計算することができないので、同法一五六条の規定による推計の必要がある。

(二) 原告の主張

被告の右主張は争う。

2  処分理由の差し替えの可否について(争点2)

(一) 被告の主張

いわゆる白色申告者に対する課税処分の取消訴訟における審理の対象は、課税処分によって確定された税額が、総額において租税実体法によって客観的に定まっている範囲内であるか否かであるから、被告は、本訴において、処分理由を差し替えることができる。

(二) 原告の主張

被告が異議審理及び国税不服審判所の審理の際の推計方法と異なる推計方法を本訴において主張すること、すなわち処分理由の差し替えは認められない。

3  被告の推計(割粉(つなぎ粉)の仕入数量による推計)方法の合理性の有無及び原告の予備的請求(二)、(三)の当否について(争点3)

(一) 被告の主張

(1) 原告の所得金額、所得税額及び過少申告加算税額は、次のとおりであり、このうち原告の所得金額と所得税額は、別紙1のとおり、原告の割粉(そば粉のつなぎ用としてそば粉と混合して使用する小麦粉)の仕入数量を指標として、これに比準同業者の割粉一キログラム当たりの売上金額の平均値を乗じて売上金額を推計し、さらにその売上金額に比準同業者の平均経費率を適用して算出したものである。また、原告の右過少申告加算税額の計算根拠は、別紙3のとおりである。なお、これらの主張は、2(一)を前提に、本訴において行うものである。

イ 昭和六三年分

所得金額 五四七万三八七八円

所得税額 五六万五六〇〇円

過少申告加算税額 三万七〇〇〇円

ロ 平成元年分

所得金額 九四三万〇六二八円

所得税額 一六二万〇〇〇〇円

過少申告加算税額 一〇万一〇〇〇円

ハ 平成二年分

所得金額 九一九万九七七六円

所得税額 一五三万四二〇〇円

過少申告加算税額 一三万七〇〇〇円

(2) 推計に用いた比準同業者の抽出方法は、別紙1の二欄のとおりであるところ、いわゆる平均値による推計の場合には、比準同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は捨象されると考えてよいから、営業条件の差異が平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、推計の合理性は是認される。

なお、本件では、調査において原告の協力が得られなかったため、被告においてそば粉及び米(原告店舗で扱う御飯ものの量を示す指標となる。)の仕入数量等の把握はできず、正確に把握できた割粉の仕入数量を基礎として推計を行ったものである。原告は、業態の違いを指摘するが、その点は、本件のように多数の比準同業者によって求められた平均値に捨象されてしまうものである。割粉の仕入数量と売上金額との間には別紙1の1ないし3のとおりの相関関係が認められるから、右の推計方法は合理性がある。

(二) 原告の主張(原告の予備的請求(二)、(三)の根拠)

(1) 割粉の仕入数量と売上金額との間には相関関係がないので、前者から後者を推計することは合理性を欠く。なぜなら、一般に、日本そば店の売上げにおいて御飯ものの占める割合は少なくなく、また、日本そば店によってそば粉と割粉の調合の割合が異なるからである。殊に、そばが手打ちであるか機械打ちであるかによって、右調合割合は、かなり異なる。

なお、原告の協力が得られなかったことから割粉の仕入数量を推計の基礎としなければならなかったとの被告の主張は虚偽であり、そば粉又は米の仕入数量による推計も可能であった。

(2) 被告の比準同業者の選定には合理性がない。なぜなら、被告は御飯ものの売上げを考慮しておらず、中華類のメニューの有無や原告の営業形態の特殊性も考慮していない。また、一般に、日本そば店によって割粉とそば粉の調合の割合は異なるにもかかわらず、この点を考慮していない。

さらに、原告店舗は義明及びその妻である矢野洋子(以下「洋子」という。)を従業員として雇っている日本そば店であるところ、被告のした比準同業者の選定においては従業員の有無が考慮されていない。

仮に被告の推計方法を採用するとしても、別紙1の1ないし3の比準同業者を個別に比較検討すると、被告の選定した比準同業者の一部に、明らかに原告と業態を異にする割粉一キログラム当たりの売上金額が著しく高い業者が含まれているから、これらを除いて推計を行うべきである。具体的には、昭和六三年分については別紙1の1の比準同業者D及びHを、平成元年分については別紙1の2の比準同業者B、D及びEを、平成二年分については別紙1の3の比準同業者A、E及びFを、それぞれ除外して推計を行うべきであり、これによって推計を行った結果は、別紙6のとおりとする。すなわち原告の納付すべき本税額は、昭和六三年分が三五万一〇〇〇円、平成元年分が一一七万六九〇〇円、平成二年分が九一万二〇〇〇円となる。これが、原告の予備的請求(二)の根拠である。

(3) 原告店舗は一般の日本そば店に比べて次のような特徴があるから、被告の推計には合理性がない。

イ 原告店舗のメニューは他店と比較して安い。

ロ 原告店舗は御飯ものとそばのセットメニューを主力しており、これらのメニューは単価も高い。

ハ 原告店舗のそばは、割粉の割合が高く、また一人前の量を多い。なお、一般的に、手打ちそば屋よりも機械打ちのそば屋の方が調合に用いる割粉の割合は高いが、この点について、江成係官は、原告店舗が手打ちそば屋であると誤解した上、そば粉の調合の割合についても誤って認定した。

(4) 平均経費率を用いた被告の推計方法には合理性がなく、特前所得率により推計すべきである。

すなわち、被告は、売上金額について異議審理及び国税不服審判所の審理において用いていた水道料金による推計方法を割粉の仕入数量による推計方法に本訴で変更したことに伴い、売上原価等を求める際に右売上金額に乗ずるべきものにつき、特前所得率によっては原処分を維持できないため、いろいろな計算結果の中から原処分を上回る数字となる平均経費率による推計方法を選んで主張したものであり、合理性がない。

被告主張の別紙1の推計方法のうち、平均経費率だけを特前所得率に置き換えて推計を行った結果は、別紙7のとおりであり、原告の納付すべき本税額は、昭和六三年分が二五万六一〇〇円、平成元年分が一〇七万円、平成二年分が一〇七万二二〇〇円となる。これが原告の予備的請求(三)の根拠である。

4  本人率による推計(原告の主位的請求)の当否について(争点4)

(一) 原告の主張(原告の主位的請求の根拠)

他に採り得る合理的推計方法がある場合には、その推計方法を採るべきである。本件では、原告の他の年度における割粉一キログラム当たりの営業売上げ及び経費率による推計(本人率による推計)方法の方が、原告の業者、業態、事業所の変更等がない限り、本件各係争年分と差異がなく、また、原告という同一の特定の業者についての比率だけを問題にするため、より具体的に検討することができ、合理的である。

本人率によって推計を行った結果は別紙4のとおりであり、原告の納付すべき本税額は、本件各係争年分のいずれの年についても、零円となる(原告の主位的請求)。

(二) 被告の主張

(1) 推計方法の優劣を争う主張は、主張自体失当である。

すなわち、推計課税は、実体法上、実額課税とは別に課税庁に所得の算定を許すことを認めたものであって、真実の所得を事実上の推計によって認定するものではないから、その推計の結果は実額近似値で足り、その推計方法も、真実の所得を算出し得る最も合理的なものである必要はなく、実額近似値を求め得る程度の一応の合理性を有するものであれば足りると解すべきである。

(2) 原告が本人率算出の根拠として提出した平成四年分ないし六年分の帳簿書類等は信ぴょう性がなく、したがって、本人率により本件各係争年分の売上金額等を推計することがより合理的であるとの原告の主張は、その前提を欠くものである。

5  人件費控除の要否(原告の予備的請求(一))について(争点5)

(一) 被告の主張

義明・洋子夫妻は、本件各係争年分当時公共料金等を支払っておらず、また、同人らが居住していた建物は、原告が居住する建物と同一の敷地内にある原告所有の店舗(原告店舗)併用住宅であること等から、原告と義明・洋子夫妻は、原告と「生計を一にする配偶者その他の親族」(所得税法五六条、五七条)に当たる。

(二) 原告の主張(原告の予備的請求(一)の根拠)

原告は義明・洋子夫妻に対する給与の支払を青色専従者給与として申告したが、義明・洋子夫妻は、原告と別の家計により生活しており、原告と「生計を一にする配偶者その他の親族」に当たらないから、右給与の金額は、人件費として必要経費に計上すべきものである。したがって、被告の推計課税に合理性があるとしても、右給与の金額は、被告の推計による事業所得(別紙1のもの)の金額からさらに差し引かれるべきである。具体的な計算の結果は別紙5のとおりであり、納付すべき所得税の額は、昭和六三年分が七万五八〇〇円、平成元年分が三七万四八〇〇円、平成二年分が五九万四八〇〇円となる。これが原告の予備的請求(一)の根拠である。

6  本件更生処分の適否について(争点6)

(一) 被告の主張

原告の本件各係争年分の納付すべき所得税の額は、前記三(一)及び別紙1のとおり、昭和六三年分が五六万五六〇〇円、平成元年分が一六二万円、平成二年分が一五三万四二〇〇円であるところ、本件更正処分に係る原告の納付すべき所得税の額は、前記二4、二3(三)及び別紙2の「裁決後の納付すべき税額」欄のとおり、それぞれ、昭和六三年分四三万一〇〇〇円、平成元年分一三七万六七〇〇円、平成二年分一三〇万六二〇〇円であり、いずれも被告が本訴で主張する金額の範囲内であるから、本件各更正処分は適法である。

(二) 原告の主張

被告の右主張は争う。

第三当裁判所の判断

一  推計の必要性の有無(争点1)

1  問題の所在

所得税法は青色申告の承認を受けた者について推計による課税を認めていないが(一五六条)、同法一四八条一項は「第一四三条(青色申告)の承認を受けている居住者は、大蔵省令で定めるところにより、同条に規定する業務につき帳簿書類を備えつけてこれに不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額に係る取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存しなければならない。」と、同法一五〇条一項は「第一四三条(青色申告)の承認を受けた居住者につき次の各号の一に該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に掲げる年までさかのぼって、その承認を取り消すことができる。(中略)

一  その年における第一四三条に規定する業務に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が第一四八条第一項(青色申告者の帳簿書類)に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないこと。(後略)」とそれぞれ定め、帳簿書類の備付け、記録及び保存の義務が履行されていない等の場合、所轄の税務署長は、青色申告の承認を取り消し得ることを定めている。したがって、本件における被告の推計課税の適否の前提として、本件青色承認取消処分が適法にされていなければならない。

また、推計課税は、信頼できる資料が存在せず又は納税者の協力が得られないなどの理由により、課税庁が納税義務者の課税標準を正確に把握することができず、そのため実額による課税ができない場合に、税負担の公平の観点から、実額課税の補充的な手段として、合理的な推計の方法で課税標準を算定することを課税庁に許容したものであるから、右のようにやむを得ない事情が存しない限り推計課税をすることは許されず、その意味で推計の必要性が存することが推計課税の適法性の要件であり、このような推計課税の必要性については、課税庁である被告が主張立証すべきである。

そこで、本件青色承認取消処分が適法にされたか、及び推計の必要性が認められるかについて判断するため、本件各処分に至る経緯について検討することとする。

2 本件各処分に至る経緯

前記基礎となる事実、証拠(甲一六〇ないし一六二、、乙一四、二〇、証人江成隆、同矢野義明、同矢野洋子)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(なお、各認定事実の主な根拠となった証拠を当該事実に対応させて記載する。)。

(一)  原告の申告の内容と調査の必要性

大和税務署の谷内修一統括国税調査官(以下「谷内統括官」という。)は、原告の提出に係る確定申告書における連年納付すべき所得税額が零円であったこと等から、部下であった江成係官(当時は個人課税四部門所属の大蔵事務官であった。)に対し、原告の所得税の調査を行うよう指示をした。(乙一四、証人江成隆)

(二)  平成三年一〇月二三日の臨場

江成係官は、標記の日の午後二時三〇分ころ、原告店舗に臨場したが、店は休みで原告が不在であったので、所得税の調査で同月三一日午後二時ころに再臨場する旨を記載した不在票を店舗の入口(勝手口)に差し置いて帰署した。右の臨場に際し、江成係官は事前の連絡をしなかったが、それは、原告がいわゆる現金商売であったことから、ありのままの実情を把握するため、そのようにせよとの谷内統括官の指示によるものであった。(乙一四、証人江成隆)

(三)  平成三年一〇月三一日の臨場

(1) 江成係官は、標記の午後二時ころ原告店舗に再臨場したところ、義明の妻である洋子が応対し、原告及び義明は不在であり、自分では事業内容も分からないので帰ってくださいと述べた。(争いがない。)

江成係官は、洋子に、調査日時を同年一一月八日午後二時と記載した不在票を手渡して辞去した。(乙一四、証人江成隆)

(2) 標記の日の午後四時ころ、江成係官は、電話での会話で義明に調査日時を再確認し、調査日時を同年一一月一九日午後二時とする旨約束した。(争いがない。)

(四)  平成三年一一月一九日の臨場

(1) 江成係官は、標記の午後二時ころ原告店舗に臨場したところ、同所には義明にほかに、大和民主商工会の西村事務局員が待機していた。(争いがない。)

(2) 江成係官は、義明に対し、原告の所在を尋ねた。義明は、事業の内容や帳簿書類については自分に聞いてもらえば全部分かる旨回答した。そこで、江成係官は、義明を相手に調査を進めることとなった。(争いがない。)

(3) 江成係官は、義明に対し、本件各係争年分の所得税の調査のために臨場した旨を告げて帳簿書類の提示を求め、西村事務局員の退席を求めた。(争いがない。)

この際、義明は、自分が西村事務局員の同席を良いと言っているのであるから良いではないかと述べた。これに対し、江成係官は、調査に関係のない者を立ち会わせると、税務署員に課せられた守秘義務を守れないおそれがあると説明した。結局、西村事務局員は、江成係官が臨場した約二〇分後に退席した。そして、義明は、平成二年分の売上金額及び経費を記入したB5サイズのノート(本件ノート)並びにコンピューターで打ち出された帳簿(本件アウトプット)を各一冊提示した。また、義明は、その他の帳簿書類は、間違ってすべて捨ててしまった旨述べた。(甲一六〇、乙一四、証人江成隆、同矢野義明。一部争いがない。)

(4) 本件ノートには、平成二年分の売上金額、仕入金額及び仕入れ以外のその他の経費が項目ごとに記載されていた。しかし、本件ノートには残金残高の記載がなく、義明からは本件各係争年分の売上伝票や経費に係る領収書は提示されなかった(この一文に関する事実は争いがない。)。また、本件ノートには、仕入先などが記載されているわけでもなかったので、江成係官は、経費、仕入れの関係、支払の関係については把握することができなかった。なお、本件アウトプットは、臨場した江成係官には、本件ノートに記載された内容をまとめて入力したものであるように見えた(実際にも、本件ノートに記載された内容を、大和民主商工会がまとめて入力して作成したものであった。)。(乙一四、証人江成隆、同矢野義明、同矢野洋子)

(5) 江成係官は、原告店舗の事業概要について義明に質問をした。(争いがない。)

義明は、売上げは店売りが主力であり出前はほとんどなく、出前帳はつけていないこと。売上金額は、店売りについては売上伝票で、出前についてはメモ書きで、それぞれ管理していること、取引銀行は相模原信用組合大和支店であること、そば粉の仕入れは神奈川農産工業株式会社(以下「神奈川農産」という。)であること、米の仕入先は有限会社翆ケ丘米店」という。)であること、酒類は置いていないこと等を説明した。また、義明は、原告店舗のそばについて、そば粉と割粉の調合割合が六対四であること、そばは自分が打っていると説明したことから、江成係官は、原告店舗が手打ちそば屋であると考えた。(甲一六〇、乙一四、証人江成隆、同矢野義明)

なお、割粉とは、そば粉に粘性を与えるために加える小麦粉をいう。この目的では一般に小麦粉が用いられるが、このほかに玉子や大和芋もよく使われ、これらを「つなぎ」という。日本そばを作る際のそば粉と割粉の調合割合は様々であり、つなぎを加えずそば粉のみで打ったそばを「生粉(きこ)打ち」のそば、そば粉と割粉を八対二の割合で打ったそばを「二八そば」、一定量のそば粉にその一割の割粉を加えるそばを「外(と)一」のそば、割粉を二割りとするそばを「外二」のそばという。(甲一六八。一部争いがない。)

(6) 江成係官は、義明に対し、預金通帳の提示を求めたが、義明は、(預金通帳など関係ないだろう、俺をあんまり怒らせるな。」と興奮気味に答えるような状況であった。また、江成係官が直近の帳簿や売上伝票の提示を求めたところ、義明は、「今年の分だから関係ない。」と強い口調で主張しこれに応じなかった。(乙一四、証人江成隆)

江成係官は、義明に対し、税務署で独自の調査の方法により調査を進めざるを得ないことを告げた。(争いがない。)

(五)  取引先に対する調査

江成係官は、平成三年一一月二〇日付けで、原告のそば粉の仕入先である神奈川農産に対し、照会文書による反面調査を実施し、同月二七日付けで文書による回答を得た。江成係官が義明の説明を理解したところによれば、割粉の仕入数量よりもそば粉の仕入数量が多いはずである(そば粉六に割粉四)のに、右の反面調査では逆の結果となっており、江成係官としては、そば粉は神奈川農産以外にも仕入先があると推測したが、神奈川農産以外の仕入先は把握できなかった。また、江成係官は、米について、翠ケ丘米店に電話及び文書で照会を行った。(乙一四、二〇、証人江成隆)

(六)  平成三年一二月三日の架電及び同月一一日の臨場

江成係官は、平成三年一二月三日、義明に架電し、調査結果が出たら連絡する旨を告げ、同月一一日、原告店舗に臨場した。しかし、義明は、入院している母親のところに行かなければならず、時間が取れない旨を述べたため、江成係官は調査を進めることができなかった。(争いがない。)

(七)  平成四年一月一七日の臨場

江成係官は、標記の日の午後二時一〇分ころ、原告店舗に臨場し、義明に対し、平成三年一一月一九日の調査の際に提示を受けなかった書類の提示を再度求めたが、義明は、前回同様廃棄した旨を申し立て、帳簿書類を提示しなかった。(争いがない。)

また、江成係官は、この日には、ガスの仕入先について義明に尋ねたところ、義明は下鶴間の高下プロパンから仕入れている旨を回答した。(証人江成隆)

江成係官は、義明に対し、このような帳簿の保存状況では、原告に対する青色申告の証人の取消処分を行うことになると述べ、売上金額を含めて原告の事業所得の金額を推計せざるを得ないと告げた。(乙一四、証人江成隆)

江成係官は、午後三時一〇分ころ原告店舗を辞去した。(争いがない。)

(八)  平成四年三月三日の臨場

江成係官は、標記の日に、原告店舗に臨場し、義明に対し、青色申告の証人は取り消さざるを得ない旨、反面調査によって推計した本件各係争年分の所得金額と納付すべき本税額及び修正申告の意思があれば明日までに連絡してほしい旨を告げ、原告店舗を辞去した。(争いがない。)

なお、右の税額を告げられた際、義明は激怒した。(乙一四、証人江成隆)

(九)  平成四年三月四日の架電

義明は、標記の日、江成係官に架電した。(争いがない。)

架電の内容は、税金が高すぎる、青色申告の承認の取消しはしないでもらいたいということであった。これに対し、江成係官は、税金が高いというだけでは調査の結果を変更することはできない旨回答した。義明は、それでは修正申告に応じることはできない旨を申し立て、修正申告の勧めに応じようとはしなかった。(乙一四、証人江成隆)

以上のとおり認められ、これに反する証人矢野義明の証言は、証人江成隆の証言と比較すれば信用性を欠き採用することができない。とりわけ、義明は、江成係官の平成三年一一月一九日の臨場に当たって、原告店舗のそば粉と割粉の調合割合は四対六と説明した旨証言する(甲一六〇、証人矢野義明)。しかし、江成係官としては、義明がそば粉が六、割粉が四と説明したとことさらに偽証する動機に乏しい反面、義明としては、本訴における被告の推計方法が割粉の仕入数量を基礎とするものであるから、割粉の調合割合を多く認定してもらった方が、推計に係る所得税額が減少するという利害状況にあると考えていると思われるので、割粉の割合を織る述べる動機はある。また、当法廷で、義明はさらに調合割合に関する証言を変え、これをそば粉が四・五、割粉が五・五であったと証言する。このような点から見て、義明の証言は信用することができない。

3 本件青色承認取消処分の適否(推計の可否)と推計の必要性

右2のとおり、義明は、江成係官による調査の際に、平成二年分の売上金額、仕入数量及び仕入以外のその他の経費について項目ごとに記載がされ、残金残高の記載のない本件ノートと、本件ノートに記載された内容をまとめて入力した本件アウトプットを提示すののみであり、その他の書類は廃棄したと申し立て、本件各係争年分の売上伝票や経費に係る領収書を提示せず、江成係官が、預金通帳並びに直近の帳簿及び売上伝票の提示を求めてもこれに応じなかった。これらの事実によれば、原告が、所得税法一四八条一項の規定する帳簿書類の保存を怠っていたことは明らかであるから、原告の青色申告の承認を取り消した被告の処分(本件青色証人取消処分)は適法である。

そして、右の事実によれば、被告としては、信頼できる資料が存在しないことから、そのままでは実額による課税をすることができないのであり、推計の必要性が認められる。

二  処分理由の差し替えの可否(争点2)

原告は、被告が本訴前におけるのと異なる推計方法を本訴で主張することは許されない旨を主張する。

しかし、いわゆる白色申告者の課税処分取消訴訟においては、違法事由のすべてが不可分一体として審理判断の対象となり、個々の違法事由ごとに訴訟物が構成されるものではない。また、行政事件訴訟法は、右取消訴訟における被告である課税庁の主張の制限に関し、特段の規定を置いているわけでもない。したがって、右取消訴訟において、被告である課税庁は、原則として、取消しをもとめられた課税処分の適法性を基礎付けるため、訴訟物の範囲内で、客観的に存在した一切の事実上及び法律上の主張をすることができると解される。そして、右のいわゆる白色申告者の課税処分取消訴訟における審理の対象は、課税処分ちよって確定された税額が、総額において租税実体法によって客観的に定まっている範囲内であるか否かであると解される(いわゆる総額主義)から、課税庁は、訴訟の段階においても、処分時に現実に用いた処分理由に拘束されるわけではなく、口頭弁論の終結に至るまで、処分後の調査等により新たに発見した事実を追加したり、従前主張した処分理由を差し替えて主張することも許されるというべきである。

したがって、本件青色証人取消処分が有効に存続する本件において、被告は、本件の異議決定及び裁決の段階と異なる理由を本訴において主張することも許されるのであり、冒頭の原告の主張は理由がない。

三  被告の推計(割粉の仕入数量による推計)方法の合理性の有無及び原告の予備的請求(二)、(三)の当否(争点3)

1  被告の推計方法

(一) 比準同業者の抽出経緯

証拠(乙一、二の一ないし三、証人中重孝一)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

東京国税局訟務官室の担当者から、本訴の提起直後である平成六年四月ころ、被告所部の八坂晴雄統括官に対し、大和税務署管内(大和市、座間市、海老名市及び綾瀬市)の日本そば店について、店舗の状況、従業員の数、そば粉及び割粉等の仕入数量並びに仕入金額、電気、水道及びガスの使用料金等について照会をするよう指示があり、中重孝一係官(以下「中重係官」という。)は、八坂晴雄統括官の指示を受けて、右の照会(以下「事前照会」という。)を行った。また、東京国税局長は、平成六年六月九日、被告に対し、本件各係争年分において、大和市内に所得税の納税地及び事業所を有する個人事業者で、次の(1)から(6)の条件のすべてを満たす者を比準同業者として抽出し、「個人日本そば店業者の課税事業報告書」を作成し、報告するよう通達を発出した。

(1) 日本そば店を営む事業所得者

(2) 所得税の申告を青色申告によっている者のうち青色事業専従者がいる者

(3) 本件各係争年分において、割粉の仕入数量が、原告のそれの二分の一以上二倍以下の範囲内にある者

(4) 年を通じて(1)の事業を継続している者

(5) 次のイ及びロのいずれにも該当しない者

イ 災害等により経営状態が異常であると認められる者

ロ 更生又は決定処分がされている者のうち、次の(イ)又は(ロ)に該当するもの

(イ) 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していないもの

(ロ) 当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起されて現在審理中であるもの

(6) 右(1)、(2)、(4)及び(5)の該当者すべてについて照会・回答書により個別に照会し、それに対する回答書から捕捉した割粉の仕入数量が(3)の範囲内にある者

中重係官は、前記の事前照会の結果を活用して、比準同業者の抽出作業を開始し、当初、青色申告決算書の業種欄が空欄の者、日本そばと記載のない者について照会をしていなかったため、これらについて追加照会を行い、若干の比準同業者を追加して、その結果を、別紙1の1ないし3のとおりまとめた。なお、中重係官は、前記基準の(1)については税務署備付けの業種別名簿で「うどんそば店」と分類管理されている店の中から、青色申告決算書の業種及び調査記録によって明らかにうどん専門店と認められるもの以外を抽出し、基準の(2)については業種別名簿と青色申告者の決算書により抽出し、基準の(4)及び(5)イについては青色申告決算書により抽出し、基準の(5)ロについては不服申立等整理簿により抽出を行った。その上で、照会・回答書によって、基準(3)に当たる者を抽出した。

以上の事実が認められる。なお、基準(6)は、基準(3)に基づく抽出の作業手順を示したものと思われる(被告の本訴における主張である別紙1の一一頁参照。)。

そして、被告は、別紙1の1ないし3の比準同業者の割粉一キログラム当たりの売上金額の平均値を、原告の割粉の仕入数量に乗じることによって原告の売上金額を推計し、その売上金額に比準同業者の平均経費率を適用することによって原告の所得金額を推計し、本訴では、右推計をもって原告の所得金額であると主張している(第二、三3(一)(1))。

(二) 比準同業者の抽出基準の合理性の有無

まず、右の比準同業者の抽出の基準を見ると、被告は、青色申告者で年を通じて同種事業を継続し、かつ、申告内容の確定している者を抽出しているから、推計の基礎となる資料の正確性は担保されている。また、原告店舗は、様々な品目を扱っているとはいえ、日本そば店であるから、右の比準同業者は、原告と業種及び業態は同一であると認められる。さらに、被告は、青色事業専従者のいる個人事業者で、割粉の仕入数量が原告のそれの二分の一以上二倍以下の者を比準同業者として抽出しているから、事業規模の近似性も満たしている。そして、大和市内で営業している者を抽出しているから、事業所の近接性も認められる。その上で、災害等により経営状態が異常であると認められる者は除外されている。よって、右のような基準は、比準同業者を抽出する基準として合理性を有すると解される。

原告は、被告が照会・回答書(乙一の別紙2)において最終的な抽出基準として使用していない項目も調査の項目に入れており、このことは多数の選択肢の中から、本件の処分を維持できるような抽出基準を立てたことを推測させ、抽出基準は恣意的なものであると主張する。しかし、まず、右は推測にすぎず、その旨の事実を認めるに足りる的確な証拠があるわけではない。のみならず、抽出基準の合理性の有無は、現実に抽出基準として用いられた項目により判断すれば足りる。また、抽出基準としての項目の取り上げ方により合理性の著しく劣る結果を生じさせているとの主張立証はない。したがって、原告の右主張は採用できない。

(三) 比準同業者の抽出過程の合理性の有無

証拠(証人中重孝一)によれば、中重係官は、右抽出基準に該当するすべての者を抽出したとの事実が認められ、右の抽出の過程に課税庁である被告の思惑や恣意が介在する余地があったとの事実は認められない。

よって、比準同業者の抽出過程においても、被告の推計は合理性を有すると解する。

(四) 割粉の仕入数量から推計を行うことの合理性の有無

原告は日本そば店であり、被告が日本そばの売上げを基礎に原告店舗の売上げを推計しようとしたことは十分合理性を有する。原告の主張するように、御飯ものの指標となる米を推計の基礎としなかったからといって、被告のした右推計がそれだけで合理性を欠くものではない。

また、日本そばの製造においては、職人ごとにそば粉と割粉の調合の割合が少なからず異なるとは前記一2(四)(5)のとおりであ。そして、被告による抽出の結果(別紙1の1ないし3)を見ても、例えば別紙1の1のCとHでは、同じ割粉の仕入数量でも、全体の売上金額に約三二七万円もの差異が出るなど、割粉の仕入数量と売上金額とは必ずしも完全には比例していない。

しかし、割粉の仕入数量と売上金額には別紙1の1ないし3のとおり、完全な比例関係まではないとしても、ある程度の相関関係があることが認められる。したがって、被告か割粉の仕入数量を推計の基礎として選択したことは、十分合理性を有すると解される。

2  原告の主張についての判断(一) 割粉の仕入数量からの推計の適否

(一) そば粉と割粉の調合の割合を考慮しないことの適否

原告は、そば粉と割粉の調合の割合も考慮しなければ推計には合理性がないと主張する(第二、三3(二)(1)及び(3)ハ)。

確かに、証拠(甲一六八、証人矢野義明)によれば、職人ごとにそば粉と割粉の調合の割合は少なからず異なっており、それによりそばの味も異なってくることが認められる。このことからすると、そば粉と割粉の調合の割合を考慮して推計ないし比準同業者の選定を行えば、より正確な推計ができるといえる。しかし、そば粉と割粉の調合の割合は、各日本そば店のいわばノウハウに属するものであり、被告において原告店舗のそれを客観的かつ正確に把握し得たわけではない。ちなみに、義明は、当法廷において、原告店舗におけるそば粉と割粉の混合は目分量で行っており確実なものでない旨、原告店舗における調合の割合につき、そば粉が四・五、割粉が五・五である旨証言する一方で、江成係官に対しては、本件の調査当時に、そば粉が六、割粉が四と説明している(証人江成隆)。このように、原告店舗のそば粉と割粉の調合の割合が判明しない以上、被告としては、推計の基礎とすべき数値(原告の調合割合)も把握していないのであり、右の方法による推計をすることはできない。

(二) そば粉、米の仕入数量からの推計の可否

(1) 米による推計の可否

原告店舗は日本そば店であるから、原告店舗の売上げにつき、割粉の仕入数量を基礎とする方法に代えて、御飯ものの指標である米を用いて売上金額を推計することは、合理性に相当の問題がある。もっとも、日本そば店の看板を掲げる店舗で御飯ものを扱うのはよく見られるところであり、一般論とすればそのような店舗の売上げについては、そばと御飯ものとを分けて売上金額を検討する方がより精度が高くなるとはいえよう。しかし、そもそも被告にとって原告店舗の御飯ものの指標としての原告の米の仕入数量・額は把握できていない。加えて、比準同業者に対して、そばの売上げと御飯ものの売上げ及びそば粉、割粉及び米の仕入数量とを仕訳して売上げを算出させて同業者率を求めることは、実際もっだいとしては困難を伴うものと考えられる。したがって、被告が米を推計の基礎としなかったことが、被告の推計を不合理とするものではない。

(2) そば粉による推計の可否

原告は、本件において、そば粉の仕入数量による推計も可能であったと主張する(第二、三3(二)(1))。

確かに、割粉を使用しなきても日本そばを製造することはできる反面、そば粉を使用しないで日本そばを製造することは通常はできないことからすれば、日本そば店における売上金額を推計するに当たっては、割粉でなく、そば粉を推計の基礎とすることが、より合理性が高いといえる。

しかし、証拠(乙一四、一六)によれば、江成係官は、本件の調査で義明がそば粉等の仕入先を神奈川農産であると述べたものの、神奈川農産に対する調査の結果、原告の仕入先は他にも存在すると判断したこと、しかし、原告からの調査協力が得られなかったため、神奈川農産以外の仕入先を把握することができず、本訴の提起後になって、富澤商店を仕入先として把握したこと、そして、その調査の結果、富澤商店は原告に対して現金売りをしており、納品書控え及び領収書は廃棄し、保存していないことが判明したこと、そこで、被告は、原告の本件各係争年分に係るそば粉の仕入数量等を正確に把握することができなかったことが認められる。

これに対し、原告は、「江成係官は義明に他の仕入先について尋ねることすらせず、そのため義明は江成係官に富澤商店のことを告げなかったのであり、また、割粉の卸業者は全国でも数十社しかなく、大和市近隣では五、六社しかないのであるから、文書照会等で原告の取引の有無は簡単に分かるはずであるし、現に被告は本訴の提起後短期間でこれを把握している。」と主張する。確かに、現在の時点から振り返って江成係官の調査方法について問題点を指摘することは容易であろうが、本件の調査の当時における江成係官の立場に立って前記認定に係る江成係官の調査の経緯を見るかぎり、そば粉の仕入先に関する江成係官の調査方法には、問題を見いだすことはできない。

よって、本件において被告がそば粉による推計を行うことはできなかったし、また現時点でも資料がないためにできないのであり、被告がそば粉によって推計をしないことが不合理であるとの原告の主張は理由がない。

3  原告の主張についての判断(二)-比準同業者の抽出の合理性の有無

(一) 営業形態の特殊性の考慮の程度(一)

原告は、被告が、御飯ものの売上げの多募、中華類のメニューの有無、原告の営業形態の特殊性、従業員の有無等、原告のその他の営業条件を考慮せずに比準同業者を選定した点で、比準同業者の抽出に合理性がないと主張する(第二、三3(二)(2))。

確かに、原告の個々の営業形態の特殊性を細かく認定してそれに沿って比準同業者を選定すれば、原告の営業形態に近い比準同業者を抽出することになるといえよう。しかし、本件においては、被告の基準により抽出された比準同業者数はある程度の数となっており、その平均値としての数値が算出されている以上、個別的差異は、平均値の中に包摂されているといってよい。また、比準同業者の抽出基準を厳格にすると、抽出される比準同業者の総数が減少し、抽出条件にない当該比準同業者の特殊性に推計の結果が大きく左右されることになるから、抽出条件を限定することが必ずしも適切な推計を可能とするとは限らない。

よって、原告の右主張は理由がない。

(二) 原告の営業形態の特殊性の考慮の程度(二)

なお、原告は、原告の営業形態の特殊性として次のような事情を述べ、このような事情は、もはや「平均値」による推計では捨象できないと主張する。すなわち、原告によれば、本件では、原告がアパートの家賃収入を基本に生計を立て、日本そば店の経営からの収入を期待しておらず、現に日本そば店からの収入は原告の手に入っていなかったとの特殊性があるという。

しかし、仮に日本そば店の経営による収入がないというのであれば、その旨を正確に主張立証すれば足りるところ、そのようなことはされていないので、右の主張の信用性自体疑わしい。また、右のような事情も原告の主観面における主張であり、これが「平均値」による推計では捨象できないとする根拠に乏しい。

よって、いずれにしろ原告の右主張は理由がない。

(三) 一定の比準同業者を除外することの要否(原告の予備的請求(二)の当否)

原告は、一定の比準同業者は原告と明らかに業態を異にするから、これらの比準同業者は推計から除外すべきであると主張し、これを予備的請求(二)の根拠とする(第二、三3(二)(2))。

しかし、平均値による推計の場合は、通常程度の営業条件の際は、平均値を求める過程で捨象されるから、例えば、原告には右平均値に吸収され得ないような、他の比準同業者の平均より格段に営業状態が悪くなるといったような営業条件の劣悪性(特殊事情)があるということを、原告において積極的・具体的に主張立証しない限り、被告の主張する推計の合理性を覆すことはできないものと解される。

本件において原告は、割粉一キログラム当たりの売上金額が、他の比準同業者と比較して突出している業者については、これを推計の基礎から除外すべきであるという。しかし、比準同業者の割粉一キログラム当たりの平均売上金額は、昭和六三年分が三万六八七六円、平成元年分が四万〇二九二円、平成二年分が四万二七七八円であり、比準同業者における右平均売上金額の上限と下限の開差は、昭和六三年で上限五万四四〇二円、下限二万六二九二円で約二・〇七倍、平成元年で上限六万〇二四六円、下限二万八八四八円で約二・〇九倍、平成二年で上限七万二四三七円、下限二万九九八三円で約二・四二倍にすぎず、一般に比準同業者の事業規模の近似性の判断基準として、いわゆる倍半基準(下限と上限の幅は四倍となる。)が合理性を有すると解されていることをも斟酌すると、この程度の開差では、なお、比準同業者の一部に、比準同業者から排除すべき原告と業態を著しく異にする者が含まれているとまではいうことができない。

よって、原告の右主張及び原告の予備的請求(二)は理由がない。

4  原告の主張についての判断(三) 原告店舗の特徴に対する考慮の有無

(一) 一般論

原告は、原告店舗のメニュー構成・価格・そば粉と割粉の調合の割合及び一人前の量を考慮しない被告の推計には合理性がないと主張する(第二、三3(二)(3))。

しかし、メニュー構成・価格などにおいて、比準同業者の中に様々な業態の店舗が含まれていることが推測されるものの、前記のとおり、平均値による推計の場合は、通常程度の営業条件の差異は、平均値を求める過程で捨象されるから、そのような営業条件の差異が平均値による推計自体を全く不合理ならしめるほど顕著でない限り、当該推計方法は合理性を有すると解される。

本件においてこれを見ると、証拠(甲一三〇ないし一五七、一六五、一六六)によれば、原告店舗のメニューが、他の日本そば店に比して格段に安価であるというわけではない。また、原告のメニューの中にいわゆる御飯ものが含まれていることは確かであるか、他の店舗においても同様に御飯ものは含まれている。このように原告が主張する原告店舗のメニュー構成・安価といった事情は、比準同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異にほかならないのであって、被告の推計を不合理ならしめるほど顕著な特色とはいえない。さらに、一人前の量については、客観的な了承がされているものでもない。

よって、原告の主張は理由がない。

(二) 割粉の割合の大きさの考慮の有無

原告は、義明が、江成係官に対し、原告店舗は機械打ちのそば屋であり、そば粉と割粉の調合の割合は、そば粉が四、割粉が六と説明したにもかかわらず、被告は原告店舗が手打ちそば屋であり、そば粉と割粉の調合の割合を、そば粉が六、割粉が四と誤って認定したと主張する(第二、三3(二)(3)ハ)。

しかし、被告は、手打ちそば屋か機械打ちのそば屋か、そば粉と割粉の調合の割合がいくらであるかという区別をすることなく、日本そば店か否かという点のみで抽出基準を設定していることは前示のとおりであり、右の調合割合が現実にどの程度であるかにより、原告の納付すべき本税額に影響するということもない。

よって、原告の主張は理由がない。

5  原告の主張についての判断(四)-平均経費率を用いることの適否(原告の予備的請求(三)の当否)

原告は、被告が異議決定及び裁決において採用した特前所得率による推計を、本訴に至って平均経費率による推計に変更したのは、特前所得率による推計では処分の適法性を維持できないことが明らかになったことから恣意的にこれを変更したものであると主張し、これを予備的請求(三)の根拠とする(第二、三3(二)(4))。

しかし、まず被告が恣意的に推計方法を変更したとの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。また、本件においては、平均経費率による推計方法自体にも一定の合理性を認めることができる上、特前所得率による推計方法が被告の推計方法と比べて明らかに合理性の点において優るとの主張立証がされているわけでもない。

よって、原告の右主張及び原告の予備的請求(三)は理由がない。

四  本人率による推計(原告の主位的請求)の当否(争点4)

1  問題の所在

原告は、被告の主張と異なる本人率による推計方法を主張し、それが合理性において優る旨を主張する。

これに対し、被告は、「推計課税は、実体法上、実質課税とは別に課税庁に所得の算定を許すことを認めたものであり、実額近似値を求め得る程度の一応の合理性を有するものであれば足りるから、より合理的な推計の手段が他にあるというのみでは、推計が違法となることはなく、推計方法の優劣を争う原告の主張は失当である。」旨主張する(第二、三4(二)(1))。しかし、このような見解は、推計課税において課税庁に行き過ぎた裁量を認めるものであり、採用することができない。そして、原告が、被告の主張する推計方法よりも合理的な推計方法を主張了承することができれば、被告の推計方法は合理性を欠くものとして、被告の処分が違法となり得ると解される(もっとも、原告としては、原告の推計方法と被告の主張する推計方法のいずれがより合理的か不明であるということまで主張立証すれば、被告の合理性の主張を覆すことができると解する余地もあるが、ここではこの点はひとまず措くこととする。)。

本件において原告は、原告の平成四年ないし平成六年(以下「本人率推計基礎年分」という。)の割粉一キログラム当たりの平均売上金額及び平均経費率から、本件各係争年分における原告の売上げ及び経費を推計すべきであるという。そこで、その合理性について検討する。

2  本人率による推計の基礎となる時期における業況の変動の有無

原告は、本人率による推計方法の場合、原告の業者、業態、事業者の変更等がない限り、係争年度との比率には変化がないと考えるのが合理的であり、また、原告という特定の業種だけを問題にするため、比率に影響を及ぼす具体的な事情を検討することが可能となるから、比準同業者による推計方法に比べてより合理的であると主張する。

しかし、特定の事業者の経営成績も、経済状況やその他の外部的・内部的要因によって年によって変動があるのは当然のことであり、これらの点の補正をするのでない限り、本人率による推計方法が比準同業者による推計方法よりも常に合理性を有するとはいえない。

本件においてこれを見ると、証人矢野洋子は、平成四年一〇月二六日に義明が心臓の手術を受け、手術前は約一〇日間の検査入院をし、手術後は約一か月の入院をし、その間店は休業していた旨、退院後も約一か月は静養のため昼の忙しいときだけ営業していた旨、平成六年に本訴を提起してからは裁判の準備のため午後からほとんど営業していなかった旨、右のような理由から出前を断っていたとこが原因と思われるが、出前の注文が減少し出前の売上げが減少している旨、当法廷及び陳述所(甲一六七)において述べている。これを前提とするならば、本人率推計基礎年分における原告店舗の営業形態は、本件各係争年分の営業形態と異なっていたと認められるから、相応の補正をするのでない限り、これをそのまま用いるのは合理性がないというべきところ、原告は、特にその点を考慮してはいない。

3  本人率による推計の基礎となる資料の信用性の有無

2の点を措くとしても、本人率による推計が合理性を有するためには、本人率の算定の基礎となる資料が信用性を有していなければならない。そこで、念のため、この点について検討するととする。

(一) コンピューター台帳

原告が本人率による推計の基礎とする売上金額は、コンピューターに入力された売上帳、売上補助元帳、仕入帳、仕入補助元帳、経費帳、損益計算書の数値を出力してまとめた台帳(甲六、四七及び八八の各二の一ないし六。以下「コンピューター台帳」という。)であるが、証拠(甲一六七、証人矢野洋子)及び弁論の全趣旨によれば、コンピューター台帳は、本件の税務調査の後本件更生処分の前に、大和民主商工会の西村事務局員が、洋子の作成に係る自主計算書(現金出納帳、売上集計表、仕入集計表、送料内訳明細表、経費集計表、損益計算書を含む。甲六の一ないし一八、四七、八八の各一ないし一七。以下「自主計算書」という。)に基づき、京浜特殊印刷からの出前注文に係る売上げを加算して作成したものであることが認められる。

したがって、コンピューター台帳それ自体は、日々の業務において継続的に記帳されたものというわけでないから、その正確性は、その作成過程及びその依拠した資料が信用に足るものであるか否か等によって判断されるべきこととなる。

(二) 自主計算書

そこで、コンピューター台帳の作成の基礎となった自主計算書の信用性について判断する。

(1) 現金出納帳

原告店舗は、いわゆる現金商売に属するので、損益計算書等の信用性を判断するに当たっては、現金出納帳が日々正確に作成されていたか否かが重要な問題となる。ところが、証拠(甲六、四七、八八の各一の一ないし一二)によれば、本件の現金出納帳には残高が記入されておらず、また証人矢野洋子の証言によれば、集計と手元の残金が一致しているか否かについて照合し日々集計することをしていなかった事実が認められるから、その記載内容の信用性には疑義がある。

(2) 売上集計表

売上集計表(甲六、四七及び八八の各一の一三)上の売上金額は、平成四年が一二四九万七九五〇円、平成五年が一一九六万九二一一円、平成六年が九六六万五五五〇円であり、原告が推計の基礎として主張する売上金額(平成四年が一二八五万五七二〇円、平成五年が一三六五万〇六三〇円、平成六年が一〇六四万三八五〇円。これらは、前記コンピューター台帳の損益計算書における売上金額(甲六、四七及び八八の各二の六)と一致している。)と異なっている。

この点につき、証人矢野洋子は、自主計算書には京浜特殊印刷という会社に対する出前の売上分を記帳しておらず、コンピューター台帳を作成する際にこれを加算したために右のような差異が生じた旨を当法廷において証言する。しかし、原告は、自主計算書への記帳漏れが右のものだけにとどまるのか否かについて検証するに足りる客観的な証拠を提出しておらず、右証言の信用性を検証することができない。

(3) 仕入集計表

仕入集計表(甲六、四七及び八八の各一の一四)上の仕入数量は、平成四年が四七八万八六一九円、平成五年分が五四四万三七七四円、平成六年分が四三一万三八九九円ということであり、原告が本人率による推計の基礎として主張する仕入数量(平成四年分が五〇五万八五四三円、平成五年分が五一〇万二九四八円、平成六年分が四一五万四四一八円。これらは、前記コンピューター台帳の損益計算書における仕入数量(甲六、四七及び八八の各二の六)と一致している。)と異なっている。

しかし、原告は、右の差額について合理的な説明を欠いており、右の仕入数量を、本人率推計の基礎として採用することはできない。

(4) 経費集計表

経費集計表(甲六、四七及び八八の各一の一六)の内訳・金額と前記コンピューター台帳の損益計算書における経費等の内訳・金額とを比較すると、内容が相違している。原告が推計の基礎として主張する経費等の金額は、コンピューター台帳の損益計算書(甲六、四七及び八八の各二の六)におけるその他経費等の合計額から給料手当の金額を差し引いたもの(平成四年分が三二六万五二二二円、平成五年分が三〇七万〇三六五円、平成六年分が三〇四万五一一一円)であり、右コンピューター台帳上の金額を基礎としていると思われるが、自主計算書上の金額との差異について何ら説明がないから、右のその他経費等の金額を、推計の基礎とすることはできない。

(5) 給料内訳明細表

証人矢野洋子は、当法廷において、平成三年ごろから佐々木というパートが働いてたいと証言するが、平成四年の自主計算書の給料内訳明細表(甲六の一の一五)には、同人に支払われていた給料の記載がない。また、右洋子は、パートの給与は一時間七五〇円の時給制で、パートが休んだり早引きしたりしたときは、給与は減額していたと証言するが、平成五年分の自主計算書の給料内訳明細表二項四七の一の一五)には、アルバイト二人に対し、毎月一〇万円を支払っていた旨の記載があり、パートが休んだり早引きしたりしたときの給与の減額の事実は記載されていない。

よって、この点においても、自主計算書の記載の正確性には疑義がある。

(三) 売上伝票及び領収書

(1) 売上伝票

原告は、本人率推計基礎年分の原告店舗における売上げ(出前によるものを除く。)の裏付けとして、平成四年一月から平成六年一二月までの「お会計票」を提出する。また、証人矢野洋子は、出前については「出前メモ」は現金出納帳への記帳の終了時に破棄していた旨、現金出納帳には店での売上げの金額と出前による売上げの金額とを単純に合計して記帳していた日と、上段と下段に分けて記載していた日とがある旨を証言している。

しかし、出前による上について「出前メモ」が保存されていない以上、右「お会計票」が提出されているのみでは、結局のところ、本人率推計基礎年分の原告の売上金額の記載の正確性を検証することはできない。また、少なくとも、平成四年一月八日、二月二〇日、四月一九日、五月五日ないし九日、一一日、一二日、七月一日及び一九日、平成五年一月二四日、二月二一日、四月一一日、平成六年一一月二三日については、現金出納帳に売上げの記載があるにもかかわらずその日の「お会計票」(甲七、八、一〇、一一、一三、四八、四九、五一、九九及び証拠説明書)の提出もなく、かつ、その日の売上げの金額をその他の日の売上げの金額と比較してみても、出前による売上げしかなかったと見ることはできない。結局のところ、「お会計票」に限ってみても、すべての「お会計票」が提出されていると見ることはできない。

(2) 領収書(酒類)

証人矢野洋子は、当初、酒類は、お中元やお歳暮でもらった年間約四〇本のビールや個人的に買ったビールを店で出していたと陳述書(甲一六七)に記載し、当法廷において証言していた。

しかし、提出された「お会計票」の中にはビール類の酒類の売上げが記載されているものがあり、その本数を合計すると平成四年分は約三九〇本、平成五年分は約四七〇本、平成六年分は約四〇〇本となるが、原告の提出した領収書で明らかにビールの仕入れと分かるものは平成四年分一件(甲三一の一六の四。五〇〇〇円)、平成五年一件(甲七五の一〇の三。五〇〇〇円)しかない(原告は明らかに争わない。)。そして、証人矢野洋子は、この点を当法廷で指摘され、証言を翻し、酒類を営業用に仕入れていたことを認めた。

以上にかんがみれば、原告の提出する領収書類には、少なくとも酒類については提出漏れがあることは明らかである。そして、そのような営業用酒類が売られたものと考えられるが、その売上げの計上の事跡が見られない。

(3) 領収書(家計との混同)

領収書には、「ペット」(甲四二の三、四六の五)、「アクセサリー」(甲四六の一三ないし一五)、「サロンSシャンプーDC」(講師四六の九八)等、明らかに日本そば店の営業において必要性のない商品が混入しており、その他にも原告店舗の営業との関連性について疑義のある購入商品についての領収書が多数含まれている。

4  まとめ

以上によれば、本人率による推計が、比準同業者による推計に比べて、より合理性を有するとは到底いうことができない。よって、原告の一の主張及び原告の主位的請求は理由がない。

五  人件費控除の要否(原告の予備的請求(一)の当否)(争点5)

1  原告は、義明・洋子夫妻に対する給与の支払を青色専従者給与として申告したが、義明・洋子夫妻は原告と別の家計により生活しており、原告と「生計を一にする配偶者その他の親族」に当たらないから、右給与の金額は、人件費として必要経費に計上すべきものであると主張する(第二、三5(二))。

2  所得税法五六条は、「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る(中略)事業所得の金額(中略)の計算上、必要経費に算入しない」旨を規定する。これは、もともと個人事業が家族ぐるみの協力と家族の財産の協同管理によって成り立つものであり、それについて個々の対価を支払う慣行もなく、かつ、仮に対価の支払があっても適正な対価の認定は税務執行上難しいこと等の理由により、個人事業者が家族構成員の間に所得を分割して税負担の軽減を計ることを防止することを目的とする趣旨によるものである。

3  証拠(甲一六〇、一六七、証人矢野義明、同矢野洋子)によれば、義明・洋子夫妻は、本件各係争年分当時、原告所有の店舗(原告店舗)併用住宅の二階に居住し、原告は右店舗併用住宅と同一敷地内にある住居に、原告夫婦と娘のマサ子とともに居住しており、居住場所は異にしていたことが認められる。

しかし、原告は、本件各係争年分の青色申告において、義明・洋子への支払給与を、青色専従者給与として申告を行っていること(乙二一ないし二三)、義明・洋子夫妻は、原告を世帯主とする原告の世帯員として住民登録をしていること(乙七の一ないし七)、原告は、本件各係争年分について、義明・洋子夫妻を含む家族七名の国民健康保険の保険料の支払を行っていること(乙八)、店舗併用住宅の電話の加入契約、水道供給契約及び電気供給契約が原告名義で締結され、原告がその料金の支払を行っていること(乙九ないし一一)を認めることができる。また、義明及び洋子は、原告店舗からの売上げから自分たちの給与を差し引き、残ったものを原告に渡すが、売上げが芳しくなく、原告に渡すものはほとんどなかったと陳述書(甲一六〇、一六七)に記載し、また当法廷で証言する。

右のような事実によれば、義明・洋子夫妻の家計と原告の家計とが明確に区別されていたとは到底認め難く、義明・洋子夫妻は、まさに個人事業者として費用の恣意的な配分を防ぐ必要のある「生計を一にする者」に当たるといってよい。

よって、原告の1の主張及び原告の予備的請求(一)は理由がない。

六  本件各処分の適否(争点6)

被告の推計が合理性を有するものであることは前記のとおりであり、その結果として算出された納付すべき本税額は、第二、三3(一)及び別紙1の三のとおりであり、本件更生処分における納付すべき本税額(第二、二四、二3(三))を上回っているから、結局、本件更生処分に過大認定の違法はない。

また、以上に見たとおり、原告は、本件各係争年分の納付すべき本税額につきいずれも過少に申告しているところ、被告は、国税通則法六五条一項及び二項の規定に基づき、右のとおり適法な本件更正処分における納付すべき本税額を基礎として、別紙3のとおり計算した過少申告加算税額を賦課決定したのであるから、本件賦課決定処分はいずれも適法と認められる。

七  結論

以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 裁判官 弘中聡浩)

(別紙1)

課税処分の根拠

一 総所得金額及びその計算根拠

被告が本訴において主張する本件各係争年分の原告の総所得金額及びその計算根拠は、次のとおりである。

1 昭和六三年分の総所得金額 五四七万三八七八円

右金額は、後記(一)の事業所得の金額七三四万七九六四円と後記(二)の不動産所得の金額一一六万五一二〇円との合計金額から、後記(三)の純損失の繰越控除の金額四六万六六二九円及び後記(四)の雑損失の繰越控除の金額二五七万二五七七円を差し引いた金額であり、その算出経過は以下のとおりである。

(一) 事業所得の金額 七三四万七九六四円

右金額は、次表のとおり、(1)の売上金額から(2)ないし(4)の各金額の合計額を差し引いた金額である。

<省略>

(1) 売上金額 二〇二八万一八〇〇円

右金額は、原告の昭和六三年分の割粉の仕入数量五五〇キログラムに、原告と同様に大和市内で日本そば店を営む青色申告の個人事業者で、かつ、原告と事業規模の類似する者(比準同業者)のどう年分の割粉一キログラム当たりの平均売上金額三万六八七六円(別紙1の1参照。ただし、小数点第一位を四捨五入。以下同じ。)を乗じて算出したものである。

(2) 売上原価等の額 一〇五二万八二八二円

右金額は、前記(1)の売上金額二〇二八万一八〇〇円に、比準同業者の売上金額に占める売上原価等の割合の平均値(以下「比準同業者の平均経費率」という。)五一・九パーセント(別紙1の1参照)を乗じて算出した金額である。

なお、右売上原価等の額とは、売上原価の額と経費(ただし、建物の減価償却費、利子割引料、貸倒金、固定資産除却損、繰延資産の償却費、青色申告者に認められている各特典、地代家賃、外注費、人件費を除く。)の額の合計額であり、これ以外の本件各係争年分についても同様である。

(3) 建物の減価償却費の額 四五万五五五四円

右金額は、原告の所有する店舗併用住宅のうち、事業用部分について、原告が昭和六三年分所得税青色申告決算書(一般用)の「原価償却費の計算」欄に記載した金額である。

(4) 事業専従者控除額 一九五万〇〇〇〇円

右金額は、原告の妻、長男、次女及び長男の妻に係る所得税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)五七条三項所定の事業専従者控除額(原告の妻六〇万円、その他の者各四五万円)の合計額である。

(二) 不動産所得の金額 一一六万五一二〇円

右金額は、原告が昭和六三年分所得税青色申告決算書(不動産用)に記載した不動産所得の金額一〇六万五一二〇円と被告が平成四年三月六日付けで行った原告の昭和六三年分以降の所得税の青色申告の承認取消処分(本件青色承認取消処分)により控除することができないこととなった青色申告控除の額の一〇万円との合計額である。

(三) 純損失の繰越控除の金額 四六万六六二九円

右金は、原告が昭和六三年分の所得税の確定申告書(損失用)に記載した純損失の繰越控除の額である。

(四) 雑損失の繰越控除の金額 二五七万二五七七円

右金は、原告が昭和六三年分の所得税の確定申告書(損失用)に記載した雑損失の繰越控除の額である。

2 平成元年分の総所得金額 九四三万〇六二八円

右金額は、後記(一)の事業所得の金額七八九万〇六九二円と後記(二)の不動産所得の金額一五三万九九三六円との合計額であり、その算出経過は以下のとおりである。

(一) 事業所得の金額 七八九万〇六九二円

右金額は、次表のとおり、(1)の売上金額から(2)ないし(4)の各金額の合計額を差し引いた額である。

<省略>

(1) 売上金額 二一二七万四一七六円

右金額は、原告の平成元年分の割粉の仕入数量五二八キログラムに、比準同業者のどう年分の割粉一キログラム当たりの平均売上金額四万〇二九二円(別紙1の2参照)を乗じて算出したものである。

(2) 売上原価等の額 一〇七一万七九三〇円

右金額は、前記(1)の売上金額二一二七万四一七六円に比準同業者の平均経費率五〇・三八パーセント(別紙1の2参照)を乗じて算出した金額である。

(3) 建物の減価償却費の額 四五万五五五四円

右金額は、原告の所有する店舗併用住宅のうち、事業用部分について、原告が昭和六三年分所得税青色申告決算書(一般用)の「減価償却費の計算」欄に記載した金額である。

(4) 事業専従者控除額 二二一万〇〇〇〇円

右金額は、原告の妻、長男、次女及び長男の妻に係る所得税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正後のもの。以下「法」という。)五七条三項所定の事業専従者控除額(原告の妻八〇万円、その他の者四七万円)の合計額である。

(二) 不動産所得の金額 一五三万九九三六円

右金額は、原告が平成元年分所得税青色申告決算書(不動産用)に記載した不動産所得の金額一四三万九九三六円と本件青色承認取消処分により控除することができないこととなった青色申告控除の額一〇万円との合計額でしある。

3 平成二年分の総所得金額 九一九万九七七六円

右金額は、後記(一)の事業所得の金額七七九万二三一五円と後記(二)の不動産所得の金額一四〇万七四六一円との合計額であり、その算出経過は以下のとおりである。

(一) 事業所得の金額 七七九万二三一五円

右金額は、次表のとおり、(1)の売上金額から(2)ないし(4)の各金額の合計額を差し引いた額である。

<省略>

(1) 売上金額 二〇七〇万四五五二円

右金額は、原告の平成二年分の割粉の仕入数量四八四キログラムに、比準同業者のどう年分の割粉一キログラム当たりのの平均売上金額四万二七七八円(別紙1の3参照)を乗じて算出したものである。

(2) 売上原価等の額 一〇二四万六六八三円

右金額は、前記(1)の売上金額二〇七〇万四五五二円に、比準同業者の平均経費率四九・四九パーセント(別紙1の3参照)を乗じて算出した金額である。

(3) 建物の減価償却費の額 四五万五五五四円

右金額は、原告の所有する店舗併用住宅のうち、事業用部分について、原告が昭和六三年分所得税青色申告決算書(一般用)の「減価償却費の計算」欄に記載した金額である。

(4) 事業専従者控除額 二二一万〇〇〇〇円

右金額は、原告の妻、長男、次女及び長男の妻に係る法五七条三項所定の事業専従者控除額(原告の妻八〇万円、その他の者各四七万円)の合計額である。

(二) 不動産所得の金額 一四〇万七四六一円

右金額は、原告が平成二年分所得税青色新作決算書(不動産用)に記載した不動産所得の金額一三〇万七四六一円と本件青色承認取消処分により控除することができないこととなった青色申告控除の額一〇万円との合計額である。

二 推計に用いた比準同業者の抽出方法

1 前記の推計を行うに当たって、右算出の基礎とした各比準同業者の抽出方法は次のとおりである。

原告の納税地及び原告が事業所を有する地である大和市内において、原告と同様日本そば店を営む個人事業者のうち、本件各係争年分ごとに次の(一)ないし(五)の基準のすべてに該当する者を比準同業者として別紙1の1ないし3のとおり抽出した。

(一) 日本そば店を営む事業所得者であること。

(二) 所得税の申告を青色申告によっている者のうち青色事業専従者がいる者であること。

(三) 本件各係争年分ごとの割粉の仕入数量が、次の範囲内にある者であること。

(1) 昭和六三年分については、二七五キログラム以上一一〇〇キログラム以下

(2) 平成元年分については、二六四キログラム以上一〇五六キログラム以下

(3) 平成二年分については、二四二キログラム以上九六八キログラム以下

(四) 年を通じて前記(一)の事業を継続している者であること。

(五) 次の(1)及び(2)のいずれにも該当しない者であること。

(1) 災害等により経営状態が異常であると認められる者

(2) 更生又は決定処分がされている者のうち、次のイ又はロに該当する者

イ 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間間課は出訴期間の経過していないもの

ロ 当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起されて現在審理中であるもの

2 右抽出に当たっては、被告は、本件各係争年分ごとに前記1の(一)、(二)、(四)及び(五)の該当者すべてについて文書により個別に照会し、回答があった者のうち割粉の昭和六三年分が(三)の範囲内にある者を抽出した。

三 納付すべき本税額

原告の本件各係争年分の納付すべき本税額は、各年分の総所得金額から法(昭和六三年分については、昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの。以下同じ。)七二条ないし八七条所定の所得控除の額を控除した残額である課税総所得金額に、法八九条第一項に掲げる税率を乗じて算定されるものであるところ、原告の本件各係争年分の課税総所得金額(国税通則法一一八条一項の規定に基づき一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額)は、前記一の総所得金額から、社会保険料控除(法七四条)の額、老年者控除(法八〇条)の額及び基礎控除(法八六条)の額の合計額(別紙2参照)を控除した金額であり、具体的には、次のとおりとなる。

昭和六三年分 四三二万八〇〇〇円

平成元年分 八四〇万〇〇〇〇円

平成二年分 八一一万四〇〇〇円

右金額に法八九条一項の規定を適用して算定した原告の本件各係争年分の納付すべき所得税の額(国税通則法一一九条一項の規定に基づき一〇〇円未満の端数を切り捨てた後の金額)は、それぞれ次のとおりとなる。

昭和六三年分 五六万五六〇〇円

平成元年分 一六二万〇〇〇〇円

平成二年分 一五三万四二〇〇円

(別紙1の1)

同業者率算定表(昭和63年分)

<省略>

(別紙1の2)

同業者率算定表(平成元年分)

<省略>

(別紙1の3)

同業者率算定表(平成2年分)

<省略>

(別紙2)

総所得金額等明細書

<省略>

(別紙3)

本件賦課決定処分の根拠

一 昭和六三年分 三万七〇〇〇円

昭和六三年分本件更正処分に基づき納付すべき本税額四三万一〇〇〇円から国税通則法六五条四項に該当する部分の金額五万二七〇〇円を控除した金額三七万八三〇〇円について、一万円未満の端数を切り捨てた金額三七万円(同法一一八条三項)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額(同法六五条一項)

二 平成元年分 一〇万一〇〇〇円

平成元年分本件更正処分に基づき納付すべき本税額一三七万六七〇〇円から国税通則法六五条四項に該当する部分の金額五三万〇四〇〇円を控除した金額八四万六三〇〇円について、一万円未満の端数を切り捨てた金額八四万円(同法一一八条三項)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額八万四〇〇〇円(同法六五条一項)に、右八四万六三〇〇円のうち五〇万円を超える部分に相当する金額三四万六三〇〇円について、一万円未満の端数を切り捨てた金額三四万円(同法一一八条三項)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額一万七〇〇〇円(同法六五条二項)を加算した金額

三 平成二年分 一三万七〇〇〇円

平成二年分本件更正処分に基づき納付すべき本税額一三〇万六二〇〇円から国税通則法六五条四項に該当する部分の金額二二万五一〇〇円を控除した金額一〇八万一一〇〇円について、一万円未満の端数を切り捨てた金額一〇八万円(同法一一八条三項)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額一〇万八〇〇〇円(同法六五条一項)に、右一〇八万一一〇〇円のうち五〇万円を超える部分に相当する金額五八万一一〇〇円について、一万円未満の端数を切り捨てた金額五八万円(同法一一八条三項)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額二万九〇〇〇円(同法六五条二項)を加算した金額

(別紙4)

原告の主位的請求(本人率による推計)

一 平成四年ないし平成六年の割粉一キログラム当たりの売上げ

1 平成四年についての割粉一キログラム当たりの売上げ

原告の平成四年の売上金額は、一二八五万五七二〇円である。

原告の平成四年の割粉の仕入数量は、五八三キログラムである。

したがって、割粉一キログラム当たりの売上げは、二万二〇五〇円となる。

2 平成五年の割粉一キログラム当たりの売上げ

原告の平成五年の売上金額は、一三六五万〇六三〇円である。

原告の平成五年の割粉の仕入数量は、五五七キログラムである。

したがって、割粉一キログラム当たりの売上げは、二万四五〇七円となる。

3 平成六年の割粉一キログラム当たりの売上げ

原告の平成六年の売上金額は、一〇六四万三八五〇円である。

原告の平成五年の割粉の仕入数量は、五七二キログラムである。

したがって、割粉一キログラム当たりの売上げは、一万八〇八一円となる。

4 まとめ

以上からすると、原告の平成四年ないし平成六年の割粉一キログラム当たりの平均売上金額は、二万一八八二円となる。

二 昭和六三年分ないし平成二年の本人率による推計売上げ

1 昭和六三年の推計売上げ

原告の昭和六三年の割粉の仕入数量は、五五〇キログラムである。

これに、前記一4の平均売上金額二万一八八二円を乗じると、原告の昭和六三年の売上金額は、一二〇三万五一〇〇円となる。

2 平成元年の推計売上げ

原告の平成元年の割粉の仕入数量は、五二八キログラムである。

これに、前記一4の平均売上金額二万一八八二円を乗じると、原告の平成元年の売上金額は、一一五五万三六九六円となる。

3 平成二年の推計売上げ

原告の平成二年の割粉の仕入数量は、四八四キログラムである。

これに、前記一4の平均売上金額二万一八八二円を乗じると、原告の平成二年の売上金額は、一〇五九万〇八八八円となる。

三 本人推計による経費率

原告の平成四ないし平成六年の平均経費率を計算すると以下のとおりとなる。

1 平成四年の売上原価等の額の割合

原告の平成四年の売上原価等の額

(一) 売上原価 五〇五万八五四三円

(二) その他経費 三二六万五二二二円

被告が除外している建物の減価償却費や繰延資産の償却費、人件費等を除いた経費

(三) 売上原価等の額 八三二万三七六五円

(一)及び(二)の合計額

(四) 売上原価等の額の割合 六四・七五パーセント

(三)を平成四年の売上金額(一二八五万五七二〇円)で除した割合

2 平成五年の売上原価等の額の割合

原告の平成五年の売上原価等の額

(一) 売上原価 五一〇万二九四八円

(二) その他経費 三〇七万〇三六五円

被告が除外している建物の減価償却費や繰延資産の償却費、人件費等を除いた経費

(三) 売上原価等の額 八一七万三三一三円

(一)及び(二)の合計額

(四) 売上原価等の額の割合 五九・八七パーセント

(三)を平成五年の売上金額(一三六五万〇六三〇円)で除した割合

3 平成六年の売上原価等の額の割合

原告の平成六年の売上原価等の額

(一) 売上原価 四一五万四四一八円

(二) その他経費 三〇四万五一一一円

被告が除外している建物の減価償却費や繰延資産の償却費、人件費等を除いた経費

(三) 売上原価等の額 七一九万九五二九円

(一)及び(二)の合計額

(四) 売上原価等の額の割合 六七・六四パーセント

(三)を平成五年の売上金額(一〇六四万三八五〇円)で除した割合

4 まとめ

以上からすると、原告の平成四年ないし平成六年の売上原価等の売上げに占める割合(平均経費率)は、六四・〇九パーセントとなる。

四 本件各係争本文の本人経費率による推計経費

1 昭和六三年

原告の推計売上金額一二〇三万五一〇〇円(二1)に平均経費率六四・〇九パーセント(三4)を乗じると、七七一万三二九六円となる。

2 平成元年

原告の推計売上金額一一五五万三六九六円(二2)に平均経費率六四・〇九パーセントを乗じると、七四〇万四七六四円となる。

2 平成二年

原告の推計売上金額一〇五九万〇八八八円(二3)に平均経費率六四・〇九パーセントを乗じると、六七八万七七〇〇円となる。

五 本件各係争年分の本人推計による原告の所得金額

1 昭和六三年 マイナス二六一万七八三六円

事業所得の金額(マイナス七四万三七五〇円)と不動産所得の金額(一一六万五一二〇円)の合計額から、純損失の繰越控除の金額(四六万六六二九円)及び雑損失の繰越控除の金額(二五七万二五七七円)を差し引いた額であり、その算出経過は以下のとおりである。

(一) 事業所得の金額 マイナス七四万三七五〇円

(1)の売上金額から(2)ないし(5)の各金額の合計額を差し引いた金額

(1) 売上金額 一二〇三万五一〇〇円(二1)

(2) 売上原価等の額 七七一万三二九六円(四1)

(3) 人件費 三五六万〇〇〇〇円

義明に対する給与二五二万円、洋子に対する給与一〇四万円の合計額

(4) 建物の減価償却費 四五万五五五四円

(5) 事業専従者控除額 一〇五万〇〇〇〇円

原告の妻六〇万円、原告の次女四五万円の合計額

(二) 不動産所得の金額 一一六万五一二〇円

(三) 純損失の繰越控除の金額 四六万六六二九円

(四) 雑損失の繰越控除の金額 二五七万二五七七円

2 平成元年 三二万三三一四円

事業所得の金額(マイナス一二一万六六二二円)及び不動産所得の金額(一五三万九九三六円)の合計額であり、その算出経過は以下のとおりである。

(一) 事業所得の金額 マイナス一二一万六六二二円

(1)の売上金額から(2)ないし(5)の各金額の合計額を差し引いた金額

(1) 売上金額 一一五五万三六九六円(二2)

(2) 売上原価等の額 七四〇万四七六四円(四2)

(3) 人件費 三六四万〇〇〇〇円

義明に対する給与二五二万円、洋子に対する給与一一二万円の合計額

(4) 建物の減価償却費 四五万五五五四円

(5) 事業専従者控除額 一二七万〇〇〇〇円

原告の妻八〇万円、原告の次女四七万円の合計額

(二) 不動産所得の金額 一五三万九九三六円

3 平成二年 マイナス一五万四九〇五円

事業所得の金額(マイナス一五六万二三六六円)及び不動産所得の金額(一四〇万七四六一円)の合計額であり、その算出経過は以下のとおりである。

(一) 事業所得の金額 マイナス一五六万二三六六円

(1)の売上金額から(2)ないし(5)の各金額の合計額を差し引いた金額

(1) 売上金額 一〇五九万〇八八八円(二3)

(2) 売上原価等の額 六七八万七七〇〇円(四3)

(3) 人件費 三六四万円

義明に対する給与二五二万円、洋子に対する給与一一二万円の合計額

(4) 建物の減価償却費 四五万五五五四円

(5) 事業専従者控除額 一二七万〇〇〇〇円

原告の妻八〇万円、原告の次女四七万円の合計額

(二) 不動産所得の金額 一四〇万七四六一円

六 納付すべき本税額

原告の昭和六三年から平成二年までの総所得金額は、五で延べたとおりであるところ、右金額から、社会保険料控除額、老年者控除の額及び基礎控除の額の合計額を控除すると、各年とも課税総所得金額は、すべてマイナスとなるから、納付すべき本税額は、それぞれ零円となる。

(別紙5)

原告の予備的請求(一)(義明・洋子夫妻が原告と「生計を一に」しないことを前提とする推計)

被告の推計方法による事業所得金額から、特別経費である人件費を差し引いた上で、納付すべき本税額を計算すると、次のとおりとなる。

一 昭和六三年

1 事業所得金額 三七七万七九六四円

被告の推計による事業所得金額は、七三四万七九六四円である。右金額は、特別経費である人件費を差し引いていないから、人件費三五六万円を差し引くと、事業所得金額は、三七七万七九六四円となる(計算が合わないが、原告の主張のとおりとした。)。

2 原告の所得金額 一九〇万三八七八円

原告の所得金額は、事業所得金額(右1)に不動産所得(一一六万五一二〇円)を加え、純損失及び雑損失の各繰越控除の金額(四六万六六二九円及び二五七万二五七七円)を差し引いた金額である。

3 原告の課税所得金額 七五万八〇〇〇円(一〇〇〇未満切捨て)

原告の所得金額(右2)から所得控除の額(一一四万五二〇〇円)を差し引いた金額

4 納付すべき本税額 七万五八〇〇円

二 平成元年

1 事業所得金額 四二五万〇六九二円

被告の推計による事業所得金額は、七八九万〇六九二円である。右金額は、特別経費である人件費を差し引いていないから、人件費(三六四万円)を差し引くと、事業所得金額は、四二五万〇六九二円となる。

2 原告の所得金額 四四〇万四六八八円

原告の所得金額は、事業所得金額(右1)に不動産所得(一五三万九九三六円)を加えた金額である(計算が合わないが、原告の主張のとおりとした。)。

3 原告の課税所得 三三七万四〇〇〇円(一〇〇〇未満切捨て)

原告の所得金額(右2)から所得控除の額(一〇三万円)を差し引いた金額

4 納付すべき本税額 三七万四八〇〇円

三 平成二年

1 事業所得金額 四一五万二三一五円

被告の推計による事業所得金額は、七七九万二三一五円である。右金額は、特別経費である人件費を差し引いていないから、人件費(三六四万円)を差し引くと、事業所得金額は、四一五万二三一五円となる。

2 原告の所得金額 五五五万九七七六円

原告の所得金額は、事業所得金額(右1)に不動産所得(一四〇万七四六一円)を加えた金額である。

3 原告の課税所得 四四七万四〇〇〇円(一〇〇〇未満切捨て)

原告の所得金額(右2)から所得控除の額(一〇八万五〇〇〇円)を差し引いた金額

4 納付すべき本税額 五九万四八〇〇円

(別紙6)

原告の予備的請求(二)(業態の異なる比準同業者を排除した推計)

一 昭和六三年

業態の明らかに異なる別紙1のD及びHを除外して推計した場合の原告の所得等は次のとおりとなる。

1 D及びHを除外した比準同業者の割粉一キログラム当たりの売上金額の平均

三万二七〇三円

2 D及びHを除外した比準同業者の経費率の平均

五一・七四パーセント

3 原告の推計売上金額

一七九八万六六五〇円

原告の昭和六三年の割粉の仕入数量五五〇キログラムに割粉一キログラム当たりの平均売上金額(右1)を乗じた金額

4 原告の推計売上原価

九三〇万六二九三円

推計売上金額(右3)に平均経費率(右2)を乗じた金額

5 減価償却費

四五万五五五四円

6 事業専従者控除

一九五万〇〇〇〇円

7 純損失の繰越控除額

四六万六六二九円

8 雑損失の繰越控除額

二五七万二五七七円

9 原告の事業所得金額

六二七万四八〇三円

推計売上金額(右3)から推計売上原価の金額(右4)を差し引き、減価償却費(右5)及び事業専従者控除額(右6)を差し引いた金額

10 原告の総所得金額

四四〇万〇七一七円

事業所得金額(右9)に不動産所得(一一六万五一二〇円)を加え、純損失及び雑損失の各繰越控除の金額(右7及び8)を差し引いた金額

11 原告の課税所得金額

三二五万五〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)

原告の総所得金額(右10)から所得控除の額(一一四万五二〇〇円)を差し引いた金額

12 納付すべき本税額

三五万一〇〇〇円

二 平成元年

業態の明らかに異なる別紙1の2のB、D及びEを除外して推計した場合の原告の所得等は次のとおりとなる。

1 B、D及びEを除外した比準同業者の割粉一キログラム当たりの売上金額の平均

三万四二九四円

2 B、D及びEを除外した比準同業者の経費率の平均

四九・八六パーセント

3 原告の推計売上金額

一八一〇万七二三二円

原告の平成元年の割粉の仕入数量五二八キログラムに割粉一キログラム当たりの平均売上金額(右1)を乗じた金額

4 原告の推計売上原価

九〇二万八二六六円

推計売上金額(右3)に平均経費率(右2)を乗じた金額

5 減価償却費

四五万五五五四円

6 事業専従者控除

二二一万〇〇〇〇円

7 純損失の繰越控除額

六四一万三四一二円

推計売上金額(右3)から推計売上原価の金額(右4)を差し引き、減価償却費(右5)及び事業専従者控除額(右6)を差し引いた金額

8 雑損失の繰越控除額

七五九万三三四八円

事業所得金額(右7)に不動産所得(一五三万九九三六円)を加えた金額

9 原告の事業所得金額

六九二万三〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)

原告の総所得金額(右8)から所得控除の額(一〇三万円)を差し引いた金額

10 納付すべき本税額

一一七万六九〇〇円

三 平成二年

業態の明らかに異なる別紙1の3のA、E及びFを除外して推計した場合の原告の所得等は次のとおりとなる。

1 A、E及びFを除外した比準同業者の割粉一キログラム当たりの売上金額の平均

三万四一〇六円

2 A、E及びFを除外した比準同業者の経費率の平均

四九・二一パーセント

3 原告の推計売上金額

一六五〇万七三〇四円

原告の平成元年の割粉の仕入数量五二八キログラムに割粉一キログラム当たりの平均売上金額(右1)を乗じた金額

4 原告の推計売上原価

八一二万三二四四円

推計売上金額(右3)に平均経費率(右2)を乗じた金額

5 減価償却費

四五万五五五四円

6 事業専従者控除

二二一万〇〇〇〇円

7 原告の事業所得金額

五七一万八五〇〇円

推計売上金額(右3)から推計売上原価の金額(右4)を差し引き、減価償却費(右5)及び事業専従者控除額(右6)を差し引いた金額

8 原告の総所得金額

七一二万五九六七円

事業所得金額(右7)に不動産所得(一四〇万七四六一円)を加えた金額

9 原告の課税所得金額

六〇四万〇〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)

原告の総所得金額(右8)から所得控除の額(一〇八万五〇〇〇円)を差し引いた金額

10 納付すべき本税額

九一万二〇〇〇円

(別紙7)

予備的請求(三)(特前所得率を使用した推計)

本訴における被告の推計売上金額に基づき、異議決定及び裁決において被告が使用した平均特前所得率によって原告の課税所得金額を推計すると、次のとおりとなる。

一 昭和六三年

売上金額 二〇二八万一八〇〇円

特前所得率 三七・一三パーセント

特前所得金額 七五三万〇六三二円

事業専従者控除 一九五万〇〇〇〇円

事業所得金額 五五八万〇六三二円

不動産所得金額 一一六万五一二〇円

純損失金額 四六万六六九二円

雑損失の繰越控除金額 二五七万三五七七円

総所得金額 三七〇万六五四六円

所得控除額 一一四万五二〇〇円

課税所得金額 二五六万一〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)

納付すべき所得税額 二五万六一〇〇円

二 平成元年

売上金額 二一二七万四一七六円

特前所得率 三八・八七パーセント

特前所得金額 八二六万九二七二円

事業専従者控除 二二一万〇〇〇〇円

事業所得金額 六〇五万九二七二円

不動産所得金額 一五三万九九三六円

総所得金額 七五九万九二〇八円

所得控除額 一〇三万〇〇〇〇円

課税所得金額 六五六万九〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)

納付すべき所得税額 一〇七万〇〇〇〇円

二 平成二年

売上金額 二〇七〇万四五五二円

特前所得率 四〇・八七パーセント

特前所得金額 八四六万一九五〇円

事業専従者控除 二二一万〇〇〇〇円

事業所得金額 六二五万一九五〇円

不動産所得金額 一四〇万七四六一円

総所得金額 七六五万九四一一円

所得控除額 一〇八万五〇〇〇円

課税所得金額 六五七万四〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)

納付すべき所得税額 一〇七万二二〇〇円

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