横浜地方裁判所 平成7年(ワ)91号 判決 2000年4月26日
原告 A野花子
<他3名>
右四名訴訟代理人弁護士 菅原信夫
被告 神奈川県
右代表者知事 岡崎洋
右指定代理人 三橋友行
<他1名>
被告 B山松夫
右両名訴訟代理人弁護士 柳川從道
右訴訟復代理人弁護士 永野剛志
主文
一 被告らは、連帯して、原告A野花子に対し二九八万二〇四二円、原告C川春子に対し九九万四〇一四円、原告A野一郎に対し九九万四〇一四円、原告D原夏子に対し九九万四〇一四円及びこれらに対する平成七年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は五分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
五 ただし、被告らの一方又は双方が、合計で、原告A野花子に対し二一〇万円の、その余の原告らに対しそれぞれ七〇万円の各担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、連帯して、原告A野花子に対し一四二二万五一三二円、原告C川春子に対し四七四万一七一〇円、原告A野一郎に対し四七四万一七一〇円、原告D原夏子に対し四七四万一七一〇円及びこれらに対する平成七年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 仮執行宣言
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、肺癌に罹患したため、被告神奈川県(以下「被告県」という。)が設置、運営する神奈川県立がんセンター(以下「本件病院」という。)に入院し、抗癌剤である塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用投与及び塩酸イリノテカンの再投与を受けて、間もなく死亡したA野太郎(以下「太郎」という。なお、太郎が本件病院で受けた癌治療を指して「本件診療」という。)の相続人である原告らが、被告県及び太郎の主治医であった被告B山松夫(以下「被告B山」という。)に対し、被告B山が塩酸イリノテカンをシスプラチンと併用して投与したこと、漫然と二度目の塩酸イリノテカン投与を行ったこと、塩酸イリノテカンを投与するに際し、太郎又は原告らの同意を得なかったことが過失又は注意義務違反に当たるとして、被告B山に対しては、不法行為に基づき、被告県に対しては、主位的に債務不履行、予備的に不法行為に基づき、損害の賠償を求めた事案である。
二 前提となる事実(当事者間に争いのない事実以外の証拠によって認定した事実については、当該認定事実の末尾に認定証拠を摘示する。)
1 当事者
(一) 原告ら
原告A野花子(以下「原告花子」という。)は太郎の妻であり、原告C川春子(以下「原告春子」という。)は太郎の長女、同A野一郎(以下「原告一郎」という。)は太郎の長男、同D原夏子(以下「原告夏子」という。)は太郎の二女である。太郎(昭和三年三月八日生)は、平成六年四月一一日から同年六月八日までの間(ただし、入院期間は同年五月一一日から六月八日)、本件病院において、被告B山の診察・診療を受けた。
(二) 被告ら
被告県は、本件病院を設立、運営している。
被告B山は、昭和六一年四月から本件病院に勤務している医師である。
2 診療の経過等
(一) 太郎が本件病院に入院するまでの経緯
(1) 太郎は、昭和四九年からE田エンジニアリング株式会社においてボイラー技士として勤務し、昭和六三年に六〇歳の定年を迎えたが、その後も嘱託社員として、平成六年三月二六日まで勤務を続けていた(《証拠省略》)。
(2) 太郎は、平成四年五月より肥大型心筋症、痛風のため、大和徳洲会病院(以下「徳洲会病院」という。)に通院していたが、平成六年三月中旬に咳、息切れが出現したことから、同月二八日に、胸部X線写真撮影などの診察を受けたところ、胸水の貯留が認められたことから、翌二九日、検査のため徳洲会病院に入院し、胸腔穿刺によって得られた胸水の細胞診検査のほか、胸部X線写真撮影及びCT検査を受けた。この検査により、太郎に肺癌の疑いがあることが判明したが、原告らは、太郎にこのことを秘していた(《証拠省略》)。
(二) 本件病院への入院
太郎は、平成六年四月一一日、徳洲会病院の清水正法医師の紹介で、本件病院の診察を受け、以後、被告B山が、主治医として、太郎の診療を担当することになった(《証拠省略》)。
被告B山は、同日、徳洲会病院のX線写真や胸部CTを読解し、右肺下野に多発結節影を認め、これに、徳洲会病院における胸水の細胞診検査の結果をも考慮した上、原告らに対し、原発不明癌で肺転移病変があること、癌性胸膜炎であること、その癌は進行癌であること、末期癌であり余命は数か月であり、長くても六か月くらいであること、まず胸水のコントロールが先決で、そのため胸膜の癒着を図る必要があること、入院治療が必要であることを説明するなどしたが、当時本件病院は満床だったことから、太郎は、即日入院せず、同日から通院しながら胸部X線断層撮影をはじめとする各種検査や胸腔穿刺による胸水排除を受け、同年五月一一日、本件病院に入院した(《証拠省略》)。
(三) 抗癌剤の投与と投与後の経過
太郎は、平成六年五月二五日、抗癌剤である塩酸イリノテカン(商品名はトポテシンであり、塩酸イリノテカンは一般名であるが、以下、この一般名をもって記載する。)六〇mg/m2とシスプラチン(商品名はブリプラチン及びランダであり、シスプラチンは一般名であるが、以下、この一般名をもって記載する。)八〇mg/m2の併用投与を受け(以下「本件併用投与」という。)、同年六月一日には、二度目の塩酸イリノテカン六〇mg/m2の投与を受けた(以下「本件再投与」という。)が、その後、下痢、血尿、発熱、白血球数低下などの症状が認められ、同月八日、死亡した(《証拠省略》)。
三 争点
1 被告B山の診療行為に過失又は債務不履行があるか。
(一) 本件併用投与を行ったことに過失又は債務不履行があるか。
(二) 本件再投与を行ったことに過失又は債務不履行があるか。
(三) 被告B山に、原告らに対するインフォード・コンセントの確保義務違反が認められるか。
2 太郎及び原告らの被った損害はどれほどか。
四 争点に対する当事者の主張
1 本件併用投与を行ったことに過失又は債務不履行があるか。
(原告らの主張)
塩酸イリノテカンは、単独投与の場合ですら、重篤な骨髄抑制や下痢の副作用に起因した死亡例も認められるほど、副作用について問題のある新薬であり、適応患者の選択を慎重に行うことなどの注意が為されていたものであって、ましてシスプラチンとの併用投与については、パイロット併用臨床試験と呼ばれる臨床試験しか行われておらず、効果や副作用について未熟なデーターしか存在していなかった。そして、そのデータによっても、単独投与に比べ、骨髄機能抑制などの副作用が増強することが報告されており、腎障害のある患者に対しては慎重に投与することが使用上の注意として掲げられていたのであるから、本件併用投与当時、腎機能がかなり低下していた太郎に対して、腎障害を増幅する副作用をもつシスプラチンとの併用投与をすべきでなかった。
(被告らの主張)
塩酸イリノテカンとシスプラチンの両薬剤は、厚生大臣に承認された抗癌剤であり、また、併用投与は、臨床上選択しうる治療方法であり、かつ、併用第Ⅰ相及び併用第Ⅱ相の各臨床試験を経て有用性が極めて高いとの評価を受けた治療方法であった。本件併用投与当時、太郎の腎機能は三分の一に低下していたが、予備能力の低下に過ぎず、機能低下は軽度のものであって、塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用投与の禁忌患者とされる重篤な腎障害のある患者ではなかった。
2 本件再投与を行ったことに過失又は債務不履行があるか。
(原告らの主張)
被告B山は、製薬会社の社内資料に過ぎなかったパイロット併用臨床試験の試験概要・用法容量変更基準(スキップ基準)に従い、スキップする場合として腎機能障害が挙げられていないことを理由に、本件再投与を行っているが、本件再投与当時における太郎の腎機能は、本件併用投与当時に比べ、著しく低下し、また、平成六年五月三一日及び六月一日における太郎の全身状態は、食欲がなく、吐き気が続いていたのであるから、被告B山は、再投与を行うべきではなかったのに、漫然と再投与を行ったものであって、これは治療名目で臨床試験を行ったに等しいものであった。しかも、被告B山は、本件再投与の際には、大阪の学会に出席していて病院にはいなかったのであって、患者の顔も見ずに行った本件再投与は、危険な薬剤の無診察投与と言わざるを得ない。この点、太郎のカルテには、被告B山が同年五月三一日に行ったと主張する留守番の医師との太郎についての討論の内容が、全く記載されていない。
(被告らの主張)
本件再投与前の太郎の白血球数は、七九〇〇/mm3あるのであって、CPT―一一(塩酸イリノテカン)研究会の第Ⅲ相臨床試験実施計画書によれば、第二回投与予定日に、投与しない基準として、当日の白血球数が三〇〇〇/mm3未満の場合としているところからすれば、二回目の投与を避けなければならない理由はなかったのである。原告らは、腎機能の低下との関係で投与を中止すべきだったと主張するが、これは塩酸イリノテカンの副作用の特性についての理解に欠けるものであり、腎機能との関係で本件再投与を中止すべき根拠はない。被告B山は、学会に出席していたために、六月一日及び二日には、太郎の診療を行っていないが、同僚の呼吸科の医師に十分な引継ぎをして学会に出席したものである。
また、ある行為に起因して発生した結果について、当該行為者にその法的責任を問うためには、実際に発生した結果が、予見すべき具体的経過をたどっていることが必要であると考えられるところ、鑑定人西條長宏及び同木村秀樹が本件再投与を危険であるとしている根拠は、塩酸イリノテカンが有する腎毒性が直接的に腎機能を悪化させて、死亡させる危険性が存在するためであるから、両者が予見すべきとする具体的機序と異なる経過をたどった本件結果について、被告らに法的責任を問うことはできない。
さらに、仮に、本件再投与を行わなかったとしても、太郎に死亡の結果が生じた可能性があるから、本件再投与と太郎の死の結果との間には、因果関係がない。
3 被告B山は、原告らに対するインフォームド・コンセントの確保義務違反が認められるか。
(原告らの主張)
塩酸イリノテカンのように重篤な副作用を伴う危険な抗癌剤の投与に当たっては、その危険性を患者又は家族に十分説明した上、その同意を得ることが必要不可欠であるところ、本件併用投与のように、未だ十分なデータがなく、冒険的又は試行的な医療行為をする場合には、医師の患者又は家族に対する説明義務はより強く要請されるものであるにもかかわらず、被告B山は、太郎の家族である原告らに対し、単に新しい薬が出るからと述べただけで、投与する抗癌剤が塩酸イリノテカンであることも告げず、シスプラチンとの併用投与を行うこと及び併用投与によりどのような副作用があるか、また、副作用により死亡することがあり得るかなど一切説明していない。仮に、カルテに記載されているような説明が為されていたとしても、カルテには承諾を得た旨の記載はなく、また、この程度の説明では、標準的な治療法として確立していない本件併用投与を行う場合の説明として不十分である。
さらに、被告B山は、本件併用投与後である平成六年五月三〇日における太郎の腎障害は危険な状態にあり、この時点で本件再投与を中止すれば、救命の可能性があったのであるから、この時点においても二回目の塩酸イリノテカンの投与は非常に危険であり、これによって死亡することもあり得ることを原告らに説明し、了解を得るべきだったが、被告B山は、同月三一日午後四時に原告らと面会しているにもかかわらず、このような危険な状況を一切説明しなかった。
(被告らの主張)
被告B山は、同年五月一九日、太郎に対して癌の化学療法を開始する方針を立てた際、原告らに対し、右上葉原発の肺癌である可能性が高いこと、肺癌・癌性胸膜炎、肺転移であること、胸水のコントロールは成功したこと、進行肺癌として全身的に化学療法をする必要があること、抗癌剤は二種類使用し、その一つは従来から使用されているもので、もう一つは厚生省が認可した有効性が期待できる新薬であること、これらの抗癌剤は点滴で投与すること、吐気、嘔吐、食欲低下、便秘、下痢等が生ずる可能性があること、制吐剤を投与して嘔吐等を防止すること、腎機能障害を防止するために点滴量を多くして尿量を多くする必要があること、白血球数減少などの骨髄障害が生ずる可能性があり、ある程度以上に白血球数が減少したら白血球増殖因子を注射することなどを説明した。本件化学療法は、原告らの主張するような冒険的治療又は試行的治療行為ではなく、太郎に対する実地の診療行為であって臨床試験ではないのであるから、いわゆるインフォームド・コンセントについても、試行的な医療行為又は臨床試験の場合と異なり、被告B山の行った説明内容及びこれに基づく承諾で十分と言わねばならない。原告らは、仮に、カルテに記載されているとおりの説明が為されていたとしても不十分である旨主張するが、医師は、患者や家族に対して詳しい説明をしても、特段の事情のない限り、カルテにはその要旨しか記載せず、また、承諾を得てもその旨を記載しないのが普通であって、原告らの主張は、カルテの記載に関する理解不足によるものである。
また、原告らは本件再投与についても説明し、了解を得るべきであったと主張するが、これは本件再投与が、太郎の腎機能低下との関係で非常に危険であったとの前提に立つものであるところ、この前提は塩酸イリノテカンの副作用の特性についての理解に欠ける誤ったものである。
4 原告ら(太郎)の被った損害
(原告らの主張)
(一) 逸失利益 六三五万〇二六四円
(1) 太郎は徳洲会病院に入院するまでは、E田エンジニアリング株式会社において嘱託社員として平常どおり勤務を続けていたものであって、同社における太郎の給料は、少なくとも年額三四三万七五八四円を下らない。
(2) 太郎は、平成六年四月現在、年間二三六万二七〇〇円の老齢厚生・基礎年金を受給できる地位にあった。
(3) また、企業単位で加入した年金として東京都電設工業厚生年金基金から少なくとも年間四四万二六〇四円を、厚生年金基金連合会から年間一〇万七三七六円を受給できる地位にあった。
(4) 太郎は、本件抗癌剤による副作用による死亡がなければ、少なくとも一年間は存命していたものと考えられるから、本件副作用死により被った逸失利益は、六三五万〇二六四円を下らない。
(二) 慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円
(1) 太郎は、平成六年五月二五日の塩酸イリノテカンの投与後、その副作用により食欲不振や吐き気・下痢などの副作用に苦しみ、ひいては、骨髄抑制のもたらす血圧の大幅低下の結果、本人にとって不条理きわまりない苦痛の中で死亡するに至った。
(2) 本件における塩酸イリノテカンの不適切な投与、インフォームド・コンセントの確保義務違反及びその後の不適切な措置は、適切な医療行為に対する患者の期待権を侵害して精神的苦痛を与えた。
(3) こうした甚大な精神的苦痛に対する慰謝料は、少なくとも二〇〇〇万円を下らない。
(三) 弁護士費用 二一〇万〇〇〇〇円
原告らは、本件訴訟の提起、追行を原告訴訟代理人に依頼し、その費用として、収入印紙及び証拠保全費用を含めて、六〇万円を支払い、報酬として一審の判決確定後一五〇万円を支払うとの約束をした。
(四) 以上合計二八四五万〇二六四円を法定の相続分に応じて按分し、原告花子については一四二二万五一三二円、その余の原告についてはそれぞれ四七四万一七一〇円を被告らは賠償する義務がある。
(被告らの主張)
(一) 逸失利益
原告らは、少なくとも太郎が一年間は存命していたことを前提に、その間、勤務していた会社から給与を年額三四三万七五八四円を取得できたとして、これらを逸失利益に含めているが、被告B山が抗癌剤治療を開始した時点では、既に末期の肺癌で右肺の機能は完全に消失しているため、職場に復帰できる可能性はほとんどなかったものであり、右給与相当額を逸失利益に含めることは失当である。
また、太郎の余命であるが、長くても一か月から三か月であり、仮にその中間の二か月を基準とすると、原告らが太郎の取得できたとする厚生年金及び厚生年金基金は七万三七六七円となる。
(二) 慰謝料
万一、塩酸イリノテカン投与が不適切だったとしても、被告B山は余命一か月から三か月である末期癌の患者である太郎の余命を何とかのばそうとして懸命に検討した結果、肺癌に対し従来の併用化学療法に比し高い奏効率を示し、かつ、副作用があまり重複しない本件併用療法を施行したものであり、決して安易に本件併用療法を選択したものではない。このように被告B山が医師として真摯な努力をしていること、家族への説明も十分に行っていること、太郎が一か月から三か月という余命であること、投与後の処置に不適切な点が存在しなかったことなどを総合考慮すると、原告らの主張する二〇〇〇万円の慰謝料は余りにも高額すぎて妥当ではない。
第三争点に対する判断
一 前記前提となる事実及び《証拠省略》によると以下の各事実が認められる。
1 太郎が本件病院に入院するまでの経緯
(一) 太郎は、平成六年四月一一日、本件病院を受診し、胸部X線断層写真撮影、骨シンチグラム、胸部CT検査、腹部超音波検査などの各検査を受けたほか、胸腔穿刺による胸水の排除(九〇〇ミリリットル)を受けた。太郎を診察した被告B山は、徳洲会病院で撮影されたX線写真により右肺下野に多発結節影を認めたことなどから、原告らに対し、太郎の病名は癌性胸膜炎であり、予後は不良であること、原発不明癌で肺転移病変があること、その癌は進行癌であること、末期癌であり余命は数か月であり、長くても六か月くらいであること、まず胸水のコントロールが先決で、胸膜の癒着を図る必要があること、入院治療が必要であること、入院病床が満床であるから、しばらく、外来通院にて検査及び治療を行うことなどを説明したが、原告らの希望に従い、太郎に対しては、癌を告知しなかった。
なお、平成六年四月一二日、前日に採取した胸水の細胞診検査が行われ、その結果、右細胞がクラスⅤ(当該細胞が一〇〇パーセントの確率で癌細胞であることを意味する。)の腺癌であると診断された。
(二) 太郎は、その後、平成六年四月一五日、同月二二日、同年五月二日、同月九日に本件病院を外来受診し、気管支鏡検査、腹部超音波検査、脳MRI検査、胸部X線撮影、胸腔穿刺による胸水の排除(合計約四八五〇ミリリットル)、排出した胸水の細胞診、薬剤投与等を受け、同月一一日から本件病院に入院することになった。
2 入院後本件併用投与までの診療経過
(一) 太郎は、平成六年五月一一日、本件病院B棟四階病棟に入院した。被告B山は、胸部X線検査の結果、肺癌の原発巣は未だ不明のままであったが、右胸水貯留が早く、右肺下野に結節があって、胸水のコントロールがまず第一であると診断し、翌一二日に胸腔内にドレナージチューブを挿入することを太郎に伝えた。
(二) 被告B山は、平成六年五月一二日、太郎の右胸腔にドレナージチューブを留置し、胸水一五〇〇ミリリットルを排液させ、さらに胸水の貯留の防止と胸膜を癒着させる目的のピシバニール(免疫賦活剤)のほか、シスプラチン五〇mgを胸腔内に注入し、また、太郎の悪心、嘔吐、発熱を抑えるため、制吐剤及び解熱剤を投与した。
被告B山がシスプラチンを併用したのは、胸水中や胸膜に接着して増殖している癌細胞に対しての殺細胞効果を期待したためであったが、被告B山は、シスプラチンを投与すること及びシスプラチンの薬理作用等について、原告らに事前に説明をしていなかった。
(三) 被告B山は、平成六年五月一三日から一七日までの間、太郎に胸部不快感や発熱などの症状があったものの、ドレナージチューブからの胸水の排液がほとんどなく、胸部X線写真からも、太郎の胸膜が癒着・肥厚しており、胸水も葉間胸膜に貯留しているに過ぎないと判断したことから、同月一七日午前中に、ドレナージチューブを抜去した。
(四) 被告B山は、平成六年五月一八日、それまでに行われた太郎に対する腹部超音波、同月一六日施行の脳MRI、同月一二日施行の骨シンチグラムの各検査により、特に異常所見を認めなかったものの、心電図検査により左心室肥大、左心室心筋壁の虚血変化を、また、五月一三日施行の胸水細胞診検査では活力のある癌細胞を多数認めたことから、原告一郎及び原告春子らに対し、原発不明癌であり、癌性胸膜炎、肺転移があること、胸腔内にドレナージチューブを挿入して胸水を排液した後、胸膜癒着剤、抗癌剤を注入して再排液したところ、胸水貯留がなくなったため、ドレナージチューブを抜去したこと、右上葉原発の肺癌である可能性が高いこと、今後は化学療法を主体にして治療を行うこと、同月二〇日から二二日にかけて太郎の外泊を許可することなどを説明した。
(五) 被告B山は、平成六年五月一九日、胸部CT検査(五月一三日撮影)により胸水が局所的に被包化しており、また、右背からの胸腔穿刺による胸膜が肥厚していたことから、胸膜は癒着し、胸水のコントロールもできたものと判断し、シスプラチンと塩酸イリノテカンを使用して癌の化学療法を開始する方針を立て、太郎に対し、右上葉の結節が胸水貯留の原因であり、点滴治療を始める旨伝えるとともに、原告花子、原告春子、原告夏子に対し、肺癌として治療すること、抗癌剤を投与するなどしながら胸水のコントロールができたこと、化学療法は二種類の薬剤で行い、一つは新薬として承認されたばかりで、ようやく使えるようになったものであることを説明したが、投与する予定の具体的薬品・商品名をはじめ、吐気以外の抗癌剤の副作用の内容や抗癌剤の副作用により死亡する可能性のあることは伝えなかった。一方、右説明を聞いた原告らは、これを特に拒まなかった。
【証拠判断】
この点につき、被告B山は、抗癌剤の副作用について説明した旨陳述、供述するが、診療録に副作用について説明した旨の記載はないこと、副作用の説明を受けていないという点について、原告花子及び原告一郎の供述は一致していること、これに先立つ同月一二日に抗癌剤であるシスプラチンを投与した際も、シスプラチンの副作用等について事前に説明をしていないことなどからすると、診療録には説明した内容の全てを記載するわけではないことを考慮しても、抗癌剤の副作用についても説明したという被告B山の供述は信用できない。
(六) 太郎は、五月二〇日午前九時から同月二二日午後七時まで外泊(一時帰宅)した。
(七) 被告B山は、平成六年五月二三日、太郎の血清クレアチニン値(以下「クレアチニン値」という。)の測定値が一・三一mg/dlと同月二〇日の測定結果より改善していたため、同月二五日から化学療法を開始することにし、その薬剤については、水分負荷による利尿を促すことで、腎機能の悪化を防げると考え、当初の予定どおり、塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用投与による化学療法を選択することにした。この時、太郎に先に投与したピシバニールの影響と考えられる発熱はあったが、食欲はあった。
(八) 被告B山は、平成六年五月二五日午前一〇時五分より、太郎に対し、シスプラチン八〇mg/m2(一二八mg)及び塩酸イリノテカン六〇mg/m2(九六mg)を、制吐剤、副腎皮質ホルモン、利尿剤、循環改善剤とともに投与し、化学療法を開始した。投与後、太郎の全身状態等に特に変化はなく、食欲もあり、嘔吐や嘔気もなかったが、尿量は幾分少なく、右腹部痛を訴えていた。
なお、被告B山は、本件併用投与以前に、四、五人の癌患者に対して、塩酸イリノテカンとシスプラチンを併用投与した経験を有していたが、その中に、太郎ほど腎機能が低下した患者はいなかった。
(九) 太郎の本件併用投与前の腎機能検査の結果及び白血球数の測定値は以下のとおりであった。
(1) 尿素窒素値(標準範囲は八・〇から二〇・〇mg/dl。なお、以下、単に数値のみを示す。)
平成六年四月一一日 二二・四
同年五月一二日 一七・八
同年五月一六日 三一・六
同年五月二〇日 三〇・八
同年五月二三日 二六・九
(2) クレアチニン値(標準範囲は〇・七から一・三mg/dl。なお、以下、単に数値のみを示す。)
同年四月一一日 一・四八
同年五月一三日 一・九七
同年五月一六日 一・四八
同年五月二〇日 一・五六
同年五月二三日 一・三一
(3) クレアチニンクレアランス値(標準範囲は七〇から一三〇ml/min。なお、以下、単に数値のみを示す。)
同年五月一三日 一七・四五
同年五月一六日 四〇・六三
(4) 白血球数(正常値は三九〇〇から九八〇〇/mm3。なお、以下、単に数値のみを示す。)
同年四月一一日 九七〇〇
同年五月一二日 八九〇〇
同年五月一六日 一三三〇〇
同年五月二〇日 一〇四〇〇
同年五月二三日 一〇二〇〇
3 本件併用投与後本件再投与までの診療経過
(一) 太郎は、平成六年五月二六日、不快感があり、当初は吐気がなかったので、朝食を半分以上食べたものの、午前中から吐気を訴えたため、制吐剤が投与され、この結果、吐気は治まった。昼より食欲低下があったが、尿は順調に排出され、前日の右腹部痛もなくなっていた。
(二) 太郎は、平成六年五月二七日、吐気により目を覚まし、三七度程度の微熱が継続し、その後吐気は治まったものの、食欲がないなどの症状が見られ、また、同日行った生化学検査により、血清クレアチニン値が一・九八に上昇しており、腎機能が低下していることが確認されたことから、被告B山は、シスプラチンの投与が腎機能の低下の原因であり、しばらく輸液を継続する必要があると考え、太郎に対し、数日間は点滴を継続する必要があることを説明した。
(三) 被告B山は、平成六年五月二八日、太郎に吐気と吃逆(しゃっくり)が出現し、右腹部痛も見られたため、吃逆は制吐剤又は吐気の出現のいずれかによるもの、腹痛は便秘によるものと判断し、点滴を継続し、利尿剤等の薬剤を投与した。
(四) 被告B山は、平成六年五月二九日、太郎が右下腹部痛と腹満感を訴え、便秘が約一週間続いていたことから、太郎の腹満、便秘を解消するため、グリセリン浣腸を行い、また、制吐剤を投与するなどした。原告らは、同日、看護婦を通して、太郎の症状、検程結果についての説明を求めたところ、被告B山に、前に話したことと同じであるから今話すことはないとして一度は断られたが、太郎に癌の転移があるか否かを知りたい旨看護婦に述べて、再度、被告B山との面談を求めたことから、同月三一日午後四時から、面談が行われることになった。
(五) 被告B山は、平成六年五月三〇日、太郎のクレアチニン値が二・六九と、同月二七日の検査結果に比べ、急上昇していたことから、点滴を続けることにし、利尿剤等を投与するなどした。この日の太郎の症状は、発熱、嘔吐がないものの、食欲がなく、吃逆も出たり止まったりをくり返しており、体がフワフワするような自覚症状があった。
(六) 平成六年五月三一日、太郎に発熱はなく、尿も出ていたが、吐気は続き、食欲もなく、また、倦怠感や下腹部のきりきり感もあった。被告B山は、夕方、原告らと面談し、癌が骨や脳に転移していないこと、腎機能が低下しているが、点滴をしているから大丈夫であることを伝えたが、翌日に抗癌剤を投与する予定であることや塩酸イリノテカンの副作用等については説明をしなかった。
(七) 太郎は、平成六年六月一日早朝に上腹部に不快感を覚え、朝食を摂取できず、嘔吐や吃逆もあり、昼食も取れず、嘔吐や倦怠感のため、笑顔を見せるも活気のない状態であったが、塩酸イリノテカン六〇mg/m2(九六mg)の投与を受けた。なお、被告B山は、平成六年六月一日の本件再投与の際、日本気管支学会総会に出席するため大阪に出張しており、病院にはいなかった。
(八) 本件併用投与後本件再投与までの太郎の腎機能検査の結果及び白血球数の測定値は以下のとおりであった。
(1) 尿素窒素値(標準範囲は八・〇から二〇・〇)
平成六年五月二七日 四二・二
同年五月三〇日 六〇・九
同年六月一日 七四・一
(2) クレアチニン値(標準範囲は〇・七から一・三)
同年五月二七日 一・九八
同年五月三〇日 二・六九
同年六月一日 二・六八
(3) クレアチニンクレアランス値(標準範囲は七〇から一三〇)
同年五月三〇日 二〇・三二
(4) 白血球数(正常値は三九〇〇から九八〇〇)
同年五月三〇日 九一〇〇
同年六月一日 七九〇〇
4 本件再投与後の診療経過
(一) 太郎は、平成六年六月二日から五日まで、吐気、泥状便が続き、食欲もなく、また、血尿や胃痛が続いたり、腹部全体が熱くなる自覚症状もあった。同月三日の腎機能検査の結果及び白血球数の測定値は、尿素窒素値が七六・五、クレアチニン値が二・五五、白血球数が七五〇〇であった。
(二) 被告B山は、太郎が、平成六年六月六日の午前中、ベッドわきのポータブル便器に坐位をとった時に、全身蒼白になって、一時意識レベルがやや低下し、最高血圧値が四〇mm/Hg(以下、単に数値のみを示す。)程度まで下降したことから、太郎に対し、昇圧剤を投与し、また、同日行われた各検査結果により(尿素窒素値九六・三、クレアチニン値四・〇四、白血球数六〇〇)、急激な骨髄抑制作用が出現し、腎機能もさらに悪化していると判断したことから、太郎に対し、白血球増殖因子、抗生物質等を投与したが、午後六時以降、太郎の最高血圧値は再度落ち込み、六〇から七〇付近の低値で推移した。被告B山は、太郎の症状を見て、骨髄抑制により生じた白血球数減少により、腸管粘膜から腸内殺菌が体内に入り込んで敗血症を併発していると診断した。
(三) 被告B山は、平成六年六月七日、太郎の意識は清明であったものの、太郎に冷感や腹部全体が痛いような自覚症状があって、最高血圧値が依然六〇から七〇程度、白血球数の測定値が二〇〇といずれも低値で推移し、また、腎機能も、尿素窒素値が一〇〇・五、クレアチニン値が四・四九と、さらに悪化していたため、昇圧剤、ショック改善剤、利尿剤、抗生物質、白血球増殖因子等を投与・注射するなどしたところ、一時、最高血圧値が九五まで上昇したものの、午後一〇時ころ、再び八〇台まで下降した。そこで、被告B山は、原告夏子及び原告春子に対し、危険な状態が続いており、あと二日が山であること、元々軽度の腎機能障害があったところに化学療法を行ったために腎機能が低下していること、血圧は昇圧剤の影響でようやく八〇台に保っている状況であること、白血球数が急激に下降しているが、白血球増殖因子を投与したので、効果があれば白血球数も回復してくるだろうこと、腎機能は回復しないだろうから、これ以上の化学療法ができなくなってしまったこと、胸部X線写真で見る限りは、胸膜は薄くなっており、胸水もなく、肺野もきれいになっているので、白血球数さえ回復すれば、元気になることが期待できることなどを説明した。
(四) 被告B山は、平成六年六月八日、白血球数が七〇と極めて低値であったため、白血球増殖因子を点滴投与したが、同日午後零時すぎころ、太郎が喘ぎ呼吸や呻吟を開始し、胸部X線写真では両上肺野に浸潤影が出現したので、原告らに対し、昨日より白血球数が減少しており、様態が急変するおそれがあること、今は薬が効くのを待つほかないことなどを告げた。しかし、午後零時五〇分ころに、急に太郎の意識レベルが低下し、下顎呼吸が出現して、脈拍も徐脈化したため、被告B山は、原告らに対し、心臓が弱っていることを告げ、人工呼吸、心臓マッサージ、薬剤投与などの懸命な蘇生措置を講じたが、その甲斐なく、太郎は、同日午後一時五一分に死亡した。原告らは、被告B山から、太郎の腎機能が非常に悪く、化学療法の強い副作用により、白血球数が急激に落ちて敗血症を起こしたこと、太郎の体力が抗癌剤に耐えられなかったが、胸膜に対する治療をしていなければ、もう少し耐えられたと思うことなどを伝えられた。
5 塩酸イリノテカンの臨床試験
(一) 新抗癌剤の承認を目的として行う研究には、一九九一年に厚生省から「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」が策定されており、これによると、第Ⅰ相臨床試験、第Ⅱ相臨床試験、第Ⅲ相臨床試験の三段階に分けて臨床試験を行うこととなっているが(第Ⅲ相臨床試験については、必ずしも承認前に為される必要はない)、その試験内容・目的は以下のとおりである。
(1) 第Ⅰ相臨床試験
この試験は、試験の対象とした新抗癌剤について、その最大耐用量を設定すること、第Ⅱ相臨床試験での至適投与量及び投与方法を決定すること、毒性の種類と質を評価すること、治療効果を観察することなどを目的とする臨床試験であり、右新抗癌剤の安全性を評価することに重点を置いた試験である。
(2) 第Ⅱ相臨床試験
この試験は、最大耐用量に基づき推定された至適投与量より試験を開始し、その治療方法が実際に行いうるかどうかの判定をすること、治療効果の評価をすること、副作用の程度の推定(安全性の評価)をすること、第Ⅲ相臨床試験における治療方法を決定することなど、対象とした新抗癌剤の有効性及び安全性を客観的に評価することを目的とする臨床試験である。
(3) 第Ⅲ相臨床試験
この試験は、新しい治療方法の評価のための最終段階の臨床試験であり、疾病の自然経過に対する治療の効果を検討すること、現時点での標準的治療方法又は最善の治療方法と、新抗癌剤による新しい治療方法との効果を比較すること、効果が同等の場合は毒性を比較することなど、より優れた標準的治療方法をさらに確立するために行われる臨床試験である。なお、二剤以上の抗癌剤を使用した併用化学療法を念頭に置き、第Ⅲ相臨床試験に入るまでに、併用投与に関する併用第Ⅰ、第Ⅱ臨床試験が行われることもある。
(二) 塩酸イリノテカンは、単独投与に関する第Ⅰ相臨床試験と第Ⅱ相臨床試験及びパイロット併用臨床試験を経て、平成六年一月一九日に抗癌剤として承認されたものであるが、単独投与及び併用投与に関する第Ⅲ相臨床試験は新薬承認後に為されることになっており、本件診療当時も未だ終了していなかった。
(三) パイロット併用臨床試験
(1) パイロット併用臨床試験とは、その言葉だけをとると、予備的な臨床試験という意味であるが、実際は、シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与に関する併用第Ⅱ相臨床試験として位置づけられたものであり、概ね、以下の試験概要に従って実施された。
① 対象
非小細胞肺癌
② 用法・用量
シスプラチン八〇mg/m2を第一日、塩酸イリノテカン六〇mg/m2を第一日、八日、一五日に投与する。四週間を一コースとし、二コース以上繰り返す。第一日は、塩酸イリノテカン投与後シスプラチンを投与する。
③ 用法・用量変更基準(以下「スキップ基準」という。なお、本件は、一コースの途中で太郎が死亡しているため、一コースに関する部分のみ挙げる。)
第八日、一五日の塩酸イリノテカン投与は、以下の基準に一つでも該当する場合は、当該投与予定日に投与をしない。
白血球数・・三〇〇〇未満
血小板数・・一〇〇〇〇〇未満
下痢・・通常より便通が四回以上多い。軽度以上の腹痛を伴った下痢。夜間便通あり。
(2) パイロット併用臨床試験(併用第Ⅱ相臨床試験)においては具体的な患者選択基準があり、その中に、十分な腎機能を有する者(クレアチニン値正常上限以下、クレアチニンクレアランス六〇ml/min)も挙げられていたが、本件診療当時、製薬会社が作成した塩酸イリノテカンの解説書(平成六年四月作成のもの。以下「本件解説書」という。)及び能書(平成六年一月作成のもの。以下「本件能書」という。)には、パイロット併用臨床試験の右試験概要及び結果が簡単に記載されているだけで、右選択基準については全く触れられておらず、また、平成五年五月一七日付け米国臨床腫瘍学会総会口演発表においても、患者選択基準について、適切な腎機能を持つ患者とするだけで、何ら具体的に言及されていなかった。また、厚生省薬務局新医薬品課編集の新医薬品承認審査概要(平成六年四月二八日発行のもの)では、パイロット併用臨床試験そのものについて、全く触れられていなかった。
(四) 第Ⅲ相臨床試験実施計画
塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用投与に関する第Ⅲ相臨床試験実施計画書(平成六年六月七日に作成され、平成七年四月一二日に改訂されたもの)によると、右併用試験は、パイロット併用臨床試験と同様の用法・用量で行われることになっており、一コースにおけるスキップ基準についても、三八度以上の感染を疑う発熱があった場合に投与を延期することが追加された他は、下痢についての基準がより厳格なものに変更されたにすぎず、試験対象者についても、腎機能に高度の障害のない症例(原則として、血清クレアチニン値が正常範囲の上限値以下の者)という旨の限定が加えられていた。
6 塩酸イリノテカン及びシスプラチンとの併用投与の奏効性と副作用
(一) 塩酸イリノテカン及びシスプラチンとの併用投与の奏効性
塩酸イリノテカンは、非小細胞肺癌(太郎が罹患していた腺癌はこれに属する。)に効能がある薬剤で、塩酸イリノテカンの単独投与に関する第Ⅱ相臨床試験における、腺癌非切除者(初回治療例。太郎はこれに該当する。)に対しての奏効率は、二九・八パーセント(但し、途中死亡したり、副作用が発現したため、投与を中止するなどの不完全例も含む。)であり、パイロット併用臨床試験における、腺癌(初回治療例)に対する奏効率は、五二・九パーセント(前同様)であった。塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用療法は、右各抗癌剤の副作用に重複が少なく、相互に重複して副作用が増強することが少ないと考えられており、また、本件診療当時において認可されていた他の抗癌剤を利用しての化学療法に比べて、非小細胞肺癌に対する奏効率も高かった。
(二) 塩酸イリノテカン及びシスプラチンとの併用投与の副作用
(1) 塩酸イリノテカンの主な副作用としては、白血球減少、ヘモグロビン減少、下痢、悪心・嘔吐、食欲不振、脱毛などが挙げられ、特に、白血球減少と下痢は強く発現し、それらに起因したと考えられる死亡例も認められており、他の抗癌剤に比べ、副作用の強い薬であった。そのため、本件解説書や本件能書には、骨髄機能抑制のある患者、下痢(水様便)のある患者、多量の胸水のある患者等が投与禁忌とされており、投与禁忌に該当しなくても、その患者の状態や前治療の内容などに十分に注意し、投与が適切と考えられる患者にのみ投与するよう注意書きがなされるとともに、慎重投与患者として、腎障害のある患者などが挙げられていた。また、併用投与に関しても、他の抗癌剤との併用により、骨髄抑制等の副作用が増強することがあるので、減量するか投与間隔を延長するように指摘してあった。
また、第一製薬株式会社作成の平成六年一〇月付け説明書(「適正な使用のお願い」と題するもの)では、併用療法時の注意として、パイロット併用臨床試験において、骨髄機能抑制などの副作用が増強することが報告されている旨記載されていたが、このことは、本件能書や本件解説書に記載されていなかった。
(2) シスプラチンも非小細胞肺癌に効能がある薬剤であり、製薬会社作成にかかる本件診療当時のシスプラチンの能書には、急性腎不全等の重篤な腎障害や白血球減少等の骨髄機能抑制作用等の副作用があらわれる旨及び他の抗癌剤との併用により、骨髄機能抑制等の副作用が増強されることがある旨が記載されていた。
二 太郎が死亡した機序及び経過について
前認定事実及び《証拠省略》に基づき、太郎が死亡した機序及び経過について検討すると、本件併用投与前から存していた腎機能障害が、本件併用投与におけるシスプラチンの腎毒性の影響を専ら受けて悪化し、その状態で本件再投与を行ったため、塩酸イリノテカンが有する腎毒性により、腎機能がさらに悪化したことから、腎臓から排出されるべき塩酸イリノテカンが排出されなくなり、体内に貯留したため、塩酸イリノテカンの副作用である骨髄抑制作用が強く出現して、白血球数の減少をもたらしたことにより、殺菌作用が働かず、何らかの感染症が敗血症にまで進行して、敗血症性ショックを引き起こし、ショックにより生じる血圧低下が腎血流低下を起こして腎機能をさらに悪化させたことにより、急性腎不全の状態に至って死亡したものと考えるのが相当である。
この点につき、鑑定人木村秀樹(以下「木村」という。)は、その鑑定意見の中で、もともと太郎に心不全、腎不全の兆候があるところに、化学療法を行ったことにより腎機能のさらなる悪化を招き、これによる尿毒症、電解質バランスの崩れが死亡の原因であるとしているが、木村自身も、概ね右認定のような死亡経過を考えても矛盾はないと証言しており、木村の右鑑定意見は右認定を覆すに足りるものではない。
また、被告B山は、塩酸イリノテカンは、腎毒性が全くない薬剤であるから、本件再投与が直接的に腎機能を悪化させることはない旨供述するが、《証拠省略》によれば、塩酸イリノテカンは、腎障害のある患者に対して慎重投与すべきとされている薬剤であり、パイロット併用臨床試験の結果を見ても、一定の割合で腎異常を生じさせているのであって、さらに、木村及び鑑定人西條長宏(以下「西條」という。)の各証言からしても、塩酸イリノテカンが腎毒性の強い抗癌剤であるとは一般的に考えられていないが、抗癌剤そのものに腎機能を悪化させる作用があり、塩酸イリノテカンは、抗癌剤として通常有する腎毒性を有していることが認められるから、被告B山の右供述は信用することができない。
三 本件併用投与を行ったことに過失又は債務不履行があるか(争点1)について
前認定のとおり、本件併用投与時において、塩酸イリノテカンは、正式に承認された薬剤であり、シスプラチンとの併用投与に関する臨床試験も行われていたのであって、しかも、他の抗癌剤又はそれらの併用投与よりも高い奏効率をあげていたことからすると、非小細胞肺癌の患者に対して、そもそも塩酸イリノテカンとシスプラチンを併用投与すること自体を取り上げて、これを不適切な診療行為と言うことはできない。そして、本件併用投与時の太郎には、本件能書又は本件解説書で投与禁忌とされている骨髄機能抑制、下痢(水様便)、多量の胸水の貯留等の症状は何ら認められない。もっとも、この点につき、平成六年五月二〇日以前に行われた腎機能検査により、太郎に腎障害が生じていたことは明らかであるから、一見、投与を差し控えるべきであるとも考えられるが、《証拠省略》を総合すると、本件併用投与時に生じていた太郎の腎機能障害の程度は、比較的軽度であって、すぐさま改善措置を執らなければならないものではなく、右併用投与を行うにしても、十分に補液して尿量を確保するなど太郎の腎機能が著しく低下しないような管理を行えば、右併用投与が不適切であったとは言えないから、本件併用投与を行ったことが、被告B山の過失及び被告県の債務不履行等に当たると言うことはできない。
この点、福島雅典証人(以下「福島」という。)は、本件診療当時、塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用投与に関する標準的治療法は未だ確立しておらず、医学的な常識として、実地医療で右併用投与をすべきではないなど右認定に反する証言をしているが、福島をはじめ、木村、西條、被告B山の各証言及び供述を具に検討するに、福島がその余の者と意見を異にしているのは、各専門医の実地医療に対する姿勢や考え方、パイロット併用臨床試験の捉え方、癌治療に対する医学的見解等がそれぞれ異なっているためであると解されるのであって、福島自身、医者によって判断が異なるかもしれない旨証言していることからしても、実地医療において塩酸イリノテカンとシスプラチンを併用投与することが、癌治療を専門とする臨床医としての常識を逸脱しているものとは考えられないから、右福島の証言は採用できない。
四 本件再投与を行ったことに過失又は債務不履行があるか(争点2)について
1 本件において太郎が死亡したのは、腎機能が悪化しているところに、塩酸イリノテカンを投与したためであると言うことができるところ、前認定及び《証拠省略》によれば、塩酸イリノテカンは、副作用が強く、抗癌剤が通常有する腎毒性を有している薬剤であったこと、本件再投与時の太郎の腎機能は、本件併用投与の影響で確実に悪化しており、必ずしも、これによりすぐに死亡するというわけではないが、抗癌剤投与は慎重ならざるを得ない状態であったこと、癌治療を専門とする通常の臨床医ならば、その時点で塩酸イリノテカンを投与することは危険であると判断をすることが各認められ、被告B山が、癌治療を専門とする臨床医であったことを考え合わせると、本件再投与を行うに当たっては、太郎の骨髄機能や消化器機能だけでなく、腎機能にも十分に注意を払って慎重にこれを投与するか、腎機能が回復するまで投与を控えるべきであった。しかしながら、被告B山が、引継ぎの医師に対して細かな指示を出すことなく、本件再投与時に大阪に出張していること、太郎ほど腎機能が低下している患者に対して、塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用投与を行った経験がないこと、塩酸イリノテカンに腎毒性はないなどと供述していることに照らすと、被告B山は、腎機能の悪化している患者に対して塩酸イリノテカンを投与することが危険であるとの認識が薄弱であるか、あるいはその認識を持っていなかったため、太郎の腎機能の悪化傾向や食欲・吐気・腹痛等の本件再投与直前の全身状態を特別に考慮することなく、本件再投与を行ったことが推認される。したがって、本件能書や本件解説書に記載されているパイロット併用臨床試験の用法・用量や警告されている骨髄機能抑制や消化器障害の有無を考慮したとしても、本件再投与を行った被告B山の診療行為は、医師としての注意義務に反する不適切な診療行為といわざるを得ない。
2 この点、被告らは、本件再投与時における太郎の各検査数値がスキップ基準に該当しないことを理由に、本件再投与に過失又は債務不履行が認められないと主張する。しかしながら、そもそも、スキップ基準は、腎機能が正常な患者に対して行われるシスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与に関するパイロット併用第Ⅱ相臨床試験を行う際の用法・用量を変更する一定の基準にすぎず、その具体的適用に当たっては、投与直前の患者の各種検査結果や全身状態、さらには、患者の希望等により、柔軟にあるいは逆に厳格に解釈する必要があるのであって、スキップ基準を絶対視するのは誤りであり、しかも、その臨床試験は、研究を目的とするものであるから、患者に対する危険性に配慮し、設備の整った施設において、知識豊富な専門医により行われるべきものである。そうすると、スキップ基準は、臨床試験におけるような管理状況がない実地医療において直ちに妥当する基準とは言えないし、本件併用投与前から腎障害がある太郎に対し、スキップ基準を形式的に適用することも極めて不適切である。したがって、スキップ基準に該当しなければ塩酸イリノテカンを再投与しても構わないという被告らの右主張は採用できない。
さらに、被告らは、太郎が死亡した経過が予見すべき具体的経過と異なっていることを理由に、被告らに法的責任を問うことはできない旨主張する。しかし、そもそも、予見すべき具体的経過と実際に起こった経過とが、寸分違わず一致していなければ、当該診療行為の責任を問うことができないのではなく、不適切な診療行為から生じた結果が、一般的に見て、予測しうる範囲内にある限り、当該行為者は、結果に対する責任を免れられないと解すべきである。したがって、仮に、本件再投与が直接的に太郎の腎機能を悪化させ、腎不全等により死亡する可能性があることを念頭に置いていたところ、たまたま、腎不全が生ぜずに、骨髄機能抑制作用が出現して死亡するという経過を辿ったとしても、骨髄機能抑制作用が塩酸イリノテカンの主たる副作用であることや腎機能が悪化すれば、塩酸イリノテカンの副作用が強く出現することが十分予測されることからすれば、本件再投与により、骨髄機能抑制作用が出現して死亡するという経過は十分に予測し得たし、しかも、本件においては、骨髄機能抑制を出現させた主たる原因の一つに本件再投与による腎機能の悪化が考えられるのであるから、その限度においては、被告B山の予見すべき範囲と結果とが符合しているとも言うことができるのであって、その後、腎不全を直接引き起こして死亡しようと、塩酸イリノテカンの主たる毒性である骨髄機能抑制作用を引き起こして死亡しようと、被告B山の結果に対する責任は免れないと解するのが相当である。したがって、被告らの右主張は、採用することができない。
また、被告らは、仮に、本件再投与を行わなかったとしても、太郎に死亡の結果が生じた可能性があるから、本件再投与と太郎の死の結果との間には、因果関係がないとも主張するが、本件再投与時の太郎の腎障害の程度は、必ずしも、これによりすぐに死亡するというわけではないこと、本件再投与を行ったことによって、太郎の様態が急変し、本件再投与後約一週間で死亡していること、木村及び西條とも、本件再投与を行わなかった場合に、ある程度の延命可能性があると鑑定していることなどからすると、本件再投与を行わなかった場合において、太郎が平成六年六月八日に死亡しなかった蓋然性は極めて高いと言わなければならず、本件再投与と太郎の死の結果との間に因果関係がないとの被告らの主張は採用できない。
3 結論
以上のように、被告B山は、強力な副作用を持ち、ある程度の腎毒性も有する薬剤である塩酸イリノテカンを、本件併用投与時よりも腎機能が悪化している太郎に対して再投与するに当たり、太郎の骨髄機能や消化器機能だけでなく、腎機能にも十分に注意を払って、その時点での投与を回避すべきであったにもかかわらず、スキップ基準を形式的に適用することに終始し、太郎の腎機能の悪化を見過ごし又はこれを無視して、漫然と塩酸イリノテカンの再投与を行ったものであるから、被告B山が本件再投与を行ったことには、不法行為でいう過失及び診療契約上の債務不履行があると言うほかなく、被告B山は不法行為に基づき、被告県は履行補助者による債務不履行に基づき、それぞれ連帯して、原告らに対し、原告らに生じた損害を賠償する義務を負うことになる。
五 太郎及び原告らの被った損害額(争点4)について
1 本件再投与を行わなかった場合の延命可能性及び就労可能性について検討すると、前認定のとおり、太郎は末期癌患者であり、手術による癌細胞の除去もできず、残された道は化学療法しかないという状態であったこと、木村は、抗癌剤投与を行わずに、他の治療を行った場合の延命可能性は、二か月から三か月であり、本件併用投与や本件再投与を行わなかったのみであれば、三か月から四か月であると鑑定しており、西條も、全く抗癌剤の投与を行わなかった場合の生存期間は、平成六年七月か同年八月くらいまでであると鑑定していることなどを総合すると、本件再投与を行わなかった場合の太郎の余命は、せいぜい三か月であると考えるのが相当であり、これに加え、太郎が、本件再投与時において、もはや抗癌剤の投与に耐えられないほど腎機能を悪化させていること、木村は、太郎の右肺の機能が完全に消失しているため、正常な勤務に就けた可能性が極めて低いと鑑定していることに照らすと、本件再投与を行わなかったとしても、太郎の就労可能性はほとんどなかったと言うべきである。
なお、福島は、本件併用投与のシスプラチンの量を半分にし、塩酸イリノテカンの投与を一回に限っておけば、少なくとも半年以上、うまくいけば一年程度は延命できた可能性がある旨証言するが、この見解は、本件併用投与の内容をも変えることを前提としており、本件再投与のみを回避した場合の延命可能性を判断したものとは言えないから、少なくとも半年以上、うまくいけば一年程度は延命できた可能性があるとする福島の証言は採用できない。
2 右認定に基づき、原告らに生じた損害額を検討する。
(一) 太郎の損害を相続した分
(1) 逸失利益
《証拠省略》によれば、太郎は、平成六年度において、老齢厚生年金及び老齢基礎年金として、合計年額二三六万二七〇〇円を受給する権利を有していたこと、平成五年度に、東京都電設工業厚生年金基金から年間四四万二六〇四円を、厚生年金基金連合会から年額一〇万七三七六円を受給していたことが各認められる。したがって、本件再投与を行わなかった場合には、太郎は年額二九一万二六八〇円の年金を受け取ったはずであることが推認されるが、前認定のとおり、太郎の余命は三か月であると考えるのが相当であり、右各年金を受領できたとしても、その限度にとどまること、また、就労可能性がほとんどなく、専ら右年金に依拠して、生計を立てざるをえなかっただろうことを考慮すると、被告B山が本件再投与を行ったことにより、太郎が失った利益は、右年金合計額の四分の一(三か月/一二か月)について、五〇%の生活費控除を行った額に相当する三六万四〇八五円とするのが相当である。
(2) 慰謝料
前認定によれば、被告B山は、末期癌である太郎の癌を治療すべく、胸水の排除に尽力し、その上、奏効率の高い塩酸イリノテカンを選択して、これに添付されている解説書等に従って投与しており、投与後の措置についても不適切なところはない(木村鑑定、西條鑑定)のであるから、末期癌に対する治療方法が確立していない中で、最善の方法を選択しようと努力していたことが窺われ、太郎においても、本件再投与の有無にかかわらず、それほど遠くない将来において、死亡する可能性が極めて高かった上、抗癌剤投与以外に治療方法がなかったのであるから、抗癌剤の副作用による肉体的苦痛を被ったとしても、ある程度やむを得なかったものと言うことができる。
しかしながら、一旦この世に生命を受けて誕生したからには、一日でも長く生きていたいというのは人間の本質に根ざす根元的欲求であって、特に、本件のように、太郎に対して癌告知が為されず、患者本人が、いつかは社会復帰できると考えていたことが推認されるような場合には、被告B山の安易な抗癌剤投与により、死期を数か月も早められた太郎の精神的苦痛は、多大であり、これは太郎が末期癌患者であったことによって左右されるものではない。そして、太郎が抗癌剤の副作用に苦しみながら、かつ、家族を残して、突然に、人生の幕を閉じなければならなかったことなどを考慮すると、太郎の精神的苦痛は、五〇〇万円をもって慰謝するのが相当である。
(3) このように、太郎は、本件診療により、被告B山及び被告県に対し、合計五三六万四〇八五円の損害賠償請求権を有するのであって、原告らは太郎の相続人であるから、それぞれの相続分に応じて按分し、原告花子は二六八万二〇四二円(円未満切り捨て。以下同じ)、その余の原告らはそれぞれ八九万四〇一四円の損害賠償請求権を相続したものと解することができる。
(二) 原告ら固有の損害分
原告らは、本件訴訟の提起等を原告代理人に依頼しているところ、本件と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、認容額の約一割をもって相当であると解するから、原告花子については三〇万円、その余の原告らについては一〇万円とするのが相当である。
3 まとめ
そうすると、被告B山及び被告県は、連帯して、原告花子に対して二九八万二〇四二円、その余の原告らに対してそれぞれ九九万四〇一四円の右各損害合計金及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成七年二月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を賠償する義務が負うことになる。
六 結論
したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は、その一部につき理由があるので、理由のある請求部分についてこれを認容し、その余の請求には理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項本文、六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を、仮執行免脱宣言の申立てにつき同条三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 末永進 裁判官 高橋隆一 平城文啓)