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横浜地方裁判所 平成7年(行ウ)21号 判決 1998年12月25日

原告

しのはらまめどを守る会(X)

右代表者会長

金子正

右訴訟代理人弁護士

木村和夫

森田明

被告

横浜市長(Y) 高秀秀信

右訴訟代理人弁護士

塩田省吾

右訴訟復代理人弁護士

阿部泰典

主文

一  本件訴えのうち、被告が原告に対してした次の1及び2の決定並びに3の決定部分の取消しを求める部分を却下する。

1  「新横浜駅南部地区土地区画整理事業基本計画書(案)」について平成四年四月一八日付け都開計第九号、同年五月二二日付け都開計第三九号及び平成八年四月二六日付けの各通知をもってした各公文書非公開決定(別紙処分目録一記載二及び五並びに同目録二記載三の各決定)

2  「新横浜駅南部地区基本計画に係わる都市計画審議会資料」について平成四年五月二二日付け都開計第三九号の通知をもってした公文書非公開決定(別紙処分目録一記載四の決定)

3  「新横浜駅南部地区基本計画に係わる地元土地利用計画対応」について平成四年五月二二日付け都開計第三九号の通知をもってした公文書非公開決定(別紙処分目録一記載三の決定)のうち「地元土地利用計画対応関係資料」に関する部分

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第三 争点に対する判断(証拠により認定した事実については、当該事実の前後に適宜、主な証拠を略記する。争いのない事実及び一度認定した事実はその旨を断らない。)

一  本案前の争点(訴えの利益)について

1  本件訴えにおいて、原告が本件各文書の非公開決定の取消しを求める利益は、当該非公開決定が取り消されることにより右各文書の公開を受けること、すなわち、右各文書の閲覧又はその写しの交付(条例二条三項)を受けることにあると解される。ところが、前記のとおり、原告が「都市計画審議会資料」(第二の四件の文書のうち<4>のもの)及び「地元土地利用計画対応関係資料」(第二の四件の文書のうち<3>のもののうちの一つ)について、第二次公開請求に対する公開決定により、その写しの交付を受けているので、第一次非公開決定のうちそれらに係る部分(別紙処分目録一記載四の非公開決定及び同三の決定のうちの地元土地利用計画対応関係資料に係る部分)の取消しを求める利益は、特段の事情がない限り、もはや失われたというべきである。そして、右のように、第二次公開請求により約四年前の第一次非公開決定において非公開とされていた文書が公開されたのは、後記4のとおり本件事業の進捗状況から被告において右の文書を非公開とする理由がなくなったからであるというものである。すなわち、右文書は、事情変更により公開されるに至ったもので、いわば事後的に第一次非公開決定が被告により取り消されたというに等しいのであるから、訴えの利益を認める特段の事情があるということはできない。

また、「基本計画書」(第二の四件の文書のうち<2>のもの)については、被告が本訴第二一回口頭弁論期日においてその写しを書証として提出し、原告がこれを受領しているので、特段の事情がない限り、右文書についての第一次非公開決定(別紙処分目録一記載の二及び五の決定)及び第二次非公開決定(同目録二記載三の決定)の取消しを求める利益は、失われたものというべきである。そして、被告が書証として提出したのは、後記4のとおり本件事業の事業計画の公衆縦覧が終了し、それと内容的に類似の「基本計画書」を非公開にしておく理由がなくなったというものであり、これも、事情変更により、事後的に本件各非公開決定が被告により取り消されたに等しいということができ、訴えの利益を認めるための特段の事情があるといえない。

したがって、本件訴えのうち、以上の非公開決定(又は決定部分)の取消しを求める部分は、不適法といわざるをえない。

2  原告は、原告のした公開請求に対応する非公開決定のうち前記各文書についてのものそれ自体が取り消され、あるいは変更されない限り、後の公開決定等により同一文書が公開されるに至ったとしても、当該非公開決定の取消しを求める訴えの利益は失われないと主張する。

しかし、右の各非公開決定又は決定部分が取り消されたとしても、原告は、右各文書の公開を受けられるに過ぎず、これは、原告が既に第二次公開請求に対する公開決定あるいは被告による書証としての提出により得ている状態に代わるものではない。しかも、1で述べたとおり事情変更による被告による事後的な取消しの実体があるものである。したがって、現時点で右各非公開決定又は決定部分の取消しを求める利益が存続しているということはできない。

3  また、原告は、「原告は、本件事業の早期の段階で、右各文書の公開を受ける利益を有していたところ、第二次公開請求時ないしその後に至ってから、その公開を受けても意味がない。また、原告が公開を得るために費やした訴訟費用等の負担が無駄になる。これらのことから、右各文書についての公開以前の非公開決定(又は決定部分)の取消しを求める利益がある。」旨を主張する。

しかしながら、公開以前の非公開決定(又は決定部分)の取消しが認められたとしても、それにより非公開決定(又は決定部分)時点における当該文書の公開を受ける利益が回復されるわけではなく、また原告が右の非公開決定(又は決定部分)の取消しのために費やした訴訟費用等(特に法定の訴訟費用以外の弁護士報酬等)を当然に回復することができるものでもない。よって、原告の右主張は採用することができない。

4  原告は、右の場合に訴えの利益が失われるとすると、公開請求に対してはとりあえず非公開としておき、訴訟で形勢が不利となった時点でこれを公開するなど、信義則に反する結果となると主張する。

しかし、仮にそのような結果がもたらされる危険が観念的にはあるとしても、それは、性質上、訴えで非公開決定を取り消すことにより是正できる事柄ではなく、取消しの訴えが認められるかどうかとは別個の問題である。

のみならず、本件においては、原告の懸念するような信義則違反の事情を認めるに足りる的確な証拠はない。すなわち、「都市計画審議会資料」については、本件事業が都市計画決定及びその告示の段階に至り、都市計画案作成のための基礎資料として作成された右文書を非公開とする理由がなくなったため、第二次公開請求に対し被告はこれを公開したこと(〔証拠略〕)、「地元土地利用計画対応関係資料」については、第二次公開請求の時点において市内部においても検討が進み、地元住民にもパンフレットを配布するなどして街づくりのイメージがほぼ固まったため、公開に支障がないとして、第二次公開請求に対し被告がこれを公開したこと(〔証拠略〕)、「基本計画書」については、それが土地区画整理法五二条の「事業計画」と類似の性格のもので、記載事項もほぼ同一であるところ、事業計画の公衆縦覧が終了したため、公開に支障がないとして、これを書証として提出したこと(〔証拠略〕)が認められる。以上のとおり、本件において、当初非公開とした右各文書をその後公開するに至った経緯に信義則に反するような事情は窺われない。

よって、原告の右主張も採用することができない。

二  本件各非公開決定のうち、一に掲げた以外の決定(又は決定部分)の適否について

1  土地区画整理事業の手続及び本件事業の経過

次に、一で訴えの利益がないとしたものを除く非公開決定についてその適否を判断するが、当該文書の公開が本件事業の目的達成にとって支障となるかどうかが一つの問題となるので、まず、標記の点について、検討する。

(中略)

(二) 本件事業の経過

(1)  本件事業については、市は、昭和三九年ころから、地元住民との話し合い等の準備を進め、昭和六〇年一月本件事業の都市計画案を策定し、昭和六一年七月横浜市都市計画審議会の承認を得、同月神奈川県に右案を上程し、同月五日から同月一九日までの間、都市計画法一七条に基づき、右案の縦覧を行った。縦覧の結果、地元住民から基本的事項について多数の反対意見書が提出されたため、市は、神奈川県都市計画地方審議会への諮問を見合わせることとした。

(2)  その後、市は、地元権利者から意見聴取するなどして折衝を重ね、本件事業の基本方針として、公共施設の拡充を図るとともに、地権者の減歩の軽減のため保留地を定めないこと、市が土地を先行取得することで平均減歩率の軽減を図り、小規模宅地の減歩率を緩和することなどの見直し案を提示したところ、次第に本件事業の推進を求める住民が増え始めた。

そこで、市は、平成二年初めに、当初の都市計画案の見直し作業に着手し、平成二年一二月、コンサルタント会社に都市計画案の基になる資料の作成を委託し、平成三年三月一八日、右コンサルタント会社からその成果品で、本件訴訟の対象となっている「基本計画書」、「地元土地利用計画対応」及び「都市計画審議会資料」を受領した。

(3)  市は、右成果品を踏まえ、計画概要、基本方針の見直し案を作成することとし、平成三年五月二七日市長・助役に対する説明を行い、同年六月三日「方針伺い」を起案し、同年九月二日被告の決裁を得た。

(4)  市は、事業について監督と補助金の採択権限を有する建設省に対し、「基本計画書(案)」に基づいて作成された「基本計画書」を提出し、説明・協議を行い、平成三年一二月一七日その了承を得た。

(5)  市は、平成五年八月二日、「方針伺い」に基づき作成した都市計画案を横浜市都市計画審議会に付議し、その了承を得、右案について同年一〇月二二日から一一月五日までの間、都市計画法一七条に基づく公衆の縦覧に供した。そして、市は、右案及び縦覧の結果提出された意見書について、神奈川県都市計画地方審議会の議を経て、平成六年一月二五日都市計画決定の告示をした。

(6)  市は、右都市計画決定に係る事項及び基本計画に基づき事業計画案を作成し、平成八年六月三〇日地元権利者への説明会を実施し、同年九月一二日から同月二五日までの間、土地区画整理法五五条一項に基づき事業計画を公衆の縦覧に供し、提出された意見書を同年一二月二四日同条三項に基づき神奈川県都市計画地方審議会に付議した。なお、右意見書において、口頭意見陳述を希望した者については、平成九年一月二八日神奈川県において、口頭意見の聴取を行った。そして、市は、同年五月一三日、同審議会から「意見書は不採択と決定した」旨の回答を受け、同条四項に基づき、これを当該意見書の提出者に通知するとともに、建設大臣に設計の概要の認可を申請し、同年六月一七日、その認可を受け、同年七月一五日、事業計画の決定の告示を行った。

平成六年七月までの本件事業の経過は、別紙「新横浜駅南部地区土地区画整理事業の流れ」のとおりである。

2  条例九条一項五号・六号の趣旨

(一)  条例のうち検討すべき条項

本件各非公開決定における非公開の理由は、本件各文書が条例九条一項五号又は六号に該当するということであるので、まず、この規定の解釈を検討する。なお、第一次非公開決定では地元土地利用計画対応について同項一号該当も理由の一つとされていたが、その点は異議決定では触れられておらず、被告が本訴において根拠として主張しないと述べているので、一号該当性の問題は省略する。

(1) 条例九条一項五号の趣旨

標記の規定は、公開請求に係る公文書に、「市の機関内部若しくは機関相互又は市の機関と国等の機関との間における審議、検討、調査研究等に関する情報」(以下「条例九条一項五号前段の情報」のようにいうことがある。)「であって、公開することにより、当該審議、検討、調査研究等に支障が生ずると認められるもの」に該当する情報(以下「条例九条一項五号の非公開情報」のようにいうことがある。)が記録されているときは、当該公文書の公開をしないことができると規定する。

これは、いわゆる意思形成過程の情報についての非公開規定であり(〔証拠略〕)、性質上、個別の審議、検討、調査研究等のみならず一連の手続における審議、検討、調査研究等に支障となる場合も含むと解される。行政内部の審議、検討、調査研究等に関する情報には、それぞれの決裁、供覧等の手続が終了していても、一連の手続からなる行政施策の最終的な意思決定までの途上にあって、公開することにより市民に無用の誤解、混乱を生じさせたり、各種会議等における自由な意見又は情報の交換の妨げとなるものもある。標記の規定は、それらの情報を含む文書は非公開とし得るものとし、当該個別又は一連の手続における審議、検討、調査研究等を適正かつ効率的に行うことに支障が生じないようにする趣旨のものであると解される。

(2) 条例九条一項六号の趣旨

標記の規定は、公開請求に係る公文書に、「市……が行う……事務事業に関する情報」(以下「条例九条一項六号前段の情報」のようにいうことがある。)「であって、公開することにより、……関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障が生ずると認められるもの」に該当する情報(以下「条例九条一項六号の非公開情報」のようにいうことがある。)が記録されているときは、当該公文書の公開をしないことができると規定する。

標記の規定の右引用部分は、市等の行う事務事業の公正又は円滑な執行を確保するため、当該事務事業に関する情報のうち、公開することにより、情報提供者との信頼関係が損なわれ以後の情報収集に支障が生ずるもの、又は当該事務事業若しくは将来行う同種事務事業の執行に著しい支障を来すもの等を非公開とし得るものとする趣旨と解される。

(3) 要件の認定方法

そして、一方では条例一条、三条等が公文書の公開を求める市民の権利を十分に尊重する旨を規定していること、地方非公開事由の要件が公開することによりもたらされる将来における見通しであることからすれば、条例九条一項五号又は六号に該当するとして当該公文書を非公開とし得るのは、非公開決定の時点において、当該公文書の内容、性質等に照らし、右のような要件に該当する事実が客観的に認められる蓋然性がある必要があり、かつ、それをもって足りると解するのが相当である。

また、本件各文書のように、事業の各段階に応じて審議、検討を経る中で、その内容が成熟していく性質の文書については、非公開理由の有無は、当該文書の公開請求がされた時点における事業の段階、審議、検討状況等の事情を考慮して判断することとなる。

(二)  原告の主張について

(1) 条例九条一項五号

原告は、意思形成過程情報の公開は常に事務への支障を伴うものであるから、そのような公開に通常伴う支障を超えた特別の支障が現実的に生じると認められる場合に限って、条例九条一項五号の非公開情報に当たると解するべきである旨を主張する。

しかし、同号の文言及び趣旨を超えて、同号の規定をそのように厳格に解すべき根拠はない。

(2) 条例九条一項六号

また、原告は、標記の規定について、「支障が生ずるおそれ」という文言を用いていないことから、当該文書の公開により具体的、現実的な支障が生ずることが客観的に認められることを要すると主張する。

しかし、同号の趣旨からすれば、当該文書の性質、内容に鑑み公開した場合にそのような支障が生ずることが客観的に予想されれば足り、必ずしも、そのような支障の生ずる具体的状況が現に存在することを要件とするものとまでは解されない。

(三)  まとめ

以下、右解釈を前提に本件各文書(ただし、一の本案前の判断の対象となる文書は除く。)に条例九条一項五号・六号の情報が記録されているかにつき個別に検討する。

3  「換地検討調査報告書」(第二の四件の文書のうち<3>のものの一部)

(一)  文書の内容

〔証拠略〕によれば、「地元土地利用計画対応」のうち本件各非公開決定において非公開とされた「換地検討調査報告書」の内容は、次のとおりと認められる。

(1) 概要

換地検討調査報告書は、市が当初の都市計画案の見直し作業の中で、その基礎資料として、コンサルタント会社に作成を委託し、コンサルタント会社が平成三年三月一八日に提供した三部構成からなる「地元土地利用計画対応」の一つであり、本件事業の施行地区内の土地利用や換地の在り方の概略を示したもので、「新横浜駅南部地区 換地検討調査報告書」と題する表紙及び目次を除き、本文、資料各三〇頁ずつで構成されている。

(2) 本文について

本文は、冒頭に本件施行地区における概略換地設計の目的が文章で示され、報告書の完成に至るまでの業務の過程(検討作業の手順)がフローチャートで示されている。次いで、本件事業の施行地区内の調整公図(現況図、公図及び登記簿に基づき作成されたもの)が示され、登記地積と現実の地積の差異を考慮し、概略換地設計をするための基準地積が図上求積により仮決定され、建設省土地評価基準案に基づく路線価式評価により土地区画整理前、整理後それぞれの路線価評価が示されている(路線価は街路指数、接近係数及び宅地係数に基づき算定され、右各係数は右評価基準案の係数表の範囲内で決定された。)。その結果、路線価の増進率(土地区画整理前後における平均路線価の比率)、宅地利用増進率(宅地整理前の平均指数(各街区の評価指数の合計と総宅地の地積の比率)と宅地整理後の平均指数の比率)及び総評価指数の比例率(宅地整理前後における総評価指数の比率。減歩率緩和のための民有地の先行取得を考慮して算定)の試算は、いずれもプラスとなる旨が記載されている。

これらは、計算式や表を交えたもので、そのうち文章で示されたものが一二頁、図面のみで示されたものが一〇頁ある。本文の最後には、「調査報告のまとめ」として、文章と表で記載されたものが六頁、図面のものが一頁ある。

なお、換地モデルとしては、原位置型換地を基礎に申出型換地モデル(地権者の希望による換地)を考慮したものを想定しているが、原位置型換地モデルは土地利用効率が悪いので、理想の換地モデルに近づくように、「今後、各方面からの検討を行い、理想と現実があいまった形にしていく必要があるように思われる。」としている。

(3) 資料部分について

資料部分は、「新横浜駅南部地区土地区画整理事業換地設計基準(案)」と題する八頁からなる部分及び「新横浜駅南部地区土地区画整理事業 土地評価基準(案)」と題する一七頁からなる部分により構成されている。

(二)  非公開理由の有無

(一)のように、3の標題記載の文書は、本文、資料部分のいずれも都市計画案の見直しのための基礎資料として、本件事業の施行地区の換地の概略を示し、施行地区内の土地の評価指数、増進率等を試算したもので、条例九条一項五号前段の「市の機関内部における……審議、検討、調査研究等に関する情報」に当たる。

そして、右文書に記載されている換地の概要や、路線価評価、増進率等は、あくまで検討の過程のものであって、未だ都市計画決定(平成六年一月二五日)もされていなかった第一次非公開決定時(平成四年四月)はもとより、第二次非公開決定時(平成八年四月)においても、事業計画決定(平成九年七月一五日)はされていなかったのである。それらの事項は、事業計画決定後、換地設計の過程で施行地区内の地権者の意見を聴取しつつ、その具体的内容が確定するものである(〔証拠略〕)。

他方、換地処分は、施行地区内の宅地の位置や地積の変更を伴い、関係権利者の利害に切実な影響を及ぼすものである。加えて、3の標記の文書が、路線価評価、増進率等について具体的な数値をもって記載されていることからすれば、換地の内容が法的には未確定といっても、その公開が地権者に与える影響は極めて大きいものといえる。そうすると、内容を知った地権者が右文書記載の内容が事実上決まっているとの前提に立った上で、それに賛成あるいは反対の意見を述べる等して、本件事業の施行者がその後に換地の方法、路線価評価の具体的内容等について自由な意見交換をしつつ、何にもとらわれずに審議、検討をすることに支障が生ずることにもなりかねないと予想される。

したがって、右文書は、第一次非公開決定時はもとより、第二次非公開決定の時点においても、公開することにより一連の手続からなる本件事業における「当該審議、検討、調査研究等に支障が生ずると認められるもの」であり、非公開となることの政策論としての是非は別にして、条例九条一項五号の非公開情報に当たると解するのが相当である。

(三)  補充的論点

なお、〔証拠略〕中には、右文書の冒頭の業務フローの部分(検討作業の手順等を記載した部分)には、一部、客観的な手順等の記載にとどまるものが含まれており、右箇所は、公開に支障がないものであるかのような部分もある。

しかしながら、右証拠によれば、右箇所は、他の記載部分と一体となっているものであることが認められるから、右部分を含めて当該文書全体を非公開としたことが違法であるとはいえない。

(四)  原告の主張について

原告は、右文書は、今後の審議・検討を予定したものであることが文書の性質上明らかであり、これが確定したものであるかのような誤解、混乱を招く余地はないし、むしろ、早期の段階でこれを公開することによって、本件事業について、地権者らの理解を得ることができ、混乱を回避できると主張する。

しかし、数字が記載されていると、形式的には未確定と分かっていても、公文書に記載されている以上確定的な予定ではないか、あるいは少なくとも蓋然性の高い予定ではないかと利害関係人の多くの者が感じることと思われる。そうすれば、施行者の事後の円滑なまた適正な事務作業に少なからぬ支障を及ぼすことになるといわざるを得ない。そこで、3の標記の文書は、条例九条一項五号の非公開情報に該当するというべきである。原告のように条例九条一項五号を特殊限定的にとらえることは、条例の文理解釈として困難である。

なお、前記のとおり、土地区画整理法八八条二項ないし六項が換地計画を定めようとする段階で利害関係者の意見聴取の機会を設けている以上、それ以前の検討案を公開しなくても、関係権利者の保護に欠けるとまではいえない。もとより、換地処分を行う場合に相当に初期の段階から地権者等の利害関係人に事業の内容を明確にするような考え方もあろう。そのようにすると、利害関係人が土地区画整理事業の協議に参加することとなり、一面では意見調整に時間を取ることが多くなり、事業の進捗は遅くはなろうが、反面では利害関係者の意見をより反映した事業がなされる可能性が出てくる。原告のねらいはそのようなことにあるように見えるところ、このような問題にどのような態度を採るかは立法政策の問題である。現行の都市計画法及び土地区画整理法は、原告のような考え方までは採っていないという他はない。そして、条例は、それらとは直接関係のない立場から文書の公開制度を設けているだけのことである。したがって、前記のように非公開とされても違法ではない。

4  「新横浜元石川線基本設計(検討案)」(第二の四件の文書のうち<3>のものの一部)

(一)  文書の内容

〔証拠略〕によれば、4の標題記載の文書の内容は次のとおりと認められる。

右文書は、「換地検討調査報告書」と同様に、市が都市計画案の見直しの資料として、コンサルタント会社に作成を委託した「地元土地利用計画対応」の一部で、本件事業の関連事業として整備が予定される都市計画道路の一つである新横浜元石川線(以下「本件道路」という。)の設計条件、工法、事業費等を記載した検討資料である。そして、右文書は、「新横浜元石川線基本設計(検討案)」と題する表紙部分のほか二〇頁からなり、冒頭に設計計画の概要、設計条件(道路の種類、設計速度、勾配、制動距離等)が記載されている。また、右道路は、JR東海道新幹線及び市営地下鉄三号線を横切り、起伏のある丘陵地帯を通ずる形で設計され、特殊な工法・工程が見込まれるとして、橋梁とトンネルを組合わせた(と)想定される道路設計の三案が、主に図面及び文章により、適宜イラスト、表を交えて記載されている。次いで、右三案のそれぞれについて、維持管理、周辺との整合、事業費及び工程を比較対象した一覧表が示されている。

(二)  非公開理由の有無

(一)のように、4の標題記載の文書は、本件道路の設計等について、市内部及び市と鉄道事業者等の関係機関との協議、検討の資料として作成されたものであり、条例九条一項五号前段の「市の機関内部……又は市の機関と国等の機関との間における審議、検討、調査研究等に関する情報」を記録したものに当たる。

そして、本件各非公開決定時においては、都市計画決定がされ本件道路の幅員及び延長距離等について告示がされていたが、本件道路の具体的な設計内容等は、なお未定であり、前記三案の採否のほか、工法、事業費等は今後、JR東海、市営地下鉄等の関係機関との慎重な協議・検討の上で具体化されるものであることが認められる(〔証拠略〕)。そして、都市計画道路の位置、構造等が地元住民の重大な関心事であることからすれば、道路設計の具体的内容について十分な協議・検討を経ない段階で、右文書を公開した場合、そのような未成熟なものであるのにそれが事実上固まっているとの前提に立った上で、これを利益に援用して変更案を拒絶する者や、反対に右の案に強く反対の意見を述べる者が出てくる可能性があり、その結果として、施行者による以後の関係機関との協議が進捗せずも、業完成に長期間を要することにもなり得ると認められる。したがって、右文書は、本件各非公開決定時において、公開することにより、一連の手続からなる本件事業における「当該審議、検討に支障が生ずると認められるもの」(条例九条一項五号)に当たると解するのが相当である。

(三)  原告の主張について

原告は、関係機関を交えての審議、検討を予定しているものであるとすれば、右文書を公開しても、前記のような支障を生ずるおそれはないと主張する。

しかし、前記のとおり、右文書は道路設計の内容を具体的に記載したものであるところ、これは地元住民の重大な関心事であることからすれば、仮に予定のものである旨の留保を付した上で公開したとしても、公文書が全く根拠も可能性もない事柄を記載するはずがないという考え方に立って、前記三案のいずれかの方向で設計方針が定まっているかのような印象を抱いた者が出て、賛否いずれかの立場から意見を述べる可能性があることは否定し難い。そして、それは、審議、検討の支障となることであるので、公文書公開の実施機関である被告において、非公開理由に該当すると判断することに違法があるということはできず、原告の主張は採用することができない。

5―1 「方針伺い」(第二の四件の文書のうちの<1>のもの)の「本文」の地権者団体名の記載部分

(一)  非公開情報の内容

〔証拠略〕によれば、5―1標題記載の「方針伺い」及び地権者団体名について、次のとおり認められる。

方針伺いは、昭和六〇年一月九日に市長決裁を経た本件事業の都市計画の案について昭和六一年九月に法定縦覧を行ったところ、多数の反対意見書が提出されたため、右計画案を再検討し、平成三年九月二日に市長決裁を取り直した文書であり、本文と添付資料からなる。

その本文の「1経過及び趣旨」の説明文の中に本件事業の推進に反対若しくは賛同した地権者団体がその名称を非公開にして記載されている。

(二)  非公開理由の有無

本文は、前記の記載内容からして、市の施行する土地区画整理事業に関する情報であることは明らかであり、その全体が条例九条一項六号前段の「市……が行う……その他の事務事業に関する情報」に当たる。したがって、その一部である非公開情報(団体名)も事務事業に関する情報に該当する。

そして、本件事業の推進、殊に換地計画を定めるについては、重大な利害関係を有する地元地権者の理解、協力を得ることが不可欠である。しかるところ、「経過及び趣旨」に記載された地権者団体の意見は、少なくとも、一般に公表されることを念頭において表明されたものでなく、また、意見の内容は、第一次非公開決定時はもとより、事業計画決定が未了であった第二次非公開決定時においても、以後の事業計画の方向性いかんによって、なお流動化する余地があった。以上からすれば、当該団体名を一般に公表した場合、市と当該団体との信頼関係が損なわれ、以後、本件事業の推進について理解、協力を得ることが困難になるおそれがあったと認められる。したがって、これを公開することは、関係当事者間の信頼関係が損なわれ、当該事務事業の執行に著しい支障を生じるおそれがあることとなるので、条例九条一項六号の非公開情報に当たる。

(三)  原告の主張について

原告は、右箇所には団体名が記載されているに過ぎず、個々の地権者名が記載されているわけではないから、これを公開しても、市との信頼関係が損なわれるおそれはなく、また、市が当該団体の意向を正確に把握しているかどうかは重要であるから、これを公開すべきであると主張する。

しかし、当該区域における地権者団体の数は限られていることからすれば、団体名のみを公表した場合でも、構成員の氏名も判明するおそれがある。また、地権者団体の表明した意見の内容自体は公表されている以上、あえて団体名を公開しなくても、市がその意向を把握していたかどうかの判断自体は可能である。よって、原告の主張は採用することができない。

5―2 「方針伺い」の「別紙案」の「1事業概要」の「(4)主な整備内容」欄記載の情報

(一)  非公開情報の内容

「方針伺い」の本文「3見直しの方針」として、「別紙案」のとおりとされ、その「別紙案」として「新横浜駅南部地区整備方針(案)」が示され、その中に「1事業概要」が昭和六〇年当時の方針案と対比するかたちで示されている。そのうち、第二次公開請求に対しても、非公開とされた部分は、(4)主な整備内容のうち、ア・駅前広場の整備内容、イ・都市計画道路の昭和六〇年の方針案に係る延長距離、幅員、ウ・区画道路の昭和六〇年の方針案に係る延長距離、エ・児童公園三箇所の整備内容及び昭和六〇年の方針案に係る延面積、オ・宅地の整備の内容、力・都市ガス、上下水道等供給処理施設の整備内容、(5)土地利用計画のうち、整理後の道路の面積、その割合及び備考欄、道路を含む公共用地の面積及びその割合の小計、宅地の面積、その割合及びこれらの小計、(7)関連事業のうち、関係機関との協議を要する事項について記載した部分である(〔証拠略〕)。

(二)  非公開理由の有無

(1) 「別紙案」の「1事業概要〕「(4)主な整備内容」のうち、駅前広場、児童公園、宅地の整備、都市ガス、上下水道等供給処理施設の各項目に記載されている情報

標記の情報は、条例九条一項五号前段の「市の機関内部……における審議、検討……に関する情報」に当たることが内容上明らかである。

そして、これらの施設等の整備内容は、本件各非公開決定の時点においては、確定的なものではなかったことが認められる(〔証拠略〕)。なお、〔証拠略〕によれば、これらの整備内容は事業計画案の作成の過程で「基本計画」に定められ、右内容は、土地区画整理法五二条の「事業計画」とほぼ同じであること、したがって、右整備内容は、事業計画決定の段階に至ってその概要が定まるものであることが認められる。

ところで、公共施設や宅地の整備内容は、住民の重大な関心事であり、また数字を伴う情報は一般に内容の具体生を予想させることからすれば、都市計画決定が未了であった第一次非公開決定時はもとより事業計画決定前の第二次非公開決定時においても、右の情報を公開した場合、当該整備内容が確定したものであるかのように受け取られ、あるいは事実上は確定しているのであろうとの理解を前提に賛否両論の立場から意見が述べられ、施行事業を円滑に進めることが難しくなることが予想される。したがって、右情報は、公開することにより、一連の手続からなる本件事業における「当該審議、検討……に支障が生ずると認められる」もの(条例九条一項五号)に当たると解するのが相当である。

(2) 「別紙案」の「1事業概要」「(4)主な整備内容」のうち、都市計画道路の延長距離・幅員、区画道路の延長距離、児童公園の延面積に関する情報

標記の情報は、前記のとおり、当初案のみ非公開とされているところ、見直し案が公開されている以上、当初案をあえて非公開とする必要があるかについては疑問の余地もないではない。しかしながら、当初案の内容をどのように変更するかは、市内部の政策的判断にかかわるところ、「方針伺い」は、あくまで見直し案に関する市内部の伺い文書であって、当初案を変更した経緯、理由を対外的に明らかにする性格のものではない。そのため、前記延長距離等についても見直し前後の方針案に係る数値が単に並べて記載してあるだけで、そのように方針が変更されるに至った経緯、理由は、その記載自体からは窺われない。したがって、当初案をも公開した場合、見直し案との対比において、市がそのような方針の変更をした意図について諸々の憶測がされ、市の政策判断過程について無用の誤解を生ずるおそれが出てくる。それは、一連の手続からなる本件事業における「当該検討に支障が生ずる」ものといわざるをえず、条例九条一項五号の非公開情報に当たると解するのが相当である。

(3) 「別紙案」の「1事業概要」「(5)土地利用計画」欄に記載されている情報

標記の情報は、条例九条一項六号前段の「市が行うその他の事務事業に関する情報」に当たるとともに、同項五号前段の「市の機関内部……における審議、検討……に関する情報」にも当たるところ、その具体的数値は、本件各非公開決定時においてはなお未確定であり、事業計画決定の段階で具体的数値を含めてこれらの概要が定められることが認められる(〔証拠略〕)。そして、道路や宅地の面積等は地元住民の利害に密接にかかわるものであるところ、前記非公開部分には、これらが具体的数値をもって記載されているため、公開されると、直截な印象を与え、検討途中のものであるにもかかわらず、あたかも確定しているか、事実上確定しているものであるかのように受け取られる可能性を否定できない。そうなると、無用の混乱を招き、施行者の円滑な事務の支障となる。

したがって、前記非公開部分は、条例九条一項五号の公開することにより一連の手続からなる本件事業における「当該審議、検討……等に支障が生ずると認められるもの」に当たる。

(4) 「別紙案」の「1事業概要」「(7)関連事業」欄記載の情報

標記の情報が条例九条一項六号前段の「市が行うその他の事務事業に関する情報」に当たることは、その内容から明らかである。そして、標記の情報は、前記のとおり外部機関との協議を要する事項を記載したものであるところ、本件各非公開決定時においては、関係機関との協議が未了であったことが認められる(〔証拠略〕)。そして、このような関係機関との協議が未了の段階におけるいわば市内部の一方的な見込み案ともいうべきものを公開した場合、「関係当事者との信頼関係が損なわれる」ものと認められる。よって、これは、条例九条一項六号の非公開情報に当たる。

5―3 「方針伺い」の「別紙案」の「2事業費(関連事業費も含む)」欄記載の情報

(一)  非公開情報の内容

5―3標題記載の欄に、「2事業費(関連事業費も含む)」として、区画整理総事業費(内訳は、国庫補助事業費、保留地処分金事業費及び市単独事業費)、関連事業費(内訳は、新横浜元石川線整備費ほか二項目)の項目が掲げられているが、その金額は、見直し案において総事業費が四八〇億円、保留地処分金額が零円と明示されている他は、昭和六〇年案のものも含め、全部非公開である。

これに続けて、「土地区画整理事業費」の具体的な費目が掲げられ、地元対策として、小規模宅地対策費、平均減歩率緩和対策費、上・下水道、都市ガスの新設費、事業用地取得に伴う移転補償費及び転出希望者への代替地の確保の各費目欄があるが、それらの金額は全部非公開である。

さらに、「(2)関連事業」の項目で、新横浜元石川線の整備、新横浜駅の整備、下水道事業、市民利用施設の設置等の関連事業について、関係機関との協議を経る中でその内容を確定させる旨の記載がされ、各々の事業の費用の概算額が記載されている。また、「(3)事業実施の方法」の項目で、右事項を説明する中で、事業の委託先が記載されている。しかし、それらの内容は非公開とされている(なお、「(3)事業実施の方法」は、「3事業実施の方法」ではないかと思われるが、〔証拠略〕の記載に従い、(3)であるとして、この箇所で検討する。)(〔証拠略〕)。

(二)  非公開理由の有無

(1) 「方針伺い」の「別紙案」の「2事業費(関連事業費も含む)」のうち、見直し前後の各方針案に係る区画整理総事業費、関連事業費の金額及び見直し案の備考欄記載の情報

標記の情報は、条例九条一項六号前段の情報(市の行うその他の事務事業に関する情報)に当たるとともに、同項五号前段の「審議、検討等に関する情報」にも当たることは、これまでの説示から明らかである。

そして、これらの内容は、本件各非公開決定の時点においては、未だ検討途中のものに過ぎず、その具体的金額等は、事業計画決定の段階で「資金計画」に定められ、公告、縦覧の対象とされるものであることが認められる。金額を記載するのは、計画を立てる以上費用との関連で検討しなければならないということが主な理由であって、金額は概算に過ぎない(〔証拠略〕)。

このように前記各事業費等が具体的数値をもって記載されていること及び数字の与える具体的な印象から、右時点においてこれらを公開した場合、あたかも事業費が少なくとも事実土確定しており、事業内容も事実上確定しているものであるかのように受け取られる可能性を否定できない。そうなると、賛否両論の立場から意見が出てきて、結果的には無用の混乱を生じ、あるいは以後の効率的な審議及び検討に支障をもたらす可能性がある。賛成者についても、以後の審議、検討の過程でこれらの金額等の変更の必要が生じた場合にそれに反対するということがあるので、逆の意味で支障を来すことになる。よって、前記記載部分は、一連の手続からなる本件事業における審議・検討等に支障を生ずるものとして、条例九条一項五号の非公開情報に当たると解するのが相当である。

(2) 「2事業費(関連事業費も含む)」のうちの国庫補助事業費についての情報

標記については、建設省等の国家機関との協議を経た上で具体的金額が定まるものであるところ、〔証拠略〕によれば、本件各非公開決定の時点においては、右協議は未了であったことが認められるから、そのような段階で市側の一方的な見込み金額に過ぎないものを公開した場合、一連の手続からなる本件事業における審議・検討等に支障となるし、右機関等との信頼関係を損なうおそれがある。したがって、国庫補助事業費に関する情報は、条例九条一項五号の非公開情報にも該当するが、加えて同項六号の非公開情報にも該当する。

(3) 「2事業費(関連事業費も含む)」の「ア地元対策」の「(ア)小規模宅地対策」及び「(イ)平均減歩率緩和対策費」欄記載の情報

標記の情報は、条例九条一項五号前段の「審議、検討等に関する情報」に当たることは明らかである。そして、(ア)の項目に記載された対象者の範囲、減歩率、清算金の定め方等及び(イ)の項目に記載された対策費の概算は、本件各非公開決定時においては、あくまで見込みに過ぎないことが認められる(〔証拠略〕)。

そして、対策費は、一部の地元権利者に対する関係で必要なことであり、それなりの理由もあるが、ある面では一部の者を優遇するように見える面があるといわざるを得ず、対象者及び非対象者の利害に重大なかかわりがあるものである。したがって、右の対策費等を記載した情報は、その内容が具体的な数値等により記載されていることからすれば、右時点において公開した場合、それが市の既定の方針であるかのような誤解が生ずる可能性を否定できない。そして、そうなれば、事柄の関心の高さから見て、反対意見の収拾等に対応せざるを得ず、一連の手続からなる本件事業における以後の審議、検討に支障を生ずるものと認められる。したがって、右の情報は、条例九条一項五号の非公開情報に当たると解される。

(4) 「2事業費(関連事業費も含む)」の「ア地元対策」の「(ウ)上・下水道、都市ガスの新設費」欄記載の情報

標記の情報は、条例九条一項六号前段の「市が行うその他の事務事業に関する情報」に当たるとともに、同項五号前段の「審議、検討等に関する情報」にも当たることは明らかである。そして、右項目に記載された新設費の具体的な金額、市及び国の負担額の見込み等は、本件各非公開決定の時点においては、なお未確定で、右負担額の割合に関する国等の関係機関との協議も未了であったことが認められる(〔証拠略〕)。なお、〔証拠略〕によれば、右新設費の総額は、事業計画決定の段階で「資金計画」に定められ、公告、縦覧の対象とされることが認められる。

したがって、右時点でこれを公開すると、具体的数値等が一人歩きして事実上確定したものであるかのような印象を与え、一連の手続からなる本件事業における以後の審議、検討に支障をきたし、また国等の関係機関との信頼関係を損なわれることになる。よって、これらの情報は条例九条一項五号及び六号の非公開情報に当たる。

(5) 「2事業費(関連事業費も含む)」の「ア地元対策」の「(エ)事業用地取得に伴う移転補償費」欄記載の情報

小規模宅地対策等のためには、用地の取得が必要であり、買い求める土地上にある物件等の補償が必要となる。標記の情報は、そのような費用を記載した情報であり、条例九条一項五号前段の「審議、検討等に関する情報」に当たることは明らかである。そして、移転補償をどのように実行するかは、本件各非公開決定の時点においては、なお未確定であったことが認められる(〔証拠略〕)。

移転補償の実行方法がその対象となる権利者の利害に関わる極めて関心の強い事項であることからすれば、検討途中の段階でこれを公開した場合、その内容が事実上としても確定したもののように受け取られる可能性を否定できない。そうなると、無用の混乱を生じ、一連の手続からなる本件事業における以後の審議、検討に支障を生ずる可能性もあるといわざるを得ない。したがって、標記の情報は、同号の非公開情報に当たると解するのが相当である。

(6) 「2事業費(関連事業費も含む)」の「ア地元対策」の「(オ)転出希望者への代替地の確保」欄記載の情報

転出希望者に代替地を確保することが必要であり、そのためには受け入れ先との協議が必要である。標記の情報は、そのような対応の方向性を記載したものであった。したがって、この情報は、条例九条一項六号前段の「事務事業に関する情報」に当たるとともに、同項五号前段の「審議、検討等に関する情報」にも当たる。そして、本件各非公開決定の時点においては、右項目に記載された代替地確保の方針はなお未確定であったこと、施行区域外に移転の受入先を確保する必要上、受入先の機関との協議を要するところ、一応の受入先は予定されていたものの、受入先との具体的な協議には入っていなかったことが認められる(〔証拠略〕)。

ところが、右事項が一部権利者の利害に深く関わるものであることからすれば、右時点においてこれを公開した場合、その内容が事実上確定したもののように受け取られるなどして、無用の混乱が生じ一連の手続からなる本件事業における審議・検討に支障を生じ、また、受入先の機関との信頼関係を損なうことになると予想される。したがって、右の情報は、条例九条一項五号及び六号の非公開情報に当たると解するのが相当である。

(7) 「2事業費(関連事業費も含む)」の「(2)関連事業」欄記載の情報標記の情報は、(一)のとおりの内容であり、条例九条一項六号前段の「市が行う事務事業に関する情報」である。新横浜元石川線の整備その他の関連事業は、本来の土地区画整理事業には含まれず、鉄道事業者等の関係機関との協議を経て、その内容、事業費等が定まるものであるところ、本件各非公開決定の時点においては、未だそのような協議を経ていない段階にあったことが認められる(〔証拠略〕)。したがって、右時点において、市が一方的にこれらの内容を公開した場合、関係機関との信頼関係が損なわれるものと認められるから、右情報は条例九条一項六号の非公開情報に当たると解するのが相当である。

(8) 「2事業費(関連事業費も含む)」の「(3)関連事業実施の方法」欄記載の情報

標記の情報は、(一)のとおりの内容であり、条例九条一項六号前段の「市が行う事務事業に関する情報」である。事業実施には、事業の委託先の機関との協議を経ることが不可欠であるところ、本件各非公開決定の時点においては、委託先として予定される機関との協議に入っていなかったことが認められる(〔証拠略〕)。したがって、右時点においてこれを公開すれば、右機関との信頼関係が損なわれるものと認められるから、標記の情報は、同項六号の非公開情報に当たる。

(三)  原告の主張について

原告は、「方針伺い」の性格からして、(二)の(1)及び(2)の数値が未確定のものであることは明らかであり、これらを公開しても、確定したものであるかのような誤解、混乱を招く余地はないと主張する。

しかし、前記のとおり、具体的数値を公開するとそれが直截な印象を与え、検討過程のものであっても、既定の数値であるかのように受け取られるおそれのあることは否定し難いというべきである。そして、もともと外部に出されることを予定していない文書であるため、数字が概算でどの程度現実化する可能性があるかどうかについて外部向けの説明がされていないことも踏まえると、右のおそれは蓋然性の高いものといわざるを得ない。そして、事業費等は、審議、検討の過程で多くの場合に変更を伴うものであるから、そのように受け取られた場合、以後の審議、検討に著しい支障を来すことは想像に難くない。よって、原告の右主張は採用することができない。

5―4 「方針伺い」の「別紙案」の「5整備を必要とする主な理由」「(2)新横浜駅の整備の必要性」欄記載の情報

(一)  非公開情報の内容

5―4標記の欄には、新横浜駅の整備を必要とする主な理由の二番目として、新横浜駅の施設整備の必要性に関するJR東海の意向、市の方針が箇条書きされ、この箇所が非公開とされている(〔証拠略〕)。

(二)  非公開理由の有無

5―4標記の情報は、(一)の内容であるから、条例九条一項六号前段の「市が行う事務事業に関する情報」に該当する。ところで、新横浜駅の整備についての市の方針、関係機関である鉄道事業者の意向等を記載した部分は、本件各非公開決定の時点において、関係機関との協議を経ていない段階にあったことが認められ((証拠略〕)、右時点において、これを公開した場合、関係機関との信頼関係が損なわれるものと認められる。

したがって、5―4標記の情報は、条例九条一項六号の非公開情報に当たると解される。

5―5「方針伺い」の「別紙案」の「6今後の検討事項」欄記載の情報

(一)非公開情報の内容

5―5標記の欄には、主に外部機関との関係で今後更に整理・検討すべき課題が箇条書きされているが、項目部分を含め全部非公開とされている。

(二)非公開理由の有無

5―5標記の情報は、(一)の内容であるから、条例九条一項六号前段の「市が行う事務事業に関する情報」に該当する。ところが、今後の検討課題について外部機関との協議が未了の段階にあったものと認められ(〔証拠略〕)、そのような段階で右の情報を公開した場合、当該機関との信頼関係が損なわれるおそれがある。したがって、5―5標記の情報は、条例九条一項六号の非公開情報に当たるというべきである。

5―6「方針伺い」の「別紙案」の「添付資料1」の「新横浜駅南部地区の土地区画整理事業についての基本方針(市長助役会の説明資料)」欄記載の情報

(一)  非公開情報の内容

5―6標題記載の文書(資料)は、平成三年五月二七日に開催された市長助役会の説明資料として作成されたもので、本件事業の基本計画、主な地元対策、事業費、今後のスケジュール、今後の検討事項及び今後の地元対応が記載され、最後に、参考として、地元状況と事業の概要が簡略化した形で記載されている。その内容は、すべて非公開とされている(〔証拠略〕)。

(二)  非公開理由の有無

5―6標記の文書は、(一)のとおりの内容であるから、まず条例九条一項六号前段の「市の行うその他の事務事業に関する情報」に当たることは明らかである。

そして、右資料は、市の最高意思決定のための市長助役会に提出されたものであり、内容的には昭和六〇年に一旦決めた市長の方針を大幅に変更するという決断をするためのものである。時期的に見ると、第一次非公開決定時(平成四年四月)には、右市長助役会自体は終了していたが、事業計画決定は未了であった。そうすると、その記載事項の細かな点がなお検討を要すべきといえる時期にこれを公開した場合、以後の本件事業の円滑な執行に支障を生ずるおそれがあるものと認められる(〔証拠略〕)。

よって、右の情報は、条例九条一項六号の非公開情報に当たる。

(三)  原告の主張について

原告は、過去の会議の資料として用いられたものまで意思形成過程情報として非公開とする理由はないと主張する。

しかし、右資料が地元住民の意向を踏まえた当初の方針の変更という市の政策の根本的な見直しにかかわるものであることからすれば、少なくとも、その内容についてなお検討の余地のある段階においてこれを公開した場合、市の政策形成過程について無用の憶測、疑念を生じるおそれのあることは否定し難いものというべきである。したがって、過去の会議の検討資料であるからといって、これを非公開とすべき理由がないとはいえない。

よって、原告の主張は採用することができない。

5―7 「方針伺い」の「別紙案」の「添付資料2」の「前回(昭和六〇年)の整備計画推進の方針決裁写し」欄記載の情報

(一)  非公開情報の内容

5―7標記の情報は、昭和六〇年一月九日付けで市長決裁を経た当初の方針伺いであり、「1事業内容、2関連事業、3その他、4整備を必要とする理由」の四つの項目に分けて記載されている。そして、「1事業内容(1)整備内容」のうち、都市計画道路、区画道路、公園及び宅地の整備について、それぞれ、整備内容、面積等の数値を記載した部分は、非公開とされている。

次に、「1(2)事業費及び事業財源」は、土地区画整理事業費及びその内訳及び小規模宅地対策費の項目に区分されているが、右各事業費の金額を記載した部分及び小規模宅地対策の内容を記載した部分は、非公開とされている。

さらに「1(4)事業実施の方法」及び「2関連事業」は、項目名のほかは非公開とされている。また、「3その他」は、用地取得に要する費用の金額その他の検討事項が記載され、項目名のほかは、非公開とされている。

また、「4整備を必要とする理由」は、「別紙案」の本文の同名の項目(前記5―4)と同様に、新横浜駅の整備を必要とする主な理由の二番目として、新横浜駅の施設整備の必要性に関するJR東海の意向、市の方針が箇条書きされ、非公開とされている。

(〔証拠略〕)

(二)  非公開理由の有無

5―7標題記載の文書は、(一)のとおりの内容であり、昭和六〇年当時の方針決裁案であるが、本件事業が平成三年の見直しを経て継続的に進められていることに照らすと、右文書は、本件各非公開決定時においても、条例九条一項六号前段の「事務事業に関する情報」に当たるとともに、同項五号前段の「審議、検討等に関する情報」にも当たるというべきである。

そして、右文書を公開した場合、平成三年の見直し案との対比において、当初案の見直しの経過、理由に関して無用の憶測、混乱を生じ、事業の円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがある(〔証拠略〕)。したがって、右の情報は、条例九条一項六号に該当する。

また、これらの情報は、平成三年に見直されており、本件各非公開決定時(平成四年、八年)においては、過去の数値及び内容からなるもので、未成熟な情報であったわけである。したがって、事業計画決定も未了であった本件各非公開決定の時点において、これらを公開した場合、一連の手続からなる本件事業における以後の審議、検討に支障を生ずることとなる(〔証拠略〕)。したがって、右部分は、同項五号の非公開情報に当たるというべきである。

また、「関連事業」の記載のうち、非公開とされた関係機関との協議を要する部分については、関係機関との協議が未了であった本件各非公開決定の時点において、これを公開した場合、当該機関との信頼関係を損なうおそれがある(〔証拠略〕)。したがって、右部分は同項六号の非公開情報に当たる。

(三)  反対意見について

これに対し、すでに見直し案が作成されている以上、当初案の内容を殊更非公開とする理由はないとの批判もあり得る。

しかし、前記のとおり見直し案の内容自体、以後の協議、検討の結果いかんによっては、なお変更の可能性のあるものであるから、当初案の内容がもはや意味をなさないとはいえず、これを公開した場合、前記のような弊害の生じることは否定し難いものというべきである。

5―8「方針伺い」の「別紙案」の「添付資料3」の「前回の都市計画案に対する意見書の内容とその状況」及び「同4」の「地元意向の状況表」欄記載の情報

(一)  非公開情報の内容

5―8標記の文書のうち、「前回の都市計画案に対する意見書の内容とその状況」は、昭和六一年に都市計画決定の法定縦覧を行った際に、地元住民その他の関係者から出された意見書の内容を図表等により分析したもので、「地元意向の状況表」は、平成三年六月に見直し後の方針案をとりまとめる直前の時点での地元住民その他の関係者の意向(文書で提出されたものに限らない。)を同様に図表等により分析したものである。その内容はすべて非公開とされている(〔証拠略〕)。

(二)  非公開理由の有無

5―8標記の文書は、(一)の内容であり、昭和六一年の都市計画案の縦覧の時点及び平成三年の見直し案の決裁前の時点における地元住民の意向を整理したもので、条例九条一項六号前段の「市が行う事務事業に関する情報」に当たる。

そして、右情報は、市が地元住民の意向を踏まえて対応策を検討するための基礎資料として用いるためのものであるところ、本件各非公開決定の時点においては、未だそのような対応策が講じられていなかったことが認められる(〔証拠略〕)。

そのような段階において、右資料のみを公開した場合、本件事業の推進の是非について地元住民の誤解・混乱を招くおそれがあるということができる。

したがって、右各情報は、公開することにより、当該事務事業の円滑な執行に支障を生ずるものと認められ、条例九条一項六号の非公開情報に当たる。

(三)  原告の主張について

原告は、右文書が地元住民の意向を客観的に分折したものに過ぎないから、公開しても支障はないと主張する。

しかし、施行者は、右分析結果を踏まえそれに対する対応策を検討した上でこれを地元住民に提示することを予定しており(〔証拠略〕)、そのような対応策が講じられていない段階で、右分析結果のみを公開した場合、本件事業の推進の是非について地元住民の十分な理解が得られないばかりか、かえって誤解、混乱を招く結果となることは想像に難くない。

よって、原告の主張は採用することができない。

5―9 「方針伺い」の「別紙案」の「添付資料5」の「地元からの事業推進要望書写し」及び「同6」の「上記要望書に対する回答書写し」欄記載の情報

(一)非公開情報の内容

5―9標題記載の各文書は、地権者団体の本件事業に対する推進要望書及びこれに対する回答書の各写しであり、非公開とされている。また、5―9標記の文書の添付資料の目次欄に記載されているその地権者団体名が非公開とされている(〔証拠略〕)。

(二)  非公開事由の有無

5―9標記の文書及び「添付資料」目次に記載の情報は、(一)のとおりであり、いずれも条例九条一項六号前段の「事務事業に関する情報」に当たることは明らかである。

そして、土地区画整理事業の推進には地元地権者の理解と協力が不可欠であるところ、右要望書は、一般に公表されることを予定して提出されたものではないから、これを公開した場合、当該地権者団体の意に反してその意向が一般に知られるところとなり、その結果、市と当該地権者団体との信頼関係が損なわれるおそれがある(〔証拠略〕)。

また、右要望書に対する回答書には、当該地権者団体の意向が直接記載されてはいないものの、その内容から特定の地権者団体の要望に対する回答であることが明らかとなるおそれがあるから、これを公開することは、同様に、市と当該地権者団体との信頼関係を損なうおそれがある。したがって、右各文書の公開により地権者の理解と協力を得ることが困難となり、本件事業の円滑な執行に支障を来すものと認められる(〔証拠略〕)。

そうすると、右各文書及び目次の地権者名記載部分は、いずれも条例九条一項六号の非公開情報に当たる。

(三)  反対証拠について

〔証拠略〕によれば、新横浜区画整理研究会は、平成三年二月一四日、市長宛に本件事業の推進要望書を提出し、同年五月二九日付けで、これに対する市長の回答がされていること、右要望書及び回答書の内容は、同研究会が、同年六月七日に発行した「研究会ニュース」に掲載されていること、右要望書及び回答書は、非公開とされた各二通の「地元からの事業推進要望書写し」及び「右要望書に対する回答書写し」のうちの各一通に該当するものであることが認められる。

しかし、右研究会ニュースは、いわゆる会報であって、一般向けのものではなく、そのような会報が発行されているからといって、同研究会がその意向を一般に知られることまで当然に了承していたものと即断することはできない。したがって、右事実は、右各文書の非公開理由についての前記判断を左右するものではない。

なお、添付資料7を含む文書の公開請求を受けた際に、市において、当該研究会に公開の是非を問い合わせることはせず、当該研究会の名称だけを非公開にすることも考えなかったようである(〔証拠略〕)が、要望が特定の団体からのものであり、市長の文書もそれに対する回答という極めて個別の案件であることに照らすと、そのような扱いが裁量違反の違法をもたらすものでもない。

5―10 「方針伺い」の「別紙案」の「添付資料7」の「新横浜駅に関する事項」欄記載の情報

(一)  非公開情報の内容

5―10標記の情報は、将来の新横浜駅の関連施設等の改善の必要性を示したもので、鉄道事業者等関係機関の意向や右関係機関との協議を要する事項が記載され、目次の項目部分を含めて非公開とされている(〔証拠略〕)。

(二)  非公開理由の有無

5―10標記の情報は、(一)のとおりであるから、条例九条一項六号前段の「事務事業に関する情報」に当たるとともに、同項五号前段の「審議、検討に関する情報」に当たることは明らかである。

そして、右文書には、(一)のとおり、関係機関の意向や関係機関との協議・検討を要する未確定の事項が記載されており、〔証拠略〕によれば、目次の項目部分にも、当該事業の一定の方向性を示唆する記載がされていることが認められる。したがって、右協議・検討が未了であった本件各非公開決定の時点において、右文書を公開した場合、関係機関との信頼関係が損なわれ、特に費用負担の関係から交渉が難しくなることが懸念される。また、市民には当該内容が事実上でも確定したものであるかのように受けとられ、混乱を招き、一連の手続からなる本件事業における審議・検討等に支障を生ずるおそれがある(〔証拠略〕)。

そうすると、目次部分も含め、右文書は、条例九条一項五号及び六号の非公開情報に当たるというべきである。

5―11 「方針伺い」の「別紙案」の「添付資料8」の「新横浜駅南部地区の事業推進費の考え方」記載の情報

(一)  非公開情報の内容

5―11標記の情報は、1及び2の二項目からなる。1は、「過去の方針(昭和六〇年方針決裁)との比較」と題するもので、昭和六〇年の方針案と平成三年の見直し案とを各項目ごとに対照表の形式で比較しているが、都市計画道路(新横浜篠原線、新横浜南口停車場線)の昭和六〇年方針案の幅員並びに事業費(総事業費のうちの見直し案の「下水道事業費を含む総額四八〇億円」の部分及び見直し案の保留地処分金事業費「零円」の部分は除く。)、用地取得の小規模宅地対策費及び公共減歩緩和対策費、関連事業(二項目)、別途事業(新横浜元石川線整備費ほか一項目)の各項目について、金額等の具体的数値が非公開とされている。都市計画道路の項目と減歩率の項目との間にも一項目が設けられているが、項目名、内容とも非公開である。

2は、本件事業の基本事業費以外の事業推進費の積算の根拠とその概算額を示したもので、そのすべてが非公開とされている。

(〔証拠略〕)

(二)  非公開事由の有無

(1) 5―11標記の情報のうちの「過去の方針(昭和六〇年方針決裁)との比較」(以下「比較」という。)のうちの事業費の金額、用地取得費、関連事業費及び別途事業費

標記の「比較」は、(一)の内容であり、条例九条一項五号前段の「審議、検討等に関する情報」に当たると認められる。そして、平成三年の方針案に係る事業費の金額、用地取得費、関連事業費及び別途事業費は、少なくとも本件各非公開決定の時点においては、検討途中の概算額に過ぎない(〔証拠略〕)。

昭和六〇年の方針案も、平成三年の方針案によって既に見直しがされたとはいっても、見直し後の金額自体が再度の変更もありうることからすれば、これらを公開した場合、その具体的数値のみが事実上確定したかのように一人歩きし、後の事業の過程で金額の変更の必要が生じたような場合、一連の手続からなる本件事業における審議・検討等に支障を生ずるおそれがある。

(2) 「比較」のうちの都市計画道路の幅員を記載した部分

標記の情報は、前記のとおり、昭和六〇年の方針案の数値のみを非公開としている。都市計画道路の幅員は、関係権利者の利害にかかわるものであるから、当初の方針案を公開した場合、見直し後の方針案と対比されることで、方針変更の理由及び経過について無用の憶測、誤解を招き、一連の手続からなる本件事業における審議・検討等に支障を生ずることがあり得る。

(3) 「比較」のうちの都市計画道路の項目と減歩率の項目の間に設けられた一項目

標記については、項目名、昭和六〇年及び平成三年の各方針案の内容がいずれも非公開とされているところ、本件証拠上これらの記載内容は必ずしも明らかではない。しかしながら、〔証拠略〕によれば、右項目は、横浜駅関連の情報でタイトルだけで何らかの方向性までがある程度分かることが記載されていたと認められる。そうすると、これを公開した場合、右の(1)(2)の各項目と同様の意味で本件事業における審議・検討等に支障が生ずることが認められる。

(4) 「比較」のうちの2の「基本事業費以外の事業推進費の積算の根拠とその概算額」

標記の情報は、市の機関内部の審議に関する情報に該当する。そして、〔証拠略〕によれば、これも、本件各非公開決定の時点においては、基本事業費と同様に検討途上のものと認められる。加えて、数字による情報は具体性があり、事実上その数字で確定しているのではないかと想像させることが多い。さらに事業推進のための対策関連情報であるから、利害関係人の関心が高い。そこで、これらの事情が相まって、情報が誤って伝えられ、混乱をもたらす高度の蓋然性がある。そうすると、このような段階で事業推進費の具体的な数値等を公開した場合、それが確定したもののように受けとられ、一連の手続からなる本件事業における審議・検討等に支障を生ずる高度のおそれがある。

(5) まとめ

以上のことから、標記文書の非公開部分は、いずれも条例九条一項五号の非公開情報に当たると解される。

5―12 「方針伺い」の「別紙案」の「添付資料9」の「新横浜駅南部地区土地区画整理事業費」欄記載の情報

(一)  非公開情報の内容

5―12標記の情報は、道路整備、下水道整備、公園整備、宅地造成等の工事の種類ごとに事業費(工事費、補償費等)の概算を記載したもので、記載内容はすべて非公開とされている(〔証拠略〕)。

(二)  非公開理由の有無

5―12標記の情報は、(一)の内容であるから、条例九条一項五号前段の「審議、検討等に関する情報」に当たるところ、金額は本件各非公開決定時においては、あくまで検討途中のものであって確定しているものではない。そのような段階で、これを公開すると、土地区画整理事業費が事実上確定しているように受けとられ、前同様の弊害が生じる(〔証拠略〕)。

よって、標記の情報は、条例九条一項五号の非公開情報に当たるというべきである。

5―13 「方針伺い」の「別紙案」の「添付資料10」の「必要な事業用地の面積根拠」欄記載の情報

(一)  非公開情報の内容

5―13標記の情報は、小規模宅地の減歩率の緩和及び施行地区全体の平均減歩率の緩和のため市が先行取得しようとする土地の面積(これらの対策に必要な土地の面積を計算式で算定したもの)、先行取得した土地の具体的な用途、取得の費用等を記載したもの(〔証拠略〕)で、記載内容はすべて非公開とされている。

(二)  非公開理由の有無

5―13標記の情報は、(一)のとおり先行取得すべき土地の面積の算出根拠を示したもので、条例九条一項五号前段の文書に該当する。そして、これは、本件各非公開決定の時点においては、あくまで試算であって最終的に実行できると確定したものではない(〔証拠略〕)。しかも、内容は、具体的数値により記載されているものである。したがって、右各時点において、これを公開した場合、事実上確定している等という理解の下に混乱を招き、一連の手続からなる本件事業における審議・検討等に支障を生ずるおそれがある。

したがって、標記の情報は、条例九条一項五号の非公開情報に当たるというべきである。

5―14 「方針伺い」の「別紙案」の「添付資科」添付の図面のうち計画図

(一)  非公開情報の内容

5―14標記の「添付図面」として目次に掲げられた三種類の図面のうち、現況図(〔証拠略〕)及び位置図(〔証拠略〕)は、公開されているが、計画図(案)は、計画内容についての案を図示したものであり、非公開とされている(〔証拠略〕)。

(二)  非公開理由の有無

添付図面のうち非公開とされた計画図(案)は、前記のとおり、単なる施行区域の現況図とは異なり、主に公共施設の配置を示した計画図であり、条例九条一項五号前段の「審議、検討等に関する情報」に当たる。そして、本件各非公開決定の時点においては、その内容はあくまで検討段階のものであって、以後、計画内容をさらに検討し、地元住民との協議、調整を経た上で確定されるものであることが認められる(〔証拠略〕)。

そうすると、右各時点においてこれを公開した場合、その内容が図面の形で具体的に記載されたものであるだけに、確定したものであるかのような誤解を与え、一連の手続からなる本件事業における審議・検討等に支障を生ずるおそれが強い。したがって、これも、条例九条一項五号の非公開情報に当たると解される。

6  結論

以上のとおりであるから、本件各非公開決定が、「換地検討調査報告書」、「新横浜元石川線基本線設計(検討案)」及び「方針伺い」の各部分について、条例九条一項五号又は六号に当たるとしたことは、いずれも適法である。

三  結論

以上によれば、本件訴えのうち、第三の一1記載の取消しを求める部分は不適法であるからこれを却下することとし、その余の部分はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 近藤裕之)

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