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横浜地方裁判所 平成8年(わ)2533号 判決 1997年3月25日

被告人

氏名

関谷勇

年齢

昭和一六年一一月二八日生

本籍

川崎市多摩区菅北浦二丁目二六九七番地

住居

川崎市多摩区菅北浦二丁目一七番一六号

職業

会社役員

検察官

高橋信行、南ゆり

弁護人

牧義行

主文

1  被告人を懲役一年六か月及び罰金三〇〇〇万円に処する。

2  この裁判確定の日から四年間懲役刑の執行を猶予する。

3  罰金を全額納めることができないときは、その未納分について金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、「関谷工務店」の名称で建築請負工事業等を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと考え、工事収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した。そして、

第一  平成三年分の実際総所得金額が六〇三〇万二八二八円であったにもかかわらず、平成四年三月一六日、所轄の川崎市高津区久本二丁目四番三号川崎北税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が二五七五万六八五八円であり、これに対する所得税額が七七二万二〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額二四九九万五〇〇〇円と右申告税額との差額一七二七万三〇〇〇円を免れた。

第二  平成四年分の実際総所得金額が一億七三四六万四一七二円であったにもかかわらず、平成五年三月一五日、所轄の前記川崎北税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が四二〇五万〇二三二円であり、これに対する所得税額が一五八八万六〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額八一五九万二五〇〇円と右申告税額との差額六五七〇万六五〇〇円を免れた。

第三  平成五年分の実際総所得金額が九四九一万二五九〇円であったにもかかわらず、平成六年三月一五日、所轄の川崎市麻生区上麻生三丁目一六番一号川崎西税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が三〇一九万六四六一円であり、これに対する所得税額が九九二万三〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額四二二八万一五〇〇円と右申告税額との差額三二三五万八五〇〇円を免れた。

(証拠)

※ 以下、かっこ内の甲、乙の番号は証拠等関係カード中検察官の請求番号である。

全部の事実について

1  被告人の公判供述

2  被告人の検察官調書(乙一ないし三)

3  橋本英一(甲五)、関谷モゝ子(甲六、七)の検察官調書

4  調査書(甲一五ないし六九)

第一の事実について

5  捜査報告書(甲二)

第二の事実について

6  捜査報告書(甲三)

第三の事実について

7  捜査報告書(甲四)

(法令の適用)

※ 刑法は、平成七年法律九一号附則二条一項本文により同法による改正前のもの

罰条 それぞれ所得税法二三八条一項

罰金の上限額 所得税法二三八条二項

刑種の選択 懲役刑及び罰金刑

併合罪加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(懲役刑につき。犯情の最も重い第二の罪の刑に加重)、

四八条二項(罰金刑につき)

刑の執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑につき)

労役場留置 刑法一八条

(量刑の理由)

一  本件は、建築請負業等を営んでいた被告人が、過少申告により三年間で所得税約一億一〇〇〇万円余りを脱税したという事案である。

その脱税額が個人所得としては極めて多額に上る上、その方法も工事収入の一部をことさら除外するなどというものであり、態様悪質である。しかも、被告人は、一〇年以上も前から同様の方法により税金の一部を免れていたことがうかがわれ、かつ、平成二年ころには税務当局からの指摘も受けながら、その後に本件犯行に及んだものであり、脱税に対する常習的傾向もうかがわれるものである。動機においても、特段酌量すべき事情を認めることができない。

いうまでもなく、適正公平な税負担は民主国家の財政的基盤であり、不正な方法によりこれを免れる行為は社会共通の利益を侵害するものとして強い非難に値する行為であることは論をまたないところである。

したがって、右犯情等によれば、被告人の刑責は重大である。

二  一方、被告人は、今回税務当局の査察を受けたことで本件を反省し、既に逋脱した税額についても全額納付済であること、本件後は法人化し、適正な経理処理、納税申告につとめていると認められること、被告人には前科はなく、脱税以外では善良な市民として生活してきたものであることなど被告人に有利な事情も認められる。

三  そこで、これらの事情を総合考慮し、本件については、懲役及び罰金を併科した上、懲役刑についてはその執行を猶予するのを相当と判断した。

(求刑 懲役一年六月及び罰金三五〇〇万円)

(裁判官 曳野久男)

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