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横浜地方裁判所 平成8年(行ウ)23号 判決 2001年12月12日

原告

有限会社A

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

西村隆雄

藤田温久

杉井厳一

岩村智文

篠原義仁

三嶋健

児嶋初子

渡辺登代美

被告

川崎南税務署長

廣岡千春

同指定代理人

熊谷明彦

川上昌

長谷川良則

宇山聡

永野信隆

伊豆川三郎

松島一重

山崎秀利

主文

1  被告が原告に対し平成4年6月25日付けでした原告に係る次の処分又は処分の一部分を取り消す。

(1)  平成2年5月1日から平成3年4月30日までの事業年度の法人税更正処分のうち、所得金額982万3186円、法人税額292万3600円を超える部分

(2)  平成2年5月1日から平成3年4月30日までの事業年度の過小申告加算税賦課決定処分のうち、過小申告加算税額41万円を超える部分

(3)  平成2年5月1日から平成3年4月30日までの課税事業年度の法人臨時特別税の決定処分

(4)  平成2年5月1日から平成3年4月30日までの課税期間の消費税の更正処分のうち、消費税額15万8600円を超える部分

2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用はこれを7分し、その1を被告の、その余を原告の負担とする。

第1請求

被告が原告に対し平成4年6月25日付けでした原告に係る次の処分(ただし、申告額を超える部分)をいずれも取り消す。

1  昭和63年5月1日から平成元年4月30日までの事業年度以後の法人税青色申告承認取消処分(以下「本件青色承認取消処分」という。)

2  昭和63年5月1日から平成元年4月30日まで、平成元年5月1日から平成2年4月30日まで、及び平成2年5月1目から平成3年4月30日までの各事業年度の法人税更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過小申告加算税賦課決定処分(以下「本件加算税賦課決定」という。)

3  平成2年5月1日から平成3年4月30日までの課税事業年度の法人臨時特別税の決定処分

4  平成2年5月1日から平成3年4月30日までの課税期間の消費税の更正処分(以下「本件消費税更正処分」という。)

第2事案の概要

本件は、被告が、青色申告法人である原告の法人税の調査について原告の協力が得られず、所得の実額を把握できないとして、青色申告承認を取り消し、推計方法により法人税更正処分、消費税更正処分等をしたところ、原告がそれらの取消しを求めた事案である。

第3前提事実(証拠の記載のない事実は争いがない。証拠の記載のある事実は、主に当該証拠により認められる。書証の成立は弁論の全趣旨により認められる。)

1  当事者及び課税の経緯

(1)  青色申告の承認関係の経緯

原告の法人税の青色申告の承認及びその取消しの経緯は、別紙6のとおりである。

(2)  法人税及び過小申告加算税の課税経緯

原告の昭和63年5月1日から平成元年4月30日までの事業年度(以下「平成元年4月期」という。)、平成元年5月1日から平成2年4月30日までの事業年度(以下「平成2年4月期」という。)及び平成2年5月1日から平成3年4月30日までの事業年度(以下「平成3年4月期」という。上記の3事業年度をまとめて、以下「本件各事業年度」という。)の法人税及び過小申告加算税の課税経緯は、別紙1から3のとおりである。

(3)  法人臨時特別税の課税経緯

原告の平成3年4月期の法人臨時特別税の課税経緯は、別紙4のとおりである。

(4)  消費税の課税経緯

原告の平成3年4月期の消費税の課税経緯は、別紙5のとおりである。

第4争点及び争点に関する当事者の主張

1  質問検査権行使の適否及び原告の調査協力の有無

<被告の主張>

(1)  質問検査権の行使の方法(行使における要件)

税務職員はその合理的裁量に基づいて必要と認める質問検査(単に、「調査」ともいう。)を行うことができる。必要性とは、申告が適正になされているか否かの確認であり、納税者の申告内容、他業者との比較、取引状況、税務職員の当該納税者に対する未接触状況等の多様な面から検討するもので、長期にわたり法人税調査が行われていないことも1つの要因である。そして、必要があるときとは、調査権限を有する職員において具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合をいう。

このことは、青色申告法人に対する調査においても同様である。税務職員が被調査者の帳簿書類を検査するに当たり、その帳簿書類の作成に直接関与していない第三者の立会いを認めるか否かは、調査の必要性と被調査者の私的利益とを衡量して、社会通念上相当と認められる限りにおいて、当該職員の合理的な選択に委ねられている。

その結果、調査実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知も要件ではない。第三者の立会いについても、認めるかどうかは税務職員の裁量に属するが、調査内容が被調査者の取引先にも及ぶから、第三者の立会いを拒否することは正当な措置であり、被調査者に第三者の立会いを要求する権利があるわけではない。

そこで、本件の調査(以下「本件調査」ということがある。)における具体的事情について見ると、次のとおりである。

(2)  本件における調査の経緯

ア 被告の担当者の乙(以下「乙係官」という。)及び丙(以下、両名を併せて、「乙係官ら」という。)は、平成2年8月3日、同年9月20日、同月28日に、原告の法人税の調査のために原告本社に臨場し、原告代表者(同月28日のときには、代表者の妻及び他の男女5人が同席)に対し、原告の昭和63年4月期から平成2年4月期までの3事業年度の所得金額が正しいかどうかの確認のための調査であることを伝え、第三者の目に触れず、また第三者の立会いのないところで、原告の帳簿の提示を要請したが、協力が得られなかった。

イ 被告の担当者の丁(以下「丁係官」という。)及び戊(以下、両名併せて、「丁係官ら」という。)並びに乙係官は、平成4年5月15日、原告本社に臨場し、原告代表者に面接し、乙係官において、原告に対する調査は継続中である旨、調査対象期間を平成元年4月期から平成3年4月期に変更したこと、担当者は乙係官らから丁係官らに引き継いだ旨を告げ、丁係官において、調査協力を依頼した。しかし、原告代表者から、協力を拒否された。

ウ 丁係官らは、平成4年6月1日、原告本社に臨場し、原告代表者と面接し、第三者の立会いのないところで、原告の帳簿を提示することを要請したが、拒否された。

丁係官らは、同月11日、原告本社に臨場したところ、原告代表者、同人の妻、B民主商工会の己事務局員、他4人の男性が同席していたので、第三者退席の上で帳簿を提示するように要請したが、原告代表者から拒否された。

(3)  本件における調査の適法性

(2)のとおり、乙係官ら及び丁係官らは、原告の本件各事業年度の法人税の税務調査に協力して申告の基となった帳簿書類を提示するように原告代表者に要請したにもかかわらず、原告は、終始第三者同席の下でなければ調査に協力できないし、帳簿書類の提示にも応じられないとの姿勢に固執したため、被告の係官らは調査ができなかった。被告担当者が第三者の立会いを拒否したのは、質問が原告の取引先に及ぶことがあり、また第三者の立会いは税理士法違反になる可能性もあることからである。このような被告担当者の判断に合理性を欠く点はない。したがって、調査ができなかったのは、原告の非協力の結果である。

<原告の主張>

(1)  質問検査権行使のための要件の欠如

ア 調査の必要性の欠如

(ア) 憲法31条は適正手続について規定しているが、この趣旨は、刑罰権行使と同様に、公権力による人権侵害の危険性のある税務調査の手続に及ぼされるべきである。質問検査権を行使するのは、「調査について必要があるとき」(所得税法234条)であるが、その趣旨は、納税者の行った納税申告が法律要件に合致していない場合、納税申告によって確定された所得と税額とが過大又は過小と判断される場合、更正の適正を保証するため資料を得る必要のある場合をいうと解するべきである。つまり、調査は、「確定申告の真実性・正確性の確認」などという一般的な理由により正当化されるものではなく、「確定申告にかかる課税標準・税額等が過小である等の合理的な疑いがある場合」等に認められる。

(イ) ところが、本件では、被告主張の「納税者の申告内容、他業者との比較、取引状況、未接触状況等の多様な面から検討するもの」という要件や「申告額の真実性、正確性につき確認する必要性があれば足りる」という立場に立つとしても、その要件があると判断した具体的事実が全く指摘できない。被告主張の「長期にわたって、法人税調査が行われていない。」というのは具体的事実ではあるが、そのようなことをもって、「確定申告にかかる課税標準・税額等が過小である等の合理的な疑いがある場合」を基礎づける事情とはいえないことはもちろん、「申告額の真実性、正確性につき確認する必要性があれば足りる」ことの根拠ともいえない。

(ウ) 以上のように、本件では質問調査の必要性が全くなかった。

(エ) 乙係官らは、後記のとおり平成2年9月28日に原告本社に臨場し、昭和63年4月期から平成2年4月期までの所得について調査を行うと言明しながら、第三者の立会人がいるというだけで帰署し、その後における原告の度重なる臨場依頼を無視し、1年8か月後に突如、調査対象期間をご都合主義で平成元年4月期から平成3年4月期までの期間に変更した。これは、調査の必要性のないことを端的に示すものである。

イ 調査日時の事前通知の欠如

(ア) 質問検査の趣旨からすれば、調査日時の事前通知は、被調査者の防御に関わる前提的な事項であり、不可欠である。

(イ) 本件においては、被告の担当官は、平成2年7月25日、同年8月3日、平成4年5月15日、同年6月1日、同月5日に突然原告事務所に臨場して調査を行おうとしている。反対に、突然の臨場でないのは、日程を合わせた平成2年9月28日、平成4年6月11日の2回だけである。

このような被告の態度は、税務調査において国民の防御権が十分保証されるべきであることを忘れている。

ウ 第三者の立会い拒否

(ア) 被告は立会人がいるので調査が不能である旨を主張するが、法的にも実態からみても、根拠がない。調査を監視し、違法不当な調査があればこれを是正し、助言をするために立会いは必要である。

我が国における税務調査に際しての立会い拒否は、恣意的に行われている。これに対し、近時欧米では、税務調査時の立会いは当然のこととして認められている。さらに、第三者の立会いの排除が許されるのは、立会いを認めることの不利益が、排除することにより生ずる不利益を上回るものである場合に限定されなければならない。そして、その旨を説明して、第三者の立会いの辞退を勧告することが必要である。

ところが、本件においては、後記のとおり、被告の係官は、何らの理由も示さずに、立会いを拒否し、質問検査を不能としたが、それは、理由がない。係官が社会通念上当然に要求される程度の努力をすれば、原告の帳簿の記録保存を確認することができた。

(イ) 被告は、第三者の立会いを認めることは、税理士法違反である旨を主張する。

しかし、税理士法が禁じているのは、税理士でない者が業として納税者の代理行為をすることであり、第三者の立会いは、税理士法とは関係がない。

また、被告は、第三者の立会いを認めると守秘義務違反となる旨を主張する。しかし、取引先の秘密は第三者が立ち会わなくても守らなければならないのであり、第三者の立会いの有無とは無関係である。仮に第三者の立会いが問題となるとすれば、被調査者が医師、弁護士のように、自ら守秘義務を負っている等の特殊な場合だけである。そして、そのような場合には、患者や依頼者の秘密に関わる事項に質問が及ぶときにだけ、立会人に退席を求めれば足りる。

エ 調査理由の不告知

(ア) 被調査者の防御を実効化し、適正な課税をするために、税務調査の際に調査の具体的な理由の告知を要するのは当然である。告知の内容は、被調査者の防御を全うさせるのに必要な範囲でされることを要し、「調査の必要がある」、「所得の確認である」、「確定申告の課税標準が適正かどうかについて確認するため」といった、抽象的漠然とした内容を告知するだけでは足りない。

(イ) 本件では、被告の係官は、「所得の確認のため」などとしか言わず、具体的な理由の開示は不要であるとの態度に固執した。

(2)  本件における調査の経緯

ア 被告の主張(2)アについて

平成2年8月3日は、事前連絡がなかったので、調査場所や仕事の段取りをつけておらず、調査には応じられなかった。

同年9月20日は、被告担当官が臨場したことはない。ただし、原告代表者が、同日ころ乙係官に電話で、同月28日に臨場してほしい旨を伝えた。

同月28日、調査理由については原告代表者らが尋ねた結果、所得金額の確認という答えを引き出したが、なぜ原告が調査対象に選ばれたかについて具体的な理由の説明を求めたが、それ以上の答えはなかった。原告は、帳簿を乙係官らの見える位置に置いていたが、乙係官らは、第三者を退去させた上で帳簿を見る旨を繰り返すばかりで、帳簿を見ようとはしなかった。乙係官らからは、反面調査の話は全く出なかった。

イ 被告の主張(2)イについて

丁係官らは、平成4年5月15日、原告本社に臨場したが、前回臨場時から約1年8か月経過し、しかも事前に何の連絡もなかった。そのため、原告代表者は、何度も来るように言っていたのに、なぜ来なかったのか等と質問をした。

ウ 被告の主張(2)ウについて

丁係官らが、平成4年6月1日に原告本社に臨場したが、原告は、事前の連絡を受けていなかったため、調査を予定しておらず時間が取れないと述べて同係官らに帰ってもらった。

同月11日は、原告代表者は、丁係官に対し、「引継と言っていたのに、なぜ新規に変わるのか、前の調査はどうなったか、反面調査はなぜやったのか、調査には協力する、帳簿もここにある」と述べたが、丁係官らは全く答えられなかった。そして、丁係官らは、第三者がいるから帰る、独自の調査をすることになると述べて、帰署した。

2  本件青色承認取消処分の適否

<被告の主張>

青色申告法人は帳簿書類の備付け、記録、保存(以下「備付け等」という。)をすべき義務を負う(法人税法126条1項)が、これには、税務署長が同法153条の規定に基づき帳簿書類の調査をなし得ることを前提として、備付け等が正しく行われているか否かを調査時に確認できる状況にしておくべき青色申告者の義務が当然に含まれていると解される。ところが、前記のとおり、原告は被告係官による再三の帳簿書類提示要求に対して帳簿書類を一切提示しないのであるから、原告の行為は、上記の確認できる状況にしておくべき義務に反し、青色申告承認の取消事由に該当する。したがって、本件青色承認取消処分は適法である。

<原告の主張>

調査はその必要性が認められる適法なものでなければならず、調査の手続自体も適法なものでなければならない。ところが、前記のとおり、被告係官は調査の必要性がないにもかかわらず臨場したもので、本件調査は違法である。よって、それに基づく本件青色承認取消処分も違法である。

3  本件更正処分の適否

<被告の主張>

(1)  推計の必要性

納税者は、税法の定めるところに従った正しい申告をする義務を負うとともに、申告内容を確認するための税務調査に対し、資料を提示して税務職員に説明する義務がある。ところが、前記のとおり、原告は本件調査に終始非協力かつ威圧的態度を取り続け、立会人らを退席させず、調査に全く協力しようとしなかった。そのため、被告は、原告の所得金額を実額で計算することが到底不可能であると判断せざるを得ず、推計の方法により算定することとした。

(2)  反面調査による売上金額

被告は、反面調査により次のとおりの原告の売上金額を把握した。

ア 平成元年4月期 別紙7のとおりの3715万1447円

イ 平成2年4月期 別紙8のとおりの2967万6041円

ウ 平成3年4月期 別紙9のとおりの4686万6030円

(3)  推計による一般経費率算出のための同業者の抽出基準

ア 同業者の抽出

原告の売上金額に一般経費率を乗じて、原告の一般経費の額を推計することとしたが、そのための同業者の抽出基準をイのとおりに設け、本件係争事業年度ごとにその基準のすべてに該当する法人を抽出した。なお、原告と事業年度を6か月以上同じくする法人を、それぞれの事業年度の比準同業者として抽出した。

イ 比準同業者の抽出基準

本件における推計(以下「本件推計」ということがある。)に当たって、被告は次の(ア)ないし(オ)の全てに該当する法人を比準同業者として抽出した。

(ア) 専ら金型加工を業とする法人

(イ) 青色申告の承認を受けている法人のうち、川崎南税務署管内に事業所を有する法人

(ウ) 売上金額が次の範囲内である法人(本件各事業年度の売上金額が原告のそれの半分以上2倍以下の範囲内である法人で、具体的には売上金額の範囲が次のとおりの法人)

a 平成元年4月期

1857万5724円以上7430万2894円以下

b 平成2年4月期

1483万8021円以上5935万2082円以下

c 平成3年4月期

2343万3015円以上9373万2060円以下

(エ) 年を通じて金型加工業を継続して営む法人

(オ) 次のa及びbのいずれにも該当しない法人

a 災害等により経営状態が異常であると認められるもの

b 更正又は決定処分がされている者のうち、次の(a)又は(b)に該当するもの

(a) 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していないもの

(b) 当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起されて、現在審理中であるもの

ウ 本件推計の合理性

イの抽出基準は業者の近接性及び事業規模の近似性の点においていずれも合理性を有する。また、被告は、抽出基準に従い、同業者の抽出はもれなく行い、恣意が介在するおそれはない。基準を適用して抽出された同業者数は、8件及び9件であり、同業者の個別性を平均化するに足りる件数である。基準から明らかなとおり、基礎資料は正確である。よって、本件推計方法は合理的である。

(4)  所得金額及び法人税額の算出

ア 売上金額

前記(2)のとおり、反面調査の結果得られた原告の売上金額である。

イ 一般経費の額

比準同業者各社の売上原価、販売費及び一般管理費を合計し、その各合計金額からそれぞれの特別経費を減算した金額をそれぞれの売上金額で除した率の平均値(以下「一般経費率」という。)を算出する。

そして、原告の本件各事業年度の売上金額に上記の一般経費率を乗じて原告の一般経費を算出すると、次のとおりである。

(ア) 平成元年4月期 2183万7620円

3715万1447円((2)ア)×0.5878(別紙10)

(イ) 平成2年4月期 1963万0701円

2967万6041円((2)イ)×0.6615(別紙11)

(ウ) 平成3年4月期 2872万8876円

4686万6030円((2)ウ)×0.6130(別紙12)

ウ 役員報酬、地代家賃、支払利息割引料、固定資産売却損及び受取利息

原告の本件各事業年度の確定申告書添付の確定決算報告書に記載された標記の金額をそれぞれの額として採用する。売上金額と比例関係にあるものは推計するが、売上金額と直接的な比例関係にないと認められる特別経費は、できるだけ実額で控除することが合理的と考えたものである。

(ア) 役員報酬

平成元年4月期 180万円

平成2年4月期 480万円

平成3年4月期 480万円

(イ) 地代家賃

平成元年4月期 189万6000円

平成2年4月期 130万6000円

平成3年4月期 193万5150円

(ウ) 支払利息割引料

平成元年4月期 187万9082円

平成2年4月期 157万9383円

平成3年4月期 162万1818円

(エ) 平成元年4月期固定資産売却損 1万4589円

(オ) 受取利息

平成2年4月期 2万3893円

平成3年4月期 4万3000円

エ 所得金額及び法人税額

本件各事業年度の所得金額は、売上金額から一般経費、役員報酬、地代家賃、支払利息割引料及び固定資産売却損を差し引き、これに受取利息を加算して算出する。

その結果は、別紙13の⑩欄のとおりである。そして、その所得金額に対応する法人税額は、所得金額(国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた額)に法人税法66条(平成元年4月期の場合は、昭和63年法律第109号による改正前のもの。平成2年4月期の場合は、昭和63年法律第109号附則17条によるもの。)の規定に基づく税率を乗じて算出したものである。

なお、平成2年4月期については、法人税額から控除される所得税額として、確定申告書に記載されているものがあるので、上記のようにして所得金額に法人税率を乗じた金額からこの所得税額を差し引いた金額が法人税額である。

オ 所得金額及び法人税額の適正

エの所得金額は、原告の取引先に対する反面調査で把握した原告の売上金額((2))から、同売上に上記比準同業者の一般経費率の平均値を乗じた一般経費(前記イ)及び原告の特別経費の額(役員報酬、地代家賃、支払利息割引料、固定資産売却損)を差し引き、特別収益の額(受取利息)を加える方法(前記ウ)により、原告の本件各事業年度の所得金額を推計したものであり、上記推計方法は合理的である。したがって、得られた金額は適正である。

(5)  本件更正処分の適法性

ア 平成元年4月期及び平成2年4月期

本件更正処分のうち、平成元年4月期及び平成2年4月期に係る所得金額及び法人税額は、別紙1及び2のとおりである。いずれも、(4)エの金額(別紙13の該当欄)の範囲内である。よって、上記の事業年度についての本件更正処分は適法である。

イ 平成3年4月期

平成3年4月期についての本件更正処分における所得金額及び法人税額は、別紙3のとおりであるから、このうち(4)エの金額(別紙13の該当欄)の範囲内は適法である。

<原告の主張>

(1)  推計の必要性の不存在

本件更正処分は、推計の必要がないにもかかわらず、推計をした点において、違法である。

(2)  売上金額

被告主張の原告売上金額及びその内訳は認める。

(3)  本件推計の不合理性

ア 被告主張の推計方法適用の違法(原告の特殊な営業形態)

別紙7から9の原告の受注先の多くは、C㈱関連あるいはその下請け会社であり、C㈱の装置部品加工について二次下請けとして原告に発注しているものである。その加工業務には多様な設備能力が必要であり、多種大量の機械装置を設置してきた。そのため、売上に比して、膨大な機械の減価償却費を計上するところとなり、比準同業者の一般経費率を用いた本件推計は原告には妥当しない。

イ 比準同業者抽出方法の不合理性

原告の業務は、正確には金型加工ではなく、金型部品加工及び装置部品加工であり、大半は装置部品加工である。金型加工は、金型本体の加工製作を意味し、製作点数は少なく単価は高額である。これに対し、原告の手がけている金型部品加工は、金型に付加する部品を製造するもので、単価が安く、点数も多く、外注となるケースも多い。また原告の営業の大半を占める装置部品加工は、他品種のものを少量だけ加工製作する単価の安いものであり、金型加工とは全く業態を異にする。

したがって、業態の異なる金型加工業から比準同業者の抽出を行う被告の本件推計は不合理である。

ウ 特別経費の恣意的除外

被告は、役員報酬や地代家賃を特別経費とし、それらについての原告申告額を控除しているが、原告のような家族経営的な事業形態の場合には、これらの経費は少ないのが通例である。したがって、これらの項目を一般経費の中に含めて同業者の経費率を用いて計算した額よりも、特別経費とした場合の額(申告額)の方が少ない。このように特別経費とする方が原告の所得金額は高くなるのであり、上記の項目は推計から恣意的に除外されたものである。

逆に、減価償却費や外注費のような項目は、原告の申告額の方が同業者の経費率による推計額よりも大きい。したがって、推計値を用いる方が所得額は高くなるところ、被告は推計値を用いている。このように本件推計は経費項目の扱いが恣意的である。

エ 経費実額

(ア) 経費の額

平成元年4月期の経費実額は、申告額より322円少ないの3537万3978円である。

平成2年4月期は、申告額より1万2160円多い3104万8245円である。

平成3年4月期は、申告額より14万5648円多い4690万1990円である。

(イ) 領収書の不存在

領収書が一部存在しないが、それは水害で紛失したためである。

(ウ) 実額の採用

そうすると、推計によるのではなく、経費としては上記の実額を採用すべきである。

4  本件加算税賦課決定の適否

<被告の主張>

(1)  平成元年4月期及び平成2年4月期

上記3(5)アのとおり、平成元年4月期の本件更正処分及び平成2年4月期の本件更正処分は、いずれも適法である。そして、平成元年4月期の本件加算税賦課決定及び平成2年4月期の本件加算税賦課決定は、上記の本件更正処分に係る納付すべき法人税額を基礎として、国税通則法65条1項及び2項の規定により過少申告加算税を算出し、別紙1及び2記載のとおりの決定をしたものであり、かつ、同条4項に規定する「正当な理由」は認められないから、適法である。

(2)  平成3年4月期

上記3(5)イのとおり、平成3年4月期の本件更正処分は、被告の主張する法人税額292万3600円の範囲内で適法である。同金額を基礎として、国税通則法65条1項及び2項の規定により過少申告加算税を算出すると41万円となる。したがって、平成3年4月期の本件加算税賦課決定は、過少申告加算税額41万円の範囲内で適法である。

<原告の主張>

争う。

5  法人臨時特別税の決定処分の適否

<被告の主張>

「第1 請求」の3の法人臨時特別税の決定処分に係る課税標準法人税額は別紙4「課税の経緯」記載のとおり23万3000円であり、同納付すべき法人臨時特別税額は5800円である。

ところで、前記3(4)エで述べた原告の平成3年4月期の所得金額982万3186円を基に算出した基準法人税額(国税通則法118条1項の規定により、所得金額の1000円未満の端数を切り捨てた後の額に、法人税法66条の規定に基づく税率を乗じた額)292万3625円を基に、課税標準法人税額(臨時措置法11条2項の規定により基準法人税額から300万円を控除した残額)を算出すると、課税標準法人税額及び納付すべき法人臨時特別税額は発生しないこととなる。

<原告の主張>

法人臨時特別税は発生しない。

6  本件消費税更正処分の適否

<被告の主張>

本件消費税更正処分に係る課税標準額及び納付すべき消費税額は、別紙5「課税の経緯」記載のとおり、課税標準額4785万7000円、納付すべき消費税額17万0900円である。

ところで、前記3(4)アで主張した売上金額を基に計算した消費税の課税標準額は4550万1000円(前記3(4)アの売上金額を103で除し、100を乗じた金額について、国税通則法118条1項の規定により、1000円未満の端数を切り捨てた後の額)及び納付すべき税額は14万1000円(課税標準額に消費税法29条(平成6年法109号による改正前のもの)の税率を乗じ同法37条1項(平成3年法73号による改正前のもの)に基づき計算した課税仕入れ等の税額を控除した後の金額(国税通則法119条1項の規定により、100円未満の端数を切り捨てた後の額))であり、原告の平成3年4月期の確定申告書に記載された課税標準額4691万円及び納付すべき税額15万8600円を超えないこととなる。

よつて、本件消費税更正処分は、課税標準額4691万円及び納付すべき消費税額15万8600円の範囲内で適法である。

<原告の主張>

申告額が正しい。

第5争点についての当裁判所の判断(証拠により事実を直接認定することのできる場合には、当該証拠を事実の前後に略記する。証言による場合に、特に調書の特定の箇所を示すことがあるが、その場合には、例えば第14回口頭弁論調書と一体となる証人乙の証人等調書10頁は、証人乙(14回p10)と表す。一度説示した事実は、原則としてその旨を断らない。認定に用いた書証の成立は弁論の全趣旨により認められる。)

1  質問検査の適否

(1)  調査の必要性に関する違法の有無

ア  「調査の必要性」の意味

法人の納税地の所轄税務署の当該職員は、法人税に関する調査について必要があるときは、法人に質問し、又は帳簿書類その他の物件を検査することができる(法人税法153条)。そして、上記の「法人税に関する調査について必要があるとき」とは、税務署の担当職員が、調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業形態等諸般の具体的事情にかんがみ、客観的な必要性があると判断される場合のことをいうと解される(所得税234条に関するものであるが、最高裁昭和48年7月10日第3小法廷判決・刑集27巻7号1205頁参照)。

原告は、確定申告に係る課税標準・税額等が過小である等の合理的な疑いがある場合等の場合に初めて調査が認められるべきである旨を主張するが、調査が認められるためには、上記の趣旨の調査の必要性がある場合をもって足りると解するべきである。

イ  本件における調査理由

証拠(証人庚(以下「証人庚」という。-17回p6以下、同p37以下))によれば、次の事実が認められる。

被告は、被告所部の川崎南税務署(以下「所轄税務署」ともいう。)が原告の法人税の調査等のために原告に接触することが昭和56年以来約9年間(原告代表者(24回p2))なかったので、原告に対する調査の必要性を認めた。そして、統括官の庚(以下「庚統括官」という。)が平成2年7月中旬ころ、乙係官らに原告の調査を行うように指示し、乙係官らが同月25日に原告事務所に臨場した。ところで、庚統括官は、その調査理由を所轄税務署が原告に長期間未接触だからと乙係官に説明した。

なお、乙係官は、庚統括官から調査理由は聞かされていない旨を供述する(証人乙(15p2))が、同証言は全般に不明確なところが多く、上記の部分は採用することはできない。

ウ  所轄税務署が納税者に長期間未接触の場合と調査の必要性

次に、上記のように所轄税務署が納税者に長期間未接触という事実があるだけで調査の客観的な必要性があるといえるかを検討する。

まず、税務実務としては、長期間未接触ということだけを理由として当該納税者を調査対象者とすることもある(証人庚(17回p37))。そして、一般に、長期間未接触となると、納税者がその状態への慣れから納税申告の不正確を来す公算もあると考えられ、その公算は、税務署からの接触のある納税者と対比して、少なくとも相対的には増加する蓋然性があると考えることができる。そして、青色申告の承認を受けている者の場合には、帳簿書類を備え付け、記録、保存する(備付け等する)義務がある(法人税法126条1項)。したがって、青色申告者で税務署が長期間未接触である者については、調査の必要性の程度は未接触だけの理由では弱いものの、必要性自体は存在すると認めることができる。もちろん、それだけで調査対象とするというのは例としては多くはなく、他の理由も付加されることが多いであろう(証人乙(15回p8))が、長期間未接触ということだけでは調査理由とならないとまでいう必要はないし、相当でもない。

なお、長期間未接触の青色申告者というだけでは上記のとおり調査の必要性は弱いので、その要件に該当する複数の者の中から特定の者を選定する過程に予断が入り込まないようにしなければならない。ただし、未接触期間が長期になればなるほど、また調査手続に入った後に、正当な理由なしに当該納税者から協力が得られないとか、その者の対応が威圧的等社会的な限度を超えるようなときには、帳簿書類の備付け等に不備があるのではないか等の新たな調査理由と必要性が生ずることに留意すべきである。

エ  調査の必要のある者の選択における予断の有無

税務署が長期間未接触の青色申告者といっても相当数あるので、税務署が年間の税務調査をすることのできる対象者数が物理的に限られているときに、長期間未接触の青色申告者の中からどの者を選択するかについては、任意に機械的に抽出することでなければならない。

この点につき、証人庚は、長期間未接触の納税者の中から機械的に抽出した結果、たまたま原告が調査対象に選ばれた旨を供述する(17回p46・47)。他方、原告は、民主商工会(民商)弾圧目的で調査対象に選ばれたと考えるしかない旨を主張する。

そこで、検討するに、原告代表者は、B民主商工会の理事であり、川崎南税務署を何回も訪れて要請活動をしており、集団申告の中心的なメンバーとして熱心に活動している(原告代表者(24回p1以下))。したがって、原告代表者は、所轄税務署でも知られた存在である可能性は高く、現に乙係官は、原告代表者と交渉で会っていること及び原告代表者が民商会員であることは知っていた(証人乙(16回p62以下))。したがって、両者の結びつきの可能性の事実を憶測することまではできる。しかし、原告代表者がB民商で熱心に活動していることを理由に原告が調査対象に選ばれたという両者の結びつきの事実をうかがわせるだけの的確で決定的な証拠はない。しかも、庚統括官は、前記のとおり原告がB民商の理事その他の関係者であることを全く知らずに機械的に調査対象に選定したと供述するところ、その供述を否定するだけの明確で直接的な理由はない。また原告について知っているという乙係官が原告を調査対象に選定したわけではない。しかも、ことは庚統括官を含む被告としての内心の意思であるから、選定とその理由の結びつきを認定するのは慎重でなくてはならない。このような事情を総合すると、両者の結びつきの事実が現に存在したことまでを認定するのはなお相当ではない。

オ  調査の必要性の程度の変化

本件調査は、前記のとおり相当長期間未接触を理由に開始されたが、開始後、後記のとおり、原告から合理的な理由がないのに協力が得られず、また原告の本件調査への対応の仕方は社会的に許容される程度を超える面があった。したがって、原告に対する調査の必要性の程度は調査開始以後に強くなったという面がある。

カ  まとめ

そうすると、本件において長期間未接触を理由とする調査の必要性は当初からあり、その程度が当初はそれほど強くはなかったが、同程度の必要性のある者の中から原告を選定する仕方に特定の目的や悪意は認められず、また、調査開始後に調査の必要性が強まったという事情を認めることができる。したがって、調査の必要性の有無に関して、本件調査に違法はない。

(2)  事前通知に関する違法の有無

ア  事前通知の要否・判断基準

原告は、調査日時を事前に告知すべき旨を主張する。ところで、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上の特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択にゆだねられており、実施の日時場所の事前の通知は、法律上の要件とされているものではないと解するのが相当である(前掲最高裁判決参照)。したがって、税務職員が調査日時を事前に納税者に通知しなくてもその一事で直ちに違法となるものではない。そこで、上記の基準に適用すべき本件における状況を検討する。

本件では、乙係官らは、平成2年7月25日に、丁係官らは、平成4年5月15日、同年6月1日、同月5日に、いずれも事前通知をせずに臨場した(争いがない)。

また、平成2年8月3日の臨場について、原告は予告なしの臨場であった旨を主張する。なお、同年9月20日の臨場につき、原告は臨場自体記憶がない旨を供述し、被告は予告なしに臨場した旨を主張するので、この日の臨場の有無等についても併せて検討する。

イ  平成2年7月25日の臨場

まず、平成2年7月25日は、原告に対する本件調査の最初の日であり、乙係官らが庚統括官から事前通知をせずに臨場するようにとの指示を受けて、同日午前10時30分ころ原告の事務所に赴いた。乙係官らは、身分証明書等を示し、原告の法人税の調査に来た旨を説明した。原告代表者の妻が代表者の不在を告げると、乙係官らは、会社の概況を短時間聴取して、辞去した(証人乙(14回p4以下)、乙8の三1)。

原告側から見ると、準備をさせられたわけでもなく、突然来て無理矢理に調査をしていったというのではなく、実質的な調査はできずに係官は直ちに帰署しているわけである。したがって、原告側の被った迷惑というのもそれほどのことではない。そうすると、この日の無予告臨場は、質問検査の必要性と私的利益との衡量において相当な限度に止まるというべきで、違法というものではない。

なお、原告としては、臨場についての事前の予告を受けていれば、調査に応ずる準備ができ、そうなれば、調査拒否といわれて青色承認取消処分や推計課税を受けることもなかった旨の主張をする趣旨かもしれないが、後記(3)ウ及びエのとおり、平成2年9月28日及び平成4年6月11日に事前の予告がされて被告係官が臨場した際にも、原告は第三者の立会い問題を理由に調査に応じてはいない。したがって、調査に応じなかったことの理由は、臨場の予告がないことにあるのではなく、第三者の立会いが認められないことにあった。したがって、上記の論点は前提が誤っており、理由がない。

ウ  平成2年8月3日の臨場

(ア) 証拠(証人乙(14回p5以下))によれば、次の事実が認められる。

平成2年8月3日には、乙係官は、事前に電話でその日に臨場する旨を伝え、原告代表者は「来るのは自由である」と答えた。そして、乙係官らは、同日午前10時ころ原告方に臨場し、代表者に会った。

しかし、原告代表者は上記の電話による連絡をもって同日に調査があることの認識を有しておらず、同日の調査を予告なしの臨場と思った(原告代表者(24回p6))。それはともかく、原告代表者は乙係官と会い、面接を受けた。

乙係官は、所得金額が正しいかどうかの確認であること、調査対象年度は昭和63年4月期から平成2年4月期までであること等を伝え、帳簿書類の提示を求めた。そうすると、原告代表者は工場の中から段ボール1箱を運んできて、帳簿書類を出してめくって見せた。乙係官は、戸外でこれを見るわけにもいかないとして、適当な場所の提供方を依頼した。しかし、原告代表者は、どんな権限があるのだ、まだ納得したわけではないので、事務所には入れないと答えた。乙係官は、説得に努めたが、原告代表者が忙しい、夏休みに入ると言うので、乙係官は、調査に入ることができず、帰署した。

(イ) 上記の事実関係に照らすと、平成2年8月3日の臨場については、乙係官によるその連絡の仕方に明確性を欠いた嫌いがあるが、原告代表者もいくらかは覚えていたと思われる。すなわち、原告代表者は、この日の臨場を意識していたために、段ボールを工場から持ち出してきて戸外でこれを示したものと解することができる。したがって、予告なしの臨場ではなく、やや明確性を欠くが予告はあったというべきである。

しかも、調査は、原告代表者の意向により、短時間で、事実上は調査を進められないとして乙係官らは帰署したものであり、原告の被った迷惑はそれほどのものではない。

これらに照らすと、この日の調査の無予告の点は、質問検査の必要性と私的利益との衡量において相当な限度に止まるというべきで、違法というものではない。

エ  平成2年9月20日の臨場

(ア) 証拠(証人乙(14回p7から15))によれば、次の事実が認められる。

平成2年8月3日の臨場は調査に入れなかったが、乙係官らは、帰り際に、後日連絡してから再度臨場する旨を告げた。乙係官は、同月27日に原告代表者に電話を架け、同月30日に臨場する旨を告げると、代表者は、今月は忙しいと答えた。乙係官が、同年9月10日はどうかと尋ねると、忙しい、来週こちらから電話する旨を答えた。その後、原告代表者から電話がなかった。

そこで、乙係官らは、予告なしに、同月20日午前10時30分ころ、原告事務所に臨場し、事務所前の車庫で代表者に面接した。代表者は、今日は忙しい、同月28日に調査手続について納得できる説明がほしい、私の客を呼ぶが、客人に失礼な態度を取ったら、すぐ帰ってもらうと述べた。乙係官らは、この日は直ちに帰署した。

なお、原告代表者は、この日に、乙係官らが臨場したかどうか記憶がない旨を供述する(原告代表者(24回p11))。しかし、乙係官らは、職務の性質上、臨場したことの記録は書面にする等して明らかにするのが通常のことと思われるので、細かな経緯やニュアンスは別にして、臨場の有無といった性質上明確となる事実は、その供述のとおりに認定するのが相当である。

(イ) (ア)の事実によれば、連絡をすると述べた原告代表者から連絡がないので、乙係官らが予告なしに臨場することとしたのであり、臨場の動機は理解できる。しかも、短時間の面接で、原告の意向に従い、調査は行われなかった。したがって、この日の調査の無予告の点は、質問検査の必要性と私的利益との衡量において相当な限度に止まるというべきであり、違法と認めることはできない。

オ  平成4年5月15日の臨場

(ア) 証拠(乙8・9、証人乙(14回p33以下)、証人丁(以下「丁」という。-14回p3以下)、原告代表者(24回p20))によれば、次の事実が認められる。

ウの平成2年8月3日の調査の後は、事前に原告代表者から臨場希望のあった同年9月28日に臨場調査が行われ、ここで第三者立会いの上での調査にするかどうかの両者の態度が完全な物別れとなり、その後同年11月20日に銀行(file_2.jpg信用金庫加瀬支店)調査が行われ、そこに連絡を受けた原告代表者らが駆けつけて騒然としたことがあり、それをきっかけに、原告代表者及びfile_3.jpg民商の己らから同月26日に川崎南税務署に対して請願書が提出され、平成3年12月13日に両名が同税務署に来署して抗議をすることなどがあったために、事実上、調査手続が進行しなかった。

そして、ようやく平成4年5月15日になり、被告の係官らが1年8か月ぶりに原告事務所に予告なしに臨場した。この臨場は、担当者が乙係官らから丁係官らに変更となったことと、調査対象年度が平成元年4月期から平成3年4月期までの3事業年度に変更となったことを原告代表者に伝えるのが目的であった。乙係官及び丁係官らは、原告代表者と出会ったので、このことを原告代表者に伝え、丁係官らにおいてこの年度の帳簿書類の提示を求めた。これに対し、原告代表者は、乙係官に対して、担当を変わるな、なぜ反面調査をしたか等、という抗議調の応答をするばかりで、結局丁係官らの調査要請を相手にせず、税務調査は進展しなかった。

なお、同年6月17日に乙係官が反面調査のために有限会社file_4.jpgに赴き、帰署するためにバス停で待っていると、原告代表者が近づいてきて、バス停前の駐車場に追い込むようにして、同係官がバスに乗るのを妨げ、20分程度の時間執拗に抗議をするようなこともあった。

(イ) 平成4年5月15日の臨場の経過は上記のとおりであり、この日は予告なしの臨場である。調査が1年8月ぶりにいわば再開するし、担当者が変わるということの説明のために訪問することとなったが、中断前の調査の過程で原告代表者らから激しい抗議行動がされたという経過があるので、税務職員としては、ともかく原告代表者に会うためには、むしろ予告なしにいくしかないという考え方をしたとしても、無理からぬ面がある。もちろん、結果をおそれずに、電話連絡をして、臨場日の調整を試みて、それが成功しないこととなってから、上記のように予告なしで臨場するというやり方も考えられるところではある。

そして、担当の係官らは、原告代表者と出会ってからは、上記の事項を伝え、それ以上の調査はできずに、帰署している。そうなると、原告の実質的な迷惑はほとんどない。したがって、この日の調査の無予告の点は、質問検査の必要性と私的利益との衡量において相当な限度に止まるというべきで、違法とは認められない。

カ  平成4年6月1日の臨場

(ア) 証拠(証人丁(13p以下))によれば、次の事実が認められる。

平成4年5月15日に臨場した後、丁係官らは、同月29日に原告方に臨場した。このときは、代表者が不在で面会できなかった。

次いで、丁係官らは、同年6月1日に原告方に臨場した。これは予告していったものではないが、原告代表者が居合わせたので、入口のところで面会した。丁係官らは、平成元年から3年間の帳簿書類を第三者のいないところで見せてほしいと申入れたところ、原告代表者は、勝手に反面調査をやって、けりがつけられるものか等と述べて、これに応じなかった。

(イ) (ア)の事実によれば、平成4年5月15日に物別れとなった後のことであり、調査の実施を希望する丁係官らとしては、ともかく原告代表者に会って調査に協力してもらうしかないので、予告なしに直接原告方に臨場することにも職責上その必要があったと認められる。しかも、丁係官らは玄関入口で原告代表者と短時間のやりとりをしただけであり、予告がなかったことで原告の被った迷惑というものは、仮にあったとしてもわずかと評価することができる。よって、この日の予告のない臨場は、質問検査の必要性と私的利益との衡量において相当な限度に止まるというべきで、違法とはいえない。

キ  平成4年6月5日の臨場

(ア) 証拠(証人丁(p19以下))によれば、次の事実が認められる。

平成4年6月1日の臨場の後、今度来るときには電話をするようにという原告代表者の意見もあったので、丁係官は同月3日に原告代表者に電話を入れ、同月5日臨場の希望を伝えた。これに対し、自分たちのやったことにけりをつけられるのであれば、都合を聞いて明日にでも原告代表者から連絡すると答えた。4日に代表者から電話があり、翌5日は都合が悪く、11日午後3時ならよいという返答であった。そのようなことではあったが、丁係官らは、翌5日に臨場した。

それは、5日の都合の悪いことの理由を聞きたいことと、11日の開始時間では調査時間が不足することを直接伝えたいためであった。しかし、原告代表者は不在であり、丁係官らは、原告代表者の息子に会い、日程を再検討したもらいたい旨を伝言してほしいと同人に依頼した。

(イ) 以上の事実によれば、平成4年6月5日の臨場日は予告なしでの臨場であり、また、原告代表者にとっては都合が悪いとして断った日に訪問されたのであり、気持ちの上での不満は少なからぬものがあったと認められる。また、原告代表者の息子にとってみても、短時間とはいえ、迷惑であるとの気持ちが生じたかもしれない。ただ、取られた時間はわずかであり、調査には全く入っていないという面がある。そうすると、この日の無予告の点は、質問検査の必要性と私的利益との衡量において相当な限度に辛うじて止まるというべきで、違法というほどまでの瑕疵があったとはなおいえない。

(3)  第三者の立会いに関する違法の有無

ア  第三者の立会いの許否・判断基準

原告は、調査に際しては第三者の立会いが許されるべきである旨を主張する。この第三者の立会いを許すかどうかの問題は、基本的には(2)の問題と同様に解するべきである。すなわち、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上の特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択にゆだねられており、第三者の立会いを許すことは、法律上の要件とされているものではない(前掲最高裁判決参照)。そこで、本件における状況を検討する。

イ  第三者の立会いの許否問題と調査不能日

前記(2)のとおり、税務職員が原告に臨場したのは、平成2年7月25日、同年8月3日、同年9月20日、同月28日、平成4年5月15日、同月29日、同年6月1日、同月5日、同月11日である。このうち、平成2年7月25日は、原告代表者不在で調査はできなかった。同年8月3日は、原告代表者が、段ボールに入れた帳簿を事務所前の車庫まで持ち出したが、事務所内に乙係官らを入れて調査させることは認めなかった。同年9月20日は、代表者が、忙しいとして調査に応じなかった。同月28日については、後記ウのとおりである。平成4年5月15日は、原告代表者が乙係官らによる反面調査に対する抗議等があり、調査は行われなかった。同月29日は、代表者不在で調査が行われなかった。同年6月1日は、丁係官らが、原告代表者と面会したが、代表者は反面調査などの被告による調査の仕方につき非難をして、調査は行われなかった。同月5日は、代表者不在で調査はできなかった。同月11日は後記エのとおりである。(ウの平成2年9月28日及びエの平成4年6月11日の臨場を除き、前述)

ウ  平成2年9月28日の臨場

(ア) 証拠(証人乙(14回p15以下))及び原告代表者(24回p11以下))によれば、次の事実が認められる。

原告代表者は、平成2年9月20日に、同月28日を調査日とすることの了解をした。乙係官らは、同月28日午後1時30分ころ、原告事務所に臨場し、代表者から原告事務所2階の6畳程度の代表者居室に案内された。そこには、代表者の妻の他、乙係官らが知らない男性4名及び女性1名がいた。

乙係官は、法人税の調査で臨場したこと、所得金額が正しいかどうかの確認をしたい、対象期間は昭和63年4月期から平成2年4月期までであるが、調査結果によっては遡ることもあると説明した。そして、同係官は、第三者の立会いは、守秘義務から認められないので、第三者に退席してもらった上で帳簿書類を提示するように要請した。

原告代表者は、自分の客に失礼だ、守秘義務は税務署の人に課せられる、所得金額の確認というのでは納得がいかない旨を述べた。また、原告代表者は、5冊の書類を机の上に乗せ、1冊をめくりながらこのようにきちんと記帳し、保存している、帳簿を見たいなら見るようにと迫った。これに対し、乙係官らは、第三者の立会いの下では調査はできない、第三者退席の上での調査に協力できないのかと述べ、上記の書類には目を向けなかった。30分ほどこのような応答が繰り返された。その後、乙係官らは、第三者の立会いが排除されないようであるから、署独自の調査に移行させてもらうと述べた。これに対し、同席していた男性の一人が、独自調査とは何だ、との発言があったが、他方で原告代表者は、勝手にすればよいと述べた。

(イ) (ア)の認定に反し、原告代表者は、乙係官らが帰署する際に独自調査を行うとは述べていない旨を供述する(原告代表者(24回p16))が、(ア)どおりの証人乙の供述、乙13、原告代表者の供述が反対尋問では覚えていない旨に変更された(原告代表者(25回p8))ことから見て、上記の原告代表者の供述は採用することができない。

なお、原告は、乙係官が調査対象年度につき、調査の結果次第では、遡ることがある旨を告げてはいない旨を主張する。しかし、この点に関する乙係官の記憶は具体的でしっかりしており、これを採用する。

(ウ) (ア)の事実によれば、税務調査に当たっては、当該調査対象者の取引に関連して取引先について話が及ぶのは通常のことと思われる。そして、仮に税務職員の指揮の下にされている税務調査に立会っている第三者に調査対象納税者及びその取引先の情報が知られると、それは、税務職員自身が情報を自らの言葉を通じて立会第三者に示したというわけではないにしても、税務職員において自身が調査によって得た納税者及びその取引先についての情報が立会第三者に伝わることを防止しなかったことで、結果的には自ら情報を教えたことと同視される。それは、守秘義務違反となる。しかも、単に当座、形式的に守秘義務違反となるだけではなく、税務職員が原告の取引先についての情報を守秘しなかったとして、その取引先から非難され、直ちに実害を被る可能性がある。原告にとっては、自己の取引先についての情報が立会第三者に伝わることは覚悟の上で何ら実害はないということであろうが、原告の取引先にとってはその情報が税務調査を通じて立会第三者に伝わることは、大いに実害のあることである。

したがって、平成2年9月28日の臨場に際し、原告が知り合いの者を5名同席させて調査を受ける旨を述べたのに対し、乙係官らは、その5名の退席がなければ調査に入ることができない旨を述べ、退席されなければあくまで調査に入れないとの態度を取り、机の上に帳簿と思われる書類が提示され、それを調査するようにとの発言が原告代表者からあった後にもなお、同様の態度に終始し、そのために調査ができなかったが、それは、守秘義務の観点から必要で是認される対応というべきである。なお、原告は、原告の取引先に関する調査に及ぶときにだけ、立会人の退席を求めればよい旨の主張をするが、調査内容に応じて第三者を退席させたり同席させたりするという方法は現実的ではない上、本件における第三者は人数も多いので、このような場合に一律にその第三者の同席を排除することは、前述のような衡量において相当な限度に止まるということができる。したがって、税理士法違反の観点からの理由の有無を検討するまでもなく、同日のそのような乙係官らの対応に違法はない。

エ  平成4年6月11日の臨場

(ア) 平成2年9月28日の臨場後に銀行調査がされ、それをめぐって混乱と調査の中断があったことは前述のとおりである。次に、証拠(証人乙、原告代表者)によれば、次の事実が認められる。

平成4年6月11日午後3時からの調査日時は、原告代表者において、調査に応じられる日時として同月4日に電話連絡したものであったところ、丁係官らは時間が短いので変更してほしい旨を伝えていたが、原告代表者から応答がなかった。そこで、丁係官らは、連絡を受けていた同月11日午後3時ころに原告事務所に臨場した。

原告代表者は、丁係官らを原告事務所の2階の代表者住居部分の6畳の部屋に案内した。そこには、原告代表者の妻、息子、B民商事務局員の己、file_5.jpg、丁係官らの知らない男性3名がいた。丁係官らは、原告の平成元年4月期から3年間の帳簿を会社に関係のない人の同席しない場で見せてもらいたい旨を述べた。これに対し、原告代表者は、都合が悪いと言った同月5日に臨場したこと、反面調査や銀行に対する調査をしたことを非難した。また、代表者は、乙係官らの調査がどうなっているのか、反面調査等の結果はどうなったか等と述べた。

丁係官らは、何回も平成元年4月期から3年間の帳簿を第三者のいないところで見せてほしいとお願いしているが、協力できないということかと確認的に尋ねた。原告代表者は、この問に直接には答えず、先の非難を繰り返した。そこで、丁係官らは、どうしてもこの状態が続くのであれば、署として独自の調査を継続してその結果、違いがあれば更正すると伝え、帰署した。

(イ) この日には、原告代表者は、調査日とすることを希望しない日(平成4年6月5日)への臨場及び過去の反面調査に対する非難について多くの時間を要した。

しかし、丁係官らは、この日にも、第三者が立ち会っていないところで帳簿を見せてもらいたいと述べており、原告代表者は、それに正面から答えずに結果的にそれを拒絶したことになっている。

この日に調査が進展しなかったことの原因は、従前の調査のあり方にこだわり、再度調査をすることに協力する姿勢がない原告代表者の態度、及び再度の調査の方法も従前どおり、第三者の同席がないところで帳簿を提示することを求める丁係官らの態度にもあるが、突き詰めれば、第三者同席での調査の可否に関する両者の意見の大きな隔たりにある。そして、丁係官らの態度は、ウと同様の理由により、守秘義務からの要請として是認することができる。したがって、丁係官らがそのような態度を取ったことに違法はない。

(4)  調査理由の告知に関する違法の有無

ア  原告の主張の骨子

調査理由の告知は法律上一律の要件とはされていないものの、その判断に合理性がなければならないところ、乙係官による調査理由の説明は、所得金額の確認のためということの繰り返しである。所得金額の確認というのは、具体的な理由の告知ではない。この告知には、合理性がない。

原告は以上のように主張する。

イ  調査理由の告知の要否・程度と本件における事情

調査理由の告知の要否・程度に関する一般的な考え方については前掲最高裁判決に従うのが相当であるところ、本件における調査の必要性の程度は、調査当初は1(1)ウのとおり弱いものであるから、調査理由の告知も、調査の必要性の弱さに応じて、適宜の告知をすることで足りると解するのが相当である。

すなわち、平成2年7月25日が最初の臨場であり、このときは原告代表者が不在であった。乙係官らが原告事務所に臨場して原告代表者に初めて面接したのが同年8月3日である。このときの調査理由の告知が、所得が正しいかどうかといった程度であったことは、必要性の程度が弱い納税者に対する初めての面接の機会であることから見て、不合理はない。

また、その後の臨場時にも、調査理由はそれまでと同様に上記の程度に述べられている(証人乙)ところ、乙係官らによる調査が進展しないので、調査理由には、同係官らが帳簿書類を見るに至っていないことが付け加わったといえる。しかし、原告も、そのことは十分に分かっている。そうすると、所得金額の確認のためということ以上に調査理由の告知がなくても、そのことは、質問検査の必要性と私的利益との衡量において相当な限度に止まるというべきで、違法とはいえない。

(5)  調査の承諾に関する違法の有無

ア  原告は、調査が任意である以上、調査には原告の承諾がなければならないところ、平成2年7月25日の原告代表者の妻に対する調査は、代表権のない妻に対するもので、そのことに代表者の承諾はないから、違法である旨を主張する。

イ  まず、証拠(証人乙、原告代表者(24回p5))によれば、次の事実が認められる。

原告代表者の妻は、原告の代表権を有していないが、原告の監査役ではある。この日の調査は、初回における予告なしにされた臨場時の調査であり、代表者はこの調査を受けることを全く知らなかった。けれども、乙係官らは、会社の概況を聞くに止まり、妻からは詳しい回答はなかった。

以上の事実に照らすと、平成2年7月25日の原告代表者の妻に対する調査は、質問検査の必要性と私的利益との衡量において相当な限度に止まるというべきで、実質的な違法はないと解される。

(6)  反面調査の開始時期に関する違法の有無

ア  原告は、原告を被調査者に選定することが単に長期間調査をしていなかったからという理由である以上、信用面で多大な損害を与える反面調査を行うには原告の承諾を要する旨を主張する。

イ  確かに本件における原告に対する調査の必要性は、長期間調査をしていないからという、やや必要性の程度の弱いものであった。

ただし、調査を開始してからの原告の非協力な態度には、少なからぬものがあった。すなわち、平成2年8月3日の臨場時には、原告代表者は、段ボールに入った帳簿を見せながらも、乙係官らを事務所内には入れず、調査理由について納得ができれば見せるとして、拒否した。その後乙係官らが電話をして調査日を打ち合わせようとしても、原告代表者は非協力的であった。乙係官らは、原告から調査日の了解を取れないので、予告なしに同年9月20日に原告事務所に臨場した。しかし、原告は、この日も忙しいという理由で断った。(前掲事実)

同月28日は、前記(3)ウのとおり、原告が調査日として了解している日で、乙係官らは、原告事務所2階の原告代表者の居室まで案内された。しかし、原告代表者がその場に案内していた第三者の立会いの許否をめぐって、双方の意見には激しい意見の対立があり、第三者の立会いを認めよとの原告の要望は極めて強い態度のものであった。この問題について、乙係官らが原告との交渉で解決できる見通しを持つことが困難であったといってよい。そして、この日の臨場調査は最終的には、乙係官らが、原告代表者に対し、第三者の立会いが排除されなければ、署独自の調査を行う旨を告げて、帰署することで終わった。署独自の調査をするという乙係官の言葉に対し、原告代表者は、勝手にせよと答えた。

ウ  イの事実によれば、第三者の立会いの許否をめぐる乙係官らと原告側(原告代表者と同席した原告の知り合い)との意見の対立には相当の隔たりがあり、立会いを認めるという決断を乙係官らがしない限り、原告に対する調査は実際問題としては不可能と乙係官らには感じられた。そして、そのような印象と判断には無理からぬものがあると認めることができる。他方で、第三者同席で調査をすることは守秘義務の観点からできないというのが乙係官らの立場であり、かつ、これにはそれなりの理由がある。

そうとすれば、乙係官らが、これ以上原告に対する調査を試みることは無益であるとして、原告の取引先に対する反面調査を実施するのも、他に有効な課税の手段がない以上、やむを得ない選択となる。

乙係官らは原告代表者ともう少し粘り強く交渉して解決の道をなお探してはどうであったか、第三者の立会いのない状況で原告に対する調査を受ける場合と反面調査のいずれを選択するかという判断の機会を原告に与えてはどうであったか、という印象もないではない。しかし、調査の任に当たる者から見ると、第三者の立会いへの原告代表者らのこだわりにもはや交渉の余地はないという印象を抱いたものと感じられ、かつ、それは、原告代表者らの意向の堅さからすると、無理からぬものと判断される。しかも、反面調査をするなら勝手にせよという原告代表者の返答もあった。そうであれば、平成2年9月28日の臨場後には反面調査をすることについて原告の承諾を得ることは困難であり、その必要もなく、またこの段階で反面調査に入ることが原告に対する関係で早過ぎるということもないということができる。

見方を変えて見ると、このような経緯で乙係官らが反面調査を行ったということも、質問検査の必要性と私的利益との衡量において相当な限度に止まるというべきであり、そこに違法はない。

(7)  調査対象期間を変更したことに関する違法の有無

ア  原告は、被告が当初昭和63年4月期から3年間を対象事業年度としていたのに、1年8か月後に臨場して対象事業年度を平成元年4月期から3年間に変更したが、これは合理的根拠を有しない違法な調査である旨を主張する。

イ  しかし、被告による反面調査によっても、被告は原告の申告売上金額に見合う取引先を把握できなかった(証人庚(18回p35))。しかも、原告の調査非協力は、第三者立会いに関する見解の相違ということを主因とするものであるが、原告の見解が明らかに正しいというものではなく、被告係官の見解にはもっともな理由があった。したがって、このような場合に、原告が自己の見解にこだわって、調査に協力しないということは、帳簿書類の備付け等に不備があるのではないか等の新たな調査理由と必要性が生ずる面があった。しかも、被告は、なお取引先を把握する調査を続行するために、調査対象事業年度を1年分だけ新年度に変更する(1年分ずらす)というのであり、その変更の程度は著しいものではない。したがって、この変更は、違法とはいえない。

(8)  調査協力の程度に関する違法の有無

ア  原告は、帳簿書類を調査担当係官の前に持参して見えるようにする等、被告による税務調査に協力してきたところ、乙係官らが無意味な理由で帳簿を見ることなく帰署したのであり、原告に調査非協力はない旨を主張する。

イ  しかし、原告が段ボールに帳簿書類を入れて持参してきたのは、事務所の前の戸外であり、そのようなところで税務調査を行うことは社会通念上許されない。したがって、乙係官らが事務所の中で帳簿書類を見せてほしいとの対応を取ったことに違法はない。仮に事務所が狭いなら、然るべき場所での提示を検討すべきであり、戸外に持参したことをもって、協力とはいえない。また、原告は、乙係官らを事務所2階の居室に案内して帳簿書類をその場に持参したことがあるが、これは、第三者の立会いのないところでの提示ではないので、これをもって、調査に協力したということはできない。

したがって、原告に調査非協力がないとはいえず、また被告に原告の調査協力を無視した違法があるということはできない。

2  本件青色承認取消処分の適否

(1)  青色申告制度は、納税者に対し帳簿書類を備付けて正確に取引を記録し、もって申告納税制度の適正円滑な運用を図ることを目的としたものであり、青色申告の承認を受けた法人は、帳簿書類の備付け、記録、保存(備付け等)をすべき義務を負う(法人税法126条1項)反面、税法上各種の特典を受けることとされている。この帳簿書類の備付け等の義務は、税務署長が同法153条の規定に基づき帳簿書類の調査をなし得ることを当然の前提とするものであり、その調査により備付け等が正しく行われているか否かを確認できる状況に青色申告者がしておくべき義務を当然に含んでいると解される。

(2)  ところが、本件では、前記のとおり、原告が被告係官による再三の帳簿書類提示要求に対してこれを提示しなかったのである。原告とすれば、第三者同席の上での提示なら応ずるというのであるが、それを許すべき事情は本件では見当たらないのであり、反対に、税務職員の守秘義務の観点から乙係官ら及び丁係官らが第三者の退席した状況下での帳簿書類の提示を要求したことには合理的理由がある。したがって、本件は、青色申告法人である原告が合理的理由もないのにその帳簿書類の提示要求に応じなかったことに帰する。そして、これは、法人税法126条の定める義務(前提義務)に反するものであり、青色申告承認の取消事由に該当する。したがって、本件青色承認取消処分は適法である。

また、原告は、本件調査はその必要性がなく違法であるから、本件青色承認取消処分は違法である旨を主張する。これは、不必要な調査がなければ、帳簿書類の提示に応ずるかどうかといった問題もなく、青色承認取消といった事態も生じなかった旨の主張とも解される。しかし、前記のとおり、調査の必要性がないという前提自体が採用できないので、上記の原告の主張は理由がない。

3  本件更正処分の適否

(1)  推計の必要性の有無

税務職員の税務調査に対して納税者が合理的な理由がないのにこれに協力しないために税務職員が所得の実額を把握することができないときには、推計課税をする必要が認められる。本件では、前記のとおり、原告が第三者同席の上での調査に固執し、帳簿書類を第三者退席の状況下で提示することを拒否した。そのため、被告は原告の所得を実額で把握することができなかったのであるから、推計の必要性があったと認められる。なお、本件更正処分時点では、原告は、同時にされた本件青色承認取消処分により青色申告法人ではないので、推計課税が可能であった(法人税法131条)。

(2)  本件推計の合理性の有無

ア  被告のした本件推計方法

被告のした本件推計課税の概要は、反面調査により原告の売上金額を把握し、これに同業者率を乗じて経費を推計し、前者から後者を差し引いて所得金額を算出するというものである。そこで、この推計の過程に合理性があるかどうかを原告の指摘する事由の有無を中心に検討する。

イ  比準同業者抽出の基礎としての原告の業態把握の適否

(ア) 原告は、申告書に金型加工業と記載し(争いがない。)、商業登記簿の目的欄には「1 金型および金型部品の加工 2 前号に付帯する一切の業務」と記載している上、これを変更していない。金型とは、例えばプラスチック成型といったものを作るための型で金でできているものをいい、金型加工というと金型本体を製作することをいうのが通例で、金型部品加工というと金型本体に付加する部品を製作することをいう(原告代表者)。

甲1号証の①から⑩に撮影されている部品は、原告が自己の受注し製作していると自認するものであるが(原告準備書面(五)の第二の一)、その性質につき、原告は機械部品という(同書面)が、発注しているC㈱は、これを金型に使用される部品であると説明している(乙15)。

(イ) 原告が受注している相手先のうち、D㈱等原告準備書面(二)第二の二4記載の業者が金型製造業者であることは原告が自認するところであり、それらの業者との取引が原告の総取引のうちに占める割合は約20%程度である(計算上算出される。)。

(ウ) また、証拠(乙4・5)によれば、次の事実が認められる。

原告の主要取引先は、C㈱であり、原告の売上金額の中に占めるC㈱からの受注分は、平成元年4月期約32%、平成2年4月期約42%、平成3年4月期約70%であり、そのほとんどが同社の生産設備事業部からのものである。そして、同事業部が原告に発注した部品で一番多いのは、リード成形機という機械を同社が製造するのに必要な部品や金型の付属品である。リード成形機は、金型で半導体(IC)を成形する工程を含む機械である。同事業部では、他にタイバー切断機、リード加工機、捜抜機等も製造していたが、前2者は成形された半導体を金型により製品化するものであり、その部品の製造は金型又は金型関連部品ということになる。

(エ) 以上の事実からすれば、原告の主な事業は金型部品の加工というのが相当である。

(オ)a 原告は、C㈱からの受注品のうちには、(ウ)後段のように、リード成形機、タイバー切断機、リード加工機、捜抜機が含まれているが、これらの機械の部品のうち、金型部品は精密度が高く要求されるので、原告においては受注しておらず、これらの機械の部品のうち、金型でない部分の製造を原告は受注している旨を主張する。

精密度が高く要求される部品は原告において受注していない点は事実である(乙4)が、これらの機械のうちのどの部分が金型でどの部分が金型でないかの区別がされていない上、精密度が高く要求されるのが金型部品かどうかも定かではないので、原告受注部品が金型部品かそうでない部分の部品かが判明しない。のみならず、金型工程を含む機械であるから、その機械の一部の部品を製造することは広い意味で金型部品加工ということもできる。したがって、これらの機械部品の製造をもって金型以外の機械部品製造というのは適当ではない。なお、原告代表者自身、原告が受注し製作する部品が金型の部品であるのか、金型とは無関係な機械の部品であるのか分からない旨、その点は発注者がどう利用するかの問題である旨を供述する(25回p32)から、金型部品加工か機械部品加工かの区別はあいまいである。

b また、原告は、原告がC㈱からレーザーマスクリペア、レーザーマーカー、レーザートリマ、レーザー溶接機の部品の製造を受注しているが、これらは金型とは無関係な機械装置であるから、その部品の製造は金型部品加工ではない旨を主張するところ、その点は争いがない。

ところで、同社の玉川事業所には少なくとも生産設備事業部とレーザー装置部門とがあり、aのリード成形機、タイバー切断機、リード加工機、捜抜機は生産設備事業部が製造し、bのレーザーマスクリペア、レーザーマーカー、レーザートリマ、レーザー溶接機はレーザー装置部門が製造していた。そして、bに記載の機械の部品を発注するのは同社のレーザー装置部門であるところ、原告が同社から受注する90%以上は同社の生産設備事業部からのものである(乙4)から、上記bの機械装置部品の原告にとっての受注量はそれほど多くない。したがって、原告の上記の主張は原告の業態の性質決定にとってはそれほどの重要性を有しないことになる。

ウ  比準同業者の抽出基準(業態)の内容上の適否

(ア) 被告のした本件推計における同業者の抽出基準は、「専ら金型加工を業とする法人」であるが、これは、税務署における用語例で、税務署ではこれを行政管理庁(当時)の日本評準産業分類における2996番の金型・同部分品・附属品製造業を指すものと扱っている(乙2、証人file_6.jpg)。したがって、抽出された比準同業者の中には、金型本体の製造業者もあれば、金型部品加工又はその附属品加工業者も含まれていると推認される。現に、原告が問題とする比準同業者の一般経費率の差(高いもので別紙11のH業者の98.30%、低いもので別紙12のD業者で37.72%)は上記のような意味での業態の違いを示す可能性がある。

(イ) そうすると、イのとおり金型部品加工とされる原告の業態と同業の者を抽出する基準として、(ア)の「金型・同部分品・附属品製造業」という基準を採用することには、合理性があると認めることができる。

(ウ)a 原告は、日本評準産業分類における2999番の「各種機械・同部分品製造修理業」を原告の同業者の抽出基準とすべき旨を主張する。

しかし、原告事業は、イのとおり、金型部品加工を相当程度対象としているから、原告主張の基準によるのは適当ではない。

b また、原告は、金型本体の製造と、金型部品加工、金型附属品加工とは業態が異なるから、(ア)によって抽出された同業者をさらに、上記のように区分して、原告の同業者として、金型部品及び附属品製造業者に限定して抽出するべき旨を主張する。

確かにその考え方は一つの興味深い見解である。しかし、日本評準産業分類の4桁からなる分類の業者のうち最も類似するものを同業者抽出の基準として採用すれば、特段の事情のない限り、一応の合理性は担保されると解される。そして、基準がある程度広い範囲の同業者を抽出するような内容のものであれば、抽出された同業者の平均値を利用することにより同業者の個別のばらつきが平均化される。ちなみに、本訴における被告の基準によれば、抽出同業者数は、8件又は9件である(別紙10から12)。そして、本件において、金型本体の製造業者と金型部品加工及び金型附属品加工業者とを区別した原告主張のような同業者抽出基準を、被告が必要な数値を把握して提示しない限り、被告が本訴で提示している基準が不合理となる、との特段の事情があることをうかがわせるまでの証拠はない。

エ  原告の業態の特殊性の有無

原告は、「受注先の多くがC㈱関連あるいはその下請け会社であり、その加工業務には多様な設備能力が必要であり、多量の機械装置を設置してきた。そのため、売上に比して、膨大な機械の減価償却費を計上するところとなり、比準同業者の一般経費率を用いた推計は妥当しない。」と主張する。

しかし、同業者にも個別的な特殊事情があることは当然である。そして、その個別性は、同業者に係る数値を平均することにより解消される。原告の指摘する特殊性がこのような平均化を通じて処理することをなお不適当とするような極めて特殊な事情であることまでを認めるに足りる的確な証拠はない。

オ  特別経費の恣意的除外の有無

(ア) 原告の主張の骨子

被告の本件推計課税では、原告の一般経費は同業者率を使って推計し、原告の役員報酬や地代家賃は特別経費として、その実額である原告申告額を採用して控除している。しかし、原告のような家族経営的な事業形態の場合には、これらの経費は少ないのが通例であるから、これらは、特別経費として本件推計から恣意的に除外されたものである。逆に、減価償却費や外注費のような項目は、原告の申告額の方が同業者の経費率による推計額よりも高くなるところ、このような経費は特別経費とはされていない。その結果、所得が高く算出されており、不合理である。

以上が、標記に関する原告の主張の骨子である。

(イ) 原告主張の当否

そこで、検討するに、本件では、推計の必要性があって、売上金額がある程度判明しているので、売上金額をもって経費を推計せざるを得ない関係にある。そうすると、一般に売上金額と比例関係がある売上原価及び一般管理費は、判明している売上金額から推計する方法によるのが適当であり、役員報酬、地代家賃、公租公課、支払利息及び割引料、貸倒金、固定資産の売却損等のように一般に売上金額との比例関係がないか乏しいものは、実額が判明している限り、それによることとして、推計によって算出しないのが相当である。

原告は、役員報酬、地代家賃を特別経費とすることが本件において適当でなく、また減価償却費や外注費を一般経費に含まれるものとして推計することも本件において適当でない旨を主張するものであるが、上記の一般的な比例関係に例外を設けるべきほどの特別の事情があるとの証拠は見当たらない。

したがって、前段の趣旨の推計方法と特別経費に実額を採用している本件推計には、合理性があり、原告指摘(ア)の違法はない。

カ  その他の要素及びまとめ

(ア) 本件で使用されたいわゆる同業者率による推計方法は、比準同業者の業種、事業規模等が対象納税者のそれと類似性があり、比準同業者の選定に恣意がない場合には、特段の事由がない限り、推計方法として合理的なものというべきである。より具体的には、抽出基準が業種の同一性、事業所の近接性及び事業規模の近似性の点において合理的であること、比準同業者の抽出課程に恣意がなく合理的であること、比準同業者の抽出数が同業者の個別性を平均化するに足りる数であること、同業者率の算出根拠とした基礎資料の正確性が担保されていること、が必要である。

(イ) 上記のイ及びウのとおり、本件推計の抽出基準は業種の同一性を担保するものであり、エ及びオのとおり、推計方法の不合理性をもたらす特段の事情は認められない。

そして、本件推計の抽出基準が事業所の近接性及び事業規模の近似性を担保することは、採用されている推計方法自体から明らかである。

また、比準同業者の抽出課程に恣意はなく(乙1の1から4、証人file_7.jpg)、比準同業者の抽出数は同業者の個別性を平均化するに足りる8件及び9件であり(乙1の2から4)、同業者率の算出根拠とした基礎資料が正確であることは、被告の主張する本件推計方法の内容自体から認められる。

(ウ) そうすると、本件推計方法には合理性があると認められ、原告主張の不合理はない。

(3)  経費実額の適否

ア  原告は、原告の経費については、甲128から192号証により概ね申告額のとおりとなり、被告のした推計額は正しくない旨を主張する。

原告の上記主張は、いわゆる実額反証といわれるものに該当する。一般に、推計の方法により所得が算出された場合において、実額反証がおよそ常に許されないとまではいえない。しかし、元来真実の所得額に迫ることに一定の限界のある推計額をもって課税せざるを得ない場合を法(法人税法131条)が認めた以上、推計課税に対して実額反証をするときには、単に推計額が真実の額と比べて正確性に劣るとの指摘をするだけの主張は許されないのであり、その実額が真実の額であることを積極的に立証するものでなければならない。その意味で、実額反証は、その主張する実額と真実の所得が合致することを合理的な疑いを容れない程度に立証することが必要であり、そうすることにより初めて、やむを得ずに行った推計による方法を排除して実額反証に係る実額を採用することが許されることになる。したがって、実額反証においては、収入又は経費の実額の一部を主張立証するだけでは足らず、収入及び経費の全部を主張立証することを要する。そして、このような主張立証を行うためには、性質上、日々記載され、恣意的な操作も困難な会計帳簿の存在が現実には不可欠というべきである。

イ  ところが、原告の主張は、甲128から192号証までの領収書を経費として主張するだけであり、収入については被告が把握した取引先に対する売上を是認するというものである。したがって、売上の全体及び経費の全体を明らかにする帳簿書類を提示しないし、前記の会計帳簿の提示もない。したがって、アのとおりのいわゆる実額反証として許されるものとはいえない。

そうすると、反面調査により被告が把握した原告の売上と原告主張の経費とを採用して原告の所得を算出することは相当ではないというべきである。

(4)  所得金額及び法人税額の適否

ア  売上金額

反面調査の結果得られた原告の売上金額は、争いがない。具体的金額は別紙13の①欄のとおりである。これを採用することは合理的である。

イ  一般経費の額

比準同業者各社の売上原価、販売費及び一般管理費を合計し、その各合計金額からそれぞれの特別経費を減算した金額をそれぞれの売上金額で除した率の平均値(一般経費率)を算出し、アの原告の本件各事業年度の売上金額に乗じて原告の一般経費を算出する。これが本件推計方法によるものであり、合理性がある。具体的金額は別紙13の②欄のとおりである。

ウ  役員報酬、地代家賃、支払利息割引料、固定資産売却損及び受取利息の額

原告の本件各事業年度の確定申告書添付の確定決算報告書に記載された標記の金額をそれぞれの額として採用するのが本件推計方法であり、合理性がある。具体的金額は別紙13の③から⑥及び⑧欄のとおりである。

エ  所得金額及び法人税額

そうすると、本件各事業年度の所得金額は、原告の取引先に対する反面調査で把握した原告の売上金額から、同売上に上記比準同業者の一般経費率を乗じた一般経費の額及び原告の特別経費の額(役員報酬、地代家賃、支払利息割引料、固定資産売却損)を差し引き、特別収益の額(受取利息)を加える方法により得られる。その結果の金額は、別紙13の⑩欄のとおりである。そして、その所得金額に対応する法人税額は、所得金額に法人税法66条の規定に基づく税率を乗じて算出される金額である。

なお、平成2年4月期については、法人税額から控除される所得税額として、確定申告書に記載されているものがあるので、上記のようにして所得金額に法人税率を乗じた金額からこの所得税額を差し引いた金額が法人税額である。

したがって、上記の得られた金額は適正なものである。

(5)  本件更正処分の適否

ア  平成元年4月期及び平成2年4月期

本件更正処分のうち、平成元年4月期及び平成2年4月期のものの所得金額及び法人税額は、別紙1及び2のとおりである。いずれも、(4)エの金額(別紙13の該当欄)の範囲内である。よって、上記の事業年度についての本件更正処分は適法である。

イ  平成3年4月期

平成3年4月期についての本件更正処分における所得金額及び法人税額は、別紙3のとおりであるが、このうち(4)エの金額(所得金額で982万3186円、法人税額で292万3600円。別紙13の該当欄)の範囲内(ただし、申告額以上)は適法であるが、それを超える分は所得過大認定の違法があるので、取り消されるべきである。

(6)  本件加算税賦課決定の適否

ア  平成元年4月期分及び平成2年4月期分

上記(5)アのとおり、平成元年4月期の本件更正処分及び平成2年4月期の本件更正処分は、いずれも適法である。そして、平成元年4月期の本件加算税賦課決定及び平成2年4月期の本件加算税賦課決定は、上記更正処分に係る納付すべき法人税額を基礎として、国税通則法65条1項及び2項の規定により過少申告加算税を算出し、別紙1及び2記載のとおり決定されたものであるから、適法である。

イ  平成3年4月期分

上記(5)イのとおり、平成3年4月期の本件更正処分は、法人税額292万3600円の範囲内で適法である。そして、同金額を基礎として、国税通則法65条1項及び2項の規定により過少申告加算税を算出すると41万円となる。したがって、平成3年4月期の本件加算税賦課決定(その過少申告加算税の金額は別紙3のとおり45万6500円である。)は、そのうち税額41万円の範囲内で適法であるが、それを超える部分は過大認定の違法があるから取り消すべきである。

(7)  本件法人臨時特別税の決定処分の適否

本来、標記の税は発生しないところ、被告自身、その旨を自認しているので、その全部を取り消すこととする。

(8)  本件消費税更正処分の適否

本件消費税更正処分に係る課税標準額及び納付すべき消費税額は、別紙5「課税の経緯」記載のとおり、課税標準額4785万7000円、納付すべき消費税額17万0900円である。

ところで、前記(4)アの売上金額を基に計算した消費税の課税標準額は4550万1000円(売上金額を103で除し、100を乗じた金額について、国税通則法118条1項の規定により、1000円未満の端数を切り捨てた後の額)であり、納付すべき税額は14万1000円(課税標準額に被告主張の消費税法所定の計算による。)である。これは、上記の本件消費税更正処分における金額より低額であるが、さらに、原告の平成3年4月期の確定申告書に記載された課税標準額4691万円及び納付すべき税額15万8600円よりもさらに低額である。

よって、本件消費税更正処分は、申告額(課税標準額4691万円及び納付すべき消費税額15万8600円)の範囲内で適法であり、それを超える部分は違法であるから取り消すべきである。

第6結論

以上のとおりであるから、本件青色承認取消処分取消請求並びに平成元年4月期及び平成2年4月期の本件更正処分及び本件加算税賦課決定の各取消請求は理由がなく、平成3年4月期の本件更正処分のうち所得金額982万3186円、法人税額292万3600円を超える部分の取消請求は理由があり、その金額以下で申告額を超える部分の取消請求は理由がなく、平成3年4月期の本件加算税賦課決定のうち過小申告加算税額41万円を超える分の取消請求は理由があり、その金額以下で申告額を超える部分の取消請求部分は理由がなく、法人臨時特別税の決定処分取消請求は理由があり、本件消費税更正処分のうち申告額15万8600円を超える部分の取消請求は理由がある(なお、その金額以下の部分は取消請求の対象とはされていない。)。

よって、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 窪木稔 裁判官 村上誠子)

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