横浜地方裁判所 平成8年(行ウ)40号 判決
原告
菊地一
右訴訟代理人弁護士
三澤隆行
被告
横浜市中区長 大内弘
右訴訟代理人弁護士
山崎明徳
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 本件不許可処分の適否について
1 原告の主張は、帰するところ、本件土地についての特別土地保有税免除土地徴収猶予申請(本件徴収猶予申請)を不許可とした処分の違法、すなわち本件不許可処分に理由のないことをいうものと解されるので、この点について判断する。
前記争いのない事実に加えて、〔証拠略〕によれば、原告は、平成四年七月一七日付けで、本件土地について、貸金債権に対する譲渡担保として所有権移転登記(原因、平成三年九月一三日譲渡担保)を受け、その所有権を取得し、平成七年五月一九日、被告に対し、本件徴収猶予申請をしたが、その理由とするところは、先順位抵当権者であるファーストクレジット株式会社とともに、本件土地を売却して、現金化し、資金を回収することを共通の目的としていて、売却しやすいように更地としており、同社からも、建築物を建てないように厳しく指導されている。また、原告は、不動産取得税、固定資産税、地価税等を支払い、納税者の義務を果たしている。さらに特別土地保有税は、バブルの地価上昇時の懲罰的税制で的を得ないものである、というものであることが認められる。
2 ところで、特別土地保有税(ミニ保有税)については、被告主張のように、法定の免除土地に当たる場合には、市長等の認定を受けたときは、その納税義務が免除されるが、免除土地として使用しようとする場合に、災害その他やむを得ない理由により免除土地としての認定を受けることができないときは、相当の期間その徴収を猶予することができることとされる(法附則三一条の五第五項、法六〇三条の二第一項)。そして、このやむを得ない理由とは、徴収猶予制度の趣旨及び条文の文言等からして、本人の意思にかかわらず、法六〇三条の二第一項に規定する免除土地としての認定を受けることを社会通念上不可能とするような事情が客観的に認められる場合をいうものと解される。しかし、原告が本件徴収猶予申請で述べるところは、単に先順位抵当権者との約束ないしその要請によれば、本件土地を売却するためには更地としておくことが要求されるというだけであり、それは、原告の主観的な内部事情ともいうべきものにすぎず、とうてい前述の免除土地としての認定を受けることを社会通念上不可能とする客観的事情とはいえない。その他の原告の前記申請の理由についても同様である。
なお、原告は、本訴において、債務者が担保権者に弁済をしなかったために、担保権者が競売の申立てをした結果、免除土地の用途に供することができなくなったとも主張する。しかし、本件土地に抵当権が設定されていることは、何ら本件土地を利用することの妨げとなるものではないし、また、甲六号証によれば、抵当権者による競売申立ての結果、横浜地裁の平成七年一〇月二〇日競売開始決定を原因とする差押えの登記のされたのは、同年一〇月二三日であることが認められ、それは、本件徴収猶予申請に対し本件不許可処分のされた同年六月三〇日よりも約四か月も後のことであることが明らかである。免除土地に該当するか否か、免除土地としての認定を受けられないことが災害その他やむを得ない理由によるものか否かは、原則として、特別土地保有税(ミニ保有税)が課される年度の一月一日を基準として判断されること(法附則三一条の五第五項、第二項、法六〇三条の二第一項、第七項、五八六条第二項、第四項)、さらに行政処分の違法性の判断の基準時は、処分時であると解されていることからしても、右の点は、本件不許可処分の違法理由として主張することは許されないというべきである。
また、原告は、法六〇三条の二は、恒久性と利用計画適合性を成就した場合を停止条件として特別土地保有税を免除するものであるが、本件土地には抵当権設定登記及び差押登記がされているので、恒久的な建物を建築することができず、条件の成就が不能であるから、特別土地保有課税処分は無効であるとの主張もする。しかし、そもそも、法六〇三条の二は、原告の主張するような停止条件を規定したものとは解されない上、抵当権設定登記のされていることは、本件土地の利用の妨げにはならず、差押登記のされたのは、前述のとおり、本件不許可処分ないし本件更正処分のされた後のことであるから、右の主張は、いずれにせよ、主張自体、失当というべきである。
3 以上によれば、原告の本件徴収猶予申請には理由がなく、本件不許可処分は適法であると認められる。
二 本件更正処分の適否について
1 特別土地保有税の課税標準額は、土地の取得価額であり、その取得価額は、購入以外の方法により取得した土地については、その取得の時における当該土地の取得のために通常要する価額と規定されている(法五九三条一項、法附則三一条の五第二項、法施行令五四条の三三)。
そして、右土地の取得のために通常要する価額とは、購入の場合と同視すべき価額、すなわち、当該土地の近傍類似の土地の通常の取引価格等に比準した価格いわゆる時価と解され、通達(〔証拠略〕)もその旨を明らかにしている。そして、〔証拠略〕によれば、本件土地の時価について、被告は、相続税財産評価基本通達一四の路線価によることとし、実際には、国税庁の見解に従い、これを地価公示価格水準の八〇パーセント程度として補正し、さらに近年の公示価格の下落率等により補正した価格四八三万円(一平方メートル当たり)を課税標準額としたが、それは、原告が本件申告において申告した課税標準額である正面路線価四五九万円と側面路線価四一八万円の単純平均価格四三八万五〇〇〇円と大きな差が認められなかったので、納税者に有利に、後者を課税標準額としたことが認められる。そして、この数値を基礎にして被告主張のとおり計算すると、本件土地の平成七年度の特別土地保有税額(ミニ保有税額)は、一四九四万三八〇〇円となる。
2 原告は、本件土地の時価から抵当権の被担保債権額を差し引くべきであり、それが土地取得のために通常要する価額であると主張する。しかし、〔証拠略〕によれば、ミニ保有税を含めた特別土地保有税の設けられた趣旨は、被告主張のとおりであると認められるから、特別土地保有税(保有分)は、資産の保有に着目した資産税の性質を有するものというべきであり、したがって、その課税標準額の算定に当たり、抵当権の被担保債権額を考慮することはすべきでないと解される(固定資産税も同様である。)。この点に関する原告の主張は、理由がない。
また、原告は、被告による特別土地保有税の課税標準額の算定が憲法の定める租税法律主義に反するとも主張するが、その算定方法は、前記認定のとおり、法令及びこれに基づく通達に従ったものであって、明確であり、何ら租税法律主義に反するものではない。原告の主張は、理由がない。
3 そうすると、本件更正処分は、正当である。
三 以上によれば、本件不許可処分には、理由があり、また、本件更正処分は正当であって、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 吉田徹 近藤裕之)