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横浜地方裁判所 平成8年(行ウ)63号 判決 2001年10月10日

主文

1  神奈川県中郡大磯町に対し,

(1)  被告Fは,平成元年3月1日から,別紙現況実測図・求積図(F)表示のαコンクリートたたき部分27.33平方メートルを撤去して別紙1土地目録記載3(2)の土地部分の明渡済みに至るまで,1年当たり1万2817円の割合による金員を支払え。

(2)  被告Gは,平成元年3月1日から,別紙現況実測図(G)表示のαコンクリートたたき部分を撤去して別紙1土地目録記載4(2)の土地部分の明渡済みに至るまで,1年当たり1万2053円の割合による金員を支払え。

(3)  被告Hは,平成元年3月1日から別紙1土地目録記載5(2)の土地部分の明渡済みに至るまで1年当たり5154円の割合による金員を支払え。

(4)  被告Pは,平成元年3月1日から,別紙1土地目録記載9(2)の土地部分上のコンクリートたたき部分19.89平方メートルを撤去して同土地部分の明渡済みに至るまで,1年当たり2万8852円の割合による金員を支払え。

(5)  被告Qは,平成元年3月1日から,別紙現況実測図・求積図(Q)表示のα部分15.49平方メートル及びβ部分19.08平方メートルの各コンクリートたたき部分を撤去して別紙1土地目録記載10(2)の部分の明渡済みに至るまで,1年当たり1万6218円の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,原告に生じた費用の4分の1と被告F,同G,同H,同P及び同Qに生じた費用の2分の1とを同被告らの負担とし,原告及び上記の被告らに生じたその余の費用と被告E,同C,同I,同J,同K,同M,同N及び同Oに生じた費用とを原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

(原告の請求)

1  係争地関係

(1) 神奈川県中郡大磯町(以下「大磯町」という。)に対し,

ア 被告C(被告番号1)は,別紙2建物目録記載1(1)の居宅工場(以下「C建物」という。)のうち,同1(2)記載の部分を収去し,

イ 被告E(被告番号2)は,同目録1(2)記載の建物部分より退去せよ。

(2) C及び同Eは,大磯町に対し,別紙1土地目録記載1(1)の土地のうち,同1(2)の部分(以下「係争地」という。)を明け渡せ。

(3) 大磯町に対し,Cは平成元年3月1日以降,被告Eは平成10年5月21日以降,(1)(2)の明渡済みに至るまで1年当たり4万5432円の割合による金員を支払え。

2  係争地関係

C及び同Eは,大磯町に対し,別紙1土地目録記載2(1)の土地のうち,同2(2)の部分(以下「係争地」という。)を明け渡せ。

3  係争地関係

(1) 被告F(被告番号3)は,大磯町に対し,別紙1土地目録記載3(1)の土地のうち,同3(2)の土地部分(以下「係争地」という。)につき,別紙現況実測図・求積図(F)表示のαコンクリートたたき部分27.33平方メートルを撤去して,明け渡せ。

(2) 主文1(1)と同旨

4  係争地関係

(1) 被告G(被告番号4)は,大磯町に対し,別紙1土地目録記載4(1)の土地のうち,同4(2)の部分(以下「係争地」という。)につき,別紙現況実測図(G)表示のαコンクリートたたき部分を撤去し,盛土をして,明け渡せ。

(2) 主文1(2)と同旨

5  係争地関係

(1) 被告H(被告番号5)は,大磯町に対し,別紙1土地目録記載5(1)の土地のうち,同5(2)の部分(以下「係争地」という。)を明け渡せ。

(2) 主文1(3)と同旨

6  係争地関係

(1) 被告I(被告番号6)は,大磯町に対し,別紙2建物目録記載6(1)(2)の建物のうち,同6(3)の部分を収去せよ。

(2) 被告Iは,大磯町に対し,別紙1土地目録記載6(1)の土地のうち,同6(2)の部分(以下「係争地」という。)を明け渡せ。

(3) 被告Iは,大磯町に対し,平成元年3月1日以降(2)の明渡済みに至るまで,1年当たり6万2428円の割合による金員を支払え。

7  係争地関係

(1) 大磯町に対し,被告J(被告番号7の1),同K(同7の2の1),同M(同7の2の2)及び同N(同7の2の3)は,別紙2建物目録記載7(1)の建物(以下「S建物」という。)のうち同7(2)の部分を収去し,被告O(被告番号8。以下「被告O」という。)は同部分より退去せよ。

(2) 被告J,同K,同M及び同Nは,大磯町に対し,別紙1土地目録記載7(1)の土地のうち,同7(2)の部分(以下「係争地」という。)を明け渡せ。

(3) 被告J,同K,同M及び同Nは,連帯して大磯町に対し,平成元年3月1日以降(2)の明渡済みに至るまで,1年当たり3万4532円の割合による金員を支払え。

8  係争地関係

(1) 大磯町に対し,被告Jは別紙2建物目録記載8(1)の建物(以下「T」という。)のうち同8(2)の部分を収去し,被告Oは同部分より退去せよ。

(2) 被告Jは,大磯町に対し,別紙1土地目録8(1)の土地のうち,同8(2)記載の部分(以下「係争地」という。)につき,コンクリート車庫を撤去し,盛土のうえ,明け渡せ。

(3) 被告Jは,大磯町に対し,平成元年3月1日以降(2)の明渡済みに至るまで,1年当たり4万1286円の割合による金員を支払え。

9  係争地関係

(1) 被告P(被告番号9)は,大磯町に対し,別紙1土地目録記載9(1)の土地のうち,同9(2)の部分(以下「係争地」という。)につき,コンクリートたたき部分19.89平方メートルを撤去して,明け渡せ。

(2) 主文1(4)と同旨

10  係争地関係

(1) 被告Q(被告番号10)は,大磯町に対し,別紙1土地目録記載10(1)の土地のうち,同10(2)の部分(以下「係争地」という。)につき,別紙現況実測図・求積図(Q)表示のα(土地の一部)部分15.49平方メートルのコンクリートたたき部分を撤去し,β(土地の一部)部分19.08平方メートルのコンクリートたたき部分を撤去して盛土のうえ,明け渡せ。

(2) 主文1(5)と同旨

(被告らの答弁)

1  本案前の答弁

本件訴えをいずれも却下する。

2  本案の答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

第2事案の内容

1  概要

本件は,大磯町の所有・管理する並木敷上に,建物を建築したり,コンクリートたたきを打設して通路などとして利用している被告らに対し,大磯町が妨害排除請求権等を行使しないのは,財産管理を違法に怠っているとして,同町の住民である原告が,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,大磯町に代位して,被告らに対し,建物収去,土地明渡し,不当利得返還等を求めた事案である。

2  基礎となる事実(証拠等により,直接認められる事実は,適宜,事実の前後に証拠等を記載する。証拠等の記載のないものは,争いがない事実である。なお,書証の成立は,弁論の全趣旨により認められる。)

(1)  当事者(原告の地位)

原告は,大磯町の住民である。

(2)  係争地の位置・所有関係と被告らの占有の概要

ア 別紙1土地目録記載1から10の各(1)の並木敷(まとめて,以下「本件並木敷」という。)は,別紙位置図の①から⑩の箇所にはさまれた道路の道路敷を構成する土地である。この道路は,旧国道1号線の一部であったもので,現在は,大磯町が道路敷を所有する大磯町道大磯高麗1号線(以下「本件町道」という。)となっている(証拠略)。ちなみに,並木敷という地目は,現在の登記地目としては使用されておらず,現在の登記地目としては公衆用道路となる(不動産登記法施行令3条,証拠略)。

本件町道は,道路としての通行の可能な中央部分(以下,便宜「中央部分」という。)と側道部分とに分けられ,中央部分は,本来の意味の公道として,現に利用されているが,側道部分は,中央部分に沿って松の木と草が散在し,通行の用には供されてはいない。この側道部分(以下「並木部分」ということがある。)の一部に本件各係争地がある。

イ 被告らは,その所有地に隣接する本件町道の並木部分の一部である別紙1土地目録記載1から10の各(2)の係争地(以下,まとめて「本件各係争地」という。)を占有している。(後記(3)の事実から,占有と評価できる。)

本件各係争地の位置関係は,別紙位置図のとおりであり,同目録記載1(2)の係争地が別紙位置図記載①,同目録記載2(2)の係争地が同図記載②,同目録記載3(2)の係争地が同図記載③,同目録記載4(2)の係争地が同図記載④,同目録記載5(2)の係争地が同図記載⑤,同目録記載6(2)の係争地が同図記載⑥,同目録記載7(2)の係争地が同図記載⑦,同目録記載8(2)の係争地が同図記載⑧,同目録記載9(2)の係争地が同図記載⑨,及び同目録記載10(2)の係争地が同図記載⑩の箇所に位置する。

これらの本件各係争地を含み,それらにはさまれた道路が,上記の本件町道であり,被告E,同C,同F,同G及び同Hの占有する係争地はJR東海道線より北側に,その余の被告らの占有する係争地はJR東海道線より南側にそれぞれ位置する(証拠略)。

(3)  本件各係争地の占有内容・態様

本件各係争地の占有の内容・態様は,各係争地別に述べると次のとおりである。なお,項番号は,別紙位置図の番号に符合させ,便宜①から⑩として記述する。以下でも,同様とする。

① 係争地関係

ア 当初被告の一人であるBは,別紙2建物目録記載1(1)の建物(C建物)を所有していた。

C建物のうち,別紙見取図①,同現況実測図(C),同求積図(Cー1)表示のα建物部分26.04平方メートルは,別紙1土地目録記載1(1)の並木敷上にある。

イ また,B及び当初被告であるDは,別紙1土地目録記載1(1)の並木敷のうち,別紙求積図(Cー1)表示のβ敷地部分70.82平方メートルを共同で占有していた。

ウ Bは,平成9年12月4日に死亡し,Cが相続した。

Dは,平成9年12月31日に解散し,平成10年5月20日に清算結了し,被告Eがその営業を引き継いだ。

エ その結果,CはC建物を所有して,被告EはC建物を利用して,それぞれ係争地を占有している。

② 係争地関係

記述事項なし(争いがあるため)

③ 係争地関係

被告Fは,別紙1土地目録記載3(1)の並木敷のうち,別紙見取図③及び同現況実測図・求積図(F)表示のα部分27.33平方メートルの係争地上にコンクリートたたきを打設した。

④ 係争地関係

被告Gは,別紙1土地目録記載4(1)の並木敷のうち,別紙見取図④及び同現況実測図(G)表示のα部分25.70平方メートルの係争地にコンクリートたたきを打設した。

⑤ 係争地関係

被告Hは,別紙1土地目録記載5(1)の並木敷のうち,別紙見取図⑤,同現況実測図(H),同求積図(Hー1)及び同図(Hー2)表示のγδε部分に生け垣や置き石を設け,同人の所有する建物の一部を同αβ部分にかかるように建築し,係争地を占有している。

⑥ 係争地関係

ア 被告Iは,別紙2建物目録記載6(1)(2)の建物を所有している。

イ 別紙2建物目録記載6(1)(2)の建物のうち,同6(3)の部分は,別紙1土地目録記載6(1)の並木敷上にある。

ウ また,被告Iは,別紙1土地目録記載6(1)の並木敷のうち,別紙見取図⑥,同現況実測図(I)及び同求積図(I)表示のα敷地部分54.82平方メートル及び同γ建物敷地部分0.13平方メートル(同βをも合計すると,133.11平方メートルで,これが係争地となる。)を占有している。

⑦ 係争地関係

ア 被告J及び当初被告のLは,別紙2建物目録記載7(1)の建物(S建物)を共同所有していたが,Lが平成11年11月21日に死亡したため,妻である被告K,子である同M,同Nが法定相続分に従い,L所有の持分を相続した。したがって,同建物は,現在,被告J,同K,同M及び同Nが共同所有している。

イ S建物のうち,別紙見取図⑦,同現況実測図(J)及び同求積図(Jー1)表示のα部分54.98平方メートルは,別紙1土地目録記載7(1)の並木敷上にある。

ウ また,被告J,同K,同M及び同Nは,別紙1土地目録記載7(1)の並木敷のうち,別紙求積図(Jー1)表示のβS敷地部分18.65平方メートル(同αと合計すると,73.63平方メートルで,これが係争地である。)を共同占有している。

エ 被告Oは,S建物を占有している。

⑧ 係争地関係

ア 被告Jは,別紙2建物目録記載8(1)の建物(T)を単独で所有している。

イ Tのうち,別紙見取図⑧,同現況実測図(J)及び同求積図(J-2)表示のγ部分27.67平方メートルは,別紙1土地目録記載8(1)の並木敷上にある。

ウ 被告Oは,Tを占有している。

⑨ 係争地関係

被告Pは,別紙1土地目録記載9(1)の並木敷のうち,別紙見取図⑨,同現況実測図・求積図(P)表示のα部分(土地の一部)61.52平方メートルの係争地の上にコンクリートたたきを打設した。

⑩ 係争地関係

被告Qは,別紙1土地目録記載10(1)の並木敷のうち,別紙見取図⑩,同現況実測図・求積図(Q)表示のα部分(土地の一部)15.49平方メートル及びβ部分(土地の一部)19.08平方メートルの上にコンクリートたたきを打設した。上記α部分及びβ部分を併せた土地が係争地である。

(4)  占用許可の有無

B,被告F,同I及び同O(当時は個人商店)は,いずれも大磯町が本件並木敷の管理を開始する以前から,占用許可を得て,占用料を支払って本件並木敷を利用してきた。

大磯町は,平成元年8月2日付けで,前記被告ら3名を含む占用許可を受けていた者21名に対し,以後並木敷について占用許可を行わないこと及び今後土地の明渡し及び工作物の移転等について話し合いを進めて行く旨を通知した(証拠略)。

それ以外の被告らは,過去において,本件並木敷について,占用許可を受けたことはない。

(5)  監査請求

原告は,平成8年8月23日大磯町監査委員に対し,地方自治法242条1項に基づき,本件町道の並木部分の不法占有があるとして監査請求をしたが,同年10月18日,監査請求は理由がないと判断された。

3  主な争点

本件の主な争点及びこれらの点に関する双方の主張は,以下のとおりである。

(1)  財産管理性の有無(本案前の争点)

(被告ら,参加人の主張)

道路等の公共用財産は元来個々の行政目的に従って一般公衆の共同使用に供されるものであり,その供用自体は単なる財産管理とは次元を異にする性質のものである。したがって,当該公共用財産の具体的な供用自体の回復という問題は,関係する個々の行政分野での行政権の行使の問題に属し,財務会計上の問題として住民訴訟の対象とすることはできない事柄である。

(原告の主張)

大磯町は,道路法90条2項に基づき本件並木敷(本件町道の敷地)の譲与を受けたのであるから,地方自治法237条1項,238条1項4号に準ずる権利があり,その所有財産を常に良好な状態においてこれを管理し,その所有の目的に応じてもっとも効率的にこれを運用しなければならない(地方財政法8条)。したがって,公有財産の管理を怠っているため私人に公衆用道路を不法占拠された場合には,当該私人に対し原状回復,明渡しを求めたり,損害賠償を請求することができるのである。

道路管理者の管理行為と財産管理者の管理行為とは実際上重なり合う部分があるから,公衆用道路を第三者に不法占拠されたままの状態で放置し,その占有回復のために何らの措置も講じない場合には,これは財産管理者としても,道路管理者としても,いずれもその管理を怠るものというべきである。

(2)  監査請求の経由の有無(本案前の争点)

(参加人の主張)

本件に関する監査請求の趣旨は,「道路管理者」である参加人が本件町道の並木部分について「財産の管理を怠る事実」があるとして請求され,監査結果もこれに対応したものとなっている。

ところが,本件並木敷(本件町道の敷地)は平成8年11月26日及び平成9年2月3日に道路法90条2項に基づき大磯町がその譲与を受け,それに対応して,原告の本訴における請求原因は,大磯町を本件町道の並木部分の所有者として,所有権に基づく妨害排除請求権の代位行使,占用料相当の損害金の返還を求めるものとなっている。

したがって,原告の本件訴えは,監査請求を経たものとはいえず,不適法であり,却下されるべきである。

(原告の主張)

争う。

(3)  大磯町による財産管理の過怠の有無(本案の争点)

(原告の主張)

ア 大磯町が本件町道の並木部分の不法占有者に対し不当利得返還請求権を取得した場合,その請求債権は「財産」(地方自治法237条1項)であるから,その行使を怠っていることは財務会計上の怠る事実にほかならない。

そして,参加人は,大磯町の財産である金銭債権を行使すべき義務を負い,その不行使については,裁量権を有しない(同法施行令171条以下)から,参加人が正当な理由なく,被告らに対し同債権を行使しないまま相当な期間が経過したときは,違法に財産の管理を怠る事実が成立し,その怠る事実に係る相手方である当該債権の債務者に対する関係で,地方自治法242条の2第1項4号に基づき住民訴訟を提起することができる。

イ 建物等の収去,土地の明渡し等,原状回復についての代位請求は,財産管理者が裁量権の範囲を超えて違法に財産の管理を怠る事実の存在が要件となる。本件においては,以下のとおり,被告らは,本件町道の並木部分につき,これを切断し,原状を破壊し,道路の構造自体を変更し,コンクリート舗装を行い,被告ら所有の倉庫や建物の敷地の一部として利用し占有しており,大磯町は占用許可を撤回した平成元年8月から既に10年以上が経過しているにもかかわらず,被告らに対し何らの措置を講ずることなく,漫然と放置しているから,その裁量権を逸脱していることは明らかであり,その要件を満たしている。

ウ 各係争地別には,以下のとおりである。

① 係争地関係

a 大磯町は,C及び同Eに対し,所有権に基づく妨害排除請求権により,別紙1土地目録記載1(1)の並木敷のうちの係争地につき,C建物部分の収去明渡し・退去明渡し,その建物の敷地部分の明渡しを求めることができる。

b 係争地の合計面積は96.86平方メートルであるところ,昭和63年6月6日当時の本件町道の並木部分の占用料は1平方メートル・1年当たり469円を相当とする(他の各被告との関係でも同様)から,大磯町に対し,Cは遅くとも平成元年3月1日以降,被告Eは遅くとも平成10年5月21日以降,法律上の原因なしに,係争地の占有により,1年当たり4万5432円の割合による不当な利得を得て,同額の損害を大磯町に与えている。

よって,大磯町は,上記の損害賠償請求をすることができる。

c ところが,大磯町がa及びbの請求権の行使を怠っているので,原告は,その代位行使をする。

② 係争地関係

a C及び同Eは,別紙1土地目録記載2(1)の並木敷のうちの係争地を共同占有している。

b 大磯町は,C及び同Eに対し,所有権に基づく妨害排除請求権により,係争地の明渡しを求めることができる。

c ところが,大磯町が同請求権の行使を違法に怠っているので,原告は,その代位行使をする。

③ 係争地関係

a 被告Fは,別紙1土地目録記載3(1)の並木敷のうちの係争地上にコンクリートたたきを打設することにより,同土地を占有している。

b 大磯町は,被告Fに対し,所有権に基づく妨害排除請求権により,係争地の明渡しを求めることができるところ,これを違法に怠っているので,原告は,その代位行使をする。

c また,被告Fは,係争地の占有により,遅くとも平成元年3月1日以降,法律上の原因なしに,1年当たり1万2817円の割合による不当な利得を得て,同額の損害を大磯町に与えた。

d ところが,大磯町がcの不当利得返還請求権の行使を怠っているので,原告は,その代位行使をする。

④ 係争地関係

a 被告Gは,別紙1土地目録記載4(1)の並木敷のうちの係争地を,最大70センチメートル切り下げ,その上に,コンクリートたたきを打設し,これを占有している。

b 大磯町は,被告Gに対し,所有権に基づく妨害排除請求権により,係争地の明渡しを求めることができるところ,これを違法に怠っているので,原告は,その代位行使をする。

c また,被告Gは,係争地の占有により,遅くとも平成元年3月1日以降,法律上の原因なしに,1年当たり1万2053円の割合による不当な利得を得て,同額の損害を大磯町に与えている。

d ところが,大磯町がcの不当利得返還請求権の行使を怠っているので,原告は,その代位行使をする。

⑤ 係争地関係

a 被告Hは,別紙1土地目録記載5(1)の並木敷のうちの係争地を占有している。

b 大磯町は,被告Hに対し,所有権に基づく妨害排除請求権により係争地の明渡しを求めることができるところ,これを違法に怠っているので,原告は,その代位行使をする。

c また,被告Hは,係争地の占有により,遅くとも平成元年3月1日以降,法律上の原因なしに,1年当たり5154円の割合による不当な利得を得て,同額の損害を大磯町に与えている。

d ところが,大磯町がcの不当利得返還請求権の行使を怠っているので,原告は,その代位行使をする。

⑥ 係争地関係

a 被告Iは,別紙2建物目録記載6(1)(2)の2つの建物を所有している。

b 大磯町は,被告Iに対し,所有権に基づく妨害排除請求権により,aの2つの建物のうちの係争地(別紙1土地目録記載6(1)の並木敷の一部)上にかかる部分の収去,及び係争地の明渡しを求めることができるところ,これを違法に怠っているので,原告は,その代位行使をする。

c また,被告Iは,係争地の占有により,遅くとも平成元年3月1日以降,法律上の原因なしに,1年当たり6万2428円の割合による不当な利得を得て,同額の損害を大磯町に与えている。

d ところが,大磯町がcの不当利得返還請求権の行使を怠っているので,原告は,その代位行使をする。

⑦ 係争地関係

a 大磯町は,被告J及び当初被告のLに対し,所有権に基づく妨害排除請求権により,S建物のうち,係争地(別紙1土地目録記載7(1)の並木敷の一部)上にある部分の収去及び同係争地の明渡し,また被告Oに対し同部分からの退去を求めることができた。

b 被告J及びLは,係争地の占有により,遅くとも平成元年3月1日以降,法律上の原因なしに,1年当たり3万4532円の割合による不当な利得を得て,同額の損害を大磯町に与えている。

c 大磯町は,被告J並びに当初被告のLの相続人である同K,同M及び同Nに対し,a及びbの請求権を行使することができるにもかかわらず,これらを違法に怠っているので,原告は,その代位行使をする。

⑧ 係争地関係

a 大磯町は,被告Jに対し,所有権に基づく妨害排除請求権により,係争地(別紙1土地目録記載8(1)の並木敷の一部)上にあるT部分27.67平方メートルの収去,コンクリート車庫の原状どおりの盛土及び同係争地の明渡しを,同Oに対し,Tからの退去を,求めることができるところ,これを違法に怠っているので,原告は,その代位行使をする。

b また,被告Jは,係争地の占有により,遅くとも平成元年3月1日以降,法律上の原因なしに,1年当たり4万1286円の割合による不当な利得を得て,同額の損害を大磯町に与えている。

c ところが,大磯町がbの不当利得返還請求権の行使を怠っているので,原告は,その代位行使をする。

⑨ 係争地関係

a 被告Pは,別紙1土地目録記載9(1)の並木敷のうちの係争地上にコンクリートたたきを打設し,同部分を占有している。

b 大磯町は,被告Pに対し,所有権に基づく妨害排除請求権により,aのコンクリートたたき部分の撤去,係争地の明渡しを求めることができるところ,これを違法に怠っているので,原告は,その代位行使をする。

c また,被告Pは,係争地の占有により,遅くとも平成元年3月1日以降,法律上の原因なしに,1年当たり2万8852円の割合による不当な利得を得て,同額の損害を大磯町に与えている。

d ところが,大磯町がcの不当利得返還請求権の行使を怠っているので,原告は,その代位行使をする。

⑩ 係争地関係

a 被告Qは,係争地(別紙1土地目録記載10(1)の並木敷の一部)のうち,別紙現況実測図・求積図(Q)表示のα部分(土地の一部)15.49平方メートルにコンクリートたたきを打設し,同β部分(土地の一部)19.08平方メートルを,最大約60センチメートル切り下げて,コンクリートたたきを打設し,同αβ部分を占有している。

b 大磯町は,被告Qに対し,所有権に基づく妨害排除請求権により,aにつき,原状どおりにして,明渡しすることを求めることができるところ,これを違法に怠っているので,原告は,その代位行使をする。

c また,被告Qは,係争地の占有により,遅くとも平成元年3月1日以降,法律上の原因なしに,1年当たり1万6218円の割合による不当な利得を得て,同額の損害を大磯町に与えている。

d ところが,大磯町がcの不当利得返還請求権の行使を怠っているので,原告は,その代位行使をする。

(被告らの主張)

ア 認否

原告の主張のうち,事実(ただし,基礎となる事実のうち争いがない事実を除く。)についてはいずれも否認し,法的な主張についてはいずれも争う。

イ 被告らの類型別の主張は次のとおりである。

被告F,同G,同I及び同Qはコンクリートたたきを打設したが,いずれも日常生活上最小限度手を加えたにすぎない。

B,被告F,同I及び同O(当時は個人商店)は,いずれも大磯町が本件並木敷の管理を開始する前から,占用許可を得,占用料を支払って本件並木敷を利用してきた。平成元年大磯町が占用料の受領を拒否したので,B,同人死亡後のC,被告I及び同Oは,以後供託した。

その他の被告らも,自宅から本件町道の中央部分に至るまでの通路(生活用道路)として本件並木敷を使用するなどしてきたもので,かなり以前から,周囲との調和,環境美化に留意した上で平穏に利用を継続してきており,形質変化の程度,必要性,生じた不利益(一般の通行には問題はなく,また,何らかの損害が生じたわけではない。)等を考慮すると,それらの利用は許容範囲を超えないものである。なお,過去において,原告のような形で本件並木敷の利用を問題にした者はいない。

ウ 適法な占有

被告らの本件町道の並木部分の利用形態は一様ではないが,大磯町は,それらの態様,程度等に応じて順次妥当な形で解決を図っていく姿勢のようである。そして,そのような姿勢は行政としてきわめて当然なあり方である。現に,大磯町が,本件並木敷と一体をなす並木敷の本訴外の利用者に対し,交渉によって補償金を支払って明渡しを受けた事例もあり,看過しがたい事案においては,民事訴訟を提訴した上解決した事例もある。町が道路整備を進めていくには,対象の多様性,手段の適切さの考慮等多くの問題があり,行政の裁量に任されるべき要因が大きいものである。

以上から,被告らの利用は,過去の歴史・沿革,利用の態様等からして,不法占有ではなく,仮に,そうであったとしても,大磯町が与えられた裁量を違法に怠ったものではない。

(参加人の主張)

参加人は,前記被告らの反論のほか,以下のとおり主張する。

ア 係争地の返還

参加人は,すでに係争地については,返還を受けた。

イ 大磯町による財産管理の過怠の不存在

昭和36年1月18日本件並木敷の管理権が参加人に移管した当時,本件並木敷を含む旧東海道の並木敷には多数の許可占用者がおり,大磯町は神奈川県からこれらを引き継いだ。さらに,当時,通路として並木敷を事実上使用している者も多数存在した。参加人の道路管理権の内容は,移管当時の現状を前提とした上での道路の維持・管理,松並木の保存等であり,参加人が被告らの利用を認めてきたのは,この引継ぎの結果によるものである。

被告らは,占用許可を得て占用料を支払って本件並木敷を利用してきた者か,生活用道路として本件並木敷を使用してきた者であるところ,生活用道路以外の利用者は従来占用許可が与えられていた者であり,いずれも不法占有者ではない。大磯町が道路管理上の都合から占用許可をしない状態が続いたとしても,直ちに被告らの利用が不法占有になるものではなく,参加人には,被告らに対する妨害排除請求権が存在しないから,代位請求は失当である。

参加人は,占用許可を与えなくなった以降,逐次,明渡しの交渉等を進めているが,予算的制限,住民との合意などの問題があり,結果的に思ったとおりに進展していないにすぎない。参加人は,現在,物件の移転等についての施策が定まるまでの間,被告らの占有・使用を事実上容認している。

以上から,参加人が財産管理を怠っているとはいえず,また,道路管理者としても,管理行政上の裁量の範囲内の問題であって,違法ではない。

さらに,大磯町が本件並木敷(本件町道の敷地)の所有権を取得したのは平成8年11月26日及び平成9年2月3日であり,その時点から今日までわずかな期間しか経過しておらず,大磯町としては,現在,もと許可占用者に対する物件移転補償及び生活用道路の設置等に関する考え方を策定している段階であるから,財産管理者としての参加人が本件町道の並木部分についての財産管理を違法に怠っているものとは,到底いえない。

ウ 参加人が被告らから占用料を徴収しない理由

参加人は,被告らが本件並木敷を利用するに至った経緯,平穏な利用状況等を考慮し,今後本件町道の並木部分を整備するに当たり,被告らの協力を得る必要があり,整備事業の企画,立案の過程において,使用料の徴収を当分猶予するのが相当と判断した。手続上は,「大磯町道路占用料徴収条例」(以下「占用料徴収条例」という。証拠略)5条に準拠して,7号の「町長が特に必要があると認めるとき」に該当するものとして処理している。

さらに,形式的には,大磯町において,道路の占用に対する使用料の徴収に関しては前記条例が存するが,同条例は,占用許可を与えている場合の規定であり,占用許可を与えていない場合に使用料を徴収すべき条例はない。

第3争点に対する判断(証拠等により直接認められる事実については,主な証拠等を当該事実の前後に記載する。書証の成立は弁論の全趣旨により認められる。一度認定した事実は,原則としてその旨を断らない。)

1  本案前の争点(1)(財産管理性の有無)について

(1)  原告の主張と前提の権利関係

被告ら及び参加人は,原告が主張する問題は,道路管理の問題であって,住民訴訟の対象とならない旨を主張する。

確かに,地方自治法242条の2に定める住民訴訟の対象となるのは,同法242条1項に定める財務会計上の行為又は怠る事実であるから,地方公共団体の道路の敷地の占有に関していうと,執行機関又は職員が上記道路敷地の占有に関する何らかの作為又は不作為により地方公共団体が道路敷地について有する財産的価値に影響を及ぼした場合には,その作為又は不作為が住民訴訟の対象となるが,財産的価値に何ら影響を生じさせないような場合は,その作為又は不作為は,道路管理者の道路行政上の問題となることはあっても,住民訴訟の対象とはならないと解するのが相当である。

そこで,原告の主張する問題が道路管理の問題にとどまるか,財産的価値の変更をもたらすものであるかを検討する。

(2)  第三者が道路を占有した場合の管理の支障の内容

ア 明渡請求をしないことと財産管理の問題の有無

(ア) そこで,まず,道路が不法占拠された場合に道路敷地の所有者が明渡請求をしないことが道路の財産的価値の変更をもたらすかという問題を検討することとする。なお,道路敷地の権原としては,本件に即して所有権を想定する。

(イ) 道路法上の道路の利用に関する法律関係は,道路法上の道路管理者が,道路敷地について権原を取得して,これを利用者の利用に供するものである。そうすると,第三者が道路の敷地を占有する場合には,一般的にいえば,道路が本来の目的に供されないことになるので,道路管理権の行使に支障をもたらすことになるとともに,道路敷地の所有権の行使が阻害されることになるので,敷地の財産権の管理の問題ともなる。

ただし,第三者の占有の仕方が,場所的に狭く,時間的に恒常性がない場合には,専ら道路管理としての支障の有無が中心となり,道路敷地の財産的価値の減少は観念できないということになり,道路管理の問題は生ずるが,財産管理の問題が生じないと評価すべきことになり得る。

(ウ) なお,道路敷の権原を有する地方公共団体は,もともと道路敷地についての利用権を公共用に提供し,自身は残りの観念的ないわゆる底地権を有するにとどまるから,たとえ道路敷地を第三者に排他的に占有されても,道路敷の権原を有する地方公共団体が道路敷地について有する底地権の財産的価値には,利用権の負担があるという点では,一見変動を生ずるものではないとも思われる。しかし,第三者が道路敷を排他的に占有すると,そのために他に道路敷地を求めざるを得なくなる場合もあり,また,何らかの財産的な措置を講ずる必要が生ずる場合もあり,さらに,占有された部分を普通財産に変更して使用することができなくなるという面もある。したがって,第三者が道路敷地を占有している場合には,その占有の態様が場所的に広がりがあり,恒常性があれば,道路管理の問題だけではなく,道路敷地の財産(不動産所有権)管理の問題ともなるというべきである。

イ 占用料相当金員の支払義務の有無及びその管理の性質

(ア) アでは,道路敷地権である不動産物権自体の管理の問題を検討したが,イでは,敷地を回復するまでの間の道路敷地の占有に伴う損害金等の金員支払義務の発生の有無,その債権の管理の問題を検討する。

なお,この場面における道路敷の権原としては,原則として敷地の所有権を検討するが,無償貸付けによる利用権についても検討する。

(イ) 道路管理者は,道路の占用に対しては,本来は道路占用許可を行い,占用料を徴収する(道路法32条・39条)こととされている。

他方,道路占用許可を受けずに,道路を無断で占有する者に対しては,道路敷の権原を有する地方公共団体は,次のとおり占用料に相当する金員を徴収することができると解するのが相当である。

すなわち,地方公共団体が道路敷について所有権を有する場合には,その所有権侵害に基づく損害賠償請求権を考えることができる。また,地方公共団体の道路敷について有する権利が無償貸付けによる権利の場合でも,本来は占用許可を受けて占用料を支払うべきであるにもかかわらず,これを支払わずに無断で占有するということは,占用料の潜脱という性質を有するので,占用料徴収債権の侵害として損害賠償請求権を発生させると解することもできる。また,占有者は占用料を払わずに敷地を利用できるのに対し,道路管理者は占用料を徴収することができないことになるから,当該地方公共団体は占有者に対して不当利得返還請求権を有すると考えることもできる。

(ウ) そして,上記の損害賠償金又は不当利得返還金(以下,まとめて「占用料相当金員」という。)の徴収を怠る場合には,その占用料相当金員の支払請求債権という財産の管理の問題となる。

(3)  本件へのあてはめ

ア 不動産管理の問題の有無

(ア) そこで,まず,問題の前提として,本件町道の権利関係を検討するに,本件各係争地は,いずれも本件並木敷(本件町道)の一部である。本件町道は,通行の可能な中央部分と通行はできない側道部分とに分けられ,中央部分は,本来の意味の公道として,現に利用されているが,側道部分は,中央部分に沿って松の木と草が散在し,通行の用には供されてはいない。この側道部分が並木部分であり,その一部に本件各係争地がある。

また,本件町道の敷地の所有権についてみると,従前は国の所有であったところ,大磯町は,昭和36年に国から無償貸付けを受け,町道敷としてこれを管理することとなったが,平成8年11月及び同9年2月に道路法90条2項に基づき本件町道敷地の所有権の譲与を受けてこれを取得した。

したがって,本件町道は,中央部分はもとより,側道部分も大磯町の行政財産(公共用財産)であり,その敷地の所有権は,大磯町にある。そして,被告らが,その一部である本件各係争地を占有している。以上のような権利関係にある。

(証拠略)

(イ) 本件において,被告らによる本件並木敷の利用の態様は,前記のとおり,建物を所有しその敷地として,又は,コンクリートたたきを打設するなどした上で,自己通行用土地として,いずれも長期にわたり使用するというものである。

なお,本件町道の並木部分は,松の木と草が散在する土地部分で,公道のように人が通行することのできる土地ではないが,側道部分であり,本件町道の中央の本来の公道として利用される部分(中央部分)と本件町道の外の民有地との境界を形成する部分である。並木部分を道路敷地の一部とするのを止め,現在の中央部分だけをもって町道とするように本件町道の幅員を縮小するような政策を実施することも可能かもしれないが,現在のように並木部分を並木の散在する側道として本件町道の一部とするという政策を維持することももちろん可能である。あるいは,並木部分に費用をかけて歴史的な沿革を反映させたものとして整備をするという政策を採用することも可能であろう。いずれにしろ,現在の並木部分の有り様は,公共用財産としての道路敷地であることを未だ廃止したようなものではない。

(ウ) そうすると,被告らが本件各係争地を占有することは,公共用財産としての性格をなお維持している本件町道の並木部分を,広い範囲にわたり,恒常的に占有するということである。したがって,その占有部分を排除しないことによる問題は,道路管理の問題にとどまらず,道路敷地の財産(不動産所有権)管理の問題ともなり,住民訴訟の対象となると解するのが相当である。

なお,本件町道の道路管理者は大磯町であり(道路法16条1項),参加人は,道路管理者及び敷地の所有者である大磯町の代表者という地位にある(なお,当事者の主張中には,この点が多少混乱しているものがある。)。

イ 債権管理の問題の有無

また,前記(2)イのとおり,道路敷の権原を有する地方公共団体は,道路を無断で占有する者からは占用料相当金員を徴収することができ,当該地方公共団体がその徴収を怠る場合には,上記の債権という財産の管理の問題となる。そうすると,大磯町が本件町道の並木部分の無断占有に伴う占用料相当金員を徴収しないという問題は,地方公共団体の執行機関又は職員による財産(債権)管理の問題として,住民訴訟の対象となると解するのが相当である。

ウ まとめ

以上から,被告ら及び参加人による(1)冒頭の本案前の主張(本件の問題は,財産管理の問題ではなく住民訴訟の対象とならない旨の主張)は,採用できない。

2  本案前の争点(2)(監査請求前置違反の有無)について

(1)  参加人の主張

参加人は,監査請求と本訴の請求とが同一ではないので,本訴は監査請求前置違反であると主張する。

(2)  監査請求と訴訟との同一性の判断基準

ところで,住民訴訟の対象とすべき財務会計上の行為又は怠る事実は,監査請求に係る財務会計上の行為又は怠る事実と必ずしも完全に一致する必要はなく,その対象事項に社会経済的な行為又は事実としての同一性があれば足り,違法事由までは同一であることを要請されず,訴訟において新たな違法事由を主張することは許されると解される(最高裁昭和62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁参照)。

(3)  本件における監査請求と本訴請求の内容

本件に関する監査請求の趣旨は,参加人は,本件並木敷を不法に占有しこれを自己の使用に供している者(被告ら)がいるのに,財産管理者として放置しており,「財産の管理を怠る事実」があるから,怠る事実の是正,大磯町の被る損害の補てん等必要な措置を講ずべきことを請求するというものである(証拠略)。

これに対して,本訴は,大磯町が道路法90条2項に基づき平成8年11月26日及び平成9年2月3日になって,本件並木敷(本件町道の敷地)の譲与を受けたことを前提として構成されている。すなわち,監査請求の時点においては,大磯町が本件並木敷を所有していなかったのに対し,本訴は,大磯町が本件並木敷の所有権を取得したことを前提にして,所有権に基づく妨害排除請求及び占用料相当金員の支払請求の各代位行使をするものである。

したがって,監査請求においては道路管理権に基づく是正請求であったのに対し,本訴においては所有権に基づく権利の代位行使であり,両者は,是正を求める根拠が異なるということができる。

(4)  本件における監査請求と本訴請求との同一性の有無

そこで,(2)の考え方を背景にして,(3)の事実をみると,監査請求と本訴とでは,是正を求める根拠規定は別であるが,対象としている行為又は事実は,監査請求及び本訴ともに,本件並木敷の一部が被告らによって不法に占拠されているにもかかわらず,参加人又は大磯町が放置しているということであり,対象は同一である。監査請求は,本訴における原告の請求を予め提示していたともいえる。そして,前記(2)の考え方により,対象となる行為又は怠る事実が同一である場合には,違法事由が異なっても,監査請求と訴訟上の請求には同一性があるとされる。

以上から,本訴請求と監査請求とは,その対象事項に同一性があり,本訴は,監査請求を適法に前置していると認めることができる。よって,参加人の本案前の主張は採用できない。

3  違法に財産管理を怠る事実の有無(本案の争点)について

(1)  怠る事実の有無

被告らの本件各係争地の占有に対し,大磯町の執行機関である参加人が明渡請求をしてはおらず,また占用料相当金員の支払を請求していないところ,これは,大磯町の財産の管理に関する問題であり,特段の事情がない限り,管理を怠る事実に該当するといわなければならない。

そこで,次に,特段の事情がないかどうか,また怠る事実が違法に財産の管理を怠るものかどうかを検討する。

(2)  違法性の有無の判断基準

ア 総論

地方公共団体の執行機関又は職員が地方公共団体に帰属する財産権があるにもかかわらずその行使をしない場合には,財産管理を怠る事実があるということになるが,それだけで直ちに財産管理を怠る事実が違法であるわけではない(地方自治法242条1項も,「怠る」と「違法」とを区別して規定している。)。そして,違法に怠る事実に該当するかどうかは,財産の性質を踏まえ,その財産の回収ができるにもかかわらずそれをしないという場合かどうかで判断するのが相当である。なお,金銭債権については,怠ることは,すなわち違法であるという場合が多いが,便宜観念的には,区別をして検討する。

イ 明渡請求をしないことと違法の有無

アの考え方を道路敷の占拠に対する明渡請求の場合について具体化すると,当該敷地の占有が建物敷地として使用することについての占用許可を受けたことに基づくものかどうか,これに基づくものである場合には,占用許可により借地権類似の権利性が付与されたことにならないか,占用許可をしたものについては,行政財産の目的外使用許可となり,その撤回の場合に損失補償を要することにならないか,等が問題となる。つまり,建物収去土地明渡請求,コンクリートたたき撤去土地明渡請求等に対して,上記のようなことを理由とする抗弁が出されて,無条件明渡しが困難とならないか,そしてそれが肯定される場合には,財産管理を違法に怠っているとは評価することはできないことになる。

ウ 占用料相当金員の請求をしないことと違法の有無

(ア) 支払義務の発生と管理の違法の有無

イのような判断基準により明渡請求をすることが必ずしも必要とはいえないとされるときに,占用料相当金員の支払を求めるのは,一見矛盾するかのように思われないでもない。しかし,道路敷の所有者で道路管理者でもある地方公共団体が,占有者に対し占用許可はしないにもかかわらず,明渡請求はなお諸般の事情から控えるということもあり,その場合には,占用料そのものではないが,これに相当する金員を徴収することが適当と解されるところである。占用料相当金員を徴収することは,占用を許可したことと同視されることではないし,明渡請求権がないことと同視されることでもない。このように,道路敷地の占有に対する管理の問題であっても,占用料相当金員の請求には明渡請求とは別の面がある。

すなわち,道路敷について占用許可を受けた場合の占有,明渡請求を拒否できる場合の占有はもとより,敷地の明渡しをしなければならない者の明渡しまでの間の占有についても,1(2)イのとおり,占有者には,占用料相当金員の支払義務が生ずる。

そして,占用料相当金員の支払請求権は,金銭支払請求債権であって,不動産の明渡請求権とは異なり,原則として無条件にその行使が可能となると解される。そうすると,地方公共団体の有する道路敷地についての権原が所有権であろうと無償貸付けによる利用権であろうと,また占有者の許可の有無にかかわらず,占用期間がある程度恒常的であれば,占有(占用)者は,占用料相当金員を支払うべき義務があると解される。したがって,地方公共団体の執行機関又は職員がその徴収行為を怠る場合には,それは,特段の事情がない限り,違法に財産(債権)の管理を怠る事実に該当するというべきである。

(イ) 明渡済みまでの占用料相当金員の扱い

なお,占用許可を受けずに占有する者は,いずれ占有地を明け渡さなければならないはずである(ただし,イのとおり,道路敷の所有者が直ちに当該占有者に対し明渡請求をしないことが違法な財産管理となるかどうかは別問題である。)が,それまでの占用料相当金員の支払の問題は,厳密に言えば,未だ発生していない将来の債権の問題である。

しかし,地方自治法242条の2第1項4号の訴えは,地方公共団体が有する請求権の一定のものを住民が代位行使することを認めるものであるから,地方公共団体が占有者に対し明渡済みまでの占用料相当金員の支払請求権を有する場合において,違法にそれを行使しないときは,住民がこれを代位行使することに支障はないと解される。そうすると,予め請求をする必要がある(民訴法135条の将来請求の要件)と認められれば,上記請求の代位行使も可能であるというべきである。地方自治法242条1項も,当該行為がされることが相当の確実さをもって予測される場合の債権も同様に財産管理の問題となり得ることを定めていると解される。特に,占用料相当金員の支払請求権を従前から行使していない場合には,従前の分と明渡済みまでの占用料相当金員及びそれらの管理の問題は一体であり,同金員の支払請求を怠る事実は一体として住民訴訟の対象となると解するのが相当である。

そうすると,地方公共団体が従前から第三者による無許可の占有を放置している場合には,将来の明渡しまでの期間も同様にこれを放置するであろうと考えられるので,特段の事情がない限り,従前の占有から明渡済みまで一体として違法に財産(占用料相当金員の請求債権)の管理を怠る事実に該当することになるというべきである。

エ その他の考慮事由

さらに,明渡請求権の場合も金銭支払請求権の場合も,同種案件の有無,それとの扱いの均衡の有無等といった行政権の行使の観点からする考慮が必要であり,そのため財産の管理権を直ちに行使すべきかどうかの判断が変わってくる場合もある。その結果,財産の管理を怠っているものの,そのことが違法でないと評価されることも,なおあり得るというべきである。

オ 検討事項

そこで,主として,本件各係争地の明渡しの代位請求の成否を検討する前提として,本件並木敷の成立の沿革,管理状況の概要,被告らの本件並木敷の利用の経緯,被告ら以外の者による並木敷の利用状況,松並木整備計画の策定と利用者との交渉状況等の事実関係について,まず検討する。

(3)  本件並木敷の沿革及び管理状況の概要

本件並木敷を含む化粧坂付近は,江戸時代には東海道の一部として通行の用に利用されていた。化粧坂地区は,江戸時代には参勤交代の武家や商人の往来でにぎわい,一里塚や化粧井戸などの歴史的遺産も存在した地域であり,旧東海道に沿って松,エノキなどの木が植えられており,現在も江戸時代に植えられた松の古木を含む木々がところどころに残っている。しかし,近年マツクイムシによる枯死などもあって,松の古木はだんだん少なくなり,現在,松並木等の整備は行き届いているとはいい難い状況である。その付近の東海道は,その後旧国道1号線の一部となり,本件並木敷付近は,当初国道の管理者としての神奈川県が管理していたが,前後の国道1号線の整備に伴い,同坂付近の旧国道1号線は国道としての機能がなくなり,昭和35年9月27日に大磯町道に認定され,同月30日に告示され,さらに,昭和36年1月18日その管理権が神奈川県から大磯町に移管され,同町がこれを管理するところとなった。

これらに伴い,本件並木敷付近の上記町道は,交通量はわずかとなり,主に生活用道路として機能している。管理権の移管に伴い,神奈川県知事は参加人に対し,並木敷を占用している者を記載した占用物件調書(証拠略)を送付したが,同調書には,B,被告F,後記U,その他12名が占用許可を得た占用者として記載されている。

本件並木敷の所有権は,当初は国(当時の建設省所管)に属したので,大磯町は,町道の管理権者となった際に,国からその道路敷の無償貸付け(道路法90条2項)を受けたが,その後平成8年11月26日及び平成9年2月3日,同項に基づきその敷地の譲与を受けた(別紙1土地目録記載6(1)及び7(1)の土地は平成8年11月26日。その余は平成9年2月3日)。大磯町は,道路敷の管理権の移管を受けた以降今日に至るまで,舗装工事を行ったり,応急措置を施すなどの管理行為を行ってきた。

(証拠略)

(4)  被告らの本件並木敷の利用の沿革等

被告らによる本件並木敷(本件町道の敷地)の現在の利用状況は,第2の2(3)①から⑩のとおりである。また,大磯町が昭和36年から本件並木敷の管理をすることとなったが,被告らは大別すると,それ以前の神奈川県及びそれ以後の大磯町から占用許可を得て占用料を支払って本件並木敷を利用してきた者と,神奈川県及び大磯町から占用許可は受けていなかった者とに区分することができる。以下,各係争地別に,本件並木敷の現在の利用に至るまでの沿革等を検討する。

① 係争地関係

(ア) Bは,昭和34年ころ,神奈川県から係争地付近の土地(当初の面積は不明。後記供託開始当時は,53平方メートル)を,占用目的を古自動車部品置き場として占用許可を得,以後占用料を支払って同土地を継続的に利用してきた。

そして,Bは,係争地のうちの別紙求積図(Cー1)表示のα建物部分の土地(26.04平方メートル)上にC建物の一部を建築した。さらに,同人は,係争地のうちの同図表示のβ敷地部分(70.82平方メートル)上に鉄骨,鉄板等で台を作り,自ら経営する自動車修理工場のための自動車置き場等とした。前記β敷地部分は,現況道路(本件町道の中央部分)より約1.2メートルほど低くなっているが,人工的に土地が切り下げられたものではない。

(イ) また,Dは,Bとともに,C建物及び前記β敷地部分を占有してきた。

(ウ) Bは平成9年12月4日に死亡し,Cが相続した。

また,Dは平成9年12月31日に解散し,平成10年5月20日に清算結了し,被告Eがその営業を引き継いだ。

そして,現在,C及び同Eが,従来と同様の態様で,C建物(自動車修理工場)の敷地及び自動車置き場として係争地を利用している。

② 係争地

これに対し,本件町道を隔てて係争地の反対側に位置する係争地は,もとBが占用許可を得ることなく駐車場として利用していたが,その後同土地は大磯町に返還され,現在は空地であり,利用されていない。

(以上①②について,証拠略)

③ 係争地関係

(ア) 被告Fは,昭和24年に自己の宅地を購入した際に,取得予定地内に本件並木敷があることが判明したために,昭和25年12月18日に神奈川県から,a町b番地先の並木敷計223.50平方メートルを,うち108.20平方メートルは庭園として,うち115.30平方メートルは通路として占用許可を得て利用を開始し,以後占用料を支払って同土地を継続的に利用してきた。その間,昭和31年4月1日からは,前記通路部分については占用料は不要となり,庭園部分だけの占用料を支払えば足りることとなった。

(イ) ところで,被告Fは,平成4年春ころ,自宅の門,車庫等を整備した際,前記並木敷の一部である係争地27.33平方メートルを舗装し,コンクリートたたきを打設した。同被告がコンクリート舗装をしたのは,雑草の繁茂,雨水による土砂の流出を防ぎ,併せて歩行の安全,車の走行の安定を図るためということであった。

(ウ) これに対し,参加人は,平成4年6月24日,被告Fに対し書面(証拠略)にて前記コンクリートたたきを撤去することを要求した。

(以上③について,証拠略)

④ 係争地関係

(ア) 被告Gは,現住所地であるa町c,d番地の土地を昭和29年売買により取得し,同年12月ころ同土地上に建物を建築し,以降同所に居住してきた。同被告の上記自宅と本件町道の中央部分との間には並木部分があり,このため,同人は自宅から同中央部分に出るため,又は同中央部分から自宅に入るため,上記並木部分を通らざるを得ない状況であった。被告Gが同所に居住を開始する以前から,上記並木部分は,道幅は狭いものの,先住者により生活用通路として利用されており,被告Gは,居住開始とともに,占用許可を得ることなく,先住者等と同様に同土地を生活用道路として利用し,その後昭和42年ころ,自動車購入とともに道幅を約2メートル50センチメートルくらいに拡幅し,利用を継続してきた。

(イ) 以上のような経過を経て,被告Gは,占用許可を得ることなく,現在,本件並木敷の一部である係争地を最大約70センチメートル切り下げ,コンクリートたたきを打設して,利用している(ただし,コンクリートたたきを打設した時期は不明である。)。

(以上④について,証拠略)

⑤ 係争地関係

(ア) 被告Hの義父は,同被告の現住所地であるa町c,e番地の土地を昭和10年ころ売買により取得し,以後同義父及びその家族が同所に居住してきた。同義父が同所において居住を開始する以前から,同土地に隣接する本件並木敷の大部分は,本件町道(当初は国道)の側端部分として一般の通行の用に供され,利用されており,現在までそのような状態が継続している。

(イ) 別紙求積図(Hー2)表示δ部分の一部にはコンクリートたたきが打設されているが,それは,被告Hの長男が平成5年12月ころa町c,e番地の土地の一部(被告Hの自宅の隣)に家屋を建築した際,同被告が自宅と本件町道との取付け部を出入口としてコンクリート舗装したものである。

(ウ) 以上のような経過を経て,被告Hは,占用許可を得ることなく,現在,第2の2(3)⑤のとおり,係争地を占有している。

(以上⑤について,証拠略)

⑥ 係争地関係

(ア) 被告Iは,昭和23年5月ころ,神奈川県f土木事務所から,係争地付近のa町g番地先の並木敷115.92平方メートルを,宅地及び庭園という占用目的で占用許可を得てその利用を開始し,以後占用料を支払って同土地を継続的に利用してきた。その間,占用目的は宅地敷地のみに変更され,昭和58年6月1日から,占用面積は139平方メートルに増加した。

(イ) 現在,被告Iは,別紙求積図(I)表示のα,β及びγを併せた係争地を占有している。

(以上⑥について,証拠略)

⑦ ⑧ 係争地及び係争地関係

(ア) 被告Oの前身の個人商店であるOことUは,昭和23年ころ,神奈川県から,a町h番地先の並木敷(その当時の面積は不明であるが,管理権が大磯町に移管された当時は80.3平方メートル,後記供託時には98.46平方メートルであった。)を,占用目的を宅地及び納屋敷地として,占用許可を得,以後占用料を支払って同土地を継続的に利用してきた。

(イ) そして,現在,第2の2(3)の⑦⑧のとおりの占有関係となっている。

なお,コンクリート車庫部分は,周囲に比較して,最大で70センチメートルほど低く切り下げられており,車庫部分にはコンクリートが打設されている。

(以上⑦⑧について,証拠略)

⑨ 係争地関係

(ア) 被告Pは,昭和21年4月ころ以降,現住所地であるa町c,i番地に居住してきたが,占用許可を得ることなく,第2の2(3)⑨のとおり,係争地を利用してきた。

(イ) 同被告がコンクリートたたきを打設した時期は平成6年4月である。同被告がコンクリート舗装をしたのは,降雨の際通路がぬかるみ,泥土が流失することを防止し,あわせて,雨水が流出する隣家からの苦情に対応するためということであった。なお,係争地は,平坦であり,被告Pが切土,盛土したことはない。

(以上⑨について,証拠略)

⑩ 係争地関係

(ア) 被告Qの祖父は,明治30年代後半ころ,被告Qの現住所地であるa町c,j番地の土地を賃借し,家屋を建て,以降同所において代々居住してきたが,昭和59年10月ころ,被告Qが同土地の所有権を取得し,昭和62年に自宅を新築した。

(イ) 被告Qは,昭和30年代に,本件並木敷のうちの自宅の出入口に位置する部分にコンクリート舗装をし,さらに,昭和62年の自宅新築に際し,上記コンクリートの上に再舗装を実施した。その際,被告Qは,あわせて,別紙現況実測図・求積図表示のβ部分の土地を最大限60センチメートルほど削り,車の導入路(車庫は自己所有地内に設置)として使用するためコンクリート舗装した。これにより,被告Qは,係争地を占有するに至っている。

同被告が自宅の出入口部分の並木部分をコンクリート舗装したのは,同被告の所有する土地が隣地に比べ低くなっていて,大量の降雨の際,雨水が流入し,出入口の土砂を洗い流す事態が生じたため,これを防止する必要を感じたためということであった。

(以上⑩について,証拠略)

(5)  被告ら以外の者を含む本件並木敷の利用状況

ア 大磯町において,被告らを含め,本件並木敷につき,過去に占用許可を得て,又は占用許可を得ることなく,長年にわたり,自宅への導入通路,建物の敷地などとして利用している者の数は,現在かなり多数(約100名前後)に上る。平成7年6月28日に行われた調査(証拠略)によると,被告らも含め,庭園敷としての利用は8か所,家屋敷としての利用は6か所,資材置き場としての利用は2か所,自動車部品置き場としての利用は2か所,コンクリート通路敷としての利用は28か所,砂利通路敷としての利用は39か所に上っている。その中には,本件並木敷の管理権が大磯町に移管された時点より前から利用している者が相当数おり,開始時期が不明な者も相当数いる。一般的にいうと,占用許可を得た者は建物の敷地等として使用していることが多く,占用許可を得ていない者は,自宅等と本件町道の中央部分とを結ぶ通路として,並木部分を使用していることが多い。

イ 自宅等と本件町道の中央部分との間の通路としての使用が多いのは,位置関係からみて,被告G及び同Hの場合と同様,それら住民の自宅等と本件町道中央部分との間には並木部分が存在し,このため,それらの者は日常生活上の通路として,上記並木部分を通らざるを得ないこと,又は通る方が便利であることに理由があると推認される。

(以上(5)について,証拠略)

(6)  大磯町による本件並木敷の管理状況

ア 大磯町が本件並木敷の管理権の移管を受けた昭和36年当時,すでに占用許可を得て本件並木敷を使用している者があったところ,大磯町は,それまで神奈川県が行ってきた管理方法を踏襲し,それらの者に対して,それ以降も占用許可を与え続け,また,移管を受けた当時,占用許可を得ることなく,通路などとして並木敷を利用している者に対しても,それ以前と同様,特に法的・行政的な措置を執ることなく,基本的には,それらの者の使用を事実上黙認した。

イ 大磯町は,昭和62年に「大磯町景観形成計画」を立案し,さらに旧東海道化粧坂松並木周辺地区を重点地区として位置づけ,昭和63年3月「旧東海道化粧坂松並木周辺地区整備基本計画」を策定した。前記基本計画は,大磯町の代表的な歴史景観である旧東海道松並木の保存を図るため,町道整備事業を中心にして,沿道の町並み景観の形成を図り,地区住民の住環境の向上と地区の振興を図ろうとして計画されたもので,従来占用許可を与え,又は事実上黙認してきた並木敷利用は最小限にしていくことが予定されていた。

ウ 前記基本計画策定後,大磯町は,昭和63年10月8日に第1回の地元説明会を開いたのを初め,以後関係者への説明,関係者団体との協議,道路境界の確認,関係機関との協議,調整などを平成2年にかけて継続的に行った。

また,参加人は,平成元年8月2日付けで,B,被告F,同I及び同Oを含む前記並木敷の各占用許可を受けていた者21名に対し,松並木整備計画の区域に入っており,次の年度から整備することになるので,占用許可はできないこと,土地の明渡し及び工作物の移転等については今後話し合いを進めていく旨を文書で通知した。

エ ウのような協議が続けられたが,平成3年ころ以降は,それらは進展せず,以後事実上休止状態になった。その主な理由は,大磯町が計画した散策路が住民のプライバシーを侵害しないかという問題が住民から提起されるなど並木敷の利用者との利益調整が容易でなかったこと,大磯町の町長等の交代があったことなどであった。

従前,大磯町は,後記の原告との事例を除き,本件並木敷を利用している住民との間において,話し合いにより解決することを志向してきた。現時点においても,その基本方針は同様であり,大磯町は,今後,中立的な委員会を設置して,その場において並木敷の占用問題を協議してもらい,その結果に従い同問題を解決していこうという意向を示している。

(アからエにつき,証拠略)。

オ 個別の管理状況

前記のとおり,大磯町は,本件並木敷の各占有者に対しては,原則として個別の当事者を相手とした具体的な行動は執ってはいなかったところ,例外的に,次のような管理的な措置が講じたことがあった。

(ア) 原告との関係

原告は,本件並木敷に面した土地を所有しておらず,自宅から本件町道の中央部分に出るために生活通路として本件並木敷を利用したいという事情があったわけではなかったが,本件並木敷の一部(a町c字k,l番m 並木敷 578平方メートルのうちの49.5平方メートル)を,昭和40年代ころから,建築資材,廃材等を置くなどして以後継続的に占有してきた。これについて近隣の者が大磯町に撤去等の措置方を要請し,同町が原告に撤去を再三にわたり求めたが,事態を打開できなかったため,同町は,平成7年5月11日,原告に対し,予め町議会の承認を得たうえ同土地の明渡しを求める民事訴訟を横浜地方裁判所小田原支部に提起し,平成10年8月6日請求認容の判決を得た。これに対し,原告は控訴,上告したが,いずれも棄却され,判決は確定した。

(証拠略)

(イ) Vとの関係

Wは,本件町道に沿って存在する並木敷(a町c,n番地o先,128平方メートル)を,代々占用許可を得て長年にわたり建物の敷地などとして利用してきたが,大磯町は,Wの娘の夫で,同土地上の建物所有者であったVとの間で,損失補償について話し合いを重ね,平成8年度予算の一部として大磯町議会の議決を得たうえ,物件除却補償契約及び損失補償契約をそれぞれ同人と締結し,その後,補償金を支払い,同人から前記土地の明渡しを受けた。

(証拠略)。

(ウ) C(被告番号1),同E(同2),同I(同6),同J(同7の1),同K(同7の2の1),同M(同7の2の2),同N(同7の2の3)及び同O(同8)との関係

参加人は,前記のとおり,平成元年8月2日付けで前記並木敷の各占用者21名に対し,次の年度から占用許可はできないこと,土地の明渡し及び工作物の移転等については今後話し合いを進めていく旨を文書で通知し,以後占用料の受領を拒否する意思を明らかにした。それには,徴収の根拠となる占用料徴収条例(証拠略)が,占用許可を受けた者からの徴収だけを規定しており,許可を与えない以上,徴収する根拠がないということと,それらの者から将来の明渡しを円滑に受けるためには占用料を徴収しない方が良かろうという政策的判断の両方の理由が存在した。

これに対し,B(同人死亡後はC),被告I及び同Oを含む計7名は,平成元年度分以降の占用料相当額を横浜地方法務局平塚出張所に供託した。

大磯町は,平成12年11月10日に至り,前記供託された金員計289万7999円を使用料相当損害金として受領した。

(証拠略)

(7)  本件各係争地別の請求の成否

そこで,以上のような事情を踏まえて,係争地別に被告らに対する請求の成否を検討する。

① 係争地関係

(ア) 明渡請求の成否

係争地は,Bが昭和34年ころ,神奈川県から,占用目的を古自動車部品置き場として占用許可を得,引き続き神奈川県及び大磯町から占用許可を受け,占用料を支払って継続的に利用してきた土地である。したがって,簡易な建物所有目的の土地の利用を許されたものというべきであるところ,道路管理者である大磯町の代表者である参加人が,平成元年8月に,次年度から占用許可をすることができない旨を伝えたわけである。そうすると,係争地の明渡請求は,約30年間継続した借地権類似の権利性のある土地の返還という問題となる。

これは,法的にいえば,道路敷である公共用財産(地方自治法238条3項)について,道路管理者が昭和34年ころに目的外使用を許可したところ,約30年経過後の平成元年8月にその目的外使用許可を将来に向かって更新しないとの意向を示したことを意味する。しかし,それまでの権利が借地権類似のものであることに照らすと,無条件に更新しないとすることが有効にできるかは問題であり,占用許可を更新しないとするためには,借地権類似の権利の消滅前は損失補償をする必要が生ずる可能性もあると解される。すなわち,道路法71条2項3号,72条1項・2項(69条2項・3項)は,道路管理者は道路の占用許可を受けた者に対し,公益上やむを得ない必要が生じた場合,許可を取り消すなどの措置(更新を繰り返してきたところ,以後更新をしないという場合も同様に考えられる。)を執ることができるが,その際には占用許可を受けた者に対し通常受けるべき損失を補償する必要があり,それについて道路管理者と損失を受けた者とが協議しなければならず,協議が成立しない場合においては自己の見積もった額を損失を受けた者に支払わなければならないと規定している。

なお,地方自治法には,行政財産の目的外使用許可の取消しの場合に補償を認めた規定はないが,補償について規定を設けている国有の行政財産の使用許可の取消しの場合(国有財産法19条,24条2項)と別異に取り扱うべき合理的理由は見出しがたいから,公有の行政財産の目的外使用許可の取消しの場合にも,国有財産法19条,24条2項の規定の類推適用により,使用権者がなお当該使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特別の事情が存在する場合には,損失補償を求めることができる場合があると解される(最高裁昭和49年2月5日第三小法廷判決・民集28巻1号1頁参照)。

したがって,係争地は借地権類似の権利があったというべきところ,その消滅前には損失補償なしに係争地の明渡請求は認められない可能性がある。そうすると,大磯町が係争地について直ちに明渡請求をしないことは,財産の管理を怠ることに該当する可能性がある。しかし,仮に該当するとしても,損失補償の要否,範囲といった問題を解決しなければならないことを踏まえると,それは,未だ違法に財産の管理を怠る事実とまで認められるものではない。なお,原告に対しては明渡請求がされている((6)オ(ア))が,これは,大磯町自身が所有者として原告となった事件であり,かつ,内容的にも土地明渡請求(動産の撤去を伴う。)というものであり,住民訴訟である本訴とは制約の内容が異なるから,このことは,上記の結論を左右するものではない。

(イ) 占用料相当金員の支払請求の成否

a 道路管理者は,道路の占用許可をする場合には,原則として占用料を徴収することになる(道路法39条)。したがって,係争地の占用許可を受けたB及び相続人のCは,占用料を支払わなければならない立場にあり,現にそれを支払い続けてきた。

b また,参加人が平成元年8月2日に次年度以後は占用許可をしない旨を通知したが,このことは,平成2年6月1日(年度が6月1日からとなることにつき,証拠略)以後は新たに大磯町による同地に対する占用許可はしないことを意味するので,次年度以後の占有は無許可の占有となる。

c このように,平成2年6月1日以降はBは係争地を占用許可を受けずに占有することになったところ,大磯町は,平成8年11月26日までは本件並木敷の土地の無償貸付けを受け,その後は同地の所有権を取得したから,前記1(2)イの理由により,特段の事情がない限り,敷地の所有権取得の前後を問わず,占用料相当金員を徴収する必要がある。

ところが,大磯町は,上記の占用許可をしない旨の通知をしたときから,占用料を受領しない旨の態度を取っている。そうすると,そもそもこのような対応が許されるのかという問題があるところ,参加人は,占用料徴収条例5条7号の「特に必要があると認めるとき」に該当するとの町長の判断に基づき,徴収をしないこととした旨を主張する。これについては,客観的に必要があるということであれば,徴収をしないとの対応が許されるが,そうでないときには,その対応は違法な財産管理となるというべきである。この観点からみると,参加人が徴収をしないとの対応をした理由は,将来の明渡しを円滑に進めるためであるという。確かに,明渡しには損失補償が必要となる可能性もあり,そのことを見込んで,占用料相当金員を徴収しないという対応が考えられたのかもしれないが,占用料相当金員の徴収と,明渡時の補償の要否とは別に扱うべきである。明渡しを求めるために損失補償が必要と認められれば,別に損失補償をすればよく,予め占用料相当金員を徴収しないことをもって,損失補償に代えることは本来はできないところである。このことは,徴収をしないとの対応に対して,Cが供託をしている事実からも明らかである。そのような同被告の態度からもうかがえるように,明渡しと占用料相当金員の支払とは別の問題であり,後者により前者を解決することは本来はできないと解される。したがって,参加人が平成2年6月1日以降も占用料相当金員の徴収をしないこととする理由はない。

d そして,占用料相当金員の額は,占用許可を受けた者が支払うべき占用料と同額となると解される。

そうすると,占有者(B,C,合資会社E及び被告E)は,占用料と同額の占用料相当金員を支払うべき義務がある。そして,平成元年から同12年当時の占用料が1平方メートル当たり469円である(甲35)から,上記の占有者は,同額の金員の支払義務を負う。

e ところで,B(同人死亡後はC)は,占用許可がなお存続しているとの立場で平成元年度から平成12年度までの占用料を供託している(証拠略)ところ,参加人はこれを占用料相当損害金として平成12年11月10日に受領している(証拠略)。金員の趣旨は正確には異なるものの,大磯町の占用料相当金員の支払請求権は,この供託と受領とにより,結果的には消滅したものと解するのが相当である。

f したがって,C及び同Eには,占用料相当金員を支払うべき義務が発生したものの,平成12年度までの分については供託とその受領により結果的にその支払債務が消滅したものと解されるので,その分に係る原告の代位による同請求は認められない。

また,平成13年度分以降(平成13年6月1日以降)明渡済みまでの占用料相当金員については,上記被告らは占用料として支払う意思はあるものの,占用料相当金員としては支払う意思はないので,大磯町は,その支払請求を予めする必要はなおあると解するのが相当である。その結果,この明渡済みまでの占用料相当金員の支払請求は,予めその請求をする必要はあるものの,請求は結果的に消滅すると見込まれるので,請求は理由がないということになる。

② 係争地関係

係争地は,大磯町に返還されているから,その明渡請求は理由がない。

なお,明渡しまでの損害金請求はもとから提起されていない。

③ 係争地関係

(ア) 明渡請求の成否

a 係争地は,被告Fの玄関前の導入通路であり,同被告は,昭和24年に自己の宅地を購入した際に,これを含めた土地を庭園及び通路として占用許可を得て利用を開始し,以後占用料を支払ってきた。昭和31年4月1日からは,通路部分については占用料は不要となり,庭園部分だけの占用料を支払えば足りることとなった。したがって,昭和31年以降の係争地部分は,占用許可を受けたものではないが,沿革的には,無断で占有しているものではなく,承諾を得て占有していると評価すべき要素を含んでいる。そして,これは,明渡請求の行使については消極方向に働く要素となる。

b また,係争地は,被告Fの自宅玄関への導入用の通路として利用されるものであるが,囲いがあるわけではないので,排他性は弱い。

c さらに,係争地は,被告Fが平成4年春ころ,舗装し,コンクリートたたきを打設しているが,大磯町では,目下本件並木敷の利用の仕方を検討中ということであり,上記のコンクリートたたきを撤去させて,係争地の返還を受けても,大磯町としてすぐに何かできるわけではなく,放置される可能性が高い。

しかも,囲まれていないコンクリートたたきの土地部分であるから,同町で整備の方針が固まり,返還の必要が生じたときには,直ちにその返還を求めることが容易である。

なお,後記(イ)のとおり,占用料相当金員の支払は求めることができるし,むしろ求めなければならないと解されるので,明渡請求をしないとしても,占用許可を得ない占有に対しおよそこれを放置していることにはならない。

d 以上のような諸点を考慮すると,大磯町に所有権に基づく係争地の返還請求権はあるものの,それを行使しないことが財産の管理を違法に怠ることになるとまではいえない。

(イ) 占用料相当金員の支払請求の成否

a 係争地の占有については,事実上の占用許可があるが,形式的には昭和31年以降は占用許可のないものとなっている。そして,占用許可の有無にかかわらず,1(2)イと同様の考え方により,本件並木敷の占有者である被告Fは,占用料相当金員を支払う義務がある。

b ところで,大磯町は,係争地の占有を黙認してきたようにも思われるところ,占用許可がある土地については占用料を徴収するのが原則であり,道路敷の無断占有に対して無償とする根拠は存在しない。このようなこととの対比からすると,上記の黙認は,過去の状況の追認という性格が強いが,理由のないことであったといわざるを得ないのであり,財産管理を違法に怠ったものといわれても仕方のないことと解される。積極的に占用許可をして占用料を徴収することができないからといって,無断占有について放置してよいということにはならないのであり,明渡しが困難な事情があっても,少なくとも占用料相当の損害金又は不当利得返還金(占用料相当金員)を徴収すべきであると解される。

なお,本件並木敷の占有者で許可を受けず,本訴の被告とされていない者がある程度存在すると認められるが,仮に均衡を配慮するとしても,そのことが被告Fに対する上記の判断を左右するものではない。

また,被告Fの占有の態様が閉鎖的ではないにしろ,事実上は専ら自己が玄関からの出入りをする必要に応じて使うだけであるから,それにもかかわらず,これを無償で使用できるということは,社会通念からしても,多くの人の理解を得られることではないと解される。

c そうすると,大磯町は被告Fから占用料相当金員の徴収を怠っているところ,それは,財産管理を違法に怠っていることと評価せざるを得ないというほかない。

そして,その始期は,大磯町が本件並木敷の管理権を取得した昭和36年からということになる。

したがって,大磯町による本件町道に対する管理権取得の時より後の平成元年3月1日以降明渡済みまでの占用料相当金員(1平方メートル・1年当たり469円)の代位による支払を求める原告の請求は理由がある。

なお,被告Fは,占有を黙認されていたことにより,占有につき無償であると解してきたかもしれない。しかし,それは,保護に値しない信頼という面があり,占用料相当金員の支払義務を免除させることにはならない。したがって,占用料相当金員の支払義務の始期は,法定の債務消滅事由の主張立証のない本件においては,大磯町の管理権取得時期まで遡り得るとして,上記のとおりに解することとしたものである。

④ 係争地関係

(ア) 明渡請求の成否

係争地は,被告Gが昭和29年に購入して自宅を建築したときから,被告Gの自宅から本件町道の中央部分への出入口として,作られた土地部分である。道幅は狭いものの,先住者により生活用通路として利用されていた土地である。そうすると,③(ア)b及びcと同様の考え方により,大磯町に所有権に基づく係争地の返還請求権はあるものの,それを行使しないことが財産の管理を違法に怠ることになるとまではいえないと解するのが相当である。

(イ) 占用料相当金員の支払請求の成否

③ (イ)と同様の理由により,係争地の占用料相当金員の支払請求を,大磯町の執行機関は違法に怠っているので,大磯町による本件町道に対する管理権取得の時より後の平成元年3月1日以降明渡済みまでの占用料相当金員(1平方メートル・1年当たり469円)の代位による支払を求める原告の請求は理由がある。なお,原告の請求中の支払期限の「明渡済み」については,コンクリートを撤去した上での明渡済みまでは認められるが,盛土をした上での明渡済みまでは,その根拠がなく認められない。

⑤ 係争地関係

(ア) 明渡請求の成否

係争地は,被告Hの義父が昭和10年ころに自宅敷地を購入したときから,現在までの間に形成された生け垣の一部,小屋の一部,コンクリートたたきの一部である。このように長期間を経過していること,小規模な占有(全体で10.99平方メートル)であり,実害が少ないこと,③(ア)cのような考え方を適用できる事情があること,これらを総合すると,大磯町に所有権に基づく係争地の返還請求権はあるものの,それを行使しないことが財産の管理を違法に怠ることになるとはいえない。

(イ) 占用料相当金員の支払請求の成否

③(イ)とほぼ同様の理由(ただし,係争地は,自宅玄関への導入路だけではなく,自宅敷地と本件町道の中央部分との境付近に設けた生け垣,置き石,小屋のある土地の一部である。)により,大磯町は,係争地の占用料相当金員の支払請求を違法に怠っているので,大磯町による本件町道に対する管理権取得の時より後である平成元年3月1日以降明渡済みまでの占用料相当金員(1平方メートル・1年当たり469円)の代位による支払を求める原告の請求は理由がある。なお,置き石については,その石の大きさまでは明らかでない(証拠略)が,生け垣の中に一体的に置かれているので,それによる道路敷の占有と占用料相当金員の支払請求の扱いは,道路管理の問題だけではなく,恒常的な財産価値の低下をもたらすというべきであり,財産管理の問題でもあるというのが相当である。

⑥ 係争地関係

(ア) 明渡請求の成否

被告Iは,昭和23年5月ころ,係争地付近の本件並木敷を,目的を宅地及び庭園とする占用許可を得て,以後占用料を支払って継続的に利用してきた。

同係争地は,現在は,建物の一部とその敷地となっている。

したがって,①(ア)のとおり,宅地として利用するための権利がある(現実には宅地及び庭園としての利用である。)から,その権利の消滅前には,損失補償なしに係争地の明渡請求は認められない可能性がある。そうすると,大磯町の執行機関が明渡請求権を行使しないことは,財産の管理を怠ることに該当する可能性があるが,仮に該当するとしても,損失補償の要否,その範囲の問題等があるので,それは,違法に財産の管理を怠る事実に該当するものとまでは認められない。

(イ) 占用料相当金員の支払請求の成否

標記については,①(イ)と同様に考えられる。

すなわち,係争地の占用許可を受けた被告Iは,占用料を支払わなければならない。そして,参加人が占用許可をしない旨及び占用料を徴収しない旨を平成元年8月に通知したが,次年度以後は被告Iには,占用料と少なくとも同額の占用料相当金員を支払うべき義務がなお存続している。ところで,同被告は平成元年度から平成12年度までの占用料相当額を供託して,参加人はこれを受領している。したがって,平成12年度までの分については供託とその受領により結果的にその支払債務は消滅したものと解されるので,その分に係る原告の代位による同請求は認められない。また,平成13年度分以降(平成13年6月1日以降)明渡済みまでの占用料相当金員については,①(イ)fと同様に,予めその請求をする必要はあるものの,請求は結果的に消滅すると見込まれるので,請求は理由がないことになる。

⑦ ⑧ 係争地及び係争地関係

(ア) 明渡請求の成否

係争地及び係争地は,Uが昭和23年ころ,占用目的を宅地及び納屋敷地として,占用許可を得,その後Jらが占用料を支払って継続的に利用してきた土地である。

したがって,①(ア)と同様の理由により,上記の土地利用の権利の消滅前には,損失補償なしに係争地及び係争地の明渡請求をすることは認められない可能性がある。そうすると,大磯町が明渡請求権を行使しないことは,財産の管理を怠ることに該当する可能性があるが,仮に該当するとしても,損失補償の要否及び範囲の問題があるので,それは,違法に財産の管理を怠る事実とまではいえない。よって,明渡しの代位請求は認められない。

(イ) 占用料相当金員の支払請求の成否

①(イ)と同様に考えられる。すなわち,係争地及び係争地につき,次年度以降,占用許可をしない旨及び占用料を受領しない旨の平成元年8月の通知が参加人からあったものの,次年度以後も被告Jらは,占用料相当金員を支払うべき義務がある。そして,同被告らは,これを供託し,参加人はこれを受領している。したがって,被告Jらには,平成12年度までの分については供託とその受領により結果的にその支払債務は消滅したものと解されるので,その分に係る原告の代位による同請求は認められない。また,平成13年度分以降(平成13年6月1日以降)明渡済みまでの占用料相当金員については,①(イ)fと同様に,予めその請求をする必要はあるものの,請求は結果的に消滅すると見込まれるので,請求は理由がないことになる。

⑨ 係争地関係

(ア) 明渡請求の成否

係争地は,被告Pが,昭和21年4月ころ以降,占用許可を得ることなく,通路及び庭として占有している土地である。同被告が通路分のコンクリートたたきを打設した時期は,平成6年4月である。

また,同被告は,現在,係争地を同被告の私的な通路,車庫及び庭として利用しており,上記の私的な通路部分は開放されているが,庭は囲みにより他の土地との区別ができている。(証拠略)

しかし,③(ア)cのような事情及び考え方を適用できる関係にあること,すなわち,係争地の占有期間が長期に及んでいること,大磯町では返還を受けても使い方が定まっていないこと,大磯町における使用方針が明確になり,返還を必要とする時期となれば,直ちに返還を求められること,後記(イ)のとおり,占用料相当金員の支払請求は認められるので,明渡請求が認められなくても,何もせずに放置するものではないこと,以上の事情を考慮すると,大磯町に所有権に基づく係争地の返還請求権はあるものの,それを行使しないことが財産の管理を違法に怠ることになるとまではいえない。

(イ) 占用料相当金員の支払請求の成否

③(イ)と同様の理由により,大磯町は,係争地の占用料相当金員の支払請求を違法に怠っているので,大磯町による本件町道に対する管理権取得の時より後の平成元年3月1日以降明渡済みまでの占用料相当金員(1平方メートル・1年当たり469円)の代位による支払を求める原告の請求は理由がある。

⑩ 係争地関係

(ア) 明渡請求の成否

係争地は,被告Qが,昭和30年代に,本件並木敷のうち自宅の出入口に位置する部分にコンクリート舗装し,さらに,昭和62年の自宅新築に際し,上記コンクリートの上に再舗装し,また車の導入路(車庫は自己所有地内に設置)として使用することとなった土地部分である。そうすると,③(ア)b及びcと同様の考え方により,大磯町に所有権に基づく係争地の返還請求権はあるものの,それを行使しないことが財産の管理を違法に怠ることになるとまではいえない。

(イ) 占用料相当金員の支払請求の成否

③(イ)と同様の理由により,大磯町は,係争地の占用料相当金員の支払請求を違法に怠っているので,大磯町による本件町道に対する管理権取得の時より後の平成元年3月1日以降明渡済みまでの占用料相当金員(1平方メートル・1年当たり469円)の代位による支払を求める原告の請求は理由がある。なお,原告の請求中の支払期限の「明渡済み」については,コンクリートを撤去した上での明渡済みまでは認められるが,盛土をした上での明渡済みまでは,その根拠がなく認められない。

(8)  まとめ

よって,原告の代位請求のうち,明渡しを求める部分は全部認められない。次に,占用料相当金員の支払を求める部分で,供託をした被告らの分は,明渡済みまでの分も含めて供託で消滅し,又は同様になるとうかがわれるので,それらに対する請求は認められない。他方,供託をしない被告らに対する占用料相当金員の支払請求は理由がある。

第4結論

よって,原告の請求は,第3の3(8)の限度で認容し,その余を棄却することとし,主文のとおり判決する。なお,認容部分の仮執行宣言の申立てについては,その必要がないと判断する。

(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 窪木稔 裁判官 平山馨)

別紙1 土地目録

別紙2 建物目録

省略

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