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横浜地方裁判所 平成8年(行ウ)7号 判決

原告

麻生博(X)

被告

(伊勢原市長) 堀江侃(Y)

右訴訟代理人弁護士

田中公人

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  争点1について

1  本件各契約の単価について

原告は、本件各契約の単価が、昭和六三年度における契約単価一八一八円と比較して極めて高額であり、違法であると主張する。しかし、〔証拠略〕によれば、昭和六三年当時、伊勢原市の公共嘱託登記は、測量業者に対し、既存の丈量図から表示登記に必要な部分をトレースしてもらうことによって行われていたこと、その後このように、土地家屋調査士の手を経ないで公共嘱託登記がされていることの問題点が指摘され、昭和六〇年に土地家屋調査士法が改正され、官公署が行う不動産の表示に関する登記に必要な調査、測量、登記の嘱託手続等については、土地家屋調査士の任意加入によって設立される公共嘱託登記土地家屋調査士協会(全国の法務局又は地方法務局の管轄区域ごとに設立される。)にこれを委託することができることになり、不動産の表示登記の適正、迅速な処理が行われるようになったことが認められる。

右事実によれば、昭和六三年当時、分筆登記図面作成業務委託の契約単価が、原告の主張するように一筆当たり一八一八円であったとしても、これがそのように安かったのは、測量業者に、前記のようなごく単純な業務を委託していたからにほかならないと認められるから、このような場合と、本件のように、土地家屋調査士の職務を行う公嘱協会に業務を委託する場合とを単純に比較して、両者の委託料の多寡を論ずるのは無意味であり、もとより、前の単価と比較して現在の単価が高いからといって、違法ということはできない。ちなみに、〔証拠略〕によれば、地積測量図の作成を土地家屋調査士法上の有資格者に依頼するとすれば、土地家屋調査士か公嘱協会かのいずれかに委託することになるところ、土地家屋調査士の基準報酬額表と公嘱協会の基準報酬額表とを比較した場合、後者の報酬額は前者の報酬額の八〇パーセント程度に定められており、公嘱協会に委託する方が二〇パーセント程度安く済むことが認められる。

また、原告は、地積測量図作成に関する契約単価が、神奈川県の契約単価と比較して高額であり、違法であると主張する。なるほど、〔証拠略〕によれば、公嘱協会に対し、分筆登記図面作成業務を委託する場合、伊勢原市の場合と神奈川県の場合とでは契約単価に違いがあり、それを平成七年一月の価格改正前で見ると、

<省略>

のとおりであること、事前調査費にかなりの差が出ているのは、伊勢原市の場合、事前調査に含まれる業務(外業と内業に分けられ、外業は、<1>対象物件の位置調査、確認、<2>境界調査、マーキング等、<3>調査素図への現況の記入、内業は、<1>対象物件の位置の調査に必要な図面類の整理、<2>調査素図等調査結果の整理)のほとんどすべてを委託しているのに対し、神奈川県の場合、必ずしもそのすべてを委託していないことに起因すること、以上の事実が認められる。

右事実によれば、神奈川県の契約単価と伊勢原市の契約単価とは確かに異なるが、事前調査費を除けば有意の差はなく、事前調査費の差は、どの程度地積測量図に精確性を求めるかの違いに由来するものであり、伊勢原市の場合、神奈川県の場合と比較して、より精確性を求める度合いが強いことによるものといえるから、結局は政策的判断の問題というべきであり、その当否はともかく、直ちに違法になるものとはいい難い。

2  支出する必要のない委託料を支出したとの主張について

原告は、二号契約を除くその余の契約において、業務委託の内容とされた土地現地調査書の作成について、本来これは国及び公嘱協会が行うべきものであり、必要がないと主張する。しかし、〔証拠略〕によれば、不動産登記事務取扱手続準則(昭和五二年九月三日民三第四四七三通達)八八条は、「不動産の表示に関する登記の申請があった場合には、原則として実地調査を行うものとする。ただし、申請書の添付書類又は公知の事実等により申請に係る事項が相当と認められる場合には、所要の実地調査を省略しても差し支えない。」と定めて、不動産の表示に関する登記の申請に際し、然るべき資料を添付させることによって、登記官の現地調査に代える扱いを認めていること、そして、これを受けて横浜地方法務局長は、「土地家屋実地調査要領」(平成五年一二月二八日一登(1)第一一〇〇号横浜地方法務局長通達)九条二項において、「登記官は、官公署が土地の表示の登記、分筆の登記又は地積の更正の登記等を嘱託する場合には、別紙第7号様式又はこれに準ずる様式による現地調査書の添付を求めるものとする。」と定め、平成五年一二月下旬ころ、これを神奈川県内の市町村の表示登記嘱託担当官宛に通知し、伊勢原市の表示登記嘱託担当官にもその旨通知したこと、そこで、伊勢原市においては、本件のような分筆登記の申請をする場合、原則として、現地調査書を添付する扱いにしており、その場合は、現地調査書を添付しない場合に比べて、登記が早く済むという利点があること、このようなことから、被告は、伊勢原市職員が土地現地調査書を作成した二号契約の場合を除いた本件各契約において、公嘱協会に土地現地調査書の作成を委託し、所要の登記が適正かつ迅速に処理されるようにしたものであることが認められる。

右事実によれば、被告が公嘱協会に土地現地調査書の作成を委託したのは、横浜地方法務局からの求めに応じたものであり、かつ、これを添付して分筆登記の申請をすることによって、登記を迅速に済ませるという意図に出たものというべきであるから、それなりの必要と理由に基づくものであり、これをもって、被告が、本来必要のない業務を委託したということはできない。

また、原告は、伊勢原市が公嘱協会に委託した業務のうち、地積測量図作成以外の業務は不要であると主張する。しかし、〔証拠略〕によれば、事案により程度の差はあれ、対象土地の位置及び範囲を確定し、登記申請に耐えうる精確な地積測量図を作成するためには、公図等の資料調査、現地調査、測量業務等の基礎的作業が必要であるものと認められ、原告の主張するように、およそ地積測量図作成以外の業務は必要がないということはできない。従前、土地家屋調査士が関与しないまま、測量会社の作成した丈量図に基づいて官公署の登記申請嘱託がされていた結果、種々の問題が生じ、昭和六〇年に土地家屋調査士法が改正され、官公署等が行う不動産の表示に関する登記に必要な調査、測量、登記の嘱託手続等については、土地家屋調査士によって設立される公共嘱託登記土地家屋調査士協会にこれを委託できることとされ、これにより官公署による公共嘱託登記が適正・迅速に処理されることになったことは前記認定のとおりであって、このような土地家屋調査士法改正の経緯からも、本件のような官公署の公共嘱託登記の申請に際し、土地家屋調査士による調査、測量が必要とされることは明らかというべきである。

また、原告は、本件各契約において、地積測量図作成以外の業務は行われていないとか、一号、二号、五号ないし七号契約については事前調査が、さらに、二号、五号、八号契約については立会業務がそれぞれ行われていないと主張する。しかし、本件全証拠によるも、原告主張の事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって、〔証拠略〕によれば、右各契約については、いずれも、事前調査、立会業務も含めた契約内容どおりの業務が行われ、所要の地積測量図が作成されて、これによる分筆登記の申請が受理され、登記が完了していることが認められる。なお、後述するように、公嘱協会においては、立会業務の意義について、平成七年一月一日を境に解釈の変更があり、同日以降は、相隣者間の合意を得る作業をいうと改められた関係で、立会業務費が支払われた二号、五号、八号契約のうち、平成七年一月一日以降に業務が行われた五号、八号契約の立会業務については、相隣者間の合意を得る作業としての立会業務でなければならないことになるが、前掲各証拠によれば、右のような意味での立会業務が行われたものと認められる。

3  契約が著作権侵害を内容とする無効のものであるとの主張について

原告は、本件各契約は、他の者が著作権を有する図面(〔証拠略〕)の複写を目的とするものであるから、公序良俗に反し無効であると主張する。しかし、原告の主張する図面が、その主張するように著作権の対象となるかはともかく、前記認定のとおり、本件各契約は、原告の主張する図面を複写することが目的とされたのではなく、これらの図面を用いて分筆の対象となる土地の範囲、位置を確定し、これを地積測量図に表わすことが目的とされたのであるから、原告の主張はその前提を欠き、理由がない。

4  契約に代位原因を欠く違法があるとの主張について

原告は、伊勢原市が対象土地を取得する以前に、公嘱協会に対し代位登記に必要な地積測量図の作成を委託することは、代位原因を欠いており、違法であると主張する。しかし、伊勢原市が公嘱協会に対し代位登記に必要な地積測量図の作成を委託することは、代位登記の申請そのものではなく、その準備行為に過ぎないものであるから、その段階で、被告が公嘱協会に対し代位登記に必要な地積測量図の作成を委託することが、代位原因を欠くもので、違法であるということはできないし、これが土地家屋調査士法一七条の六第一項、一七条の七第一項等の規定に違反するということもできない。

5  第三者に業務を行わせた違法があるとの主張について

原告は、実際の委託業務が公嘱協会以外の第三者によって行われたことをもって違法な業務の再委託であると主張する。しかし、土地家屋調査士法一七条の七第二項は、「協会は、その業務に係る第二条に規定する土地又は家屋に関する調査、測量、これを必要とする申請手続又はこれに係る審査請求の手続を、調査士会に入会している調査士でない者に取り扱わせてはならない。」と規定しているから、実際の委託業務を、土地家屋調査士会に入会している土地家屋調査士に行わせることを禁じているものではないと解されるところ、〔証拠略〕によれば、本件各契約において、公嘱協会が業務を委託した者は、一号、二号、五号、六号契約については菅重男であり、三号、四号、八号契約については森下怡和雄であり、七号契約については三枝剛一郎であること、そして、この三名は、いずれも神奈川県土地家屋調査士会に入会している土地家屋調査士であることが認められるから、これらの者に業務を再委託したことをもって違法ということはできない。

二  争点2について

1  原告は、伊勢原市が公嘱協会から、不当利得として、立会業務費九万一七七〇円の返還を受けた際、被告は、公嘱協会に対し、民法七〇四条に基づき、右金員に対する利息を請求できたのに、これをしなかったのは違法であると主張する。しかし、前記当事者間に争いのない事実及び〔証拠略〕によれば、伊勢原市が公嘱協会から右金員の返還を受けた経緯について、以下の事実が認められる。

(一)  かつて、公嘱協会業務報酬額運用基準は、立会業務の意義を、「境界立会において、既存の境界標識が容易に直視でき、明確な資料が存し、相隣者間で異議なく合意されている場合の境界確認作業をいう」と定めていたため、伊勢原市と公嘱協会は、分筆登記図面作成業務委託契約を締結する際には、隣接地権者の合意を得なくとも立会業務に当たるという解釈を採り、これを前提に運用してきた。

(二)  ところが、公嘱協会は、平成七年一月一日、公嘱協会業務報酬額運用基準を改正し、立会業務の意義を、「境界立会において、既存の境界標識が容易に直視でき、明確な資料が存する場合にする、相隣者間の合意を得る作業をいう」と改めるに至り、これを前提に運用することになった。

(三)  そこで、伊勢原市と公嘱協会は、以後分筆登記図面作成業務委託契約を締結する際には、立会業務が相隣者間の合意を得る作業も含むものであることを確認し、これを前提として運用することにしたが、右改正当時、平成五年度市道二一一号線分筆登記図面作成委託契約(平成六年一月一〇日付)の処理が終わったばかりであり、右契約について前記解釈を遡及的に適用することが妥当と判断されたため、双方合意の下、公嘱協会は既受領の立会業務費九万一七七〇円を伊勢原市に返還することとし、同日伊勢原市は右金員を公嘱協会から受領した。

以上のとおり認められる。

2  右認定の事実によれば、公嘱協会は、立会業務の解釈が変更したのに伴い、右解釈が変更になる前に支払われていた立会業務費を、契約上、本来は返還する必要のないものであるにしても、時期的な点からして、これを返還した方が妥当であるとの判断に達し、伊勢原市に返還したものというべきであり、不当利得の返還には当たらないと解されるから、被告が、その利息の返還を請求しなかったとしても、これをもって違法ということはできない。したがって、この点に関する原告の主張は、理由がない。

三  結論

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 近藤壽邦 近藤裕之)

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