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横浜地方裁判所 平成9年(ワ)95号 判決 1998年11月17日

原告

上野圭子

原告

梅月博子

右両名訴訟代理人弁護士

小島周一

芳野直子

被告

社会福祉法人七葉会

右代表者理事

斉藤忠久

右訴訟代理人弁護士

岡昭吉

右当事者間の頭書事件について、当裁判所は、平成一〇年九月一七日終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。

主文

一  被告は、原告上野圭子に対し、金五万一六二五円及びこれに対する平成九年一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告梅月博子に対し、金三〇〇〇円及びこれに対する平成八年一〇月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一本件請求

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、被告が設置経営する保育園の保母である原告らが、被告から受けた出勤停止処分及び減給処分は無効であると主張して、被告に対し、右各処分によって未払となっている賃金の支払を求めた事案である。

二  争いのない事実及び確実な書証により明らかに認められる事実

1  被告は、横浜市認可保育所である「ことは保育園」(以下「園」という。)を設置運営する社会福祉法人である。原告上野圭子(以下「原告上野」という。)及び原告梅月博子(以下「原告梅月」という。)は、いずれも園に勤務する正規保母であり、三歳児クラス(以下「桃組」という。)二二名を担当していた。

2  被告の就業規則は、次のとおり規定している(<証拠略>)。

(一) 四四条

制裁は、その情状により、次の区分に従って行う。

(1) 一号

譴責 始末書をとり、将来を戒める

(2) 二号

減給 一回の額が、平均賃金の一日分の半額、総額が、一賃金支払期における賃金総額の一〇分の一の範囲内で行う

(3) 三号

出勤停止 一四日以内で出勤を停止し、その間中の賃金は支払わない

(二) 四五条

従業員が次の各号の一に該当するときは、その情状に応じ、前条の規定による制裁を行う。

(1) 二号

正当な理由がなく、園の諸規程、指示に従わず、または不正な行為があったとき

(2) 一三号

その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき

3  被告は、平成三年四月一六日付けで、原告上野を二五〇〇円の減給処分にした(以下「前回処分」という。)が、右処分の対象となった事実は、(1) 平成二年一〇月一七日、担当園児を散歩に連れて行き、帰ってきたときに畑沢窓香一人を園の玄関前に残して保育室に入ってしまった、(2) さらに、平成三年三月二〇日、園児を連れて市民の森からシルバー公園に散歩に行った際中宿綾乃が自動車の運行もある道路を一人で帰園したことに気付かなかった、というものであり、被告は、原告上野に就業規則四四条二号、四五条二号、一三号を適用した。

4  被告は、平成八年九月一九日付けで、原告上野を七日間の出勤停止処分にする(但し、出勤停止の初日は後日決定する)旨を、懲戒処分通知書(<証拠略>)により通知した(以下「本件出勤停止処分」という。)。右処分の対象となった事実は、「(1) あなたは平成八年九月一一日(水)桃組の園外保育の際、市民の森の出口で人数確認をした後、大倉渓太郎、立川雄貴両園児が駆け足で園に向かったのを気付かなかった。この両園児は広瀬託児員に発見・ひき止められて事なきを得たが、このことは、園外で園児を無防備のまま、放置したことになり、保母として厳に謹まなければならないことである。(2) あなたは平成二年一〇月一七日、同三年三月二〇日に同様の事実をおこし、処分されており、今回さらに『(1)』にあるような事件を起こしたのである。」というものであり、被告は、右事実が前回より更に重い処分を受けてもやむを得ないものであるとして、原告上野に就業規則四四条三号、四五条二号、一三号を適用した。

また、被告は、平成八年九月一九日付けで、原告梅月を減給三〇〇〇円に処する旨を懲戒処分通知書(<証拠略>)により通知した(以下「本件減給処分」という。)。右処分の対象となった事実は、原告上野の処分の対象となった事実(1)と同じであり、被告は、原告梅月に就業規則四四条二号、四五条二号、一三号を適用した。

5  被告は、本件減給処分に基づき、原告梅月に対し、同年一〇月二五日支給の給与から三〇〇〇円を減額して支給した。

6  被告は、平成九年一月七日、原告上野に対し、本件出勤停止処分に基づき、同人を同月九日から同月一五日まで出勤停止にする旨通知して右処分を実施し、同月二五日支給の原告上野の給与から、出勤停止期間中の給与五万一六二五円を減額して支給した。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

1  争点1

原告らの行為が就業規則四五条二号、一三号の懲戒処分事由に該当するか、否か。

(一) 原告らの主張

就業規則四五条二号は、本来、園の諸規程あるいは正当な業務命令に対して「故意に」従わない場合の規定であり、過失犯を処罰することは予定していないし、同条一三号も前各号に準ずる程度の行為であるから、故意に指示に従わなかったような場合であることを要するというべきである。

本件は、園外保育の際、園児の大倉渓太郎と立川雄貴(以下「両園児」という。)が駆け足で園に向かったのに原告らが気付かなかったというものであり、過失によるミスに過ぎないから、原告らの行為は、そもそも就業規則四五条二号、一三号に該当しない。

(二) 被告の主張

原告らの右主張を争う。

被告の就業規則には、過失を除外するという特則がないから、本件のように過失による場合についても懲戒処分の対象となる。よって、原告らの行為は、就業規則四五条二号、一三号の懲戒処分事由に該当する。

2  争点2

本件出勤停止処分及び本件減給処分(以下「本件各処分」という。)が処分の程度として重きに過ぎ、懲戒権の濫用として無効となるか、否か。

(一) 原告らの主張

本件各処分は、原告らのミスの内容とそれに対する処分とが、あまりに不均衡である。

本件における原告らのミスは、園外保育の際、市民の森の出入口において、原告梅月が蚊に刺された園児に薬を塗り、原告上野が山牛蒡やクワガタを捕っている間の一瞬の隙に、両園児が駆け足で園に向かったのに気付かなかったというものであり、園児に対して何ら注意を向けることなく漫然放置していたというものではない。原告らは、両園児が駆け去ってから五分ないし一〇分後に二人がいなくなったのに気付き、原告梅月が市民の森の出入口から約一〇〇メートルのところで二人を連れ戻し、事なきを得たのである。

原告上野は、前回処分から五年以上もの間、同種のミスを犯すことなく勤務してきたのであるし、今回のミスの内容も、園児全体を見ている保母がいない状態になった一瞬の隙に起きたものであって、前回のミスを反省することなく不注意な勤務態度を取り続けたために起きたというものではない。よって、ミスが三回目であるという理由で処分を行うには前回との期間があまりにも開いており、ミスの態様も異なり、また、他の保母が犯したミスに対する被告の対応とのバランス上も、本件出勤停止処分が重きに失して違法であることは明らかである。

原告梅月は、平成三年一月に園に就職した後、園外保育において園児を見落としたのは今回が初めてであるにもかかわらず、就業規則上のより軽い処分である譴責処分の適用などを検討することもないまま、いきなり減給処分を適用したのは、ミスの内容に比較して重すぎるものであり、違法である。

なお、本件においては、原告上野に対する本件出勤停止処分、原告梅月に対する本件減給処分そのものが、その日数、金額の多寡を問わず違法であるから、裁判所において一部認容を考える余地はない。

(二) 被告の主張

懲戒処分をするにあたり、いかなる処分を選択し、出勤停止処分を選択した場合の出勤停止日数及び減給処分を選択した場合の減給額につきどの程度とするかは、使用者の裁量に委ねられている。

本件は、園外保育の際、両園児が駆け足で園に向かったのに原告らが気付かなかったという事案である。園児は危険に対して無防備で、突発的な行動に出ることもあり、保育から離脱することはその生命身体に危険を及ぼすおそれが高く、特に、園外では、自動車の走行、変質者による連れ去り、下水、池等危険の度合いが園内に比して格段に高くなるから、園児の離脱はあってはならないのであり、その離脱時間の多少にかかわらず、保母の責任は重大である。本件では、原告らは行き当たりばったりに計画を変更して園外保育を行い、その結果、三〇分前後も園児を離脱させているのであり、また、事故後の報告も誠実さを欠く。さらに、被告は、原告上野については平成二年と平成三年に園児を見落として前回処分を受けていることや、その後の同原告の行動に鑑み、七日間の出勤停止処分とし、原告梅月は今回初めて園児を見落としたものであるが、就業規則上最も軽い譴責処分も検討した上で、それでは対応できない重大事案であると判断して、三〇〇〇円の減給処分とした。本件各処分は、被告の裁量権を逸脱するものではなく、相当である。

仮に、本件各処分が処分の程度として重きに過ぎたとしても、出勤停止日数又は減給額が少なければ適法な処分と認められる場合、裁判所としては適法な処分と認められる限度を超えた部分に限り、原告らの請求を認容すべきである。

3  争点3

本件各処分が原告らに対する不当労働行為となるか、否か。

(一) 原告らの主張

原告らは、訴外全労連全国一般労働組合神奈川県地方本部(以下「組合」という。)横浜保育所分会ことは班に所属する労働組合員であるところ、被告は、原告らのミスに乗じ、本件各処分による脅しで物言わぬ保母を作り、組合を弱体化させることを狙うと同時に、組合員の切実な願いである健常児と障害児をともに成長させる統合保育の再開を拒否する口実を作ろうとしたものである。

(二) 被告の主張

原告らの右主張を争う。

原告らは、本件各処分当時、組合の役職に就いていなかったのであるから、被告のような小規模で組合員保母の比率の高い保育園において、原告らのような一般組合員に対して不当労働行為意思を抱き、狙い打ちとして不利益処分を行うことは、労使関係に亀裂を生じて無用の混乱を招く結果になり、通常あり得ないことである。被告は、園における園児の安全確保体制の確立のため保母に教育指導を徹底しており、本件各処分も最小限度の処分としてやむを得ず行ったものであり、原告らの不利益の度合いも合理的な範囲にとどまっているから、本件各処分が原告らに対する不当労働行為となる余地はない。

第三争点に対する判断

一  本件各処分の前提となった事実及び本件各処分に至る経緯等

前記第二の二の各事実に証拠(後掲)を併せると、次の各事実(争いのない事実を含む。)が認められる。

1  原告らは、平成八年九月一一日、前日に予定していた園外散歩が雨で中止になったため、週案で予定していたグループ決めを園外散歩に変更し、午前一〇時過ぎに桃組の園児二一名(欠席一名)を連れて、シルバー公園まで散歩に出掛けた。(<証拠略>、原告上野)

原告らと園児は、シルバー公園でしばらく遊んだ後、探検コース(シルバー公園の周りの二メートルほどの急斜面と、その奥の市民の森に入っていくけもの道の通称)に行きたいという園児の意見があったため、原告上野が先頭になり、原告梅月が最後尾について探検コースを通り、市民の森の出入口まで来た。市民の森の出入口は前後が十数メートル、幅が数メートルの空地状になっており、その先は自動車の通る道になっているため、原告らは、ここで一旦人数を確認することとし、先頭の原告上野が市民の森から出て来る園児を待ち、最後尾の原告梅月が出て来たときに人数確認をしたが、このときは園児全員がそろっていた。(<証拠略>、原告上野)

原告らは、園児を二列に並ばせて園に帰ろうとしたが、市民の森の中で蚊に刺されてかゆがる園児が四、五名おり、泣いている園児もいたため、原告梅月が、市民の森の出入口で蚊に刺された園児に薬を塗ってあげることにした。原告上野は、原告梅月が薬を塗るのが終わるのを他の園児とともに待っていたが、市民の森の出入口の脇に山牛蒡が生えているのを見つけ、園に持ち帰るために取っていたところ、同じ場所にクワガタがいるのを見つけて、クワガタも持ち帰ることにした。この間に、両園児が駆け足で園に向かったが、原告らは気付かなかった。(<証拠略>、原告上野)

原告梅月が薬を塗り終え、園に向かって出発する際、原告らが再度人数確認を行ったところ、両園児がいなくなっていることに気付いたので、原告上野がその場にいる園児を止め、原告梅月が園の方に向かった。園の時間外託児員である広瀬明美(以下「広瀬託児員」という。)は、自宅の庭を掃除していたところ、両園児が市民の森の方から走ってきたので、二人を引き止めて、原告らと他の園児が来るのを待ったが、四分、五分と経つうちに二人が退屈し始めたので、広瀬託児員は「先生やお友達を探しに行こう。」と言って二人を連れて歩き出したとき、原告梅月が市民の森の方から走ってきて、二人を発見し、二人を連れて市民の森の出入口に戻った。(<証拠略>、原告上野)

原告らは、両園児に対して、保母より先に行かないように注意し、他の園児にも同様の話をして、午前一一時過ぎに園に帰った。(<証拠略>、原告上野)

2  桃組の園児は、午前一一時三〇分から昼食を食べ、午後一時から三時のおやつの時間まで午睡をした。原告らは、園児の午睡中、今回のミスにつき何がいけなかったかを話し合い、午後二時三〇分ころ、園長である齋藤美恵(以下「齋藤園長」という。)に口頭で報告した。(<証拠・人証略>、原告上野)

3  齋藤園長は、同日午後五時過ぎ、原告上野に報告書の用紙を渡して、今日のことを書くようにと指示した。原告梅月は、既に帰宅していたため、翌一二日の朝、齋藤園長から報告書の用紙を受け取った。原告らはいずれも、指示を受けた次の日に報告書を提出し、その中で、原告らが同時に別々のことを行ってしまったことが今回の原因であり、お互いに声を掛け合って、原告らのうち一人は園児全体の動きに気を付ければ防ぐことができたと反省した旨記載した。(<証拠略>、原告上野)

また、原告梅月は、同月一二日の朝会で園長や他の保母に今回のミスを報告し、同月一一日付けの保育記録の中でも事実経過を記載した上で「人数の確認と保母の間の声のかけ合いは十分にするように気をひきしめていきたい」と記載した。(<証拠略>)

4  被告は、同月一七日又は一八日の理事会において、齋藤園長からの口頭の報告に基づき原告らに対する処分を決定した。その当時、齋藤園長は、原告らの報告書(<証拠略>)及び広瀬託児員からの報告に基づき、原告らの当日の行動等に関して次のような認識を有していた。すなわち、原告らは、当日晴れたので改めて指導案を作成することなく急拠(ママ)散歩に変更し、また、集団行動から外れがちの園児に対する格別の打ち合わせをすることなくシルバー公園に行った。さらに、帰園の時に一部園児の声に乗って予定を変更し、道らしい道もなく一部バラ線さえ存在する急斜面の藪を通ることとなる探検コースを通行した。その際、二グループに別れて別々に藪の中を移動し、原告らは、クラスの全体を視野から離さないとの保育の常道を無視した。二人の園児が離脱してから原告らが同園児を発見するまでに三〇分前後要しており、このような経過から、当日の原告らは、連携を欠き、また、いずれも特定の園児らに向き合ったため、その他の園児が保母の目から離れた結果、園児が離脱したのであり、原告らの行動は、保育のあり方や園児の安全確保といった保母の基本的な心構えを全く欠いている。また、その後原告らが行った報告を見ても原告らが反省を行ったと評価することができない。(<証拠・人証略>)

5  原告らは、同月一九日、園の事務室において、渡辺理事から処分通知を受け取った。(<証拠略>)

原告上野は、同月二四日から同年一〇月三一日まで病欠した。原告上野は、平成九年一月七日、園の事務室において、出勤停止処分の初日を同月九日とする通知書を渡辺理事から受け取った。(<証拠略>、原告上野)

二  争点1について

1  被告の就業規則四五条は、前条の制裁を行う場合として一号から一三号まで規定しているが、その三号で「故意または重過失によって業務上の事故をおこし、園に重大な不利益を与えたとき」と規定し、その六号で「業務上の怠慢、または監督不行届によって災害事故をひき起し、あるいは器具、備品を損壊したとき」と規定して(<証拠略>)、従業員の行為が過失による場合は、災害事故等何らかの結果が発生した場合に限り、四四条による制裁を行うこととしていることが窺われる。

これらの規定と対比して同条二号をみると、同号が「正当な理由がなく、園の諸規程、指示に従わず、または不正な行為があったとき」と規定して、その結果、災害事故等が発生したことを要件としていないのは、従業員が「故意に」園の諸規程、指示に従わず、又は不正な行為があった場合には、事故等の結果が発生したか否かを問わず、前条の制裁を行うこととした規定であると解するのが相当である。

2  これを本件についてみるに、本件各処分の前提となった事実は、懲戒処分通知書(<証拠略>)に記載されているとおり、両園児が市民の森の出入口から駆け足で園に向かったのに原告らが気付かなかったという過失によるものであり、故意によるものではないから、原告らの行為は、そもそも就業規則四五条二号には該当しないというべきである。そして、両園児は広瀬託児員に保護されて事なきを得たから、原告らの行為は、同条三号及び同条六号にも該当しないが、危険に対して無防備な三歳児二名を園外で見失うことは、両園児を自動車事故、変質者による連れ去り、道路から下部に位置する民家への転落(<証拠略>)等の危険にさらすことになるから、同条一号から一二号に準ずる程度の不都合な行為ということができ、同条一三号には該当するというべきである。

三  争点2について

原告らの行為が就業規則四五条一三号に該当することを前提として、本件各処分が処分の程度として重きに過ぎ、懲戒権の濫用として無効となるか否かについて判断する。

1  第二の二の4で示したとおり、本件各処分の対象となった事実のうち、原告らに共通するものは、両園児が市民の森出入口から駆け足で園に向かったのを原告らが気付かなかったことである。ところで、本件では九月一七日又は一八日の理事会に出席した理事らが右の事実以外にどのような事情を考慮して本件各処分の内容を決定したのかは明らかではないが、齋藤園長の口頭報告に基づき処分の内容を決定していることから、前示の齋藤園長の認識及び評価を考慮して決定した可能性があるので、先ず、この点について検討する。

(証拠・人証略)、原告上野によれば、園外保育自体は、園児が外に出て自然に触れたり、社会環境に気づいたりするため、及び健康増進のために必要なものであり、また、被告において園外保育で探検コースを通ることや保母が週案を変更することは禁止されていなかったことが認められる。さらに、前認定のとおり、原告らは、前日に予定していた園外散歩が雨で中止となっていたところ当日晴れとなったから、シルバー公園まで散歩に出掛けることとしたのであり、本件全証拠によるも、公園内の活動についても特段問題となる点は認め難い。帰路の探検コースの通行に当たっても、原告上野が先頭となり、原告梅月が最後尾について園児の前後を押さえる位置関係にいたのであるから、探検コースを通って市民の森の出入口で園児の人数を確認するまでの間は、原告らの採った保育体制には問題はなかったものというべきである。また、前記一の3で認定したとおり、原告らは、報告書において、原告らの行動の問題点を自ら指摘した上で反省した旨を記載しているのであって、齋藤園長が評価したように、原告らが今回のミスにつき反省していないとは到底いうことができない。

したがって、原告らに対する懲戒の種類及びその程度を決定するに当たっては、当日の原告らの行動に関するものとしては、両園児が市民の森出入口から駆け足で園に向かったのに原告らが気付かなかったこと以外の事実は、考慮の対象外とすべきである。

2  前説示のとおり園外において園児を離脱させることは、園児を各種の危険にさらすことになるから、原告梅月としては、もう一人の担任である原告上野に対して他の園児を視野に入れておくよう声を掛けて、同原告との連携により他の園児についても視野から離さないようにする等の措置を採るべきであり、原告梅月は右措置を採らなかった点に落ち度があるといわなければならない。

しかしながら、園外保育において蚊に刺された園児に薬を塗ることは、保母としての業務行為に含まれるから、原告梅月が市民の森の出入口で園児数名に薬を塗ったことは、その場において必要な業務行為であり、その間、他の園児を視野に入れることができなかったとしても、やむを得ないものというべきである。また、原告梅月は、薬の塗布行為を原告上野が見ているのを認識していたのであるから、原告上野において他の園児を見守っているものと信頼するのが通常であり、原告梅月が原告上野との連携の確認を怠ったことに対して、原告梅月に経済的な不利益を生じさせる減給処分を科することは、処分の程度として重すぎるというべきである。なお、原告梅月は、園児に薬を塗る間、他の園児の足音に注意を払うべきであったとも考えられるが、蚊に刺されて泣いている園児もいる状況において、薬の塗布行為を行わない担任として原告上野がその場にいたのであるから、原告梅月の役割としては、薬の塗布行為に専念してもやむを得ない。

したがって、原告梅月が薬を塗っているときに両園児が園に向かったのに気付かなかったことについての本件減給処分は、処分の程度として重きに失し、被告の裁量権を逸脱するものとして無効というべきである。

3  他方、原告上野は、原告梅月が園児に薬を塗っている間は薬の塗布箇所を向いて他の園児を視野に入れることができなくなることが分かっていたのであるから、原告梅月に代わって蚊に刺されていない園児を視野に入れておく義務があったところ、市民の森の出口(ママ)の脇に生えていた山牛蒡や同じ場所にいたクワガタに気を取られて原告梅月に背を向ける格好となり、園児全体を視野に入れなかったため、両園児が園に向かったのに気付かなかったのであるから、原告梅月と比べてその責任は重いというべきである。

ただし、本件では、両園児が広瀬託児員に保護されて事なきを得たため、原告らの行為は就業規則四五条一三号に該当するのみで、同条二号には該当しないのは前述したとおりである。そして、前記一に認定した事実によれば、市民の森の方から走ってきた両園児を広瀬託児員が保護してから原告梅月が来るまで四、五分からせいぜい一〇分程度と考えられるから、両園児が市民の森の出入口を出発して広瀬託児員に保護されるまでの時間を含めても、両園児が原告らの保育から離脱した時間は、せいぜい一五分と考えられ、三〇分前後(<証拠略>)、又は二〇分ないし三〇分(<人証略>)は経過していないと認められる上、原告上野がミスをした翌日、報告書を齋藤園長に提出し、その中で、今回のミスの原因を分析し、反省の言葉を記載している。さらに、園においては二〇名以上の三歳児の園外保育も担任二名に委ねており、特に、被告も桃組にはグループから離脱しがちな園児二名がいることを認識していたのであるから(弁論の全趣旨)、本件の両園児の離脱の責任を原告らのみに負わせることに全く問題がないとはいうことができないことも考え併せれば、原告上野が前回処分を受けていることを考慮に入れても、七日間の出勤停止という本件出勤停止処分は重きに失し、原告上野に対する処分としては減給処分で十分というべきである。したがって、原告上野に対する本件出勤停止処分も、被告の裁量権を逸脱し、無効である。

なお、被告は、原告上野の前回処分以降の行動も、本件出勤停止処分の内容の決定に当たって考慮すべきであると主張する。しかし、被告は同原告に前回処分以降、譴責を含め一切の懲戒を行っていなかったのであるから、仮に被告主張の問題の行動があったとしても、その程度は重大なものではなかったことは明らかである。同原告の今回の非違行為の内容、結果の発生の有無は前説示のとおりであって、同原告について前回処分以降に被告が問題視する行動があったとしても、そのことを理由に今回の処分に当たり減給処分を超え、出勤停止処分まで行うのは、なお重きに失するものというべきである。

4  被告は、一部認容を主張するが、出勤停止処分と減給処分は質的に別個の処分であるから、原告上野につき、適法な減給処分の範囲内で本件出勤停止処分に基づく賃金未払の一部を有効として、適法な処分と認められる限度を超えた部分に限り、請求を認容することはできない。

第四結論

よって、その余の争点についての判断を要することなく、原告らの請求はいずれも理由があることは明らかであるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 南敏文 裁判官 森髙重久 裁判官 永井綾子)

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