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横浜地方裁判所 昭和24年(ヨ)53号 判決 1949年8月01日

申請人

東芝労働組合連合会

右代表者

中央執行委員長

被申請人

東京芝浦電気株式会社

"

主文

申請人の申請は却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

申請の趣旨

申請代理人は

(一) 被申請人は申請人の同意なくして、申請人組合の組合員を解雇し、帰休または転任を命じてはならない。

(二) 被申請人は本件各当事者の各代表者を以て組織する経営協議会の議決を得ることなく、工場閉鎖その他組織または職制の改廃或は工場施設の大変更を行つてはならない。

(三) 被申請人は前項の経営協議会の議決を得ることなく申請組合の組合員の給料、賃金その他給与規定を変更してはならない。

(四) 被申請人は各事業場運営協議会の議決を得ることなく、申請人組合の組合員を罰してはならない。

(五) 被申請人は申請人組合の組合員の福利施設条件を廃し又は縮少してはならない。

(六) 被申請人は、昭和二十四年三月二十八日当時において承認していた申請人組合の組合専従者の員数を制限してはならないし右専従者に対する給与を停止してはならない。又組合員の就業時間中の組合活動を従来通り認めねばならない。旨の裁判を求めた。

事実

被申請人は電気機械、器具類の製造販売等を目的とする株式会社、申請人は被申請人の経営する全国所在の事業場の従業員によつて組織されている四十二個の労働組合が集つてできている連合会であるが、被申請人(会社)と申請人(連合会)との間に昭和二十三年三月一日労働協約が締結された。

その主要条項は次のようなものであつた。

第三条 会社及び連合会は各代表者を以て組織する経営協議会を設く。経営協議会に関する規程は別に之を定む。

第四条 会社は組合員を解雇し、又は転任せしめんとする場合は予め組合の同意を得るものとす。

第五条 会社が組織又は職制の改廃法令に依らざる工場施設の大変更を為さんとするときは会社は之を経営協議会に附議す。

第六条 会社が組合員の給料賃金其の他給与規程を変更改廃せんとするときは、之を経営協議会に附議す。

第七条 会社が組合員を表彰し又は罰せんとするときは会社は之を各事業場運営協議会に附議す。

第八条 会社は組合員の福利厚生(文化諸事業を含む)に関する事項を経営協議会に附議す。

第十四条 会社はその適当と認める員数、期間を限り会社従業員たる組合員が組合事務に携わることを承認す。

此の場合において組合員の旅費その他会社の正規勤務以外の費用は会社は之を負担せず。

第廿二条 本協約の期間は調印の日より一月とす。

本協約期間満了十日前迄に会社又は連合会より本協約の終了に付申出なきときは本協約期間は満了の日より一月間更新せられたるものとす更新せられたる協約期間につき亦同じ。

会社又は連合会より前項の申出ありたるときは新なる労働協約締結に至る迄の期間本協約を有効とす。

右協約は右第二十二条の規定による終了の申出なく、昭和二十四年二月末日まで更新せられてきたものであるが、被申請人はその後右協約は失効したと主張し、次のような措置をするに至つた。

(一)  前記第四条に違反し被申請人は申請人の同意なくして、昭和二十三年十二月以来東芝新潟加茂工場、長野川岸工場等の閉鎖を強行して申請人組合員を解雇し又は帰休(帰休は会社が定める一定の場合に会社より従業員に命ぜられるものであつて、帰休中は通常賃金より低く定められた帰休手当の支給を受ける)を命じ、続いて企業整備計画により更に大量の人員整理を企図しつつある。

(二)  前記第六条に違反し、被申請人は経営協議会で結論に達しないから協議決定まで三月分給与から会社提案の新賃金制度による給与額によつて仮払せんとした外賃料の大幅引き下げを強行しようとしている。

(三)  前記第七条に違反し、何等組合と協議せずして被申請人の一方的な就業規則によつて組合を罰するおそれがあり。

(四)  前記第八条に違反し、被申請人はその福利厚生施設を売却又は縮少を企図し、使用条件を切りつめんとしている。

(五)  前記第十四条に違反し、東芝門司工場においては、組合専従者給与を六月一日限り打切ること、専従者の数の制限及び組合活動の禁止を申し入れて来た。

申請人は、労働協約有効確認の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、その確定をまつていたのでは回復し得ない損害を蒙るおそれがあり、被申請人の右態度は急迫な強暴というべきであるから、これを防ぐため、仮の地位を定める仮の地位を定める仮処分を求めるものであると述べ、被申請人の抗弁に対し

本件協約に関し昭和二十四年二月十五日被申請人から、その主張のような通告があり、その提示の新協約案につき説明審議が行われたこと、三月十三日被申請人よりその主張のような通告があつたことはこれを認めるが、新協約成立のための団体交渉を行い目下継続中であるから本件協約第二十二条第三項により本件協約はその効力存続中であると述べた。(疎明省略)

被申請人代理人は本件申請を却下するとの判決を求め、答弁として被申請人が申請人の主張のような会社であること、申請人が申請人主張のような労働組合(但しその加入組合は現在四―組合である)であること、被申請人と申請人間に昭和二十三年九月十六日に同年三月一日附で労働協約が締結され、申請人主張のような定めのあること、右協約が更新されてきたこと、三月分から給与の仮払をする旨の申入をしたこと、加茂工場及び川岸工場の従業員に帰休を命じたこと、東芝門司工場において組合専従者の給与の不払を申入れたことは、いずれもこれを認めるが、その他の申請人主張事実は全部これを否認する。右給与の仮払については新賃金案について経営協議会において協議したのであるが、組合は会社の誠意を無視し、徒らに時日の遷延を策するの挙に出でたため会社としては、それ以上の時日の経過を許されなくなつたので、右のような仮払をするに至つたのである。又帰休については経営協議会及び各工場の運営協議会に附議せんとしたが、組合側において、その協議を拒否したので、会社においては止むなく右の挙に出でたのである。更に又門司労働組合の専従者給料不払については、同地軍政部の指示により同地労働関係当局よりの示達があつたので右の申入をしたのであるが、その後当局の諒解を得て、これを実施して居ない。

そもそも本件協約には不備な点が多々ある上に、当時いわゆる経済九原則賃金三原則が連合軍より日本政府に指示せられた結果、積年の赤字になやむ被申請人としても企業の整備にとりかかる必要があり、しかもこれを円滑に実施するためには、是非とも協約を改訂する必要があつた。そこで被申請人は、昭和二十四年二月十五日前記労働協約は同月末日をもつて終了せしめ、更新する意思のないことを被申請人に通告するとともに、新協約案(百八十ケ条)を提示し来る三月十日迄に新労働協約を締結すべき旨申入れたのである。したがつて右協約は同年二月末日をもつて、期間満了となりそれ以後は協約中の自動延長規定(同協約第二十二条第三項)により、従来の協約内容が期間の定めのない協約として存続することとなつた。右新協約案については同月十九日、二十一、二十三日、二十八日、翌月二日、四日と前後六回に亘つて右会社側提示の新労働協約案について説明審議が行われたが、被申請人申入れの三月十日迄には新労働協約が成立しなかつたので、同年三月十三日被申請人は申請人に対し同月二十八日までに新協約の締結をみるにいたらないときは、現在実施中の期限の定めのない協約は解除する旨を通知したのであるしかして申請人はその後同月十八日に至り漸くその作成にかかる新労働協約案を提示し、三月二十三日、二十四日、二十六日及び二十八日に亘り両案につき説明審議を重ねたのであるが経営参加、人事に関する点等について一致を見ず、遂に妥結を見るに至らず、右協約は同月二十八日限り失効したものである。元来前記協約第二十二条には「会社又は連合会より前項の申出ありたるときは新なる労働協約締結に至る迄の期間本協約を有効とす」と規定してあつて、あたかも新労働協約が締結せらるる迄は右協約は永久に効力を持続するかのような観を呈するが、これは前記協約第二十二条第一項で本協約は一ケ月有効であると規定した趣旨に反するから、新協約が締結されぬ事実が明確になつた以上協約の効力は存続しないと解すべきで、右協約は前記三月二十八日をもつてその効力が消滅したと認むべきのみならず、右協約締結後会社の経理状態極めて悪化した上、賃金三原則によつて賃金支払のための赤字融資を禁止せられたこと、経済九原則の要請により会社の経理を引締めなければならなくなつたこと等により事情が全く変更した今日右協約が解除されない道理はない。仮に然らずとするも新労働組合法施行後被申請人は申請人に対し旧労働協約を存続せしめる意思のないことを通告したから、ここに前記労働協約はその効力を失つたのであると述べた。(疎明省略)

理由

被申請人主張のような株式会社で、申請人がその従業員等よりなる労働組合をもつて組織する連合会であること当事者間に昭和二十三年三月一日附を以てその主張のような内容の労働協約が締結されたことは当事者間に争いがない。

よつて本件協約が果して被申請人主張のように、その効力を失つたか否かについて考えてみるに、本件労働協約第二十二条第三項には「会社又は連合会より前項の申出(協約終了の申出)ありたるときは新なる労働協約締結に至る迄の期間本協約を有効とす」と規定してあつて、右規定によれば、当事者は新労働協約締結に至る迄は永久に右協約に拘束せらるるやの観を呈するが、かく解するときは労働協約関係が継続的法律関係たる本質に反するから新労働協約が成立しない場合においても、いやしくも当事者の一方より新協約につき相手方に協議を求めたるに拘らず、相手方において協議に応ぜず、又は相当期間内に協議成立しないときは協約を解除し得るものと解する。本件において被申請人が昭和二十四年二月十五日本件労働協約を同月末日をもつて終わらせ、更新する意思のないことを被申請人に通知することともに、新協約案を提示し、同月十九日、二十一日、二十三日、翌月二日、四日と前後六回に亘つて審議し、更に申請人より三月十八日新労働協約案を提示し、三月二十三日、二十四日、二十五日及び二十八日に亘り審議したこと並びに被申請人から三月十三日申請人に対し同月二十八日迄に協約が成立しないときは協約を解除すべき旨の通知をしたことは当事者間に争ないころであるけれども、成立に争のない乙第十一号証同第十四号証によれば被申請人提出の労働協約案は実に百八十条申請人提出の労働協約も亦六十一条であつて、両案は当事者双方にとり、最も重要である経営参加、及び人事関係の規定につき相へだたることきわめて遠いのみならず、申請人組合のように、日本全国に存在する労働組合より組織せられる連合会では、新協約案を決定するにつき、これ等の組合の意見を徴する必要があるべく、これ等の事情を考えるときは、右労働協約案の審議決定については相当の期間をおくを要し被申請人が新協約案を提示した時より三月二十八日迄一カ月半未満の期間では、稍々不足といわねばならぬ。更に被申請人は事情変更の原則により本件協約を解除したと主張するが賃金三原則、経済九原則の実施、会社経理の悪化あればとて、直ちにこれのみにより協約の存続を不公正ならしむるものは断じ難いから右事情変更を原因とする協約解除の主張は正当なりといい難い。しかし成立に争がない乙第二十一号証によれば改正労働組合法(昭和二十四年法律第一七四号)施行後である昭和二十四年六月二十日頃被申請人より申請人に対し従前の協約を存続せしめることに反対なる旨の意思表示がなされたことを認め得られるから、同日以降本件労働協約はその効力を失つたものである。従つて右協約の有効たることを前提とし仮の地位を定めることを目的とする本件申請は理由なく、これを却下すべきものである、よつて申請費用は敗訴した申請人の負担とし、主文の通り判決する。

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