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横浜地方裁判所 昭和24年(行)18号 判決

原告 株式会社守山商会

被告 平塚税務署長

一、主  文

被告が原告に対し昭和二十四年三月八日附納税告知を以てなした昭和二十四年度随時物品税額金九十二万九千九円の内原告の商品「エバ」に関する金六十八万千八円の賦課処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として

(一)  原告は東京都中央区銀座西六丁目二番地に本店を有し、神奈川県平塚市平塚新宿千九十五番地に工場および仮営業所を有し、各種乳製品の製造販売を業とする者である。

(二)  原告は「エバ」なる商品名を以て牛乳を主要成分とする商品を平塚工場において製造し、昭和二十三年三月一日から同年十一月二十七日までの間に、サイダー壜、ビール小壜等につめ合計十万四千八百三十六本総価額三百四十万五千四十円に相当する製品を右工場より移出販売したものであるが

(三)  被告(当時大磯税務署長)は右製品が当時施行の物品税法第一条物品税法施行規則第一条による課税物品表第一種戊類八十九に該当する食料品なりとして、右製品価額三百四十万五千四十円に対する所定課税率二割を乗じた金六十八万千八円の税額に原告の製造販売にかかる他の商品「コーヒー牛乳」に対する物品税額を加算した昭和二十四年度随時物品税額金九十二万九千九円を原告において納付すべきものとして、昭和二十四年三月八日附納税告知を以て、原告に対し賦課処分をした。

(四)  しかし右「エバ」は製品一斗当りの原料として牛乳七升、カゼイン(牛乳よりの)七五匁を約三升の水に溶解したもの、バター二封度、ゼラチン十瓦、甘味料(サツカリン)〇・五瓦を煮沸乳化せしめ、壜詰殺菌し、製品としたもので製品分析の結果は脂肪六%、蛋白質一〇%、乳糖五%、その他一・二%水分七七・二%である。

(五)  前記課税物品表第一種戊類八十九但書においては罐壜壺その他類似の容器に入れた食料品であつても、牛乳、乳製品等は非課税のものとしているが、これは牛乳、乳製品が奢侈品または準奢侈品でなく、乳幼児、病患者等の必需品である滋養食品であるからであつて、エバは第四項において述べたように、その主要成分が牛乳であつて、右課税物品表第一種戊類八十九但書の非課税品に該当することが明かであるから、本件物品税賦課処分は失当である。よつてこれが取消を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告代理人の法律上の見解に対し、

「エバ」は生乳を主要原料とする無糖煉乳の一種であつて、これが乳製品の一種であることは社会通念である。我国の法令で乳製品なる用語を用いているものは農林省関係と厚生省関係と大蔵省関係の三者であつて、農林省関係は食料の需給調整の立場から、厚生省関係は公衆衛生取締の見地から、また大蔵省関係は税収入の目的より、これを規定しているのであつて、その範囲もそれぞれ異なるのであつて、被告代理人主張のように牛乳営業取締規則(厚生省関係)にて規定した成分規格の乳製品でなければ前記課税物品表第一種戊類八十九但書の乳製品に該当しないなどと主張しうべくもないのである。

と述べた。(立証省略)

被告代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告の主張事実第一項乃至第四項はこれを認める。そもそも物品税法において牛乳および乳製品を非課税とした所以のものは、それが滋養品として厳重な成分規格のもとに製造され、かつ配給ならびに価格統制を受けて主食と同様に取扱われるものであることを考慮したに外ならないものである。しかして牛乳営業取締規則(昭和八年十月三十一日内務省令第三十七号、昭和十七年厚生省令第五十一号を以て改正)は物品税法制定当時牛乳および乳製品を規定する唯一支配的の法規であつて、右牛乳営業取締規則に適合しない乳製品はもはや滋養品としての取扱を受けず、したがつて統制の枠外とされるものであるから、これを非課税とされる理由はないのである。飜えつて右牛乳営業取締規則の規定をみるに、その第一条に「乳製品ト称スルハ販売ノ用ニ供スル煉乳脱脂煉乳全粉乳脱脂粉乳又ハ調製粉乳ヲ謂ウ」と定義を下し、同法第八条において「左ノ各号ニ該当スル乳製品ニ非ザレバ之ニ煉乳、脱脂煉乳、全粉乳、脱脂粉乳又ハ調製粉乳ナルコトヲ示スベキ文字其ノ他ノ表示又ハ之ニ紛ワシキ文字其ノ他ノ表示ヲ附シテ販売シ又ハ販売ノ目的ヲ以テ陳列若ハ貯蔵スルコトヲ得ズ

一、腐敗セザルモノ

二、他物(煉乳及脱脂煉乳ニ在リテハ蔗糖調製粉乳ニ在リテハ別ニ指定スル物又ハ厚生大臣ノ許可ヲ受ケタル物ヲ除ク)ノ混ゼザルモノ

三、第六条第一項第一号乃至第四号ニ該当セザル牛乳ヲ原料ト為シタルモノ

四、煉乳ニ在リテハ百分中八・〇分蔗糖ヲ加ヘザル煉乳ニ在リテハ百分中七・〇分以上の脂肪量ヲ有シ且百分中五五・〇分以上ノ糖量(輸出スルモノヲ除ク)ヲ有セザルモノ

脱肪煉乳ニ在リテハ百分中五五・〇分以上ノ糖量(輸出スルモノヲ除ク)ヲ有セザルモノ全粉乳ニ在リテハ百分中二五・〇分以上ノ脂肪量ヲ有シ且百分中五・〇分以上ノ水分ヲ有セザルモノ

脱脂粉乳ニ在リテハ百分中五・〇分以上ノ水分ヲ有セザルモノ

調製粉乳ニ在リテハ百分中一六・五分以上ノ脂肪量ヲ有シ且百分中五・〇分以上ノ水分ヲ有セザルモノ」

とその成分規格を規定している。尤も昭和二十三年一月一日施行の食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)によつて右牛乳営業取締規則は廃止され、同法第七条により販売の用に供する食品の成分につき規格を定めうることとなり、同規定に基いて昭和二十三年七月十三日厚生省告示第五十四号(食品衛生法第七条及び第十条の規定による食品添加物器具及び容器包装の規格及び基準を定める告示)が公布され、これによると乳製品として煉乳、脱脂煉乳、粉乳、脱脂粉乳及び調製粉乳が指定され、その成分規格は煉乳(牛乳を濃縮したもの)は脂肪を七・〇以上含有し、煉乳に蔗糖を加える場合は、その全糖量が五五・〇%以上でなく、且つ八・〇%以上の脂肪を含有しなければならぬことになつた。

該告示が出るとともに物品税法にいう牛乳および乳製品の概念も、これに従い変更せられたというべきである。なほ右法令の改廃によつて昭和二十三年一月一日より同年七月十三日に至る間は、乳製品の成分規格についての法規が欠けることになるが物品税法にいう乳製品の概念は同法制定当時の社会通念に従つて解釈さるべきものであり、その社会通念は右牛乳営業販売取締規則を中心に構成されたものであるが、その廃止によつて直ちに、変化するというものでないから右の新告示公布の同年七月十三日まで物品税法の乳製品の概念は引続き制定当時のまま存続し、右告示が出て社会通念が変化するに及び始めてこの概念も変化したものである。しかるに本件「エバ」は牛乳営業取締規則及び昭和二十三年七月十三日公布の昭和二十三年厚生省告示所定の規格成分を具えないから物品税法に置く課税物品表第一種戊類八十九但書の乳製品には該当せず、従つてこれに課税した本件処分は相当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

原告がその主張のように乳製品の製造販売を業とするもので「エバ」と称する商品を平塚工場において、その主張の期間その主張の数量を移出販売し、これに対し被告が昭和二十四年三月八日附納税告知処分を以て原告主張のような賦課処分をしたことは当事者間争いがないところである。よつて右「エバ」が物品税法第一条物品税法施行規則第一条による課税物品表第一種戊類八十九但書に所謂乳製品に該当するや否やにつき案ずるに右規定において乳製品を罐壜壺その他類似の容器(通常小売に用いざる容器を除く)に入れたる場合においても非課税とした所以のものは牛乳が滋養物として病患者幼児等の必需品として非課税とした関係上これに準ずべき乳製品をも非課税としたものと解すべきである。しかしてここに牛乳に準ずべき乳製品とは牛乳を主要原料として性質上奢侈的用途に用いられないものと解すべきこと同規定の律意に徴し明かである。被告はこの点につき牛乳営業取締規則に成分規格を規定した乳製品のみが右課税物品表第一種戊類八十九但書の乳製品であると主張するけれども、右規則は食品衛生の立場より定められたものであつて、右規則に成分規格を定められた乳製品のみが、これと立法の目的を異にする物品税関係法令の所謂乳製品であるとは断ずることができない。ひるがえつて本件課税物品である「エバ」の成分につき考えてみるに製品一斗につき牛乳七升、カゼイン(牛乳よりの)七五匁を約三升の水に溶解したもの、バター二封度、ゼラチン十瓦、甘味料(サツカリン)〇・五瓦を煮沸乳化せしめたものであること当事者間争いがないところであつて、即ちその原料の七割が牛乳、その他の原料カゼイン、バターも牛乳製品であり、主要原料は即ち牛乳であつて性質上奢侈的用途に用いられるべきものとは認め難いから、前記課税物品表第一種戊類八十九但書乳製品と解すべきものである。然らば本件物品を右に乳製品でないものと認め、これに課税した本件処分は失当であるから、これを取消すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判断した。

(裁判官 牧野威夫)

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