大判例

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横浜地方裁判所 昭和25年(ワ)139号 判決

原告 川崎喜太郎

被告 安藤勳 外二名

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

原告代理人は、

「被告等は、左記謝罪廣告をせよ。被告等は原告に対し、各自金十万円、およびこれに対する昭和二十五年四月四日から完済まで年五分の割合による金員を支拂え。訴訟費用は被告等の連帶負担とする。

謝罪廣告

貴下カ原告、横須賀税務署長ト国トカ被告ノ横浜地方裁判所昭和二十三年(行)第五一号課税処分取消事件ノ昭和二十四年十月十八日午前十時並ニ同年十一月十七日午後一時ノ同裁判所ノ公開セル法廷ニ於ケル口頭弁論ニ於テ、安藤勳ハ被告申請ノ証人トシテ、貴下カ恰モ不信行爲ヲ犯セルカ如ク供述セルハ、全然虚無ノ事実ニシテ、爲ニ貴下ノ名譽ト信用トヲ毀損スルコト重大ナリ、右ハ望月カ被告ノ指定代表者トシテ之ヲ爲サシメタルモノナレハ、茲ニ其罪ヲ謹ンテ陳謝スルモノナリ。

横須賀市不入斗町四〇五  安藤勳

東京都千代田区麹町三ノ五 望月傳次郎

右代表者法務総裁     大橋武夫

神奈川縣三浦郡三崎町日ノ出一

川崎喜太郎殿

字配リ 右ノ通リ

活字ノ形体ト大サ 表題及廣告文作成名義人名並宛名(原被告名)ハ二号ゴシツク

住所ト資格トハ三号ゴシツク

本文ハ五号普通の活字

位置ト段抜 社会面ノ中央、二段抜

掲載新聞 朝日、毎日、読賣、神奈川

掲載日ト回数 日曜日朝刊、隔週三回宛

なる旨の判決と金員支拂を求める部分についての仮執行宣言を求め、その請求原因として、原告は、横須賀税務署長から、昭和二十二年七月十七日附の通知書によつて、第一種増加所得税(所得金額九十九万円-百万円中基礎控除一万円)の課税処分の通知を受けた。然し原告は、なんら事業を営んでいないので、このような課税処分をうけるわけはないから、右処分について、右署長に対してはその取消を、同署長ならびに国に対しては右処分による所得税金七十万五十円の債務不存在確認の訴を、横浜地方裁判所に提起し、同廳昭和二十三年(行)第五一号課税処分取消事件として、同廳において、現に審理中である。

被告望月は、右訴における被告国の指定代理人であるが、右訴訟において、原告は昭和二十一年中の所得は、芙蓉水産株式会社重役報酬金六千六百五十円、船舶一隻賣買仲介謝礼金一万五千円、神奈川縣会議員報酬金千五百円、計金二万三千百五十円であるとの主張に対し、被告望月は被告国の指定代理人として、原告には課税原因たる事業所得は百万円であると主張し、その所得は原告が、昭和二十年十月当時三崎向ケ崎漁業会々長であつて、同漁業会は綿糸千五百貫、亞麻四千二百五十貫の配給割当をうけ、現実に綿糸千五百貫、亞麻二千二百八十九貫余を配給された。そのうち、綿糸五百貫は、同漁業会員に配給したが、その余は全部原告個人が他に「横流し」して、原告はこれによつて利益百万円を得たというのであつた。しかして被告望月は右事実の立証として本件被告安藤外三名を申請し、その証拠調期日に本件被告安藤は、証人として、本件被告望月(右訴訟被告代理人)の問に答えて、次のような供述をなし原告の名譽を毀損した。

昭和二十四年十月十八日供述

(1)、原告(川崎喜太郎)は、漁業用資材として正規により、リンク物資の配給をうけたもの、正規にうけたものでないものの綿糸其の他の物資を横流しした。

(2)、原告はその権力により、米、油等を終戰の混乱にまぎれて持ち運んだ。非農家の原告が何俵かの米を供出した。

(3)、漁業者でない原告が綿糸の配給をうけた。該物品を、轉賣することは想像される。

(4)、共栄漁業組合という幽霊組合があり、これから原告が相当多量の物資を手に入れた。

(5)、原告のやつていた頃の向ケ崎漁業会の配給帳簿と、縣水(神奈川縣水産業会)との帳簿が符合しない。

昭和二十四年十一月十七日供述

(1)、共栄漁業組合が縣水から配給された綿糸の一部を地元民に配給したという話はきいているが拂下價格より配給價格の方が高い。

(2)、其の他においても、原告自身で配給をうけた。

(3)、組合の配給帳簿記載数量と実際の配給数量が符合しない。

(4)、綿糸二千百貫が業者(出荷者)全員に渡つていない。

しかし課税処分の取消訴訟においては、その課税原因は被告において具体的にこれを主張、立証すべきものであつて、前記のような原告の所謂「横流し」が課税原因とすれば右「横流し」とはいかなる意味の行爲か、もしこれが轉賣を意味するとすれば原告が何時何人にいかなる價格で賣却したかを弁論において明かにした後これが立証をなすべきものであり、立証はその主張事実を証することを得べきものに限られるべきである。しかるに被告望月はその主張事実を明確にせずして証拠の申出をなし、且前記のように「横流し」事実に無関係な事実につき被告安藤をして証言せしめ、被告安藤、また被告望月の問に應じて前記証言をなし殊に傳聞の証拠につきその傳聞先を明瞭にしなかつた。從つて前記被告安藤の証言は別件訴訟被告の適法な攻撃防禦方法ということができないものであつてこの事は被告望月、安藤において充分知つていたところである。かりに知らなかつたとしても、被告望月は法律專門家であり、被告安藤は横須賀税務署総務課長であるから当然これを知り得べかりしものといふべく、この点につき重過失あるものといわねばならぬ。

被告望月の尋問に対し被告安藤が証言したのであるから、右望月は教唆者として安藤と共同不法行爲の責を負い右両名は各自連帶して原告に損害を賠償すべく、被告望月は被告国の指定代理人としてかゝる行爲に出でたものであるから、法人たる国は、職務を行うにつき他人(原告)に加えた損害を使用者として負うべく、不眞正連帶の責を負はねばならぬ。

しかして、原告は若い頃から三崎町会議員として久しくその任にあり、その間土木委員、魚市場委員、水道委員、常設委員となり、三十六才までに三崎町営魚市場、水道、その他の難事業を完成し、腰越町助役二年を経て同町長となり、鎌倉市となるまで務め、町長退職後は神奈川縣々会議員に当選、予算委員長をつとめて、終戰に至つた。その間在郷軍人三崎分会長となり後、追放公職を去つたが、一方民間事業では、三崎向ケ崎漁業会長を久しくつとめ、三崎町魚市場仕切株式会社の取締役、三浦自動車株式会社の嘱託、芙蓉水産株式会社取締役、神奈川縣水産業会理事、横須賀運送株式会社監査役を歴任し、現にその取締役をなして居り、三浦半島一円の大立者として多くの人の信望がある。從つて被告等の名譽毀損によつて、原告のうけた精神的苦痛の慰藉料は金百万円でも足りないが、その一部である金十万円と、毀損された名譽の一部を回復する方法として前記のような謝罪廣告を求める次第であると述べた。<立証省略>

被告国代理人および被告両名は、主文と同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実のうち、その主張のような別件訴訟が横浜地方裁判所に係属中であること、被告望月は右訴訟の被告国の指定代理人であること、右訴訟の被告等とが、右訴訟において、原告が主張するような主張をなし証拠申出を行つたこと、および、被告安藤が右訴訟において、証人として被告望月の尋問に答え、原告主張のような証言をなしその供述の傳聞先を明らかにしなかつたことは、いずれもこれを認める。被告の経歴、現在の身分、信望のある事実は知らない。その他の事実はすべてこれを否認する。

別件訴訟において、原告の請求原因の要旨は、その第一種所得金額は金一万五千円にすぎないから、これを百万円と認定した原処分は違法であるというに対して、被告等の答弁の要旨は原処分に原告主張のような違法はないというにある。從つて被告等は原告の主張を否認したもので右当事者は自己の主張事実を立証し、さらに必要に應じ、右主張事実に関連ある事実を主張立証すればよいのであるが、この場合の立証責任は原告側にありと信ずる。しかし、右立証責任が何れの当事者にあるにせよ、右事件の爭点は右主張の点にあり、原告が三崎向ケ崎漁業会において、受配した綿糸および亞麻の大部分を横流ししたか、いなか、は右被告の主張事実に関連ある事実として主張されたもので、別件訴訟の主要爭点ではなく、立証の便宣のため述べたにすぎない。いわば積極否認である。

しかして、増加所得税の課税原因とされるところは、地租、家屋税、物品税とことなり、個々の行爲または個々の財産が課税の客体となるのではなく、或る人の一定期間における所得の全部を課税の客体とするのであつて、これを組成する個々の收入又は資産ではない。この所得を認定するに当つては、一切の事情をそう合、考察して所得の全部を推定することができ、これに基いて課税することは違法ではないし、たとえこの推定による課税客体の認定に誤りがあつても、その以外の理由によつて、結局当該年度の所得全部が認められるならば、その課税処分は違法でないことになる。これを本件について見れば、別件訴訟においては、原告の昭和二十一年中の第一種所得の全部が課税客体であるから、原告が同年中に綿糸亞麻を横流しして百万円の利得を得たりや否が別件訴訟の主要爭点ではなく、同年中の所得を生ずるに至つた原告の一切の事業活動、財産状態、生活状態等が問題となるのであつて、前記横流し事実以外の原告の事業活動、財産状態等を立証することは必要であり、関連性のない事実ではなく、係爭事実に関連ある事実として立証することが許容される。從つて、被告望月が被告安藤を証人として、原告の事業活動其他生活状況、財産状態を尋問することは、正に被告の防禦権の発動として当然なしうるところであつて、この観点に立つて、なされた被告望月の尋問、これに対する被告安藤の証言は故意も過失もある筈はないのである。なお、被告安藤がその証言内容につき傳聞先を明示しなかつたことは、税務当局者として、今後の税務行政に及ぼす影響を考えたからで、なんら非難さるべき点はない。

よつて原告の本件請求は許さるべきではない。と述べた。

三、理  由

原告主張のような別件訴訟が現に横浜地方裁判所に係属中であつて右訴訟において被告望月は別件被告国の指定代理人として、原告主張のような主張をなし。証拠の申出を行い、証人安藤(本件被告)の尋問をなし、右安藤はそれに答えて原告主張のような証言をした事実は当事者間に爭がない。

原告は、別件訴訟において被告望月は課税原因たる事実を具体的に主張せずして証拠申出をなし、右主張事実に関連のない事実を尋問し、証人安藤はこれに答えて傳聞先を明らかにせずして傳聞したりとして証言をなしたのであつて右証言は被告の適法な攻撃防禦方法たり得ないと主張するから、この点につき考えてみるに、別件訴訟において裁判所は被告において原告の昭和二十一年度中の所得を立証すべきものとし被告申請の本件被告安藤外三名の証拠調を許容したものであること弁論の全趣旨に徴しこれを認め得るから、別件訴訟における被告代理人である本件被告望月の尋問が右立証事項に関連性を有する以上これを以て不法なりといひ難い。しかして別件訴訟の被告代理人である本件被告望月の尋問に應じて本件被告安藤のなした前記証言中昭和二十四年十月十八日のもの(2) を除き、その他の供述はいづれも前記立証事項である昭和二十一年度中の原告の所得を直接又は間接に立証するものであること明かであり、昭和二十四年十月十八日の証言中(2) の部分についても別件訴訟の原告において被告の主張する所謂「横流し」(昭和二十一年度の所得)をする性質を窺ひうる間接事実として必ずしも右立証事項と無関係なりといい難い。また右証人の証言中一部傳聞にかかるものがあつてその傳聞先を陳述せずとするも、右証言が絶対に証拠力がないものとは断することができないから、その尋問及び右証言をもつて不法なりといい難い。しからば右尋問及び証言を以て不法なりとすることを前提とする原告の本訴請求はこの点において失当であるからこれを棄却し、訴訟費用は敗訴した原告の負担とし、主文のように判決する。

(裁判官 牧野威夫 荒木大任 草野隆一)

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