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横浜地方裁判所 昭和34年(行)3号 判決 1965年3月03日

原告 袴田電機株式会社

被告 横浜中税務署長

訴訟代理人 片山邦宏 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は

被告が後記有限会社袴田商会に対し昭和三三年四月二四日なした左記の各処分を取消す。

(一)  昭和二八年九月一日より昭和二九年八月三一日までの事業年度(以下第一事業年度という)の法人税確定申告についての再更正

(二)  昭和二九年九月一日より昭和三〇年八月三一日までの事業年度(以下第二事業年度という)の法人税確定申告についての再更正

(三)  昭和三〇年九月一日より昭和三一年八月三一までの事業年度(以下第三事業年度という)の法人税確定申告についての再更正

(四)  昭和三一年九月一日より昭和三二年八月三一までの事業年度(以下第四事業年度という)の法入税確定申告についての更正

(五)  右第一事業年度以降同会社の青色申告書提出承認の取消訴訟費用は被告の負担とする

との判決を求め、請求の原因として

一、原告は昭和三四年二月七日横浜市中区長者町七丁目一一四番地に本店がある有限会社袴田商会を吸収合併し、同会社の権利義務一切を承継したものであるが、同会社に対し被告は昭和三三年四月二四日付書面により

(一) 第一事業年度の法人税確定申告の所得金額を四、〇一六、一〇〇円、法人税額を一、八五二、六七〇円、重加算税額を八一六,〇〇〇円と再更正する旨

(二) 第二事業年度の同上所得金額を一、六二七、四〇〇円、法人税額を七一九、三四〇円、過少申告加算税額を一五、三五〇円、重加算税額を二〇六、〇〇〇円と再更正する旨

(三) 第三事業年度の同上所得金額を一、七二四、一〇〇円、法人税額を七三〇、六四〇円、重加算税額を三三七、〇〇〇円

と再更正する旨

(四) 第四事業年度の同上所得金額を四、六六三、八〇〇円、法人税額を一、九九八、二九〇円、過少申告加算税額を一四、九五〇円、重加算税額を七九九、〇〇〇円と更正する旨

(五) 同会社の青色申告書提出の承認は第一事業年度以降これを取消す旨

を通知してきた。

二、同会社は右各処分に対し、法定の期間内の同年五月二一日被告に再調査の請求をしたが、同年八月三〇日棄却されたので、さらに同年九月一六日東京国税局長に対し審査の請求をした。右請求については法定の三月を経過しても決定がない。

三、被告がした前記(一)ないし(四)の再更正、更正処分は左のとおり違法があるから取消さるべきものである。

(一) 同会社は右各事業年度について、被告の承認をうけて青色申告書を提出していたから、これを更正するには法人税法三条後段により通知書に理由を付記しなければならないのに、本件の再更正、更正にはその付記がない。

(二) 被告認定の所得金額は事実と相違し、同会社にはそのような所得はない。

同会社は

(イ)  第一事業年度の確定申告書を昭和二九年一〇月三一日被告に提出し、これに所得金額を五〇三(行コ)七六一円、法人税額を二一一、五〇〇円と記載したが、昭和三〇年九月三〇日被告より所得金額を五二五、二六一円、法人税額を二二〇、五八〇円と更正されたほかには計上洩の所得はない。

(ロ)  第二事業年度の確定申告書は昭和三〇年一〇月三一日提出し、これに欠損金額を九七九、五八七円、法人税額零と記載したが、昭和三一年三月二七日被告より欠損金額を八二六一、六二二円と修正されたほかには計上洩の所得はない。

(ハ)  第三事業年度の確定申告書は昭和三一年一〇月三一日提出し、これに所得金額を二二二、七八六円、繰越欠損金よりこれを差引いた欠損金額六〇三、八三六円、法人税額零と記載したが、昭和三二年五月二七日申告を是認され、ほかに計上洩の所得はない。

(ニ)  第四事業年度の確定申告書は昭和三二年一〇月三一日提出し、これに所得金額を六〇六、四七八円、繰越欠損金を差引いた所得金額二、六四二円、法人税額九一〇円と記載したが、このほかには計上洩の所得はない。

四、被告のなした青色申告書提出承認の取消には、左のとおり法があるから、取消さるべきである。

(一) 右承認取消の通知にその理由の付記がなかつた、当時の法人税法は通知書に取消理由の付記を要する旨の明文の規定をおいていないが、これに理由を付記しないのは著るしく不当な行政行為である。すなわち、右取消に対し異議がある場合、同法三四条四項一項により、一箇月以内に不服の事由を記載した書面により再調査の請求をすることができるが、右不服の事由は、取消の理由の明示がないと、記載不可能であるか、または、記載しても的はずれに終ることが多く、有効適切な再調査請求権の行使を妨げることとなる。このように、納税者に防禦の方法を奪い、その権利の保護を欠く行政行為は著るしく不当であるから、違法である。

(二) 原告には法人税法二五条八項に該当する事由がないのに、その事由があると誤認して、右承認の取消をしている。よつて、被告の右各処分の取消を求める。と述べ、被告の答弁に対し

五、被告主張の第二、第三両事業年度で、決定処分をすべきところを再更正処分をした、とすれば、再更正は違法であるから、この理由だけでも右両年度の再更正は取消さるべきである。

六、青色申告書提出の承認取消通知は、他の再更正等の通知書とは別に、かつ、それより数日遅れて会社に到達した。

右承認取消の遡及効に関する法人税法二五条八項の規定は、青色申告による課税上の特典を失わせるだけのもので、本件再更正等の通知書に理由付記を免れさす効果を定めたものではない。

七、本件係争の各事業年度で会社が被告主張三項記載のような確定申告をし、その第一事業年度分につき計上洩の売掛金二一、五〇〇円の加算すべき金額、第二事業年度分につき減価償却の償却超過額四〇、〇九五円、計上洩の割戻金一二五、八七〇円、同保証積立金二九五、〇五〇円の加算すべき金額、第三事業年度分につき、計上洩のたな卸二三八、九二〇円の加算すべき金額、第四事業年度分につき、計上洩の保証積立金三八二、三五三円の加算すべき金額、前期に加算したたな卸額二三八、九二〇円の減算すべき金額があつたことはいずれも認めるが、同項記載のその事実は否認する。被告主張の計上洩資産はすべて同会社のものではなく、その増加が会社の所得となるものではない。のみならず、資産の増加により、所得の推計が許されるのは、会社の販売量従業員数事業の規模等により推計が裏付けられ、それが合理的と認められる場合に限るのに、本件では裏付けとされる資料もないのに期首と期末の資産の増減だけを比較し、その増加をもつて所得があると速断している。被告主張の所得の内容や金額は本件再更正等の処分当時再三の請求によりようやく会社に示された所得の内容金額と相違するし、本件課税処分に示す所得金額とも相違するから、その金額の多少にかかわらず、右課税処分は事実誤認にもとづくものとして違法である。

と述べた。

立証<省略>

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め

一、原告の請求原因事実中、一、二項は認める。ただし、有限会社袴田商会の第二、第三事業年度分法人税につき、被告は「再更正」する旨を通知したが、同会社は両事業年度で欠損金額の申告をしているから、それは再更正すべきではなく、正しくは法人税法三〇条後段により所得金額法人税額を「決定」すると通知すべきであつた。しかし、このような誤りは納税者に何らの不利益を与えるものでないから、これによつて処分に取消さるべきほどの瑕疵があることにはならない。三項の(一)中、同会社がその主張の四事業年度につきもと青色申告書提出の承認をうけていたこと、被告の右再更正等の処分通知書に理由の付記がないこと、同(二)中、同会社がその主張のような確定申告をし、これに対し被告において更正、修正、申告是認等の通知をしたことはいずれも認めるが、その他は否認する。四項は争う。

二、有限会社袴田商会は前記のように青色申告書提出の承認をうけていたが、被告は昭和三三年四月二四日、本件再更正、更正、決定等の課税処分をするに先だち、この承認を取消したから、再更正等の通知書に理由の付記は必要でない。承認取消の通知書は再更正等の通知書と同封で発送せられ、翌二五日同時に同会社に到達している。

仮りに承認取消の通知書が再更正等の通知書と別に、これより遅れて到達したとしても、承認取消の効果は法人税法二五条八項により遡及して生ずるから、再更正等の通知書に理由の付記を欠く違法は治癒された。

三、本件課税処分は、確定申告をされた会社決算利益金のほかに計上洩が存在すること、すなわち、同会社には会社資産として正規帳簿に計上され申告されている以外にかくされた資産があり、この資産は同様正規帳簿に記載されていない取引から生じた利益金によつてもたらされたものであるから、これを申告の所得金額に加算すべきものとしてなしたものである

(一) 第一事業年度

会社の確定申告と被告の主張額を対比すればつぎのとおり(以下同じ)。

区分       確定申告       被告主張額

決算利益金  五〇三、七六一円    五〇三、七六一円

加算:決算に計上洩の売掛金       二一、五〇〇

加算:売掛金以外の計上洩利益金  三、五四七、一九六

差引所得金額 五〇三、七六一   四、〇七二、四五七

再更正金額            四、〇一六、一〇〇

右売掛金以外の計上洩利益金の算出根拠はつぎのとおり(同前)。

同年度の期首において

貸付金  七、〇八二、五二一円

(債務者仲田某外五名)

現金   一、五〇〇、〇〇〇円

合計   八、五八二、五二一円

の資産計上洩があり、

期末において

当座預金    九八、七六三円

(福田一雄名義)

普通預金   七〇八、一六三円

(新谷金作名義)

貸付金 一一、二四五、一四一円

(債務者内野圭三外四名)

立替金 七七、六五〇円

合計  一二、一二九、七一七円

の資産計上洩があるので、その差額の

三、五四七、一九六円

の資産増加は当期の計上洩利益により生じた金額である(その明細は別表にあり)。

(二) 第二事業年度

表<省略>

同年度期首において、

前期期末計上洩資産があり、

期末において

当座預金     七、二六一円

(福田一雄名義)

普通預金 二、六九二、九三二円

(新谷金作外二名名義)

貸付金 一一、四六四、六二一円

(債務者会社社員外五名)

立替金 一六一、四四六円

合計  一四、三二六、二六〇円

の資産計上洩があるので、その差額

二、一九六、五四三円

の資産増加は当期の計上洩利益金である(明細別表)。

(三) 第三事業年度

表<省略>

当期の期首において

前期期末計上洩資産があり

期末において

当座預金    五二、六〇六円

(福田一雄名義)

普通預金 二、〇二五円

(中村良作外三名名義)

定期預金 一、〇〇〇、〇〇〇円

(無記名)

貸付金 一二、六六四、〇〇一円

(債務者会社社員外六名)

立替金    二四三、七九一円

合計  一五、九八六、二三七円

の資産計上洩があるので、その差額

一、六五九、九七七円

の資産増加は当期の計上洩利益である(明細は別表)。

(四) 第四事業年度

表<省略>

当期の期首において

前期期末計上洩資産があり

期末において

当座預金       七〇六円

(福田一雄名義)

普通預金 六、一六七、〇一九円

(中村良作外三名名義)

定期預金 一、〇〇〇、〇〇〇円

(無記名)

貸付金 一三、〇九三、三六六円

(債務者会社社員外四名)

立替金    二六四、一二一円

合計  二〇、五二五、二一二円

の資産計上洩があるので、その差額

四、五三八、九七五円

の資産増加は当期の計上洩利益である(明細は別表)。以上のとおり、被告がした再更正等の課税処分は会社の得た計上洩利益金の範囲内の所得額を課税標準としたのにすぎないから、これに違法はない。

四、同会社の前記各事業年度には右計上洩利益を生ずる相当の取引があるわけであるのに、会社は正規の帳簿書類にこれを隠ぺいして記載しないか、または真実と異なる仮装の記載をしていたもので、帳簿書類の記載事項全体についてその真実性が疑われるため、被告は法人税法二五条八項三号に該当するものとして第一事業年度以降の青色申告書提出の承認を取消した。そして、この取消通知について当時の法人税法は理由の付記を要求していないし、理由の付記を欠いても著るしく不当な行政行為でないから、右取消処分に違法はない。

と述べた。

立証<省略>

理由

一、原告は昭和三四年二月七日有限会社袴田商会を吸収合併し、同会社の権利義務一切を承継したものであること、右有限会社が昭和二八年九月一日に始まる第一事業年度から本件係争の処分にいたるまで青色申告書の提出を承認されていたいわゆる青色申告法人であり、昭和三三年四月二四日付で被告から書面で原告主張のような再更正、更正、青色申告書提出承認取消等の処分通知をうけたこと、これに対し同会社から法定の期間内にその主張のように再調査の請求をしたが棄却せられ、さらに東京国税局長に対し審査の請求をしたが、その後三月を経過しても同局長の決定がないことは当事者間に争いがない。

二、成立に争いがない乙第一号証、第二号証の七、甲第一から第五号証まで、第八号証、第一〇号各証、証人立花義男の証言により成立を認める乙第九号証と同証人、証人上田秀和、越後敏男、工藤トシ子の各証言によれば、本件青色申告書提出承認の取消通知書(甲第五号証)は、前記再更正等の処分の通知書ならびに納税告知書(甲第一から第四号証まで、第一〇号各証)とともに同一の封筒(甲第八号証)にいれ昭和三三年四月二四日書留郵便にして、被告税務署より前記有限会社に発送せられたことが認められるので、右各通知書はその後一両日を出ないで同一市内にある被告に同時に到達したものと認められる。原告は右承認取消の通知書は再更正等の課税処分の通知より数日遅れて到達したと主張するが、その援用する乙第一一号証のような封筒は同税務署では多数の重要でない同種文書を開き封で発送する場合に用いられるもので、右承認取消の通知のような重要な文書の郵送には用いられないことが証人石塚健一の証言によつて明らかであり、これらの点に関する証人神宮司渉の証言、原告会社代表者本人尋問の結果(各第一回)は措信できない。すると、右取消通知により、同会社は昭和二八年九月一日に始まる、既往の四事業年度にさかのぼつて承認を取消されたものであり、法人税法二五条八項により、同会社の右各事業年度に提出した青色申告書は青色申告書以外の申告書とみなされることとなる。

三、被告が発した本件再更正等の通知書に理由の付記がないことは被告の認めるところであるけれども、同会社提出の青色申告書は前項の承認取消により青色申告書でないとみなされるものであるから、申告の課税標準や税額の更正、決定に際し理由の付記は必要でない。

原告は申告当時青色申告書の提出を承認されていさえすれば、後に承認を取消されても、更正等の処分通知書に理由の付記を要すると主張するが、前記の法理によりそのように解することは不可能であり、これを支持する実質的な根拠も首肯できないので、右主張は採用に価しない。

四  前記再更正処分のうち、第二、第三両事業年度に関するものが確定申告において欠損の申告をしたものであるため、正しくは法人税法三〇条後段によりこれを決定とすべきであつたことは被告の認めるところである。決定とすべきものを再更正としたことは処分の瑕疵には違いがないが、その両者とも会社の確定申告を不当とし、税務署調査による課税標準および法人税額をもつて課税処分を行う意思表示である点において何らの差異がなく、ただたんに処分の表題を誤まつたにとどまるものと認められ、もとより何らの実害を伴うものでもないので、このような軽微な瑕疵を理由に処分を取消すべきでないことはいうまでもない。

五  前記会社が係争の四事業年度に、原告主張のような内容の確定申告をし、そのうち最後の事業年度分を除く確定申告につき、被告からさきにそれぞれ更正、修正、申告是認等の通知をうけたことは当事者間に争いがなく、右更正等の通知内容に会社において異議がなかつたことは原告の自陳するところである。そこで、右以外に、本件課税処分の原因となつた計上洩の利益金があつたか否かについて調べてみるに、被告主張の計上洩利益金はすべて、秘匿された会社の資産の存在とその増加を根拠とし、これより推計したものにほかならないから、これらについて別表記載の番号順に従い以下判断する。

(一)  福田一雄名義の当座預金

成立に争いがない乙第六号証、証人鳥井敏雄の証言により成立を認める乙第四号各証、第一四号証、証人今井覚の証言により成立を認める乙第五号証、証人菅野昌一の証言(第一二回)により成立を認める乙第一〇号証の一、第一二、一七号証、証人立花義男の証言により成立を認める乙第一三号証と右各証人の証言によれば、有限会社袴田商会が訴外株式会社若月製作所、鳥井電器株式会社から昭和二九年五月より昭和三〇年一〇月までの間しばしば正規の帳簿に記載しないで商品を仕入れていたこと、そしてその仕入代金の支払に福田一雄という仮名を用いた三和銀行横浜支店に対する当座預金を利用していたことが認められるので、この預金は同有限会社の有するものとみられる。原告提出の甲第一六号証は、右福田一雄名義の預金が、後出の新谷金作中村良作名義の三和銀行横浜支店普通預金とともに訴外袴田忠一郎の契約し、かつ預け入れをした預金であることを証明する旨の同銀行支店作成の文書であるが、証人鳥井敏雄の証言、原告代表者尋問の結果(第二回)によれば、右忠一郎は有限会社の代表者であつた袴田英雄の父で、同会社の社員でもあり、日常、会社の営業上の金銭の収支にたづさわつていたことが認められるので、同人預け入れの預金が同人に属するかまたは会社のものかはその外形からみただけで判別できるものでないと考えられ、そうである以上、右証明文書によつて前認定を覆えすことができないことは多言を要しない。また、証人佐藤豊治は、当時同人が同有限会社の店舗を利用し、同種の商品の仕入を行い、その資金は忠一郎より提供されていた旨の証言をし、甲第二四号証はその取引の備忘録であるかのようであるが、これらの証拠は、福田一雄名義の預金の引出利用が佐藤の取引によるものとみられるほどに明瞭なものではないので、採用することができない。証人山口智司、原告代表者のこの点に関する各供述は信用がおけないし、他に以上の認定を動かすに足る資料はない。そして、右預金の残高が、係争の各事業年度の期首または期末で別表中の番号1の欄記載のとおりであることは前記乙第一〇号証の一により明らかである。

(二)  新谷金作、中村良作、川島一雄、渡辺春雄名義の各普通預金成立に争いがない乙第七号証、証人今井覚の証言により成立を認める乙第八号各証、第一〇号証の八、九、証人菅野昌一の証言(第一回)により成立を認める乙第一〇号証の二から七まで、前記乙第六号証、第一〇号証の一と右各証言に(一)認定の事実をくみ合せると、福田一雄名義の右当座預金から昭和二九年五月より同年九月までの間に一〇回に総額六〇〇万円位の資金が訴外黄金証券株式会社における羽田という仮名の取引口座に入金され、また、右羽田の取引口座を中心として、三和銀行横浜支店における新谷金作(仮名)名義の普通預金、横浜銀行伊勢佐木町支店における中村良作、川島一雄、渡辺春雄(いずれも仮名)名義の普通預金にしばしば金銭の流出入があり、さらに三和銀行横浜支店に右同一の中村良作名義の普通預金があること、および、後記の貸付金の貸出や弁済にあたり、右各預金相互間に共同一体の払戻預入の関係があること(後記参照)から、これらの預金はすべて同一の預金者すなわち有限会社袴田商会に属する資産と認められる。前記甲第一六号証やこれと同種の横浜銀行伊勢佐木町支店作成名義の証明書によつては、右各預金が訴外袴田忠一郎の預金とみるのに困難であることは前に説示したとおりであり、証人山口智司の証言、原告会社代表者の供述中この点に関する部分は措信せず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。そして、右各預金の各事業年度の期首または期末における残高が、別表の番号2から6までの名該当欄に記載のとおりであることは乙第一〇号証の二から六までにより明らかである。

(三)  袴田忠一郎名義の普通預金

袴田忠一郎は会社代表者の父で、前記の各預金名義人と違い実在するものであるが、証人菅野昌一の証言(第二回)と前記乙第一〇号証の七によれば、横浜銀行伊勢佐木町支店に対する右忠一郎名義の普通預金には、前記有限会社の取引先の東京芝浦電気株式会社、松下電器産業株式会社からの入金や右松下電器に対する仕入代金支払のための払出が含まれているから、この預金も同有限会社のものと認定でき、係争事業年度の期首または期末の預金残高が別表中の番号7に示すとおりであることは乙第一〇号証の七により明らかである。

この認定を左右する証拠はない。

(四)  無記名定期預金

証人菅野昌一の証言(第二回)により成立を認める乙第一五、一六号各証、前記乙第一〇号証の六、八、九と右証人菅野の証言、証人今井覚の各証言によれば、三知銀行横浜支店に対する「た三九三九六」号無記名定期預金は、当初前記渡辺春雄名義の普通預金より昭和三一年六月二九日引出した金一〇〇万円を横浜銀行伊勢佐木町支店の銀行保証小切手に換えた上、これを三和銀行横浜支店に預け入れ期間一年の定期預金とし、満期の翌年の同月同日再度定期預金としたものであり、右渡辺春雄の預金が前記有限会社の資産である以上この定期預金も同じであると認められる。この認定を動かすに足る証拠はない。

(五)  仲田、加納、関戸、大久保に対する貸付金前記乙第六号証、第一〇号証の二、証人菅野昌一の証言(第一回)によれば、前記新谷金作名義の普通預金についての(イ)昭和二九年一月四日入金五〇〇、〇〇〇円同年三月四日同五〇、〇〇〇円、同年三月二六日同金五〇、〇〇〇円合計入金六〇〇、〇〇〇円は訴外仲田に対する、(ロ)同年四月二日入金六〇、〇〇〇円、同年四月八日同五〇、〇〇〇円、同年五月一七日同七〇、〇〇〇円、同年六月一二日同三〇、〇〇〇円合計入金二一〇、〇〇〇円は訴外加納に対する、(ハ)同年四月五日入金一五〇、〇〇〇円、同年四月七日同五〇、〇〇〇円、同年五月二四日同五〇、〇〇〇円、同年七月一四日同四五、〇〇〇円、同年七月一九日同一〇五、〇〇〇円合計入金四〇〇、〇〇〇円は訴外関戸に対する、(ニ)同年七月一七日入金八〇、〇〇〇円、同年七号二四日入金七〇、〇〇〇円合計入金一五〇、〇〇〇円は訴外大久保に対する各貸付金の弁済であり、右貸付金は昭和二八年九月一日に始まる第一事業年度の当初に存在したものであることが各認められ、新谷金作名義の預金が前記会社のものである以上、この貸付金も同会社の資産とみられる。

(六)  内野圭三に対する貸付金

前記乙第六号証、第一〇号証の一、二、五、六、証人菅野昌一の証言(第一回)により成立を認める乙第一一号証と同証言によれば、前記有限会社から訴外内野圭三に対し昭和二八年五月中旬金一〇〇万円、昭和二九年六月一五日頃金二五〇万円を貸付け、その弁済に(イ)昭和二九年二月九日金一八〇九四五円、(ロ)同年二月二三日金八〇、〇〇〇円、(ハ)同年二月二六日金五〇、〇〇〇円、(ニ)同年三月一八日金五〇、〇〇〇円、(ホ)同年三月二三日金五〇、〇〇〇円(以上すべて前記新谷金作名義の普通預金に入金)、(ヘ)同年四月一二日金二〇、〇〇〇円、(ト)同年四月一四日金一五,〇〇〇円、(チ)同年六月二一日七五、〇〇〇円(以上前記福田一雄名義当座預金に入金)(リ)同年八月一〇日金一一五、〇〇〇円(以上新谷金作名義普通預金に入金)(ヌ)同年八月二〇日七五、〇〇〇円(福田一雄名義当座預金に入金)、(ル)昭和三〇年一一月三〇日金一〇〇、〇〇〇円(内九九、四五〇円は福田一雄名義当座預金に入金)、(ヲ)同年一二月三〇日金一〇〇、〇〇〇円、(ワ)昭和三一年一月三一日金一〇〇、〇〇〇円、(カ)同年二月二八日金一〇〇、〇〇〇円、(ヨ)同年四月一二日金一〇〇、〇〇〇円、(前記川島一雄名義普通預金に入金)、(タ)同年五月一二日金一〇〇、〇〇〇円、(レ)同年六月一二日金一〇〇、〇〇〇円(内金六七、九〇〇円は前記渡辺春雄名義普通預金に入金)(ソ)同年七月一二日金一〇〇、〇〇〇円、(ツ)同年八月一二日金一〇〇、〇〇〇円の各支払をうけたほか、昭和三〇年一〇月頃債務者内野圭三に対する債権の一部七八五、八二〇円の放棄があり、結局別表中の番号13の欄に示すとおりの各残高となることが認められる。甲第一九号証によれば、訴外内野圭三は、右認定の金銭の貸借は、有限会社袴田商会と関係がないものであることを証明する旨の文書に記名押印しているようであるけれども、前掲の各証拠により認められる弁済金の入金状態から考えると、到底右証明書の記載のようには認められず他にさきの認定を左右できる資料はない。

(七)  袴田忠一郎に対する貸付金 前記乙第六、七号証、第一〇号証の一、二、四、五、六と証人菅野昌一の証言(第一回)によると、前記の各預金から債券購入のため第一事業年度の前年にあたる昭和二七年九月一日より昭和二八年八月三一日までの事業年度に合計四、七二二、五二一円、前記渡辺春雄名義の普通預金から昭和三二年六月一七日金一、〇〇〇、〇〇〇円、前記川島一雄名義の普通預金から同年八月三一日金一、〇〇〇、〇〇〇円の各預金の払戻をし、債券売却により、前記新谷金作名義の普通預金に昭和二九年八月二日三五五、〇〇〇円、同年八月四日八五、〇〇〇円、同年八月一四日五〇〇、〇〇〇円合計九四〇〇〇〇円、前記福田一雄名義の当座預金に昭和二九年一〇月一三日九六六、五二一円、同年一一月二四日一、五〇〇、〇〇〇円各計二、四六六、五二一円、横浜銀行に対する前記中村良作名義の普通預金に昭和三二年三月二五日一、三一六、〇〇〇円の各入金があつたことが認められる。この債券の取引はその性質からみて、前記有限会社の行為とは認め難いので会社の預金を或程度自由にでき、また株式等の証券取引の衝にあたつていたとみられる前記袴田忠一郎を債券取引の主体と推定し、したがつて前記預金の出入を同人に対する取引資金の貸付またはその弁済とみる証人菅野昌一の証言はやや大胆にすぎる嫌いがあるとはいえ、反証のない限り、これを首肯すべきである。そして、この貸付金の係争事業年度の期首または期末の残高を計算すれば、別表中の番号14の欄に示すとおりの額となる。

(八)  袴田に対する貸付金

前記乙第六号証、第八号各証、第一〇号証の一、二、四、五、六と証人菅野昌一の証言(第一回)によれば、訴外黄金証券株式会社に対する投資資金として、(イ)前記福田一雄名義当座預金から、昭和二九年五月一五日六〇五、三三二円、同年五月二一日三七一、〇一三円、同年六月八日二六四、二五〇円同年六月二二日二三一、二四〇円、同年六月二四日六九〇、〇〇〇円、同年七月一〇日七一〇、八六〇円、同年七月一二日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年八月二五日二一六、八五二円合計四、〇八九、五四七円を払出し、(ロ)なお同預金から同年九月四日九二〇、〇一九円、同年一〇月一三日一、〇〇〇、〇〇〇円、前記新谷金作名義の普通預金から同年一〇月六日二〇〇、〇〇〇円、合計二、一二〇、〇一九円、(ハ)前記川島一雄名義普通預金から昭和三一年四月五日五〇〇、〇〇〇円同年七月二三日一、五〇〇、〇〇〇円、前記渡辺春雄名義普通預金から同日五〇〇、〇〇〇円、横浜銀行における前記中村良作名義の普通預金から同日五〇〇、〇〇〇円合計三、〇〇〇、〇〇〇円、(ニ)右中村良作の預金から昭和三二年二月四日一、四一〇、〇〇〇円を各払出し、また、右返金として前記新谷金作名義の預金に昭和二九年一一月一七日二、〇〇〇〇〇〇円の入金があつことが認められ、前号後段と同じ理由により右投資は訴外袴田忠一郎の行つたもので、預金の出入は同人に対する投資資金の貸出とその弁済にあたるものと認める。被告はこの貸付をうけたものが袴田姓のものではあるが、忠一郎であるかは不明とみるようであるが、前号の認定と差異は認め難い。その係争事業年度の期首または期末残高は別表中番号15の欄記載のとおりとなる。

(九)  訴外村山無線、同脇坂に対する貸付金

前記乙第六号証第一〇号証の一と証人菅野昌一の証言(第一回)によると、有限会社袴田商会は前記福田一雄名義の当座預金から昭和二九年七月二〇日三九二、四一七円、同年八月二〇日一五八、九三五円合計五五一、三五二円の払戻をうけてこれを訴外村上無線に貸付け、同年八月二日二回に合計六七、三三四円の弁済をうけたこと、および同会社が同預金から昭和二九年六月三〇日一〇〇、〇〇〇円の払戻をうけてこれを訴外脇坂に貸付けた事実が認められる。甲第二〇号証その他原告援用の証拠によつては右認定を動かすに足らない。

(一〇)  金窓政雄に対する貸付金

前記乙第六号証、第一〇号証の二、四、五と証人菅野昌一の証言(第一回)によれば、前記会社は新谷金作名義の普通預金から昭和二九年一一月三〇日六五〇、〇〇〇円、横浜銀行に対する中村良作名義普通預金から昭和三一年一〇月一〇日八〇〇、〇〇〇円の各払戻をうけて訴外金窓政雄に各これを貸付け、昭和三一年九月一一日より昭和三二年八月二三日までの間に一四回にわたり合計八〇三、〇〇〇円の弁済をうけて右各預金や前記川島一雄名義の普通預金に入金したことが認められる。甲第二一号証その他原告援用の証拠によつては右認定を動かすに足りない。とすれば、この貸付金も同有限会社の資産とみるほかはなく、係争の各事業年度の期首または期末残高が別表中の番号18の欄記載のとおりの額となるのは計算上明らかである。

(一一)  鎮目磁平に対する貸付金

前記乙第六号証第一〇号証の三、四、五、六と証人菅野昌一の証言(第一回)によれば、前記会社は三和銀行に対する中村良作名義の普通預金から昭和三〇年三月三一日八〇〇、〇〇〇円の払戻をうけてこれを訴外鎮目磁平に貸付け、昭和三〇年九月三日から昭和三一年八月四日まで九回に合計三八四、八〇〇円の弁済をうけてその都度これを前記川島一雄、中村良作(横浜銀行)名義の普通預金に、さらに昭和三一年九月一九日から昭和三二年八月二四日までの間に一〇回に合計二八八、四〇〇円の弁済をうけてその都度これを右各預金または前記渡辺春雄名義の普通預金に各入金したことが認められる、原告援用の甲第二二号証その他の証拠をもつてしては右認定を動かすに足りない。すると、この貸付金も同有限会社のもので、その各残高は別表中の番号19の欄記載のとおりとなるのはいうまでもない。

(一二)  社員貸付金

乙第六号証、第一〇号証の一、五と証人菅野昌一の証言(第一回)によれば、前記有限会社の増資払込金にあてるため、前記川島一雄名義の普通預金から昭和三〇年六月二三日一、三〇〇、〇〇〇円、福田一雄名義の当座預金から翌二四日四〇〇、〇〇〇円を出金したことが認められ、右増資は有限会社の社員の負担するものであるから、会社の預金よりの支出は社員に対する貸付によつて行われたとみることができる。

(一三)  袴田英雄に対する貸付金

前記乙第六号証、第一〇号証の五、六と弁輪の全趣旨によれば、氏名不詳者某に対する貸付金の弁済として前記渡辺春雄名義の普通預金に昭和三一年九月七日一五〇、〇〇〇円、前記川島一雄名義の普通預金に同年一〇月六日四〇、〇〇〇円、同年一一月一日八〇、〇〇〇円の各入金があり、それまでに同額の貸付がなされていたことが認められる。この貸付金の債務者を袴田英雄と表示するのは会社代表者である同人の名を便宜使用したにすぎないことは被告の自陳するところで、右の認定と差異がなく、これを同会社の資産に計上しなければならないことは当然である。

(一四)  立替金

乙第六号証、第一〇号証の一から六まで、証人菅野昌一の証言(第一回)によれば、同会社に関係がない経費の支払に(イ)前記福田一雄名義の当座預金から、昭和二九年五月一二日一六、〇八五円、同年五月二五日七、六〇〇円、同年六月一〇日一七、二五〇円、同年六月二六日一〇、〇〇〇円、同年同月二八日六、七一五円、同年七月二九日一〇、〇〇〇円、同年八月三〇日一〇、〇〇〇円合計七七、六五〇円が支出され、(ロ)前記新谷金作名義の普通預金から、昭和二九年一一月一七日二九、九〇〇円、福田一雄名義の右預金から、同年一二月一〇日二、〇七〇円、同年一二月二五日一一、〇〇〇円昭和三〇年三月一四日八、七二〇円、同年三月三一日一、九五〇円、同年五月一一日一二、三六九円、同年六月一〇日四、八八七円、前記川島一雄名義の普通預金から同年六月一四日一二、九〇〇円合計八三、七九六円が支出され、(ハ)前記三和銀行に対する中村良作名義の普通預金から昭和三一年一月一五日五、五二五円、渡辺春雄名義の普通預金から同年六月三〇日五八、五八〇円、横浜銀行に対する中村良作名義の普通預金から同年七月二日一八、二四〇円合計八二、三四五円が支出され、

(ニ)横浜銀行に対する中村良作名義の右預金から昭和三二年一月三一日一六、五三〇円、三和銀行における同人の預金から同年四月二六日三、八〇〇円合計二〇、三三〇円が支出されていることが認められ、右はすなわち本来負担すべき会社外の個人に対する立替金債権とみることができる。この債権の各期末または期末の残高は以上を計算すると別表中の番号21の欄に記載のとおりとなる。

(一五)  現金

前記乙第六号証、第一〇号証の一、第一一号証と証人菅野昌一の証言(第一回)によると、前記(六)内野圭三に対する昭和二九年六月一五日貸付金二、五〇〇、〇〇〇円中、一、〇〇〇、〇〇〇円は前記福田一雄名義の当座預金から支払われたが、その余の一、五〇〇、〇〇〇円については出所不明のため反証がない限り、右は当時同会社に現金で存在していたものをもつて貸付けたと認めるべきである。すると、この現金も会社資産に計上しなければならない。

このようにして、被告主張の別表記載のとおりの資産の計上洩があると認められると、各期首又は期末間の計上洩資産の増加額は、その事業年度中の計上洩利益によるものと推定すべきで、結局被告が本件再更正、決定、更正等の課税処分で認定した有限会社の各所得金額はその範囲内のものであることがわかる。

六、原告は、被告が本訴で主張する計上洩利益金は、会社の販売量従業員数事業の規模等により合理的に裏付けられていない、資産の増加のみによる推計によるものであるから、このような推計は許されないと争うけれども、計上洩産の増加が存在する限りその間に計上洩利益があると推定するのは自明の理で、これ以外に裏付を必要とするものではないから、右主張は採用しない。

また、原告は、被告が本訴で主張する計上洩資産の内容や金額に処分当時の認定と当違するものがあるから処分に違法があるとも主張するが、本件のような課税処分に必要不可決のものは認定の所得金額の有無であり、その所得をもたらしたとみられる個々の資産の態様や金額に差異があつたとしても咎めるに及ばないから、右主張も採用しない。本訴で主張立証せられた所得金額が、課税処分認定の所得額より多くても、納税者は課税処分によつて権利を害されたわけでないから右を違法として処分の取消を求める利益を有しないことは断わるまでもない。

七、前記有限会社に上来説示のような計上洩利益金があるとすると会社の正規の帳簿書類にこの利益の生じさせた取引を隠ぺいして記載しなかつたか、または真実と異なる仮装の記載をしていたに違いがなく、右帳簿書類の記載事項全体について真実性が疑われるから、法人税法二五条八項三号に該当するものとして被告において第一事業年度以降の各事業年度につき、青色申告書提出の承認を取消すことができるのは当然である。

原告は本件の承認取消通知に理由の付記がないことをもつて納税者の再調査請求権の行使を妨げるとし、著るしく不当な行政処分であると攻撃するが、理由の不記載により再調査の請求に若千の支障は免れないとしても、その一事を捉えてただちに著るしく不当な行政行為と断ずることは相当でないので、右主張は採用しない。

それ故、被告がした取消処分に違法を認めることはできない。

八、以上のとおりで、本件各行政処分に違法があるとする原告の主張はすべて採用できず、右処分は適法と認められるから、原右の請求を理由がないものとして棄却し、訴訟費用につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森文治 石崎四郎 中山明司)

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