横浜地方裁判所 昭和35年(ソ)1号 決定
鎌倉市信用金庫
記録によれば、抗告人を債権者とし、相手方を債務者とする横浜地方裁判所(ケ)第二〇号不動産競売事件の競売手続が進行中、相手方は原裁判所に対し、金銭債務調停の申立をなすと共に、これによる競売手続の停止の申立をなし、原裁判所は民事調停規則第六条によりこれを容れて原競売手続停止決定をなしたことが認められる。
そもそも民事調停規則第六条による強制執行手続等の停止は紛争の実情により事件を調停により解決するのが相当である場合、例えば債権者の権利行使により生活上窮迫の状態に陥る虞のある債務者が、誠実に債務を履行する意思を有し、そのため調停による双方の互譲の結果、債権者の経済に著しい影響を及ぼさないで権利義務の調整が期待される実情にあるのに、調停の目的となつた権利に関する強制執行手続又は競売法による競売手続の進行により、債務者の経済的基礎が破壊され、その結果債務者の誠実な債務履行の意欲や可能性が失われて、調停の成立も期待し得なくなるのを防止し、もつて調停手続の円滑な進行を図るのを目的としたものであり、民事訴訟法第五百七十条の二の差押え禁止財産の拡張制度とその思想を同じくするもので、単に債務者の救済のみを目的とし、債権者の利益を無視するものではない。
そこで以上の観点に立つて考察するのに、相手方は当裁判所の指定した審尋期日に適式な呼出を受けながらも重ねて出頭せず、又記録及び抗告人代表者審尋の結果によれば、相手方においてその債務の履行につき誠意があり、その弁済のための努力をなしていたことも、又調停成立のために努力したことも認められない。むしろ相手方は、元本債務は勿論昭和三十三年六月末日以降の遅延損害金をも支払わず、その弁済についても何ら積極的な努力もせず、あまつさえ、現在競売の目的物となつている本件不動産を他に売却して転居し、第三者をしてこれを占有せしめているものであるから、これに対する競売手続により相手方の経済的生活が破壊され、弁済の誠意、可能性が失われ、調停の成立が期待し得ないものに至るとは認め難く、むしろ、第三者に占有せしめて転居したことにより調停を成立せしめる意思すらもあやぶまれる状態にある。してみると、相手方が民事調停規則第六条による競売手続の停止を求めた事由である「弁済のため極力努力し、漸く他からの借入金の目途も立つたので必ず弁済する」との理由は認められず、むしろ単に本件不動産を他に売却するための時間を稼ぐか、又は債権者である抗告人の権利の実現をいたずらに妨げることを目的として競売手続の停止を申立てた疑いがあり、他面債権者である抗告人の利益は競売手続の停止により阻害される虞がある。
よつて、本件の場合は、紛争の実情により事件を調停によつて解決することが相当である場合に該当しないから相手方の申立は失当であり、これを認容した原決定も又失当である。原決定はこれを取り消し、相手方の申立を却下する。