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横浜地方裁判所 昭和35年(ワ)208号 判決 1961年3月14日

原告 島田行雄

被告 奥山信喜

主文

被告は原告に対し金二〇六、〇〇〇円およびこれに対する昭和三五年三月一六日より支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告は、主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、請求原因として原告は、被告の振出にかかる金額二〇六、〇〇〇円、満期昭和三五年三月一五日、支払地、振出地ともに横浜市、支払場所第一銀行横浜駅前支店受取人東永建鉄工作所こと永野嘉孜との記載があり、さらに永野嘉孜の白地式裏書の記載がある約束手形一通の所持人であつて、右手形を満期に支払場所において呈示した、よつて、被告に対し右手形金およびこれに対する満期の後である昭和三五年三月一六日より右支払ずみまで手形法所定年六分の割合による利息の支払を求めるため本訴に及んだ、と陳述し、

証拠として、甲第一号証を提出し、証人永野嘉孜こと永野兵五郎の尋問を求め、乙第一号証の成立を認めた。

被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として、被告が原告の主張にかかる約束手形一通を振出したことおよび原告がその所持人であることは認める、しかし被告は永野嘉孜が代表取締役をしている有限会社東永建鉄工作所を受取人として右手形を振出したものであるところ、当時そのような有限会社は未設立であつたから、結局右手形には受取人が存在しないことになり、振出は無効である、またかりに受取人は永野嘉孜個人であると認められるとすれば、裏書は東永建鉄工作所代表者永野嘉孜によつてなされているから裏書連続を欠き、原告は手形上の権利を取得しないものである、と陳述し、証拠として、乙第一号証を提出し、甲第一号証の成立を認めた。

理由

原告が被告の振出にかかる金額二〇六、〇〇〇円、満期昭和三五年三月一五日、支払地、振出地ともに横浜市、支払場所第一銀行横浜駅前支店との記載のある約束手形一通の所持人であることは当事者間に争ない。

被告は、右手形の受取人の記載が不備であるから、振出は無効であると主張するけれども、甲第一号証(本件約束手形)によれば受取人欄にはたんに「東永建鉄工作所」とのみ記載され、被告主張のように「有限会社東永建鉄工作所」とは記載されていないことが認められるのみならず、およそ受取人としては人の名称と認められるものが記載されていればよいと解され、右認定の「東永建鉄工作所」との記載は受取人の名称として十分であると認められるから、この記載が被告の手形振出を無効にするものとは到底認められない。(なお右手形に振出日の表示があることは原告の主張しないところであるけれども、本件のような確定日払の約束手形にあつては振出日の記載を要件とする意味が存しないから、必要的記載事項ではないと解すべきである。)

つぎに、被告は裏書の連続を争うのであるが、前示甲第一号証によれば、前示のとおり受取人として「東永建鉄工作所」との記載があり、裏書人として「東永建鉄工作所代表者永野嘉孜」との記載があることが認められる。そして裏書の連続が存するか否かは当事者の意思如何を問わず、もつぱら外形的事実によりこれを決すべく、また記載が正確に一致しなくとも、その差異が些細で社会通念上同一人と認められれば裏書の連続を認めることができる。そうとすれば前示認定の受取人および裏書人の記載は同一人を表示しているものと解されるから、裏書の連続ありというに十分である。

もつとも裏書の連続は、ただ所持人を手形上の権利者と推定するに止まるから、もし、永野が真正の受取人ではなく、手形上の権利を有しないとのことを原告が知り又は重大な過失によつて知らずに本件手形を取得したとするならば、原告は手形上の権利を取得するに由ないのであるけれども、かかることは被告の主張立証しないところである。

そして、原告が満期に右手形を支払場所に呈示したことは、被告の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすべきである。

よつて被告は原告に対し、手形金二〇六、〇〇〇円およびこれに対する満期の後たる昭和三五年三月一六日より右支払ずみまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払義務ありというべく、原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉岡進)

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