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横浜地方裁判所 昭和36年(レ)37号 判決 1962年1月31日

控訴人(原審参加人) 松下実枝子 外一名

被控訴人(原審債権者) 渡辺房吉 外一名

主文

一、原判決中被控訴人等より控訴人福島章子に対する部分を取消す。

二、被控訴人等と控訴人福島章子間の藤沢簡易裁判所昭和三五年(ト)第九号不動産仮処分命令申請事件につき同裁判所が昭和三五年一〇月一三日なした仮処分決定はこれを取消す。

三、被控訴人等の本件仮処分命令申請はこれを却下する。

四、控訴人松下実枝子の本件控訴を棄却する。

五、訴訟費用は、控訴人福島章子と被控訴人等との間においては第一、二審とも被控訴人等の負担とし、控訴費用は控訴人松下実枝子と被控訴人等との間においては、控訴人松下実枝子の負担とする。

六、この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

控訴人松下実枝子代理人および控訴人福島章子は主文第一ないし第三項同旨および「訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする」旨の判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の陳述は原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。<疎明省略>

理由

一、先ず控訴人松下実枝子の本件参加申立の適否について判断する。

およそ仮処分申請事件に民事訴訟法第七一条による参加が許されるか否かについて考えると、仮処分の申請に応じて仮処分命令が発せられその執行がなされた場合においても、仮処分命令が有効に存在する限りこれに対し異議申立があるときは、裁判所は口頭弁論を開いて仮処分申請が許さるべきものであるかどうかをさらに審理すべきものであり、従つてその手続が終了するまでは訴訟は繋属しているものとみられるから、同条所定の要件を具備する第三者は債務者よりの異議申立の前後を問わず仮処分申請事件に当事者として参加を認められるべきである。

しかして控訴人松下実枝子は同条による参加を申立て、参加の理由として藤沢市鵠沼字堀南三、〇六五番の八宅地八四坪三合五勺のうち五坪五合(原判決添付図面のロホヘトニハロを結ぶ線内の部分、以下本件土地という)は同控訴人が所有者である被控訴人等より賃借している土地であり、本件工事は自己の建築であつて、工事中の建物は同控訴人の所有である旨陳述し、右は同控訴人の「本件仮処分決定はこれを取消す。被控訴人等の本件仮処分申請を却下する。」との趣旨と対比して考えるときは、同条前段の「訴訟の結果によりて権利を害せられる」との参加の要件の主張と解せられるところ、同控訴人の主張自体より見ても、同控訴人は被控訴人等と控訴人福島との間になさるべき判決の既判力を受けるものでもなく、またその判決の反射的の効果を受けるものとも認められず、被控訴人等と控訴人福島章子がその訴訟を通じて控訴人松下を害する意思をもつていると認めるべき証拠もないから、結局同控訴人は本件仮処分命令申請事件の結果によつて権利を害せられる第三者ということができない。のみならず同条による参加は「当事者として」参加するものであつて、右は第三者において参加の趣旨として債権者の権利を否認しまたはこれと矛盾する独自の仮処分命令を申請して(もつとも一方が争わないときは他方だけでよい)参加することを要求しているものと解すべきところ、控訴人松下実枝子の本件参加の趣旨は単に債権者である被控訴人等の仮処分申請の却下を求めるだけであることは既に記したとおりである。よつて本件参加申立は同条による参加としては不適法のものである。

しかしながら同控訴人の本件参加の趣旨ならびに弁論の全趣旨によれば、同控訴人は控訴人福島章子を補助すべく同法第六四条による参加をも申立てているものと解せられる。そして、同控訴人が本件仮処分申請の結果について利害関係を有していることは、当事者間に争いのない同控訴人が本件土地について賃借権を有している事実および後記認定のとおり本件工事建築部分の所有者である事実よりこれを認めうるから、同控訴人の参加は控訴人福島章子に対する補助参加としては適法と認められる。

二、そこで被控訴人等における被保全権利の存否について判断する。

本件土地が被控訴人等の所有であることおよび控訴人福島章子が本件土地上において自己の出捐により建築工事をしていることは当事者間に争いない。しかし、成立に争いのない丙第二号証、第九号証の一、第一〇号証、工事現場の写真であることに争いのない丙第一一号証、原審証人石毛真津子、同平幹の各証言、原審における控訴人福島章子、原審および当審における控訴人松下実枝子の各本人尋問の結果によれば、控訴人松下実枝子は被控訴人等より前示宅地八四坪三合五勺のうち本件土地を含む二八、二五坪を建物所有の目的で賃借して(この点は当事者間に争いない)、右土地上に家屋番号一、三八〇番の三木造亜鉛葺平家建店舗建坪一三、七五坪を所有し、右家屋の公道に面する部分五坪(本件土地はその敷地に相当する)を昭和三一年五月頃から鮨屋の訴外森井多喜夫に賃貸していたが、間もなくその賃貸借は解除となり、鮨屋は右家屋から立退いたので、昭和三五年七月右の家屋部分を控訴人福島に賃貸するに至つたこと、福島は同所で理髪業を経営すべく、鮨屋向きに設備された店内を理髪業に適するよう模様替を必要としたため、控訴人松下は、控訴人福島が同店舗内外の改造をすることを認めるとともに、福島は右改造部分を控訴人松下の所有とすることを承諾したこと、右約定に基づき控訴人福島は自己の費用で大工を依頼し本件工事を施工させたものであり、工事の内容としては建物の前面を従前の鮨屋のそれより更に道路の方に向け五〇糎位出し、従前濡縁であつた部分を店舗に改造する程度であつて屋根は従前のままであること、従つて本件工事にかかる建物部分は前示控訴人松下実枝子所有の建坪一三、七五坪の構成部分と認められるべきものであることが一応認められる。右認定に反する被控訴人渡辺房吉本人尋問の結果は措信しない。そして前記認定事実からすれば、本件建物改造部分の所有者は控訴人松下であつて、控訴人福島ではないから、福島が本件改造部分の建物を所有することによつて、被控訴人等所有の本件土地を占有している、とはいい難く被控訴人等は控訴人福島に対し、本件建物改造部分を収去して本件土地の明渡を求める権利を有するものとは認められない。

三、よつて原判決は、控訴人松下の本件参加申立を不適法として却下した部分については結局相当であり、この点についての同控訴人の控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、本件仮処分申請を理由ありとして藤沢簡易裁判所が本件についての昭和三五年一〇月一三日なした仮処分決定を認可した部分は失当であり、控訴人福島の本件控訴は理由があるので、この部分を取消し、右仮処分決定を取消し、被控訴人等の本件仮処分申請を却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋栄吉 吉岡進 鈴木禧八)

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