横浜地方裁判所 昭和36年(行)5号 判決 1965年7月19日
原告 水谷欽一
被告 横浜南税務署長 外一名
訴訟代理人 国吉良雄 外二名
主文
一、原告の、被告横浜南税務署長が昭和三四年三月一三日になした原告の昭和三〇年分総所得金額を三、〇五三、〇〇〇円とする更正決定を取消すとの訴のうち、不動産所得金額三三三、〇〇〇円に関する部分及び雑所得金額二、四二〇、五〇〇円を超える部分被告横浜南税務署長が昭和三四年七月二日になした原告の昭和三〇年総所得金額を二、七五三、五〇〇円とする再調査決定及び被告東京国税局長が昭和三六年五月二五日になした原告の審査請求を棄却する旨の審査決定を取消すとの訴のうち、不動産所得金額三三三、〇〇〇円に関する部分、並びに被告横浜南税務署長が昭和三四年三月一三日になした原告の昭和三〇年分所得税の加算税額を六六、三五〇円とする加算税額決定を取消すとの訴はいずれもこれを却下する。
二、前項の部分を除き、原告の請求を棄却する。
三、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「被告横浜南税務署長が昭和三四年三月一三日になした原告の昭和三〇年分総所得金額を三、〇五三、〇〇〇円とする更正決定、原告の同年分所得税の加算税額を六六、三五〇円とする加算税額決定、同年七月二日になした原告の同年分総所得金額を二、七五三、五〇〇円とする再調査決定並びに被告東京国税局長が昭和三六年五月二五日になした原告の審査請求を棄却する旨の審査決定はいづれもこれを取消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」旨の判決を求め、請求の原因として
「一、(一) 被告横浜南税務署長(以下単に税務署長と称する)は昭和三四年三月一三日原告の昭和三〇年分所得税の所得金額に関し、原告の申告に係る不動産所得金額三三三、〇〇〇円に雑所得金額二、七二〇、〇〇〇円を加算して、原告の同年分総所得金額を三、〇五三、〇〇〇円と更正し、これに伴い原告の同年分所得税の加算額を六六、三五〇円と決定し、その旨を原告に通知した。
(二) これに対し、原告は昭和三四年四月三日被告税務署長に対して再調査の請求をしたところ、同被告は、同年七月二日雑所得金額に一部誤りありとして、原告の前示総所得金額を二、七五三、五〇〇円(内訳不動産所得金額三三三、〇〇〇円、雑所得金額二、四二〇、五〇〇円)と減額変更する再調査決定をなし、同日その旨を原告に通知した。
(三) そこで原告は更に昭和三四年八月一七日被告東京国税局長(以下単に国税局長と称する)に対し、審査の請求をしたところ同被告は右請求につき協議団の協議を経たうえ、昭和三六年五月二五日右請求を棄却する旨の決定をなし、該決定は同月二七日原告に送達された。
二、然し前示各決定には左記の如き瑕疵が存し、いづれもその取消を免れない。
(一) 前示各決定は原告の昭和三〇年分の所得金額につき認定の誤りを冒している。
(1) 被告らは原告が昭和三〇年中に訴外株式会社石川屋朝田回漕店(以下単に朝田回漕店と称する)に対し、合計五、九八五、〇〇〇円を貸付け、右貸付金の利息として朝田回漕店から同年中に合計二、四二〇、五〇〇円(更正決定では二、七二〇、〇〇〇円)を受取つたと認定し、これを原告の同年中における雑所得とする。
然し原告が朝田回漕店に貸付けた金員は昭和三〇年一一月末現在において総額五、九八五、〇〇〇円であつたが、右は昭和三〇年一月当初からのものではない。また原告は貸付金の利息なるものを右回漕店から受取つた事実は全くない。前示各決定は存在しない雑所得を存在するものと誤認してなされたものである。
(2) 仮りに原告において昭和三〇年分の雑所得として幾許しかの利息収入があつたとしても、
(イ) 朝田回漕店の支払利息元帳(乙第二号証)には、支払利息に関し、単に○月分とのみ記載して、経過日時の記載を欠如しているものが交つている。然し、原告の右回漕店に対する貸付金は相当口数に上るものであるから、経過日時を明記しない限り、どの口に対する何時から何時までの支払利息であるかを確定できないことは明白であり、単に○月分とあるだけでは会社経理上混同を生じて整理不可能となることは必定である。従つて右支払利息元帳のうち、経過日時の記載なき分は他の使途へ流用したものを原告への利息支払に仮装した疑いが充分である。これら経過日時の記載なき分は総計九〇五、〇〇〇円に達する。
(ロ) 更に別の観点から論ずれば、原告の所得金額の正しい認定は、脱落重復のある支払利息元帳、或は振出小切手の控のみに依拠してなさるべきでなく、進んで信用の措ける銀行調査に俟つべきである。蓋し小切手振出の事実はあつても、必ずしもそのすべてが現金化されたとは限らないからである。しかして訴外朝田回漕店の取引銀行の支払証明に係る原告又は原告の妻水谷トメ名義の受領金額は、横浜興信銀行(現在の横浜銀行。以下同じ)関係八六八、〇〇〇円、第一銀行関係一三七、五〇〇円、日本相互銀行関係一一〇、〇〇〇円、合計一、一一五、五〇〇円に過ぎない。
従つて右(イ)の金額か或は(ロ)の金額を超える部分は、原告の所得金額というを得ないから、右いづれかを原告の雑所得金額中より控除すべきである。
(ハ) また原告の得た利息収入を悉く原告の純所得とすべきではなく、右収入のために要する経費又は第三者への支払利息の如きも亦当然控除すべきである。被告税務署長が更正決定原告に対し、調査、答弁を求めていたならば原告は当然右所得に要した経費等の主張立証したことはいうまでもないが、既に所得年である昭和三〇年より相当年数を経た今日、最早やその立証すら極めて困難である。よつて右所得に対する必要経費として相当額を控除すべきである。
(二) 前示更正決定には事前に原告に対する調査を行なつていない違法が存する。
被告税務署長は昭和三三年七月二一日会計検査院より、原告の所得金額に関する調査の指令を受け、昭和三四年三月一三日更正決定をなすまでに約半年有余の余裕があるにも拘らずその間原告に対し、その所得及び附随経費につき何らの調査回答も求めるところなく、突如として更正決定に及んでいる。本件は所謂白色申告ではあるが、青色申告に関する所得税法第六章更正及び決定において、厳格な事前調査を要求している法の趣旨に鑑み、本件においても相当の調査を要することは条理上当然のことといわなければならない。従つて右の如き調査を欠如せる右更正決定はそれ自体取消さるべき違法を帯有する。
(三) 前示審査決定にはその通知書に理由附記を欠く違法が存する。被告国税局長のなした原告の審査請求を棄卸する決定の通知書には棄却の理由として「原告の妻名義の裏書ある小切手とを対比して原告に所轄税務署長の査定する利息収入のあつたことは明白なり。」とするが、僅か一、二枚の妻名義の裏書ある小切手の存在を以て他の全く存在しない金額を原告の所得と推計することは、納税者を納得せしめるに足るものではない。斯かる不完全な理由の附記は理由の記載なきに等しく、この点において前示審査決定はそれ自体取消さるべき違法性を有する(最高裁判所第二小法廷昭和三八年五月三一日判決昭和三六年(オ)第八四号、民集第一七巻第四号六一七頁以下。)
三、よつて原告は被告両名に対し、前示各決定の取消を求めるべく、本訴に及んだ次第である。」
と述べた。
被告両名訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、請求の原因に対して
「一、第一項(一)乃至(三)の事実は認める。
二、第二項(一)について、原告の昭和三〇年分雑所得に関する被告らの認定は正当であり、原告主張の如く存在しない所得を存在すると誤認した違法はない。
(1) 被告らが、被告税務署長の更正(再調査決定により一部取消)に係る原告の昭和三〇年分雑所得の認定を正当とする所以は原告が貸付けをした朝田回漕店の昭和二九年一二月以降昭和三〇年一一月までの事業年度に対応する朝田回漕店備付けの帳簿である支払利息元帳(乙第二号証)と朝田回漕店の振出小切手の控(乙第五、第二七号証)、朝田回漕店の取引銀行である横浜興信銀行本店、第一銀行横浜支店、日本相互銀行横浜支店の取引証明(乙第三号証別紙、同第一三、第一七、第一八、第二九号証)、その他朝田回漕店代表者の陳述等によるものである。しかして更正に係る右所得金額の内訳は右支払利息元帳記載のうち、原告の仮装名義である永谷、永野、谷口、鈴木の各名義の昭和三〇年分の所得金額を合計した二、二九三、〇三〇円(別紙目録(一)記載)と、右利息元帳と前記小切手控(乙第五号証)とを照合した結果、右利息元帳の脱漏分と判明した右仮装名義人の同年分所得金額の合計一三〇、〇〇〇円(別紙目録(二)記載)とであるが、両者を合計すると原告の係争年分の課税雑所得金額は二、四二三、〇三〇円となり、これを再調査決定時の計算で集計洩れのため二、四二〇、五〇〇円(百円未満切捨)と認定したものである。
(2) (イ) 支払利息を記帳する場合には、その支払期間を「○月○日から○月○日までの分」と記帳するも、単に「○月分」とのみ記帳するも、ともに会社経理上の自由な処理方法であつて、経理上混同を生じ整理不可能となるなどとは到底考えられない。また調査の結果によつても、朝田回漕店が○月分と記載した部分を朝田回漕店において他の使途に流用した事実は存しなかつた。
(ロ) 原告は小切手振出の事実はあるとしても、必しも全部が現金化されるとは限らないので、支払利息元帳や小切手の控等で所得を認定したのは誤りで銀行の取引証明のみが正しい旨主張するが、然し右取引証明は被告らにおいて、原告が右利息元帳のうち支払期間の明記されていない部分を争うので、この部分の確認のため銀行調査を行なつた結果を示すもので、この取引証明を以て小切手支払の事実のすべてであるとする原告の主張は既に前提を誤まつている。
そもそも税務官署は納税者が真正の申告をしない限り、所得の実額を把握することは極めて困難であり、勢い所得額の確定は推計の方法を採らざるを得ない。本件の如く所謂白色申告の場合で且つ雑所得について全く申告が無い場合は当然推計課税(所得税法第四五条第三項)が許され、従つて被告らは本件において推計の方法として支払先の会社の支払利息元帳、小切手の控、朝田回漕店代表者の陳述等を参酌し、更により正確を期するため、右利息元帳の一部の金額につき銀行調査を行う等の措置を講じたものである。凡そ推計課税を前提とする税務訴訟においては所得の実額の存否について被告側において合理的課税の根拠を示している場合、これを争う原告の側において具体的に証拠を挙げて反駁すべきである。原告において本件課税の一部(一、一一五、五〇〇円)を是認するならばその差額につき具体的に否認理由を主張立証すべきである。
(ハ) 被告らは更正前後記のとおり原告に対し、調査、答弁を求めているが、原告は唯雑所得の存否を争うのみで、経費について何らの申出はなく、再調査請求時及び審査請求時においても亦然りである。従つて被告らにおいて原告主張の経費を認容しなかつたのは当然である。
三、第二項(二)について、被告税務署長は更生前原告に対し係争所得金額につき調査答弁を求めて更正をなしているのであり、このことは原告が昭和三四年四月二日付を以て被告税務署長に提出した再調査願書(甲第一号証の一)の冒頭に「昨年御署よりの御照会によれば、金二、五九二、三五〇円…………」と記載されている事実及び同じく原告より同被告に対し昭和三三年八月二六日付を以て提出された上申書(乙第一五号証)〇冒頭に「今般私は御庁より私が昭和二九年一二月より同三〇年一一月までの間に株式会社石川屋朝田回漕店に対し、金五、九八五、〇〇〇円也を貸付け、其の利息として金二、五九二、五三〇円を所得したるや否やの御照会を受けましたので…………」と記載されている事実に徴し明らかであり、原告の主張は事実に反する。
四、第二項(三)について、被告国税局長のなした審査決定の通知書(乙第一六号証)には「あなたが監査役として関与しておられた株式会社石川屋朝田回漕店の借入金利子支払記録とあなたまたはあなたの妻名義の裏書のある小切手とを対比して検討しますと横浜南税務署長が利息収入を加算して行なつた更正処分には誤りがないと認められます。」と理由の附記がなされており、原処分の正当な所以及び審査決定の結論に到達した過程が具体的に明らかにされておるので、原告の主張は理由がない。」
と述べた。
証拠<省略>
理由
一、原告主張の請求原因第一項記載の事実は当事者間に争いがない。ところで原告は本訴において原告の昭和三〇年分所得金額に関し、被告税務署長のなした更正処分、これに伴う加算税賦課処分、再調査決定、被告国税届長のなした審査決定の違法性を主張してその全面的取消を求めるが、右訴には後記のとおり一部不適法なものも存するので以下この点に付き審究することとする。
(一) 先づ加算税賦課処分を除くその余の処分、決定に付いて見るに、右当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨に徴すれば、原告は昭和三〇年分の所得として不動産所得三三三、〇〇〇円を申告し更正処分に対する再調査請求、再調査決定に対する審査請求においても、専ら更正処分及び再調査決定に係る雑所得の存否を争い、右不動産所得はこれを不問に附していることが窺われ、他方原告の係争年分における雑所得を二、七二〇、〇〇〇円とする更正処分は再調査決定において一部取消され、二、四二〇、五〇〇円と減額されていることが明らかである。して見ると更正処分、再調査決定及び審査決定中不動産所得三三三、〇〇〇円に関する部分は原告においてこれを係争年分の所得と自認しているものに外ならないのであるから、原告においてその取消を求めるにつき訴の利益がなく、また更正処分に係る雑所得金額中二、四二〇、五〇〇円を超える部分は再調査決定により既に効力を失つているので、最早取消を求める対象が存在しないものといわなければならない。従つて右各処分決定につきその全面的取消を求める原告の本訴請求は右判示の部分につき不適法であり訴の却下を免れない。
(二) 次に加算税賦課処分について検討する。法律によれば再調査の請求又は審査の請求の目的となる処分の取消又は変更を求める訴は原則として審査の決定を経た後でなければこれを提起することができず、例外として再調査の請求があつた日から六箇月を経過してもなほ再調査め決定の通知がないときその他法の定める正当事由の存するときは、再調査の決定又は審査の決定を経ないで右の訴を提起することができるが、再調査の請求があつた日から六箇月を経過した後に当該再調査の目的となつた処分の取消又は変更を求める訴を提起する場合には当該再調査請求のあつた日から九箇月以内(不変期間)に当該訴を提起しなければならないこととなつている(昭和三七年法律第六七号による改正前の所得税法第五一条)。
ところで、加算税賦課処分は所謂行政罰として、更正処分に附帯して課せられる処分ではあるが、然し更正処分そのものではなく、別個の行政処分である。このことは法が加算税賦課処分について異議がある場合には、これに対し独立に再調査の請求乃至審査の請求をなし得る旨規定していることからも明らかである(昭和三七年法律第六七号による改正前の所得税法第四八条、第四九条)。従つて加算税額賦課処分に対し取消の訴を提起する場合には、当該処分自体について審査決定を経由しているか或は前段に叙べた法律所定の要件を具備していなければならないと解すべきである。
そこで本件に即して見るに、成立に争いのない乙第六号証(昭和三四年七月二日施行申告所得税決議書)、原本の存在並びに成立に争いのない乙第一六号証(審査決定通知書)によると、再調査決定において更正処分に係る原告の係争年分の総所得金額、課税所得金額、税額を一部減額変更したこと、審査決定において一部減額変更された更正処分を正当として維持したことは認められるが、然し右証拠上右各決定において特に加算税額の点について触れた形跡はなく、その他本件記録に徴するも、本件加算税賦処分について再調査決定乃至審査決定のあつたことを認むべき証拠は存しない。して見るとその取消を求める本訴請求は、その前提として法の要求する審査決定を経由していないものといわなければならない。尤も成立に争いのない甲第一号証の一の原告から被告税務署長宛てに提出された昭和三四年四月二日付再調査願書の冒頭には「昭和三四年三月一三日私は御署より昭和三〇年度雑所得として金二、七二〇、〇〇〇円也(納付所得税額一、三二七、一五〇円、同加算税額六六、三五〇円)の更正通知書及び同加算税通知書を受領致しましたが……(中略)……何卒前記の件に関し御審査仰ぎ度く、茲に事実関係を詳細申述べ関係書類相添え御願申上げます(後略)。」との記載があり、これによると原告は更正処分のみならず加算税賦課処分に対しても再調査の請求をしたものと認める余地があり、この観点からすれば、本件は法律に謂う再調査の請求があつた日から六箇月を経過してもなお再調査の決定の通知がないときに該当し、従つて訴提起の前提として審査決定を経由する必要がない場合であるとも考えられる。然しこの場合にはさきに叙べたとおり再調査の請求のあつた日から九箇月以内に訴を提起しなければならないところ、本件において加算税賦課処分に対する再調査の請求がなされたのは前記当事者間に争いのない事実前顧乙第六号証及び弁論の全趣旨によれば昭和三四年四日三日頃であることが認められ、他方右処分の取消を含む本訴の提起がなされたのは昭和三六年八月一九日であることは本件記録に徴し明らかである。してみると本件加算税賦課処分に対する取消の訴は法の定める九箇月の出訴起間経過後になされた不適法なものといわなければならない。
以上いづれの点よりするも本件加算税賦課処分に対する取消の訴は不適法な訴として、訴の却下を免れ得ない。
二、本訴請求中前段説示の不適法な部分を除き、その余の請求について以下原告主張の取消事由の存否について検討する。
(一) 先づ係争年分における原告の雑所得の有無について判断するに(一)成立に争いのない乙第三、第七、第一四、第一五(但し一部措信しない部分を除く)、第二〇号証(但し上申書を除く)、第二一号証の一乃至五、第二二、第二三号証、証人朝田良行の証言により成立を認め得る乙第九、第一〇、第一一号証、証人近藤一久の証言により成立を認め得る乙第一九号証と右近藤一久の証言及び証人今井武雄、同三奈木博、同赤萩益枝の各証言を綜合すれば、朝田回漕店に対する原告の貸付金は昭和二九年一二月現在において総額三、八五〇、〇〇〇円、昭和三〇年一一月末現在において総額五、九八五、〇〇〇円に達し、朝田回漕店は右借入金に対する利息として原告に月五分乃至七分の割合による金員を支払つていたこと、右貸付金の一部には原告が訴外片岡健吉、同梶尾資蔵、同今井武雄から融資を受け、これを朝由回漕店に貸付けたものも含まれているが、原告と右各訴外人との間では右融資金はいづれも無利息であること朝田回漕店では昭和二九年の暮頃より金融事情の遷辿のため、大口債権者に対する月々の利息の支払に追われ、到底元金の返済をするまでの余裕は無く、現に原告の朝田回漕店に対する貸付金の総額は昭和三一年一一月現在においても依然として五、九八五、〇〇〇円であつて、昭和三〇年一一月末現在の貸付残高と変らないことが認められ、(2) 他方前顕乙第三第七、第一〇号証、前顕証人朝田良行の証言により成立を認め得る乙第二号証、第五号証の一乃至六、前顕証人赤萩益枝の証言により成立を認め得る乙第二六号証の一乃至三と右各証言及び前顕証人三奈木博、同近藤一久の各証言によれば、朝田回漕店の支払利息元帳(乙第二号証)には昭和三〇年一月八日以降同年一一月一二日までの間朝田回漕店より、永谷、永野、谷口、鈴木に対し借入金に対する利息として別紙目録(一)記載の金員が支払われた旨の記載があり、また右利息元帳に記載された以外にも、昭和三〇年三月二八日、同年九月二六日、同年一一月一四日、同月一六日、同月一八日、同月二〇日の六回に亘り、同回漕店より永谷、永野、鈴木に対し、借入金に対する利息として別紙目録(二)記載の金額に相当する横浜興信銀行(現在の横浜銀行)支払委託の小切手(乙第五号証の一乃至六)が振出されていること、右利息元帳や小切手上に表示された永谷以下一連の名義はいづれも原告の仮装名義であつて、原告と同一人物であること朝田回漕店では昭和三〇年当時会計経理の方法として取引の都度振替伝票(乙第二六号証の一乃至三)を切り、これを一括して仕訳帳に記入したうえ、パインダー式め総勘定元帳(乙第二八号証の一、二)に転記する方法が採られており、右支払利息元帳は右総勘定元帳の一部を成すもので朝田回漕店の正規の会社帳簿であること、現に右総勘定元帳の決算締切残高(乙第二八号証の二の終りから八枚目、二三一)と右回漕店の第三四期営業報告決算書(乙第一〇号証)貸借対照表の部の未払金額欄、右決算書損益計算の部の支払利息欄と前記支払利息元帳の支払利息総額(乙第二号証の最終欄)とが完全に符合することが認められ、以上の事実によると一応原告は昭和三〇年中に朝田回漕店から貸付金の利息として別紙目録(一)(二)記載のとおり合計二、四二三、〇三〇円を収納したことを推定し得るところ、(3) 更に<証拠省略>によれば、前記支払利息元帳記載の金額のうち、別紙目録<省略>によれば、前記支払利息元帳記載の金額のうち、別紙目録<省略>について、朝田回漕店から右利息元帳記載の原告の仮装名義宛に振出された横浜興信銀行支払委託の小切手の控が存し、他方右利息元帳記載の金額のうち別紙目録<省略>について、朝田回漕店振出の小切手がその取引銀行である横浜興信銀行、第一銀行、日本相互銀行において原告、原告の妻水谷トメ、原告の知人今井武雄、同人の経営する有限会社今井百貨店の裏書名義で現金化されていること、右水谷トメらは朝田回漕店とは何らの取引関係もなく、同回漕店において同人らから金員を借入れた事実は存しないことが認められる。前顕甲第一号証の一、成立に争いのない甲第一号証の二、乙第二五号証、前顕乙第一五号証、第二〇号証中の上申書、証人中田章三の証言により成立を認め得る甲第六号証と右証言及び原告本人尋問の結果中叙上認定事実に反する記載及び供述部分は右認定に供した各証拠と対比してたやすく措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。して見ると別紙目録(一)(二)の金額二、四二三、〇三〇円を原告の昭和三〇年中における利息収入と認定し、右金額の範囲において原告の同年度額所得金額を二、四二〇、五〇〇円とした本件更正処分、再調査決定には認定の誤りはないというべきである。(尤も前記支払利息元帳中別紙目録(一)の通し番号37、43、45、47、59、乃至65、87、112、127、130、144、148、155、156、158、190、194、197、の金額合計二〇二、〇〇〇円については、これに対応する小切手の控が存在しないが、然し内37、43、45、47、127、130、144、148、190、194、197については右利息元帳に銀行名の記載もなく、その金額も比較的小額であることが認められ、他方前願乙第三及び第七号証によれば、朝田回漕店では昭和三〇年当時支払利息の殆んどは先日附小切手で支払われていたが一部現金による支払もなされていたことが認められるところより、右金額は現金決済によつたものとも考えられる。加之前顕乙第一七及び第一八号証、前顕証人近藤一久の証言により成立を認め得る乙第二七号証の六の五、六、同号証の七の九、同号証の一〇の一事一、同号証の一六の三によれば、右利息元帳に記載されている以外に、別紙目録(三)の番号1、2、3、4、5、6、の金額について、朝田回漕店から原告の仮装名義である永野、永谷宛に振拙された横浜興信銀行支払委託の小切手の控が存し、他方右目録(三)の番号4、7の金額について朝田回漕店振出の小切手が右取引銀行において、原告の妻水谷トメ、原告の関与する横浜銀星会の裏書名義で現金化されていることが認められ、右事実と前段(1) 乃至(3) に認定の事実とを照らし合わせると別紙目録(三)の金額はいづれも原告に対する利息として支払われたことを認定し得るのであつて、右金額は総計二二〇、〇〇〇円に達する。従つて仮りに前記二〇二、〇〇〇円を控除しても、右二二〇、〇〇〇円を加算すれば尚原告の係争年分における雑所得は総計二、四四一、〇三〇円となり、これを二、四二〇、五〇〇円と認定した本件更正処分等に影響を来さない。)
原告はこの点に関連して、仮りに原告において相当額の利息収納の事実が存するとしても、前記支払利息元帳の中経過日時の明記されていない金額合計九〇五、〇〇〇円は朝田回漕店において他の使途へ流用したものを原告への利息支払に仮装したものであるから、これを本件雑所得金額中より控除すべきである旨、或は原告において収得したと目すべき利息の範囲は、朝田回漕店振出小切手のうち、銀行調査の結果原告又は原告の妻名義の裏書の存することの判明した合計一、一一五、五〇〇円に限定すべきで右金額を超える部分に付いては必しも朝田回漕店振出の小切手が現金化されたとは限らないので、これを本件雑所得金額中より控除すべきである旨主張する。
然し前顕証人三奈木博の証言及び弁論の全趣旨によれば、本件において被告らは原告の貸付先である朝田回漕店の正規の会計帳簿である支払利息元帳を基本として、朝田回漕店の代表者の陳述を聴取し、更に一部朝田回漕店振出小切手の控を取調べ、或いはその取引銀行を調査した結果本件雑所得金額の認定に到達していること、本件において原告は雑所得金額については全く無申告であることが認められるのであつて殊に本件は所謂白色申告であり、白色申告の場合は法律上推計課税も許されること(昭和三七年法律第四四号による改正前の所得税法第四五条第三項)を加味すれば、一応右証拠による雑所得金額の認定は相当と解され、従つて原告において右認定を争う以上、争いある金額について具体的に証拠を挙げて反証しなければならないと解すべきところ、未だ右利息元帳記載の金額の中経過日時の記載なき部分について、朝田回漕店が他の使途へ流用したものを原告への利息支払に仮装したことを疑わしめる証拠はなく、また朝田回漕店振出の小切手が一部不渡りになつたことを推認せしむべき証拠もない。従つて、この点に関する原告の主張はいづれも採用し難い。
原告は更に利息の収得に要した必要経費又は第三者への利息支払を考慮して、本件雑所得金額中より相当額を控除すべき旨主張する。然し本件において原告が右利息収得のための必要経費を支出し、或は第三者へ利息を支払つたことは原告本人尋問の結果によるもこれを確認するに由なく、他にこれを認むべき証拠はなく、却つて、原告が朝田回漕店に貸付けるために他から融資を受けた借入金は当該融資先との間ではすべて無利息であることはさきに認定のとおりである。原告は今日に於ける立証の困難を強調するが、原告において雑所得金額につき正当に申告する意思を有していたならば、当初より右雑所得金額の申告とともに必要経費の申告をする機会は充分あつた筈であり、現段階においては証拠の存しない以上これを考慮すべき余地のないことは当然である。従つてこの点に関する原告の主張も亦採用に値しない。
(二) 次に原告は本件更正処分には処分前、本件雑所得につき原告に対し調査、答弁を求めていない瑕疵が存する旨主張する。然し成立に争いのない乙第一号証、前顕乙第一五号証、前顕証人三奈木博の証言によれば、被告税務署長は会計検査院の指令に基き、本件雑所得について、その支払先である朝田回漕店を調査する旁ら、税務職員を介して原告に対しても本件雑所得について調査を行い、その答弁を求めており、現に原告から被告税務署長に宛てた昭和三三年八月二六日付上申書(乙第一五号証)の冒頭にも「今般私は御庁より私が昭和二九年一二月より同三〇年一一月までの闘に株式会社石川屋朝田回漕店に対し、金五百九拾八万五千円也を貸付け、其の利息として金弐百五拾九万弐千五百参拾円也を所得したるや否やの御照会を受けましたので、玄に事実関係を詳細に申述べ、関係書類相添え上申致します。」との記載が存することが認められ右認定に反する証拠はない。して見ると本件更正処分上原告主張の如き瑕疵は存せず、この点に関する原告の主張も理由がない。
(三) 最後に審査決定の通知の理由附記点に付いて判断する。審査決定は青色申告の場合のみならず所謂白色申告の場合にも、法律上通知書に理由の附記を要することは疑問の余地はないが(昭和三七年法律第六七号による改正前の所得税法第四九条第六項)、法が右通知書に理由の附記を要するとした趣旨は審査決定が如何なる根拠に基づいてなされたかを具体的に明らかにすることにより、当該決定の公正を保障するとともに無用の争訟を生ずることを避けようとしたものと解すべきであるから、右規定は単に行政庁に対する訓示規定と解すべきでなく、右理由の附記を欠けば、審査決定自体が違法となり取消を免れないと解すべきである。審査決定に理由附記を要する趣旨が右の如きものであるとすれば、理由附記の程度としては自ら原処分を正当として維持したその判断の根拠を納税者に理解できる程度に具体的に記載すべきものと解するのが相当であるが、事案により必しも一様である必要はなく、例えば青色申告の場合は当該制度が申告納税の合理化、正確化を期するために、公認の帳簿制度を普及徹底する必要から設けられたもので、青色申告者が所定の方式に従つて備付け記帳された帳簿組織に基づいて所得の計算をし、申告している以上、税務官庁において濫りにその帳簿書類を無視して更正することは許されず、調査の結果右帳簿書類の記載に誤りを認めて、他の方法による更正をなすには、右更正が申告者の帳簿以上に正しい根拠に基づいてなされたことを申告者をして納得せしめるに足る説明をする必要があり、この意味から青色申告の場合には審査決定のみならず、更正処分自体にも理由の附記を要求しているのに反し、白色申告の場合は推計による更正も認められ且つ更正処分自体には法律上理由の附記は要求されておらず、この点から白色申告の場合はその根拠の明示も自づと青色申告の場合と異つて良い筈である。
ところで前顕乙第一六号証の審査決定通知書の理由欄には「あなたが監査役として関与しておられた株式会社石川屋朝田回漕店の借入金利子支払記録とあなた又はあなたの妻名義の裏書のある小切手とを対比して検討しますと横浜南税務署長が利息収入を加算して行なつた更正処分には誤りがないと認められます」との記載が存する。右理由によれば被告国税局長は原処分たる更正を正当として維持した根拠として朝田回漕店の会計帳簿である支払利息元帳の記載と現金受領のためになされた原告又は原告の妻名義の裏書のある右回漕店の振出小切手とを揚げていることは明白である。本件は所謂白色申告でしかも無申告の場合であることを勘案すれば、理由附記としては右の程度で法の要求する最少限度の要件を充していると解するのが相当である。原告が主張において引用する判例は青色申告に関するものであり、本件は白色申告の場合であつて、両者の場合理由附記の程度に自づと緩厳の差があつて然るべきことはさきに説示のとおりであるので、右判例は必しも本件に適切ではない。従つてこの点に関する原告の主張は採用し難い。
三、以上明らかなとおり、原告の本訴謂求の中更正処分、再調査決定、審査決定中不動産所得金額三三三、〇〇〇円に関する部分、更正処分中雑所得金額二、四二〇、五〇〇円を超える部分及び加算税賦課処分に関する部分はいずれも不適法であるから訴を却下することとし、その余は失当であるから講求を棄却することとし、訴訟費用の負担に付いては民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 久利馨 藤浦照生 谷沢忠弘)