大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和37年(モ)699号 判決 1962年6月29日

申立人 黒田為夫 外一名

被申立人 株式会社井門不動産

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人等の負担とする。

事実

申立代理人は、適法な呼出をうけたのに、本件口頭弁論期日に出頭しなかつたが、陳述したものとみなすべき申立書並びに準備書面の記載によれば、「当庁川崎支部昭和三五年(ヨ)第九七号仮処分申請事件について、同年八月二七日発した仮処分決定、および同支部昭和三五年(ヨ)第一〇三号不動産仮処分申請事件について、同年九月一五日発した仮処分決定を各取消す。申立費用は被申立人の負担とする、との判決と仮執行の宣言を求め、その理由として、

一、被申立人は

(一)  昭和三五年八月二七日申立人黒田為夫を被申請人として、当庁川崎支部同年(ヨ)第九七号不動産仮処分申請事件につき、占有移転禁止、建築工事禁止仮処分決定を得、同月二九日執行吏に委任してその執行をおわり、

(二)  同年九月一五日申立人佐奈建設株式会社を被申請人として、同支部同年(ヨ)第一〇三号不動産仮処分申調事件につき、占有移転禁止、建築工事禁止仮処分決定を得、同月一六日執行吏に委任してその執行をおわつた。

二、申立人等はそれぞれ右仮処分決定に対し異議を申立てたが、同支部はこれを併合審理した上、昭和三六年八月七日、両仮処分決定を取消す。両仮処分申調を却下する。右取消部分に限り、仮りに執行することができる旨の判決を言渡した。

よつて、申立人者は執行吏の右判決の執行を委任し、同月八日前記仮処分の執行は取消された。

三、被申立人は右判決に対し控訴したが、東京高等裁判所は審理の末、昭和三七年四月二〇日原判決を変更し、前記各仮処分決定を認可する旨の判決を言渡し、この判決は即時確定した。

被申立人は同年五月一六日右判決を提出して、その執行を委任し、執行吏は現地に臨み、執行に着手した。

四、しかし、前記各仮処分決定の執行は、異議事件の第一審判決の執行により取消され、消滅しているから、控訴審判決の言渡により、再びこれを執行するとしても、民訴法七四九条二項所定の一四日の期間内にしなければならないのにかかわらず、被申立人はすでに右期間を徒過したから、仮処分決定は完全に効力を失つた。

五、このように、両仮処分決定が効力を失つた以上、これを存置しておく理由はないので、その取消を求める、」

というのである。

被申立代理人は、主文同旨の判決を求め、

一、申立人主張の第一、二項の事実は認める。第三項中、執行吏が執行に着手した事実を否認し、その他は認める。第四項は争う。

二、被申立人が昭和三七年五月一六日執行吏に控訴審判決を提出したのは、従前の執行を続行するためであつたから、申立人主張の一四日の執行期間はこの場合に適用がなく、仮処分決定は失効していない。

なお、執行吏は当日現場に臨んだが、執行を中止している。

と答えた。

理由

申立人主張の第一、二、三項の事実は、昭和三七年五月一六日執行吏が執行に着手したか否かの点を除いて、当事者間に争いがない。そして、右争いがない事実によれば被申立人が控訴審の判決を提出して、執行吏に再度の執行を求めたのは、さきに取消された仮処分決定の執行の続行を求めたものと認めるべきであつて、あらたに執行に着手するのではないから、民訴法七五六条七四九条二項所定の一四日の執行期間を守る必要はない。このような場合、右法定期間の類推適用を認めることは必ずしも理由がないわけではないが、仮処分決定後はじめて執行する場合と事情に違うものがあることは否定できないし、長い実務慣行を破り、法解釈の安定を害してまで、この説をとる必要はない。なお、本件の両仮処分決定には、執行吏の執行を要しない建築工事禁止命令が含まれているのであつて、この部分については、申立人主張の執行期間が何等の関係をもつものでないことは断わるまでもない。

よつて、本件申立を理由がないものとして却下し、申立費用につき民訴法八九条九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 森文治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例