横浜地方裁判所 昭和37年(ワ)195号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕一、土地の相当賃料を算出するにつき、土地の時価に金利や土地管理費を乗じて算出する方法は、土地の資本財たる性質からいつて妥当といえる。また、それは、借地関係の新旧当事者の個人的事情などを考慮に入れないで客観的になすべきであり、比隣の土地の賃料も、それが法律の統制の下にあるいは個人的事情の下に特別に低く抑えられているときは、特別に重要視する必要がない。
二、一定期間借地料を増額請求しないという特約も、本件のように契約締結から三〇年以上経過し、期間も一度しか更新されず、その間経済事情も大きく変動したときは、もはやその効力を失つたものと解せられる。
〔判決理由〕現在においては一たん借地関係が設定された場合は特別の事情のない限りそれを消滅させない法のたてまえをとつているので、借地関係における賃料は賃貸人にとつては一種の投下資本たる土地から生ずる利潤とも考えられ、したがつて土地の時価に金利や土地管理費を乗じて相当賃料を算出する方法は土地の資本財たる性質からいつて妥当といえる。また右鑑定の結果による相当賃料は物価の昂騰や土地の値上り率をそのまま適用して算出したものでないことは右により明らかであつて、その点も妥当である。又、相当賃料を算出するには右鑑定の結果のように借地関係の新旧当事者の個人的事情などを考慮に入れないで客観的になすべきであつて、これに反する被告の主張は採用することができない。ただ、右相当賃料の額を算出するにあたつて右鑑定人の鑑定の結果からも同証人の証言からも比隣の借地料を充分に考慮した形跡が見られないが、比隣の借地料は借地法一二条の規定に明定されているように相当賃料の額を定めるのに重要な要素の一つである。本件土地の比隣の借地料は前記(4)の通りであつて比較的小額であることを認めうるけれども、これらの借地中いずれが被告の借地と同じく地代家賃統制令の適用から除外されるに至つたかは本件全証拠によつても不明であり(証人((省略))の証言によれば安養院の借地人の建てた建物には現在地代家賃統制令の適用のある三〇坪未満の建物も適用のない三〇坪以上の建物もあることが認められる。)、同令の通用が除外された借地があるとしても原告の土地と同じくしばらく所有者が増額請求しない土地もあることと考えられ特別に低いこともありうる。このように比隣の土地の賃料が法律の統制の下にあるいは個人的事情の下に客観的基準からみれば特別に低く抑えられているときは、本件相当賃料を決するに特別に重要視する必要もない。それに前記(1)で認定された本件土地の理想的環境を考慮に入れた時、右鑑定の結果の賃料の額は経験則上それぞれの時点における相当賃料であるということができる。(中略)
被告は本件賃貸借契約は賃料五年切替の約旨があるから契約締結三〇年後の昭和三四年五月一日から五年間は原告は一方的に増額請求できないはずであり、それに反する原告の前示三回の増額請求は効力がないと主張する(抗弁二の事実)。たしかに成立に争いない甲第四号証の一によればその第三項に五ケ年切替の約旨が記載されており、それが原告主張のような単なる例文ではないと認められる(当時原告主張のように寺院所有地についての賃貸借契約の存続期間が五年を超えることができなかつたとしても五年毎の賃料切替の約旨が無意味でないこと勿論である。)。また地代家賃統制令の規制をうけるようになつたとしてもその規制額の範囲内の賃料ならば当事者は自由に定めることができるのであり、一定期間借地料を増額しないという特約も有効なのであるから、右五ケ年切替の約旨が地代実賃統制令の施行によつて失効したという原告の主張は採用することができないけれども、一定期間借地料を増額請求しないという特約も経済事情が激変した場合はその効力がなくなるものと解すべきであるから、本件のように契約締結から三〇年以上経過し期間も一度しか更新されずその間経済事情も大きく変動した本件増額請求をした各時点までには、もはや右特約はその効力を失つたものと解せられる。当事者の意思としても被告が主張し原告が明らかに争わないように賃料増額はしないはずである五年の間の昭和三三年四月に賃料を増額しているのであつて、もはや五ケ年切替の約旨を無視するようになつたことが認められる。その他本件全証拠によつても原告の三回の賃料増額請求が原被告間の約定に反する無効なものであることを認めるに足りない。(若尾元)