大判例

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横浜地方裁判所 昭和41年(手ワ)289号 判決 1967年2月15日

原告 田沼美恵子

右訴訟代理人弁護士 小林嗣政

被告 島田滝光

右訴訟代理人弁護士 斉藤兼也

被告 長谷川利雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告らは原告に対し各自金二〇万円およびこれに対する昭和四一年九月八日から右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因として

一、被告島田滝光(以下被告島田という)は昭和四一年六月八日被告長谷川利雄(以下被告長谷川という)に宛て、額面二〇万円、満期同年九月八日、振出地空白、支払地川崎市、支払場所株式会社東海銀行川崎支店なる約束手形一通を振出した。

二、原告は同年六月八日被告長谷川から前記手形を拒絶証書作成の義務を免除の上白地式裏書により譲渡を受け現にその所持人である。仮りに被告長谷川が右裏書をしなかったとしても、同被告の妻長谷川ともえが同被告の委任を受け代理人としてなしたものであり、仮りにそうでないとしても、同被告は同年六月中旬頃訴外長谷川ともえの右無権代理行為を追認したものである。

三、ところで原告はその支払をうけるため、右手形を訴外日本相互銀行に取立委任裏書し、同銀行は満期である同年九月八日に支払場所において右手形を呈示したがこれが支払を拒絶された。

四、よって原告は被告らに対し、各自右手形金二〇万円およびこれに対する満期である同年九月八日から右完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による法定利息の支払を求めるため本訴請求に及んだのである、と述べた。

被告島田訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として請求原因第一項は認める。同第二項は知らない、同第三項中支払呈示のなされたことおよび支払拒絶の事実は認めるがその余の事実は知らないと述べ、抗弁として

一、被告島田は、被告長谷川からその仕事先である訴外西川土建に対し、被告島田と取引があることを示して信用を得たいから約束手形を貸して貰い度い、手形は右訴外西川土建に見せるだけで他に譲渡することはしないし満期前に返還する旨懇請を受け、本件手形を振出したものであるが、右のとおり本件手形は流通におく目的はないのでそのため手形の第一裏書欄に明瞭に「裏書禁止」の文句を記載し、その末尾に振出人の名下に押印した印をもって捺印したものである。従って右手形は振出人である被告島田のなした裏書禁止手形であり、裏書による権利移転が禁止されているので、振出人である被告島田は裏書により本件手形を取得した原告に対し、本件手形上の義務を負うものではない。

二、又原告が被告長谷川から右手形を裏書により譲り受けたとしてもそれは指名債権譲渡の効力しか有しないところ、前記のように本件手形に原告が被告長谷川に見せ手形として貸したものにすぎないのであるから、原告の善意悪意を問わず。当然に前記事由をもって原告に対抗することができ、本件手形金支払の義務はない。

三、仮に本件手形が裏書禁止手形でないとしても原告は裏書禁止の記載あることを知って本件手形を取得したかあるいは重大な過失によりこれを知らずして取得したものであるから被告島田に対しては本件手形上の権利を主張し得ない、と述べ

被告長谷川は主文同旨の判決を求め、答弁として、請求原因第一項は認める。同第二項は否認する。右裏書は被告長谷川の妻である訴外長谷川ともえのなしたものであると述べ、仮りに右裏書の効力が同被告に及ぶとしても被告島田が主張するように本件手形は振出人である被告島田がなした裏書禁止手形であり、右裏書により右手形上の権利は移転しないから同被告は本件手形金の支払義務はないと述べた。

原告訴訟代理人は被告ら主張の抗弁に対する答弁として、被告ら主張の抗弁事実中、本件手形に被告ら主張の如き文言の記載および押印がなされている事実は認めるが本件手形振出の事情は不知その余の事実は争う。およそ、裏書禁止手形であるためには手形の記載上振出人が裏書を禁止して振出したことが明瞭でなければならない。従って手形の表面に指図禁止等の文句を記載すべきであり、第一裏書欄に裏書禁止文句を記載したのでは裏書禁止手形とはなり得ないものである。仮りになり得るとしても、本件手形には右の如き記載、押印がなされているに過ぎず、裏書欄には当然裏書人の印影が押捺されるのであり、且つ本件振出人の印影は印顆に使用する特別の書体によって示され、しかも上下さかさに押捺されている有様で、右事実によって見れば、本件振出人の名下に押捺した印影は裏書人の押捺する印影と極めてまぎらわしいこととなり到底振出人によって裏書禁止されたものであることが明瞭な手形であるということはできないから、本件手形は裏書禁止手形ではない。又原告は本件手形に振出人によって裏書禁止文句が記載されたことを知らないで右手形を取得したものであり、仮りに右事実を認識しなかったことに重大な過失があったとしても、原告は被告島田を害することを知らないで本件手形を取得したものであるから、重大な過失の有無は問題となり得ないと述べた。

証拠として<以下省略>。

理由

被告島田が被告長谷川に宛て原告主張の約束手形を振出したことは当事者間に争いがない。ところで、被告らは右手形は振出人である被告島田がなした裏書禁止手形であると主張するのでこの点につき判断する。振出人のなす裏書禁止文句の記載は手形の表面になされるのが通常であるが、その記載が手形の裏面になされた場合であっても、それが振出人によってなされたものであることが明瞭である限り、右裏書禁止文句の記載は振出人のなしたものとして有効であると解する。しかして本件手形の第一裏書欄に「裏書禁止」の記載がなされ、その末尾に振出人名下に押印された印が捺印されていることは当事者間に争いがなく、右事実と甲第一号証の一、二の本件手形によれば、右裏書禁止の記載は一見して振出人である被告島田によってなされたものであることが明瞭である。

しかして右甲第一号証の一によれば本件手形表面には印刷された不動文字による指図文句の記載が残されており、これと右裏書禁止の記載との関係をどう見るかについては一応問題の存するところであるけれども、後から裏書禁止の文句が記載され、それに振出人の押印がなされている以上このような場合は振出人の意思は裏書を禁止する趣旨であると推測するを相当とするから、右指図文句が抹消されていないからといって右裏書禁止文句の効力を云云することはできない。従って本件手形は振出人である被告島田によってなされた裏書禁止手形であると認めるのを相当とする。

そして、<省略>総合すれば、原告は昭和四十一年六月八日被告長谷川の代理人訴外長谷川ともえから本件手形を白地式裏書により譲渡を受けたことが認められるけれども、本件手形はさきに認定のとおり裏書禁止手形であるから右裏書は裏書としての効力を有せず、裏書人である被告長谷川は担保責任を負担することもなく、被裏書人である原告は本件手形上の権利を取得しえないものである。従って右裏書により本件手形上の権利を取得したことを前提としてなす原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。<以下省略>。

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