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横浜地方裁判所 昭和42年(ソ)8号 決定 1967年8月29日

抗告人 神奈川県民主商工会 外一名

相手方 国 外二名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの連帯負担とする。

理由

本件抗告理由の要旨は「抗告人らは零細事業者を構成員とする団体であり、財政状態が苦しいので本人訴訟を行わねばならないから横浜地方裁判所に移送された場合には(1) 簡易裁判所では手続面において本人訴訟に最適であるに反し、地方裁判所での厳格な手続は本人訴訟には寧ろ苦痛を与える、(2) 距離が遠くなり経済的負担が増加する、(3) 会員の傍聴が地方裁判所では気軽にできない、という結果になり実質的には公開の裁判を受ける憲法上の権利が奪われることになる。更に本件は事実認定が簡単で面倒な事案ではないから、移送が相当とはいえない。よつて原決定の取消を求めるため本件抗告に及んだ。」というにある。

よつて考えるに、本件訴訟における抗告人らの主張は本件訴状により認められるところによれば、次のとおりである。

すなわち、抗告人らは零細商工業者の組織する団体で、税制改革、国自治体の財政資金を零細商工業者に利用させる等零細商工業者の地位発展を目的としている。被告東京国税局長、同戸塚税務署長は自らの租税行政に批判的な原告らの組織の破壊を図り、原告戸塚支部の会員をして脱会せしめんとして、昭和四二年三月一八日、その職務上の権限を乱用して右支部会員に虚偽の事実を流布し、よつて原告らの名誉を毀損したというにある。

従つて本件事案は可成り複雑困難で、審理にも多くの日数を要するものと認められる。

簡易裁判所は相当と認めるときは訴訟を地方裁判所に移送することができ、その相当性の判断は当然客観的に行われなければならないが、本件の事案については、地方裁判所で審理するのが相当であるとした原審の判断は客観的に妥当なものと認められる。

なお抗告人らは本件移送によつて抗告人らの公開の裁判を受ける権利が実質的に奪われると主張するが、(1) 簡易裁判所での訴訟手続が地方裁判所よりある程度緩和されているにしても、本人訴訟を行うについて地方裁判所が簡易裁判所より困難であるとは事件の性質によつて一律には断定できないし、(2) 鎌倉横浜間の距離では経済的負担が著しく増加するとは認められないし、(3) 地方裁判所が簡易裁判所より傍聴が困難であるとの理由は何ら存しないのであるから、その主張は理由がない。

以上本件を横浜地方裁判所へ移送する旨の原決定は正当であつて、本件抗告は理由がないから民事訴訟法第四一四条、第三八四条一項、第九五条、第八九条によつて主文のとおり決定する。

(裁判官 石橋三二 藤原康志 新城雅夫)

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