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横浜地方裁判所 昭和42年(ワ)359号 判決 1968年1月23日

原告

草薙喜祐

被告

富樫喜侑

ほか一名

主文

被告らは、各自原告に対し、金三、二三四、九六六円およびこれに対する昭和四二年三月一八日から完済まで年五分の金員を支払わなければならない。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

この判決は、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、被告らは、「原告の請求は棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

原告訴訟代理人は、請求原因として、次のとおり述べた。

一、昭和三九年一〇月二六日午後九時一五分頃東京都町田市大蔵町一九〇番地附近路上において、被告富樫喜侑(以下被告富樫という)の運転する被告道和産業株式会社(以下被告会社という)保有の普通貨物自動車(以下被告車という)と、原告運転の第一種原動機付自転車とが接触し、原告は路上に転倒した。

二、右交通事故により、原告は全治六ケ月を要する後頭部挫創、右上腕骨骨折などの傷害を負つた。

三、被告富樫は、過失による不法行為者として民法第七〇九条に基く損害賠償責任を負うものである。

(一)  被告富樫は、本件事故当時酒気を帯びて被告車を運転していたものであること。

(二)  被告富樫は、本件事故現場路上を、根岸交叉点方向より鶴川駅方向に向けて、時速約五〇キロメートルで進行中、先行する自動車を追越すため、道路の右側に進出しようとしたが、かかる場合、自動車の運転者たるものは、あらかじめ前方右側路上を注視し、対向車輛の有無に注意し、安全を確認したのち右側に進出し、以て事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然進出進行した過失により、折柄鶴川駅方面より、対向進行して来た、原告運転の第一種原動機付自転車を直前に於て始めて発見し、衝突を回避しようとしたが及ばず原告に被告車を接触させたものである、

四、被告会社は、自己のために被告車を運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)第三条により損害を賠償する責任がある。

仮にそうでないとしても、本件事故は、被用者たる被告富樫が被告会社の業務を遂行中惹起したものであるから、民法第七一五条による使用者としての責任を負わなければならない。

五、本件交通事故によつて原告は次のような損害を蒙つた。

(一)  財産的損害

(1)  診療費合計金五〇五、五七六円。原告は、本件事故発生の昭和三九年一〇月二六日より同四一年八月三一日まで診療を余儀なくされこれに要した費用。

(2)  原告の得べかりし利益合計金二、七八〇、三九〇円。

(イ) 原告は、東京都町田市にある訴外鈴木木材店に勤務し、月平均金三五、〇〇〇円の収入を得ていた。

(ロ) 原告は、本件事故の被害により昭和三九年一一月より同四二年二月まで勤務不能となり、この期間金九八〇、〇〇〇円の得べかりし利益を失つた。

(ハ) 原告は、訴外鈴木木材店において、現場監督並びに倉庫管理の仕事に従事し、その仕事の内容は、主として肉体労働であつた。ところが本件事故の被害により、後遺症が生じ、右肩附近の神経が麻痺し、右手は、かろうじて、前方に腰の高さまで上られる程度で、後方には全く動かない。従つて、原告は肉体労働に従事できなくなり、原告の労働力は五〇パーセント減少した。

(ニ) 原告は、大正七年一月二六日生れで、昭和四二年二月末日現在満四九年余であるから、その就労可能年数は少くとも以後一一年と認められる。

(ホ) 原告の将来得べかりし利益の総額は、年間収入金二一〇、〇〇〇円で一一年間の合計は、金二、三一〇、〇〇〇円となる。これをホフマン式計算法により、一年毎に年五分の割合の中間利息を控除して、本件車故発生当時における一時払額に換算すると金一、八〇〇、三九〇円となる。

(二)  精神的損害 金三〇〇、〇〇〇円。

原告は、本件事故により、町田市の新倉病院に収容されたが、事故当時は、生命の危険をともない、受傷後三日間は意識不明の状態にあつた。そしてその後一ケ月は激痛に苦しみ、二年間に及ぶ診療を余儀なくされ、その上、前記の後遺症が発生している。

原告は、事故前には、前記鈴木木材店に勤務するかたわら自家の農業の手伝もしていたが、本件事故により臨時人夫の雇用を余儀なくされ、年間約金三〇、〇〇〇円の支出をしている。

これらの事情を斟酌すれば、原告の精神的苦痛に対する損害は、金三〇〇、〇〇〇円が相当である。

六、原告は本件事故につき、保険金として金一〇〇、〇〇〇円を受領し、被告会社より入院治療費として金二五一、〇〇〇円を受取つた。よつて、原告は、本件事故による損害合計金三、五八五、九六六円からこれらを差引き金三、二三四、九六六円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四二年三月一八日から完済に至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴請求に及んだ。

〔証拠関係略〕

被告富樫は、答弁として次のとおり述べた。

原告主張の請求原因事実中、一ないし三の事実、四の事実中「被告富樫が被告会社の業務を遂行中本件事故を惹起した」との点を除きその余の事実はこれを認める。五の事実中、原告が本件事故発生の昭和三九年一〇月二六日より同四一年八月三一日まで診療を余儀なくされた事実は認めるも、その余の事実はすべて争う。

被告富樫は、被告会社の勤務時間外において、私用のため被告車を運転して、本件事故を惹起したものである。すなわち、被告富樫は、被告会社本社に勤務する女子事務員二名を、被告会社橋本給油所から、東京都内所在の同人らの自宅に送り届けるため、同人らを被告車に同乗させ、これを運転中、事故を惹起したものである。

被告会社は、答弁として次のとおり述べた。

原告主張の請求原因事実中、一の事実、二の事実中原告が本件交通事故により傷害を負つた(部位、程度を除く)事実、四の事実中、被告富樫が被告会社の被用者である事実はこれを認めるが、その余の事実はすべて争う。

被告車は、被告会社が所有するものではなく、その取引先の訴外日東製作所の所有に属する。被告会社は、訴外日東製作所に対し石油の売掛代金債権を有していたところ、訴外日東製作所が倒産したため、被告車を預り保管していたものである。

被告富樫は、被告車を、勤務時間外において私用のため運転し、本件事故を惹起したものである。

理由

一、昭和三九年一〇月二六日午後九時一五分頃東京都町田市大蔵町一九〇番地附近路上において、被告富樫の運転する被告会社占有の被告車と原告運転の第一種原動機付自転車とが接触し、原告が路上に転倒し、傷害(部位程度を除く)を受けたことは当事者間に争いがない。

二、〔証拠略〕によると、原告は右交通事故によつて、全治六ケ月を要する後頭部挫創、右上腕骨骨折などの傷害を負い、現在でもなお、右上腕骨骨髄炎後遺症、右肩関節回旋外転制限(外側に回らない)、右肘関節屈曲制限(約八〇度位しか上らない)を残していることが認められる。

三、被告富樫は、原告の請求原因三の事実を認めるのであるから、本件交通事故につき、過失による不法行為者として、民法第七〇九条により、原告の蒙つた損害を賠償しなければならない。

四、次に、被告会社が、自賠法第三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するかどうかについて考える。〔証拠略〕によると、被告会社は、本件事故の発生する三~四ケ月以前から被告車を、訴外日東製作所から石油売掛代金の担保として預り、これを自己の車と同様、石油の配達に利用していたこと、本件事故の当日、被告会社の本社から女の事務員が二人、橋本給油所に、同所に働く職員のため給料を届けに来たこと、被告富樫が、勤務時間終了後、被告会社には無断で、右女子事務員二人を東京都内所在の同人らの自宅に送り届けるため、被告車に同乗させこれを運転中本件事故が起つたことが認められる。

そうすると、被告会社は被告車の所有者ではないけれども、担保という権利によつてこれが占有を取得し、自己の車と同様石油の配達に利用していたのであるから、これが保有者であること明らかである。

被告富樫が被告会社の被用者であることは当事者間に争いがない。しかして、被告富樫は、前記認定のとおり女の事務員をその自宅に送り届ける目的で被告車を運転したものであるから、それが被告会社に無断で、私用の目的で、勤務時間外になされたとしても、被告車はなお被告会社の運行支配の下にあつたものと解するのが相当である。従つて、被告会社は「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当する。

被告会社は、又、自賠法第三条所定の免責事由を主張立証しないから、同条により原告の蒙つた損害を賠償しなければならない。

五、賠償の数額

(一)  財産的損害

(1)  診療費 〔証拠略〕によると、合計金五〇五、五七六円支出したことが認められる。

(2)  原告の得べかりし利益 〔証拠略〕によると、(イ)原告は一ケ月金三五、〇〇〇円の収入を得ていたこと、(ロ)原告は昭和三九年一一月より同四二年二月まで勤務不能となつたこと、(ハ)原告は、訴外鈴木木材店において、現場監督と木材を出し入れする倉庫管理の仕事に従事していたこと、(ニ)原告の就労可能年数は、昭和四二年二月以降一一年間と認められること等の事実を認めることができる。

右認定の(イ)(ロ)から、昭和三九年一一月より同四二年二月迄の原告の得べかりし利益は、金九八〇、〇〇〇円であること計数上明らかである。

原告は、(ハ)で認定したとおり、主として肉体労働に従事して来たものであるから、前記二で認定した後遺症により、その五〇パーセントの労働能力を喪失したものと解される。従つて、原告の年間収入の喪失額を金二一〇、〇〇〇円、一一年間の逸失利益の現価を、年毎に五分の中間利益を控除するホフマン式計算により算出すると、金一、八〇三、九二三円となる。そうすると、原告の得べかりし利益の総額は金二、七八三、九二三円となるが、原告は控え目な計算方法により金二、七八〇、三九〇円と主張しているから、これは、もとより、相当な額として計上されるべきである。

(二)  精神的損害

前項各証拠により認定された傷害の程度、後遺症、事故発生の状況などを併せ考えると、慰藉料の額は金三〇〇、〇〇〇円を相当とする。

(三)  原告は本件事故につき、保険金として金一〇〇、〇〇〇円、被告会社より入院治療費として金二五一、〇〇〇円を受取つているので、これを損害金額に充当すると、損害金額は合計金三、二三四、九六六円となる。

六、そうだとすると、その余の点を判断するまでもなく、被告らは、各自、原告に対し金三、二三四、九六六円及び本件訴状、送達の翌日である昭和四二年三月一八日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をする義務がある。よつて、原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を夫々適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石藤太郎)

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