横浜地方裁判所 昭和44年(ワ)1072号 判決
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〔判決理由〕<証拠>によると次のことがらを認定することができる。
(一) 被告は、昭和四二年一〇月七日自動車運転免許証の交付を受けたばかりで、本件ドライブ(後述)が初めてのドライブであつたこと。
(二) 被告は、本件交通事故現場には小学校時代に修学旅行で一度来た程度であり、附近の道路が右にカーブし、かつ、下り坂になつていることは勿論、その他道路の状況は全く知らなかつた。
(三) 被告は、本件自動車を運転して時速五〇粁で走つていたところ前車である大型バスに追いついた。訴外恒子が前車の排気ガスが臭いというので、相談の上これを追い越そうということになつた。そこで、被告は時速約七〇粁に増速し、これを追い越し前方に出たとき、道路が右にカーブし、かつ、下り坂になつていることを発見した。そして、本件自動車の速度がなおも増速しつつづけるように感じたので、少しブレーキをかけたが一向に減速しない。そこで、更にブレーキを強くかけたところ、ハンドルを右にとられ、道路右側に寄りはじめた。丁度そのとき反対方向から小型トラックが進行して来たので、これとの衝突を避けるため、急にハンドルを左に切つたところ、本件自動車は左に向きをかえて、そのまま路肩から窪地に突込み、仰向けに転落し、助手席に同乗していた訴外恒子の頭部を偶々その場所にあつた尖端鋭利な石塊に激突させ、よつて頭蓋骨折により即死(即死の点は争いがない)させた。
過失相殺
(一) <証拠>によると次のことが認められる。
(1) 訴外恒子は、東京大学生産研究所久保田教室の助手として勤務(この点は当事者間に争いがない。)し、被告は同教室の大学院学生で日頃訴外恒子を尊敬していた。
そして、訴外恒子と被告とは、学問上の問題にかぎらず人生問題に関しても、お互いにいろいろ相談し、姉弟のような親しい間柄であつた。
(2) 訴外恒子は、すでに自動車運転免許証をもつていたが、一人で遠方にドライブするのは心細いので、二人でドライブするため、被告に自動車運転免許証を取得するよう勧めた。
(3) 昭和四二年一〇月初旬、金沢で応用物理学会が開催され、訴外恒子がこれに出席することになつていた。そこで、訴外恒子と被告は、この機会に日光にドライブすることとし、被告は自動車運転免許を取得するため同年七月頃から自動車教習所に通いはじめた。
(4) その後、訴外恒子は被告に再三電話し、日光のドライブに間に合うよう自動車運転免許の取得をいそがせ、陸運局の試験も受けるよう指示した。
(5) 被告は、前記のとおり、自動車運転免許証を取得すると直ちに本件自動車でドライブに出発し、その日の夕方高崎市で訴外恒子と逢い、翌日からは二人で交替で運転した。そして、本件交通事故発生の当日、戦場ケ原を過ぎた頃、訴外恒子が被告に運転の交替をすすめ、被告が運転することとなつた。
(二) 右認定のとおり、(1)訴外恒子と被告との間柄、(2)訴外恒子が被告に自動車運転免許を取得することを勧めた事情、(3)被告が自動車運転免許証の交付を受けたばかりで、運転技術が未熟であることを充分に承知の上本件自動車でドライブしたこと、認定したとおり、訴外恒子が前車の排気ガスが臭いといつて、これを追抜くことを提案し、これが本件交通事故の端緒となつた事情等からみると、原告に生じた損害の全部を被告に負担させることは衡平を失するものと言うべきである。
よつて、過失相殺を準用し、原告の損害賠償請求権金六、九八二、二二九円から三〇パーセント減額した金四、八八七、五六〇円(円以下切捨)を以て被告の負担額とする。(石藤太郎)