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横浜地方裁判所 昭和44年(ワ)1546号 判決 1973年6月29日

原告

甲野太郎

右訴訟代理人

崎信太郎

被告

乙野次郎

右訴訟代理人

畑山穣

ほか一名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金一二〇万円およびこれに対する昭和四四年九月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告

主文同旨の判決。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和三六年六月一四日甲野花子(以下「花子」という。)と婚姻し、その間に長女里子をもうけていた。

2  その後、原告の病気や事業の停滞等があつたので、花子は家計を助けるため、昭和四三年一〇月ころからキャバレーに勤めていたが、昭和四四年三月から勤めの関係上、原告の承諾を得て勤務先の近くに別居していた。

3  ところが、被告は昭和四三年一一月ころから、顧客として花子に言い寄り、同女に夫と子供のあることを知りながら肉体関係を結ぶに至り、原告がその現場を押えた昭和四四年四月二二日まで右情交関係を続けていた。

4  そのため、花子の夫である原告は、夫権を侵害されて精神的損害を蒙つたが、右損害に対する慰謝料は金一〇〇万円が相当である。また、原告は被告の前記不法行為により、仕事を休まざるを得なくなり、金一五万円の得べかりし利益を失つて同額の損害を蒙り、さらに被告に対して本訴訟を提起するにあたり、原告代理人弁護士に対し、着手金として金五万円を支払つた。

5  よつて、原告は被告に対し、不法行為にもとづく損害賠償金として合計金一二〇万円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和四四年九月七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の答弁

1  請求原因1項の事実は不知。

2  同2項のうち、花子がキャバレーに勤務していたことは認めるが、その余の事実は不知。

3  同3項のうち、被告と花子間に情交関係があつたこと、その主張日時に右両名が同室していたところに原告が闖入したことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同4項の事実は争う。

第三  証拠<略>

理由

一<証拠>によると、花子は昭和三五年春ころ川崎市内の食堂店に勤めていたとき原告と知り合い、同年四月同店を退職すると同時に原告と同棲することとなつたが、翌三六年三月にその間に長女が生れたので、同年六月一四日婚姻届を出したこと、右結婚後間もなく、花子は原告の母の経営するバーに勤め、さらに他のキャバレーにも女給として勤めるようになつたが、昭和四三年七月末ころキャバレー「オリンピック」に勤めている際、同店の客である被告と知り合い情交関係を結ぶようになり、昭和四四年四月二二日早朝、被告と同衾中に原告に発見される事件があるまで右の関係を続けていたことが認められ、さらに<証拠>によると、被告は昭和四三年一〇月ころには、前記のとおり花子に夫と子供のあることを気づいていたものと認められる。

二しかし一方、前掲各証拠を総合すると、花子は、かねてから結婚生活に至るまでの経緯や結婚後原告が定職をもたず生活費を入れないことに対して同人に不満をもつており、とくにその後一五回位妊娠中絶をし、しかもその医療費の大部分を自分で働いて捻出しなければならなかつたことや原告から暴行、脅迫を受けたことなどから、少なくとも昭和四三年七月ころには原告を嫌悪するようになつて、多数の他の男性と情交関係を持つようになり、昭和四四年三月二五日ころからは原告から逃れて別居生活をしていること、また花子は、被告に対し、当初から自己に夫、子供があることを告げたことがなく、同人から金三万円位の借金をしてこれが返済に困つたので、むしろ花子の方から積極的に誘つて情交関係を結んだものであり、しかも花子は被告と情交関係を続けている間も、他の男性と同様の関係をもつていたことを、それぞれ認めることができる(原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できない。)。

三しかして、以上の事実によれば、被告が花子と情交関係を結んだ昭和四三年七月末以降は原告と花子の婚姻関係はすでに他の原因によつて破綻していたものと推認できるので、原告は、花子において貞操を守るべく期待する夫としての権利を、もはや失つたものと解するのが相当であり、たとい被告がその後花子に夫、子供があることを知りながら情交関係を継続したものとしても、前記認定のような事情のもとにおいては、原告に対する不法行為ということはできない。

四そうだとすると、原告の本訴請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(佐藤歳二)

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