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横浜地方裁判所 昭和45年(ワ)153号 判決 1970年11月16日

原告 有限会社三立生コン

右代表者代表取締役 龝山秀男

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 井出雄介

被告 古田繁雄

右訴訟代理人弁護士 平山国弘

同 浅川勝重

同 寺島健造

同 藤沢彰

同 林紀子

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方が求めた裁判

一、原告ら

「被告が訴外横浜信用組合の理事たる地位を有しないことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二、被告

主文同旨の判決。

第二、原告らの主張

一、原告らは訴外横浜信用組合の組合員である。

二、被告は、昭和四四年五月二九日に開催された右組合の通常総代会において、右組合の理事に選任され、今日に至っている。

三、ところが、被告は、右理事就任当時から今日に至るまで、組合の事業と実質的競争関係にあり、かつ、組合員の資格として定款に定められる事業以外のものを行う訴外横浜信用金庫の理事でもあるから、中小企業等協同組合法三七条二項の規定に違反する。

四、同法三七条二項の規定の趣旨は、組合の理事に対し、単に競業避止義務を課したにとどまるものではなく、その就任資格を制限したものと解すべきであり、従って右規定に違反した場合には、外形上組合の理事に選任されても理事たり得ないものである。

ちなみに、最高裁判所昭和三二年(オ)第三八四号同年一二月三日第三小法廷判決は、地方自治法一四二条(昭和三一年法第一四七号による改正前のもの)の解釈として、就任資格を制限したものと判示している。

よって原告らは、被告が訴外横浜信用組合の理事たる地位を有しないことの確認を求める。

第三、被告の答弁および主張

一、原告ら主張の請求原因事実のうち、第一、二、三項の各事実は認める。

二、同第四項の主張は争う。

即ち、中小企業等協同組合法三七条二項は、組合の理事に対し、実質的競業避止義務を、組合事業発展の見地から、理事一般の職務忠実義務の一環として、特に象徴的に規定したものであって、理事の能力制限、資格剥奪に関するものではない(農業協同組合法四二条の二に関する最高裁判所昭和四四年二月二八日第二小法廷判決、最高裁判例集二号五四七頁参照)。

理由

一、請求原因第一、二、三項の各事実は当事者間に争いがない。

二、原告らは、横浜信用組合と実質的競争関係にある横浜信用金庫の理事である被告が、信用組合の理事に選任されたとしても、右は中小企業等協同組合法三七条二項に違反し、信用組合の理事に就任し得ないと主張するのでこの点について判断する。なるほど、同条の文理だけを見れば、原告ら主張のように解する余地もないではないが、他方、同法三五条四項は組合の役員の資格に関し、「理事の定数の少くとも三分の二は組合員又は組合員たる法人の役員でなければならない」と規定して、組合員又は組合員たる法人の役員でないものが理事になり得るか否か(いわゆる員外理事を認め得るか否か)の観点からのみ問題にしているに過ぎないこと、同法三六条の二、同条の三は理事会について規定し、同法三八条、三八条の二は理事の権限の制限ないし責任について規定していることなど、同法の体系からみると、同法三七条は同法三八条、三八条の二とともに理事の権限の制限、義務、責任という観点から定められた規定であると解するのが自然であること、同法三七条二項の規定に違反した場合には同法一一五条七項により罰則の適用を受けるが、それはとりも直さず右三七条二項が禁止規定であって就任資格を制限したものでないことが窺われること、仮りに、同法三七条二項に違反した場合には直ちに理事の資格を喪失するものと解すると、理事たるものの地位が不安定となり、理事と当該組合および組合員との法律関係を紛糾させることになること、同条項に違反して理事が選任されても、組合員は同法四一条二項但書により当該理事に対し改選の請求をすることが認められているから、組合員の救済の途は十分保障されていること、同法四二条は理事の地位につき商法二五四条三項、二五四条の二を各準用し、理事と当該組合とは委任関係にたち、理事は組合に対し忠実に職務を遂行する義務を負う旨明らかにしていることなどを総合して考えると、結局、中小企業等協同組合法三七条二項の規定は、理事の組合に対する忠実義務の具体的顕現として、理事に対し、競業避止の不作為義務を課したにすぎないものと解するのが相当であり、(原告が引用する地方自治法一四二条に関する最高裁判所の判決は、地方公共団体の長の公正なる職務の執行を保障するためのものであって、本件とは事案を異にするから、採用できない。)従って、同条が理事の就任資格を制限した規定であることを前提とする原告らの主張は失当というべきである。

よって、原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石橋三二 裁判官 武内大佳 増山宏)

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