横浜地方裁判所 昭和45年(行ウ)1号 判決 1971年10月25日
横浜市戸塚区吉田町八三番地
原告
小倉一二
右訴訟代理人弁護士
布留川輝夫
同
松原正実
右訴訟復代理人弁護士
堺紀文
横浜市保土ケ谷区帷子町二丁目六〇番地
被告
保土ケ谷税務署長
(処分時)
野田毅
(口頭弁護終結時)
磯野精一
右指定代理人
野崎悦宏
同
中村勲
同
高林進
同
大沢秀行
同
帯谷政治
同
鈴木勇
同
小宮龍雄
同
新庄馨
右当事者間の昭和四五年(行ウ)第一号所得税課税処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の訴は、被告が原告の総所得額を金九六八万一、八六七円と更正した処分のうち、金六三四万七、五五一円を超える部分の取消を求める部分はこれを却下する。
原告のその余の請求部分を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
原告訴訟代理人は、「被告が昭和四三年一月一六日付でなした原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を金九六八万一、八六七円と更正した処分のうち、金二四一万二、四〇〇円を超える部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、
被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。
第二当事者の主張
一、原告訴訟代理人は、請求原因として次のように述べた。
原告は不動産売買の仲介斡旋を業とする者であるが、その昭和四〇年度における総所得金額は金二四一万二、四〇〇円として、昭和四一年三月一五日被告に対し確定申告書を提出した。ところが同被告は、昭和四三年一月一六日、原告の右総所得金額を金九六八万一、八六七円とする旨の更正決定をしたので、原告は同年二月一六日被告に対し右更正決定に対する異議の申立をしたが、同被告は同年五月八日右申立を理由ないものとして棄却する旨決定した。そこで原告は同年六月七日右決定につき東京国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は昭和四四年一〇月一日この内一部を取消し同金額を金六三四万七、五五一円とする旨決定し、その通知は同月一〇日ごろ原告方に到達した。しかしながら、原告の昭和四〇年度の所得金額は金二四一万二、四〇〇円であつて、被告の右更正決定は過大失当である。よつて原告は被告に対し、右更正決定中、金二四一万二、四〇〇円を超える部分の取消を求める。
二、被告指定代理人は、請求原因に対して次のように述べた。
原告請求原因中原告主張の総所得金額は否認するが、その余の事実は認める。
原告に対する課税処分の経緯は次のとおりである。
(一) 原告の昭和四〇年度の総所得は、事業所得金六一九万二、九一一円と給与所得金一五万四、六四〇円との合計金六三四万七、五五一円であつた。
(二) 右事業所得は、(1)収入金額一、三五一万八、八一〇円より(2)不動産取得原価金五六七万〇、〇五〇円、(3)一般経費金一四七万〇、四〇〇円、(4)特別経費金七万二、九四九円および(5)専従者控除額一一万二、五〇〇円を控除して計算したものであり、その各内訳は次のとおりである。
(1) 収入金額一、三五一万八、八一〇円
1 原告所有の横浜市戸塚区長沼町字改正の七、八五四番の一の山林五、四一八平方米(五反四畝一九歩)を昭和四〇年八月二一日訴外矢島福清に当初金一、四七六万円で売却したが、その後両者間に代金授受につき紛糾が生じ、結局代金を改めて金八五〇万円とすることに落着したことによる収入金八五〇万円。
2 代物弁済による収入金額三二〇万円
原告が訴外崔今玉こと崔誠洛(日本名、元山誠一)に右八五四番の一に隣接する同所八五二番の一ないし八五六番の六の埋立、盛土、土止め、抗打ち等の宅地造成工事を請負わせ、その代金三二〇万円の代物弁済として同所八五三番の原告所有地四四六平方米(四畝一四歩)を昭和四〇年八月一日譲渡したものである。
右代物弁済によつて消滅した請負代金債務の金額三二〇万円は、所得税法上の「収入」金額である。
3 仲介手数料収入金一八一万八、八一〇円
その明細は次のとおりである。
受取先 手数料金額
田辺伊三一 金二〇万円
鈴木忠孝 金一〇万円
畠山晴夫 金一万二、〇〇〇円
大和正次 金四万五、〇〇〇円
大和佳助 金四万五、〇〇〇円
林鋼鉄店 金七万二、〇〇〇円
持田みゑ 金一万四、一〇〇円
三井忠夫 金七万円
受取先 手数料金額
佐藤勝一 金一万円
かもめプロペラ (株) 金二二万〇、八〇〇円
藤波プレス工業 (株) 金九一万八、〇一〇円
坂間重一 金六万九、九〇〇円
(株) 日立製作所神奈川工場 金四万二、〇〇〇円
合計 金一八一万八、八一〇円
(2) 不動産取得原価金五六七万〇、〇五〇円
原告は右八五四番の一および八五三番の各山林を訴外中村勘一から昭和三八年八月七日金五〇〇万円にて譲受けたたが、両地は袋地であつたため、昭和三九年一一月七日および同四〇年三月一三日の二回にわたり道路敷地として同訴外人から畑一七八平方米(四畝二四歩)を金四六万〇、六五〇円で取得し、これらに伴ない登記費用金一万〇、五〇〇円、盛地費用金六万円および測量費金一三万八、九〇〇円を支出したから、右各不動産の取得原価はこれらの合計金五六七万〇、〇五〇円となる。
(3) 一般経費金一四七万〇、四〇〇円
1 八五四番の山林を(1)1記帳のとおり売却した際 仲介人株式会社堀内不動産に支払つた仲介手数料金一一五万円。
2 必要経費金三二万〇、四〇〇円
事業税等公租公課金八万〇、四〇〇円および水道料、光熱費等金二四万円の合計。
(4) 特別経費金七万二、九四九円
建物、什器、車輛の減価償却費。
(5) 専従者控除額金一一万二、五〇〇円。
(三) 前記給与所得は、原告が訴外かもめプロペラ株式会社より昭和四〇年中に支払を受けた給料金二二万円より給与所得控除額を控除した金一五万四、六四〇円である。
三、原告訴訟代理人は被告の主張に対し、次のとおり述べた。
被告主張の事実中、(二)(1)2の事実およびそれに関連する数額は否認するが、その余の事実はすべて認める。八五三番の土地は、訴外崔および森松次郎の両名が仲介した八五四番の一の売却((二)(1)1)に関する仲介料支払いに代えて右崔に譲渡したものであつて、実質は手数料であるから、一般経費として控除されるべきである。右土地の昭和四〇年当時の時価は、坪当り四、〇〇〇円、約五〇万円に過ぎず、これを三二〇万円の請負工事代金債務の代物弁済とすることは考えられない。
第三証拠
原告訴訟代理人は、甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一ないし八を提出し、証人崔今玉こと崔誠洛、同福田輝雄、原告本人の各供述を援用し、乙号各証のうち第一、第二号証の成立は不知、第三号証の成立は認める、と述べた。
被告指定代理人は、乙第一ないし第三号証を提出し、甲第三号証のうちの元山清一の住所、氏名、署名部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知、その余の甲号各証の成立はいずれも認める、述べた。
理由
一、請求原因事実および被告の主張事実は、被告主張事実中の(二)(1)2の事実を除き、当事者間に争いがない。
二、そこで被告主張の(二)(1)2の事実につき判断するに、成立に争いない甲第二号証の一、第四号証の一、乙第三号証、証人崔誠洛の証言(後記措信しない部分を除く)およびそれにより真正の成立を認める乙第一、第二号証、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告は昭和三八年八月七日長沼町字改正の七、八五三番および八五四番の一の山林を宅地造成のうえ分譲する目的で訴外中村勘一から買受け、その後の値上りを見計らつた上、宅地造成をまたず、昭和四〇年八月二一日訴外矢島福清に対しそのうち八五四番の一の土地を売却したのであるが、当初の右買受けに際し、将来右両地の分譲許可を得るのに不可欠な両地への道路を設置もしくは拡張するため、訴外崔誠洛に対しその工事を依頼しておいたところ、崔は同年八月ごろ両地の手前に存する沼地の埋立および同埋立地上の道路の設置拡張等の工事に着手し、人夫二、三名とブルドーザー二台を用いて埋立等の工事を同年秋ごろまでに断続的に行ない、これを不完全乍ら完成したので、原告は同年一〇月二七日右工事代金として崔の請求する金三二〇万円の代物弁済として右八五三番の土地所有権を崔に譲渡したことが認められる。
原告は、右土地譲渡は、右八五四番の一の売却の際、これを仲介した崔に対する仲介料の支払いに代えて譲渡した旨主張し、証人崔誠洛の証言によつて成立の認められる甲第三号証、証人崔誠洛、同福田輝雄、原告本人の各供述中に、「謝礼」の文字記載もしくはこれに沿う供述部分が存するが、これらは前掲乙第一、第二号各証並びに弁護の全趣旨に照しにわかに措信し難い。なお、右乙第一号証には、右八五三番の土地の時価が一〇〇万円位である旨の崔の供述記載が存し、証人崔誠洛、原告本人の各供述にはその時価が五〇ないし七〇万円位(坪当り五、〇〇〇円前後)である旨の供述部分が存するが、前記のように八五四番の一の土地五反四畝一九歩の土地の当初の代金は一、四七六万円であるから、坪当りにすると九、〇〇〇円位であり、また前掲甲第四号証の一によれば、右崔は右土地につき売買名義をもつて同年一〇月二七日所有権取得登記をなしたうえ、翌一一月一二日有限会社森商事の森倉信用金庫に対する債務の担保のため元本極度額一五〇万円とする根抵当権の設定をしていることが認められるので、右乙第一号証の記載もしくは各供述部分はそのまゝには信用し難く、前記代物弁済の認定を左右するに足りない。
三、以上のとおりであるから、原告の事業所得の収入金中には、右代物弁済により工事請負代金支払債務が消滅したことによる収入金三二〇万円も含まれるというべきであり、これに当事者間に争いない譲渡収入金八五〇万円、仲介手数料金一八一万八、八一〇円を合計した収入金合計金一、三五一万八、八一〇円より、当事者間に争いない右両地の取得原価金五六七万〇、〇五〇円、一般経費金一四七万〇、四〇〇円、特別経費七万二、九四九円、専従者控除金一一万二、五〇〇円を各差引いた残額金六一九万二、九一一円が原告の事業所得に相当し、これも当事者間に争いない給与所得金一五万四、六四〇円を合計した金六三四万七、五五一円が、原告の昭和四〇年度の総所得額というべきであり、被告の更正処分は、原告の総所得額を右認定の金額とする限度において適法である。
四、然るところ、原告は被告のなした昭和四三年一月六日附の更正処分中金二四一万二、四〇〇円を超える部分の取消を求めているが、同処分中右金六三四万七、五五一円を超える部分が昭和四四年一〇月一日東京国税局長により取消されていることは当事者間に争いないから、右金額を超える金九六八万一、八六七円との差額部分は、その取消を求むるにつき訴の利益がなく、これを却下することとし、その余の請求部分(金六三四万七、五五一円と金二四一万二、四〇〇円との差額部分)は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 立岡安正 裁判官 新田圭一 裁判官 島内乗続)