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横浜地方裁判所 昭和47年(ワ)1381号 判決 1973年10月25日

原告 田口勝男

被告 国

訴訟代理人 寺島陽生 外四名

主文

一  原告の訴をいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は別紙目録記載の土地について大正一一年五月二四日付国庫帰属の登記手続をせよ。

2  被告は原告に対し、別紙目録<省略>記載の土地について昭和四五年一一月一〇日の時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙目録記載の土地(以下本件土地という)は現在不動産登記簿上訴外田口寅次郎(以下亡寅次郎という)の所有名義となっているが、同人は大正九年一月二〇日死亡しており、当時単独戸主であつた同人には家督相続人なく、大正一一年五月二二日付、横浜区裁判所の許可により同月二四日絶家として戸籍が抹消された。

2  本件土地は右絶家と同時に無主物となって旧民法二三九条二項により国庫に帰属した。

3  本件土地は原告の父忠蔵(昭和一五年田口仲次郎死亡により家督相続)が祖父仲次郎と共に家業の農業を営みその死亡に至るまで隣接の自己所有地と共に一括して耕作していた。

4  原告は昭和二五年一一月一〇日父忠蔵の死亡によりその遣産として本件土地に隣接する土地(保土ケ谷区和田町一七〇番地の一外二筆の土地)を相続したが本件土地も父の遺産の一部として右土地と一括して相続したものと信じてこれを占有し、同二六年一一月一日訴外出川正由に対し建物所有の目的で賃貸して現在に至つている。また、本件土地の固定資産税につき昭和一二年以降四七年度までの分は田口寅次郎名義のまま原告方すなわち二五年度までは亡父忠蔵が、二六年度以降は原告が支払つている。

よつて原告の本件土地占有は民法一六二条一項の時効取得の要件をみたしているので原告の占有開始の昭和二五年一一月一〇日より二〇年を経過した同四五年一一月一〇日時効により所有権を取得したものとして請求の趣旨記載のとおりの各登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実及び4項中原告が隣接地を相続したこ一とは認めその余の事実及び3項は不知。

2  同2の事実は否認。

絶家とは戸主の死亡後旧民法一〇五一条以下の規定による手続が尽くされ、家督相続人なきこと、並びに遺留財産が処分され残存財産なきことが、それぞれ確定した家をいうが、本件絶家の手続は亡寅次郎につき遺留財産が存在するにもかかわらずこれを看過してなされたものであり右遺留財産が存在するにも拘らず右絶家手続において相続人曠欠の手続はふまれていないのであるから本件絶家は未確定であり本件土地の所有権はいまだ国庫に帰属していない。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因第1項の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は戸主田口寅次郎の死亡によって、旧民法七四六条により右田口家は絶家となり右絶家の効果により本件土地が無主物となって同法二三九条二項により国庫に帰属した旨主張する。

家とは「戸主を失つた後家に家督相続人なきとき」をいうものであり、家督相続開始当時法定相続人がなくとも指定又は選定により家督相続人となりうる旨がありうる(同法九七九条ないし九八五条)のであるから、右手続に従つて新戸主を定めえなかったときは、更に同法一〇五一条以下のいわゆる相続人曠欠の手続が尽くされ、家督相続人としての権利を主張する者がなきこと、さらに遺留財産が処分され残存財産なきことがそれぞれ確定した場合においてはじめて家督相続人の不存在が確定し、しかもその時において絶家の効力もまた確定すると解すべきである。もつともこの点につき原告は、右趣旨に反する明治三四年一一月一四日大審院第一刑事部判決を引用するが、右判決は旧民法施行前に絶家となつた事案にかかるものであつて本件のように旧民法時における絶家の効力を判断するにつき同一に論ずることはできない。そこでこれを本件についてみるに、前記認定事実によれば亡田口寅次郎の家については横浜区裁判所の許可によつて大正一一年五月二四日絶家として戸籍が抹消されているのが認められるが、<証拠省略>によれば右絶家当時寅次郎には遺留財産(本件土地)が存在した事実が認められ、それによれば、右は同人に遺留財産があるのにこれを看過して職権による絶家手続がなされたこととなるのであり、従つて右のように遺留財産を発見したときは、旧民法下では戸籍訂正の手続により戸籍を復活して改めて前述の旧民法一〇五一条以下の相続人曠欠等の手続を尽して最終的に遺留財産を国庫に帰属させることになるが、戦後家の制度が廃止された新民法施行下において遺留財産の存在を発見したとしても戸籍復許手続を要せず、旧法時に家督相続が開始し、新法施行後に旧法によれば家督相続人を選任しなければならない場合には、その相続に関しては同法附則二五条二項により新法が適用されることになる。そして、亡寅次郎に関しては前述の如く同人死亡後家督相続人なき状態に至り、本件土地が遺留財産として存在したに拘らず、旧民法時代において新戸主の選定及び相続人曠欠の手続がなされたとの点につき何ら証拠がなく、これを認めることができないし、又、前記事情によれば同人の相続については新法下では新法が適用されるものなるところ、<証拠省略>によれば、同人の相続人として田上武治、斉藤マサの両名が存在ししかも右二名共現在その所在、並びに生死分明ならざることが認められるのであるから本件土地に関して原告としては民法二五条ないし三一条の手続を経た上更に同法九五一条以下の手続を尽くしてなお、処分されなかつた場合においてはじめて本件土地が国庫に帰属することになる(同法九五九条)のであるが、本件全証拠によるも原告が右各手続を尽したと認めることはできない。そうであるとすれば、原告は旧民法時から今日に至るまで前記各所定の手続を経ていないのであるから原告の主張する絶家の効力は未確定であり、本件土地の所有権はいまだ国庫に帰属しておらず、結局被告は本件土地に関し何ら権利義務関係を有しないものということになる。

三  よつて、原告の被告に対する本訴請求は本件土地に対し何ら権利関係を有しない被告に対し、国庫帰属の登記並びにそれに基づく原告への移転登記手続を求めるもので被告を誤つた不適法というべきであるからその余の点につき判断するまでもなくこれをいずれも却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中田忠男)

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