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横浜地方裁判所 昭和48年(ワ)308号 判決 1977年5月11日

原告 南風原清

右訴訟代理人弁護士 野島信正

被告 国

右代表者法務大臣 福田一

右指定代理人 押切瞳

<ほか三名>

被告 神奈川県

右代表者知事 長洲一二

右訴訟代理人弁護士 山下卯吉

右指定代理人 矢部満雄

同 保田藤男

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告らは、原告に対し、各自金二〇〇万円およびこれに対する昭和四八年三月二八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

旨の判決ならびに仮執行宣言。

二  被告ら(請求の趣旨に対する答弁)

主文と同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告(請求原因)

1  神奈川県警察本部所属警察官は、横浜地方裁判所裁判官から発付を得た逮捕状(被疑事実は別紙記載のとおり。罪名は、不正競争防止法五条一号違反および詐欺罪。)により昭和四五年二月二八日原告を通常逮捕し、また、横浜地方検察庁検察官は、同日ころ横浜地方裁判所裁判官に対し勾留状(被疑事実および罪名は逮捕状と同一)の発付を請求し、右発付を得たうえ、原告を同年三月九日まで勾留したが、右検察官は、「嫌疑なし」との理由で、同月二三日原告を不起訴処分に付した。

2  ところで、神奈川県警察本部所属警察官および横浜地方検察庁検察官による右逮捕勾留は、以下の理由により、右警察官および検察官の過失によりなされた違法な強制捜査であったことが明らかである。

すなわち

(一) 前記被疑事実は、不正競争防止法五条一号違反および詐欺罪に該当するものではなく、そもそも何ら罪となるべきものではないのであり、これを看過してなされた本件逮捕、勾留は、右警察官および検察官が法律の解釈を誤りなしたものであり、違法である。

けだし、被疑事実中特級の規格証紙を貼布したとされる陸奥東灘は、アルコール度が一六度に近く品質も優良であるところから、東駒酒造株式会社(以下「東駒酒造」という)において特吟用として保存されていたものであり、法令上特級の認定は受けていないものの、実質において特級酒と同一の品質を有するものであった。

それ故、右陸奥東灘に特級の規格証紙を貼布したとしても、品質と表示との間には、何らのそごも生じないものであり、従って不正競争防止法五条一号違反および詐欺罪を構成しないことは明らかである。

(二) (右主張が認められないとしても)

(1) 原告は、前記被疑事実に関し、特級の規格証紙貼布の事実を全く知らず、まして、他数名と右貼布について事前に共謀したこともなかった。

(2) ところが、右警察官は、原告を事前に取り調べることもなく、原告の嫌疑の相当性を裏づける的確な証拠が存在しないにもかかわらず、独断と偏見とにより原告に対する逮捕状を請求し、また、検察官は、原告が、捜査官に対して自分は被疑事実と無関係である旨述べているのにこれを無視し、勾留の理由も必要もないのにあえて勾留状の請求をなし、さらに、原告がアリバイの主張をなしたにもかかわらず、右アリバイについて捜査せず、漫然と勾留期間満了時まで勾留を継続したものであって、本件逮捕、勾留は違法である。

3  原告は、青年時代から革新的政治運動に挺身したものであり、本件当時は消費者運動にたずさわり高潔な人格者であったが、本件逮捕、勾留により、これがマスコミに大きく報道され、あたかも原告自身破廉恥罪に組みするもののごとく宣伝されたため、重大な精神的苦痛を負ったのであり、右精神的苦痛を慰藉するには金二〇〇万円が相当である。

4  よって、原告は、国家賠償法一条一項にもとづき、被告らに対し、各自金二〇〇万円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四八年三月二八日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告国(請原因に対する認否)

1  請求原因第1項は認める。

ただし、原告が勾留されたのは同年三月一〇日までであり、不起訴の理由は「嫌疑不十分」である。

2  同第2項は全て争う。

(一) 勾留請求について

横浜地方検察庁検察官(検事林国男)が、昭和四五年三月一日になした勾留請求は、当該時点における原告に対する嫌疑の程度、事案の性質、捜査の進捗程度から判断すれば、検察官として当然の所為であり、何ら違法ではなく、また、当該検察官が勾留の理由および必要性があると判断したことに過失はない。

(二) 勾留中の捜査について

横浜地方検察庁検察官(主任検事滝沢直人、補助検事石川達紘)としては、原告に対する捜査を早期に完了すべく可能な限りの体制を採っていたが、取り調べを要する者が多数にのぼったこと、原告の供述が重大な点についてあいまいであったこと、関係人の供述と原告の供述が重要な部分でそごしていたこと等の事情により、勾留満了の日に至るまで処分を決し得なかった。

従って、本件捜査にあたった検察官が、勾留期間満了前に原告を釈放しなかったことは、何ら違法ではなく、また、勾留の理由、必要性が依然として存するものと判断したことに過失はない。

3  同第3項は不知ないし争う。

三  被告県(請求原因に対する認否)

1  請求原因第1項は認める。

ただし、原告が勾留されたのは、同年三月一〇日までであり、不起訴の理由は「嫌疑不十分」である。

2  同第2項は全て争う。

神奈川県警察本部所属警察官は、慎重な捜査をなし、その結果原告に詐欺罪等の罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるものと確信し、逃走ならびに証拠隠滅の虞れがあると考え、逮捕状の請求をなしたものであり、右は何ら違法ではなく、また、右判断について当該警察官に過失はない。

なお、勾留請求、勾留状の発布は、国家公務員たる検察官、裁判官のそれぞれの公権力の行使によるものであり、これらの処分の結果につき、地方公共団体である被告県がその責任を負担すべき理由はなく、原告の被告県に対するこの点の請求は失当である。

3  同第3項は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  神奈川県警察本部所属警察官が逮捕状(被疑事実は別紙のとおり。罪名は不正競争防止法五条一号違反および詐欺罪)により昭和四五年二月二八日原告を通常逮捕し、横浜地方検察庁検察官が勾留状(被疑事実および罪名は逮捕状と同一)により原告を勾留したことおよび右検察官が同年三月二三日原告を不起訴処分に付したことは、いずれも当事者間に争いがなく、また、《証拠省略》によれば、原告は同月一〇日まで勾留されたことおよび右不起訴の理由は「嫌疑不十分」であったことが認められる。

二  ところで、原告は、本件逮捕、勾留が違法であると主張し、その理由として、まず、右逮捕、勾留の基礎となった被疑事実はそもそも何ら罪となるべきものでない旨主張する。

しかし、酒税法上特級の認定を受けていない清酒を詰めた容器(本件の場合は陸奥東灘二級酒一・八リットルびん)に、特級の規格証紙を貼布し、清酒特級の表示をなすことは、たとえそれが品質の優良な清酒であっても、不正競争防止法五条一号にいう「商品にその品質、内容につき誤認を生ぜしめる虚偽の表示を為した」場合に該当することが明らかであり、また、右二級酒を特級酒として販売し、代金を受領することが詐欺罪に該当することも明らかである。従って、原告の右主張は失当であるから、同主張を前提とし本件逮捕、勾留を違法とする原告の主張は、この点において理由がない。

三  次に、原告は、本件逮捕、勾留の基礎となった被疑事実について、原告が特級の規格証紙貼布の事実を全く知らず、まして、他数名と右貼布について事前に共謀したこともなく、本件逮捕、勾留が違法である旨主張するので、この点について判断する。

1  ところで、捜査当局が、ある被疑事実について被疑者を逮捕、勾留し、その間被疑者および関係人の取り調べ等の捜査をなし、証拠の収集にあたったにもかかわらず、最終的には、被疑者の嫌疑が全く認められず、あるいは公訴を提起して公判を維持するに足りる証拠の収集ができなかったとの結論に達し、その結果被疑者について公訴の提起を断念して不起訴処分をなしたからといって、直ちに右逮捕、勾留が違法となるわけではない。

しかし、他方、被疑者の逮捕、勾留は、被疑者の身柄拘束等被疑者に重大な不利益をもたらす処分であることを考えれば、右逮捕、勾留が刑事訴訟法に定める手続を適法に経ているからといって、直ちに捜査当局が全ての点において免責されると解することも妥当でない。それ故、事後的に審査した結果、捜査当局として事案の性質上当然なすべき捜査を怠り、あるいは捜査により収集した資料の判断、評価を誤る等捜査当局に社会通念上著しく妥当を欠く事情が存在し、ひいては刑事訴訟法に定める逮捕、勾留の要件が存在しないにもかかわらず逮捕、勾留をなしたと認められる場合には、右逮捕、勾留は、不当であるのみならず違法であるとの評価を受けるに至るものと解すべきである。

2  そこでまず、神奈川県警察本部所属警察官による本件逮捕につき、前記違法事由の存否を検討する。

(一)  《証拠省略》を総合すれば、神奈川県警察本部所属警察官が原告を逮捕するに至った経過につき、以下のとおり認められる。なお、証人永山宗治は、後記(5)の供述部分が取り調べ警察官の誤導によるものである旨供述するけれども、たやすく措信できない。

(1) 横浜市金沢区六浦町三〇四〇番二一号に住む訴外岡部美恵子は、同人が所属する八景自由ヶ丘自治会の斡旋によりいわゆる「直売方式」で昭和四四年暮に買い受けた清酒特級一・八リットルびん入り(銘柄陸奥東灘)について、右びんに貼布されている特級の規格証紙の下に二級酒陸奥東灘であることを示す証紙が貼布されていることを発見し、昭和四五年一月六日金沢警察署にこの旨を届け出た。

(2) そこで、金沢警察署は、神奈川県警察本部保安課の応援を得て捜査に着手し、まず、警察科学捜査研究所、東京国税局に右清酒の分析鑑定を依頼する一方、右清酒の製造元とされる東駒酒造の製造清酒の銘柄およびその級別について、右会社を所轄する白河税務署に照会をなした。その結果、右鑑定により級別の認定はできなかったものの、東駒酒造が製造する「陸奥東灘」の銘柄につき特級酒は存在しないことが判明した。

(3) 右捜査の結果、東駒酒造において、二級酒に特級の規格証紙を貼布し、これを特級酒として販売した嫌疑が濃厚となったため、神奈川県警察本部所属警察官は、不正競争防止法違反等の被疑事実により捜索差押許可状の発付を横浜簡易裁判所裁判官に請求し、右許可状にもとづき昭和四五年二月一九日東駒酒造を捜索し、関連書類および帳簿を押収した。

右押収書類等にもとづき捜査をした結果、訴外岡部の買い受けた清酒一・八リットルびん入り(銘柄陸奥東灘)は、昭和四三年五月二五日東駒酒造でびん詰された二級清酒であることおよび東駒酒造では、昭和四四年一二月に入ると特級酒、一級酒の注文が殺到して品不足となり、二級酒のみが在庫する有様であったため、販売員が特級酒、一級酒を奪い合う状況にあったこと、右押収にかかる「酒類出荷伝票」には、「出荷年月日昭和四四年一二月二二日、東灘特二七五〇本、扱者南風原、移出先自由生協、出庫者永山」と記載されていることが判明した。

そこで、右警察官が、自由生活協同組合を管轄する板橋税務署を通じ、同組合と東駒酒造との取引関係を調査したところ、同組合がさきに売上調査の際板橋税務署に提示した東駒酒造発行の昭和四四年一二月二二日付酒類出荷伝票には、「清酒二級七五〇本、扱者南風原、配達永山」と記載されていることが明らかとなり、さらに、東駒酒造の検査課長である訴外古沢輝夫の供述等により、東駒酒造の横浜方面における販売員は、訴外和田と原告とが担当していることおよび原告は、東京都板橋区内にある自由生活協同組合の理事であるとともに、昭和四四年九月東駒酒造に入社したものであることが判明した。

(4) そこで、神奈川県警察本部所属警察官は、原告が、特級と表示された陸奥東灘を永山から受領し、その際、原告は右清酒が真実は二級酒であることを知っていたものと判断したが、さらに、原告につき裏付捜査をしたところ、前記自治会の会長である訴外竹名慎一から、原告(同人の顔写真により確認)が、東駒酒造の社員として、同社の製造する清酒を自治会の会員に直売するための注文を取りに昭和四四年一二月上旬竹名方を訪問した旨の供述を、昭和四五年二月二四日に得た。

ここにおいて、右警察官は、自由生活協同組合の理事であるとともに東駒酒造の社員でもある原告が、昭和四四年一二月品不足である特級酒の注文に応じ切れないため、東駒酒造の幹部らと意を通じ、二級酒の陸奥東灘を特級酒のように装って販売することを企て、これを実行したものと判断し、昭和四五年二月二七日丙第二ないし第二〇号証を資料として添付した上、横浜地方裁判所裁判官に原告の逮捕状を請求し、同日右逮捕状が発付された。

(5) さらに、右逮捕状請求の日である同月二七日神奈川県警察本部所属警察官が前記古沢および永山を取り調べたところ、右古沢は、東駒酒造の専務である訴外古市滝之助および営業課員鈴木義男に命ぜられ、原告が永山とともに特級の規格証紙を貼布して販売したのに間違いない旨断言し、また、右永山は、同人が右証紙を貼った事実を否定したものの、陸奥東灘七五〇本を東駒酒造から東京都田端駅近くの日通倉庫まで自動車で運搬し、昭和四四年一二月二四日の午後三時か四時ごろ現場にいた原告に右商品を引き渡した旨供述した。

そこで、右警察官は、昭和四五年二月二八日午前九時二〇分右逮捕状を執行し、原告を逮捕した。

(二)  ところで、被疑者を逮捕するについて必要とされる嫌疑(それ自体、合理的、客観的な根拠を有するものでなければならないことは勿論である。)の程度は、有罪判決の事実認定に要求されるほど高度なものである必要はなく、また、公訴提起の際に要求されるものよりなお低いもので足りることについては多言を要しない。

そこで、右を前提として、神奈川県警察本部所属警察官が原告に前記犯罪の嫌疑が存すると判断したことの右逮捕時における相当性につき、これを検討すると、本件事案は、会社組織をその背景とする典型的な会社犯罪であり、それ故、被疑事実の実行行為者の確定のみならず、被疑者とされるものの被疑事実の知情すなわち共謀の有無が重要な捜査対象となる事案であり、しかも、右共謀の有無につき、通常の場合、物証等の直接証拠が存在しないものであることを考慮すれば、前記(一)に認定した経過により、右警察官が、押収にかかる「酒類出荷伝票」および自由生活協同組合から所轄税務署に提示された「酒類出荷伝票」を主たる根拠とし、さらに、訴外古沢、同竹名らの供述をも加味したうえ、自由生活協同組合の理事と東駒酒造の販売員とを兼ねた原告が、正月を控えて品不足の特級酒の需要に応ずるため、東駒酒造の幹部らと共謀の上、二級酒の陸奥東灘を特級酒のように装って販売することを企て、また、東駒酒造から配送された右虚偽の表示による陸奥東灘七五〇本を原告自ら受領してこれを販売したものと判断し、その結果、原告が別紙記載の罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があると認定したことに、社会通念上著しく妥当を欠くものがあったとは言い得ない。

(三)  結局、神奈川県警察本部所属警察官による原告の逮捕については、これを事後的に判断しても、右警察官による捜査の怠慢、捜査資料の判断、評価の誤り等、社会通念上著しく妥当を欠く事情が存在したものとは認め得ないのであり、それ故、原告の本件逮捕が違法であるとの主張は、失当であるといわなければならない。

なお、原告は、本件逮捕が違法である理由の一つとして、右警察官が原告を何ら事前に取り調べることなく逮捕した点をもあげるが、事前に被疑者を取り調べない限り同人の逮捕が法律上許されないとする理由はなく、また、本件犯罪が、前記説示のとおり会社犯罪で、関係人が多数存在し、罪証隠滅のおそれがあると認められたことからすれば、右事由をもって本逮捕が違法となると認めることは到底できない。

3  次に、横浜地方検察庁検察官による本件勾留について、前記1の違法事由の有無を判断する。

(一)  原告は、まず、右検察官による本件勾留請求は、勾留の理由および必要が存在しないのにかかわらずなされたものであり、違法であると主張する。

しかし、右主張のうち、勾留の理由、すなわち原告の犯罪の嫌疑が本件勾留請求当時存在していたことは、前記説示のとおりであり《証拠省略》によれば、検察官林国男が本件勾留請求をなしたのは、原告を逮捕した翌日の昭和四五年三月一日であることが認められ、本件全証拠によるも、右逮捕と勾留請求との間に原告の犯罪の嫌疑を否定すべき特段の新証拠が出現した事実は認められない。)、また、勾留の必要についても、本件事案が前記のとおり典型的な会社犯罪であり、関係人が多数存在していたことを考慮すれば、原告自身につき逃亡のおそれが存したか否かはさておき、罪証隠滅のおそれ、すなわち刑事訴訟法六〇条一項二号にいう「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」は存在していたものと認められる。従って、本件勾留請求が違法であるとする原告の前記主張は、明らかに失当であるといわなければならない。

(二)  次に、原告は、捜査官が原告主張のアリバイについて捜査せず、漫然と勾留期間満了時まで勾留を継続したので本件勾留は違法であると主張する。

(1) たしかに、被疑者勾留の段階において、被疑者ないし関係人が一義的に明白なアリバイを主張し、仮に右アリバイについて捜査当局が捜査をなしたならば直ちに被疑者の嫌疑が氷解したであろうと事後的に判断できるにもかかわらず、捜査当局があえて右アリバイの主張を無視し、勾留を継続したような場合には、アリバイの主張について捜査をなすに必要と認められる期間後の勾留は、違法とされることもあり得ると解すべきであろう。

(2) ところで、《証拠省略》によれば、原告は、昭和四五年三月二日以降警察官の取り調べに対し、本件陸奥東灘七五〇本が日通田端支店の倉庫に到着したのは昭和四四年一二月二三日であるが、同日自分は千葉県松戸市方面へ配送に行っており、訴外永山とは会っていない。」旨供述していることおよび右供述内容の裏付捜査はなされなかったことが認められる。

これに対し、訴外永山は、前記2(一)(5)で認定したとおり、右商品を同月二四日の午後三時か四時ごろ前記倉庫付近で直接原告に引き渡した旨供述しており、また、《証拠省略》によれば、原告方でアルバイトとして清酒の配送に従事していた秋元直人は、昭和四五年三月四日警察官の取り調べに対し、永山の右供述と同旨(ただし、商品が到着したのは昭和四四年一二月二三日ごろの朝と供述)および原告が、商品受領後秋元の質問に対し、「陸奥東灘に特級の申請が下りたのかな。」と述べた旨供述していることが認められる(なお、《証拠省略》によれば、秋元は、右取調の翌日警察官に対し、前記供述中原告に関する部分をすべて否定する旨供述していることが認められる。)。

従って、原告が自ら前記商品を受領したか否かは、本件捜査において重要な意味を有していたものと言い得るけれども、本件被疑事実の要旨は、「原告は、他数名と共謀の上、二級清酒の容器に特級の規格証紙を貼布し、これを販売した。」というものであり、原告が右商品を直接永山から受領していないからと言って、直ちに、原告に対する嫌疑がなくなるというものではない。また、前記のとおり、右商品が日通田端支店の倉庫に到着した日は、原告の警察官に対する供述によれば昭和四四年一二月二三日であるが、永山および秋元の供述によれば、同月二四日の夕方とも同月二三日の朝ともいうのであり、《証拠省略》によれば、原告は、昭和四五年三月七日に行なわれた検察官の取り調べに対し、「商品到着の日が昭和四四年一二月二三日ならば自分は千葉へ出張して不在だったし、翌日ならば立ち会っていたかも知れないが永山と会った記憶がない。」と供述するに至ったことが認められるから、右商品の到着日を同月二三日とは確定し得ない状況にあったものと言える。

したがって、原告がアリバイとして主張する前記事実は、右主張がなされた当時においては、本件被疑事実の的確なアリバイとなるものとは言い得なかったのであるから、捜査官が、右アリバイの主張事実につき捜査しなかったことをもって、勾留継続が違法になるということはできない。

(三)  結局、横浜地方検察庁検察官による本件勾留は、その請求時においては無論のこと、勾留期間満了時まですべて適法になされたというべきであり、それ故、本件勾留が違法であるとの原告の主張は、失当に帰する。

四  以上説示によれば、原告の本訴請求は、その余について判断するまでもなく、理由がないことが明らかであるので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸清七 裁判官吉岡浩は転補につき、裁判官松崎勝は退官につき、各署名押印することができない。裁判長裁判官 宍戸清七)

<以下省略>

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