大判例

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横浜地方裁判所 昭和48年(ワ)864号 判決

第一 当事者

一、原告ら

山田実

外一名

原告ら訴訟代理人

平沼高明

外二名

二、被告

遠藤信之

訴訟代理人

高山尚之

第二 主文

一  被告は原告らに対しそれぞれ一二二万五五一三円およびこれに対する昭和四七年八月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

第三 事実

一、請求の趣旨

1  被告は原告らに対しそれぞれ六四〇万四四一四円およびこれに対する昭和四七年八月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用被告負担。

3  仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

1  請求棄却。

2  訴訟費用原告ら負担。

三、請求原因

1  事故の発生

昭和四七年八月七日午前一〇時三〇分ころ当時満二才であつた原告らの長男(亡)山田剛(以下「(亡)剛」という)は、横浜市戸塚区汲沢町一五三二番地の土地(以下「本件土地」という)にある井戸(以下「本件井戸」という)に誤つて落ちたことにより溺死した(以下「本件事故」という)。

2  被告の責任

本件事故当時、本件井戸は、縁が低くなつていたのにその開口部に蓋がなく、またその周囲に柵もなかつたため、付近の幼児がここに近付いて転落する危険が多分にあつたもので、これは土地の工作物である右井戸の設置・保存に瑕疵があつたというべきである。

被告は、本件井戸を占有かつ所有するものであるから、本件事故による損害を賠償すべき責任がある。<以下事実省略>

第四 理由

一事故の発生

本件事故発生に関する事実のうち、原告ら主張の日時に当時満二才の原告らの長男(亡)剛が死亡したことは当事者間に争いがなく、また同人が本件井戸に誤つて転落し、その結果溺死したものであることは、<証拠>によつてこれを認めることができる。

二被告の責任

1  本件事故当時、被告が本件井戸を占有していたことは当事者間に争いがないが、被告がこれを所有していたとの点については、これを認めるに足る証拠はない。

2  そこで本件事故当時における本件井戸の設置・保存の状況についてみるに、(1)<証拠略>によると、本件井戸は直径0.75メートルの円筒形で、縁の高さは0.2ないし0.4メートル、水面までの深さは八ないし九メートル、水深は約3.5メートルのものであつて、本件事故当時その周囲の地面は傾斜して滑るおそれがあつたうえ、草が繁茂してその存在が識別し難い状況にあり、しかもその開口部に蓋がなかつたことが認められ、この認定を左右する証拠はない。ところで、(2)<証拠略>によると、本件土地は、別紙図面表示のとおり、その南側約半分が畑地に、残りの北側約半分が被告の居住建物の敷地になつており、右敷地を、同図面表示のとおり、さらに通路部分、外庭部分、内庭部分および建物部分に区分してみると、本件井戸は右内庭部分の北西隅に所在するところ、本件土地の周囲をはじめ同図面表示の朱線部分には、被告主張のとおり、生垣や針金等による囲繞設備があり、また右通路、外庭および内庭各部分の出入口には、順次門扉、外木戸および内木戸の門戸設備があつて、通常の方法で外部から右井戸に到るにはこれらの門戸を通るほかはない(なお右敷地内の建物東側は、障害物があつて通り抜けできない)ことがそれぞれ認められ、これらの認定に反する証拠はない。しかして、(3)<証拠略>によると、(亡)剛は、母親である原告加代子が暫時自宅を空けた際、これを追つてその姿を探し求めるうちに、被告の家人がすべて外出して不在中の本件土地に迷い込んだすえ、単身右の門戸を通つて本件井戸に近付き、本件事故に遇つたものと推認され、この推認を覆えすに足りる証拠はないので、当時右の門戸について、少なくとも満二才前後の幼児の独力による立入りを阻止するに足る程度の施錠や掛金はされていなかつたとみるほかはない。

右により考察するならば、本件土地の周囲等にはかなり確実な囲繞設備が備わつていて外観からそこが一般の立入りを禁じた私有地であることが明らかとなつており、また本件井戸はそのかなり奥まつたところに所在し、そこに到るまでの三箇所に門戸設備があるから、このような場所に無用の者が立入ることが通常の事態でないことはいうまでもないが、しかし他面、本件井戸それ自体はかなり高度の危険性を有する工作物であるといわざるを得ないし、また前記のごとき私有地であつても、主体が幼児などの場合はその立入りの可能性を全く否定することもできないというべきであるところ、事故当時右井戸の開口部に蓋がなく、そこに到る三箇所の門戸にも幼児の立入りを防ぐに足る施錠・掛金がされていなかつたことからすると、前記囲繞設備や門戸設備の存在のみをもつて事故に対する防禦措置として十分なものとはいい難く、したがつて右井戸の設置・保存に瑕疵のあつたことは否定できない。

3  なお被告は抗弁として、事故当日の早朝、被告は右の井戸開口部の蓋や門戸の施錠・掛金など、立入りや転落を防止する措置を講じ、あるいはその措置が講ぜられていることの点検・確認をした旨を主張<するが><証拠判断略>、しかし事故当時これらの措置が講ぜられていなかつたかまたはそれが不十分であつたことは右に認定したとおりであり、またその間において何人かが右の井戸や門戸に対し変更を加えたことを窺わせるような証拠も見出し得ないので、右被告の供述をにわかに措信することはできないし、ほかに右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

4  したがつて被告は、土地の工作物である本件井戸の占有者として、その設置・保存上の瑕疵による本件事故の損害を賠償すべき責任がある。

三過失相殺

原告らが、本件事故発生の危険を具体的に予見しまたは予見し得べきであつたことを認めるに足る証拠はないが、前項認定のとおり、原告加代子が暫時とはいえ当時満二才にすぎない(亡)剛を残して外出したことはその監督上の落度と目すべきものであり、またこれに起因して(亡)剛が他人の無断立入りを予想していない本件土地に入り込んだことも、同人に事理弁別能力がないとみられるだけに、これを原告らの過失相殺事由として斟酌するのが公平の理念に適するというべきであつて、これらを併せ考えると、原告らの監督上の過失はかなり重大であると評価せざるを従ず、いずれも七割五分の過失割合によつて過失相殺をするのが相当である。

四損害

1  原告らの相続した(亡)剛の逸失利益各五三万八〇一三円

(1)  (亡)剛が本件事故当時満二才の男児であつたことは前記のとおりであり、また同人が健康に生育しつつあつたことは成立に争いのない<証拠略>によつて認めることができる。そうすると同人の逸失利益は、稼働可能年数を満一八才から満六七才まで、その間の収入を男子労働者の平均給与と推計される年一三四万六六〇〇円(賃銀センサス昭年四七年第一巻第一表による)、生活費控除率を五割、なお同人が満一八才に達するまでの養育費を逸失利益から控除するのが実質損害算定に資すると解されるから、これを年一二万円とそれぞれ推定のうえ、中間利息の控除につきライプニツツ式を採用して算定するを相当とするので、以上により計算すると、その現価は、次のとおり430万4109.2円となる。

1,346,600(収入金額)×(1−0.5)(生活費控除)

×(19.161−10.837)(ライプニツツ係数)−120,000(養育費)

×10.837(ライプニツツ係数)=4,304,109.2(逸失利益)

(2)  なお前記原告らの監督上の過失は、いわゆる被害者側の過失として、右逸失利益の額を定めるについても当然斟酌すべきであるから、これにつき前記七割五分の過失相殺をすると被告の責任額は107万6027.3円となる。

(3)  原告らは、前記のとおり(亡)剛の両親であるから、法定相続分に従いそれぞれ右逸失利益(被告の責任額)の二分の一にあたる頭書金額(円未満切捨)を相続したことになる。

2  原告ら支出の葬儀費用各三万七五〇〇円

原告らが、(亡)剛の葬儀のためそれぞれ一五万円程度の費用を要したであろうことは当裁判所に顕著であり、また右程度の葬儀費用は本件事故と相当因果関係のある損害と評価できるので、これらについて前記七割五分の過失相殺をすると、被告の責任額は、原告らそれぞれについて頭書金額となる。

3  原告らの慰藉料各六五万円

<証拠略>によれば、亡剛の不慮の死により原告らの受けた精神的苦痛ははかり知れないものと認められるが、前記原告らの過失および本件事故の態様等を考慮すると、その慰藉料は、原告らそれぞれについて頭書金額が相当である。

五結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、それぞれ被告に対し、損害賠償として、右損害の合計一二二万五五一三円とこれに対する事故の日である昭和四七年八月七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、原告ら勝訴部分の仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(藤井一男)

(図面省略)

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