横浜地方裁判所 昭和51年(ヨ)195号 決定
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【判旨】
一被申請人が、スチール家具の製造、販売を主たる営業目的とする株式会社であること、申請人が昭和三八年三月二一日被申請人に雇われ、昭和五〇年一月からは山形営業所の営業第一係長の地位にあつたこと、被申請人が申請人に対し昭和五一年一月七日付で本件解雇の意思表示をなしたこと、被申請人の賃金支払方法は毎月二〇日締めで二八日支払いの定めになつていたところ、本件解雇直前に申請人が被申請人から支給を受けていた賃金は一か月あたり金一四万九、九四〇円であつたことはいずれも当事者間に争いがない。
二そこで、本件解雇の効力について検討する。
1 <省略>
2 よつて、進んで、右1の事実に基づいて本件解雇の当否について考究する。
被申請人の経理規程第二二条第三項には「収入した金銭は遅滞なく指定した銀行に預託しなければならない。」旨規定されているところ、申請人が高橋所長の直接下請業者に支払うとの言を信じて本件小切手を現金化したうえ、これを同所長に手渡したことは本件小切手を直ちに指定銀行に預託しなかつたという点において、形式的には右経理規程に違反しているものといいうる。
しかし、わずか所員数名という山形営業所の所長と係長という立場にある高橋と申請人との地位、関係、さらには申請人においては高橋の現金化した金員を同営業所のために使用するという弁明を信じたことなどの事実に徴すれば、当時申請人が置かれた状況下においては、申請人の右行為もそれなりに無理からぬところがあり、したがつてこれを形式的な経理規程違反の故をもつて問責するのは、余りにも申請人に対し酷に失するところがあるものというべきであろう。
ところで、被申請人は申請人が懲戒解雇事由たる就業規則第九五条第二項第一九号の「会社の諸規則に違反し、会社に重大な損害を与えたとき。」または同項第六号の「職務上の地位を利用して、不正な手段により、自己又は他人の利益をはかつたとき。」に該当するという。
しかし、申請人の小切手の現金化等の行為それ自体は上述のとおりそれ程非難し難いところであるから、申請人に対して右のような条項に該当するとして懲戒処分をもつて臨み得るためには、右条項の文言およびそれが懲戒解雇事由であるという趣旨に鑑みるとき、少なくとも申請人において右行為当時、右現金化される金員が高橋所長によつて個人的に取消され、その結果被申請人が損害を受けるかもしれないとの認識を有していたことが要件にされるものと解すべきところ、申請人にはこの点の認識を有せず、かえつて被申請人のために費消されるものと信じて小切手の現金化等の行為をなしたものと認められるから、被申請人が申請人について右懲戒解雇事由がありとしたのは右条項の解釈、適用を誤つたものというほかはない。
右によれば、本件解雇には相当な懲戒解雇理由を欠くものであるから、解雇権を濫用したもので無効なものというべきである。
(本田恭一)