横浜地方裁判所 昭和51年(ワ)1717号 判決
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【判旨】
一原告と道雄が原告主張のとおり本件契約を締結し、原告が右契約の代金全額を支払つた事実は、私道設置の特約の有無を除き当事者間に争いがない。
そこで、右特約の存否について判断する。
<証拠>に弁論の全趣旨を併わせると次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
建築業者である原告は昭和四七年中本件土地の近くにある土地を建売住宅の敷地として他から買受けたが、その際道雄がその売買の世話をしたことから道雄と知り合つた。当時原告は借家に住んでいたが、右借家については家主との間でその娘が結婚する時には明渡す旨を約していたので、原告としては自宅を建築したいと考えていた。そこで、原告は昭和四八年春頃道雄に自宅を建築したいので適当な土地があつたら紹介してほしいと相談をもちかけたところ、道雄から本件土地を紹介された。本件土地の位置はおよそ略図のとおりであり、当時川口私道部分及びその北側を東西に通ずる道路はいずれも道路位置指定を受けた私道であり、実際にも道路の状態であつた。そして、川口私道の南側は全体として荒地になつていたが、本件土地の西沿いに建築基準法上の道路とは認められない農道が南にのび数十メートル先で東西に通ずる公道に接続していた。従つて、当時本件土地は建築基準法上の道路に通じていない状況であつたが、道雄は原告に本件土地を紹介した際川口私道の南端から南へ向けて本件土地の西側に接続し南の方にある公道に通ずる四メートル幅の道路をつけることにしていると説明した。そこで、原告は本件土地を自宅の建築用地として買受けることとし、前記のとおり売買契約を締結した。ところで、道雄は昭和四七年四月八日実妹である石井ナオ子(以下石井という)に本件土地の南側にある土地(位置は略図記載のとおり)を売渡す契約(所有権移転登記は同年一二月の約定)をし、右石井のために同年八月中自己の名義で建築確認申請手続をした。しかし、川口私道の使用については川口の承諾が得られたが、その北側を東西に通ずる私道についてはこれを管理する私道設置者の同意が得られず、道雄は結局建築確認をとることを断念したことがあつた。
ところで、<証拠>によれば、原告と道雄との間で本件契約につき作成された売買契約書には私道設置の特約は記載されていないことが明らかである。しかし、右認定の事実によれば、道雄は原告から自宅建築のための敷地を紹介して欲しいと依頼されて本件土地を紹介し、売渡したものであり、本件土地が当時の状態のままでは建築基準法上の接道義務を満たしていないことを知りながら、原告に対し本件土地を売渡すに際し、本件土地の西側に接する幅員四メートルの私道を南側の公道に通ずるよう設置することにしていると説明したのであるから、道雄は本件契約に際し原告に対し公道に通ずる私道を設置することを口頭で約したものと認めることができ、右認定に反する証拠はない。もつとも、被告は、本件土地について南側の公道に通じる幅員四メートルの私道を設置するとすれば一千数百万円の費用がかかるので、本件土地の売買代金額と対比しても道雄がこのような特約をする筈がないと主張する。そして、<証拠>に弁論の全趣旨を併せると、本件土地から南側に通ずる幅員四メートルの私道を設置するためには、前記農道に接する第三者所有の土地の提供を受け、道路とするための工事をなす必要があり、工事費だけでも昭和五三年当時一二〇〇万円程度を要する事実が認められる。しかし、前記認定の事実によれば、道雄は原告のためのみでなく石井のためにも右私道を設置する必要があり、さらに<証拠>と弁論の全趣旨によれば、本件土地から公道に通ずる私道が設置されれば、原告、石井のほか右私道の西側の土地所有者のためにも利益となることが明らかであり、このような受益者がいる以上道雄が私道設置の費用の全部を一人で負担するとは限らないと考えられるから、道雄が右のような特約をしたとしても必ずしも不合理とはいえないものということができる。
二被告は、道雄が本件土地から公道に通ずる私道を設置できなかつたのは、川口が私道上に建物を建築してしまつたことによるものであつて、道雄の責に帰すべき事由によるものではないと主張する。そして、川口が本件契約締結当時実際に道路となつていた川口私道中西側の川口所有地部分にその後に建物を建築し、事実上右私道の幅員を四メートルに満たないものとしたことは当事者間に争いがない。しかしながら、前記のとおり、道雄は原告に対し本件土地から南側の公道に通ずる私道を設置することを約していたのであるから、川口の私道閉鎖は道雄が約定の私道を設置するについて何ら妨害とならないものというべきである。
三道雄が原告から昭和五一年四月一一日到達の書面で私道の設置をするよう請求されたが、私道設置義務を争つて、私道を設置せずに死亡した事実、及び、被告が相続により道雄の権利義務を承継した事実は当事者間に争いがない。
四そこで、原告の蒙つた損害について検討する。
(一) <証拠>によれば、原告は昭和五〇年春頃、本件土地上の建物の建築に着手する予定をたて、建築確認申請手続を他に依頼するとともに約二五〇万円相当の材木を買入れ、これに切込等の加工をして建築確認がとれるのに備えたこと、右加工については約四八万円を要したこと、ところが、本件土地については私道ができず、建築確認がとれないため建築に着手することができないので、昭和五三年一二月当時においても、原告は右加工後の材料をそのまま保管していたこと、右材料はいつたん加工したものであるから古材として他の目的に使用する場合、時間の経過によるくるい等も考慮するとせいぜい取得価額の半額程度にしかならないことなどの事実が認められ、右認定に反する証拠はない。従つて、原告が結局本件土地に自宅を建築することができず、右材木を他に流用した場合には材料の取得価額の半額と加工に要した費用相当の損害を蒙ることになる。しかしながら、<証拠>によれば、昭和五三年一二月当時において右加工済みの材料は時間の経過によるくるいのため使用できないものもない訳ではないが、本件土地に予定通りの自宅を建てるのであればなお使用しうるものであつた事実が認められる。そして、原告は後記のとおり、昭和五五年中には自費で本件土地の私道を設置して自宅の建築が可能となつたのであるから、前記加工済みの材料の大部分は右私道設置後の建築に利用し得たものと推認するのが相当であり、右推認に反する証拠はない。従つて、原告が材料等の費用としてその主張のような損害を蒙つた事実を認めることはできない(前記のとおり、材料の一部にはくるいがでて十分使用することができないものがあることは窺えなくはないが、具体的な損害額を認めるべき証拠はない。)。
(二) 次に、原告は、昭和五〇年三月一〇日信用金庫から建築資金として一二〇〇万円を借入れたが、私道設置の見込みがたたないため昭和五一年八月二〇日右借入金を返済したが、その間の利息を支払つたので利息同額の損害を蒙つたと主張する。そして、<証拠>によれば、原告がその主張のとおり借入れをなし、後に返済したが、その間の利息として一六六万四一一三円を支払つた事実が認められる。しかし、建築確認もおりず、本格的な建築工事もなされないうちに予め建築費用の大部分を借入れておくことは通常はなされないものと考えられるから、右借入れによる損害は道雄の債務不履行と相当因果関係のある損害とは認められない(ちなみに、<証拠>によれば予定建築費は約一五〇〇万円である。)。
(三) 最後に、<証拠>に弁論の全趣旨を併わせると、原告は昭和五五年にいたるも道雄が私道を設置する見込みがなかつたので同年二月一五日たまたま本件土地の東側に接し道路に面した土地及びその地上建物が売りに出た際、これを原告の経営する株式会社神永工務店において買取り、そのうちの一部である本件私道敷の部分を右会社から原告が自己及び妻エツ子名義で代金一三九七万八七八六円で買受け、これを本件土地のための私道とした事実が認められる。
右について、原告は私道敷は将来売却する場合通常宅地価額の二分の一以下となるから、原告は道雄が私道を設置しなかつたことにより少くとも右私道敷取得価額の二分の一である六九八万九三九三円の損害を蒙つたと主張するが、私道敷の価額が常に宅地価額の二分の一以下になる事実を認めるに足りる証拠はない。しかしながら、私道敷が私道敷として取引される場合にはその割合は兎も角として宅地よりも或る程度低廉な価額に評価されることは経験則上認められるところである。他方、これまで認定した事実と弁論の全趣旨によれば、本件土地の位置関係に照らすと、前記石井所有地や、本件土地に接する農道の西側にある安藤所有地はいずれも宅地として利用するためにはこれらの土地に接する道路を設置する必要があるので、将来前記農道を利用したそのような道路が設置される可能性が強く、これらの土地と本件土地の位置に照らすと、多少の出費を伴うとしても将来原告がその道路を利用しうる見込みがあり、又、その場合本件私道敷は現に前記経過で前記神永工務店が所有している宅地と一体として利用することができるものと認められる。
従つて、これらの事情を綜合して勘案すると、原告が本件私道敷を取得するに要した費用の約一割である一四〇万円が道雄の債務不履行と相当因果関係のある原告の損害と認めるのが相当である。 (小田原満知子)