大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和51年(行ウ)15号 判決 1980年1月31日

原告 山根樹

被告 大和郵便局長

訴訟代理人 金沢正公 城谷昌雄 木暮栄一 横手清吉 中村正俊 外八名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対して昭和五一年五月二二日付でなした免職処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五〇年一一月一一日、外務職の郵政職員(事務員)として大和郵便局(以下局という)に採用され、以来、局集配課に勤務していた。

2  被告は原告に対し、昭和五一年五月二二日付で、人事院規則(以下規則という)一一―四第九条により免職処分(以下本件処分という)をなした。

3  本件処分は次の理由により違法である。

(一) 原告は条件附採用期間中の職員ではなかつた。

(1) 原告の身分は、採用後六か月間は条件附採用期間と定められていたが、右六か月の期間の経過前に被告から別段の措置もとられず、少なくとも措置をとつた旨の告知がなされていない。

(2) それ故、原告は、規則八―一二第二六条二項により、採用後六か月を経過した日の翌日に正式な職員となつたので、原告を条件附採用期間中の職員であるとして、規則一一―四第九条によつてなした本件処分は違法である。

(二) 本件処分は不当労働行為である。

(1) 原告は、昭和五一年三月一七日、全逓信労働組合(以下全逓という)に加入し、全逓湘南支部大和分会に所属しているが、原告と同時に被告に採用された新人職員のうち全逓に加入したのは原告のみである。

(2) 本件処分は、全逓に加入した原告を嫌悪してなされたものであるから、労働組合法七条一号に該当し、違法である。

(三) 本件処分は裁量権の濫用である。

被告は、原告が郵政職員としてその官職に必要な適格性・資質を欠くものと判断して本件処分をなしたが、右は、裁量権の範囲を逸脱しているかもしくは裁量権の行使を誤つたものであつて、裁量権の濫用であり、違法である。

4  よつて、原告は被告に対し、本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する答弁および主張

1  請求原因1、2を認める。3の(一)のうち、(1)を認め、その余を否認する、同(二)のうち、(1)は不知、その余を否認する、同(三)を否認する。4の主張を争う。

2  被告の主張(本件処分の理由)

(一) 原告は、条件附採用期間中であつた昭和五〇年一一月一一日から昭和五一年五月一〇日までの六か月間に、病気等を理由とする欠勤が多く、実際に勤務した日数が九〇日に満たなかつたため、改正前の規則八―一二第二八条により、条件附採用期間が勤務日数九〇日に達するまで延長された。そして、被告は、その間の原告の勤務成績を検討した結果、後記(二)の理由により、その官職に引き続き任用しておくことが適当でないと認めたので、規則一一―四第九条により本件処分をなしたものである。

(二) 原告が職員として不適格である理由は次のとおりである。

(1) 病気休暇

原告が病気を理由として欠務した日数は極めて多く、採用後本件処分時までの病気休暇の日数は七六日と六時間に及んでいる。

(2) 無断欠勤と遅刻

(イ) 昭和五一年三月二九日、原告は午前七時三〇分から午後四時三分までの勤務(いわゆる日一勤務)のところ、同日午前七時五五分ころ、電話で「遅れる」と連絡してきたので、電話を受けた集配課長代理においてどの程度遅れるのか尋ねようとした途端、電話を切つてしまい、三時間四五分欠務した。

(ロ) 同年四月二日、原告は午前八時から午後三時五七分までの勤務(いわゆる日五勤務)のところ、同日午前七時三〇分ころ、集配課職員に「遅れる」と連絡したまま、一時間遅刻した。

(ハ) 同年四月二〇日から同月二二日まで無断欠勤した。

(3) 欠務のときの事前連絡の懈怠

郵政省就業規則一一条には、「職員は、所定の勤務時間に執務することができない場合には、あらかじめ所属長に申し出てその承認を得なければならない。ただし、病気その他やむを得ない理由によりあらかじめ申し出のできなかつたときは、事後すみやかに申し出なければならない。」と定められ、原告は、採用時の職場訓練時等においてその点に関し具体的な指導を受けていたのに、次のとおり、正当な理由なく事前の連絡を怠つた。

(イ) 昭和五一年一月七日、原告は午前八時から午後四時三分までの勤務(いわゆる日六勤務)のところ、何の連絡もしないで出勤せず、午後四時ころ「下痢のため休む」と電話してきた。

(ロ) 同年一月一〇日から同月一三日まで、何の連絡もしないで出勤しなかつた。

(ハ) 同年一月一七日、原告は午前八時から午後三時五七分までの勤務(いわゆる日五勤務)のところ、何の連絡もしないで出勤せず、午後二時四〇分ころ出局した。

(ニ) 同年三月一八日、原告は午前八時から午後三時五七分までの勤務(いわゆる日五勤務)のところ、同日午前八時ころ、「病院へ寄つてから出勤する」と電話連絡してきたが、同日出勤しなかつた。

(ホ) 同年三月二〇日、原告は午前八時から午後三時五七分までの勤務(いわゆる日五勤務)のところ、何の連絡もしないで出勤しなかつた。

(4) 事務取扱いの怠慢及び過誤

(イ) 同年一月二〇日、専ら原告が担当していた配達担当区(三一区)から転送すべき年賀郵便物二七六通および通常郵便物一一通が、年賀郵便物の取扱期間も過ぎていたのに、未処理のまま同区の道順組立棚の引出しから発見された。右の郵便物は原告が速やかに処理しなければならなかつたものであるところ、その処理を怠つていたものである。

(ロ) 同年三月二四日、前記三一区内の大和市深見台三―四株式会社ガスターへ他に配達すべき郵便物が誤配達されたが、これは同日配達担当の原告の過誤によるものである。

(ハ) 同年五月一四日、前記三一区内の同市深見台二―一―八竹原方へ配達した郵便物が隣家へ飛んでいたことが後に判明したが、これは同日配達を担当した原告の不注意によるものである。

(三) 以上のとおり、原告は、心身の故障がありその官職に引き続き任用しておくことが適当でない場合(前記(二)の(1))にあたり、また、郵政職員としてその官職に必要な資質と適格性を欠く(同(1)ないし(4))ものである。そのため、被告は、原告を規則一一―四第九条により免職処分としたもので、本件処分は適法である。

三  右主張に対する原告の答弁および主張

1  二2(一)の事実中、採用後六か月間に原告の実際に勤務した日数が九〇日に満たなかつたことは認めるが、その余の点を否認する。改正前の規則八―一二第二八条は、任命権者に延長措置を講ずる義務のあることを定めてはいるが、右延長の措置がとられていない場合に(それが任命権者の職務上の義務違反であつたとしても)当然に期間が延長される趣旨とは解しえないので、原告に対し条件附採用期間延長の告知等別段の措置がとられていない本件においては、実際に勤務した日数が九〇日に達していたか否かにかかわりなく、原告は採用後六か月の期間の満了した日の翌日に正式な職員に任用されたものである。

2  同(二)の事実中

(1)を認める。

(2)(イ)の事実中、原告が電話をかけた時間を否認し、集配課長代理がどの程度遅れるか尋ねようとしたとの点は不知、その余は認める。原告が電話をかけた時間は午前七時二〇分ころで、勤務開始時間前である。したがつて無断欠勤ではない。

(2)(ロ)の事実を認める。当日、身体の具合が悪く一時間遅刻して出勤し、出勤後、容態が悪化して病院へ行き、結局、朝の一時間は遅刻、その後は病欠という取扱いをされたが、右の取扱いは不当であり、もともと全部病気休暇として取扱われるべきであつた。

(2)(ハ)の無断欠勤の点は否認する。原告は、前日の四月一九日朝、胃痛のため局に電話して休暇をとり、病院で治療を受けたが回復せず、そのため、同日から同月二二日まで引き続き下宿先で病床に伏していたのである。下宿先には同居人はおらず、電話もないので、毎日局に連絡することは困難な状態であつた。このように同期間中は病気休暇であり、無断欠勤ではない。

(3)の冒頭事実のうち、原告が正当な理由なく事前の連絡を怠つたとの点を否認し、その余を認める。

(3)(イ)ないし(ハ)の事実を認める。いずれも病気のため出勤できず、また、事前の連絡ができる状態ではなかつたもので、何ら非難されるべきものではない。

(3)(ニ)の事実中、電話をかけた時間および内容を否認し、その余を認める。原告は勤務開始時間前に、「病院へ行くが出勤できたらいく」旨連絡したのである。なお、その後腹痛が激しくなり、出勤も連絡もできる状態ではなかつた。

(3)(ホ)の事実を認める。前記(ニ)に引き続く病状が悪化し、連絡のできない状態であつた。なお、欠務する旨を連絡した日に引き続いて欠務する場合は再度の連絡は不要である。

(4)(イ)の事実中、原告が三一区を担当していたことは認め、転送すべき郵便物が道順組立棚から発見されたとの点は不知、その余は否認する。三一区の担当者は原告一人のみではなかつたのであるから、被告主張の郵便物の未処理を原告の行為と断定することはできない。

(4)(ロ)(ハ)の事実は否認する。前記のとおり三一区の担当者は原告一人のみではなかつたのであるから、被告主張の誤配達等を原告の行為と断定することはできない。

3  同(三)の主張を争う。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件処分当時、原告が条件附採用期間中の職員であつたかどうかについて検討する。

1  原告が採用後六か月間は条件附採用期間と定められて採用されたが、右期間の経過前に被告から別段の措置がとられなかつたこと、および、右期間中に原告の実際に勤務した日数が九〇日に満たなかつたことはいずれも当事者間に争いがない。

2  ところで、国家公務員法(以下法という)五九条二項は、「条件附採用期間であつて六月をこえる期間を要するものについては、人事院規則でこれを定める。」とし、これをうけて、昭和五二年四月一日施行前の規則(以下改正前の規則という)八―一二第二八条は、「条件附採用期間の開始後六箇月間において実際に勤務した日数が九〇日に満たない職員については、任命権者は、その日数が九〇日に達するまで条件附採用期間を延長しなければならない。」と規定しているが、この趣旨は、国家公務員の任用について、法は成績主義の原則を掲げ、職員の採用は競争試験または選考の方法によることとしているけれども、右試験または選考のみによつては、採用された職員がその官職における職務を遂行する能力を有する適格者であることを必ずしも保障するものとはなし難いので、条件附採用制度を設けて、適格者であるかどうかを条件附採用期間中の勤務成績等から判断し得るものとし、その期間を六か月と定め、条件附採用期間中の職員がその期間中に良好な成績で職務を遂行したときには適格を有するものとして職員に正式に採用されることとしているが、右の六か月の期間中に実際に勤務した日数が少ない場合には、勤務成績から職員としての適格性につき適正な評価を加えることが困難であるため、前記改正前の規則において、実勤務日数が九〇日に満たない場合には九〇日に達するまで条件附採用期間を延長することとし、法の所期する成績主義の原則を貫徹しようとしているものと解するのが相当であり、したがつて、右の期間は、任命権者に延長するか否かの裁量権を与えたものではなく、実際の勤務日数が九〇日に達しないときは、これに達するまで条件附採用期間が当然に延長されることになるものというべきであつて、このことは、改正後の規則八―一二第二八条が、「……日数が九〇日に達するまで条件附採用期間は引きつづくものとする。……」と規定され、前記の趣旨がより明らかとなつていることからも窺い得るところである。

原告は、被告において条件附採用期間を延長する別段の措置をとらず、また、原告に対して延長した旨の告知をしていないので、六か月の条件附採用期間が終了した日の翌日に正式な職員になつていると主張するが、条件附採用制度の前記の趣旨に照らして右の主張の失当であることは多言を要しない。

3  してみれば、条件附採用期間の開始後六か月間において実際に勤務した日数が九〇日に満たなかつた原告については、その日数が九〇日に達するまで当然に条件附採用期間が延長されたものというべく、成立に争いのない乙第一、第二号証によれば、条件附採用期間の開始後六か月間(昭和五〇年一一月一一日から昭和五一年五月一〇日まで)に原告が実際に勤務した日数は七九日であつたこと、同年五月一一日から本件処分のなされた同月二二日までの原告が実際に勤務した日数は八日であつたことがそれぞれ認められるので、本件処分当時、原告は条件附採用期間中の職員であつたものと認められる。

三  進んで、本件処分理由の有無について検討する。

1  病気休暇

(一)  原告の病気休暇の日数が、採用後本件処分時までの間七六日と六時間に及んでいたことは当事者間に争いがない。

(二)  原告は、採用後間もなく十二指腸潰瘍に罹患したため病気休暇が多かつたが、入院治療の結果、本件処分当時には治ゆしていたのであるから、本件処分は不当であると主張するが、後記3および2の(二)、(三)記載のとおり、退院後においても、同年三月一八日から同月二〇日まで、同年四月二日、同年四月一九日から同月二二日まで、それぞれ胃痛、腹痛を理由に欠勤、病休をくり返していたものであり、また、成立に争いのない甲第一号証によれば、同年四月二日当時において、病状は必ずしも完治していたものではないことが認められるので、原告が、本件処分当時、郵政職員としての職務遂行に支障のない程度の健康状態であつたと認めることは極めて困難である。

2  無断欠勤と遅刻

(一)  昭和五一年三月二九日、原告が午前七時三〇分からの勤務であつたところ、電話で「遅れる」と連絡したまま三時間四五分遅刻した事実は当事者間に争いがなく、証人白井福松の証言(以下白井証言と略す)およびこれにより真正に成立したものと認められる乙第五号証、原告本人尋問の結果の一部によれば、原告は当日午前七時五五分ころ局集配課に電話をかけ、応答にでた課長代理に対し、「遅れる」と伝えたのみで、遅れる理由やどの程度遅れるかについて何ら具体的な説明をしないまま電話を切つたこと、原告はその前日私用で千葉市在住の友人方へ行つて一泊し、翌朝寝すごして大幅な遅刻をしたものであることがそれぞれ認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果はたやすく措信しがたいので、これによれば、当日の三時間四五分の遅刻を被告の承認のない欠務として処理した被告の取扱いは相当であると認められる。

(二)  同年四月二日、原告は午前八時からの勤務であつたところ、同日午前七時三〇分ころ、電話で「遅れる」と連絡したまま一時間遅刻した事実は当事者間に争いがない。原告は、右の遅刻は病気休暇として取扱われるべきであつたと主張するので検討するに、証人菅野政夫の証言(以下菅野証言と略す)およびこれにより真正に成立したものと認められる乙第六号証ならびに前掲白井証言によれば、原告は、同日午前九時ころ出勤するや、遅刻した理由等の説明をしないばかりか、「時間休をくれ」などと主張して上司と言い争いをしだし、やがて、「胃が痛むので休ませてくれ」と申し出るに至つたため、深沢副課長において、原告を休憩室で休ませたのち、病院で診察を受けさせ、結局、当日は一時間の欠務(遅刻)、その後の六時間は病気休暇の手続をとつたものであることが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果はたやすく措信しがたいので、これによれば、出勤後病気の申告もせず上司と言い争うなどの状況から、出勤前一時間の遅刻を被告の承認のない欠務として処理した被告の取扱いは相当であると認められるから、原告の右主張は失当である。

(三)  前掲白井証言およびこれにより真正に成立したものと認められる乙第四号証ならびに前掲菅野証言およびこれにより真正に成立したものと認められる乙第三号証によれば、原告は、同年四月一九日、電話で「胃が痛いので休ませてほしい」旨の連絡をしたところ、応答に出た集配課西田主事から、「病院へ行きその結果を知らせるように」と指示されたことに立腹して一方的に電話を切り、その後同月二〇日から二二日までは何らの連絡もなく出勤しなかつたこと、同月二三日に出勤して同課副課長から事情を聴取された際、「西田主事から、電話をかけられるくらいなら出て来い、といわれて頭にきたので連絡しなかつた。」と述べていることがそれぞれ認められる。

原告は、右の点につき、一九日に休暇をとつて病院へ行き治療を受けたが回復せず、これに引き続き二〇日から二二日まで病床に伏しており、下宿には同居人も居らず電話もないので、局に連絡することができなかつたにすぎないと主張し、原告本人も右主張に沿う供述をするが、なるほど、前記1の原告の病気休暇の状況からして、二〇日から二二日にかけての原告の胃痛ないし腹痛の病状が必ずしも軽快していなかつたであろうことは容易に推認されるけれども、前記認定の事実に照らすと、原告は西田主事の電話の内容に立腹の余り、休暇の連絡をする意思を全く欠き、二〇日から二二日まで無断で欠勤したものと認めるのが相当であり、原告の右主張は失当である。

3  欠務のときの事前連絡の懈怠

(一)  被告の主張(本件処分の理由。事実摘示二の2)(3)の冒頭事実のうち、原告が正当な理由なく事前の連絡を怠つたとの点を除くその余の事実、(イ)ないし(ハ)、(ホ)の事実、(ニ)のうち、電話をかけた時間およびその内容を除くその余の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  原告は右(イ)ないし(ホ)の事前連絡をしなかつた点に関し、右はいずれも病気の場合であり、原告の下宿には同居人も居らず電話もないので、局に連絡することができなかつたと主張し、原告本人も右主張に沿う供述をするが、原告本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)によれば、原告の下宿の近隣や通院先の病院に公衆電話が設置されていて比較的簡便に利用でき、また、同年三月一九日には下宿の隣室居住者に出勤できない旨の局への伝言を依頼して連絡したことのある事実が認められるので、病気の場合に局への連絡が不可能であつた旨の原告の供述はとうてい信用できず、また、本件全証拠によるも、右(イ)ないし(ホ)の場合、前記の方法による連絡が不可能なほど原告の病状が重篤であつたと認めることはできないので、原告の右主張は失当である。更に、原告は、欠務する旨を連絡した日に引き続いて欠務する場合には連絡は不要であると主張するが、前掲白井、菅野各証言によれば、集配課においては、各職員の職務の分担は事前に定められているので、何の連絡もなく突然に欠務がなされれば、他の職員が臨時に応援しなければならず、当該応援者の職務能率に悪い影響を与えるなど、課全体の業務の円滑な遂行にも支障が生ずることになり、それ故に、郵政省就業規則一一条には被告主張のような定めがあり、原告においてもその点に関し具体的な指導を受けて知悉していた(この事実は当事者間に争いがない)というのであるから、右の事実に照らせば、原告の右主張もまた失当であるといわなければならない。

4  事務取扱いの怠慢及び過誤

(一)  転送未処理郵便物について

前掲菅野証言およびこれにより真正に成立したものと認められる乙第一一号証の一、二ならびに前掲白井証言および乙第一、第二号証によれば、同年一月二〇日、三一区の転送未処理郵便物(年賀郵便物二七六通、通常郵便物一一通)が同区道順組立棚の引出しから発見されたこと、右転送未処理郵便物は昭和五〇年内に到着したもので、転送事務は三一区の当務者が担当するものであること、原告は当時の三一区の当務者で、同年一二月一五日から昭和五一年一月五日までの年賀郵便取扱期間中は皆勤であつたが、同月六日以降は休暇、欠勤が極めて多くなつたこと、以上の事実が認められ、これによれば、原告が前記郵便物の転送事務を懈怠した可能性が強いものと認められるが、他方、前掲各証拠によれば、年賀郵便取扱期間中は多忙のため各区とも応援者が配置され、また、多数のアルバイトを使用していることが認められるので、転送未処理郵便物の放置が応援者ないしはアルバイトによつてなされた可能性も否定できないところであり、右行為が原告の行為であると認定するには十分ではなく、他にこれを認めさせるに足りる資料はない。

(二)  誤配達について

前掲菅野証言およびこれにより真正に成立したものと認められる乙第一二号証によれば、同年三月二五日、前記三一区内に営業所のある株式会社ガスターの従業員が来局し、前日に誤配達されたとする郵便物を示して、「別の家の郵便物が入つている。気をつけてもらいたい。」旨の申告をしたこと、原告が同月二四日は出勤して三一区の当務者として勤務していたことはそれぞれ認められるが、右事実によるも誤配達のあつた日が同月二四日であつたと認めるに十分ではなく(なお、前掲乙第一、第二号証によれば、同月二三日には原告は出勤していない)、その他本件全証拠によるも、原告が右の誤配達をなしたと認めるに足りない。

(三)  配達方法の過誤

前掲菅野証言およびこれにより真正に成立したものと認められる乙第一三号証ならびに前掲白井証言によれば、同年五月一四日、前掲三一区内に居住する竹原健三が来局し、持参した郵便物を示して、「この郵便物が飛んで隣家の人が届けてきた。これで三回目である。」旨の申告をなしたこと、原告が同月一三日は出勤して三一区の当務者として勤務したことはそれぞれ認められるが、右事実および本件全証拠によるも原告が右の配達方法の過誤をなしたと認めるには足りない。

5  以上の各事実によれば、前記4の点につき原告に怠慢ないし過誤があつたものとは認めるに足りないけれども、原告は、前記1のとおり心身に故障があり、また、前記1ないし3のとおり勤務実績が不良であり、郵政職員としてその官職に引き続き任用しておくことが適当でないと認められるので、規則一一―四第九条所定の条件附採用期間中の職員に対する免職処分理由の存在することは明らかである。

四  原告は、本件処分は全逓に加入した原告を嫌悪してなされたものであるから不当労働行為として無効であると主張するが、右主張に沿う証人木村勝の証言および原告本人尋問の結果はたやすく措信できないし、その他本件全証拠によるも原告が全逓に加入したことないしは原告が全逓の組合員であるが故に本件処分がなされたと認めることはできず、かえつて、規則一一の四第九条に基づいてなされたものであることは前認定のとおりであるから、右主張は採用できない。

また、原告は、本件処分は裁量権を濫用したものであると主張するが、前記三1ないし3記載のように、原告が病気を理由として欠勤した日数は極めて多く(採用後本件処分時まで六か月と一二日間に出勤日数が八七日に過ぎないのに対し病気休暇の日数は七六日と六時間に及んでいる)、また、無断欠勤、遅刻および欠務の際の事前連絡の懈怠をくり返しているのであり、しかも、前掲乙第三ないし第六号証、前掲白井証言により真正に成立したものと認める乙第八号証、第一〇号証、前掲菅野証言により真正に成立したものと認める乙第七号証、第九号証によれば、事前連絡懈怠等のたびごとに上司から懇切丁寧な指導を受けていたのにこれに素直に従う意思はなく、むしろ反抗する態度すら示していたことが窺われるので、これらを総合すれば、条件附採用期間中の原告に対してなされた本件処分が、客観的、合理的な裁量基準を逸脱したものとみることは到底できないから、右主張も採用できない。

五  以上のとおり、被告が原告に対してなした本件処分は、規則一一―四第九条に基づいてなされたものであつて、適法かつ相当と認められるから、本件処分の取消を求める原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀧田薫 吉崎直弥 飯渕進)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例