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横浜地方裁判所 昭和53年(ワ)585号 判決 1980年1月31日

原告 小野辺ハツ江

右訴訟代理人弁護士 谷口隆良

同 陶山圭之輔

同 宮代洋一

同 佐伯剛

同 高荒敏明

同 若林正弘

同 谷口優子

右訴訟復代理人弁護士 山本安志

被告 神奈川県内広域水道企業団

右代表者企業長 曽山晧

右訴訟代理人弁護士 森英雄

右訴訟復代理人弁護士 武真琴

同 橋本欣也

同 鈴木質

右指定代理人事務吏員 石井一一

同技術吏員 西塚正美

同事務吏員 長谷川信夫

主文

原告の第一次請求はこれを棄却する。

被告は原告に対し、金一五〇万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五三年四月一一日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の第二次請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一双方の求めた裁判

一  原告

(第一次請求)

(一) 被告は原告に対し、別紙図面黄斜線部分の地下に埋設された直径二八〇〇ミリメートルの送水管を撤去し、別紙図面赤斜線部分の地下に直径二八〇〇ミリメートルの送水管の埋設工事をせよ。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

(第二次請求)

(一) 被告は原告に対し、別紙記載の詫び状を交付せよ。

(二) 被告は原告に対し、金一一三二万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(一)  原告の第一次、第二次請求はいずれもこれを棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二双方の主張

一  請求原因

(一)  原告は、横浜市緑区元石川町字安鳥七六六九番一山林二六一平方メートル(以下本件一の土地という。)同番四山林三二八平方メートル(以下本件二の土地という。)の所有権者である。

(二)  被告は、神奈川県、横浜市、川崎市、横須賀市をもって組織され、水道用水供給事業経営に関する事務を共同処理する目的をもって、昭和四四年五月一日設立された公法人である。

(三)  被告は、昭和四五年一二月から川崎市高津区菅生に築造した西長沢浄水場から横浜市及び川崎市に上水を供給するため、創設事業計画に基づき、内径二八〇〇ミリメートルの送水管布設用地につき、地権者と順次土地地下使用契約を締結して来た。

(四)  被告は、昭和四八年夏季における横浜市、川崎市の逼迫した水需要に応えるため、遅くとも右地域の送水管工事を同年六月までに完成させなければならないとし、原告に対して事業内容を十分説明することもなく、公益事業だから承諾せよと高圧的態度で迫り、若し承諾しなければ土地収用法によって収用するといって脅し、その間無断で原告所有地内に立入り測量したり、原告の夫の勤務先に押しかけて承諾をせまったりした。この様に昭和四八年四月頃まで被告の総務部長脇沢光雄、管財課長長谷川信夫その他の職員が前後三〇回以上にわたって原告宅に押しかけ、原告に対し承諾を強要した。

原告は、最初から一度も正常な話合いがなされなかったことを不満とし、その要請に応じなかった。

ところが同年四月被告総務部長が従来の態度を反省して原告に詫び状を差し入れて誠意を示したので、原告は被告が行っている本件事業が公益事業である点に鑑み、原告の土地地下使用に応ずることとし、同年四月一二日原、被告間に、本件二の土地の一部である別紙図面赤斜線部分の地下に内径二八〇〇ミリメートルの送水管の布設を認める土地地下使用貸借契約(以下本件地下使用契約という。)を締結した。

(五)  原告は、昭和五二年四月一五日横浜市事業指導課員から、市は被告に対し水道管は市の計画街路線内に入れることを条件として承諾したものであるから、右計画街路より外れることはない旨の説明を受け、更にその数日後、水道工事を請負っていた東急建設株式会社の工事事務所員から同趣旨の説明を受けた。

横浜市の都市計画による路線は別紙図面の計画街路(以下本件計画街路という。)で、原告が被告と土地地下使用契約を締結した別紙図面赤斜線部分の土地は、明らかに本件計画街路の外であったから、原告は約定の位置に送水管を布設したかどうか疑念を抱き、被告の職員に電話でこれを訊したところ、管財課の咸順一が図面をもって原告方を訪れ、水道管の布設は約定どおりの位置にしたと述べ、原告の疑念を否定した。

(六)  しかし原告は不審感が拭い切れず、昭和五二年一二月九日別紙図面A点(本件一の土地)にボーリングをしたところ、偶然にも地下二〇メートル六五の地点で被告の布設した送水管に当り、被告が別紙図面黄斜線の位置に送水管を布設したことが判明した。

その際原告は被告の立会を求めたところ、初め立会をしぶっていたが、結局工事課長西塚正美、咸順一外数名が立会った。

次いで同月一二日被告側が契約違反の事実を認めて謝罪し、更に昭和五三年一月二六日被告の総務部長石井一一、管財課長長谷川信夫が原告方を訪ねて和解の申入をし、同年二月二日右両名が原告方を訪ねた際、原告との本件地下使用契約締結前に、これと異る別紙図面黄斜線部分の土地の地下に送水管を布設したことを認めるにいたった。

(七)  ところで被告は、原告との本件地下使用契約締結前の昭和四八年一月二二日被告事務所において、管財課長長谷川信夫、西塚正美、工事部長藤岡宏、第二工事課長佐藤晋の四名が合同し、本件送水管布設工事が既に原告所有の本件一の土地の地下まで及んでいるのに、未だ原告の承認が得られないがどう処理するか協議した結果、同年六月までに本件送水管布設工事を完成させなければならない逼迫した事情があるので、この際原告の承認を得ないままで急速に工事を続行すべきであるとの結論に達し、これに従って竣工させたものである。

この様に被告は、原告と本件地下使用契約を締結する前に別紙図面黄斜線の部分の地下に送水管を布設しておきながらその事実を秘して原告を欺罔し、本件地下使用契約を締結させたものである。

(八)  原告は被告の職員の職務執行にかかる不法行為によって次の損害を蒙った。

1 慰藉料 金五〇〇万円

昭和四六年より昭和五三年三月までに受けた精神的苦痛に対する慰藉料

2 使用料相当の損害金 一〇九万円

本件一の土地のうち、被告が送水管を布設した一一九・五三平方メートルの、昭和四八年四月から昭和五三年三月までの五年間の使用料相当の損害金

3 地価低下による損害金 四八〇万円

本件一、二の土地の時価は坪当り金一〇万円を下らないところ、本件一の土地については別紙図面黄斜線部分に水道管布設工事をし、本件二の土地については本件地下使用契約に基づく工事のため、それぞれ坪当り金五万円の地価の低下を招来する。

4 ボーリング代 金四三万円

(九)  よって原告は被告に対し、

1 第一次請求として、本件一の土地の所有権に基づき別紙図面黄斜線部分の地下に布設された送水管の撤去と、本件地下使用契約に基づき、別紙図面赤斜線部分の地下に右送水管の布設工事を、

2 第二次請求として、原告に対し別紙詫び状の交付ならびに不法行為による損害賠償として、金一一三二万円及びこれに対する不法行為後の訴状送達の日の翌日から支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を

求めるものである。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)ないし(三)の事実は認める。

(二)  同(四)の事実のうち、被告は昭和四八年夏季における横浜、川崎両市の逼迫した水需要に応えるため、遅くも右地域の送水管工事を同年六月までに完成させる必要があったこと、そのため被告の総務部長(前)、管財課長、同課長補佐等の担当者が、原告に土地使用の承諾を得るため、足繁く(本件地下使用契約締結までに約五〇回余に及ぶ。)原告方を訪ね、一度は原告の夫勝男の勤務先を訪れたこと、この間原告の所有地を測量したこと(但しその測量は、土地収用法第一一条、第一二条の手続を経、更に原告が出席した現地説明会において説明の上行ったものである。)、交渉の進行中被告が詫び状を差入れ、原告主張の本件地下使用契約が締結されたことは認めるが、原告主張のように被告が高圧的に交渉した事実はない。

(三)  同(五)の事実のうち、本件計画街路の位置が別紙図面の位置であること、原告と締結した本件地下使用契約の位置は、本件計画街路の外であったこと、被告に原告から電話があったとき、送水管の位置は本件地下使用契約の位置である旨答えたことは認めるが、その余の事実は不知。

(四)  同(六)の事実のうち、原告主張の日時場所において、被告側職員立会の許にボーリングが行われ、布設した送水管の位置が確認されたこと、その位置が本件地下使用契約に定めた位置と異る別紙図面黄斜線の地下の位置であったこと、被告側はこれを認めて謝罪し、示談解決を申入れたことは認める。

(五)  同(七)の事実のうち、原告主張の趣旨の協議が行われたことは認めるが、原告主張のような結論を得た事実はない。被告が本件地下使用契約締結前に別紙図面黄斜線の地下の部分に送水管を布設したことは認める。

(六)  同(八)の事実のうち、被告が昭和四八年四月本件一の土地のうち別紙図面黄斜線部分一一九・五三平方メートルの地下に送水管を布設したこと、原告がボーリング代金四三万円を支出したことは認めるが、その余の損害額は争う。

(七)  同(九)の主張は争う。

三  抗弁

原告の第一次請求は、原告に何等の利益をもたらすものでないのに、被告に対し過大の損失を強いるものであるから、権利の乱用として許されないものである。

(一)  本件送水管が本件地下使用契約で定めた別紙赤斜線の部分の地下にあるのと、別紙図面黄斜線の部分の地下にあるのでは、原告に与える不利益の度合に何等の差がない。別紙図面黄斜線の部分の土地は、都市計画によって将来街路となること概ね確定的な路線であって、原告のために最も損失の少い地点であり、将来送水管の維持管理に当っても、当事者双方にとり最も便宜な位置にある。

(二)  これに対し、若し本件送水管の布設替が行われるとすると、地下二〇メートルにおけるこの種の工事が、莫大な出費を伴うであろうことは何人の目にも明らかであり、右工事に伴う送水の一時的中断が広範な水需要者に与える影響、損失は計り難いものがある。

四  抗弁に対する認否

権利乱用の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

第一第一次請求について

(送水管の撤去請求)

一  原告が本件一の土地を所有し、被告が本件一の土地の一部である別紙図面黄斜線の部分の地下に直径二八〇〇ミリメートルの送水管を布設し、これを所有していることは当事者間に争いがない。

二  そこで権利乱用の抗弁について判断する。

(一) 被告は、神奈川県、横浜市、川崎市、横須賀市をもって組織され、水道用水供給事業経営に関する事務を共同処理する目的をもって昭和四四年五月一日設立された公法人であること、被告は、昭和四五年一二月から川崎市高津区菅生に築造した西長沢浄水場から横浜市及び川崎市に上水を供給するため、創設事業計画に基づき、内径二八〇〇ミリメートルの送水管布設用地につき地権者と順次土地地下使用契約を締結してきたこと、被告は、昭和四八年夏季における横浜、川崎両市の逼迫した水需要に応えるため、遅くとも右地域の送水管工事を同年六月までに完成させる必要があったこと、被告はそのため、昭和四八年四月一二日原告とその所有にかかる本件二の土地の一部である別紙図面赤斜線の部分につき本件地下使用契約を締結したこと、しかし右契約の締結前に被告が本件一の土地の一部である別紙図面黄斜線の部分の地下に予定の送水管布設工事に着工し、その後これを完成したこと、本件計画街路は、別紙図面の位置にあること、被告の職員は、原告から本件地下使用契約の位置である別紙赤斜線部分の位置と異る位置に送水管を布設したことを知りながら、原告からの度々の照会に対し、送水管は約定の位置である別紙図面赤斜線の部分の地下に布設したとして事実を告げず、原告が昭和五二年一二月九日別紙図面A点をボーリングしたところ、地下約二〇メートル余の位置に布設した本件送水管の位置を確認してから、初めて被告は送水管の布設位置は別紙図面黄斜線の部分の地下であり、本件地下使用契約の位置と異ることを認めるにいたったこと等の事実は当事者間に争いがない。

(二) 《証拠省略》によると、次の事実が認められる。

1 被告は、川崎市高津区菅生に築造した西長沢浄水場から横浜市及び川崎市へ上水を供給する動脈的役割を担う送水管の布設に当っては、既に横浜市が計画している都市計画街路(日吉、元石川線)の予定地内に布設することが将来の送水管の維持管理上最も適切であると判断し、このルートを選定したこと、被告は右送水管の送水時期は昭和四八年七月と予定し、昭和四五年一二月から用地交渉に入り、地権者のうち原告ほか一名を除いて翌昭和四六年一〇月には土地地下使用契約を締結したこと、横浜市の都市計画街路は既に告示され、本件一の土地については別紙図面計画街路と表示された位置にあり、送水管の布設は、ほぼその中心線である別紙図面青線部分に予定したこと、

2 本件一、二の土地が区画整理地域内にあり、現に区画整理が進行しているが、原告は区画整理組合の設立に反対していたところ、はじめ被告が地権者と交渉する窓口を区画整理組合の役員に求め、直接原告と交渉しなかったことから、原告は被告の送水管の布設にも反対の立場をとるにいたったこと、被告は土地収用法一一条に定める事業の準備のため、同法一二条に定める手続を経て、昭和四六年三月八日本件一、二の土地に立入り測量したところ、原告は無断立入りであるとして益々反対の態度を強くとるにいたったこと、被告の職員は原告の承諾をとるため、三十数回にわたって原告方を訪ねて交渉したが、原告は被告の申入れに応じなかったこと、そのため工事は三ヶ月間もストップし、その善後策について、昭和四八年一月二二日被告の事務所において、被告の工事部長藤岡宏、第二工事課長佐藤晋、前記長谷川信夫、西塚正美が集って協議したが、その際長谷川信夫は、「予定線である計画街路の中心線の位置では原告の同意を得る見込はないが、路線をなるべく西側(別紙図面黄斜線の位置)に寄せれば協力を得られる見通しがある。」と説明したこと、送水管の布設工事は、被告が東急建設株式会社に請負わせたが、その工事は被告の職員が直接監督していたところ、その職員は原告との地下使用契約が未だ締結されていないことを知りながら、昭和四八年二月初旬頃から本件一の土地の黄斜線部分の地下に送水管布設工事を初めたこと、ところがその後原告の代理人弁護士三浦義一が仲介案を出して被告の職員と交渉した結果、被告総務部長が原告に対し、「土地測量に関する無断立入の件、現地調査立会強要の件及び被告職員の不遜行為について深くお詫びする。」との趣旨の詫び状を差し入れ、昭和四八年四月一二日本件地下使用契約が締結されたこと、その結果工事は予定より遅れ、昭和四八年八月三一日完成したこと、

3 本件一、二の土地は現況山林の緩い傾斜地で、原告方において当面その用途の定らない土地であること、本件土地使用契約による別紙図面赤斜線の部分の地下に送水管を布設する場合と、別紙図面黄斜線部分の地下に送水管を布設した場合では、後者の方が前者より原告所有地に及ぼす影響が大きく、その減価額の差は金一七万五〇〇〇円であること、別紙図面の黄斜線部分の地下の送水管を別紙図面赤斜線部分の地下の位置に移しかえるとすると、その工事には約半年の期間と約八六〇〇万円の費用を要し、その間三ないし四日間送水を中断しなければならないこと、区画整理が行われて都市計画街路が完成すれば、別紙図面黄斜線の部分は道路となるのに対し、別紙図面赤斜線部分の土地は道路外の土地として残ること、本件送水管は地下二〇メートル余の深さにあるため、その地上に木造二階建程度の構造物の築造には特段の影響がないこと、

他に右認定を妨げる証拠はない。

(三) 右(一)、(二)の事実によると、被告の職員が本件土地使用契約締結前であることを知りながら別紙図面黄斜線部分の地下に送水管を布設し、この事実を秘して原告と本件地下使用契約を締結し、その後原告から送水管を布設した位置について照会されたのにいぜんとして別紙図面赤斜線の地下の位置であると虚偽の事実を告げ、原告が多額の費用を投じてボーリングし、その送水管の位置を確認して初めて右の事実を認める等、その非は被告の職員にあり、送水管の撤去を求める原告の心情は理解に難くない。

しかし一方前叙のとおり別紙図面黄斜線部分の土地は近い将来街路となること明らかであって、主観的にはともかく、客観的にみれば、送水管が赤斜線部分の地下にある場合に比し、別紙図面黄斜線部分の地下にある場合の方が原告の不利益となることは考えられず、原告主張の様に別紙黄斜線部分の地下から送水管を撤去するには莫大な費用と長期間を要するのみならず、水の需要者に大きな影響を及ぼすこと必至であって、送水管の撤去によって受ける原告の利益と被告の不利益を較量するときは、明らかに後者の方が隔絶して大きいものと認められる。

以上の事実を総合すると、原告の本件一の土地の所有権に基づく妨害除去請求権の行使は、権利の乱用としてこれを許さないのが相当である。

従って別紙図面黄斜線部分の地下に布設された送水管の除去を求める請求は理由がないことに帰する。

(送水管の布設工事の請求)

原告は、本件地下使用契約に基づき別紙図面赤斜線部分の地下に直径二八〇〇ミリメートルの送水管の布設工事を求めるけれども、本件地下使用契約は単に原告が被告に送水管の布設を認め、これが使用を承諾するというのに止まって、原告が被告に対しこれが布設を請求する権利を認めるものではないから、原告の右請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

第二第二次請求について

(詫び状の交付請求)

民法七二三条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであって、人が自己自身の人格的価値について有する主観的評価、すなわち名誉感情は含まないと解すべきである(最判昭和四五年一二月一八日民集二四巻一三号二一五一頁)ところ、本件全証拠を検討しても、原告が社会的名誉を侵害された事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって前認定の本件事実関係及び原告の求める詫び状の内容からすれば、原告の怒りや不快感など、その傷つけられた名誉感情を沈静するためのものと窺われるので、原告の別紙詫び状の交付を求める請求は理由がない。

(損害賠償請求)

一  被告が原告所有の本件一の土地の一部である別紙図面黄斜線の部分の地下に、直径二八〇〇ミリメートルの送水管を布設したこと、右送水管の布設は、被告の職員が本件一の土地を使用する何等の権限がないことを知りながらなしたものであること、被告の職員は既に別紙図面黄斜線部分の地下に送水管布設工事が進行中である事実を秘し、本件地下使用契約を締結したこと、その後原告からの照会に対し、被告の職員は送水管の位置は本件使用契約の位置にあると虚偽の事実を告げ、原告が事実確認のためボーリングをするほかなかったこと前叙のとおりであり、公権力を行使する被告の職員がその職務を行うにつき(国家賠償法一条にいう公権力の行使とは、行政主体が優越的意思の主体として住民に対して権力を行使する行為のみならず、行政主体が私人と全く同じ立場に立ってするいわゆる私経済的行為を除いた総ての行為をいうものと解されるところ、被告の職員がなした水道施設の設置管理にかかる前叙の行為は、行政主体が優越的意思の主体としてなした強制力を伴う権力行為でないこと明らかであるが、純粋の私経済的行為ということはできない。)、違法に原告の権利を侵害したものというべく、被告は国家賠償法一条により、右不法行為によって原告に生じた損害を賠償する義務がある。

二  損害額について判断する。

(一) 前認定の諸般の事情を総合すると、原告の蒙った精神的苦痛を慰藉するには金八〇万円をもって相当と認める。

(二) 鑑定の結果によると、本件一の土地のうち、被告が送水管を布設した別紙黄斜線部分の地下の使用料相当の損害金は、昭和四八年四月一日から昭和五三年三月三一日までの合計が金一〇万円であることが認められる。

(三) 地価低下による損害は、別紙赤斜線部分の地下に送水管を布設した場合と、別紙黄斜線部分の地下に送水管を布設した場合の差額によるのが相当と認められるところ、前者の場合の本件二の土地の減価額は金六〇万八〇〇〇円、後者の場合の本件一の土地の減価額は金七八万三〇〇〇円で、その差額(損益相殺)である金一七万五〇〇〇円が地価低下による損害と認められる。

(四) 原告が金四三万円のボーリング代を支出したことは当事者間に争いがなく、右ボーリング代は、前認定の本件事実関係のもとでは、本件不法行為と相当因果関係にあるものと認められる。

(五) 従って被告は原告に対し、損害賠償として金一五〇万五〇〇〇円及びこれに対する不法行為後の昭和五三年四月一一日(訴状送達の日の翌日であること記録上明らかである。)から支払済にいたるまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

第三結論

以上のとおり原告の第一次請求は理由がないので失当として棄却し、第二次請求は右認定の限度において理由があるので正当として認容し、その余は理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条但書、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅原敏彦)

<以下省略>

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