横浜地方裁判所 昭和54年(ワ)1489号 判決 1983年3月30日
原告 株式会社 タイトー
右代表者代表取締役 ミハイル・コーガン
右訴訟代理人弁護士 柳井義郎
被告 マコト電子工業株式会社
右代表者代表取締役 高橋熊男
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 杉山保三
右同 中村均
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金二一二五万五一六三円及びこれに対する昭和五四年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。
四 この判決は仮に執行することができる。
事実
(当事者の求めた裁判)
第一請求の趣旨
一 被告らは、原告に対し、各自金五〇〇〇万円及びこれに対する昭和五四年八月一日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 仮執行宣言
第二請求の趣旨に対する答弁
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
(当事者の主張)
第一請求原因
一 不正競争防止法に基づく請求
1 原告の営業及びその商品
原告は、昭和二八年八月二四日設立された各種娯楽機械の輸出入、製造、販売、賃貸その他を主たる営業の目的とする会社で、昭和五三年四月一日現在、払込資本金四五〇〇万円、従業員約一〇〇〇名、日本国内における営業所及び出張所合計七〇か所、昭和五二年における年商約一二八億円、昭和五三年における年商約二九三億円の規模を有して営業を行っているが、同年七月以降、別紙第一、第二目録記載のテレビ型ゲームマシン(商品名スペース・インベーダー、以下「原告商品」という。)を右営業所及び出張所並びに卸売業者を介して、ゲーム場、喫茶店その他の需要者に販売又は賃貸し、或いは国内各所に所在する原告の直営するゲーム場において使用のため展示している。
2 原告商品の構成
原告商品は、マイクロ・コンピューター・システムを利用した影像再生装置によって、その受像機に映し出される影像を主体として、遊戯者が一定の操作をすることによって遊戯するテレビ型と称されるゲームマシンの一種であって、近時顕著に認められる宇宙に対する社会的関心を基礎として、人類の生活圏たる地球を含む宇宙空間へ侵入する空想上の生物をインベーダー(侵入者)として表現した別紙第四目録(一)ないし(三)の各(イ)、(ロ)記載の原画に基づく同第三目録(一)、(二)記載の影像を主体とし、これを受像面上五段一一列に配置し、遊戯者が、ジグザグコースをたどりながら進攻してくる右インベーダーの発射するミサイルを避けつつ、四基のビーム砲基地をバリヤとし、その後方に位置するビーム砲によって、右インベーダー及びその後方に時々出現し受像機面上を横断通過するUFOを爆破、消滅させることによって得点を競うものであり、その詳細は別冊(一)説明書上段に記載のとおりであるが、このような遊戯方法及び受像機に映し出されるインベーダーを主体とする各種影像とその変化の形態は、従前のテレビ型ゲームマシンにおいては全く存在せず顕著な特殊性及び新規性を有するものであるから、右遊戯方法及び各種影像とその変化の形態は不正競争防止法第一条第一項第一号にいう他人の商品たることを示す表示にあたる。
3 原告商品の周知性
(一) 原告商品は、原告及び原告代表者個人がその資本を全額出資する訴外パシフィック工業株式会社において昭和五三年六月一三日完成され(右訴外パシフィック工業の開発製造した製品は、すべて原告の商品として「タイトー」の名を冠して日本国内及び国外へ販売されている)、同月一六日、原告肩書本店所在地タイトービル一階ショールームにおいて、同月二三日に大阪市中之島所在の国際貿易センターにおいてそれぞれ開催された原告の新製品発表会に出展され、その後同年七月以降前記のとおり全国に所在するゲーム場、喫茶店その他に設置され、あるいは原告の直営ゲーム場において使用されている。
(二) 原告商品は、右新製品発表会に参会した東京においては約五五〇名の、大阪においては約四〇〇名のオペレーター及びゲーム場、喫茶店等の経営者その他ゲームマシンの需要者を主とする業界関係者の絶賛をあび、その受像機に映し出されるインベーダーを主体とする各種影像とその変化の形態及び遊戯方法における特殊性と新規性は業界の話題となり、業界紙、専門紙、新聞等において広く原告の新製品として紹介されると共に、原告においても新聞雑誌に広告を掲載し、パンフレットを配布する等大々的な宣伝活動を行なった。
これらの紹介、宣伝と原告商品の前記特殊性と新規性により、原告商品の受像機に映し出されるインベーダーを主体とする各種影像とその変化の形態及び遊戯方法は、原告の商品たることを示す表示として昭和五三年一〇月中には日本全国にわたって、取引者及び需要者間に広く認識されるに至った。
4 被告会社の営業及びその商品
被告マコト電子工業株式会社(以下被告会社という)は、昭和三五年一〇月設立された弱電器製造、加工並びに販売を主たる営業の目的とする会社であるが、昭和五四年一月上旬ころから商品名を「スーパー・インベーダー」とするテレビ型マシン(以下被告商品という。)を製造し、販売している。
5 被告商品の構成
被告商品の外形的形態は、別紙第五目録記載のとおりであり、テレビ型ゲームマシンである被告商品の構成の主体である受像機に映し出される影像は、別紙第三目録(一)、(二)記載の影像と同一であるのみならず、その配列及び変化の態様、UFOの出現状況並びに遊戯方法は別冊(一)説明書下段に記載のとおりである。
6 原告商品と被告商品の混同
被告商品は、その形態において、別紙第一目録記載のテーブル型の原告商品と外形的にほとんど相違せず、その受像機に映し出されるインベーダー等の影像・配列・変化の態様及び遊戯方法において原告商品と同一であるから、被告会社の被告商品の製造販売行為は需要者及び遊戯者に対し、被告商品を原告商品であるかのように誤認混同させている。
7 被告らの責任
(一) 被告会社は、被告製品の製造販売行為が、被告商品を原告商品であるかのように需要者及び遊戯者に混同を生ぜしめることを知りながら又は過失により知らないで、右行為をなして、原告の営業上の利益を害したものであるから、被告会社は、不正競争防止法第一条の二の規定に基づき、原告に対し、右行為により原告が蒙った損害を賠償すべき義務がある。
(二) 被告高橋は、被告会社の代表取締役として、その職務を行なうにつき、被告会社の被告製品の製造販売行為が被告商品を原告商品であるかのように需要者及び遊戯者に混同を生ぜしめる行為であることを知りながら、又は過失により知らないで、もしくは被告会社のために忠実に職務を執行する義務に重大な過失により違反して、被告会社をして右行為をなさしめたものであるから、民法第七〇九条もしくは商法第二六六条の三の規定に基づき、原告に対し、右行為により原告が蒙った損害を賠償すべき義務がある。
8 損害
(一) 被告会社は、昭和五四年一月上旬から同年七月末日までの間、被告製品を合計一〇〇〇台製造しこれを販売した。被告製品の一台当たりの利益額は金五万円を下らないところ、著作権侵害者がその行為により利益を受けているときは、その利益額をもって著作権者の損害と推定する旨の著作権法第一一四条第一項の規定は、法理上不正競争防止法を根拠とする損害賠償請求においても適用されるべきであるから、原告の受けた損害は金五〇〇〇万円を下らないものである。
(二) 仮に(一)が認められないとしても、原告は、原告商品の類似品の製造に関して最低でも一台当たり金二万円の許諾料を得ているから、原告の受けた損害は、右許諾料二万円に被告製品の製造販売台数を乗じた額二〇〇〇万円を下らないものである。
二 著作権法に基づく請求
1 別紙第四目録(一)ないし(三)記載のインベーダーの原画(以下本件原画という。)に対して有する著作権に基づく請求
(一) 原告商品の受像機に映し出される影像は、別紙第三目録(一)及び(二)記載のとおりで、これらの影像は本件原画を原告商品のコンピューターシステムの記憶装置に情報として記憶させ、これをアウトプットすることにより映し出されるものである。
(二) 本件原画は、人類の宇宙に対する強い社会的関心を基礎として、人類の生活圏たる地球を含む宇宙空間へ侵入する空想上の生物をインベーダーとして創作し、絵画化したもので、著作者の思想感情を表現した著作権法上の絵画たる著作物である。
(三) 本件原画は、訴外パシフィック工業の発意に基づき、かつその名義の下に公表する意図の下に、その業務に従事する技術者が職務上作成した著作物で、右会社がその著作権を有していたが、原告は、昭和五三年七月三一日、同会社から右著作権の譲渡を受けた。
(四) 被告会社が、被告商品を製造するに際し、本件原画を右商品のコンピューターシステムの記憶装置に情報として格納する行為は、無断複製として原告の専有する複製権を侵害する行為であり、また被告製品を販売により頒布する行為は著作権法第一一三条第一項第二号により著作権侵害行為とみなされるものである。
2 別冊(二)記載のソフトウェア・プログラムに対して有する著作権に基づく請求
(一) 原告商品の受像機に映し出される影像並びに変化の形態及び順序(以下本件ゲームの内容という。)は別冊(一)説明書のとおりであるが、本件ゲームの内容は記号語(アッセンブリ言語)を用いて表示されたソフトウェア・プログラム(以下本件プログラムという。)によって表現されており、原告商品のコンピューターシステムの記憶装置(ROM―以下コンピューターシステムの記憶装置をROMという。)には、本件プログラムがコンピューターに理解し得る機械語に変換された上で収納されている。(以下右機械語に変換された本件プログラムを本件オブジェクトプログラムという。)
(二) ソフトウェア・プログラムは通常つぎの過程を経て作成される。
(A) 仕事の定義
まず、コンピューターに、如何なる目的のもとに、如何なることをやらせるかということを問題として提起し、かつその結果として、何を欲するかを明確に定める。
(B) 仕事の分析
右の目的のため、各問題をブロックごとに細分化して、そのそれぞれについて、如何なる情報を入れ、どの様な処理をするべきかを分析する。
(C) 仕事の設計
分析の結果に基づき、細分化されたブロックについて、それぞれの解法(アルゴリズム)を発見し、これに関する情報の形式及び処理の順序を決定する。
(D) プログラミング
(イ) 問題全体及び細分化されたブロックの処理の順序をさらに詳細に分析してフローチャート(流れ図)を作成する。
(ロ) サブルーチン(プログラムの全体又は部分で、あるまとまりを持つものをルーチンといい、全体のプログラム中に共通で使用できる部分を一つのプログラムとしてまとめたもの)、その他の使用法を定める。
(ハ) フローチャートに基づき、記号語(アッセンブリ言語)によってプログラムを書く。
(ニ) 記号語をコンピューターに理解し得る機械語に変換する。
(E) プログラムのテスト
以上の過程を経て作成されたプログラムに基づき、動作のチェックを行い、各ブロック及び全体のプログラムを修正する。
(F) 記憶装置への書込み
完成されたプログラムは、書き込み器によって、ROMへ磁気的又は電子的に書き込まれる。
なお前記(D)の(ニ)及び(E)、(F)については開発用コンピューターが使用されるのが通常である。
(三)(1) ソフトウェア・プログラムは(一)記載のとおり、ある目的を定め、これを完成させるため、これによって生ずる問題を細分化して分析し、それぞれについての解法を発見し、その目的を実現するについていくつかの命令及び情報を組み合わせて作成するもので、この組み合わせ方法に作成者の学術的思想が表現され、その組み合わせによる表現はプログラム作成者によって個性的な相違があるものである。
(2) 本件プログラムは、ゲームマシンたるスペースインベーダーの受像機にインベーダーを主体とする影像及びその変化の状態その他を映し出すためのもので、その具体的内容は別冊(二)の五四頁、五七頁、及び五八頁を除く各頁の右側から二列目にアルファベッド文字で記載されたとおりであるが、同プログラムは前記(二)の(A)ないし(F)の過程を経ることによって作成されたものであるから、作成者の思想を創作的に表現した学術の範囲に属する著作物として著作権法上の著作物である。
(四) 本件プログラムは、訴外パシフィック工業の発意に基づき、かつその名義の下に公表する意図の下に、その義務に従事する技術者が職務上作成した著作物で、右会社がその著作権を有していたが、原告は昭和五三年七月三一日、同会社から右著作権の譲渡を受けた。
(五)(1) 被告商品のコンピューターシステムのROMに格納されたオブジェクト・プログラム(以下被告オブジェクト・プログラムという。)の内容は別冊(三)の左側から二列目に記載されたとおりであり、これを本件オブジェクト・プログラムと対比するとその相違部分は別表(二)プログラム比較表記載のとおりで、具体的な影像面での差異は、原告商品の影像から原告会社名及びスペースの文字を消しこれにかえてスーパーの文字が映るのが被告商品であり、本件ゲームの内容は全く同一である。
(2) 本件オブジェクト・プログラムは、本件プログラムの記号語(アツセンブリ言語)をコンピューターが理解し得る機械語に変更したものにすぎず、右変更は開発用コンピューター及び変換プログラムによって機械的に行なわれるのであるから、本件オブジェクトプログラムは、本件プログラムの複製物である。
(3) 従って被告会社が被告商品を製造するに際し、被告製品のROMに被告オブジェクト・プログラムを格納する行為は、本件プログラムの複製物から更に複製物を作出することに当たるため、本件プログラムを複製することとなり、また被告製品を販売により頒布する行為は著作権法第一一三条第一項第二号により著作権侵害行為とみなされるものである。
3 被告高橋は、被告会社の代表取締役として、その職務を行なうにつき、本件原画を被告商品のROMに情報として格納する行為又は被告オブジェクト・プログラムを右製品のROMに格納する行為が他人の著作物の複製行為に当たることを知りながら、又は過失により知らないで、もしくは被告会社が被告商品を販売する行為が、他人の著作権を侵害する行為によって作成された物を情を知って頒布する行為にあたることを知りながら、あるいは被告会社のために忠実に職務を遂行する義務に重大な過失により違反して右各行為をなさしめたものであるから、民法七〇九条あるいは商法第二六六条の三の規定に基づき、原告に対し右各行為により原告が蒙った損害を賠償すべき義務がある。
4 損害
(一) 被告会社は、昭和五四年一月上旬から同年七月末日までの間、被告製品を合計一〇〇〇台製造しこれを販売した。被告製品の一台当たりの利益額は金五万円を下らない。したがって被告会社が右侵害行為により得た利益の額は金五〇〇〇万円を下らないものであり、原告は、これと同額の損害を蒙ったものと推定される。
(二) 仮に(一)が認められないとしても、原告は原告類似品の製造に関して、最低でも一台当たり金二万円の許諾料を得ているから、原告の受けた損害は、右許諾料金二万円に被告製品の製造販売台数を乗じた額二〇〇〇万円を下らないものである。
三 よって原告は、被告らに対し、不正競争防止法第一条の二に基づき、又は著作権侵害を理由とする不法行為(本件原画に対する著作権を侵害したことを理由とする請求と本件プログラムに対する著作権を侵害したことを理由とする請求を選択的に主張する。)に基づき金五〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五四年八月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第二請求原因に対する認否
一 請求原因一について
1 請求原因1の事実は認める。
2 請求原因2の事実は否認する。
3 請求原因3の事実は知らない。
4 請求原因4の事実のうち被告会社の製造販売開始時が昭和五四年一月上旬であることは否認しその余の事実は認める。
5 請求原因5の事実は認める。
6 請求原因6の事実は否認する。
7 請求原因7(一)、(二)の事実はいずれも否認する。
8 請求原因8の事実につき(一)は否認し、(二)のうち原告の得ていた許諾料が金二万円であることは認める。
二 請求原因二について
1 請求原因1の事実につき
(一) (一)は認める。
(二) (二)は否認する。
(三) (三)は知らない。
(四) (四)は否認する。
2 請求原因2の事実につき
(一) (一)は認める。
(二) (二)は知らない。
(三) (三)(1)(2)はいずれも否認する。
(四) (四)は知らない。
(五) (五)(1)は知らない、同(2)、(3)はいずれも否認する。
3 請求原因3の事実は否認する。
4 請求原因4の事実につき(一)は否認し、(二)のうち原告の得ていた許諾料が金二万円であることは認める。
第三被告らの主張
一 不正競争防止法違反の主張に対して
1 原告商品の特長は、(イ)その受像機に映し出される「影像、その変化の形態並びに遊戯の方法と(ロ)ゲーム兼用卓子(テーブル型)の形式をとっていることの二点にあるところ、(ロ)の点については昭和五三年当時もこのようなテーブル兼用型ブラウン管を利用したゲームマシンは他にも多数存在した。
2 原告商品の人気は昭和五三年夏頃から昭和五四年八月頃までしか続かず、その取引界における寿命は約一年と極めて短かく、原告が原告商品の形態を長期間継続して用いていたとはいえない。
3 以上のとおりであるから原告商品の遊戯方法・各種影像その変化の形態は、「他人の商品たることを示す表示」には当たらない。
二 著作権法違反の主張に対して
被告会社は、被告商品を製作するにあたり、各種部品を他から購入し、その製作を他に請負わせたものであり、被告会社自らが本件プログラムをROMに格納したわけではない。
三 被告らの責任の範囲について
被告らが仮に責任を負うとしても、その範囲は昭和五四年六月一三日以降において販売した七五台についてのみである。
すなわち、被告会社は右同日、原告から被告商品の製造販売が不正競争防止法及び著作権法に違反する旨の通告を受けたものであり、これ以後の販売行為については、違法性の認識可能性があったといい得るが、それ以前の行為については、被告らは原告商品につき特許権等がないことを確認し、あるいは弁護士に相談するなどをして注意義務を尽くし、またそれ以前に販売した同様のテレビゲーム機につき何人からも異議を述べられなかったことの経験などからして違法性の認識はなかったからである。
四 損害について
1 被告会社は一〇〇〇台の被告商品の製造販売を企画したが、実際に製造販売した台数は五〇七台である。
右五〇七台の製造販売に要した総費用は一億三一三四万七四七六円であり、総売上額は一億五二六三万五〇〇〇円であるから、被告会社が得た利益は二一二八万七五二四円となる。
2 不正競争防止法には、損害の推定規定はなく、本件のごとく原告の原告商品類似の商品の製造販売につき許諾料ないし実施料といった具体的な算定基準があるときは、これに基づいて損害を算定すべきであり、そうすると原告の損害は一〇一四万円を超えるものではない。
(証拠)《省略》
理由
第一ソフトウェア・プログラムに対して有する著作権に基づく請求について
一 請求原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。
二 《証拠省略》によれば、請求原因2(二)の事実が認められる。
三1 前記一、二で確定した事実並びに《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件プログラムは、本件ゲームの内容を原告商品の受像機面上に映し出すことを目的とするものであり、一般のソフトウェア・プログラムと同様に、前記二で認定した順序に従って完成され、別冊(二)の五四頁、五七頁、及び五八頁を除く各頁の右側から二列目に記載されたとおり、アツセンブリ言語と呼ばれる記号語で表現されている。
(二) 右ゲームの内容は、別冊(一)説明書のとおりであるが、これらの影像とその変化の態様、とくにインベーダーからも遊戯者が操作するビーム砲に対しミサイルを発射して攻撃をしてくる点、遊戯者が操作するビーム砲による攻撃が成功し得点があがるにつれ、インベーダーの進行速度が速くなりかつインベーダーの配列位置がビーム砲に接近する等の点は、これまでのテレビ型ゲームマシンの影像とその変化の態様には全くみられなかったものであり、特殊性を有するものである。
2 右の事実によれば、本件プログラムは、本件ゲームの内容を原告商品の受像機面上に映し出すことを目的とし、その目的達成のためにいかなる情報を入れどの様な処理をするべきかを分析し、それについてのそれぞれの解法を発見して、情報の形式及び処理の順序を決定しこれに従って作成されたフローチャートに基づいてアツセンブリ言語によって表現したものである。
そこで表現されたプログラム作成者の思想は、学術の範囲に属し、かつ従来のテレビゲームの内容に比して独自の個性を有するものであり、第三者は、本件プログラムに形式付与されたプログラム作成者の思想及びその具体的表現を享受することができると判断し得る。
従って本件プログラムは、その組み合わせ方法に作成者の独自の学術的思想が創作的に表現されたものであるから、著作権法上保護される著作物に当たることが認められる。
四 《証拠省略》によれば請求原因二(四)の事実が認められる。
五(一) 《証拠省略》によれば、別冊(二)、同(三)の各々左側から二列目に記載された数字及びアルファベット文字がそれぞれ原告商品、被告商品のオブジェクト・プログラムを開発用コンピューターを用いて印字したものであること、これらを対比すると、その相違部分は、別表(二)プログラム比較表記載のとおりであり、具体的には原告商品の影像から原告会社名及びスペースの文字を消しこれにかえてスーパーの文字を映したのが被告商品であり、本件ゲームの内容は全く同一であること、本件オブジェクト・プログラムは本件プログラムに用いられるているアツセンブリ言語を開発用コンピューター及び変換プログラムによってコンピューターが理解できる機械語に変換したうえ、これを電機信号の形で原告商品のROMに固定して格納したものであるが、右変換は機械的に行なわれるため別個の著作物を創作するものではないことが認められる。
(二) 《証拠省略》によれば、被告会社は、昭和五四年初め頃原告商品と同一のゲーム内容を有するテレビ型ゲーム機の製造を企画し、訴外国際、同エーケイ、同クリエイト(以下訴外国際らという。)が、原告商品のコンピューター部品と同一物を製作できることを知ってこれを発注し、できあがった部品を組立てることにより被告商品を完成させたことが認められるところ、《証拠省略》によれば、一般的にROMに格納されたオブジェクト・プログラムを開発用コンピューターを用いて読みとり、その一部を改変して他のROMに格納することは極めて容易になし得ることが認められるから、訴外国際らは右手段を用いて本件オブジェクト・プログラムを被告製品のROMに格納したことが推認され、右推認を覆すに足りる証拠はない。
(三) 以上の事実を総合すると、本件オブジェクト・プログラムは本件プログラムの複製物に当たり、訴外国際らが本件オブジェクト・プログラムの一部(別表(二)プログラム比較表記載の部分)を改変して、被告商品のROMに格納する行為は、本件プログラムの複製物を有形的に再製するものとして複製に該当し、被告会社が被告商品を製作するため、訴外国際らをしてROMに本件オブジェクト・プログラムを格納せしめた行為は、被告会社自身の行為と評価できる。従って被告会社は本件プログラムの複製行為をしたものと認められる。
六1 《証拠省略》によれば、被告高橋は、昭和五四年初め頃訴外国吉真信から従前被告会社で製作したセブン・ゲーム機と称するテレビ型ゲーム機の販売で生じた欠損を補填するため、当時大流行していた原告商品類似の商品の製造販売することをもちかけられたため、これに応じて被告会社の代表取締役として被告商品の製造、販売を企画し前記の複製行為を行なったことが認められる。
右事実によれば、被告高橋は被告会社の代表取締役として、被告会社が右複製行為を行うにつき、本件プログラムが原告の作成にかかるものであることを知り又は少なくとも過失により知らなかったことが認められるから、被告会社及び被告高橋は各自不真正連帯の関係で右不法行為によって原告が蒙った損害を賠償すべき義務がある。
2 被告らは、昭和五四年六月一三日、原告から著作権法に違反する旨の通告を受けるまでは違法性の認識可能性はなかった旨主張するが、本件プログラムが著作物にあたるか否かは法的評価の問題であり、被告らがこれについての認識可能性を有していなかったとしても、本件プログラムと同一のプログラムを被告商品のROMに格納することについての認識があれば、被告らは損害賠償の責任を免れるものではない。
七 《証拠省略》によれば、被告会社は、昭和五四年三月二二日から同年一二月一二日までの間合計五〇七台について前記複製行為をなしたこと、右五〇七台を製造、販売して得た売上総額は一億五二六三万五〇〇〇円であるところ、右製造に要した材料費、加工賃一億二四六九万二二五〇円、人件費三八五万九八一三円、被告商品製造販売のための銀行からの借入金一四三万六二三七円、交通費三四万八四三〇円、雑費七二万四六三〇円、附属的材料費二〇万三九八五円、運搬費六万三一〇円、通信費一万七七六〇円、光熱費三万六四二二円の合計一億三一三七万九八三七円が右五〇七台の製造販売に要した費用であることが認められるから本件著作権侵害行為により被告会社の得た利益は、二一二五万五一六三円であると認められ、原告はこれと同額の損害を蒙ったものと推定される。
八 以上のとおりであるから、被告らは各自原告に対し、原告が本件プログラムに対して有する著作権を不法行為により侵害したことに基づく損害賠償として金二一二五万五一六三円及び被告会社が右不法行為をなした日の後である昭和五四年一二月一三日(原告は同五四年八月一日以降の遅延損害金の支払を求めるが、同日が被告会社の全不法行為の後であることを認めることのできる証拠はない。)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、従って、原告が選択的に主張している不正競争防止法に基づく請求及び本件原画に対して有する著作権に基づく請求についてはいずれも判断する必要がなく、その余の部分は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 菅野孝久 裁判官 髙山浩平 野々上友之)
<以下省略>