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横浜地方裁判所 昭和54年(ワ)2069号 判決 1983年3月07日

原告

相馬明廣

右訴訟代理人

荒木和男

被告

株式会社 英

右代表者

宮崎徹也

被告

宮崎徹也

右被告両名訴訟代理人

中野公夫

藤本健子

主文

一  被告株式会社英は原告に対し、五八三万三〇〇〇円、及び、これに対する昭和五四年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは各自原告に対し、九一万二九六九円、及び、これに対する昭和五四年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告株式会社英との間に生じたものはこれを一五分しその一を原告の負担とし、その余を同被告の負担とし、原告と被告宮崎徹也との間に生じたものはこれを八分し、その一を同被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

第一請求原因(一)の請求について

一原告と被告会社との間で賃貸人ジャスコ、賃借人中西名義の本件店舗の賃借権を譲渡する契約が締結された事実、譲渡代金が八五〇万円であつた事実は、当事者間に争いがない。

そして、右争いのない事実に<証拠>によれば次の事実が認められ<る。>

1  本件店舗は、中西がジャスコから賃借し、中西はここにおいて衣類、洋品等の販売業を営んでいたが、中西は昭和五一年中被告会社に対し本件店舗における営業を譲渡し、本件店舗を転貸し、以来被告会社が本件店舗において衣類、洋品等の販売業を営むことになつていた。なお、右転貸については、ジャスコの承諾は求めず、被告会社はジャスコとの関係では中西の名義で営業を行うことが合意されていたが、被告会社の代表者である被告宮崎と中西との間では、ゆくゆくは、中西から被告会社に本件賃借権を譲渡し、何らかの方法でジャスコの承諾を得て、被告会社とジャスコとの賃貸借契約とすることが合意されていた。

2  原告は被告会社の販売する衣類等の仕入先であつたが、昭和五二年八月中旬頃、被告宮崎から本件店舗の営業権及び賃借権を買取るようすすめられ、将来被告会社から営業権とあわせて本件店舗賃借権を譲受ける契約をすることを前提として、原告が被告会社に対し一〇二万円を預託し、右契約締結までの間中西の承諾を得て被告会社から本件店舗を転借し、本件店舗における被告会社の営業を引継ぐ合意をし、同月三〇日五二万円を、同年九月五日五〇万円を預託して、同月六日本件店舗の引渡を受け、本件店舗における被告会社の営業を引継ぎ、以来中西の承諾のもとにジャスコとの関係では中西の名義を用いて本件店舗で営業をはじめた。

3  そして、原告と被告会社は、昭和五二年一一月三〇日次のような約定で本件店舗の賃借権、什器備品、営業権を含む譲渡契約(以下本件譲渡契約という)をした。

(一) 代金は八五〇万円とし、うち一〇二万円は前記転貸借に際し原告が被告会社に預託した預託金をもつて充当する。残金は被告会社が次のような方法により原告を代表者とする法人がジャスコに対する賃借権を取得した時に支払う。

(二) ジャスコに対する原賃借人は中西であるから、中西を代表者とする有限会社を設立して、ジャスコの承諾を得て賃借人を中西個人から右会社に変更したうえ、右会社の株式及びに代表取締役の地位を原告に移転する。

右設定の事実によれば、被告会社は原告に対し中西がジャスコに対して有する本件店舗の賃借権を中西及びジャスコの承諾を得て原告を代表者とする会社に移転し、右会社にジャスコに対抗しうる賃借権を取得させる債務を負担したものであると認められる。

二そして、前記認定の契約に基づき、その代金のうち一〇二万円が先に原告が被告会社に預託した預託金を充当することによつて支払われたことは既に認定したところであり、原告が譲渡代金として昭和五二年一二月中にその主張のとおり四五〇万円を支払つた事実は当事者間に争いがない。又、<証拠>によれば、原告と被告会社が前記契約に際し、前記認定の昭和五二年九月六日原告が被告会社から本件店舗の営業を引継いだ際の同月分の従業員の給料等の清算について被告会社が原告に負担している清算金債務三一万三〇〇〇円について、譲渡代金債務とを差引き清算し、三一万三〇〇〇円の譲渡代金を支払つたこととする合意がなされた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。しかしながら、原告の被告会社に対する売掛金五八万六九五七円を譲渡代金と相殺する合意をした事実は、これを認めるに足りる証拠がない。

従つて、原告が前記譲渡契約に基づいて被告会社に支払つたことが認められる金額は五八三万三〇〇〇円となる。

三次に、被告会社が右賃借権譲渡につき、ジャスコの承諾を得ていない事実、中西が死亡し、中西の相続人である登志子が賃借権譲渡について承諾できない旨の意思を表示している事実は当事者間に争いがなく、右事実と<証拠>によれば、次の事実が認められる。

原告は前項の契約締結後、中西及びジャスコの承諾について被告会社に早く処理するよう求めたが、被告会社からははかばかしい返答が得られなかつたため、昭和五三年二月頃中西に直接会つて交渉したところ、中西は被告会社ないし被告宮崎との間に賃借権譲渡の話はあるが、被告らが支払うべき金銭を支払わないので譲渡に応じられないということであつた。そこで、原告はなお様子をみていたところ、中西は同年五月中に急死し、本件店舗の賃借権を相続した登志子は、同年六月原告の求めに対し、原告と被告会社との契約については関知しないし、ジャスコは借主の名義変更は認めていないので名義変更を伴う賃貸借の譲渡はできないとの意思を明らかにした。

<証拠判断略>

そして、右認定の事実によれば、被告会社の本件店舗賃借権を中西及びジャスコの承諾を得て原告を代表者とする会社に移転し、右会社にジャスコに対抗しうる賃借権を取得させる債務は社会通念上履行不能となつたものということができる。

四そして、原告が右債務の履行不能を原因として昭和五四年一〇月三一日被告らに送達された本件訴状によつて前記譲渡契約を解除する意思表示をしたことは、記録上明らかである。

ところで、被告らは、右履行不能は中西の急死によるものであり、被告会社には履行不能につき、責に帰すべき事由がないから、原告は前記譲渡契約を解除することはできないと主張する。しかしながら、前記認定の事実によれば、被告会社は第三者である中西の有する賃借権を譲渡し、かつ、その譲渡について賃貸人の承諾を得ることができなかつたのであるから、右譲渡については民法五六〇条の適用及び類推適用により、原告は被告会社が約定の賃借権の移転ができなかつた事由の如何を問わず、前記契約を解除することができるものと解するのが相当である。

従つて、右の解除により、前記譲渡契約はその効力を失つたので、被告会社は右契約に基づいて受領した譲渡代金五八三万三〇〇〇円を不当利得していることになる。

第二請求原因(二)の請求について

一第一で認定した事実、<証拠>によれば次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  前記のとおり、原告は昭和五二年九月六日被告会社から本件店舗を転貸借契約に基づいて引渡を受け、本件店舗で営業を開始した。

2  ところで、本件店舗における営業及び賃料の支払等については、ジャスコと原賃借人である中西との間で、中西は本件店舗における月々の売上げをいつたんジャスコに入金し、ジャスコにおいて賃料その他賃貸借契約に基づき中西がジャスコに対し支払うべき金員を売上げ金から控除することによつて支払いを受け、その残金をジャスコから中西に返金することが合意されていた。

3  そこで、原告と被告会社の間でも、前記転貸借に際し、原告は本件店舗の売上げを中西名義でいつたんジャスコに入金し、ジャスコから中西に支払われる売上げ金から被告会社と中西間の約定の転貸料を控除した額を中西から被告会社が受領した後すみやかに被告会社から原告に対しその受領額を支払うことが合意されていた。

4  そして、前記譲渡契約に際しても、ジャスコに対する賃借権を原告側で取得するまでは、従前と同じ方法で売上げ金を清算することが、原告と被告会社の間で合意された。

二<証拠>によれば、被告会社が一で認定した約定に基づき中西から受領し、原告に支払うべき売上げ金のうち、原告主張の合計四四一万二九六九円を原告に支払わず、いつたん自己の資金繰りに流用した事実が認められる。

三原告は、右四四一万二九六九円のうち三五〇万円が後に被告会社から支払われたことを自認するものであるところ、被告会社は右三五〇万円のほかに右売上げ金に対する支払のために原告に対し額面合計一二一万五七五〇円の手形及び小切手各二通を振出し、これを決済したので、右売上げ金に関する支払は全て完了していると主張する。そして、被告会社がその主張の手形、小切手を原告に対し振出した事実及び右手形、小切手が決済された事実は、当事者間に争いがない。しかしながら、<証拠>によれば、右各手形、小切手は原告主張のとおり、被告ら主張(1)の小切手は請求原因(二)で原告が主張する期間以外の期間の売上げに関する支払のために振出されたものであり、その余の手形、小切手は原告の自認する三五〇万円の支払のために振出されたものである事実が認められる。<証拠判断略>。

第三請求原因(三)の請求について

一被告宮崎が被告会社の代表取締役である事実は当事者間に争いがない。

二そして、<証拠>によれば、第一で認定した前記譲渡契約を締結するに際し、被告宮崎が被告会社を代表して原告との交渉の一切をした事実が認められる。そして、<証拠>によればジャスコと中西との間においては、一応賃借権の譲渡が禁じられていた事情が窺われないではない。しかしながら、前記認定の事実によれば、右譲渡契約締結当時中西は被告宮崎に対し賃借権を譲渡する用意があるとの意思を表明していたものと推認されるから、ジャスコと中西間で賃借権の譲渡が禁じられているとの一事をもつて、被告宮崎が譲渡契約締結当時約定どおり原告を代表者とする法人に本件店舗の賃借権を取得させることは不可能であると知つていたのにその事実を秘して、譲渡契約を締結した事実を推認することはできないし、他に、右事実を認めるに足りる証拠はない。従つて、譲渡契約の締結に際し、被告宮崎に代表取締役としての任務違背があつたことを前提とする原告の請求は理由がない。

三第二で認定した事実と<証拠>によれば、被告宮崎は原告主張の各売上げについて中西から被告会社が受領した金員をすみやかに原告に支払う義務があることを知りながら、これを被告会社の代表者としての自己の判断で原告に支払わず、被告会社の資金繰りに流用した事実が認められる。従つて、右事実と第二で認定した事実によれば、被告宮崎は、被告会社の代表者としてその職務を執行するについて悪意によつて原告に対し九一万二九六九円の損害を蒙らせたものということができる。

第四相殺の抗弁について

一原告は前記転貸借契約及び譲渡契約に基づき被告会社から本件店舗の引渡を受け営業の引継をして本件店舗を占有し、営業を継続していたが譲渡契約を昭和五四年一〇月三一日解除した事実は既に認定したところである。従つて、原告は被告会社に対し原状回復として本件店舗及び本件店舗における営業権を返還すべき義務を負うものと認められるところ、原告が昭和五五年八月まで本件店舗を占有し、営業を継続した事実は当事者間に争いがない。

二被告らは、右の期間本件店舗における営業によつて合計一八三四万四八二九円の売上げを得たものであるところ、右営業によつて得た純利益は売上げの三割であり、被告会社が右の期間本件店舗の返還を受けて営業をした場合にも同程度の純利益を上げた筈であるから、原告は右売上げの三割である五五〇万三四四八円を不当利得していると主張する。そして、<証拠>によれば、原告が前記期間中被告ら主張の売上げを得た事実は認められる。しかしながら、右売上げの三割が純利益である事実及び被告会社が本件店舗において営業した場合にも同程度の純利益を上げることができた筈であるとの事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

従つて、その余について判断するまでもなく被告らの相殺の主張は採用できない。

第五結論

以上の次第であるから、原告の被告会社に対する不当利得返還請求は五八三万三〇〇〇円及びこれに対する本件訴状が被告会社に送達された日の翌日である昭和五四年一一月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。又、原告の被告らに対する損害賠償請求は被告ら各自に対し九一万二九六九円及びこれに対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日である昭和五四年一一月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当である。

よつて、原告の請求を右の限度で認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九二条、九三条を適用し、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。 (小田原満知子)

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